その絵は芸術でなくとも   作:三流プロセカ人

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やっと本編に行ける目処が立ちました…。




前日譚:高一の憂鬱
第9話:過去の過ち


 

 

 

開いていた日記をパタリと閉じる。

いつ見てもこれが昔の自分とは思えないくらいの馬鹿さ加減だなと、そう思った。

 

そして自分の机の向かい側にある仏壇へ行き、そこにある2つの遺影に手を合わせる。

 

「行ってくる。

父さん…母さん…」

 

机の脇に置いてある神山高校の鞄を肩に下げ、神山高校のブレザーを着て玄関を出た。

 

 

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歩いて数分が経過し、現在時刻は午前8時12分になった。

朝のホームルームは8時20分からだが……まぁ俺は夜間定時制なので関係ない。

 

「それにしても……朝から暑いな。

いつもは夜に登校してるから余計に暑く感じるのかもな………」

 

強い日差しが照りつける中、周りに目を向けてみる。

そこもかしこも人だらけで彼らの顔は一人一人違う。

 

焦っているような人もいれば、余裕そうな顔をした人もいる。

悲しそうな顔をした人もいれば、嬉しそうな顔をしている人もいる。

周りを歩く人達は様々な表情を浮かべていた。

 

(それに比べて俺の顔は………)

 

楽しさや嬉しさを浮かべなくなった自分の顔に触れる。

目元にはうっすらと隈ができ、目には光がなく底のない闇を思わせる黒瞳だけがあった。

それに少し目つきもキツくなった感じもする。

 

それが鏡を見て気づいた自分の顔の変化だ。

あとは物事に関して以前よりも無関心になった事くらいだろうか。

 

「まぁでも、別にどうでもいいか……。

こうなったのは自業自得だしな」

 

そう、全て自分が招いた種だ。

後悔など今更だろう。

 

「それにしても…今日も変わらないな」

 

相変わらずの白黒風景だ。

そこら辺を走る車も、学校の校舎も、青い筈の空も、街を歩く通行人も、全て白黒だ。

あの事件以来全ての物が白黒でしか見えなくなった。

もちろん例外もあるが、今のところそれはこの世で二つしかない。

 

(だが色がわかんなくても今のところ困る事ないしな)

 

この視界の事はある程度割り切っている。

絵名に言った時は驚かれ、何でもっと早く言わなかったんだと説教をされたが、俺自身が困っていないと言うとため息を吐かれたのを覚えている。

 

(絵名は俺の事を心配してそう言ってるんだとは思うけどな)

 

根は優しいからな、あいつ。

そんな事を考えている内にどうやら学校に着いたらしい。

気づけば俺は正門の前に立っていた。

 

「さて、さっさと遅れている分の勉強を終わらせないとな。

夜にまた絵名に聞くわけにもいかないし」

 

俺は学校の下駄箱に足を進め自分の靴をしまおうとした時、ある物が入っている事に気づいた。

 

「何だこれは?手紙か…?」

 

中を確認してみると、どうやら本当に手紙らしい。

 

『夜黒へ

今日の昼休みに屋上に来てくれ!天馬より』

 

手紙じゃなくてメールで送れよ。

咄嗟にそんなツッコミが出たが、すぐにその思考を打ち消し手紙についてどうするかを考える。

 

(…………どうするか)

 

本音を言えば、めんどくさいので行きたくない。

でも親友の頼みを拒否するのも………

 

「仕方がない、行くか」

 

取り敢えず俺は学校に着いた事を報告する為に職員室に向かった。

 

 

 

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時は進み、昼休み。

現在時刻は12時50分。

 

午前中は遅れている分の勉強をして終わってしまった。

何故遅れているかと聞かれれば、それは長くなるので別の機会に話そうと思う。

まぁともかく今俺は朝の手紙の通り屋上に来ている。

 

(天馬の奴何処にいるんだ?昼休みになってからもう10分経ったんだが。)

 

