DIARY OF MERCENARIES: THUNDER RUNNERS 作:コルディアムに脳を焼かれた阿慈谷ヒフミ
太平洋上、遭遇戦
OPERATION:Thunderstorm
November 13, 2024 1105
Place:Pacific Ocean, USA
異機種間格闘訓練を実行しろ
ルイス・“エレステナー”・コール少佐
コールサイン:センパー1
現在の契約先:アメリカ空軍
搭乗機:XF-35D Prototype Stryker
飛行場を飛び立ってすぐ、内陸部からやってきたF-16、3機編隊と合流した。これから、俺は彼らと
「久しぶりだな、センパー1。こちらAWACSスノーオウル。異機種間格闘訓練の監視を行う。」
聞き馴染んだ声が聞こえる。ドイツ内戦終結から3ヶ月。しばらく一緒に仕事することはないと思っていたが、たったの3ヶ月でまた一緒に仕事することになるとは思ってもなかった。なんだかんだ言って、このAWACSとは初仕事の時からずっと仕事をしているな、と思い返す。性格は真逆なんだが、なんでこうもまぁこの管制官との仕事が多いのだろうか。誰かが入れ知恵でもしているのか?
「センパー1、DACTはヘッドオンから開始する。こちらがエンゲージを宣言するまで攻撃は禁止。座標をデータリンクする、そこへ向かえ」
一方のスノーオウルは、いつも俺との仕事があることに特段の思いはないらしい。真面目な仕事人らしいと言えば、まぁそうなんだが。とりあえず、スノーオウルに了解した旨を伝えつつ、示された座標へと向かう。
数分の飛行の後、目的のポイントに到達した。
「こちらAWACSスノーオウル、貴機の目標座標到達を確認した。方位085に向かえ、演習機とのヘッドオンを行った時点から開始する」
スノーオウルの指示に従い、方位085に向かう。大抵の場合、速度があればどうにかなるということで、アフターバーナーを付けない位にエンジン推力を上げ、
目標の3つの黒点は、みるみるうちに3機の戦闘機の機影へと姿を変える。接敵まで...1秒。ゼロ。
「センパー1、エンゲージ!」
スノーオウルのコールと共に、マスターアームを演習モードに入れる。同時に機体を急激に右旋回させる。今回はスモークポッドもECMも使えない、純粋な腕が問われる演習だ。超音速状態での旋回は、体に急激な負担をかける。たとえXF-35Dのフライトスーツが最新だとしても、それにも限界がある。あとは俺がどれだけ耐えられるかの勝負だ。
旋回した先にF-16が1機見えた。残りの2機は別の方へ向かっていったらしい。機数でアドバンテージがあるなら、それを活かすのが常道だろう。1機を囮としたか。まぁいい。それに乗ってやるだけだ。
ウェポンベイ開放。XF-35Dは機内のAIM-9Xの搭載に対応している。そこらのF-35とは訳が違うってことだ。赤外線画像シーカーにF-16を捉えさせる。が、失敗した。くそったれ、
捉えたチャンスは逃すまい。他のF-16がこちらに食いつく前に目の前のF-16への攻撃態勢に入る。
レーダーロック...ウェポンベイ再度開放。AIM-9Xの赤外線画像シーカーに今度こそ捉えさせる。...捉えた!ロックオンしたことを示す音が鳴り響く。
「センパー1、FOX2!」
ミサイル発射をコールする。当たり前だが本当に撃った訳では無い。あくまで撃ったという想定だ。命中したかどうかの判定はAWACSが下す。
「スプラッシュ1!センパー1、1機撃墜判定!」
幸先いいスタートだ。俺に撃墜判定を取られたF-16は、演習空域を離脱していった。
残りは2機。ほかの機体の場所を探すと、ちょうど左後方に1機を確認した。こちらが気づいたのと同時、F-16のM61 バルカンが砲弾を発射したことが通達される。回避のために左の方へ1回転する。被弾は避けられたようだった。続いてミサイルアラート。上の方にもう1機のF-16が居座っていた。フレアを放出、ミサイルに対して
