OrverLord ─始祖の吸血鬼─ 作:ブラック×ブラック
後書きに記しますが、独自設定ありです。
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第九階層 アインズ私室
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四者協議前、アインズは頭を抱えていた。
同族の気配がするので調査に行きたいとシャルティアが願い出た。
彼女の戦力ならば充分だと判断し許可を出したのは俺だ。
『100年の揺り戻し』の情報はあり、嘗て俺以外のプレイヤーがこの地に訪れている事は紛れもない事実である。
ナザリック地下大墳墓がこの地に転移してきて丁度100年経過していた事にもっと
注意を払うべきだった。
シャルティアが無事戻った。
挨拶に来る?
今は敵対の意思は無い?
なかなか大胆な伝言だ。
明らかにユグドラシルの上位プレイヤーか相当な規模のギルドだろう。
1500人を迎撃したナザリック地下大墳墓の話は知れ渡っている。
知った上でナザリックに挨拶に来る?
あの討滅隊に参加していなかったギルドである事は確定だろう。
シャルティアは、ありのままを報告してくれたが肝心の情報が抜け落ちている。
ギルド名とアバター名だ。
吸血鬼の始祖と言う種族クラスはおそらく最高位の吸血鬼と言う事だろうが俺は知らない。
実在するのであれば…いや、あの『ユグドラシル』だ。
実在すると考えた方が良さそうだ。
せめてユグドラシル内の能力さえ把握しておけば、もう少し余裕が持てたのだろうが…無いものねだりだ。
実際に相対したシャルティア以外の全員がナザリックを脅かす存在など最早いないと信じている中でこの状況だ。守護者達の成長を喜ぶべきだろうが悠長な事は言ってられない。
危機的状況にあるこの事実をいかに『支配者』らしく…。
あぁ…先代皇帝ジルクニフもこんな思いだったのだろうか…。
『剣を取る者は剣で滅ぶ』…か…。確かマタイの福音書だったか…。
帝国領内にそんなのいたのかよ~。
聞いてないぞ~。
しかも、300年前に帝国領内に大迷宮が存在していた事をフールーダからつい今しがた聞いたところだ。
厳重な機密事項で、何でも帝位についた者のみがその機密にふれる事が出来るとか…。
隠された帝国の歴史とか何とか言ってたっが、300年前に何があったんだ。
ん…おかしい…
300年前には既に大迷宮が存在していた?
であるなら100年前我々は大迷宮の情報を得ている筈だ。
帝国が属国化した事でろくに調べなかった?
100年前の俺の凡ミスならまだ納得出来るが、あのアルベドとデミウルゴスに任せた仕事だ。
彼等がそんな凡ミスましてや手を抜く等あり得ない。
一体どうなっている?
数種の多重結界系ワールドアイテムを使えばどうだろう?
アルベド達が気付けなかったとしても自然だ。
その場合、相当数のワールドアイテムを保有している事になるのか?
ジルクニフは知っていたのか?我々への対応に追われ余裕がなかったのか?
いや、あのジルクニフだ。使えるものは何でも使った筈だ。
強大な力ゆえ主導権を得られなかった。協力を仰いだが断られた。そんな所だろうか…。
強大な力を保有しながら属国化を選択した理由が他に思い当たらない。
100年前は動ける状態ではなかった、或いは100年間我々の動きを監視し満を持して現れたか、いずれかとも考えられる。
降って湧いて出たような話をこの時点で確証を得るのは難しいだろう。
「クソッ!解らない事だらけではないか!!」
勉強熱心で頑張って成長を重ねたシャルティアが手も足も出なかったんだよな…。
それで楽しめたって変態設定はこんなところにも影響するのか…。
俺の名前、ぺロロンチーノさんの事、どうやらユグドラシル時代のナザリックにも精通しているようだ。
始祖……種族名はノーライフキングになるのか?……カッコいいじゃないか……。
そう言えばぺロロンチーノさんが確かどこかのギルドマスとPvP仲間でたまにデュエルしてるとか聞いた事がある。
珍しくエロゲネタ以外で興奮していた事があった。
ユグドラシル時代はよそのギルドと友好的な関係はなかったと言うより嫌われていたからそう言う存在は忘れない筈だけど、身内でなければ100年もたてば忘れて当然…か…。
まずは、シャルティアが世話になった事に対する礼状だ。
強制的に平伏させられたとは言え、後半は緊張したが楽しめたそうだしな。
内容は眉唾だがシャルティアが楽しめたと言う事が重要なのだ。
シャルティアに書かせてみるか。問題があるようなら一緒に考えれば良いだけだ。
それとナザリックへの招待状を司書長に作成させてみよう。
問題なければ、次から似たような仕事をそちらに回すのも良いかもしれない。
ナザリック運営を任せているアルベドにはもう少し頑張って貰わないといけないが、今度何かの形で埋め合わせすれば良いだろう。
彼等の目的がナザリック地下大墳墓攻略ならこれは無意味だが、これで武力によるナザリック侵攻の根を断てれば良いのだけど…。
シャルティアはいつでも遊びに来て良いって話だよな。
えらく気に入られたものだ。
同族だからか?
