DIARY OF MERCENARIES: THUNDER RUNNERS   作:コルディアムに脳を焼かれた阿慈谷ヒフミ

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MISSON2 SILVER DEVIL

銀色

 

OPERATION:NONE

?????

Place:?????

 

ジュラーブリク

現在の所属:ロシア連邦航空宇宙軍

搭乗機:Su-27M-ANM Flanker-E1

 

らしくないとは分かってる。けど、今のあたしは恐怖を覚えている。目の前で落とされた2人。パクファとベルクト─中でもパクファはあたしたちの中でも段違いの能力がある─は、わずかな時間で、あの銀色の機体に落とされた。ザイに対抗するためのアニマ。それが、どう見てもただの有人機としか思えない機体に、落とされた。それも1機で。それは、あたしを恐怖に落とすのに充分だった。蹂躙があたしの趣味なのに、これではまるで逆に蹂躙されているようだ。

あたしの恐怖はこれだけでは無い。まず、この状況。ザイといつも通り戦っていたら、急に発達した積乱雲に巻き込まれて、気づいたら周りにザイがただの1機もおらず、あるのはあのただ1機の戦闘機だけ。その戦闘機はあのガラス細工のような表面をしておらず、キャノピーも普通にあったことから、至って普通の有人機であることはすぐに分かった。その有人機は、今まで見たことのない、あたし達やザイともまともに渡り合えるだけの機動をして見せた。こんな機動ができるパイロットは知らないし、なによりこんな機体は見たことがない。大型エンジンを2基搭載した、大型の戦闘機。Su-27どころか、MiG-31すら越えるようなその機体は、見た目に全く見合わない動きをしている。それは、殺すことをなんとも思わない、あえて言うならば本当に「仕事の一環」としか見ていないような動きだった。

怖い。この、何がなんだか全く分からない状況が。あの、殺すことをなんとも思っていないだろう戦闘機が。自分が放ったミサイルでさえ、もはや相手に向かう保証すらないのが。

恐怖に満ち満ちていたあたしを現実に呼び戻したのは、ミサイルアラートだった。気づいたらあの銀色の機体が後ろを取っていた。

「クソ...クソ...クソッ!」

もはやあたしがあの機体を落とすどころか、あたしが生き残れるかどうかさえ、保証どころか確信すらない。必死でミサイルから逃げ回る。普通のパイロットには着いて来れない、高G旋回。それは、隣になぜかいた、パクファを救出した時の、あのアニマ(ファントム)も同じく繰り出していた。両者ミサイルは外れたようだった。

「なぁ、ファントム」

反りは合わないが、この状況では仕方ない。今までにも共闘したことはある。きっと、大丈夫なはずだ。

「なんでしょう...ッ!」

ちょうどミサイルを回避しようと旋回中だったらしい。つまり今追われてるのはファントム。むしろ、好都合と言えるかもしれない。

「こうなったら仕方ない。あたし達で共闘しよう。連携すれば落とせるかもしれない」

元々アニマは共闘は想定されていなかった。だけど、できないことは無いことは以前の共闘がそれを示している。あの機体は1人で落とせる相手ではない。ならば、やれることをやるだけだ。

「こうなれば仕方ありません...やりましょう」

「よし、なら早速やろう。ファントム、今追われてるな?あたしが背後から突くから何とか逃げてくれ」

了解しました、という声を聞きながら、あの銀色の機体の後方へ向かう。アフターバーナー全開、今は1秒でも早く行く必要がある。

見えた。ファントムの、比較的旧式とはいえアニマの機動に、人間のパイロットが追いついている。それだけでもあのパイロットの異常さが分かった。攻撃ポジションについた。あの機体はファントムに攻撃を当てようと夢中だった。さっきので2機落として興奮しているのだろうか。

それもこれでお終いだ。さっきは急いでレーダー誘導ミサイル(R-77)を撃ったが、赤外線誘導ミサイル(R-73)はまだ残っている。これを撃ち込んで終わりだ、そう思った時、ファントムから無線が入る。

「おかしい...さっきまで攻撃をしていたのに、急に攻撃の手が止んだ...一体何が目的なんでしょう」

攻撃が止んだ?どういう事だ。確かに、あのポジションならいつでもファントムを攻撃出来ただろう。急に攻撃が止んだのはどういうわけだ──

途端、コックピットにミサイルアラートが鳴り響く。

「どういう事だよ!?」

攻撃方向は...目の前。AIM-9Xが接近中。煙を追うと、あの銀色から発射されたのが分かる。

──360度全方位攻撃。F-35の機能をふと思い出す。後方に取り付けられた赤外線カメラを使い、真後ろの機体にも攻撃できる機能だったか。

「クソ、あたしの事を待ってたってことか!」

おそらく、あえて攻撃せずに、あたしが自らに接近するのをずっと待っていたんだろう。だが、ここで疑問が生まれる。そうだとしても、先にファントムを落としても何の問題も無いはずだ。むしろ、後々のことを考えれば先に落としておくのが良策だろう。そこから考えられる可能性は──

