OrverLord ─始祖の吸血鬼─   作:ブラック×ブラック

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久しぶりの更新と成ります。
お楽しみ頂けると嬉しく思います。


第十九章 不死者達の会談ー2

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 大 迷 宮  邸 宅 応 接 室 

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 即興にしては事実に基づく、らしき世界征服の大義名分を掲げる事が出来た。

更には、賛同するように求める所迄話を進める事にも成功したのである。

だが、必要以上に滅ぼしてきた国も数多く、その説明も付け足さねば成らないだろう。

 

 戦争程、愚かな行為は無いだろう。

正しく愚の骨頂である。

互いの正義が衝突し引き起こされる最大の暴力。

文化や宗教の差異、一方的主張により引き起こされる戦争。

ただ自国の利益のみを追求し、領土拡大を行う欲深さ。

狂乱に掻き立てられた侵略と防衛による戦争。

小賢しく知識ある全ての生物は、言葉を巧みに並べ表現新たにするが、結果は同じ事。

 

 侵略者により、祖国と尊厳を奪われ隷属か、難民となり流浪する敗戦国、民衆の苦悩。

そこから始まる復讐劇、それが当事者間だけで済む筈も無く、新たな悲劇の幕が上がる。

誰しも一度は口にし耳にした事のある『繰り返される負の連鎖』と言うフレーズは、形骸化してお

り、非常に軽い言葉と成り果てている事を訴える者さえいない世界。

 その愚劣さを知りつつも、単純に『悪』と断じる事が未だ出来ない、知性ある全ての者達。

だからこそ、『知性ある者』足り得たこの矛盾…。

 

 

                 それが『戦争』

 

 全てを破壊し得る力を有し誇示する事で、新たな愚行への抑止力となり得るのでは無かろうか。

そして、それを過去百年の間で成そうとし実現してきたのは、他でも無い魔導国である。

戦下によるインフレ、民衆の飢餓も今は解消され、既に小規模派兵で事足りている。

間も無く世界征服が成就されるとナザリックの意思をはっきりと伝えるのだ。

 魔導王は、この結果に満足している。

だからこそ完全に見落としていた。

多様性を失い、世界がナザリック一色に染まりつつあるのだ…。

塗り潰された単色の絵画に足を止める者は数少なく、その荘厳なる姿を知る術はない。

本来在るべき美しい姿を塗り潰された醜い世界。

 

 愚行の末、迎える未来…その象徴が必要であった。

 

 魔導王は、熱を帯び始祖を威圧し尚も語る。

それは、まるで同調でも同意でも無く、これを是とし、受け入れる事を求めているのだ。

 その為にも破壊の痕跡残る廃都リ・エスティーゼが必要である。

本来であれば、復興すべき土地では無かった事を訴える方針に切り替えたのだ。

事実、魔導国統治下にある国民生活が向上したと言う結果も残している。

この内容であれば軍事侵略の説明も一応は納得のゆく物だろう。

考えあぐね得た、選択と結果であると…。

我ながら、良い手だと満足し、眼窩(がんか)に沈む紅が炎炎(めらめら)と燃え輝く。

 

「これで君にも理解出来たのではないかね?

 名も知らぬ始祖殿(・・・)

 

 …だからこその軍事侵攻、世界征服なのだよ。

 可能な限り凄惨に残虐な痕跡を残す事こそが必要だったのだ。

 それを目の当りにした時、人は改めて知る事になるだろう。

 

         その愚劣さを。

 

  必要悪である。

 聡明な始祖殿であれば、理解出来るのではないかね?

 

  私とて、無駄な争いは好まない。  

 

  ならば、力持つ者の使命は何だと思う?

 我々ナザリックの統治は、彼等国民を充分に満足させている。

 国民達は、以前の非では無い程、遥かに豊かな暮らしを営んでいる筈だ。

 

 それを君は、彼等から奪うのかね?

 それこそ愚行であろう。

 

  君の希望通り、我々はその願いを叶え復興を進めた。

 そして、それは八割迄なされている。

 だが、あの土地を復興してどうなると言うのだ。」

 

 漆黒の眼差しは、変わらず魔導王に注がれていた。

始祖は微笑み、優雅に、そして一切の隙無く黙然と腰を落ち着かせ耳を傾けている。

魔導王の熱を帯びた声が室内に響き、彼は更に続けた。

 

「名無き、始祖殿よ。

 我々、力持つ者が道を示し、彼等力無き愚かな者達を導く必要性。

 その価値について、君はどう考える?

 自作自演、三文芝居と非難されようと、全ては愚行に終止符を打つ為の手段でしかない。

 

  いい加減、理解出来ただろう?