今の状況を整理すると、非常にまずい状態だった。2機に完全に後ろを取られ、1機には高度でも不利に立たされていた。
どうするべきか。考える時間は多くない。シザーズ...ダメだ、距離が離れすぎててそもそも機動を引き起こせない。ハーフ・ループが最適か。
エンジン出力上昇。機体を緩やかに引き上げる。後方確認。追尾してきたな。ループの頂点まで到達したら急減速。相手はまだループの半分くらいまでしか来れていない。フック機動を行い、敵機の方へ向く。F-16にはポストストールマニューバは出来まい。アイツらがこんな簡単なのに引っかかってくれるとは思わなかったが、引っかかってくれたならばそれを使う他ない。
レーダーロック。ウェポンベイを開放。また、赤外線画像シーカーにロックさせる。今度は2機だ。
「センパー1、FOX2、FOX2!」
ミサイル2発を発射する。敵機はループをほとんど終えかけていて、背面飛行しながらこちらに向かってきていた。つまるところ、相手は自分からミサイルに突っ込んでいっている、ということになる。
気づいた時にはもう遅い。
「スプラッシュ1!」
AWACSのコールが響き渡る。これで2機撃墜、俺の勝利だ──
いや、違う。1機まだ残っている。一体どうやって回避したんだ?目標の位置をよくレーダーで確認してみる。
──上だ。まさか、ループから上昇に移り、そのままミサイルを振り切ったというのか?上昇機動はエネルギーをアホほど使う。そのままミサイルから逃げ切るなんて、F-35のような高出力エンジン搭載機ならまだしも、F-16で可能なのか?大体、こちらに背面飛行しながら向かってきていたのに、そこから直ぐに上昇に回れるのか──
再度のミサイルアラート。今度は上からのヘッドオン。ギリギリまで引き付け、またビーム機動で左に旋回、逃げ切る。ビーム機動に移る直前にミサイルを放つ。AIM-9Xには
ヘルメットに赤外線カメラの映像を投影し、相手の居場所を探し出す。
──いた。相手は右方向に旋回、ミサイルを振り切ったようだった。ちょうどこちら側に背を向けているのが赤外線カメラで分かる。チャンスだ。F-16にはEO-DASによる全周視界なんていう便利なものは無い。加えてこちらが相手より後ろ側にいる。間違いなく気づいていないだろう。機首をF-16の方に向ける。最後は機関砲でガンキルしてやろうか──
その時になって、やっと気づいた。F-16が、ほとんどエンジンを止めていることを。空戦におけるタブー、どう間違えてもやらない、自らを不利に追い込むだけとしか思えない行動をしていたのだ。
空中衝突を回避するために、反射的にF-16の下方に飛び込む。後ろを見る。後方わずか100mの所にF-16がいた。──既に機首はこちらに向いている。
まずい。今度はこっちが嵌められた。すぐにF-16からミサイルが発射されたと通告が入る。フレアを撒きつつ、レーダーに表示された仮想のミサイル位置を元に、旋回するタイミングを見計らう。ごくごく接近してきたところで、推力偏向ノズルにより無理やり機体をその場で回す。ミサイルが通り過ぎて行ったのをレーダーで確認、ノズルによる旋回を続けて進行方向を元の向きに戻したところで続けて大きく回るような旋回を行う。F-16が加速し、エネルギーを完全に取り戻す前に、急いで回り込まなければならない。大きく右方向に旋回、一方のF-16はと言えば、こちらにパワーの差を付けられ、惜しくも追従に失敗していた。
ちょうど、F-16の背面につく。パイロットがこちらを向いたのが見えた。バイザーの下の顔は、かなり若いように見えた。随分と将来有望なパイロットがいたもんだ、と感心する。が、それとこれとは別。機関砲の発射モードを2門同時発射に設定、トリガーを引く。
「センパー1、スプラッシュ1!全機撃墜判定だ、よくやった!」