──あたし達のことを試して、いや、おちょくっている。

「ふっざけんなぁぁぁ!」

怒り。あたしの妹分のパクファを落としたこと。あたし達を舐めてかかっていること。最大限のGをかけるだけかけながら、上方向へ旋回し、ミサイルを回避する。

が、近接信管が炸裂した。前方から飛んでくるミサイルの回避はやりずらい。姿勢を制御し、何とか機体ダメージを最小限にするが、その痛みはあたし自身にもフィードバックされる。痛みに耐えつつ、相手を探そうとレーダーを確認する。

──いない。一体どこにいるのか。瞬間、下方からの銃撃。

「下にいやがったか!」

急加速でガンレティクルから外す。機首を下げて狙おうかとも思ったが、ここで減速すれば敵の餌にしかならない。却下。一時離れることに徹する。

「ファントム、カバーを頼む!」

「分かりました」

離脱中のカバーをファントムに任せ、態勢を立て直す。

さて、ここからどうするか。目の前ではファントムとあの銀色がドッグファイトを繰り広げている。双方決定打を打ち出せずにいる状況。どうする、ここから一旦ミサイルを撃ち込んであいつの動きに制限をかけるか....いや、またさっきのベルクトみたいに、フレンドリーファイアになっては困る。今はECMがほとんど切れているが、いざ撃てばまたフレンドリーファイアを誘発するだろう。今までやってきて分かったが、単なる機動だけでなく、状況の判断や観察においても、あのパイロットは優れている。下手な細工やちょっかいは通じないどころか、そこを利用さえするだろう。却下。

そうなると、自ずと取れる手段は限られてくる。

「ドッグファイトに飛び込むか!」

決めた、こうなったら小細工なしに突っ込む他ない。アフターバーナー全開。あいつの喉元に食らいつく。R-73を撃とうと思ったが、思いとどまる。まだファントムがR-73のシーカー内にいる。あいつの事だ、R-73をファントムになすりつけたりしかねない。

距離を詰めたところで、あの機体の機首がこちらに向いた。あたしに気づいたってことか。

「いいなぁ、あたしとやる気か?受けてやるよ!」

もはや、怒りや恐怖はない。ドッグファイトの高揚。久しぶりにあたしとやり合えるパイロットと出会えたという悦び。あたしをより厄介な敵だと認めたという喜び。

「ミサイル発射!」

R-73を奴に放つ。ヘッドオン。なぜかあいつは避けようとしない。何か考えがあるのか──

瞬間、奴が機体を反転させる。意味が分からん。何をする気だ...奴が反転してコンマ数秒、機体を下げつつ、ミサイルを発射する。不思議とレーダーアラートは鳴らなかった。どこに向かって撃っている──そう思ったとき、フレアを放ちながら下方へ離脱して行った。

(まさか...?!)

ミサイルの方向を確認。あたしが放ったR-73は、あいつが放ったミサイルに吸い寄せられ、そのままあいつのミサイルとともに爆散した。

信じられない。フレアを放ってミサイルから身を隠しつつ、ミサイルを囮に使って逃げるとは...

(ふふ...ははは!面白い!こんな凄いやつに会ったのは初めてだ!)

あたしは素直に敵に賞賛を送っていた。ミサイルを囮に使って逃げるなど、普通のパイロットには思い浮かばない。それを思いつくだけの想像力、経験、なにより大博打に出る勇気。あたしは世界各国、色んなアニマやパイロットと戦ったり、演習をしてきた。そのどれも、こんな風に戦ってきたような奴はいなかった。こいつの顔が見てみたい、どんな奴なんだろうか──

そこまで思って、今はまだそれを考えるときではないと思い直す。今は、そんな最高のパイロットを落とすことが目的だ。急旋回。位置関係で言えばあたしのちょうど左下方にいるはずだ。居た。撃ち下ろす位置にあるあたしの方が数段奴より有利だ。そのまま降下、その流れでミサイルを撃つ。ふと思い立ちFLIR(前方赤外線監視装置)を見る。気持ち、他の機体よりも熱源反応が薄い。あの機体の銀色は赤外線探知を回避するためなのだろうか──そう考えていると、またミサイルが幻惑されて訳の分からない方向へ飛んで行った。今度はフレア無しで。

(どうもさっきから赤外線誘導ミサイルが避けられている...パクファが積んでいるような、DIRCM(指向性赤外線妨害装置)でも積んでるのか?)