俺がそろそろ帰ろうかなと考えた時、屋上の扉が勢いよく開いた。

 

「すまん、夜黒!委員会の手伝いをしていたら遅れてしまった!」

 

天馬はゼェハァと肩で息をしている。

恐らくここまで走ってきたのだろう。

 

「そうか…俺ももう帰るかとか考えていた頃だ。

と言うわけで……じゃあな」

 

「いや待てー‼︎帰ろうとするんじゃない‼︎」

 

天馬は俺の腕を掴んで引き止めに掛かってきた。

えぇ………めんどくせぇ。

正直もう話聞くのも面倒なんだが。

 

「おい!そんなにめんどくさそうな顔をするな!それに、この話はお前にとっても意味のある話だ」

 

………顔に出てたか。

話を聞く気なんぞなかったが、俺に意味のある話と言われたら少し気になる。

 

「へぇーそうか、俺に意味のある話…か…」

 

「そうだ。

興味が湧いてきただろう!」

 

そうだな、俺に意味のある話と言われたらそりゃあ興味くらい湧く。

まぁそうだな聞いてやるのも優しさか。

 

「どうでもいい。

俺は帰る」

 

「な……何だと………⁉︎」

 

話を聞くとでも思ったのか?

俺に意味のある話なんぞ、聞いても面倒だし。

優しさ?興味?確かに優しさも興味も感じたが、結局は感じた程度だ。

聞いてやる義理はない。

 

それに、今の俺は少々イラついてるんだ。

昼飯も食えずに10分間待たされ話も長くなりそうな雰囲気だし、どうせ昼飯食えずに昼休み終わるんだろう。

 

(俺に意味のある話なんぞより、昼飯の方が大事だ。

午後だって遅れた分の勉強が残っている。

そのためのエネルギー補給は必要だからな)

 

俺は天馬の手を振り解き屋上から出ようとした。

だが、天馬の手は振り解けなかった。

 

(こいつ…いつもより強く掴んでやがる……。

珍しくしつこいな……)

 

「頼む………お前しか頼める奴がいないんだ…。」

 

天馬はいつにも増して真剣な表情をしていた。

 

(こいつがこんなに必死になるとは………よほど重要な事なのか?)

 

いつもなら、ここまでしつこくはなかった筈だ。

なら、それ相応の理由があると見て間違いなさそうだ。

 

仕方がない………。

 

「ハァ……それで?頼み事って何だよ…」

 

「おぉー!やっと聞いてくれる気になってくれたか!」

 

天馬は先程の真剣な表情から一転して、嬉しそうな表情になった。

こいつ、切り替え早いな…。

しかし、聞いてやると言った手前聞くしかないのだろう。

 

「それがな…お前が言っていた咲希達の事についてなんだが、俺も偶然一歌に会って話を聞いてな…夜黒の言っていた通りだった……。」

 

(やっぱりか…。

まぁ分かりきっていたことではあるな)

 

この指摘というのは以前天馬の妹こと天馬咲希の見舞いに行った時、俺は天馬妹からある事を聞かれた。

それは、自分は入院してるけど幼馴染達はどうしているか?という事だった。

 

もちろん俺は前世のプロセカをしていた時の記憶がある。

だが、俺が知っていては不自然なのでここでは知らないと答えた。

天馬妹もそんな答えが返って来ると思っていたのか、そうだよね!と笑って返してきた。

 

まぁ場を和ませようとしたのだろう。

彼女なりの気遣いだ。

 

その後、事実を知っている俺は天馬の奴にそれっぽい理由をでっちあげ、幼馴染達の仲が悪いのではないか?という考えをさりげなく伝えた。

その時の天馬の奴は笑い飛ばしていたが、幼馴染本人から聞いてしまった以上信じる他ないだろう。

 

「それで?頼み事っていうのはそれに関係してるのか?」

 

「あぁ、夜黒…お前にも、咲希達を仲直りさせる手助けをして欲しいんだ」

 

天馬は本気だ。

いつものバカそうな雰囲気はなく、真面目な顔をしている。

だが………

 