AWACSスノーオウルの声が響きわたり、演習終了の合図が出される。演習が終了したことで、先に離脱した2機もまた戻ってきた。封止していた無線を開放、先程まで戦っていたパイロットと通信を繋ぐ。
「こちらセンパー1、演習お疲れだ」
「ああセンパー1、またやられちまったよ。お前にはどうも敵わん」
ベテランパイロットの渋い声が響く。ロガー1、アルバイター。イラク戦争にも参加したベテラン。体にとっくにガタが来てるはずだが、未だに飛び続けていることに、演習をする度に驚かされる。齢46の高齢パイロットは、今日はロガー2──TACネームはガーディアン──だけでなく、新たなパイロットを連れてきていた。機体さえ合えば、俺とやり会えそうな、才能を感じるパイロット。一体誰なのか。
「アルバイター、今日新しく連れてきたヤツは誰だ?すごいいい腕前をしていたが」
「紹介を忘れていたな。バーガー、エレステナーに自己紹介しとけ」
「はい!僕の名前はロイ・ウィリアムズです。階級は少尉。TACネームはバーガー、コールサインはロガー3です。コール少佐のような腕利きのパイロットに認めていただいて光栄です!」
なるほど、なかなか元気のある、将来有望な若手パイロット──つっても俺もまだ25の若造だが──ってところか。
「アルバイターにガーディアン、ロイには特によく目をかけてやった方がいい。このエレステナーが保証するぜ」
「言われなくても、もちろんそのつもりだ。正式に部隊配属になったのは2ヶ月前だが、士官学校の時から型破りな新入りとして名は届いていてな。もう俺らロートル2人なら平気で落とせるくらい才能に満ち溢れてるヤツだ、しっかり育てる所存にある」
もっとも、教えられる側かもしれんけどな、とアルバイターは続ける。
へへ、とロイが笑う。無線越しだが、声からして優しい、いい男だと言うことが分かる。
「さぁ、お喋りもそこまでだ。基地へ帰投するぞ」
スノーオウルが言う。演習は終わった、ここにいる必要も無い。マスターアームをオフにしてっと。さっさと帰って飯でも食うとするか──
「...いや待て。センパー1、並びにロガー1から3に通達。指示があるまで演習空域にて待機せよ」
スノーオウルの声色が変わった。緊急事態発生か?ロガー1が何事かと声を上げる。
...この展開はなんだか似たような物を見た覚えがあるぞ。半年くらい前の事をふと思い出す。まさかと思い、オフにしていたレーダーを起動、対空走査モードにして走査する。
──畜生、クソッタレめ。ガーディアンの方からそんな声が聞こえる。俺も同じ気分だった。
「...こちらアメリカ空軍。所属不明機に通達。貴機らの所属、並びに目的を明らかにせよ」
レーダースクリーンには、数えきれないとまでは行かないが、大量の敵機の機影が映っていた。
機種を識別する。...Su-27にSu-35、MiG-29やJF-17、果てはF-16やグリペンまでいやがる。あまりに機種が多すぎる。どこかの国の正規空軍とは思えない。そうなると、可能性として浮上するのは──
「PMC連中が、領空侵犯を仕掛けてきた...?」
一体何のために。理由がない。国際的なPMC条約である、俗にニューオーリンズ条約と呼ばれる条約においては、自己防衛時以外の、どこの国家とも契約を結んでいないPMCの交戦権を認めていない。PMCがどこの国家とも契約を結ばず、交戦することはニューオーリンズ条約の庇護を受けられないことを意味する。その意味はあまりに大きく、PMCがわざわざ契約無しに自らのみで交戦することはほとんどなかったが。となると、どこかの国家と契約している可能性が浮上する。だが、わざわざアメリカに戦争を仕掛ける国があるのか?
「AWACS、こちらセンパー1。この大群をどうする」
「現在交信を試みているが、応答がない。最悪交戦の可能性もあるぞ」
この大群と交戦だと?こちらはたった4機だ。それに対し連中は少なく見積っても20機以上はいる。ミサイルの量で言えば落とすのは可能だろうが、理論上でしかない。
