DIARY OF MERCENARIES: THUNDER RUNNERS 作:コルディアムに脳を焼かれた阿慈谷ヒフミ
「...とまぁ、俺はこんな感じでタイタンの撃沈に巻き込まれたが、なんとかヴァルキリーに逃げることが出来た」
「だが、これは全くの奇跡だった。タイタンの乗員数千人のうち、生き残りは俺だけだったんだ」
「逃げおおせた後、俺は専門外のことをやらされることになった」
「...戦闘機乗りが工作員じみたことをするなんて、想像つくか?」
シンガポール潜入
OPERATION: ANGRY SEA
July 11, 2020 1022
Place:South China Sea, USS Valkyrie, LHD-2
中国軍への工作を遂行せよ
ルイス・“エレステナー”・コール少尉
コールサイン:フロッティ・アクチュアル
現在の契約先:アメリカ海軍
コマンドブリッジでローランド・ギャリソン大佐と初めて顔を合わせてから15分。俺は大佐に作戦会議室に呼ばれた。何でも、話したいことがあるんだとか。
「タイタンから持ち帰った情報を解析した結果、アメリカインド・太平洋軍は壊滅したことが分かった。中国軍のミサイル攻撃によってな。まさに、ここはチャンの庭だ」
ノートパソコンを見ながら、大佐は解析で判明した情報を伝えてきた。完全にしてやられた、といいたげな、苦虫を噛み潰したような表情をしている。
「第7艦隊、いや、インド・太平洋軍の中でも生き残りは恐らく我々のみだろう。助けは来ない。自分達だけで生き残らなければならないのだ」
「なるほど。それが『チャンギ国際空港襲撃作戦』を立案した理由ですか」
「そうだ。これを見てくれ。タイタンから回収した情報の中にはタイタンの捕捉したレーダーデータも含まれていた。解析したところ、攻撃の主力たる航空部隊は、その多くがシンガポール方面から飛来していることが判明した。Q-5攻撃機の航続距離からして、チャンギ国際空港から飛来したことは確定的だ」
シンガポールは華僑、つまり中国系が多い。政治中枢まで中国系のスパイを紛れ込ませることは決して不可能ではない。中枢を侵食して、中国の味方とした、ってとこだろう。こんな映画みたいな話が現実にあると思うか?残念、こいつは現実だ。クソが。
「現状、こちらは雨雲の中へ突っ込み、また嵐も吹き荒れていることから、中国軍はまともに手が出せない。だがこの状態も長くは続かない」
「そこで海兵やトゥームストーンを投入して、現地の状況を観測させ、最高のタイミングで試作対地攻撃ミサイル、XRGM-268
「言葉は悪いがその通りだ」
「で、それが一体俺にどう関わるんです。海兵を投入する時についでに俺も一緒に投入するんすか。別に構いませんけど、わざわざ俺を1人だけ呼びつけるってことはなにか別のことをさせる気じゃあないんですか」
「さすがに鋭いな」
彼がそういったと同時に、部屋の扉が開いた。振り向くと、海兵が3人いた。
「紹介しよう。
ギャリソンが言うと、3人の海兵はそれぞれの名前を名乗った。分隊長でM27持ちがジェームズ・キャメロン1等軍曹、分隊の中で図体が一際デカい、M249持ちがリチャード・シンプソン3等軍曹、マークスマンでSAM-R射手──シンプソン3等軍曹と違って比較的小柄で、見たところ中国系に見えた──がマーティン・アーサー・リー伍長だった。
「
「トゥームストーンとはよく比べられる...実力は同等と自負してるがね」
「相変わらず上の人間に対しても全く敬語使いませんね、キャメロン1等軍曹」
「格上の人間相手に丁寧に接するのは昔から不得意なもんでね」
なるほど、なかなか癖のありそうな奴らだ。
「コール少尉。君には彼ら、グレーブマーカーを指揮してもらいたい。中国軍の対艦ミサイル部隊を撃破、観測を行うトゥームストーンの離脱を援護してくれ」