次には、あたしが幻惑される番だった。FLIRを見ていると、唐突に前方が強い光で見えなくなった。いや、これは光じゃない。赤外線...?

(これではっきりしたな、あいつは赤外線妨害装置を積んでいる。厄介だな...クソ、前が全く見えない)

何とか視界を取り戻す為にFLIRから目を離す。気づいた時には前にはあいつは居なかった。本能で咄嗟に急旋回をすると、ついコンマ数秒前にあたしがいた場所は機関砲で掃射されていた。危なかった。

急旋回した先に、奴がいた。機関砲掃射。急旋回で回避。流石に今更こんなのに当たるほど弱くはないか。またもやヘッドオンの態勢に入る。あえて弱そうな動きをして、あいつを誘ってみるか。さっきの回避で、落とせなかったことに苛立っているはず。あえてそのまままっすぐ進む。案の定、ミサイルを発射してきた。...まだだ、まだ、もっと近く。距離をギリギリまで引き付け、フレアを放出。こちらに命中せんという時にコブラをしてミサイルシーカーから自らを外す。続いてフックで相手の後ろに付く。さっきミサイルを撃ってきた時、一瞬だけ見えた他のミサイル。見たところ、短距離空対空ミサイル(AIM-9X)は切れているように見えた。F-35でも後方に攻撃できるのは赤外線誘導ミサイルだけのはず。後方へ攻撃される心配はない。

「ファントム、上を抑えていてくれ!あいつが逃げられないようにしたい!」

了解です、というファントムの声を聞き、お膳立ては整ったとあたしはほくそ笑んだ。ファントムは、上方、それもかなりあたしの近くを飛んでいた。

「ミサイル発射!」

R-73を発射。完璧な位置からの、完璧なミサイル。後は命中して終わり──そう確信していたあたしは、興奮してスピードを上げながら、その考えがすぐに粉砕されることを思い知る。

唐突なスモーク。

「なんだ!?急にスモークが出てきたぞ!」

スモークが出てきた瞬間、あたしのミサイルはスモークの中でめちゃくちゃな動きをして、その職務を放棄した。

何事か、理解に苦しんでいる最中に、あいつが放出したスモークを飛び越した。その時になって、あたしは初めてあいつがスモークの中に留まっていた事を知ることになる。不覚だった。まさかあたしがレーダーを見落とすとは。

後方からミサイル接近。あいつがまたミサイルを放ってきた。せっかく連携していたのに、それをいとも簡単に崩された。数の優位はあいつには全く効かないんだろうか?

急旋回、それぞれ真逆の方向へ回避する。

いい加減しぶといですね、とファントムの毒吐く声が聞こえる。あたしだって同じ思いだ。最も、あたしはこの状況を楽しんでいるようなものだから何か言えたものでは無いが。

今度はあいつはファントムを追尾していた。RF-4EJ-ANMにはクルビットなどのポストストール・マニューバは不可能だ。それだけで不利になりかねない。

ファントムとあいつのいる方へ機体を向けて、見てみる。奇妙な動きをしている。後方についていながら、機体を回転(ロール)させている。ファントムを煽っているのか...いや、よく見たら機関砲を発射している。少し低レートに見える。当てる気がないのか?それとも高度な煽り?まるでお前は檻に囚われている、もう逃げられないぞ、とでも言うような...

逃げられない...そこまで考えて、はっと気づく。それと同時に、あいつの機体を見ると、下部のウェポンベイから狂気とも言える数のミサイルが顔を出しているのが分かった。ミサイルを回避できないように、機関砲で囲っているのか?!

「ファントム逃げろ!あいつは機関砲で逃げられないようにしながらミサイルを撃つ気だ!」

急いでファントムにあたしの考えを呼びかける。同時にミサイルが発射される。2発、完全に仕留める気だ。

「!?回避します!」

何とか機関砲の檻から抜け出し、ミサイルを回避するが、多少機関砲を被弾したようだった。

「おいファントム、大丈夫か!?」

「ええ、何とか致命傷は避けられましたが、機動が多少重くなりました。おそらく、水平尾翼の一部がやられたんでしょう」

完全に嵌められました、と悔しがる声。

こいつを落とすことは出来るんだろうか...