「ロガー隊、警戒しろ。交戦したら真っ先に狙われるのはお前らだ」
ロガー隊に警告をしておく。XF-35Dはステルス機。おそらくバレてないとは思うが、ロガー隊はそうもいかん。
「こちらAWACSスノーオウル、各機、搭載弾数並びに燃料の残りを報告しろ。交戦に備えた方がいい」
搭載弾数と燃料の残りの報告とは、いやはや。こりゃ本格的にまずそうだぞ。
「こちらセンパー1、こちらの搭載弾はAIM-9Xが8発、ペレグリンが11発だ。機関砲は25mmが両側合わせて364発。燃料は...帰ることを考えれても、20分くらいは戦えそうだ」
「こちらロガー1、搭載弾はAIM-9Xが4発にAMRAAMが4発だ。20mmは511発。燃料は帰投分を除けばこちらは15分がせいぜいだ」
「ロガー1に同じく」
「こちらロガー3、1と2と同じです」
実弾を引っさげてきたのが功を奏したな。模擬弾だったら逃げ帰るしか無かった。少しの間が空いた後、AWACSが通信を繋いできた。
「...了解した。こちらAWACS、上級司令部に報告したところ、『攻撃を受けた場合交戦、排除せよ』とのことだ」
あーあ、いつも通りに演習終えられると思ったのになぁ、コンチクショウ。帰ったらヤケ食いだな。
それでも、こいつら思いとどまってくれれば。そんな一抹の希望もあったが、ロガー1の声にその願いはかき消される。
「こちらロガー1、レーダー照射を受けた!繰り返す、レーダー照射を受けた!」
「くそったれ、撃ってきたぞ!ロガー2、回避する!」
「スノーオウルより各機へ、交戦を許可する!」
始まっちまった。案の定ロガーが撃たれてる。ECMをかけて敵ミサイルとレーダーを惑わすか。レーダーを操作、ついでに敵機の距離を確認。距離、50マイル(約80キロ)。ダメだ、遠すぎて
「こちらセンパー1、射程が足りない。敵機との距離を詰める!」
フルミリタリーパワー。アフターバーナーをかける寸前までエンジンスロットルを上げる。あっという間に距離は70キロまで迫った。敵機はこちらに向かっている、射程は十分だろう。ペレグリンの雨を降らしてやる。
が、高度が足りず、こちらのレーダでは捉えられていない。地平線の裏に隠れている。今表示されているのはAWACSからのリンク情報だ。
「AWACS、ミサイルの中間誘導を頼めるか。こちらでは捉えられない」
「中間誘導要請、了解した。11発全部発射しろ。こちらへミサイルのデータリンクを繋ぐのを忘れるな」
AWACSが誘導要請を了解してくれた。ありがたい。ミサイルのデータリンクをAWACSに繋ぐ。
「センパー1、FOX3!FOX3!」
11発のペレグリンの雨を降らせる。さて、あとはAWACSに任せるか。
打ちっぱなし式のアクティブレーダーホーミングミサイルといえど、撃ってすぐ別の行動に移れる訳では無い。ミサイルに積めるレーダーの性能なぞたかが知れている。だからミサイルが捉えられるまで中間誘導してやるのだ。
1分ほど経ち、一部のミサイルが自らで敵機を捉え、終末誘導を開始したことをAWACSがデータリンクで伝えてきた。中間誘導中のミサイルがどんどん減少していく。更に数十秒もすれば、全てのミサイルが終末誘導を開始した。あとはミサイルのシーカーが仕事してくれることを祈る他ない。
更に数十秒。ミサイルが敵機に到達した。その結果はまちまちだった。敵機の状況をAWACSが報告する。
「こちらAWACSスノーオウル。ロガー隊、並びにセンパー1に報告。中距離ミサイル戦の結果は、敵機26機中19機撃墜となった。数発が回避されたということだ。注意しろ、貴機らに残されたのは近接戦闘用のサイドワインダーと機銃のみだ。気を抜けば海の藻屑と化すぞ」
俺が11発、ロガー隊が12発だから、23発発射して4発が回避されたってことか。敵にも腕利きがいるとみた方がいいな。それでも4対7という数的劣勢は変わらない。上級司令部はほかの機体を寄越す気がないのか?