「はァ!?」
「ギャリソン、あんたの言うことはあまりにナンセンスだな。俺が信用出来ないと?」
この艦長なにぼさいてるんだ?俺は海兵でもなし、地上戦は多少できるってだけで専門外だ。なによりキャメロン1等軍曹という指揮官が既にいるのに、わざわざ俺を指揮官に据える意味が無い。実際、キャメロン1等軍曹は少し怒っているようだった。その気持ち、推して量れるってもんだ。
「これは決まったことだ、1等軍曹、それに少尉。少尉はタイタンからの脱出でその地上戦能力を見せつけた。我々には資源を無駄遣いする余裕は無いんだ」
「だとしても、本業のマリーン・レイダースには劣るでしょう。下手に入れたら足でまといになる自信がありますよ」
「俺も、こんな訳の分からん航空兵、それもPMCなんぞにうちの隊を任せたくない」
「そうですそうです」
キャメロン1等軍曹に訳の分からんとか言われたが、事実その通り。俺としても可能なら専門外の仕事はやりたくない。
「実戦で彼がその能力を見せつけてくれるだろう。時間はない、すぐに出撃しろ」
俺の思い虚しく、そう言ってギャリソンは会議室を出た。残されたのは俺とグレーブマーカー。全員が呆然とする中、俺の言葉が会議室の中で虚しく響いた。
「...冗談だろ」
「くそったれ、こんなのありかよ...」
ヴァルキリーの左舷、複合艇の横で出撃準備をしていた俺と、クレーンを操作する海兵1人以外に、人間はいない。時々、誰に言うでもない小言をぼやきながら、複合艇に破壊工作用のC4をたんまり積み込み、艇の武装のM134に、7.62mm NATO弾のベルトリンクをセット、自身の武装を確認して、出撃準備は整った。
「はぁ...いくか」
俺が指揮することに満足していないのは、キャメロン1等軍曹だけではなかった。他のふたりも、彼ほどあからさまでなくとも、思うところがあるのは明らかだった。トゥームストーンを離脱させるために、複合艇2隻でシンガポールに上陸するが、そんなだから1隻は俺だけ、もう1隻にグレーブマーカー分隊の全員を乗せた。果たして、この判断は正しかったのやら。
「全ては神のみぞ知る、か。いやはや...」
ほんとに神なんてものがあるのかどうかすら分からんが。こんなことを考えてしまうところを見るに、俺は本当の無宗教ではないのかもしれない。
「フロッティ・アクチュアルよりグレーブマーカー1へ、そっちの用意はどうか、どうぞ」
『こちらグレーブマーカー1。グレーブマーカーは準備完了。いつでも行ける』
「了解...さっさと終わらせるぞ、アウト」
複合艇の操縦装置に付く。となりでクレーンの操作を行う海兵に指示を出すと、頷いた彼はクレーンを動かし、俺の乗った複合艇を海面に出した。直後、クレーンが複合艇を手放し、海面に着水する。衝撃でよろけそうになるが、何とか耐えた。そのままエンジンを動かし、水面を走らせる。目指すはシンガポール。並走するグレーブマーカーの艇との距離は50m程度。
「くそったれ...ものすごい嵐だな。雨が目に入って前が見づらい」
『ああ。これがいわゆる台風ってやつか、少尉』
「さあな1等軍曹。だが、俺の私見を言うんなら、こいつは台風って感じじゃあない。一過性の熱帯低気圧か、そんなとこだろうな。こいつがさらに強くなると台風になる」
複合艇は速度が速い。さらに強風と雨が組み合わさると、体に叩きつける雨も、1周回って痛いほどになる。さっさと揚陸して落ち着きたいもんだが...。
ヴァルキリーから発進して約10分。シンガポールの陸地が見えてきたと同時に、キャメロン1等軍曹から通信が入った。
『陸地が見えたぞ』
「了解。こちらでも視認した。連中が見張ってるかもしれない、注意せよ、オーバー」
『言われなくても分かっている』
やっと見えた陸地は、雨が激しいせいで輪郭がぼんやりと見えて来たくらいだが。
