OrverLord ─始祖の吸血鬼─   作:ブラック×ブラック

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過去の真実を知る二人の元帝国人ジルクニフと爺
現在の旧帝都で暮らす人々、そんなお話です。
楽しんで頂ければ嬉しく思います。


第十三話 魔導国旧帝都アーウィンタール自治区-2

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     魔 導 国 

アーウィンタール自治区 旧帝城 

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 100年前に帝国は国としての形を失い、今は魔導国の一部としてそこに疑問を抱く者は誰一人として居ないのでないだろうか…。

過去の悲惨な出来事は書物に残されているが、直接被害を受けた訳では無いので『ゴシップ記事』の類として扱われている。

あの惨劇を目の当りにした帝国騎士達は、その生涯を遂げ『悪夢』から解放されたのである。

 

 生活環境の向上を遂げた事も大きく影響し、これを成したのは彼の『鮮血帝』であり、魔導国が改善改良を加える事により、人々は豊かに暮らしている。

街のいたる所にある先帝の偉業を称えた石碑は、国内における背策を記した物であり対魔導国に関する物等ある筈は無い。

 

 真実は闇の中へ消えて行く…。

 

 絶対的な象徴として旧リ・エスティーゼ王国の王都を廃墟のまま残す事を決定付けた魔導王の考えは、余り意味を成さなかった様で『遺跡』の類として、瓦礫崩壊が危ぶまれながらも観光名所になっており、一部では天変地異による物だと博す者迄現れる始末である。

 

 人間種の寿命と100年と言う時の流れは、そうした意味でも魔導国に対する反乱分子を削ぎ落し、新たな反魔導国・反全体主義の運動を抑え込む一定の効果があった。

実際、戦争を知らない今のアーウィンタール自治区の人々が、過去の出来事を実感する事は無いのだから…。

 今尚、世界のどこかで魔導国による侵略行為が行われているにも関わらず、魔導王に作り上げられた『甘く蜜のような世界』に浸り自治区に住む者達の生活は営われている。

ナザリック第一主義を掲げ『世界と言う宝石箱』を魔導王アインズ・ウール・ゴウンに捧げる為、その支配域を広げ行動を続けている事等に興味を持つ者等この自治区にはいないのだ。

 

 故に彼等が過去の戦争や魔導国の侵略・大量虐殺と言った暴挙を痛感しそれを唱える者もおらず、オカルト、陰謀説等々一部の人々の娯楽要素の一部と成り果ててしまうのも当然の事なのかも知れない。

たとえその脅威が身近にあり、薄皮一枚の上に成り立つ仮初の平穏だとしても…。

 

 

 そしてここにも、自己の欲求だけを優先する男がいる。

深淵を覗き僅かでもその域へ近づこうと情熱を注ぐ小柄な老人。

その肌は、乾ききった大地や荒い布を連想させる物だが、対照的に獅子の(たてがみ)にも似た白く長い髪と見事な髭を蓄えた老人が一人城内で過ごしていた。

 彼の長い人生を大きく変えた『あの日』、あれから100年が経過し時代を共に生きた者はいないが、孤独を感じる事はなかった。昔と違い、皇帝育成に割く無駄な時間は最早必要無く、彼の邪魔をする者はこの城内に誰一人いないのだ。

それも当然の事、アインズ・ウール・ゴウン魔導王を師と仰ぎ、嘗ては死を(ほの)めかすだけで他国を威圧出来た人物の邪魔を好き好んで行う者等いない。

仮に現れたならその存在は、『魔導国に弓引く者』としてナザリック地下大墳墓の方々が担ってくれると聞かされている。

 

 生物であれば誰にでも平等に訪れる『死』をただの状態異常かの如く仰せになられた深淵の主、いと尊き御方の力が絶対である事を固く信じて疑わない。

師より賜った『死者の本』の解読に勤しみ、僅かでも深淵を覗く日の訪れを願い研究を続ける。

漠然と魔法の質が向上したように感じているが、ただの『錯覚』である事に気付く事は永遠に無いだろう。

 

 未だ、師より賜った本の解読に進展は無い…。100年前、師が所有するマジックアイテムを借りほんの少し読む事が出来た。

その一文は、偶然にも彼が求めていた知識に該当し、それを解読し理解する事で初めて深淵を覗く事が出来ると仰せになられた師の言葉を信じている。

 

 彼の情熱は全てが無駄───。

 