「なぁスノーオウル。4対7ってのはあからさまに不利としか思えないんだが、ほかの機体は寄越してくれねぇのか?」
「それについてだが、こちらも確かに増援を要請した。だが、司令部にそれを封殺された。おそらくここでロガー隊を潰して、侵入されたらほかの部隊の機を寄越すというところだろう。現に、こちらでは既にF-15が8機編隊で上がっているのを確認している」
「...俺たちは、第1106戦闘航空団の中でも特に厄介扱いされてるからな。判断自体には驚かんが、気持ちがいいものでは無いな」
アメリカ空軍の厄介者の集まり、第1106戦闘航空団。基本的に機体寿命が近く、改修を受けていないF-16 ブロック50やらF-15やらが押し付けられた、まさに
バッドカンパニーがどうたらはともかく、これで中距離ミサイルは尽きた。おそらく敵はまだ
「ロガー隊にセンパー1、また司令部に掛け合ったがどうにもダメらしい。お前らでやれ、という達しだ」
全く腹立つ司令部だな、とスノーオウルが苛立っている。合理的ではないわな。スノーオウルは、今できる手段があるのにそれを使わずに不利な状況に追い込まれるのを嫌う人間だというのは、ここ4年の共同作業の中で分かったことだった。
さて、この状況では逃げ帰ることも出来ない。というか逃げ帰るのは自分の信条に反する。となると、出来ることは。
「センパー1よりロガー隊、こうなったら仕方がない。ドッグファイトを始めようじゃねぇか」
「...ロートルだが、まだ戦争はやれる。もちろんドッグファイトもだ。行くぞ、ガーディアン、バーガー!」
「了解だアルバイター」
「ラジャー、ロガー1!」
威勢のいいアルバイターの声に、ガーディアンとバーガーも同調する。
ドッグファイトはファイターパイロットの本懐だ。逃げてどうする。その思いは、ロガー隊の若き翼も、熟練の2人も同じだった。
アフターバーナー全開。エンジン出力表示が100%
外の風景が光の矢のように過ぎ去っていく。敵機も接近。その距離はどんどん短くなっている。あまりに強すぎるECMのおかげで、敵はロガー隊のF-16を見つけるどころか、ECMの発信元の逆探にも失敗しているようだった。おそらくめちゃくちゃな場所に俺たちがいることになっているだろう。そうなるように設定したからな。
敵機との距離、31マイル(約50キロ)。敵機の高度は6000mに対してこちらは少しずつ高度を上げてきたとはいえ3000m。レーダーは不能にしたが、連中には
「そろそろAIM-9の射程にも入る。ロガー隊、高度を上げるぞ」
高度を上げることをロガー隊に伝える。すぐに了解の返事が来て、3機ともが着いてくる。
上昇は目立つが、ちょうど雲がある。ここに隠れれば多少誤魔化せるか?とりあえず雲の中を進む。あっという間に高度は7000mに到達。連中はどういうことかまだ気づいていないようだった。チャンスだ。
「ロガー隊、連中は気づいていない。奇襲を仕掛けるぞ」
距離40km。AIM-9Xの射程には入った。レーダーロック。突然、レーダー表示と異なる方向からレーダーロックを食らえば相手も驚くだろう。その隙に撃ってしまえ。
「一応残しておけよ。センバー1、FOX2!」
8発残ったAIM-9Xのうちの4発を撃ち込む。横を見ると、ロガー隊は2発ずつ撃ち込んだようだった。
レーダー上では連中が慌てふためいて回避しようとしているのが分かった。唐突の奇襲にも一応逃げようとするのは褒めてやるか。
軽量なAIM-9Xはマッハ3で逃げ回る敵機に接近、撃ち落とさんとする。
命中。撃墜。回避。数十秒経ったところで各々の結果が出てくる。何とか回避できても、こちらは10発合計で撃っている。回避でエネルギーを失ったところにミサイルが突き刺さり、あえなく墜落していく奴もあれば、食らっても生き残った奴、回避に成功した奴もいた。
敵も何もしない訳では無い。残った3機ともが仕返しとばかりにこちらに
こちらには2発。ステルス機とみて排除目標に設定されたか。1発目をDIRCMで飽和させる。DIRCMは2基あるが、角度的にもう1基は使えない。1発目と2発目には予想到達時間に差がある。1発目を逸らさせたあと、2発目を逸らせるか──いや、ダメだ。1発目の逸らした方位によっては使えない可能性がある。となると、1発目はDIRCMで逸らし、2発目はフレアを使いつつ逸らすことになるか。高G機動に備えよう。
1発目は順調に妨害されて、こちらに向かってはいるが当たる気配はなかった。
2発目接近。案の定、1発目にDIRCMを使ったままの状態で来た。ちょうどいい所までミサイルを引きつける。──今だ。
「ふぅっ...はぁっ...!」
高いGに体が悲鳴をあげているが、まぁんなもん知ったことではないと自分を押し込み、フレアを放出しつつ、ミサイルを回避する。