さらに数分して、かなりはっきりとシンガポールの土地が見えてきた。高層ビル、長い連絡橋、それにチャンギ空港。もっとも、俺たちはチャンギ空港ではなく、そのさらに西に上陸して、トゥームストーンの離脱を援護しなければならない。
「陸地まで、もう500mあるかないかってとこだな」
『対艦ミサイルはどこでしょう?』
『なかったら、これほど楽なことは無いけどな』
『だといいんですが』
グレーブマーカーのリー伍長とシンプソン3等軍曹が言い合う。確かに、対艦ミサイルがいなけりゃ仕事はかなり楽になる。ぶっちゃけ、トゥームストーンなんて放って置いても勝手に離脱するだろうしな。
『そもそも、中国軍の対艦ミサイルがあるなんてギャリソンはなんで知ってたんだ?』
「シンガポール海峡は太平洋の生き残りが西へ逃げる時の最短航路だ。ギャリソンは中国軍がそれを踏まえて、対艦ミサイルを配備していると考えたんだろう」
『そりゃまた...俺たちはギャリソンの博打に命を掛けさせられたってことですかい?』
「なあシンプソン3等軍曹、俺が見たところではキャプテンは博打にかけるのが好きそうに見えたが」
『ああ少尉、全くその通りです』
「やっぱりな」
俺たちは博打好きの男の手札として送り込まれたってこった。...博打といえば、セイバーを思い出す。後からギャリソンに聞いたが、どうもタイタンの生き残りは俺だけだったらしい。セイバーも、恐らくは沈没に巻き込まれてしまったんだろうが。...なんだかんだいって、セイバーは悪い人間じゃなかった。願わくば、生き延びて欲しかったが。
「実現しない夢、か。いやはや...ん?」
『どうした、少尉』
「...エンジンを止めろ。見張りがいる...」
『見張り?一体どこだ?』
「ここから11時の方向。多分1人だな。距離は...200m前後ってところか」
この雨の中だ、普通なら見にくいだろうがそこは戦闘機乗り、ここからでも何とか見える。キャメロンがリーに対して、確認するように言う声が無線から漏れてくる。
『見えました。距離、約210m。1人で見張り台の上にいますね...』
「こっちは気にもしてない。チャンスだが、やれそうか?」
『横風が酷いので、ある程度の風の向き、風速が分かれば...』
風向きや風速、ねえ。スマートスコープならそういうのも分かるんだろうが、生憎とそんなものはない。なにか参考になるものはないか...。
堤防の方に目をやると、風に大いに吹かれている吹き流しが見えた。あれだ、高速道路だとかにある鯉のぼり的なあれ。まさに風速や風向きを指し示すのにうってつけ。
「伍長、堤防を見ろ。吹き流しがある」
『本当だ...これなら、風向きも大体の風速も分かります』
「よし、頼んだぞ」
了解しました、と伍長が返してきた。後は彼があいつをぶち抜いてくれるのを待つだけだ。その間、あの哀れな中国人をサイトから覗くこととするか。
「全く、とんだ職務怠慢だな。それが命取りになるなんて、まぁ可哀想な奴だ」
数秒後、サイトの視界から中国兵が血飛沫を上げながら消えた。
「グッドショット。波のある海上でよくやった」
『ありがとうございます、少尉』
『障害は排除された。どこに上がる?』
「例の見張り台の近くに砂浜がある。中国兵は居ない。あそこに上陸しよう」
『了解した。いくぞ、マーティン、リチャード』
キャメロンがエンジンを掛ける音が無線から漏れてくる。俺も掛けるとするか。
複合艇はどんどんスピードを上げていく。砂浜までの距離はあっという間に100m程度まで詰められる。敵はいない。
「ビーチングするぞ!」
『リチャード、マーティン、掴まれ!』
ビーチングの衝撃を抑えるため、砂浜の寸前でスピードを下げる。残った勢いのまま、複合艇が砂浜に乗り上げ、停止した。
「グレーブマーカー、全員大丈夫か?」
