DIARY OF MERCENARIES: THUNDER RUNNERS   作:コルディアムに脳を焼かれた阿慈谷ヒフミ

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伸びない


UPRISING
MISSON7 LIBERATORS


暴力革命

 

OPERATION:NONE

November 15, 2024 1158

Place:Port Angeles Central Mall

 

ショッピングセンターに向かえ

 

ルイス・“エレステナー”・コール少佐

 

 

共同生活を始めてはや3日。今のところ特段問題なく生活出来ている...という訳では無いのが実情だ。別に不祥事を起こしたとか何かぶっ壊したとかそういうのじゃない。1番起こしそうなジュラーブリクは意外にもその辺りを弁えていたし、なにより4人とも家事を手伝ってくれたのが非常に助かった。特にベルクトは手際がとても良かった。風呂掃除やメシ作りも非常に楽になった。

 

メシ作りと言えば、4人の最初の夕飯は俺が日本で覚えてきたハンバーグだった。このアメリカ合衆国という国においてハンバーグだけで食うなんてことはよっぽどないから、初めてローバック辺りに食わせた時はこいつ何やってんだみたいな顔で見られたっけか。今じゃ待ってましたと言わんばかりに食いつくが。ちなみにアニマ4人にも好評だった。いやぁ、美味しかったならなにより。

 

脱線している場合ではない。ここまでなら何事もなく見えるだろう。だが一日目の夜にして最悪の事に気づいてしまった。

 

──替えの服がない。4人とも、ずっとこっちに来た時の服装でいた。流石に途中でなにか替えを買っていると思っていたが、なんということでしょう、金を節約するために買っていなかったと言うではありませんか。なんとかクリーニングとか宿で貸し出された服で凌いでいたらしい。なんてことを。生憎とこのアンクル・ターナー飛行場に置いてある服はパジャマと野郎2人の着替え、それに作業着とパイロットスーツ二着のみ。レディ4名様に合う服があるわけなかった。当たり前だが下着も。流石に野郎の下着を穿かせる蛮行に及ぶ訳にも行くまい。更に最高(クソッタレ)なのは、ここがワシントン州オリンピック半島の中でも辺鄙な所にある、ということだった。アンクル・ターナー飛行場の前身、マーズバーグ空軍基地は実験飛行場という性格が強かったため、あまり常駐することを考える必要がなかった。だからこんなに辺鄙な所にある。

 

まぁつまりどういうことかと言うと、急いで替えの服を買える状況でもなかった、ということだ。

 

もちろん地獄だった。よりによって気づいたのがベルクトとファントムが風呂に入った後なのも更に拍車をかけた。ああ天よ我を救い給えと願ったもんだ。ベルクトとファントムがどうしようもなくて涙を流していたのはあまりに哀れだったし、入る前に気づいても結局アウトだということには変わりはなく、絶望に満ちていたパクファとジュラーブリクも見るに堪えなかった。

 

その日は、結局俺の服を着せた。下着はどうしようもないので、まぁそのままでいてもらった。翌日の洗濯ではこれ以上なく徹底的に洗いに洗った。

 

2日目に買いに行こうとしたが、ちょうどその日はバカアホマヌケの空軍司令部に呼び出しを食らっていたので行けなかった。パジェットの親父ィ...

 

じゃあターナーに頼もうと思ったがちょうどその日にハンヴィーを車検に出していて行けなかった。やっぱりこの死に損ないはさっさとくたばるべきだ。今からでもファルーフ・アル=バシールを地獄から引っ張り出してくるべきか。

 

結局この日も前と同じく俺の服を4人に着せることになった。最初着ていた服はまだ洗いきれてなかった。いい加減俺も泣きたい。ファントムには変なことに使わないでください、とか言われたし。なんなん、俺って変態親父に見えてるの。悲しすぎるんだけど。

 

