僕と彼女たちと願い事   作:mam

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今回は美波とのお話です。




僕とウチと肝試し

 僕が美波に腕の関節を極められながら教室を出ようとした時

 雄二が小声で話しかけてきた。

 

 

 

 

 

『例の着物女の手前でしばらく物陰に隠れてから戻ってこい』

 

 

 雄二が言うには戻るだけならルール違反にならないから

 失格にはならないというんだけど、いったい何の意味があるんだろうか?

 まぁ、そんなことより今は……

 

 

「美波、大丈夫?」

 すっかり怯えて目を瞑りながら僕の腕にしがみついている美波。

 正直……美波がここまで僕を頼ってくれて抱きついているのは素直に嬉しい。

 

 でも、ここまで怯えているのは可哀想だ。

 このままじゃ、美波は暗闇の中を行って帰ってくるだけで

 全然楽しめないで怖い思いをしただけになっちゃうよね。

 何か気を紛らわせるものは……。

 

 しかし見つけたのは、ろくろっ首や一反木綿といった僕らを驚かすものだけだった。

 

 そういったものに遭遇する度に、ぎゅっと目を瞑って僕の腕の血流を止めている美波。

 何か話しかけても必死に首を振っているだけで話が出来る状態じゃないみたいだ。

 

 しばらくすると……

 

「うぅ……もぅやだぁ……。来るんじゃなかったぁ……。ねぇ、アキ。帰ろ……?」

 涙目になりながら上目遣いで訴えてくる美波がそこに居た。

 初めて見る美波の可愛らしさに心臓がドキドキする――。

 

 

 シュカッ

 

「ふぇ?」

 突然後ろから飛んできた文房具が僕の耳を(かす)めて壁に突き刺さる。

 これはシャープペンだろうか……なんて、ゆっくり分析している場合じゃない。

 

 ヤバい。

 混じりっ気なしの本物の殺気が近付いてくるのが分かる。

 早くここから離れたほうが良さそうだ。

 

「美波。もうちょっとだけ頑張ろう?そうしたら一緒に教室に戻るから」

「――あ、アキがそう言うなら、もうちょっとだけ……頑張る」

 すっかり弱気になってしおらしい美波が、ぎゅっと両手で抱えるように僕の腕に摑まっている。

 今まで見たことのない、こんな可愛らしい美波とゆっくりしたかったけれど……

 僕は心臓の高鳴りに合わせるように少し早足で歩いた。

 

 

 

 しばらく歩くと、後ろからの殺気は感じられなくなった。

 誰の殺気かは分からなかったけれど、僕らを見失ったんだろうか。

 

「しかし、美波がこんなにお化けが苦手だとは知らなかったな」

 少しでも美波の気が紛れればと思い、話しかけてみる。

 

「だ、だって、しょうがないじゃない。日本のお化けなんて……全然知らないんだもの」

 まだビクビク震えながら僕の腕にしがみついている美波。

 そっか。美波は日本のお化けのことを全く知らないから意表を突かれて驚いているのか。

 

「でも美波もそろそろ日本に慣れてきたと思っていたんだけどなぁ」

「……こんなものに慣れなきゃいけないなら、ウチはドイツに戻って暮らすから」

 美波がプイッとそっぽを向いてしまう。そんなに苦手なのか……。

 

「でも、そんなのは寂しいよ美波。ドイツで暮らすなんて」

「全っっ然、寂しくなんてないわ。向こうにだって友達はたくさん居るし、それに――」

 美波はそこまで言うと僕の腕を放して、僕の右手を包むように両手を重ね

 そして頬を仄かに染め、大きな瞳で僕をジッと見つめる。

 

「もし……ウチがドイツに戻るって言ったらアキも来てくれる?」

「ええっ!?」

「もしもの話よ。今、アキは寂しいって言ってくれたじゃない。それってウチと離れたくないってことじゃないの?」

 

 何かを確かめるような……少し怯えているようにも見える表情の美波。

 