そう思った瞬間、あたしは気づいた。今のあたしはあいつの真裏にいる。今のあいつは、確実に仕留められると思っていた相手を落とすことに失敗して、躍起になっているだろう。さっきのあたしほどではないが、正常な判断が多少妨害されているはず。

行ける──そう判断したあたしは、こっちに戻って来たファントムに伝える。

「ファントム、今なら行ける。ここで追い込むぞ」

ファントムに声をかけつつ、あいつとの距離を詰める。距離、1000。ごくごく至近距離まで接近した所で、機関砲を牽制のためにあいつの両側に放つ。距離をより詰めたところで、あいつがフレアとスモークポッドを放ちながら急降下を繰り出した。

「そうはさせるか!」

撃墜のチャンス。なぜか機動が弱々しくなっていたあいつのケツにつけたことは、あたしの──いや、あたしとファントムの正常な判断を妨害していた。あたし達は、高所の有利を活かすよりも、あいつを追いかけることを選んだ。スモークの中を突っ切ってでも。さっきの反省から、レーダーを見つつ。超高速でダイブしながら、スモークに突っ込んだ中では正常な距離感覚を測れなかった。そして、レーダーに集中していたこともそれに拍車をかけた。

要は何が言いたいのか。あたし達は、またもやあいつに誘われていたのだ。そして、高度計を全くと言っていいほど見ていないほど、夢中になっていたのだ。

 

唐突に、スモークが、切れた

目の前に広がる大地

高度計に示される「19」の文字

速度計に示された「1684」の文字

 

あたし達は、あの銀色に、完全に、誘われた

 

もはや本能の如く、射出レバーを引く。装甲化キャノピーが爆砕され、青い空が目の前に広がる。1秒と経たず、地面から2機分の大きな爆発音が聞こえる。隣をふと見ると、ファントムもまた、誘われていたということが分かった。

──完敗だ。

まさか、最後はマニューバーキルされるとは思ってもみなかった。

ふと空に目をやると、あの機体がこちら側に向かってくるのが見えた。

太陽に照らされる銀色。右主翼には青。左主翼には赤。すれ違いざまに見えた垂直尾翼には、爆弾とミサイル、機関砲弾に囲まれるキリスト。胴体に描かれた機体番号、「697」と「XF-35D」。キャノピーの下には、名前と階級が、灰色のフレームに白色で記されていた。

──MAJ Lewis “YERESTENER” Cole──

あたしは、その名前をはっきりと覚えた。




兵器解説
XF-35D Prototype Striker
アメリカ空軍のF-15Eの後継機計画、「次世代多目的戦闘機計画」(Next Generation Multipurpose Fighter Program、NGMF計画)のロッキード・マーティン案の試作機として開発された。
名前から分かる通り、F-35シリーズの一機として開発された本機は、もはやその原型を留めないほどの変更がされており、その共通点はベース機のC型と比較してわずか8.6%という、F/A-18E/Fも卒倒するレベルの違いとなっている。
最大の違いはエンジンであり、アフターバーナー時221kN、ドライ時145kNの推力を誇るA100-GE-123 アダプティブエンジンを2基搭載する。本エンジンは既存機の交換用エンジンのA100-GE-100よりも大型化されている。
この2基のエンジンが繰り出す推力により、F-15Eの後継機にふさわしい搭載能力を有する。
エンジン間にはAN/APG-81v3後方警戒レーダーが搭載されている。
ウェポンベイは特に大幅に変更されており、2.7m×7.5mの前代未聞の大きさのウェポンベイを1箇所、エンジン間に0.7m×3.5mのウェポンベイを1箇所有する。
空対空ミサイルであればドア含め最大24発、Mk.84 2000lb爆弾を8発、GBU-28 バンカーバスターでさえ2発可能な、究極の戦闘爆撃機として開発されている。また、ノースロップ・グラマンの開発したミサイルランチャーの改良版の統合が進められており、統合されれば32発の対空ミサイル発射が可能となる。
固定兵装においても、F-35Cとは真逆に、25mm GAU-25/A(GAU-22/Aの軽量化改良型)が2門搭載されている。
機動性においても、大推力エンジン2基の搭載や、カナード翼と推力偏向ノズルの統合などにより、従来機と同等、もしくはそれ以上の機動性を確保している。あまりの大型さ、搭載量から米空軍将官から「どこの誰が爆撃機を作れと言った」とさえ言われた本機も、その機動性を見せつけて確かに戦闘機である、ということを確信させた。
試験運用がある程度済んだ本機は、その能力から名が知られていたルイス・“エレステナー”・コール少佐に本機の実戦運用における戦闘データ採取と引き換えに、試作型ステルススモークポッドを統合し、無料で譲渡された。現在、同少佐が運用中。
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