とまあ、色々あったが本日11月15日はなんとか時間が出来たので、食いもんを調達するついでに服を買いにいこう、という訳だ。

 

流石に野郎の服を着てるんじゃ見た目がヤバすぎるのでやっと洗い終えた最初に着ていた服を着てもらった。まぁしかしパクファに関してはクソ目立つ。なんてったってエプロンドレスだぞ。今の時代にエプロンドレスを外で着る人なんているの。

 

「はぁ、ようやく自分の分の服を買いに行けます。今までは拷問でした」

「ファントムさんや、それは他人のを着る事が拷問という意味か?それとも俺のを着るのがって意味?」

「ご想像にお任せします」

 

たった3日いただけだが、分かったことがある。ファントムはどうしようもない腹黒ってことだ。息を吐くようなローバックへの暴言──来ている途中はそんなこと無かったらしい──に、ターナーのメシへの辛辣な評価──あまりの酷さにターナーが整備の仕事を放棄して寝込んだ──、挙句の果てには人様のPCをハックして情報を握ろうとしたことには流石に恐怖を感じた。PCにはクソコラ中心のどうでもいいデータやゲームしか入ってないからやられて困ることは無いが。自分で清楚系だとかほざいていたが、何が清楚系だ。What an idiot!(バカか てめぇは)

 

とりあえず買いに行くのに向けて準備する。俺らPMCはいつでもどこでも武器の携帯が許可されている。グレネードから銃、果ては無反動砲まで持ち運べるんだから特権階級という感じがしてとてもいい。NRA(銃器マニア共)も泣いて喜ぶだろう。与えられた権利は行使すべきってことで、まぁ何があるかわからんからサイドアームのGlock 17とメインのSR-16 LMG──そう勝手に呼んでるだけのSR-16のフルカスタムライフル──を持っていく。マガジンはSR-16用の60連を2つ、グロック用を2つ持っていく。必要性には疑問が残るが、M67 フラググレネードとM18 スモークグレネードも1つずつ持っていく。アーマーは...まぁいいか。一部のPMCは普段からアーマーをつけてるのもいるが、買い物に行くとなるとなかなかキツい。1枚何kgもするからな。私服に関してはセンスゼロを自負しているので、適当にクローゼットに突っ込んであったズボンとTシャツを着ることにする。真っ黄色のTシャツに、よく分からん文字が書かれたズボン。いやぁ、その手の人に見せたら憤死しそうだ。多分。最後に応急処置用のIFAK IIをベルトに括り付ける。まるでやってることは民兵だ。

 

愛車のピックアップの鍵を開け、車で待つ。女性のお出かけの準備というのはなかなか時間がかかるらしい。ファントムと話した時にはもうほとんど準備出来ているように見えていたが。

 

「よっ、待たせたな」

 

最初に来たのはジュラーブリクだった。何となくだけど服に頓着無さそうな気がする。助手席に彼女は腰を落ち着けた。

 

「他の3人は?」

「まだ準備中。でも、ほとんどできてたと思うからすぐ来るんじゃないか」

「ん、分かった」

「せっかく行くんなら、あんたに選んでもらうのもありかもな」

「俺コーデのこと何も分からないんだが。それに女性の服に口出しはしない方がいいんじゃないのか」

「冗談だって。あんただって別で買い物するんだろ?邪魔しちゃ悪いしな」

 

普段だったら食い物を調達するのにわざわざポート・エンジェルスまでは行かない。これから行くとこは整備計画かなんかで出来たデカいモールで、なんか色々入っているらしい。わざわざモールまで行くのは4人の服を買うのが目的だが、そうか、自分の分に何が買っていくのもありかもしれない。言われて気づいた。...そういえば、機体に乗せていたラジオがぶっ壊れかけていた。新しいやつを調達したほうがいいか。確か家電の店もあったはずだ。

 

ずっと待ってるのも面倒なもんだから、シートを倒してすこし目を瞑ろうとする。横目に、ジュラーブリクがじっと覗いてきているのが分かった。

 