「断る。

俺は今、自分の事ですら手に余っている。

だから俺がいたところで何にも変わらないだろうな」

 

何も変わらない……。

俺がいたところで、何も変わらないのだ……。

 

俺は、主人公じゃない……。

そこら辺にいるモブと同じで何かを成そうとしても何も成せず、ただ平穏というぬるま湯に浸かりきった俺では物語に登場する主人公、ましてや登場キャラクターさえも助けられられないだろう。

 

事実、俺は自分の幼馴染さえも救えなかった………。

 

「そう、か………なら大丈夫だ!今回は俺一人でやる事にしよう!時間をとって悪かったな…」

 

そう言うと天馬は屋上から出る為に、扉へと向かった。

天馬は俺が断る事を予想していたのか、すぐに切り替えて自分一人でやるようだ。

 

しかし、本来なら咲希達の問題は彼女達だけで解決される筈だ。

そこに天馬という不安要素を入れてしまって大丈夫なのだろうか?

こいつの場合咲希の事を心配するあまり空回りが続いてダメな結果を生みそうなんだが……………。

 

(ここで俺がすべき最善手は、天馬を引き止める事だろうな。

ハァ………………こいつを引き止めるの大変なんだがなぁ)

 

俺は屋上から出て行こうとしている天馬の腕を掴み引き止めた。

天馬は不思議そうな顔をしている。

 

「まぁ待てよ、話はまだ終わってないぞ。

お前が妹の事で心配になるのはわかるが、今はそっとしておくべきじゃないのか?お前が行ったところでなんの解決にもならないぞ」

 

「それは…そうかもしれないが、知ってしまった以上放っておくわけにはいかないだろ…?」

 

天馬の奴も本当は分かってるんだろう。

自分が関与したところでなんの解決にもならないと。

それでもこいつは放って置けない。

 

「お前が妹の事を心配してるのはよく知っている。

だが、今回は少し様子見しないか?

今俺たちがしなきゃいけないのは、事態を解決する事じゃ無い。

咲希達がどう解決するのかを見届けるべきだと思うぞ」

 

天馬は数秒の間、考えるように顔を俯かせた。

 

「見届ける………そうか、確かに夜黒の言う通りかもな……。

俺は、咲希達に仲直りして欲しい余りに自分でその可能性を潰すところだった」

 

天馬は嘲笑を浮かべた。

それは恐らく、自分に向けてだろう。

 

「さて、結局は見届ける事にしたが俺に意味のある話ではなかったんだが?どう言うことか説明してもらっていいか?」

 

俺は怒気を含んだ声でそう言った。

天馬は急に顔色を変えると何かを思い出したのか。

 

「そ、それについてなんだがついさっき先生の方から宮益坂女子学園に学校どうしの交流会があるらしくてな!

行けるのは2名までなんだが、一人は俺でもう一人は俺が決めて良いという事になってな、そこで夜黒を誘おうと思っていたんだ!」

 

こいつ…嘘がバレる前に後付け設定と勢いで無かった事にしようとしてやがる………。

だがそうか、交流会か………。

 

「分かった、俺も一緒に行こう。

確かに意味はないが、女子学園の中に入れるとなると少し気になるしな」

 

「おぉー!そうか一緒に来てくれるか!なら、俺はその事を先生に報告しに行こう!ではな、夜黒!ハーハッハッハ!」

 

相変わらず去る時もうるさい奴だ。

さて、昼休みもあと2分で終了か。

今から走れば、なんとか教室までは間に合うだろう。

と、言っても俺は遅れた一年分の勉強をしている為、教室には俺一人しかいないのだが………。

 

ハァ…やっぱり天馬の話長かったな。

おかげで昼飯を食い損ねた。

俺は白と黒の空に向かって深いため息を吐き、屋上から出て、教室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 





あと一話書いたら本編行きます。
ちなみに、主人公が高一という設定です。
本編に行く時は、高ニくらいになってます。

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