「問題ない。ここからどうする」
「あの歩哨がいた見張り台へ向かおう。なにか面白いものが見えるかもしれない」
「了解した」
右手に建つ見張り台を見る。見張り台は小高い丘にあり、見張り台自体も15m位の高さがあった。ここから見えないものも、あそこなら見えるに違いない。持ってきたC4を背負い、いざ目指すはあの見張り台。さーて、何が見えることやら。
「よし、俺が先に上がる。続いてキャメロン、シンプソン、そしてリー伍長だ。登ってる間、伍長は周辺警戒を頼む」
「了解です。任せてください」
「よし、行くぞ」
俺を先頭にして、見張り台の梯子に掴まる。より遠くまでの目があるリーが周辺警戒、その間に3人で上がり、最後にリーが登る。合理的だろう、きっと。
「お宝ご開帳、っと。内部には色々あるな」
「具体的には何が、少尉?」
「まぁ上がってこい。色々驚くだろうぜ」
梯子を登った先には、中国兵の死体と流れた血だまりが床にあったが、それ以上に面白そうなものが色々あった。
「これは...長距離無線機か。少なくとも100km位は飛ぶぞ」
「貸してください、キャメロン軍曹。...たしかに、こいつは軍用グレードの上等な代物ですね。こんな嵐の中じゃ、高所にあることを考慮してもせいぜい5、60kmってところでしょうが」
「シンプソン軍曹、無線関係に詳しいのか?」
「ええ、趣味で色々とやってるもので」
シンプソンの意外な趣味をこんなとこで知るとはな。後で色々聞いてみるのもいいかもな。俺は他人の趣味が気になる質なんだ。
「おい、あっちを見てみろ」
シンプソンが声を上げる。彼は外を見ていた。
「何があった、シンプソン軍曹」
「ほら、あそこを見てください。空港連絡橋のほう」
「なんだなんだ...。はぁ、こいつは驚いたな」
3等軍曹が見ていた先には、中国軍の対艦ミサイル発射機とその周辺機械、それに操作要員の中国兵がいた。
「上陸する時には、あんなのなかっただろ」
「俺たちがビーチングして、それからここに登ってくる間にどこかから引っ張り出してきたんでしょう」
「ここからあそこまで、150mはあるだろう。この嵐の中だ、俺たちが気づかないのも無理は無い」
全く嫌な話だ。ギャリソンの読みは当たってた。少なくとも、俺たちはあのミサイル発射機をぶっ壊さなければならない。周りに中国兵がうようよいる中な。できるかこんなもん。
「ん...?はぁ、これはまた凄いものが...」
「どうした、伍長」
「これを。全員見てください」
「これは、地図か?所々に中国語でなにか書かれてるが」
「中国軍の配置図です。数十キロ範囲の。しかも、不用意なことにご丁寧にコールサインや無線の周波数まできっちりと書いてありますよ」
「中国語が分かるのか?」
「ロスのコミュニティに何年浸かってたと思うんです。本場で会話して、アメリカ人とバレない位には出来ますよ」
「...さすがだな、リー伍長」
マークスマンやったり中国語が出来たり、どうも伍長は非常に多彩な人間らしい。
「マーティン、対艦ミサイルの配置を。ここ以外にあるか?」
「ここ以外だったら、まぁ2箇所くらいありますが、ヴァルキリーの通航になんら影響を及ぼすことはないような位置にしかありませんね」
「つまり、俺たちはあの3つさえ破壊すればいいわけだ」
「ですがどうするってんです、キャメロン。まさかジハードでもする気じゃあないでしょうね」
「海兵隊がそんなことするか。何かいい手立てを考えよう」
まぁ、
「C4を持ってきたのに、まともに使える予感がしないぜ、クソッタレめ」
「逆に考えましょう、少尉。C4を使わずに破壊するんです」
C4を使わずに確実に破壊する手立て、ねぇ。思いつかねぇ。かといって爆薬をセットするにもあの3基あるミサイル発射機に近づかなければいかん。
