OrverLord ─始祖の吸血鬼─ 作:ブラック×ブラック
バルディアがこの地で目覚める300年前、それは突然訪れた。
空が落ち大地が砕けたかと思える程の凄まじい衝撃が『ユグドラシル』全土を襲った。
視界が白銀色に発光した刹那、信じがたい変化が身を包む『感覚』を感じ取る事が出来た。
ユグドラシルの世界においてギルド『グリモワール=ファミリア』の執事(NPC)として創造され
たヒルデリア・クロスの種族はドラゴニュートであり様々なAIを搭載され、設定された執事業は勿
論の事、戦闘訓練ではプレイヤーの攻防のおおよその改善点を蓄積されたデータベースから通知し
てくれる超高性能NPCである。
そんな彼女があの衝撃の後、紛うこと無き真実の命を得たのだ。
この世界が何処でこの現象は何であるのか?
そんな当然の疑問はあるが、自身の『意思』で確かめなくてはならない事が彼女にはあった。
凄まじい衝撃の天変地異であると推察するしかないのだが、窓から見える大迷宮と御屋敷は無事の
ようであり、とても凄まじい衝撃の後とは思えない程静かな光景である。
主は先程の衝撃を受けご無事なのだろうか?
彼女の創造主がそう簡単に…。
最悪の状況、そのイメージを追いやり声に出し叫んでいた。
「それだけは、あってはならない!!!」
((バルディア様、バルディア様、バルディア様!!!どうか、どうかご無事で!!!))
不安と恐怖、主の無事だけを祈る思いが彼女を支え、主人が眠る間まで駛走する。
この胸の内にあるのは何だろうか?*ドクン・ドクン*と先程から違和感を感じる。
両開きの扉の前、室内からは何も聞こえない。
*コン・コン*
しばらく待つも応答が無い…。
再度ノックするが結果は同じで静寂だけが辺りを包む。
ただ御休みになっているだけと信じ、意を決し扉を静かに開き深々と頭を垂れ主人に礼を尽くす。
「失礼致しますバルディア様。ヒルデリアです。
先程の天変地異が何であったのか未だ判明しておりませんが、
御身の御側に控えさせて頂きたく参上致しました。
何なりとご用命下さいませ。」
室内奥にある豪華な棺から主人の気配は感じとる事は出来る。
だが、あれだけの天変地異だったにも関わらずヒルデリアの主人が目覚める気配は無い。
一先ず、最悪の状況では無い事は確認が取れたが胸中は不安で一杯だ。次いで他の方々のご無事
も確認しなくてはならない。急ぎ100室近い全室の確認を急いだ。
途中、御屋敷内で狼狽する使用人達に冷静に通常業務に当たる様支持を出しながら確
認を急いだ。
結果、他の主達(プレイヤー達)の気配は無かった…。
既に外出されているのだろうか?それとも…。ヒルデリアは静かに廊下を歩きながら歯を食いしば
り両手を強く握りしめる。
「ダメだ!」
嫌なイメージが不安を煽る。それを打ち消すかのように叫び自身に活を入れる。
執事として屋敷の管理業務もある。
主人が普段起床する時間帯に御側に控える事とし、御屋敷外の者達(NPC)がどうしているかの現状把握に努める事にした。
第一に御屋敷防衛は必須。
広大な大迷宮管理者に*メッセージ*の魔法を試してみる。
***ルゥちゃん、無事ですか?***
彼女が無事である事も重要事項であり、一早く確認を取りたかった。
***ヒルデ!!ヒルデだ~!!!わからん!なんか体の中が変!ヒルデ助けろ!***
((つながった!どうやらユグドラシルの魔法は使えるようね。))
通信に応えたルゥちゃんことドライアドのルゥ=ルゥ(NPC)は、この大迷宮を一人で管理する御
屋敷防衛の要とも言える存在である。
見た目は幼女、防衛戦略に関しては悪魔的に残忍な方法を取る。
ルゥ=ルゥの創造主もヒルデリアと同じバルディアである。
かつて、この大迷宮を『グリモワール=ファミリア』が攻略した際に入手しギルドハウスとした。
その時、大迷宮を防衛管理するNPCが欲しいねと言う話になり、創造されたNPCである。
初のNPCと言う事もあり、外見の設定はギルド会合が行われ全会一致で幼女となった。
彼女もまたアップデート毎にAIを更新し、かなり作りこまれたNPCであり何よりその容姿と残
忍さのギャップからギルドのマスコット的存在でもあった。ヒルデリア・クロスが創造された際に
は、ヒルデリアに対しては命令口調だが姉のように慕っていると言う設定が追加されている。
***わかりましたルゥちゃん。二時間後に大迷宮入口で合流しましょう。では、後程***
大迷宮入口へ向うヒルデリアの姿を見付けた庭師でワーウルフのロベルト・ダン(NPC)が彼
女を呼び止めた。彼を創造したのは、サブマスターだが少なくとも御屋敷内で彼女の気配を感じ取
る事はできなかった。
「ヒルデリア殿、先程のあれはいったい何なのだ?それにこの体…。」
「残念ながら、原因不明としかお答えする事ができません。