 その事実に気付く事無く、未来永劫答えを得る事が出来ない賜りし宝『死者の本』を片手に解読を試みる事を何よりも愛した。

 それが、この男フールーダ・パラダインである。

 

 

 

 今日と言う日の訪れは、そんな彼の平穏な日々に新たな刺激を与えた。

城内に使役し配置したデス・ナイト達が、次々と消滅してゆくのを感じ取り、彼が愛する解読の手を止めざるを得ない事態になってしまったのだ。

フールーダ・パラダインの表情は、戸惑いながらも明らかに怒りに満ちた眼光を放っている。

 これだけ容易くデス・ナイトを(ほふ)れるのはナザリック地下大墳墓の方々の他であれば…彼のドラゴンが操ると言う鎧であろうか…。

『白金の竜王』であれば、フールーダの手に負えないのは自明の理である。

 始原の魔法についての知識欲もあるのだがその前に『報・連・相』が出来て当然の事で重要な事であると師から聞かされている。この状況は、魔導国のどなたかからの指示を受けた方が無難であると判断し至急連絡を取る事にした。

その結果、デミウルゴスから城に留まり襲撃者の正体を掴み次第退避、その正体を再度連絡するようにと命令を受ける。

 フールーダには、ナザリック陣営が下す決定にしては慎重過ぎると感じ、不満を抱えたが素直に従う事にしたのだが…。

 

…始原の魔法…知識欲を抑制できない…

 

 現時点における彼自身の能力と実力がどの程度の物なのか十三英雄を遥かに凌駕している事の証明をしてみたいと徐々に考えが傾く…。

襲撃者の存在が何であれ、その欲求を抑える事は最早出来なくなっており、読書に集中しているように振る舞いその到来を待つ事にしたのだ。

 

 

 

「フールーダ・パラダイーン!!」

 

 

 

 彼の名を呼ぶ若々しい怒号、その声の主には覚えがあった。

数世代にわたる皇帝の中で、フールーダが最も優秀であったと考える人物。

 

最後の皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス。

 

 そして属国後、フールーダは彼に興味を失い、観察対象に値する存在から除外していた。

その男が、当時を遥かに凌ぐ覇気を発している。その人物は、黒衣を(まと)い若かりし日の姿で現れ自分の名を叫んでいるのである…。

 

これほど、心躍る事は無い!

 

 フールーダが最後に見た皇帝は、豪奢な衣を身に纏い華美な装飾を施された老衰し棺に収まった姿であった。目の前の存在に興味を抱かずにはいられない。

 

「おぉ…おぉ……陛下…私の可愛いジル~。」

 

 その顔、その声、その言葉、老人の全てが不快でしかなかった。

ジルクニフにも多少は、老人を想う気持ちはあった。

裏切りの理由も爺らしい…。

フールーダに匹敵する程の力を持たない当時のジルクニフは、裏切りに目をつむりそれでこそ爺だとさえ感じていた。

ただ、いざその姿を目の前にしてみると、全く別の感情がふつふつと湧き上がる。

 

 真祖の吸血鬼として覚醒したが自覚が足りない。そんな彼にデス・ナイトを容易く消滅させる事が出来るのだと理解させる事で、バルディアの考えとは違えど強引な手法で自信を取り戻させる事が出来た。

そんな彼が誰も敵う事が出来なかったフールーダと向き合い、その力を行使しようとしている。

彼が取り戻した自信が『今なら…』そんな気にさせているのかも知れない。

 

『私は裏切りと言う名の行為を嫌う。』

 

 裏切りを許容できる者がいるだろうか?

ささいな裏切りなら許容できると仰る始祖様だが、私にはそれさえ許す事等難しいだろう。

バハルス帝国が帝国として存在していた頃『主席宮廷魔術師』として国に大きく貢献した男。

 感動の再会シーンである。これをバルディア達が邪魔する等無粋な事はしない。

気配を完全に消し、特等席で観戦する事にしており、既にこの部屋の中では比較的マシな椅子に腰かけ、そのすぐ脇にヒルデリアが控えている。

連絡が途絶え現状把握に訪れた男…隣に座り観戦しようと提案されたデミウルゴスは、フールーダに指示も出せず『観戦客』としての役回りを強要されていた。

 

「裏切りの訳を御聞きにならないのですね、陛下。」

 

「分かり切っている事を聞いてどうする?爺も耄碌(もうろく)したな。」

 