「はぁ。あいつらのことは見えるんだから、火力を遠隔投射してくれる奴がいれば、ここから目標指示できるってのに...」
──火力の遠隔投射。その考えが浮かんだ時、俺の頭に電流が走った。
「...そうか、そうだ!その手があった!」
「一体どうしました、少尉」
「伍長、周辺に中国軍の砲兵、いるか!?」
「砲兵...?えぇ、ここから数十キロ後方の地点に自走砲部隊がありますが...」
「OK、都合がいい...。1等軍曹、レーザー目標指示装置はあるか?」
「あるが...」
「何をする気なんです?」
「伍長、そいつらに通信を送れ。レーザー誘導砲弾の発射を要請しろ。目標はあの対艦ミサイル発射機だ」
「えぇ?!」
「なにを言うかと思ったら少尉、大丈夫か?」
「本気で言ってるんです?」
「間違いなく本気だ」
「大体、発射するに当たって大まかな座標で怪しまれるでしょうし、ターゲットを正直に言う訳にもいかないでしょう?」
「沿岸に海兵がやってきたから、そいつらを吹き飛ばすためとでも言えばいい。近くに味方がいるから、レーザー誘導砲弾が必要とでも言ってな。あとはまぁ、細かい誘導はレーザーでどうにでもなる」
「...成功するかは、分かりませんよ?」
「なーに、やってみることが大切だ」
そう言うと、諦めたように伍長は通信を始めた。
『こちらイェーガー3-5、ハンター0-1に通達、敵が上陸してきた。付近に味方部隊があるため、精密火力支援が必要だ。レーザー誘導砲弾を撃ってくれ!』
『ハンター0-1、了解。レーザー誘導砲弾の発射を用意する。こちらのレーザーパルスのコードを通達する。次いで、目標座標を通達せよ。レーザーパルス、コードは──』
中国語は分からないが、それでも伍長が流暢に話していることは分かる。喋り方から、相手側から悪くない反応を貰えていることが分かった。
「キャメロン1等軍曹、レーザー目標指示装置を用意してください!砲弾が発射されました!レーザーパルスコード、1325!繰り返す、1325!」
「1325だな!?よし、あの対艦ミサイル共にレーザーを向ける!やってやろう...」
「着弾するまで暇、か。なぁ伍長」
「はい!?」
伍長が興奮した顔つきで応える。少しは落ち着いたらどうだ。
「なんでSAM-Rなんかまだ使ってるんだ?たしか、M27とかM38に更新されただろ?」
「ああ、それですか。マーティンにも更新の話は来てたんですが、どうしても嫌だって言うから、見かねた大隊長が、「結果」を残したら使ってもいい、って言ったんです。そしたら、まぁえぐい精度で撃つこと撃つこと。100m刻みで1000mまで撃ったんですが、そのうち800mまでワンホールですよ。それで、特別に持ってていいってことに」
シンプソンが代わりに応える。てか800mまでワンホールで撃って、特別に持つことを許可されるって、そんな話があるか。マンガか。
「もうそれスナイパーになったほうがいいだろ」
「どうも、銃が変わると射撃精度も変わるようで...」
「ますます訳分からん──うわっ!」
シンプソンと話していると、対艦ミサイルがあった方から轟音が聞こえてきた。見ると、砲弾が3基の対艦ミサイル発射機の内、ちょうど真ん中のやつに着弾したようだった。砲弾と、発射機が撒き散らした破片が他の発射機にも飛び散り、次々と誘爆を起こしている。爆発に巻き込まれた中国兵は空を飛んでいる。文字通り。
「着弾!ど真ん中だ!ミサイルが派手に誘爆してやがる!」
「やったな!」
作戦大成功。いやあ、やってみるもんだなあ。
『こちらハンター0-1、イェーガー3-5、攻撃効果判定を行え』
『おっと...。こちらイェーガー3-5、思いつく限り最高の攻撃だ。派手に吹き飛んだ。支援に感謝、アウト』
「生き残った中国兵はどうします?」
「全員殺せ。ほかの部隊に知られたら面倒だ」
「...意外と、無慈悲なんですね」