「美波と離れるのは寂しいよ」

 せっかく知り合って気兼ねなく話せる友達になって……

 僕のことを好きだって言ってくれた魅力的な女の子。

 どういう事情があるにしろ、やっぱり居なくなるのは寂しい。

 

「じゃあ、じゃあ……」

 と、美波が何かを言おうとしたところで。

 

 

 シュカカカッ

 

 

 ボールペンのようなものが投げられてきた。そして……

 

『お姉様をたぶらかす気配……人間……全て消去します……殺します……!』

 

 ペタペタと背後から凄い勢いで呪詛の言葉を吐き続ける気配が近付いてきた。

 

 

「き――ムぐぅっ」

 咄嗟に悲鳴をあげそうになった美波の口を手で押さえる。

 このまま失格になるわけにはいかない。

 

「美波。手荒な真似してゴメン。でも今は逃げることを優先しよう」

「――ぷはぁっ!そっ、そうね、アキ。とにかく逃げないと……!」

 投げつけられる文房具に注意を払いつつ、美波と走り出す。

 この追いかけてくる気配、物を投げてくる時点で絶対に召喚獣じゃない。

 それに三年がこんな反則まがいの事をしてくるとも思えないし……。

 

 

 

「――っ!!」

 

 迫りくる恐怖が誰のものなのか分からないまま

 美波は僕の腕に必死にしがみつきながら走っているけど

 そろそろ限界も近いだろう……僕の腕も。

 

「美波。僕が合図したら小さい声で召喚獣を喚んでくれる?」

「え?う、うん……いいけど……」

 

 簡単な迷路の分岐点に差し掛かると……

 僕は美波と一緒にわざと行き止まりの方へ行き、その奥で小さく声をかける。

 

(美波。今だよ)

(うぅ……さ、試獣召喚(サモン)っ)

 

 美波の喚び声に応じて召喚獣が現れる。

 顔がある以外は見事に真っ平らで何もない壁だ。

 

(アキ。覚悟しなさい。何故か今、アンタを殴らなきゃいけない気がするの)

 時々美波は超能力が使えるんじゃないかと思うくらい直感の鋭い時があるな。

 

(きっ、気のせいだよ。それより召喚獣を真っ直ぐ立たせて……そうそう。そんな感じ。あとはじっとしててね)

(う、うん。それはいいけど……)

 

 美波の召喚獣で出来た通路の行き止まりの密室で僕と美波が息を潜めていると……

 

 

 

『お姉様、おねえさま、オネエサマ……にが、逃がしません、せんカラ……カラカラカラ……』

『清水さん。君が邪悪すぎて僕の周りの空間まで歪んで見えるよ』

 

 

 狂気に支配された螺旋双髪の悪魔は周囲に気を配ることもせず

 一緒に居る人は悪魔の邪悪なオーラで周りの気配を察知することも出来ずに

 僕らが隠れている通路の前をノンストップで通過していった。

 

 念のため何秒か数えて何も気配がしないことを確認してから周囲の様子を(うかが)う。

 

 

 ……もう、誰も居ないみたいだ。

 

 

「美波。もう大丈夫みたいだよ」

「ほ、本当……?」

 身体を縮こまらせて怯えていた美波がうっすらと目を開け……

 大きな瞳を潤ませながら僕を見上げてくる。

 

 どうやら、僕と美波が居るところはゴミ捨て場という設定らしく

 古い物がごちゃごちゃと転がっていて少し汚く見える。

 でも、ぬりかべによって出来た密室に今は僕と美波の二人っきりだから

 きっと美波も安心してくれるはず。

 

「ね?何もないし、誰も居ないでしょ?」

「そ、そうね。良かった……」

 美波がホッと胸を撫で下ろす。

 ひょっとして今日初めて美波は安心したんじゃないだろうか。

 とりあえず雄二に言われた『身を隠す』のは今やったし、そろそろ引き返してもいいかな?

 何よりこれ以上美波に怖い思いをさせるのは可哀想だし。

 

「じゃあ、戻ろう?美波」

 実体のない召喚獣を通り抜けて戻ろうと足を踏み出した時――。

 

 

「待って、アキ」

 くん、と美波に袖を引っ張られて止められる。

 どうしたんだろう?

