僕は今から大切な友達にある告白をしに行く。
一歩ずつ、ちょっとずつ、バジルの部屋に近づく度に、心臓がどくんどくんと波打つのを感じる。肌が敏感になっているのか首筋から背中にかけて一筋の汗が伝っていくのさえ鮮明に感じることができた。
なにから先に伝えればいいだろうか、まず僕のしたこと、その結果どうなったか、大切なひとがどうなったか、誰を巻き込んでしまったか、その結果、彼らの人生を狂わせてしまったこと。許してもらえるなんて思ってはいない、だけどそれでも、彼ら真実を伝えることが贖罪の第一歩だと思う。
どんな反応をされても、それに耐える覚悟はできていた。
「あ、…ぁ、…」
扉の前にきた。まだ中を見てもいないのに分かる。この向こう側にはバジルがいる、オーブリーがいる、ケルがいる、ヒロがいる。きっとあの3人はこの部屋に来る前に僕の部屋にも立ち寄ったのだろう。
声を出す練習をしようと思ったが口を開いたら喉から心臓が飛び出してしまいそうで、ごくりと唾を飲み込んでしまった。さがりたい、逃げたい、いつものように夢の中に。でも僕は確信していた、もしここで真実から目を背けてまた逃げ出せば、決してそれはいい方向に転ぶことはない。僕にとっても、皆にとっても。
「…」
ぷるぷると小刻みに震える手を伸ばす。取っ手に手をかけて、ゆっくりと右に動かしていく。
「ぇ…?」
しかしその時、足元に何かが当たったのを感じた。呼吸を整えながら視線を下げてみると、そこには小さな砂時計が落ちていたのである。
「…」
誰かの落とし物かお見舞いの品、だろうか。踏んで割ると危ないからそっと拾い上げてみた。
中には美しいピンク色の砂粒が詰まっている。何の気なしにそっと僕はそれを傾けてみた。
―――――― ― ――――――――――――
「大丈夫だよ、絶対うまくいくよっ!」
一体なにが起こったのだろう。まるで口の中に手を突っ込まれて内臓をすべてひっくり返されたような気分だ。
ここは何処だろうか、視界が歪んでぐらつく。吐き気もするし頭痛も酷い。
なんとか歩こうとしたが足元がふらついて目の前のものに縋り付いてしまった。
「サニー!だ、大丈夫…?」
「!?」
思わず飛びのいた。どうやら目の前に人がいたようだ。
「ご、ごめんなさい…ちょっとふらついてしまって…」
この人は何故僕の名前を知っているのだろう。
「サニー、ちょっと様子がおかしいよ…?今日はもう寝たら…?」
瞼と瞼が張り付いていてうまく前が見えない。おかしいな、さっきまでこんなことなかったのに。
一歩、二歩、と後退りすると、掌に冷たいものがあたった。目をゴシゴシ擦って無理矢理に目を開くとそれが花瓶であることがわかった。病院の廊下にはこんなものはなかった。
いや違う、天井も床も、すべて病院のものじゃない。ここは先程まで僕がいた廊下じゃない。
「あ、そうだお姉ちゃんがホットミルク作ってあげるよ!今日は一緒のベッドで寝よ?そしたら明日の朝までぐっすりだよ!」
そんなバカな、僕はまだ夢の中から抜け出せないままでいるのか。僕は自分を消して、漸く目を覚ますことができたんじゃないのか。
「…さ、サニー…?ホントに大丈夫…?きゅ、救急車呼ぶ…?」
近づかないでくれ、もういい、僕はもう現実を見るって決めたんだ。だからもう、いいんだ。優しい夢の中に閉じ込めないでくれ、頼む。
「あ」
僕の肩に彼女の手が触れる。咄嗟に僕は顔を挙げてしまった。
「お願い返事して…?」
マリ姉だ。だけど、夢の中のマリ姉じゃない。あの時のマリ姉だ。
「うッ」
「ん?」
「ぇええええええええ…ッ!!!!」
僕はその場で胃の中のものをすべて吐き出した。