我輩はウマ娘になったポケモンである。 作:てょわわわぁ~ん
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⑥
我輩はシャドーレイス。元レイスポスの、現ウマ娘である。
レースを終え、我輩としても楽しく、しかし悔しい戦いだった。
胸の内に巣食っていた濁りが、吐き出され清々しい思いだ。
そう自己評価しつつ再び走り出そうとすれば、研究者たち、少し息を切らしたシンボリルドルフ、エアグルーヴたちから全力で止められてまった。
我輩はまだまだ余力があるが? なんなら後同じ距離で2〜3回は行けるのだが?
『走り足りない』と告げても誰一人首を縦に振ってくれぬ始末である。
アグネスタキオンにも「我輩の研究データはいくらでも欲しいだろう?」と話を振っても「いやあ、なんというか…………体力お化けが過ぎないかい?」と断られる始末。
しかもわざとらしい程に間があった。
何なら詰まってもいた。言葉を選んだのだろう。腹立たしい。
我輩、言葉を選ばれるよりも真っ直ぐに言われた方が受け止めやすいのだ。聞くとは言わぬが。
……強いて言えば、ではあるのだが。
我輩自身、楽しくて楽しくて仕方がなかったのだ。
王を背に乗せ、共に主と認めた人間の指示の元。
共に恐ろしくも楽しき時を過ごした、バトルの時の熱狂。
強敵を打破した悦び、相手に倒されるかもしれない緊張感。それらを全てまとめ練り上げた心を焼く『言い表す事さえ難しく、そして億劫な感情の坩堝』の狂奔。
あの時と同質のそれを味わえるというのに、何故駄目なのだと。
露骨に落ち込む様子を見せれば「本当に、父から聞いていた通りだな」と、何処か強めな女性の声。
ウマソウルが見えない。つまりは人間か。
しかし、父。年配の男性で我輩の知っている人物といえば、我輩の父か、研究者の何人かか、時折我輩の走りの面倒を見てくれている、クラブのトレーナーか。
そうなると、クラブのトレーナーが自然だろうか。
というより我輩の父がそうだった場合……いや、疑うのは良くない。色々と拗れる。
研究者たちの誰かという選択肢も、過去に「殆どが独身なんだよね」と我輩に強く怪我の危険を訴えてくるウマ娘の研究者が言っていた。なので候補から除外。
東条ハナと名乗ったトレーナーは我輩の前までくると、頭を下げた。
「本来なら私も見ているべきだったが、明日と聞いていて予定を組んでしまっていてね。合流出来なかった」と謝られてしまったが、謝るのは寧ろ我輩の方である。
事前に予定されていた流れを壊して強行したのは我輩であり、つまりは悪いのも我輩であるのだ。
そして、更に話を聞けばトレセン学園で我輩が走る機会を設けてくれたそもそもの発端は彼女と、その父であるというのだ。
尚の事謝られては我輩が困る!
そして、我輩のスタミナに着目した上で、東条トレーナーは我輩に明日の予定を告げた。
……ほほう。ほほう。そうか、そうか。ならば、仕方ない。
仕方ないなあ。明日になれば事実上ほぼ好き放題走っていいとなれば、やぶさかでもない。
⭐︎
『で、おハナさんから見てどうなんだい』
「本気で彼女の特殊性に目を瞑るなら、リギルに、それかスピカに推薦したいところね。ルドルフからも概ね同じような話が出たわ」
『おいおい、そんなにか?』
「私も記録越しでしか見れなかったから、何とも言えないけど……本質的には違うでしょうけど、絶好調の時のマックイーンやゴールドシップ。そう言えば伝わるかしら」
『それで2000m走って、本人は走り足りないと言っていると。…………冗談だよな?』
「冗談であってほしいわよ。でも、あんな顔見せられちゃったら、流石に嘘だと思えないわ」
『はー……まっ、スピカもスピカなりにやらせてもらいますよっと』
電話が切れた。「まったく。少しちゃらんぽらん過ぎないかしら」と若干の心配を言葉に乗せてぼやく。
東条ハナ自身、資料と父からの話を聞かされるまでは冗談だと思っていた。酒の飲み過ぎか、トレセン学園のトレーナーたちに向けたタチの悪いドッキリ企画か。
蓋を開けてみればただただ真実であった。盲目で、脚はダメな方向に異常で、なのに走れるウマ娘。
「……世界って、広いわね」
トレセン学園の内外に名声轟くチーム『リギル』のトレーナーといえど、流石に驚きが強すぎた。
その声に、少しばかりの呆れが混ざっているのも、仕方のない事だろう。