 まだ怖いから、しばらくここに居たいとでも言うんだろうか。

 

「どうしたの美波?」

「……続き」

「続き?なんの?」

「さっきの話の続き……ここでハッキリさせておきたいの」

 

 はて……?

 さっきの話の続きっていうと……。

 

 

 僕が何を話していたか思い出していると――。

 

「入学した頃、ずっと……これから卒業するまで一人なのかなって思っていた」

 美波が僕の袖を掴んだまま話し始めた。

 

「でも、そんなウチに……一人ぼっちだったウチにアキは友達になろうって言ってくれた」

 まだ怖いのか、それとも当時のことを思い出して辛いのか

 美波は俯きながら少し震えている。

 

「ウチは一人じゃない。一緒に笑ってくれようとしている人が居るんだって分かったことが嬉しかった」

 そして美波は顔を上げて……

 

「その時からアキと一緒に居たい……ずっとそばに居たいって想うようになったの」

 僕を見るとパァッと花が咲いたように微笑む。

 

「そんな優しいアキが大好き。ずっと一緒に居たい」

 その笑顔が眩しくて……僕は見蕩れてしまう。

 

「でも……アキが幸せになってくれるのがウチの一番の願いなの。だから、もしアキが瑞希を選ぶのなら、ウチ……」

 ほんの一瞬、美波の笑顔が曇り……

 

 

「本当はウチが……アキを一番幸せにしてあげられたら良いんだけどね」

 うっすらと涙を浮かべながら笑顔で僕の手を握り

 

 

「だから、もしウチがドイツに戻るって言ったら一緒に……来てくれる?」

 

 

 きっと美波はドイツに戻るつもりはないんだろうけど……

 

 美波か、姫路さんか……選べってことなんだろうな。

 

 

 

――七夕の日。

 

 二人に同時に告白されてから僕なりに考え続けてきた。

 僕は二人とどう付き合っていけば良いのか。

 僕は二人のことをどう想っているのか。

 

 

 

 

 今の僕の正直な気持ちは――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん美波」

 

 

 僕が一言、そう言うと……

 

 美波は僕の顔をジッと見つめてきた。

 

 

 

――――大きな瞳に今にも(こぼ)れんばかりの涙を浮かべて。

 

 

 美波の悲しい顔を見るのが辛い。

 でも今の僕の正直な気持ちは美波に……

 姫路さんに伝えておかないといけない。

 二人は待っていてくれるって言ってくれたんだから。

 

 

 

 

「僕には二人のうち、どちらかを選ばないって選択が出来ないんだ」

「――えっ!?」

 僕が再び話し出すと美波は涙を浮かべたまま驚いている。

 

 

「両方選ぶなんてもっとダメだって分かってはいるんだけど……やっぱりまだ決められない」

 

 

 

――今の僕の正直な気持ち。

 

 

 

 結局一ヶ月近くずっと考えてはいたんだけど……。

 

 二人とも魅力的過ぎて僕はまだ決めかねている。

 こんな優柔不断なことをしていると二人にあきれられちゃう可能性もあるけど……。

 

 これだけ素敵な彼女たちの事を一時の気の迷いや

 いい加減な気持ちで決めることは出来ない。

 

 

 

 

 すると美波はくるっと後ろを向いて

 

「ちょっと辛いけど……うんっ!ウチは待つって言ったんだから、ずっと待ってる」

 顔は見えないけれど、声はすごく安心したような感じがした。

 

「たとえ卒業して別々の学校へ行くことになっても……瑞希は小学生の時からずっと待ってるんだろうし、それに比べれば……」

 少しずつ声が小さくなって……最後の方はあまり聞き取れなかった。

 

 

 しかし後姿からでもハッキリと分かるくらい嬉しそうな雰囲気の美波が一言――

 

 

 

 

 

 

 

「――――だから絶対幸せになってね。アキ」

 

 

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