「どした、俺の顔になんか付いてるか」

「...あんた、やっぱり冴えない顔してるな」

 

よりにもよって失礼な発言が飛び出してきたなぁ、オイ!気にしてる分尚更なんだわ。

 

「ちょっ、それはねぇだろ」

「あたしらを倒せるようなやつだから、精悍な顔つきをしてる男を想像してたのに、ゴーグルを取っていざ見てみればどこにでも居そうなやつだったからなぁ。がっかりというか、拍子抜けしたぞ。しかもステレオタイプなアメリカ人みたいな性格してると思ったらそうでもないし、中身に関しては日本人だし」

 

痛いところをついてくるな、このアニマめ。ちょいとばかし制裁を加えるか。

 

「おらっ、そんなこと言うやつはこうだ」

「っ痛ぇ!急にデコピンしてくるな!せめて手加減しろ!」

「お、おい!車が荒れる!動き回るなって!」

「うるさい!報復するまでは止まらないぞ!」

 

ガムのボトルは倒れ、ドリンクホルダーは外れる。猿同士の愚かな争いか。

 

しばらくの取っ組み合いの末、2人で外をチラッと見て気づいた。まだ来ていなかった3人も来ていた。フリーズ。

 

「....」

「....」

 

ドア1枚のみがこの微妙な雰囲気を分ける生命線。パクファは愚か者を見るような目を、ベルクトは目を覆い...待て、何で目を覆っている。そしてファントムに関してはゴミを見るような目を向けていた。やめろ、その目は俺に効く。

 

ゆっくりと取っ組み合いの体勢から元の体勢へ戻る。同時に外の3人も入ってきた。

 

「まだ3日なのにもうお楽しみ(・・・・)かと。車が揺れてましたので」

 

流石に冗談きついぞ、ファントム。

 

「よ、よーし、出発だ」

 

気を取り直し、エンジンを叩き起す。ポート・エンジェルスまでは途中でハイウェイを使っても2時間くらいかかる。着いたらまずメシだな。適当にかけた曲は、ジョニー・キャッシュの2000年代の前半だか後半の曲だったか。この曲の、雰囲気と言うべきか。それが好きだった。

 

「You can run on for a long time,

Run on for a long time,

Run on for a long time,

Sooner or later God'll cut you down,

Sooner or later God'll cut you down.」

 

覚えている歌詞をそのまま口ずさむ。

 

「『God's Gonna Cut You Down』、それもジョニー・キャッシュ版ですか。また渋いものを聴きますね」

 

そうだ、思い出した。God's Gonna Cut You Down。元は1947年に発表された。今聴いているのは、今は亡きジョニー・キャッシュの死後に出されたもの。しかし、よくもまぁ知っていたものだ。意外と、ファントムは音楽を聞くのが好きなのかもしれない。にしても、こんなアメリカ風味満載な曲を知ってるのは意外だが。

 

西海岸の海が左側に広がる。今日は結構波が穏やかだった。今度の夏には、また海に行きたいものだ。まぁ今度いくなら南部の方の海かハワイに行きたい。それこそハワイなんざ、空軍州兵の相手に出向いたことしかないから、プライベートで行きたいものだ。

 

1時間も走っていたら、4人全員寝ていた。流石に1人は起きているかと思ったが。慣れない生活できっと疲れてだんだろう、ましてや初日からあれでは尚更。穏やかな寝息で自分も寝ちまいそうだ。そうならんようにガムを噛む。事故ったら洒落にならん。

 

さらに40分ほど走ると、ポート・エンジェルス近郊の自然が目に飛び込んできた。まさにアメリカ、という感じの風景。周辺には森があり、遠くには山が見える。ポート・エンジェルスなんて名前がついているように、ここは港町。海の方に目をやると、小さな舟がいくつか陸揚げされているのが見えた。これぞアメリカ、という感じがして、このポート・エンジェルスの雰囲気が俺は好きだ。あまり高い建物がないのもいい。