「俺は甘ちゃんじゃないんだよ。それに、手足を吹き飛ばされた奴もいる。生き残ったって仕方ないし、そもそもどうせじきに死ぬ」
伍長が生き残りを殺す中で、俺もまた撃っていく。足を吹き飛ばされ、手で這い蹲る奴、もはやまともに動かず、虫の息になっている奴、火に巻かれてる奴。そういう連中を一人一人片付けた。
「オールクリア」
「ミッション1つ目、達成だな」
「よし...。無線機を使って、ヴァルキリーに準備が出来たと連絡してくれ」
「了解です」
さて、ここからどうするかな。対艦ミサイルはやった、あとはトゥームストーンの離脱を援護しに行かないといけないが。
「少尉、ここからどうしましょう」
「ちょうどそれを考えてたところだ。ここから空港まで1kmはある。中国軍がうじゃうじゃいる以上、トゥームストーンを離脱させるためには車があった方がいい」
「どうします、車をネコババしますか」
「出来たら中国軍から、な。そして、離脱させるにあたって、最終的には俺たちが乗り付けて来たRHIBが必要だ。あの複合艇が奪われでもしたら一巻の終わりだ」
「...何が、言いたいんです」
通信を終えたリーが怪訝な顔で聞いてくる。
「グレーブマーカーはボートを見張っててくれ。俺は車をネコババしてトゥームストーンを迎えに上がる」
そう言うと、キャメロンは目を丸くした。他のふたりも、何を言ってるんだと言わんばかりの顔をしている。
「冗談だろ、エレステナー」
「冗談じゃねぇんだわ、これが。俺が車を奪ってチャンギ空港からドライブする、その間お前らはここを守る、簡単な話だろ」
「さっき中国軍がうようよいるって言ってたのはどこのどいつだ。それに、空港なんて山ほど中国兵がいるだろ。コマンドーかなにかにでもなったつもりか?」
「そうだな、軍曹」
「ふざけてる場合じゃないぞ...」
軍曹が反対するとは驚いた。むしろさっさと行けとでも言うかと思ったが。
「まぁ、俺だってバカじゃない。ちゃんと考えた上で言ってる。大人数で行けばその分バレやすくなる。だから単独で行く。なにも中国軍を殲滅する必要は無いんだよ。いざとなればトゥームストーンと共に戦えばいいし、なによりボートが破壊されたら帰る手立てがなくなる。合理的だと思わないか?」
「...」
キャメロンは口論が下手らしく、俺が理由を説明すると黙ってしまった。
「そういうことだ。俺は行く」
俺が帰らなかったら先に戻っててくれ、と言い残して、3人に背を向けて手を振った。
「少尉」
「どした、キャメロン軍曹」
「...死ぬなよ」
「あいにく、まだ俺は若いんでね。どうにかなるさ」
「さーて、カッコつけて来たはいいんだが」
どうしようか。車を見つけようにも、民間車両は鍵がかかってるだろうし、なにより怪しまれる。
「中国軍の装甲車両でもありゃいいんだがなぁ。そう上手くはいかんか...って、おいおい」
海岸沿いの道を歩いていると、約200m先に検問所が見えた。幸い連中は気づいていないようだが、戦車が1両と複数の歩哨がいる。あそこを抜けないと空港へはたどり着けない。歩道橋を登り、観察しようとして、階段を登りきった時、かすかなエンジン音が聞こえてきた。ディーゼル、それも複数。
急いでしゃがんで身を隠すと、中国軍のトラックが複数やってきた。...遠目からみても、航空爆弾や弾薬を複数積んでいるのがわかった。木箱に収まってはいるが、いくつかは蓋が開け放たれている。
「ビンゴ、こいつは使えるぜ...」
トラックは3両。急いで背中に背負ったC4爆薬の箱詰めの1つと、起爆装置をリンクさせる。3両目が通った時点でC4を落とす。重量は約2、3kg。重いが、持ち上げるのにはそれほど苦労しない。
「そーら、飛んでけ」
3両目の荷台が真下を通ろうとした時に、C4を落とす。トラックが歩道橋を通り過ぎたところで荷台を見ると、上手いことC4が弾薬箱の山の住民となっていた。