付添人を同行させた方が良いだろうか…。
行かせたく無いが情報収集の為には行動しなくてはならない。
未知を既知とする冒険者達もいる事だ、ギルドに任せ人間達を使うのはどうだ?
流石に非礼だよな…。
対等な関係が望ましいが、ナザリックの者達に害をなした場合は徹底的に滅ぼす!
これから先現れる全ての敵対者は、例え相手が何人いようと、どれだけ強かろうとナザリックの者達全てを俺が守ってみせるさ!
*コンコン*
決意を新たにしたアインズの私室に予定していた時間より少し早く扉を叩く音が聞こえた。
ナザリックの者達の時間前行動にはいつも関心させられる。
「入れ」
そこへ入室してきたのは、アルベド達では無く、アウラ、マーレ、シャルティア、コキュートスの四人の守護者達だった。
それぞれが、いつもと違う雰囲気で同居する筈の無い異質なオーラを漂わせている。
何があったのかは分からないが感情のコントロールが上手く働いていないようにも見えるが…。
「どうした?間も無く協議が始まるのだが緊急を要する……。」
コキュートスはともかく、アウラ達の表情から一目瞭然だ。
…成程、そう言う事か。
「余り良くない報告があるのだな。聞かせてもらおうか。」
四人はあの後、第六階層で彼女達なりに協議を続けある推論に辿り着いたと口火を切ったかのように一気にその内容を語りだした。
まぁそうくるだろうとは思っていたが…。
『真祖の軍勢』か…。
シャルティアがいっぱいって感じだろ。流石にもてあますな。
「気付いたか。」
ここにいる守護者達の心から一切の不安を取り除く為、そして何より彼等の主人として威厳ある態度で短く答えた。
コキュートスは解らないが、アウラ、マーレ、シャルテイアの表情はここへ来た時とはまるで違っている。
「アウラ、アルベド達に玉座の間に至急来るようにメッセージを頼む。我々も向かうぞ。」
「はぁ~い。お任せください!アインズ様!」
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第十階層 玉座の間
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アインズは、数パターンに増えた支配者然とした座り方で玉座に腰をおろした。
ずらりと並ぶ守護者達の統率の取れた無駄の無い動きは、そこにひれ伏すと言う動作だけでも芸術の域に達している。
「各階層守護者、御身の前に平伏し奉る。ご命令を、至高なる御身。
我らの忠義の全てを御身に捧げます。」
初めはなれなかったこの忠誠の儀にもアインズは日々の変化を見出していた。
その僅かな変化から守護者達の調子を把握するまでに至っている。
正確には、ゲーム時代にパーティーメンバーのヒットポイントとマジックポイントを把握出来るように、スキルでも魔法でもない『100年の絆』と呼称しているそれは、意識を向けるだけで確認できるようになっている。
守護者達の忠義にアインズは今日も気を引き締め方針を語ろうとしたまさにその時である。
「セバスからメッセージが入った。『客人』だ。」
**間も無く第一階層へ足を踏み入れようとしておりますが如何なさいましょうか?**
**セバス、退避訓練を行うのだ。今回は『本番同様』と銘をうて。その後お前はプレアデス達
と共にその場で待機せよ**
不意をつかれたが、緊急時のマニュアル作成は必須であると心底感じた。
おかけでセバスに慌てる事無く指示を出す事が出来た。
アインズは交信を終えると矢継ぎ早にデミウルゴスに命じた。
「デミウルゴス!ナザリック防衛時のトラップを解除!
第三階層の転移門を第十階層玉座の間の扉前に設定するのだ!