「では、私から宜しいでしょうかな?」

 

「構わぬ。答えられる事ならな。」

 

「陛下は間違いなく崩御されました。

 どのような手段で、若かりし日の御姿で復活を遂げたので?」

 

 デミウルゴスは、その答えを肌で感じていた。隣に座るこの禍々しい男の手によるもので間違いないだろう事を…。

しかし、今のジルクニフがシャルティアと同じ『真祖の吸血鬼』であるのか。それはまた別の話であり、確認しなければならない事案でもある。

ジルクニフの肌や目の色を見ればシャルティアと同じように見えるが、ユグドラシル由来のスキル迄は流石に習得していない筈だ。

 

 この執事…単独ナザリックへ訪れヒルデリア・クロスと名乗り『支配の呪言』を異に返さず涼しい顔をしていた女…。

その女の態度から間違いなく、隣で優雅に腰かける男こそが『始祖』と言う事で間違いないだろう。凄まじいプレッシャーに圧し潰されそうにな気分だ。

 

 客人として認められていないコキュートスを伴い大迷宮へ訪れたシャルティア達は、未だナザリックへ帰還していない。

アインズ様がこちらに来て得た『100年の絆』なる力でコキュートスのHPが危機的状況にある事、シャルティアの状態が不安定である事を残りの守護者各位は知らされている。

それを行った張本人が真横にいるこの男であるとしたなら…。

 

 この状況で最優先すべきは情報収集。

名を含む男の情報だ。

次いでジルクニフの力だが、こちらは直ぐに確認出来るだろう。

フールーダの質問にジルクニフが答える事は無く、不敵な笑みを浮かべている。

 

 彼は、語らないとデミウルゴスは考えている。

自ら情報を開示するような愚考を冒す真似はし無い筈だ。

 

「君は、魔導王陛下と君達の差異を知っているかい?」

 

 思考するデミウルゴスに横から不意に問いが投げかけられた。

そしてこの問いの内容もまたおかしな物だった…。

バルディアは、ヒルデリア達の勇気ある行動に助けられた。

本当に知らないからこその情報収集なのだ…。

 

 そう、この男は違う…。

デミウルゴスはそうは考えない。

我々は、至高なる御方々から創造された存在である。

この事実だけは間違い無いと承知している。

質問の意図が分からない…。

創造された者として我々は主人の為にだけ存在する。

なんなんだ…この問いの目的は何だ?

 

「その前に、御名前をお伺いしても宜しいでしょうか?何とお呼びすれば良いのかと…。」

 

「今は駄目だ。ほら見て御覧。始まるよ。」

 

 

 

 一瞬の出来事だった。

 

 

 ジルクニフがフールーダとの間合いを詰めたのだ。

それも僅か数ミリと言う距離だ。

フールーダは慌てて回避の魔法で距離を取り、攻撃に転じる魔法の詠唱を始めるが、その都度距離を詰められるので、まともに魔法を詠唱する事すら出来ない。

 

((これは不味い!ここまでとは…。

 直ぐにアインズ様に御知らせしなければ!!))

 

執事がこちらを見下し行動を制限してくる。

 

「御主人様の言葉が聞こえなかったのですか?あれをご覧なさい。」

 

 メッセージの魔法を使う事は出来ない…。

バルディアの横で固まったかの様に座るデミウルゴスは、己の無力さを呪った。

 

「本当に齢をとったな。爺そろそろ休んだらどうだ?」

 

 ジルクニフに”トン”と肩を押されたフールーダがその場で、へたり込むように腰を落とした。

この様子を見てデミウルゴスは、今のジルクニフがシャルティア級の『真祖』であり、自分が戦い勝利を収める事の出来る相手か正確に掴みきれなくなった。

ジルクニフは、ただ間合いを詰めフールーダの肩を押した。

ただ、それだけなのだから…。

 

「なんとも…凄まじい力ですな、陛下…。」

 

 襲撃を受けた際、フールーダ・パラダインは、ナザリックへ連絡していた。

誰も来ないと言う事は、遠くでこの様子を見て自分を捨て駒にするつもりなのだろうが、全てを捧げた身である。当然その使いようも含まれる。

床の上に座ったまま、嘗ては非力であった皇帝を見上げ、これ程の力を授けた者の存在が気になるが、最早それを知る術が無い事が残念でならないようだ。

 デミウルゴスはこの場にいるが、それを知らせる事を隣の男が許されないだろう。

勝負は完全についたようだ。

 