「あとはアイツらがジハードしてくれるのを待つとするか」
双眼鏡でも持っていれば良かったんだが、あいにく持ち合わせていなかったものだから、仕方なくSR-16のサイトを覗き込む。トラックは順調に検問所への道を進んでいた。
「おーおー...。アイツらバカだ、全然気づいてない」
荷台に物音したら気づくもんだと思うが。いくらこの大雨とはいえ...。
「よし、1両目と2両目が検問に入った...。3台目と一緒に巻き込めたらなおいいんだが」
戦車は検問を行う兵士の真横で警戒を行っている。真横で航空爆弾を破裂させたら、いくら第3世代MBTとてタダでは済むまい。ここはもちろん、巻き込むことより戦車を鉄クズにすることを優先する。
「1両目と2両目は検問が終わったか...。よし、3両目だ。いいぞ、そのままクソ戦車の横で止まりやがれ...」
先の2両と同じく、3台目も戦車の横で止まった。今だ。
「吹き飛べ、クソ野郎!」
C4の起爆装置のスイッチを押し込む。次の瞬間、トラックから火柱が上がり、検問所の周辺が爆炎と煙に包まれた。よく見ると、先の2両にも飛び火したらしく、三本の煙が立ち上っている。
「戦車はどうなった...?」
煙が若干晴れてきた。肝心の戦車は、大爆発に巻き込まれて黒焦げた鉄クズと化していた。
「やったぜ、俺の勝ちだ」
脅威は無力化された。恐らく1人の生き残りも居ないだろう。このままチャンギ空港まで前進だ。
チャンギ空港に行く前に、何か収穫がないかと検問所を訪れてみる。まぁあの爆発じゃほとんど吹き飛んじまってるだろうが...
「あーりゃりゃ、こりゃ酷い」
検問所は思ったより酷かった。残っているのは鉄クズと化した戦車と、辛うじてフレームが残っていたことで、それだと判別できたトラック3両のみ。中国兵はというと、文字通り跡形もなく消えていた。爆発に巻き込まれ、ドッグタグのひとつも、体の一部分さえも残らず消し飛んだらしい。地面に残されたクレーターが、爆発の威力を物語っていた。半径5mは余裕でありそうだった。
「こりゃ収穫は期待できなさそうだな...」
一応検問所の周りを見て回るが、これといった書類だとか、そういう役に立ちそうなものは何一つなかった。
また徒歩か、と大雨に打たれて1キロの道のりを歩くことを考えたその時だった。検問所が設置されていた海岸沿いの通りから、ビル街のある方へ入った路地に、トラックが1両止められていた。
「いやぁ、幸運ってのは1つあるとゴキブリみたいに湧いてくるもんなんだなぁ」
トラックに乗り込む。よし、なんとか運転できそうだ。これならトゥームストーンを余裕で運んでこれる。
「待ってろよ、トゥームストーン。出発だ」
「さーて、このトンネルを抜けるともうチャンギ空港が見えてくるはずだが」
中国軍のトラックでチャンギ空港までドライビング中だが、どういう訳か人っ子1人もいなかった。大方、ヴァルキリーの上陸作戦の対応に手を割いている、ってことなんだろうが。まぁこちらとしては好都合だ。
「おっと...雨もかなり弱まってきたな...。遠くの空には青空も見える」
トンネルから出ると、かなり雨が弱まっていた。どうやら本当に一過性の熱帯低気圧だったらしい。というか、このままだと空港の中国空軍が上がってきて、ヴァルキリーに危険が及ぶ。チャンギ空港の方から爆発音が聞こえてこないことから鑑みるに、トゥームストーンは未だ観測を行っていないと見る。早くしないと不味いぞ。
「よし、チャンギ空港が見えてきたぞ...。クソ、もう雨が止んだ。もう既に何機か外に出てやがる...!」
トンネルを出て数分、チャンギ空港の滑走路が見えるところまで来た。だが、もう既に空が完全に晴れてしまった。外に出てきた機体は既に離陸準備に入っている。トゥームストーンは何やってるんだ!?
