僕と彼女たちと願い事   作:mam

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僕と彼女たちと左腕

 

 

――翌日

 

「うーっす、明久」

「……おはよう、吉井」

「おはよう。雄二、霧島さん」

「なんだ、明久。左腕を改造したのか」

「うん、雄二を殴る時に使おうと思ってね」

 

 今の僕の左腕はギプスでガッチリ固定されている。

 何故、こんな腕になったのかというと……

 

 

 

 …………昨日、僕は女の子から告白された。

 

 今までゲームや漫画でしか見たことがなかったのに

 まさか現実に起こるとは……しかも二人から同時に。

 

 でも自分の気持ちの整理がまったくつかない。

 少しは期待したこともあったけど……美波とは誤解とはいえ、キスもしたし。

 

 いざ現実として突きつけられると僕の脳だとすぐ容量がいっぱいになって

 同じ思考でぐるぐる堂々巡りになる。

 

 美波も姫路さんも十分すぎるくらい可愛いから……僕には勿体無いくらいに。

 強いてあげれば、美波は少しだけ胸が残念だけど

 スラリと長い手足はその不足部分を補って余るほど魅力的だし。

 

 美波とは男友達のように気兼ねなく何でも話せて、一緒に居てすごく楽しい。

 

 姫路さんはいつも優しくて努力家で一緒に居ると頑張ろうって気持ちになる。

 

 あの時に、どちらかに決めろと言われなくて本当に良かった。

 たとえ言われたとしても、あの場で決めるなんて僕には無理だったけど……

 

 二人は急がなくて良いと言ってくれた。

 でも、いつまでも待ってくれるって事じゃない。

 二人の優しさに甘える訳にはいかないよね。

 

 

 そんな事を考えながら歩いてきて

 

「あれ……エレベーター点検中か」

 家の下まで来た時、エレベーターの前に 『点検中』 の看板が立っていた。

 掲示板には告知がなかったから、たぶん緊急でなにかあったんだろう。

 

 ……仕方ない、階段を使うか。

 

 階段を上ってる途中でも告白されたことを考えていた。

 

 家のある階に差し掛かろうという時、ポケットから鍵を出すと

 手から鍵が滑って落ちたので拾おうとしたら、足を踏み外して踊り場まで転落した。

 

 今までは二階から飛び降りてもなんともなかったのに

 転がるように落ちたのがまずかったのか、左腕に鈍い痛みが……

 家に帰ってしばらくしても痛みが止む気配がなかった。

 

 近くのお医者さんに行ったら「骨折ですね」と言われた。

 

 さすがに入院するほどではないけれど

 しばらくは安静にするようにということでギプスで固定された。

 

 

 

 ――そして

 

 雄二と霧島さんには階段から落ちたことだけ伝えた。

 美波と姫路さんの二人に告白されたことはすごく嬉しいけど

 他の人に話すのは恥ずかしいし……

 ましてや、雄二に言おうものなら何をされるか判らない。

 

 

 Fクラスの教室の扉をガラっと開けて

 

「うーっす」

「おはよう」

 雄二と二人で教室に入る。

 

「お、おはよう。アキ」

 少しもじもじしながら美波が朝の挨拶をしてくれた。

 

「おはようございます。明久君」

 姫路さんも、はにかみながらぺこりと頭を下げて挨拶してくれた。

 

「おはよう。美波。姫路さん」

 二人に返事をして、左腕を上げたのがマズかった。

 

 

「ああああっ、アキっ!どっ、どうしたのよっ、その腕っ!?」

「きゃぁぁぁっ、明久君っ!何があったんですかっ!?」

 

 ギプスで固定された左腕を見るなり、二人とも血相を変えて僕の傍へ。

 

「ああ、これはね……ちょっと考え事をしていたら階段から落ちちゃってさ」

 僕は苦笑いしながら頬を右手で掻いていると

 

「ダメよ、大人しくしてないとっ!動かなくてすむように気絶させてあげようか?」

 ポキポキと指を鳴らしている美波。

 

「すぐ骨がくっ付くようにこれを飲みますかっ!?」

 鞄から瞬間接着剤を取り出して僕に突きつけてくる姫路さん。

 

 二人とも気が動転してるだけで、本気じゃないよね?

 

 

「心配掛けてごめんね。でも大丈夫だから気にしないでいいよ」

 僕は平気な事をアピールするため、左腕を振っていると……

 

 いきなり雄二が僕の左腕を掴み

 

「ほう……そんじゃ、試してみるか」

 と、言うや否や、僕の左腕を思いっきり下に向けて振り下ろした。

 

 

――ドガッ

 

 僕の左腕は卓袱台に当たり、卓袱台が木片と化した。

 

「なっ、何するんだよっ!?」

「いや、大丈夫だって言うから、どの程度大丈夫なのか試してみようかと思ってな」

 カラカラと屈託のない笑顔を見せる雄二。

 

 くっ……このギプスで頭をカチ割ってやろうかと

 プルプル震わせている左腕を持ち上げようとしたら

 姫路さんに左腕を抱き締められて

 

「坂本君っ!なんて事をするんですかっ!?」

 いつも温厚な姫路さんが珍しく険しい表情をして怒っている。

 

 僕の左腕は姫路さんに抱きかかえられて……

 姫路さんの女の子として素晴らしい一部分に当たっている。

 

 …………しかし、残念な事にギプス越しなので

 その素晴らしいであろう感触を堪能する事は出来なかった。

 折角のチャンスだったのにっ!?