「私は、裏切りと言う名の行為を嫌う。」

 

 ジルクニフは、大迷宮の主、始祖様が用いる言葉の中から最も印象的な言葉をフールーダにそのまま告げた。

起き上がろうと立ち上がったフールーダ・パラダインの首根っこを掴み締め上げ、自身の目線に合う高さまで持ち上げると、彼が絶命するその瞬間迄、老人への思いを語りだした。

 

「爺の判断は、己の信念に従った純粋な物だろう。

 だが、それは許されない事だ。

 ただ同時に、変わらない爺の姿勢に私は学ばせて貰ったよ。

 

 それなりに、長い付き合いだったのだから当然と言うものだ。

 

 帝国への貢献度で言えば、爺は突出している。

 爺に頼り、それに応えてくれた。

 感謝しているさ。

 

 だがな、先にも述べたがお前を許す事は出来ないのだ。

 すまぬな…。」 

 

 主席宮廷魔術師フールーダ・パラダインは絶命した。

ただその顔は、苦痛に満ちた物ではなく、穏やかなものであった。

その穏やかな死に顔の意味を知るのは、この場でジルクニフただ一人だけだろう。

その様子を見ていた三名が視界の後ろから、見事に復讐を遂げたジルクニフに称賛の喝采をおくる。

 

「素晴らしかった。見事に復讐を遂げたね、ジルクニフ。」

 

「ジルクニフ、おめでとうございます。」

 

「…や、やぁ…久しぶりと言えば良いのかな。」

 

 振り返るとそこには、ナザリック大幹部の言葉で人を支配する悪魔デミウルゴスもいたのでジルクニフは驚愕した。

 

「…なぜ…お前がいる…。」

 

 慌てて説明を求めようとバルディアへ視線を送ると、ヒルデリアがジルクニフの疑問に答えた。

 

「この男は、まぁ言えばフールーダの上官のようなものである事はご存知でしょう。

 貴方が殺害したその老人は、我々がここへ到着し狩りを続けている際、この男の指示で我々の

 正体を暴くよう命令を受けていたそうです。

 その後、連絡が無いので愚かにも直接見に来たと言うわけですよ。」

 

「な、なるほど…。では、その悪魔を殺して良いのだな?」

 

 この問いにはバルディアが答えた。

彼等魔導国への積もりに積もった憎悪を発散したい。そうした顔付を今のジルクニフはしている。

 

「それは、困るのだよ。彼にはメッセンジャーとしてナザリックへ帰還して貰いたいのさ。」

 

 そう言うとバルディアは、ナザリックの今後の行動を決定付けるかのように語りだした。

 

 第一に、廃墟のままある王都の土地を要求し、美しい街並みを見たいと言う願いからナザリック

     地下大墳墓の責任の元で2年で復興させる事。

     人が定住する都に育て上げる事。

     土地を所有する大迷宮に対し、土地使用料と得られる収益の10%を献上する事。

 第二に、従者を従え国家を裏切った者。その二名の身柄を速やかに引き渡す事。

     二名の身柄について、魔導国、ナザリック地下大墳墓は一切関与しない事。

 

「君の意見は、求めない。ただ伝えるだけで良いのだよ。

 我々は、新たに迎えた家族が受けた屈辱や悲しみに対し報いたい。ただそれだけなのだから。

 急いだ方が良い。

 コキュートスが完全に滅びる迄そう時間は無い。

 

 私は、彼を救いたい…。

 

 だが、君達の手が遅いと救えた筈のコキュートスは、君達自身の手で奪った事になる。

 これは、仲間殺しだ。

 私から見ればそれは『うらぎり』なのだよ。

 私は裏切りと言う名の行為を嫌う。

 以上だ。

 しっかり伝えて欲しい。」

 

 デミウルゴスは、大迷宮の主を甘く見ていた。だが、大迷宮の主もまたナザリック地下大墳墓を甘く見ている様に感じられる。

仲間殺し、自らの死等、アインズ様の為であれば、ナザリックの皆が迷わず選ぶ道だ。

 

((そんな事も知らずに愚かな大迷宮の主よ。次に会う時が楽しみですよ。

 しかし、印象的な言葉だ『裏切りと言う名の行為を嫌う。』か…。

 では、それを唆した側への思いはどうなのか…。

 とにかく急ぎナザリック地下大墳墓へ帰還し、アインズ様へお知らせしなければ!))




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