 

 『すべて多く与えられた者は、多く求められ、多く任された者は、さらに多く要求される。』

  ルカの福音書だったか…。

 

  この地で、我等は全てにおい絶大な力を有している。

 で、あるならば世界を手中に収め、管理し導くのも我等力持つ者の責務であろう。

 

 それこそが、我がアインズ・ウール・ゴウン魔導国。

       私の望みであり使命である。

 

 君達も、我々ナザリックと共に世界を守護する者として、長しえに歩もうではないか。」

 

 魔導王の口調が徐々に大胆な物へ変わってゆく。

面と向かって主人を『名無し』と発言した事で、ヒルデリアから尋常では無い殺意が溢れ出す。

だが、何かを仕掛け準備が出来たのだと始祖は察知していた。

 

 プレイヤーキラーであり、ロールプレイを徹底していたバルディアには、何かの『サイン』とし

て容易く気付ける芝居である。

 これは、多用される古典的手法、挑発する事で相手のリズムを崩す。

更に欲を言えば、罠を仕掛ける事が出来れば尚良いだろう。

相手の感情を逆なでる行為で諸刃の剣だが、この手法の効果は絶大である。

 

 だが、始祖が、ヒルデリアの腕を強く掴み、軽はずみな行動を取らない様に妨げていた。

表情を一切変える事無く、あの化け物執事を無言で(いさ)めているのだ。

 

((チッ…。

 せめて、あの執事だけでも、この場から退場して貰いたかったのだが…。

 流石に…露骨過ぎたか?…))

 

 これぞ魔導王の真骨頂である。

隠された目的に気付かれない為、脳内で周到に構築した流れ。

冷静かつ論理的な思考、優れた状況適応力からくる自信に満ちた発言。

その全てが、会談における主導権を見事に掴み取っている。

 

 更には気付かれない様にトラップを仕掛けていたのだ…。

流石に、こちらは見破られているようだ。

これで、この手はもう使えない。

 

 百年間、仲間達(・・・)が統治を行ってきた魔導国…

 その頂点に君臨する支配者が伊達では無い事を示せただろう。

 

 決して驕り高ぶっている訳では無いのだ。

仲間達の働き、事実からくる自信漲る発言であり意思表明でもある。

 

 この姿勢で百年の時を過ごして来た。

人間としては、歪な思考。

それを無理やり捻じ曲げ正当化している事に、気付く機会は永遠に訪れないだろう。

この一点に関して言えば、始祖も同じ道を辿るのかも知れない。

 会談で主導権を握り、このままの流れで『約定』に猶予期間が必要である事を主張すれば…。

それより優れた成果、約定の改定に迫れる可能性も視野に入ってきたと感じている。

 

 先程の挑発でも、始祖は一切表情を変える事無く微笑んでいたが、内心穏やかでは無い。

それを一番感じているのは、側に控えるヒルデリアであり、邸内の使用人達である。

 ヘドロの様にどす黒い邪悪な始祖の思念が邸宅内に充満し、今にも溢れそうな程に満ちている。

 娘を罠に掛け、絡め取ろうとした魔導王…。

バルディアが、この地で得た大切な家族…。

 

 魔導王のこれを熱弁と言えるのだろうか…。

挑発し、恫喝し、約定の改定を強要し、更には罠を張り巡らせている。

今の彼では気付けない、始祖の笑みが、ただの微笑みでは無くなっている事に…。

邪悪な変貌を遂げたその双眸に警戒し続けていれば、或いは気付けていた事だろう。

 

 今この瞬間、会談前に始祖の全てを暴くと意気込み、世界征服否定の根拠と対案を出し示せと、

この話題に於ける主導権を握ったとでも言いたいのだろう。

 

 挑発的に眼窩(がんか)に沈む紅を燃え上がらせ始祖に視線を向けている。

 

 その先にある、気味の悪い漆黒の双眸を湛えた微笑み。

 

((………これ以上は不味い…だが、挑発が不十分だったのか?))

 

 魔導王は、これ以上の挑発は無意味である。

寧ろ、危険であると百年の経験と本能が判断を下していた。

始祖に感情が有るなら、仮に有るとするならば、逆鱗に触れるその天井を知る事は重要だ。

今後の関係…。

その構築にも有益なモノになるだろう。

 

 始祖の逆鱗に既に触れてしまった事に魔導王は、まるで気付いていない。

隠していた目的を遂げ、囚われている二人の身柄について議題を移し得た情報を分析しよう。

次なる流れの構築を終えた正にその時、突然、始祖がポツリと呟いた。

 

「ノブレス・オブリージュと?」

 

 変わらず端的に問う男だと魔導王は思った。

 福音書の一節からソコへ辿り着いた事に驚いた様子だが、共感を得たと考えたのだろう。

だが、ソレが大いなる誤解である事に気付く事無く、畳み掛ける様に続けた。

 

「その通りだとも、それに────。」

 

 突如、天地がゆっくりと流れる様に反転し、その中に取り残されるような感覚を味わう。

漆黒の中に浮かぶ宝玉が如く煌めく緑の瞳孔が、射抜く様な鋭さを増し魔導王に注がれている。

訪れた闇の侵略、対象を闇の奥深くへ引き摺りこみ、ある感情を刻み付ける漆黒の眼差し…。

 

 

 死の支配者にして魔導王を蝕む『闇』が存在した。

 

 最初に訪れたのは、幾万幾億もの死に瀕し助けを請いながら絶命してゆく絶叫である。

絶え間なく頭蓋に直接響くソレは、種族の恩恵からなのか頭痛程度にしか感じ無いものの煩わしい

程度のモノであった。

だが、次第に頭痛とは別の新たな異変を引き起こす…。

 