「始祖」が来た時のリハーサルをあの人間で行う。」
デミウルゴスは迅速に行動し全ての作業を終え即座に定位置へ移動する。
他の守護者達は既に定位置についている。
あとは『客人』を待ち構えるだけだ。
「皆、お楽しみの時間だ。覗いてみようではないか。」
アインズはミラー・オブ・リモート・ビューイングを取り出すと、それを大型モニターとリンクし階層守護者達全員と観るような形で様子を窺う事にした。
守護者達は、悪魔的な笑みを浮かべこれからおこるであろう惨劇を今か今かと楽しみにしている。
たまにはこうした娯楽も必要だとアインズは感じ定期的に行う事を真剣に考え始めた。
映し出された『客人』は執事服の人物。
モニターには、胸の前に左手を当て腰をおり一礼すると迷いなくナザリック地下大墳墓の入り口へ歩み始める女の姿が映し出されている。
それだけでも信じがたかったが、更に衝撃的な光景が映し出される。
第一から第三階層の配下達はただひれ伏し『客人』に道をあけている前代未聞の光景が映し出されている。どう見ても普通の光景じゃない。
一体何がおこっているのだ…。
「この女、『始祖様』…の…執事です!」
女の正体は、シャルティアの口から答えが出た。
運よく人間が迷い込み「始祖」対策のリハーサルが出来ると考えていたが甘かった。
ナザリック地下大墳墓の場所迄知っているのか…。
しかし執事一人で来たとしてアンデッドが道をあけるのは変だ。
まぁ来てしまったものは仕方がない。
相手は始祖の執事と言う事だし事を荒立てるのは得策では無いだろう。
*カツ・カツ・スタッ*
ハイヒールの歩行音が響き玉座の間入り口前で止まった。
「魔導王陛下、このたびは、突然お伺いさせていただきまして誠に申し訳ございません。
わたくし、ヒルデリア・クロスと申します。入室の御許可を頂けますでしょうか?」
さて、どうしたものか…。
あの細腕では、堅牢かつ重厚な扉だ。
開けるどころか、一ミリも動かす事は出来ないだろう。
アルベドが意地悪な笑みを浮かべる。
「アインズさまぁ~、入室を許可されても宜しいのではぁ。宜しいですわよね?」
「そ、そうだな。入室を許可しよう。」
玉座の間が静まり返る。
しかしその静寂は長くは続かなかった。
*ゴゴゴ*と言う大きな音と共に開く筈が無いと思われていた重厚な扉がいとも容易く開かれたではないか。
アルベドが苦い顔をし、ここにいる全員が驚いたと同時に女が人間ではない事が確定した。
女は扉を開き再び一礼すると、甲高いハイヒールの歩行音を玉座の間に響かせながら歩み始めた。
*カツ・カツ・カツ・カツ*
優雅に堂々と歩み寄ってくる女の姿をアルベドが睨みつける。
玉座の前に立ち止まり一礼する女の身のこなしから只者で無い事は容易に判断できる。一切の隙がないのだ。
頭の中で幾通りもの手段で殺害を試みたがどれも失敗に終わり反撃に転じられるイメージしか湧かない。
女の容姿は、アルベドとは異なる美しさを持つ美女だが恐ろしく強いのだろう。
優雅に堂々と佇み、部下達の些細な動きでさえも見逃す事は無いだろう。実際、誰も動けないのだ。
「魔導王陛下、本日窺わせて頂きましたのは…。その前に、今一度名乗らせて頂きます。
わたくしヒルデリア・クロスと申します。以後お見知りおきを。」
「遠方よりよくぞ参られた、ヒルデリア・クロス殿。本日は如何なる御用向きかな?」
ここで、デミウルゴスの忠誠心が表に出てしまう。
「アインズ様の前で不敬であろう!」
>>>平伏したまえ<<<
「失礼。不敬でしたか?
当方としましては魔導王陛下への礼を尽くさせて頂いたつもりでしたが?」
デミウルゴスは驚愕し、ただ女を見る事しか出来ないようだ。
彼の『支配の呪言』は強い強制力を持ちこれまで通じない相手は存在しなかったが目の前の女は涼しい顔をしているので余計に衝撃は大きい。
笑っている?あの女、笑っているのか?
「無礼にも程があるりますよ女!
偉大なる御方であらせられる私の愛しき御方アインズ様に対しその顔はなんです!」
アルベドがいつか爆発する事は想像できたが、このタイミングで…いや、それを狙っての『笑み』なのか?
不味い…非常に不味い!あの女の目は非常に不味いぞ!