 

そんなこじんまりとした港町、ポート・エンジェルスに恐ろしいほど似合わないモダンなモール。ポート・エンジェルス・セントラルモールなんていう安直な名前の複合商業施設が姿を現す。二階建てで背は高くないが、その分敷地面積はクソ広いらしい。迷わないようにしないと。俺は生憎と方向音痴なんだ。なんで何も無い空を飛べてるかは知らん。GPSとINSのおかげだ、きっと。

 

「おーい、起きろー。着いたぞー」

 

安らかにおねんねしている4人に起きるよう促す。

 

「んん...あれ、ここは...?」

「ふぁぁ...おはようございます...」

 

ファントムとパクファが目を開ける。流石に1時間くらいぐっすり寝てたら、起きるのも大変か。非常に気持ちはわかる。

 

「ようこそポート・エンジェルスへ」

 

ていうかジュラーブリクとベルクトは起きないのか。もう一度、今度は体を揺らしてジュラーブリクを起こす。

 

「んあ...もっと寝てたいんだよ...」

 

ああ、その気持ちよく分かる。ずっと寝てたいよな、ウン。でもそういう訳にもいかん。

 

「終わったらまたいくらでも寝ていいから、な?」

 

そう言うとジュラーブリクは不満そうな顔をしながら体を伸ばした。ていうか俺はガキをあやす親か。

 

後部座席を見ると、ちょうどファントムがベルクトを叩き起したところだった。...うわぁ、普段のベルクトからは考えられないくらい険しい顔してる。イラついてるなぁ、これ。低血圧?低血圧なのか??

 

「....」

 

あ、確定だこれ。間違いなくイラついてる。黙ってこっちに険しい目付き向けてるもん。下手に下ろそうとしたらぶん殴ってきそう。マズイな、何とかして諌めないと。何か飲み物は...ねぇ!炭酸でもあれば無理やりにでも起こせたのに。こういう時はどうするんだ。

 

ふと、俺かまだ3歳とかそこらのガキだったことを思い出す。あの時もベルクトみたいに、スヤスヤ寝てたのに起こされてイラついてたか。あの時、俺は親に頭撫でられてた。何となく、その時はやさしい気持ちになれた。他に手立ては無い、やるだけやってみるか。ていうかやっぱりガキをあやす親じゃねぇか。

 

「ほら、たのしいたのしいショッピングのお時間だ。寝たいなら終わった後にいくらでもいいから、な?」

 

そう言いながら、頭をさする。真っ白な髪は、驚く程サラサラだった。俺の髪はクッソゴワゴワだからちと羨ましい。

 

...あ、髪。髪は女の命っていうじゃねぇか。まずい、特大対戦車地雷どころか155mm級砲弾のIED(即席爆発装置)起動させちまったかもしれん。このファッキン・クソッタレ・ダムバス(大馬鹿)野郎のルイスめ。

 

殴られる覚悟をしながら、恐る恐る顔を覗く。...んんん?おっかしいなぁ、あまり嫌がってなさそうだぞ??10歳近く年上の男に撫でられてるんだぞ?髪をめちゃくちゃにされてるんだぞ?いいのか?

 

「...なんか、優しい気分になれます...もっと...」

 

なろうか。なろうなのか。いや異世界から飛ばされたって時点で大概か。それともこの人が異常...?やだ、こわい。それに、何か周囲の3名様からの視線も痛いぞ。これ以上は危険だ。俺のレーザー警報受信機が周囲からのレーザーのような視線に飽和されかけている(?)。

 

「ま、まぁ...とりあえず、服を買いに行こう、な?」

 

そう言って手を離す。撤退も時には必要だ。ベルクトは不機嫌そうな顔をしたが、俺個人の安全保障に重大な懸念がある。ベルクトには悪いがコラテラルダメージ(必要な犠牲)だ、うん。

