「ただいまー」
気を失った美波を落とさないように注意しながらFクラスの扉を開ける。
何故、美波が気絶しているのかというと――。
――――
―――
――
『――――だから絶対幸せになってね。アキ』
美波がそう言ってくれた直後――
『『『『ばぁーっ!!』』』』
僕らの周りに顔や手足が生えた古い道具たちが大勢ひしめいていた。
どうやらゴミ捨て場だと思っていたここは
いきなりのことで美波は悲鳴をあげる暇もなく気を失ってしまい
僕は慌てて美波を抱きかかえるのが精一杯だった。
とりあえず美波がどこかに身体をぶつけて怪我をしたりしてなければ良いけど……
と思いながら、そっと美波を畳の上に寝かした。
――すると雄二が少し困惑した表情で
「おう、戻ったか明久……作戦は成功したんだが……」
雄二にしては珍しく歯切れの悪い台詞。
「え?作戦って?美波は気絶しちゃったし、僕らは何もしないで戻ってきただけなんだけど」
「いや、お主らはそれで良かったのじゃが……お主らはそれで良かったのかの?」
秀吉がちらちらと僕の後ろの方を見ながら良く分からないことを言っている。
秀吉の少し困ったような可愛い顔から視線を移し、後ろの方へ振り返ると……。
「………………」
姫路さんが真剣な表情でこっちを見ていた。
「どうしたの姫路さん?」
「あ、いえ。なんでもないです」
姫路さんは慌てたように手を振ると「私も……勇気を出さないと……」なんて呟いていた。
美波が怖がりながらも頑張って肝試しに参加している姿を見て
姫路さんも肝試しに出る決心がついたんだろうか。
「おい、明久」
ふいに雄二に呼ばれて近付くと
「妙な気を出して問題起こすんじゃねぇぞ」
「なんだよ、妙な気って?」
「いや、お前にそんな度胸があるわけないか。問題を起こしそうなのは姫路と島田の方か」
雄二は何を言っているのだろう?
僕にとっては、その美波と姫路さんのことが大問題なのに……。
「まぁ、いい。それよりお前の行動の結果が出るぞ。見てみろ」
雄二に、はぐらかされた気がするけどモニターへ視線を移す。
いつの間にかチェックポイントに到着していた久保君と清水さんの姿が映っていた。
《それにしても意外ね。葵のところを男子が突破できるなんて》
《葵……?ああ、あの着物姿の先輩ですか》
《うん。葵の魅力に
《いえ。あの先輩が魅力的な人だってことは分かります。僕も前に好きだった人は女性でしたから》
《えっ?》
《今の僕には――もっと魅力的な人が居るからです》
《オネェサマ オネェサマ……ミハル ニ フリムイテ……クレナイノハ……アイツノ セイ……ノロッテヤル……コロシテヤル……ウバッテヤルゥ……》
二種類のブレンドされた寒気が背筋を走る。
三年と召喚獣で戦っている二人を見ていて……。
久保君の現在とか清水さんの未来とか僕の生命とか――――すごく気になる。
☆ ☆ ☆
そして久保君と清水さんがCクラスのチェックポイントを突破して
Aクラスのチェックポイントに着くと……。
そこに待ち受けていたのはお馴染みの坊主頭とソフトモヒカンの常夏コンビだった。
そして画面の隅に映っているのは木村先生だから
物理での勝負になるのか、とモニターを見ていたら……。
「「「なにぃっ!?」」」
常夏コンビの物理の点数を見て思わずハモってしまうほどに驚いた。
まさか常夏コンビがあんなに勉強が出来るなんて……
人は見かけによらないというのが良く分かった。
雄二の見立てではこちら側の勝利の確率は、かなり分が悪いみたいだった。
「それなら他の人たちが少しでも消耗させてくれたら」
今回は補給テストがないから点数が減っても回復は出来ない。
だから雄二と霧島さんが着くまでに少しでも常夏コンビの点数を減らしてくれれば……。
「…………それはかなり厳しい。残っているのは明久を入れても四組だけ」
ムッツリーニが名簿を見ながら呟いた。
「えっ?僕?……あ、そっか。そういえば僕らはまだ失格になっていなかったっけ」
美波は気絶しちゃったけど、幸いにも悲鳴をあげていなかったから
失格にはなっていなかったんだった。すっかり忘れていたよ。
「でも美波はあんな状態だし、僕らは戦力にならないよ」
まさか美波を叩き起こして、また肝試しに参加させようなんていうなら絶対反対だ。
それに僕の物理の点数なんてたかがしれてるし。すると秀吉が
「明久よ。ムッツリーニが言っておるのは、お主と島田のペアではないぞい」
「え?でもムッツリーニは僕だって」
「うむ。この場にいて失格になっておらず、お主とペアが組める人物がもう一人おるじゃろう」
秀吉にそう言われて周りを見回してみる。
美波は気絶してるし、ムッツリーニと秀吉は失格になってるし
雄二と霧島さんはペアだし、あとは……
「わ、私のことでしょうか……?」
姫路さんがおずおずと手を上げていた。
そうかっ!姫路さんか!
控えの教室でモニターを見ているだけですごく怖がっていたから
無意識のうちに失格だと思ってたよ。
でも失格になっていなくても姫路さんはあんなに怖がっていたのに
無理に参加させるなんてあまりにも
自分から参加するって言っていた美波だってかなり怯えていて可哀想だったし。
「あ、あの……私、ああいうのは本当に苦手で……」
申し訳なさそうに少し俯きながら姫路さんが言う。
優しい姫路さんのことだから、きっと皆の力になれないことを気にしているのだろう。
「だから……明久君にすごく迷惑をかけちゃうと思うんですけど……」
「そんなこと気にしなくて大丈夫だよ姫路さん。罰ゲームもたいしたことないし」
「それでも良かったら……明久君と一緒に参加……したいです」
「無理に参加しなくても――って、えぇっ!?姫路さん、僕と一緒に行ってくれるの!?」
「あ、はい。明久君の迷惑にならないのでしたら……」
「ううん!全然迷惑なもんかっ!むしろ大歓迎だよ!」
すごく嬉しい。戦力が増えたとかではなく
姫路さんが僕と一緒に肝試しに参加してくれるってことが純粋に嬉しかった。
すると姫路さんが両手を合わせるように僕の左手を握り
「明久君が喜んでくれて私も嬉しいです」
心の底から嬉しいって分かる眩しい笑顔を見せてくれる姫路さん。
今日初めて姫路さんは笑顔を見せてくれた気がする。
僕がその笑顔に見蕩れていると……
「そうか。姫路もやっとその気になったか。ま、当然だよな。あの島田と明久の様子を見ておいて何もしないようなら、姫路に勝ち目はないもんな。ここは勇気を出して勝負しないと」
「さ、坂本君!?それ以上言ったら――」
「へいへい、黙りますよっと」
ニヤニヤと雄二が嫌な笑みを浮かべてこっちを見ている。
「――翔子ちゃんに言いつけますからね」
サァーッという音が聞こえるくらい雄二が顔を青くしている。
そして姫路さんは僕の手を握ると
「行きましょう明久君っ」
「あ、うん」
そして――
ついに僕と姫路さんの出番となった。