体感では10分とも数十秒とも感じられる時間の後、ミサイル全ては回避に成功した。レーダー確認。どうやらロガー隊連中も回避に成功したらしい。よくやるな。
カウンターアタックだ。一言、発して敵に機首を向ける。敵機はいつの間にか更に距離を詰めており、その間は20kmまで迫っていた。機種識別。Su-35Sか。機動性が高い相手。あんまり相手したくはないが、文句を言える自由は残念ながら存在しなかった。
AWACSから、迎撃管制に関する具体的な指示が初めて入る。
「センパー1、貴機はそのSu-35Sを撃墜せよ。F-16とJF-17はロガー隊が相手をする」
スノーオウルらしい、合理的な判断だった。化け物には化け物を、ハイエンド機にはハイエンド機をってことか。相手の全容を見るに、確かに俺がSu-35を相手した方が良さそうだった。
了解、と返し、操縦桿を操作、AIM-9Xを2発発射。2発目は1発目を避けるであろうタイミングに放つ。おそらくまともに回避すれば運動エネルギーを喪失する。そのタイミングでドカン、って訳だ。
「センパー1、FOX2!FOX2!」
2発発射。レーダー上では、相手が早速ミサイルを認識したのか、踵を返して逃げる様子が映っていた。対空ミサイルに対する対処法で1番現実的かつ効果的とされているのは、逃げて対空ミサイルの運動エネルギーを消費させること。ミサイルのロケット燃焼時間は短く、あとは惰性で飛んでいる。そのため、逃げて対空ミサイルの運動エネルギーをひとたび消費させてしまえば、もうミサイルは無駄に高い小型爆弾にしかならない、という訳だ。あいつはそれをよく分かっていた。
だが、一足遅かった。こちらに向かっていたのを180度反転して逃げる間にも、ミサイルはマッハ3で向かっている。何とか逃げる姿勢に入っても、もう既にミサイルが接近していた。
逃げきれない、と判断したのだろう。回避行動に映ったのがレーダーでも分かったが、1発目はかわせても、2発目はかわせず、そのままレーダーからロストした。
「こちらセンパー1、敵機を撃墜した!」
「こちらロガー1、こちらも最後のJF-17を叩き落とした!」
レーダーは...ロガー隊以外、何も見えない。ピクチャークリア。
「こちらAWACSスノーオウル。こちらのレーダーにこれ以上の敵機は確認出来ない。これを持って交戦終了を宣言する。
AWACSの声が弾んでいる。たった4機で大群を全て殲滅したのだ、俺も気分は高揚するし、それはロガー隊も同じだった。
「アルバイターよくやった!今日はパーティでもしたい気分だな」
「全くだなエレステナー!しかし、エレステナーがいなければ俺たちは今頃海の藻屑だった。ECMは本当に助かった。礼を言う!」
「こちらガーディアン、センパー1、本当に助かった。感謝する」
「こちらロガー3、コール少佐、本当に助かりました!ありがとうございます!」
ロガー隊連中が俺に口々に感謝を述べてきた。よせ、少し照れるじゃねぇか。口には出さんが。
「さぁて、全機生き残ったことを報告したら司令部が不機嫌さを隠さずに帰ってこいと言ってきたぞ。スノーオウルより各機、改めて帰投せよ」
スノーオウルの言葉に従い、飛行場のある方角まで機首を向ける。ロガー隊は俺の飛行場に着陸せず、そのまま
兵器解説
AIM-278 Peregrine
レイセオンがプライベート・ベンチャーで開発した小型の中距離空対空ミサイル。AIM-120 AMRAAMの半分のサイズに、A型と同等の射程を確保している。通常のミサイルと比較するとそれ以外にあまりに目立った特徴はないが、その性質はステルス機の攻撃能力を格段に高めるものだったため、AIM-260 JATMとは別にステルス機を中心に配備が進んでいる。この世界ではAIM-278という呼称で制式採用された。
部隊解説
アメリカ空軍第1106戦闘航空団第916戦術戦闘飛行隊
アメリカ空軍のろくでなし、軍規違反者の集まりである第1106戦闘航空団。その実態から懲罰部隊呼ばわりされている部隊で、戦闘飛行隊2つと支援部隊で構成されている。戦闘飛行隊のひとつが単純にろくでなしのクズの集まり、第325戦術戦闘飛行隊、もうひとつが散々上司が手を焼いてその末に1106送りにされた2人のパイロットで構成されていた、第916戦術戦闘飛行隊であり、これこそがロガー隊(伐採者)である。愛称などというものは存在せず、コールサインとしてロガーが存在するのみである。長らく2人だけの所属だったが、最近士官学校を卒業した男が、教官のプライドをズタズタにしたことを理由に送り込まれた。ロイである。
構成員は隊長機がマーク・“アルバイター”・テイラー大尉、2番機がマーカス・“ガーディアン”・フォスター中尉、3番機にロイ・“バーガー”・ウィリアムズ少尉。