我輩はウマ娘になったポケモンである。 作:てょわわわぁ~ん
⑦
我輩はシャドーレイスである。
本当に、多大な迷惑を掛けてしまった。
あの後、現在空いている美浦寮の一室を間借りすることになったものの、多くの問題が発生したのだ。
ご飯と、お風呂である。
ただ、待ってもらいたい。特にご飯に関しては弁明させてもらいたい。
比較対象として我が愛する妹、ライスシャワーが驚くほどの健啖家なだけである。
我輩の食べる量が相対的に少なく見えるだけだ。
我輩は山盛りの(手を取っておおよその大きさを伝えてくれた)ハンバーグセットを食べるというシンボリルドルフらから顔を背けたがきっとそうに違いない。恐らく。……恐らく。
というか、ライスにはトレーニングに集中できるようにと我輩が訪れることを伝えていなかったのが仇となってしまった。
見つかった時は大層驚かれたし「お姉ちゃん、やっぱり……もっとご飯食べよ?」とお裾分けされてしまったが。我輩そんなに食えぬ、愛妹よ。
そしてお風呂に関しても、である。
我輩は耳や触覚がかなり良いので、周囲の音や自身の足音、なんなら呼吸の音すらも拾いながら空気の流れを感じ取り、疑似的なエコーロケーションが可能なのである。
故に手伝い等は必要無いと断ったのだが。
妙に懐かれたらしいシンボリルドルフから「今日の併走……いや、レースの疲れによってあなたが怪我を負う事になった時、私は後悔噬臍の思いに縛られ続けるだろう。私を立てると思って、どうか」とまで言われてしまっては、拒否はできなかった。
「今日私の理想の賛同……いや、共感者に出会えた今日に感謝、だな」
等と一瞬聞こえたそれにツッコミを入れたら妙に目を輝かせたのは一体どういうことだったのだろうか。
話がそれた。
この際に頭を洗われたり、何やら矢鱈と多くの視線を体に感じのだが、邪な念は感じなかったので気にしなかった。確かに背丈こそ高いが、貧相な体つきである。見て何か得するようなものもあるまいに。
それにしても、幽霊も風呂に入るのだな。それを言い出すと我輩も元は似たようなものだが。あ、足滑らせて尻餅ついてそのまま湯船にすっ飛んでいった……何も無いところで起きた水飛沫に一部の娘たちが驚いているが、見なかったものとする。
そんなこんなで、一人で過ごせるのかと、万が一のことを考えて一時的に同室者を、等と散々心配され続けながらも一人部屋を勝ち取り、部屋まで案内され、我輩は何事もなく今日という一日を終えたのだ。
⭐︎
「ははは、困ったねえ! 何もわからない!!」
「楽しそうだね、タキオン」
「楽しい? 勿論だとも! 今の私はいつにも増して楽しんでいるのさ! 今ならシャカール君がたまにやっているプログラミングにも挑戦できそうだ!」
「それは…………」
きっとブラックコーヒーに挑むくらい無茶じゃないかと思いつつも、それだけ得難い巡り合わせだったのだろうと言葉をのんだ。
件のウマ娘、シャドーレイスの脚周りのレントゲン写真や各種データを研究チームの方々から借用できたタキオンの機嫌はすこぶる良い。
夜の研究室の薄明かりを裂くような、爛々と狂気をはらんだ瞳で、ノートに、ホワイトボードに、走り書きの文体で、しかし中身は緻密な計算式を書き上げては消してを繰り返している。
「……しかし、凄いなウマ娘。いや、ウマソウルか? 足首周りの関節や骨がないのに立てるばかりか、走ったりできるなんてな」
「────それに関しては、本当に何なのだろうね、としか、現状では言えないよ」
ピタリと手を止めて。感情を押し殺したような絞り出した声で。
きっと、タキオンにとっては彼女の存在は劇薬だ。ガラスの脚からの脱却を目指す彼女にとって、前提から狂ってるのに形を成して、壊れる様子もないシャドーレイスの脚は、好奇心をくすぐられるとか、研究対象としての興味以上に──羨望か、嫉妬の対象なのだろう。
「……ま、どうなっても僕はお前についていくさ。なんたって、僕はお前のモルモットだからね」
「実に素晴らしい心構えだ、モルモット君。あ、明日のお弁当はだし巻き卵がいいなあ」
「はは、こいつめ」