我輩はウマ娘になったポケモンである。 作:てょわわわぁ~ん
我輩はシャドーレイスである。車椅子を押され続けてはや十数分。すれ違うウマ娘たちの視線に妙な色合いを感じながら、目的地にたどり着いたらしい。
代表として研究者たちのトップの老婆と、トレセン学園の理事長とがそこそこ耳が痛くなるような強く、ハッキリとした声で話し出すものだから、部外者の研究者たちと我輩は若干の困惑と共に置いてけぼりにされてしまった。
まあ、入ってくる話を聞いていると旧知の仲だったようでそれも仕方のないことだったのだろう。
ややあって、我輩らの間を取り持って、事実上の改めての説明をしてくれた秘書の女性の常日頃の苦労が伺える。
そして、我輩の前に現れた一人のウマ娘。
現生徒会会長を務める、シンボリルドルフ。
見えないからとテレビをあまり見たりしない我輩の耳にも入る、GI7勝を成した『皇帝』と呼ばれるウマ娘。
……あの、ギャップ萌え狙い、という奴なのだろうか。
ウマソウルの荒々しさ、刺々しさに反してあまりに余裕綽々、寛仁大度な姿を見せられて頭が混乱している。作ったようなそぶりもない。……えぇ……。ああいった手合いは、調子に乗りまくった時の片割れのような性格だと思っていたのだが。
それはそれとして。ここに来るまでに感じた視線の色を、やっと理解した。シンボリルドルフは、我輩の事を憐れむような目で見ていたのだ。
声に出して怒るつもりも、ましてや拗ねるつもりもない。
元より見えないもので、他人には理解できないもの。それを想像し憐れむのは大いに結構。ではあるが、少し不快だった。
で、あれば。それを是正するのも歳上の役目なれば。
我輩、この世界の年齢で言えば、もう成人済みなのである。
と、そこそこに話が終わり別のウマ娘が近づいてくるのが、薬品臭さで気が付いた。
そのウマ娘は、アグネスタキオンと名乗った。
そして開口一番、足を触らせてほしい。できたらレントゲン写真等も有れば見せてもらいたいと興奮したように捲し立てられたものだから、少し驚いてしまった。
聞けば、ウマ娘の脚の頑強さの向上の為、そしてウマソウルという数値化できないロマンを少しでも知りたいが為に生徒会や理事長らに掛け合い今回の行動に移したというのだから恐れ入る。
そもそも我輩は例外ではないかと尋ねれば「その例外だからこそだとも。言うなれば君はホイールを付けないまま走り回っているスポーツカーそのもの。タイヤというゴムがあってもホイールがなければそもそも走れない! 無理に走ろうとしてもその前段階にすら辿り着けない筈だった。だがそこで特級の例外である君だ!! 10進数の中に紛れ込んだ16進数のように! 物理的にとてもではないが理解できない法則の下動いているとしか思えない!! そして君は事実としてそれを自認して行使している!! 実に興味深い!! 私はそこにウマソウルという可能性を見出したのさ!!!」と興奮に興奮を重ねたような、徹夜を何日も重ねた時のようなかつての主のような声色で我輩を見据えていたのを感じ取った。
ああ、だから。きっと、彼女も似たタチなのだろう。走れるが、いつ砕けるか分からない脆い脚。我輩の目にはしっかりと、左脚に重なるような傷のようなものが見えた。
それを超克する為に、と。
全く、そんな熱を見せられた我輩の身にもなってほしいものだ。
滾ってしまう。無理を言ってでも走らせてもらいたくなる。否、走らせろ。
⭐︎
「シンボリルドルフさん。私は、普通にレースに出れない事を悔しがったりはしていませんよ」
そう目の前のウマ娘が言って。私が僅かにでも抱いていた憐憫を自覚した時、私が謝罪の言葉を口にするよりも先に、諭すように彼女は続けた。
「すべてのウマ娘に幸福を、でしたか。よく勘違いされる話です。あなたの掲げるそれは、平等にレースに挑み、例え結果が振るわずとも満足してターフを去るということ。勝者には祝福を。敗者には次のレースに向けた声援を。ターフを去るものには惜しみない喝采を。
だけど、その平等は『機会を与える』ことはあっても、『押し付ける』ことはダメですよ」
「私は……まあ、色々と例外というか、そういう分類だと思うので」となんとも言えない、微妙な苦笑いでもって言葉を濁した。
万人には理解され難い願いだとはわかっている。揚げ足をとるような記事を書かれたことも少なくない。
ああ、だけども。会ったこともなかった、話したこともない誰かの中にも、理解者が居てくれる。不覚にも涙が込み上げそうになってしまった。
「ありがとう……ございます」
「いいえ、何かを伝えたり、教えてあげたりするのは、歳上の仕事でしょう。それに、『皇帝』と言われてもまだ子供。子供は、大人に甘えていいんです……あ、私目が見えないので頼りないかもですけど。ブラインドジョーク!」
そんな軽快な、ツッコミを入れ難いブラックジョークを曖昧な笑顔で流しながらも、私の中での彼女の立ち位置が確立された。
「……皆々様、本当に申し訳ないのですが」
だから、というか。タキオンの話を聞き。
私と話していた時の様子とは打って変わった、いっそ暴力的ともとれるプレッシャーを感じた時、私は本当にそこにいたウマ娘が私に先ほどの薫陶を与えたシャドーレイス本人であるのか、確信が持てなかった。
「今から、走っても構いませんか?」