こうなったら俺が無線で通告してミサイルをぶっ放すようにしてもらうか、と考えたときだった。
「あれは...!」
空港のハンガーのすぐそばから、赤色の光が空へと上がっていくのが見えた。間違いない、トゥームストーンのフレアだ。観測に成功したんだ!
「よし、危機は脱した!あとはトゥームストーンをお迎えに上がるとするか!ミサイルの中、危険なレースの始まりだぜ...」
アクセルを思いっきり踏み込み、チャンギ空港のフェンスを突破する。横目にタキシング中のQ-5攻撃機複数が見えるが、無視してハンガーへ向かう。
「うおっと!まるでハリウッド映画だな!」
近くにミサイルが着弾した。着弾したミサイルは2機の攻撃機を吹き飛ばしたが、吹き飛んだ翼が目の前を横切った。ギャリソン大佐め、随分と危ないことをする。
「ん...?って、あれは!」
目の前からバギーが1両、MGを乱射して接近してきた。運転席には...あの中国人の女と、その横にはアイリッシュがいた。MGを撃っていた男──おそらくレッカー──がこちらに銃口を向けてきた途端、目の前にミサイルが着弾し、俺はトラックの外へ投げ出された。地面に体が打ち付けられた瞬間、俺は意識を意識を失った。
「...んん...?生きてる...のか?」
真っ黒い視界が段々開けてきた。右には、燃え上がるトラックと、攻撃機が見えた。左に目をやると、倒れているレッカーとパック──見るからに意識を失っていた──、そしてパックに心臓マッサージを行っているアイリッシュの姿が見えた。
「パック!パック!起きろよこの野郎!こんなの認めねぇぞ!戻ってこいよ、パック!」
あれ、そういえばあの中国人は...?死んだのか?
──いや、違う。向こうから来ている。...だが、なぜだ。なぜ中国兵といる...?
中国語を話して、彼女はパックの元へ駆け寄った。
「何だと...?このクソアマ...」
次の瞬間、アイリッシュは中国兵に銃のストックで殴り倒された。
彼女は次に、レッカーの元へ駆け寄った。朧気ながら、彼女が何を言ったのかは俺にも聞こえた。
「ごめんなさい...他に方法がないの」
次の瞬間、レッカーはアイリッシュと同じく中国兵にストックで殴り倒され、次に俺も、いつの間にか来ていた中国兵の不意打ちを喰らい、意識を完全に手放した。
兵器紹介
XRGM-268 JLSSM
揚陸艦搭載の小型対地攻撃ミサイル。揚陸作戦における自前の攻撃支援能力を獲得するために開発された。ベースはAGM-114ヘルファイアであり、これをベースに射程の延長が行われている。使いようによっては対艦攻撃も可能。USSヴァルキリーにて運用試験が行われており、同艦には発射スペースが増設され、最大30発が搭載可能。
F-117B ナイトホーク
F-117 ナイトホークの改良型。レーダーの追加や兵装運用能力の追加がメインとなっており、対地攻撃における汎用性が多少上昇した。しかしながら、対空戦闘はせいぜいミサイルを発射する程度で、間合いを詰められれば完全終了である。機動性、スピードは全く向上していない。このため、アメリカ空軍では採用されず、PMCにて一部機体が運用されているのみとなっている。