 

なんとか全員を車から引っ張り出し、鍵を閉める。新しく出来たモールは、四角形の枠のような形になっていて、中央部には公園がある...という配置らしい。なるほど、外から見ると確かに箱みたいだ。随分とモダンな見た目をしていると言ったが、最近よく言われる自然との調和、というのもある程度は考慮されているらしい。所々にツタや木が生えている。繰り返しになるが、「ポート・エンジェルスの自然」には全く合っていない。あくまで人の手の入った自然のような何か、というのが前提だった。

 

4人を連れて、モールの中へ入る。構造的に狭いかと思ったが、そんなことは無かった。普通に通りは広いし、店舗も十分な広さがありそうだった。内側の公園側はガラス張りになっていた。目を向けると、子供たちが遊んでいたり、老人が談笑しているのが目に入ってくる。こういうのいいよな。俺はそう思う。

 

...ここで、本日2度目のレーザー警報受信機が作動する。今度は4人じゃない、もっと多くの視線。ことここに至って、俺は遥かに背丈も、歳も違う──認めるのはなんか腹立つが──美少女4人と歩く、不審なおっさん(しかも武器携帯)という立場にあることに気づいた。

 

んん??まさかとは思うがこれ通報されるのでは??俺はロリコンじゃねぇってのに。

 

そこからは早かった。

 

「悪ぃ、俺用事出来た!あばよ!」

 

急いで1人300ドルずつ渡して退散する。ジュラーブリクがなんか言ってた気がするが気にしない。ここは兵法三十六計逃げるに如かず、全速力で後退開始。戦域を離脱するのだ。

 

なんとか離脱に成功した。まずはメシを食らうつもりだったが、こう離れ離れになるとそういう訳にもいかん。まずは自分の買い物を済ませることから始めるべきだろう。

 

さっき、このモールは四角形だと言っていたが、実は正確には異なる。フードコートと食料品売り場だけは四角形から突き出たようになっているのだ。ソースはマップ。

 

とりあえず食料品売り場のある、東の方へ向かうことにする。間には服や工具、果ては銃器やオカルトグッズ専門店なんかがあったが、今の俺は別にそういうのに世話になりたい訳じゃない。ていうかこんなリベラルが考えてそうなモールなのに銃器ショップもあるのかよ。

 

「...だから、今こそ強いアメリカを!世界の盟主としてのアメリカが必要なのです!」

 

突然、演説のクソデカボイスが聞こえる。声は...内側の公園区域のコンサートホールか。目を向けると、鬼気迫った表情で、誇大表現を繰り返す政治家の姿があった。旗には「Party for the Great Patriots」(偉大なる愛国者らのための党)、通称愛国党の文字とマークが描かれていた。

 

(よりによって限界保守の愛国党かよ...)

 

愛国党。名前からもわかる通り、アメリカの愛国者を名乗る人間で構成された党。その思想はごくごく過激で、手始めに朴正煕もあの世で震え上がるレベルの滅共思想──ジン・ジエが首席になったことで西側との歩み寄りを始めた中国にさえそれは向けられている──に軍国主義とも言える極端なアメリカ軍の拡大、挙句の果てには人種差別思想によるものと思われる、有色人種差別とも取れる行動、PMCの軍からの排除、とち狂った陰謀論に加えてロシアの根本からの破壊を主張(恐らく連中が政権なぞ取ろうものならTNOの第三帝国もびっくりな爆撃作戦をやりかねん)といった、この世の終わりのような思想の肥溜めと化している。アメリカ軍の拡大にしろ60年代へのカムバックにしろ、どれもこれも俺からすれば仕事という意味でも、生存権という意味でも脅かされて良くない。流石にこんなとち狂った政党支持するやつなんぞいないと思ったが、元トランプ支持者や過激思想持ち、2020年の戦乱を目撃した者らによって支持を広めている、らしい。いやぁー乱世乱世。笑えんけど。

