「おや、今からかい?」
見知った顔があったので声を掛ける。
「ええ、ギルドでの講習も終わったので多少の偵察に。」
どうやらこれから制覇する気でいるらしい。
冷静に見えて、瞳孔が開いている。
興奮が抑えられないようだ。
「その様子なら31階層位まで行けるんじゃないかな。まあ、その辺りまでなら日帰りでも行けるし、転移門もついでに登録してきなよ。」
「ええ、そうします。ではまた。」
挨拶もそこそこに、彼は走って行った。
あの様子だと暫くは帰ってこないだろう。
「やあ、爺さん。元気してるかい?いつも通りだ、申請頼むよ。」
出口の爺さんに頼む。
彼は仕事が一番早いが、口煩いせいで若者からの人気が低く、いつも空いているのだ。
「よう、あんたか。さっきの奴は知り合いか?礼儀はともかく、行儀がなっとらん。もちっと老人を労うって事を覚えないかね?」
やっぱりぶつくさ言っている。
遠くに巨体が見えた時からそうじゃないかと思ったが。
「彼は戦闘狂でね、我慢ができなかったんだろうさ。最近は燻ってたみたいだしね。所で、いつものスープは食べたかい?この前は良い肉が入ったって店主が言ってたよ。」
老人は多少機嫌が良くなったようだ。
普段よりも声音が高い。
「ほう!あのスープで良い肉が食えるか!今日は酒も飲むとしよう。ほれ、仕事は終わった。ワシは予定が出来たのでな!行った!行った!」
「はいはい、調子が良いんだから。」
轟音が迷宮に響く。
森林にまた一つ大樹が横たわる。
粘液が蠢く音が流れる音に変わる。
「こんな物か...。」
転移門の解放には、格層にいるジャイアントから取れる、証明部位が必要となる。
粘液に塗れた蒼い核を手に取りながら、次の階層へと足を向ける。
これで、11、21、31階層の転移門が解放された。
ギルド曰く、現在探索済みの最深部は34階層までだった筈だ。
ひとまずは此処までとして、明日から31階層以降に向けて情報を集めるとしよう。
「よう。交代の時間だぜ。」
「おっもうそんな時間か?じゃあ先に上がってるわ。おっさんも後で酒場に来ねーか?クランの連中で呑み比べ大会やるんだってよ。」
「へえ?賞品は?」
「次の新作の試食だってよ。なんでも前々から仕込んでた煮込みが完成したらしいぜ。」
「おっ!遂に来たのか!あれには俺も関わったんだが、一つだけ言える。最高に旨いぞ。」
ニヤリと笑って言えば、後輩は驚いた顔で
「おっさん料理できたのか!?てか言ってくれよ!料理の手伝い頼まれたんだったらよ〜。」
狡い奴を見た!と言わんばかりに言う。
「おめーは食い意地張ってるからダメだ。つまみ食いで全部無くなったら恨まれんのは俺だしな。ほれ、大会があるんだろ?早く行きな。」
「ほいほい。」
傭兵が来ているのを見て、俺はさっさと準備にかかる。
「此処が転移門か?登録は此処でも出来るのか?」
デカい。
2メートルは超えている。
背中の大剣もこれまたデカい。
「此処でも登録は出来るぜ、仮だけどな。本登録をするならギルドでやりな。そうすりゃあ地上からでも飛べるからよ。」
意外と礼儀があるな?
大抵此処まで一人で来れる輩は性格に難があるやつが多いんだが...
「では、仮登録を。所で、この先の階層について、情報はあるか?此処までは余り手応えが無かったが...この先からはどうも雰囲気が変わっている。慎重に行きたいのでな。」
ほう!コイツはかなり手練れだな?腕前だけではないと見える。
「こっから先か?そうだな...何処まで知ってる?前提で結構変わるんだが...。」
男は仏頂面で答える。
「概要のみ知っている。地上ではその程度しか無かったからな。」
「なら詳しく説明するか、この先の環境が海である事は知ってるな?たが基本的に海に行く事はオススメしない。水中戦は専用の魔道具が無ければ殆ど自殺行為だし、何より奴が居るからな。だから、基本的には砂浜にある砂岩の洞窟の中を進む事になる。此処に地図が有るが買うかい?「ああ。」まいど!さて、地図を見ればわかるが、途中から砂浜から岩礁に変わる。それが35階層から先だな。その手前のこの広い所に中間地点がある。一旦は其処を目指しな。そっから先は俺じゃなくて其処の情報屋を頼ってくれ。海の探索は俺にはキツイせいでな、其処までしか知らないんだ。ほれ、仮登録が終わったぞ。右のやつが脱出用だぜ。そういや、ギルドで飲み勝負をやるんだってよ、あんたみたいな強者なら優勝できるかもな。」
偉丈夫は片手で挨拶をして、去って行った。
「ああいうのを見てると俺も復帰したくなるねぇ...まあ、家庭持ちにゃ無理な願いか。」