 

 すると今度はシャンプーの仄かな良い香りがして……

 美波が僕の右腕を抱きかかえてくれていた。

 

「そうよ、坂本っ!アキが痛くてこんなに泣いているじゃないっ!」

 

 違うんだ、美波……

 

 僕が泣いているのは、君が抱きかかえている方の腕を

 姫路さんに抱きかかえてもらいたかったからなんだ。

 そしたら、きっと鼻血を出すくらい嬉しかったと思うんだ。

 

 ……残念ながら君だと無理みたいだ。

 

 

 そして教室中から、チキチキとカッターの刃を出す音が……

 

 良く考えたら、このクラスの数少ない女子を両腕に装着しているわけだから

 みんなが嫉妬に狂うのも無理はないだろう。

 どうやって、この状況から逃げ出そうか考えていると……

 

 

――ガラッ

 

「ホームルームを始めるぞ。お前ら、席に着け」

 

 タイミングよく鉄人が来てくれて助かった。

 

 

 

☆   ☆   ☆

 

 

 

――お昼休み

 

 

 いつものように僕ら6人で卓袱台を囲んでお弁当を広げている。

 

「アキ。一人でお弁当食べられる?」

「明久君。一人で食べるのが大変でしたら、私がお手伝いしましょうか?」

 

 僕の右に美波、左に姫路さんが座って二人とも心配そうに僕を見ている。

 

「大丈夫だよ」

 そう言いながら、お弁当の準備をしていると

 

「今日はお弁当を買ってきたのね」

「うん。この手だと料理出来ないからね」

「明久の姉上は料理をしないのかの?」

「全然しないよ。だから僕が作ってるくらいだし」

 

 姉さんに料理をしてもらうくらいなら、また塩と砂糖と水だけの生活に戻ってもいい。

 

「それに姉さんは今、母さんたちのところに行ってるからね」

「なんじゃ、そうなのか」

「うん。折角、僕一人でゆっくり出来ると思っていたのに……」

 

 姉さんは日本に戻ってくる準備をしに行ったらしいから

 10日間くらいだけど、最後の一人暮らしだったのになぁ。

 

「明久も大変だな」

「そう思うなら、雄二が僕の家に御飯を作りに来てよ」

「ああ、別に構わんぞ……って、なんで島田と姫路がそんな怖い顔をしているんだ?」

 

 あの雄二が二人の迫力にビビッている。

 

「ダメよ、アキっ!坂本と二人っきりになるなんてっ!」

「そうですっ!明久君には早過ぎますっ!」

 

 すごい剣幕で僕の隣から雄二を威嚇している美波と姫路さん。

 

「でも早過ぎるって……一年の時から雄二は僕の家に泊まりがけで遊びに来てたよね」

「そうだな……」

 と、言うとあごに手を当てて何か考えている雄二。

 

 そして、しばらくしてから……いきなりニヤニヤしだして

 

「すまん、明久。やっぱり俺は今日都合が悪かったんだ」

「そうなの?」

 まぁ雄二の都合なんてどうでも良いけど、無理に来てもらうのも悪いしね。

 

「ああ、ちょっと今日は」

「……私の両親に挨拶に行くから」

「しょっ、翔子っ!何処から沸いて出たんだっ!?」

 いつの間にか雄二の後ろに霧島さんが座っていた。

 

「……吉井と浮気は許さない」

「なっ、なんで浮気なんだっ!?明久は男だといつも言ってるだろ」

「そうよ、坂本。アキは渡さないからねっ」

「そうです。いくら坂本君が明久君と一番仲が良いからって……」

 

 美波が雄二の事を睨んでいて、姫路さんは僕と雄二を交互に見て頬を染めた。

 姫路さんは僕と雄二で何を想像したんだろう?

 

「とっ、とにかく、俺はダメなんだ。悪いな、明久」

 顔の横で右手を握ったり開いたりしている霧島さんにビビッている雄二。

 

「良く判らないけど、ダメなのは判ったよ」

「すまんな」

 雄二が来てくれないとなると……

 夕御飯を作るのも面倒だし、買うのもお金があまりないから食べなくても良いかなぁ。

 

「ねぇ?アキが良ければなんだけど……」

 隣の美波がいきなり頬を染めてもじもじしだしたよ?

 

「どうしたの?」

「ウチがアキの夕御飯を作りに行ってあげようか?」

「ええっ、いいの?」

「うんっ」

 笑顔で頷いてくれる美波。

 美波が僕のために夕御飯を作ってくれるなんて……骨折してよかった。

 

「ああっ。美波ちゃん、抜け駆けはずるいですっ」

 姫路さんはそう言うと僕の左手を両手で握ると

 

「明久君。私にも夕御飯を作らせてくれませんか?」

 

 姫路さんが少し頬を染めて上目遣いに僕の顔を覗き込んでくる。

 こんな可愛い顔でお願いされたら……僕が断れる訳無いじゃないか。

 

「うん。僕の方からお願いしたいくらいだよ」

 僕が笑顔でそう答えていると……

 

「…………南無」

「成仏するのじゃ」

 ムッツリーニと秀吉が両手を合わせて僕を拝んでいた。

 

 

 …………ああっ!?僕のバカっ!

 

 姫路さんに料理を作ってくれなんて……

 

 

 やっぱり、ここは僕の命を最優先するべき……

 

「仕方ないわね。ウチだけって言うのは不公平だもの」

「ふふっ。頑張って明久君に喜んでもらいましょうね」

 

 僕を挟んで美波と姫路さんが嬉しそうに笑っているのを見て……

 

 

 僕が二人を止める事なんて出来る訳が無かった。

 

 

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