アインズは瞬時に悟りデミウルゴスとアルベドの非礼を即断で詫びる事にした。
これで、面会の主導権は奪われたな…。始祖の名も聞けずか…。
「騒々しい!静かにせよ!!」
アインズの言葉でデミウルゴスは冷静に目前の現実と向き合い。
アルベドもこれ以上の追及を控え主の側で静かに控える事にしたが、これ以上の非礼を許す気はないと女に殺気を放っている。
「申し訳ないヒルデリア殿、部下達の非礼を許して欲しい。
許してくれると言うのであれば可能な限りそちらの要望に応えたいと考えている。」
「いえ、謝罪の必要は御座いません魔導王陛下。
当方にも至らぬ点があったのでしょう。
それ故、御二方に不快な思いを抱かせてしまった。
さて、では早速本題に移らせて頂きます。
本日窺わせて頂いたのは、そちらが所有するワールドアイテムの幾つかを譲り受けたく主の名代
として参った次第で御座います。
現在主は多忙を極め誠に残念では御座いますがこちらに来る事叶わず。」
ヒルデリアの主『始祖』が直に来訪し、面会の場が設けられていたら少しは守護者達の怒りも和らいだと思うが、仕えている主の名も名乗らずたった一人でこのナザリック地下大墳墓玉座の間で堂々と我々と向き合っているのだ。
「ほぅ。その対価にヒルデリア殿、そちらの主殿は何を支払うのかな?
支払えるものがないのであれば、謝罪を受け取ってもらい話は終わりとしようではないか。」
「ギルド、アインズ・ウール・ゴウン残り40名の強制召喚。」
((!!!!!!!!!!!!!不可能だ!!!!!!!!!!!!!!!!))
ここで少し魔導王が驚く姿を見たかったヒルデリアだが、どうもこの骸骨には動揺等と言う『感情』を持ち合わせていないようだ。
それどころか挑発したところで意味が無いだろうと考えたヒルデリアは、主より聞かされていたアインズ・ウール・ゴウン魔導王の真名を用いる事で揺さぶりをかける事にした。
これは下手をすれば殺されるかも知れないが、主の為、期待以上の働きをしたいと言う欲求がそうさせてしまうのだろう。
「魔導王陛下、いえモモンガ様のかつての御仲間達を我が主が呼び覚まして下さいます。
正確には、我が主が所持するアイテムをギルドマスターである魔導王陛下が使用する事でギルド
メンバーの皆様方へ呼び掛けると言うものだと伺っております。」
ギルドマスター権限によるメンバー招集と言う事か。
しかし、あれはログイン中のメンバーに限り相手が認証する事で初めて可能となるゲームシステムの一環に過ぎない。
アイテム仕様による強制召喚とは一体どういう事だ…。
また俺の知らないユグドラシル由来の何かなのか。
始祖と言い、今回のアイテムと言い本当にユグドラシルは広かったのだな…。
「ほぅ。興味深い話ではある。詳しく説明願えないだろうか?」
「魔導王陛下はご存知の筈で『アイテムを所持していないだけ』と我が主は申しておりました。
わたくしより魔導王陛下(プレイヤー)の方が御詳しいかと存じ上げます。
それにわたくしはこれ以上の詳細を主より窺っておりませんので。」
「勿論知っている。だが、私の知るそれは『アイテム』によるものでは無いのだよ。だから困った
事に私もアイテムの詳細を知らないのだ。」
((ブラフは断ち切らせて貰う。
そのような『アイテム』があると仮定し、なぜ俺が『かつての仲間達との日々』を欲していると…?
いや、これは部下達の願いを叶える主としての役回りを演じさせるつもりなのか?))
アルベドは何としてもこれを阻止したかった。
しかし、他の守護者達は口には出さないが、自身の創造主降臨と言う叶わない魅力的な夢そんな『餌』を目前にぶら下げられ煌煌と瞳を輝かせている。
アインズは更なる可能性を幾通りも思案する。
複数のワールドアイテムの対価として仲間達との再会は十分釣り合うが…。
思案するアインズにその時間を与える事無くヒルデリアは口火を切った。
「どうやら、破談のようですわね。
魔導王陛下、本日はお時間を割いて頂き誠にありがとう御座いました。
皆様方も御無礼失礼致しました。」
そう言うと女は来た時と同様にハイヒールの甲高い歩行音を響かせ、優雅に堂々と立ち去ったのである。
階層守護者達は甘い希望からその術を失った事による落差からうな垂れてしまっている。
ただ一人アルベドを除いて…。
*1ぺロロンチーノさんの交友関係は独自設定です。
私の経験ですが、ゲーム内同スタイルのプレイヤーであれば結構接点があったからです。
*2ゲーム時代のパーティーメンバーの詳細が確認できる。
*3ゲーム『ユグドラシル』においてギルドマスター権限によるメンバー招集システム。
お楽しみ頂けたなら嬉しく思います。