これから大迷宮入口でルゥ=ルゥと待ち合わせているのですが…。
ロベルトもご一緒しますか?」
ロベルトは、顔を引きつらせながら頷きそれに応えた。なぜかルゥ=ルゥの名を聞くと本能的に身
構えてしまうようだ。
ロベルトの創造主は(英)ガーデンが好きで、この御屋敷にそうした空間を設けたいと言う事で、
御屋敷内の邸宅周辺は、ほぼ全てが美しい庭園となった。
当初は、対人ギルドには不要と言う否定的な意見もあったが、美しく剪定された庭園と言うのは
リラックス効果もあり徐々に受け入れらたのである。
庭師がなぜワーウルフなのかと言うと、これも創造主の趣味らしくその設定も少々雑な所がある。
この世界においてガチガチの設定があるより、余白がある分『成長』と言う概念がNPC達に適応
されるのであれば伸びしろは有るかもしれない。
大迷宮の管理者が残忍な性格である為、このワーウルフは人型時は温和な性格でニヒルなオヤジに
設定されている。
他のギルドメンバーの手伝いもあり獣人化の際はヒルデリアとほんの少しは戦える戦闘力を有している。
「お~ヒルデ~待ったかー?」
「いえ、先程到着したばかりですよ。」
「ルゥ殿、ご無沙汰しております。」
「おぉーワンコロもな。で、これは一体どういう状況だ?」
大迷宮入口からの光景は、軍隊らしき集団が陣取りこちらの様子を窺っているようにも見える。
グリモワール=ファミリアとバハルス帝国のファーストコンタクトである。
帝国領内北東部に突如出現した大迷宮の一報をもたらしたのは、偶然付近を探索していた高位の冒
険者チームだった。
目撃談の真偽を確かめる為、急遽騎馬隊が編成され派遣される事となった。
その数千騎からなる大部隊である。
「私が対応します。ルゥちゃん、ロベルトと共に大迷宮内へお急ぎ下さい。」
ルゥ=ルゥは自らも戦う意思があると物申そうとしたが、ただそこに直立しているだけのヒルデリ
アが既に臨戦態勢である事を本能的に理解し口にしようとした言葉を飲み込みロベルトと共にヒル
デリアの指示に黙って従った。
ヒルデリアは二人の姿が大迷宮の中へ入り見えなくなるまで見守り、ゆっくりと軍隊らしき集団に
向き合った。
彼等は、帝国領内に突如出現した大迷宮の調査に来たと説明し大迷宮への立ち入り調査と女が口に
していた「休んでいる主人」なる人物との面会を要求してきた。
承諾しないのであれば実力行使も辞さないとの事だ。
軍隊を相手にするのは初めてだ。
ヒルデリアは死を覚悟し、心の中で先に逝く事を主人に詫び覚悟を決めた。
…一陣の風が吹き、腰まで伸びた黄金色の長い髪が陽光を受け煌めきたなびく…
「かかってきなさい下郎共!!至高なる我が主の地を汚す愚者には万死すら生ぬるい!!」
女のものとは思えないその咆哮と覇気。
軍馬が恐れ嘶き騎兵は慌てて手綱を引き締めた。
愚かな女だと帝国軍の誰もが思い馬鹿にするような笑みすら浮かべている。
ただ一人で生意気な大口を叩き立ちふさがる愚かな女。
どんな声で泣かせてやろう。
許しを乞うてもう全力で滅ぼしてやろう。
帝国騎馬部隊の進撃と共に、凄まじい地響きが奏でられ疾風の如くヒルデリアに突撃
を開始した。
女は、微動だにしない。
その構えに隙を見つける事は困難だが今は問題ではない。
疾走する騎馬隊で踏み潰し滅ぼせば良いだけなのだから。
女の主人とやらも愚かなものだ。
女を生贄にした程度でバハルス帝国騎馬隊の進撃は止まらない事を思い知らせてやろう。
あの大迷宮も燃やして灰にしてやろう。数的優勢にある事でバハルス帝国騎馬隊は狂乱している。
((どれだけ減らせるかしら…。ルゥちゃん後はお任せします。))
先頭馬の胸部を蹴り飛ばし、陣を崩すし落馬させ数騎戦闘不能にさせる。
ただ、そのつもりだったが…。
ヒルデリアの渾身の一蹴りで戦況は決したのである。
彼女の蹴りは真空派をうみ、凄まじい衝撃音と共に後続に続く千の騎兵人馬もろともバラバラの肉
片と変え血が舞い上がり霧のように漂う光景を遠方から別の帝国の部隊が目撃していた。
ただただ美しく恐ろしい光景だった。
一方的に凄惨な結果として本件はそのまま帝国首脳陣に報告されその対応に迫られる事となる。
そして本件を不名誉かつこれ以上は有用性が無いと判断した帝国はこの事実を隠蔽し歴史の闇に葬
る事にした。
数日後、再び帝国の使いが現れ、屋敷の主人を大貴族として帝国で優遇したいと言う申し出がなさ
れた。
先日の件で『休んでいる主人』の怒りをかわない為の危機回避処置と言ったところだろう。
それに対し一応承諾したが、主人が目覚めてから正式な返答をすると言う事で決着したのである。
御屋敷の中で狼狽する使用人とありますが、こちらはナザリックで言うところの一般メイドと同程度の存在です。いずれフォーカスしたいと考えていますが今のところまだまだ先になるかも知れません。