短い戦いが今、始まる。
令和4年、9月
日本全土を巻き込むような形の巨大な台風が去っていった。
被害も決して少なくはない。それどころか例年よりも多い。
そして
台風が過ぎ去ったと同時に
寒さが来るのだ
そう、「寒さ」だ。
まるで台風が今まであったジメジメな湿度と外気温を全て奪っていったかのように、急激に気温が下がった。
ちょっと前まで30度なんて普通だったのに
一気に13度はちょっと酷すぎるかもしれない
風邪をひいたかと勘違いしてしまいそうな急激な気温の低下。
秋というのは、いや、自然というものはやはり手加減無しで優しくは無いらしい。
だが人間は逆の行動をしたくなるもの、そしてこの少年もそうだった。
この少年は真冬に暖房を付けて暖かくなった部屋の中でアイスを食べるような人間だった。
暑い時期に熱く、辛い物を食べ、寒い時期に冷たい物を食べる。
天邪鬼、そして技術の発達した現代だからこそ出来る怠惰をこの少年は楽しんでいた、いや「愉しんでいた」
天気予報などで外気温度を確認せずまだ暖かいだろうと予想し、薄着を着てしまった結果13度に見舞われてしまい「寒い寒い」とつぶやきながら少年は帰宅してきた。
例の流行している病に感染してしまわないように、いつもより長く手洗いやうがいをする。
いつも冷たいとばかり感じていた水が、温かく感じる、それは外気が水温を上回る形で低下した結果なのはすぐに分かる。
ある程度暖を取れるパーカーに着替え、ほっとする。
だが部屋はまだ薄寒い、リモコンを使い、エアコンに「暖房」と命令する。
「ピッ」と電子音を鳴らし、エアコンの口の部分が展開する。
そしてドライヤーを静かにしたような駆動音と共に暖かい風が部屋の中に注ぎ込まれていく。
数分経つと、部屋の中は充分に暖かくなっていた。
だが決して暑くはなく、暖かい。
少年は「よし」と一言いい、その場から立ち上がる。
部屋は充分に暖かくなった、そうしたら次は………
少年は家にある冷蔵庫の前に立つ。
ボディカラーは白、それなりに大きく容量用も充分なぐらいである。
一番上の大きい扉を開ける。
片側だけが開くタイプ、扉の裏には牛乳パックや卵などが置けるスペースがあるが、目的はそこには無い。
真正面、そこにあるは
一個の「プリン」だった。
冷蔵庫の中で冷やして保管していたプリンである。
市販でプラスチック製のカップの中に入っている、蓋は開けられていない。
他の家族に食べられないようにキチンと名前も書き込んでいる。
買ったのは昨日、スーパーに買い物をしに行ったついでに買って来た物だ。
少年は目をキラキラと輝かし、冷蔵庫の中にある黄色いオタカラに手を伸ばす。
先程まで冷蔵庫に入れられていたのでキンキンに冷えている、少年はこのキンキンに冷えたプリンを待っていたのだ。
冷めない内にリビングに持って行く、スプーンは既に準備されていた。
蓋を開けようとする。
だが、気付く。
蓋に消費期限が書かれている事に。
《期限、9月〇〇日》
昨日だった。
少年は今、消費期限が昨日までのプリンを持っている事になる。
必然的にキラキラとした瞳から光が消えそうになる。
そして少年は考える。
「昨日消費期限が切れたプリンは食べる事が出来るのだろうか」
基本、消費期限は「この期限までは安全に食べれますよ」なので食あたりなど様々な危険が出てくる可能性がある。
だが、消費期限が切れて「1日」しか経っていない。
その「1日」は許容範囲なのかどうか、許されるか許されないか、その狭間で揺れているのだ。
軽く調べたら食べれるとは書いてあったが、やはりネット、信じるには少し不確定すぎる。
この合間にプリンは既に常温に戻っていた。
少年はどうしようも無いと思い、自身の荷物などがある部屋に移動した。
とっ散らかった机などが見える、本棚にはズラリと列んだ本…ではなくゲームカセット。
少年はバッグの中に手を入れ何かを探している。
そして探し求めていた物は、財布だった。
そう、財布である。
少年はあの消費期限が切れたプリンを見捨てて新しいプリンを買おうとしていたのである。
財布のチャックを開け、現在所持している金額を確かめる
が
20円しかなかった
ここに来てお小遣いが底をついてしまったのだ。
少年はガクリと肩を落し、リビングへと戻っていった…
またもや消費期限が切れたプリンと対面する事になった。
「捨てるか」「食べるか」
この2択が少年の頭の中で渦巻いている。
消費期限が切れている、だがまだ1日、捨ててしまっても良いのだろうか、だが食べれるのか?
無限ループだった。
だがそんなループにも終止符を打たれる。
「何、消費期限切れてるプリン食べようか迷ってずっとここで唸ってるワケ?」
母の登場だった。
「えーっと…なぁんだ昨日じゃない」
「たった1日でそんなすぐに食べれなくなる訳ないじゃないの」
少年は困惑する。
だがこの言葉はネットなどではなく、実の母親からの提言である。
従うという訳ではないが、親の言う事なら合っているのだろうと思ってしまう。
「さっさとしないと私が食べちゃうぞ?」
「あー待って待って食べるからぁ!」
言ってしまった。
母、言質取ったり。
少年は言ってしまった事を曲げるとダサいと思い、蓋に手をかける。
ペリ
封を解かれる。
銀色のスプーンを、プリンに、突き刺す。
そして一口分掬い、恐る恐る口に…
入れた
そして………
「うまっ」
完食