 魔導王を構成する数百の異なる骨が、カタカタと響き『恐怖』と言う名の協奏曲を奏でる。

奏者は『本能』であり耳障りな不協和音だ。

今の魔導王は、その響きの正体さえ理解出来ていない事だろう。

己の中に芽吹いた、耐えがたい恐怖をやがて自覚する事になる。

絶え間なく訪れる恐怖の波の中、その場でただ立ち尽くすしか許されない事になるだろう。

恐怖への完全耐性魔法『ライオンズ・ハート』でもこの(おぞ)ましい恐怖を打消す事は出来ない。

その場から逃れる術は無く、その事実と直面した時に味わうであろう『絶望』も、何もかも…。

 

 

 

 一刻も早く、この場から立ち去るように悲鳴の如く歌う本能に従う事さえ許されない。

ここはダンジョンと異なり拠点化され、管理されている『グリモワール=ファミリア大迷宮』だ。

その中にあり、今は更に状況が悪化している。

 平均感覚迄も失い、先程迄座っていた筈の豪華な椅子も無い、自身の指先すら見えない亜空間。

自由に動く処か、全ての光が拒絶され飲み込まれる、果て無き暗黒に隔絶されている。

 

 スキルにせよ魔法にせよ無詠唱である。

ただ、攻撃してくる様な仕草も無く、何かされた記憶も無い。

何故か暗闇の中にいる…。

完全に虚をつかれる形となり、味わった事の無い敗北感と押し寄せる不可避な恐怖の波が容赦なく

魔導王アインズ・ウール・ゴウンを拘束し、次第にソレは大きく膨れ上がる。

本来、属性加護となる筈の闇がジワジワと、だが確実に魔導王を翻弄し圧倒する。

 

<<聞こえるかな魔導王陛下(・・・・・)

  私の名は、バルディア・ブラッゼ・アンティウス。

  これで名無しでは無くなったね。

  意識を取り戻した君が、その名を覚えている事は無いのだけど…。

  ただ、君の本能は覚えているだろうね。>>

 

 業深き者をより深き闇へ誘う漆黒の眼差しは、コキュートスの威力変動スキルと似て非なる物。

何処とも知れぬ果て無き暗黒の中、感情の無い始祖の声がこだまする。

ソレは、先程迄感じていた恐怖の非では無かった。

 恐怖と言う名の『妖刀』の斬撃が如く、容赦なく本能に消える事の無い深い闇を刻み込む。

カタカタ震え物言わぬ魔導王へ語り掛け、二杯目の珈琲を飲み終え静かに語り掛けた。

 

<<君の友人であった、鮮血帝ジルクニフ。

  帝国は、王国を併合したかったと君の考えを私は聞かされたばかりだ。

  ところが、君の友人ジルクニフは最後の皇帝となり、今や帝国は存在しない。

 

  国が亡ぶ事は、実際起こり得る。

 

  …ただ、なぜだろうね。

 

  君達の武勇伝は、またの機会に聞かせて貰えるかな。

 

           あぁ…そうか…。

 

   私から世界征服の話しを振ったのか…少し意地悪だったね。

  戦争そのものに対する君個人の考え。

  その講釈を望んでいるわけではない。

  

  ただね、君達ナザリック地下大墳墓の諸君は

      私達グリモワール=ファミリアから世界の多様性を奪った。

 

   誰しもが君を神が如く称える魔導国一色の世界だ。

  世界征服目前となった今だからこそ、君は既に感じ取っていると思うのだけど…。

 

   それとも、本気で世界征服を考えたのかな?

 

   何れにせよ、私は君達に刺激を与える者として悪戯を仕掛けようと思う。

  それはちょっとした嫌がらせかも知れない。

  或いは、ナザリックを脅かす凄惨なモノになるかも知れない。

 

 

        私達から、世界を奪ったのだ…。

 

 

   それと、今回…。

  君が大迷宮へ足を運ぶ事になった理由を今一度思い出して欲しい。>>

 

 この空間では、一方的に語る事しか出来ない。

続きは、魔導王が意識を取り戻してからになるので、バルディアは新しく手に入れた珈琲を楽しむ事にした。




■眼窩(がんか)
  眼球の収まる頭蓋骨のくぼみを指す。哺乳類の眼窩は不完全に眼球を覆うものが多いが、
 霊長目の眼窩は完全に眼球を取り巻くのが著しい特徴となっている。
 また、眼窩に視神経孔を伴うのは哺乳類の特徴とされている。
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■アインズの戦争、侵略に対する価値観 【独自解釈】
 世界征服については、アインズ様のポロっと発言でナザリックの面々が動き出しました。
 そしてシャルティア、コキュートスの件を除けば、問題無く事を進めるナザリック勢。
 アインズ様ご自身が感じていた人間であった頃との違い。
 アニメしか知らないので、その後大きな壁があるのかな?無いのかな?
 長年支配者として祀り上げられて居ると、更に歪な価値観が目覚めるのでは?
 と言うアインズ様百年後の設定です。
 どこぞの国と…。
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