 

まぁ、確かに今の世の中はいい状況ではない。ロシアの急速な崩壊や、親西側的な平和思想を持つジン・ジエの中国国家主席就任は、パワーバランスと経済の破壊をもたらした。不況に国民は喘ぎ、世界では戦乱が絶えず、そこにはPMCが関与していることもまた事実。

 

国が不安定な時、国民は強い国を、強いリーダーを求める。その結果が、あの狂気なのだろう。狂気には巻き込まれたくないものだが。

 

マヌケ(優越感に浸るバカ)共はつとめて無視し、食料品売り場へと歩を進める。

 

売り場面積、約7000㎡。広大な食料品売り場は、コストコとまでは行かずとも、十分すぎるほどの品揃えを確保していた。一応、何を買うかはベルクトとターナーが相談して決めてくれた。前までは俺とターナーでやってたから、他人に任せられるようになって楽なことこの上ない。

 

手始めに朝食用のやつ。今までは適当にシリアルとかをベースに、たまにマトモなメシを食らっていくスタイルだったが、2日前からベルクトが料理してくれるようになったことで、いわゆるアメリカン・ブレックファストに毎日ありつけるようになった。まじ謝謝。神様仏様ベルクト様という他ない。

 

アメリカ人の朝飯にはオレンジジュースが欠かせない。てことでまずは偉大なるトロピカーナのオレンジジュース。前に4人に飲ませたゲロ甘じゃあない。ちなみにあれはいろいろ混ぜて無理やり全部飲みきった。このトロピカーナはドリンクサーバーとかに使える特大サイズ。なんで配達を頼まないのかって?あんな辺鄙なとこに届けてくれるような業者はいねぇってことだクソッタレが。てかうちのドリンクサーバー個人で中古のやつ導入したやつだし。

 

続いてパン。フレンチトースト用のアルテサーノとサンドイッチ用の奴を買った。これだけでも量がエグいが、ここから卵にベーコン、野菜とまだまだ必要なものは多い。信じられるか、6人分の飯を1週間分だぜ。戦争マニアなもんだから鍛えといて助かった。

 

そして肉!アメリカ人にとって肉は大切らしい。俺は移民だからそこまでだが、それでも肉はやっぱり好きだ。生憎と歯がクソザコなもんだから柔らかい肉ばっか買うが、そんなんだとどうしても価格が跳ね上がる。仕方ない、俺の歯の為だ...。

 

んでさっき言ったベーコンや、サンドイッチ用のハム、そしてBBQ用の炭もお買い上げ。まだまだ買うもんはある。服も買ったらピックアップに入り切らん、なんてことはさすがにないと思うが、一気に6人にがひとつ屋根の下暮らすことになった以上、いつか入り切らんことがあるかもしれん。そろそろトレーラーも買うべきか。

 

続いて野菜。まぁレタスとかトマトでも買えばいいだろう。あぁあとコーンとニンジンにジャガイモ。アボカドは買わねぇ。某BBQ系YouTuberが言うには「牛や豚は育つ過程で野菜を食う。よって、肉を食えば野菜を食ったことになる」らしい。全くもって同感。

 

それと缶詰。オレンジやパイナップルの缶詰を買っていく。ちなみにターナーはパイナップルビザを認めてない。1回それでピザ屋で俺たちが暴れ回ってサツの世話になるとこだったのを思い出す。今考えても愚か者以外の感想がない。

 

最後に卵。たまにTKGが食いたくなるが、アメリカの卵なぞ日本に比べたら何があるか分からんから生で食えたもんじゃない。悲しいなぁ。

 

とりあえず買いたいものは全部ゲット。後はレジにGO。

 

「お会計は155ドル23セントです」

 

高ぇ。流石リベラルで草食系のおしゃれ野郎どもが作ったような店だ。きっと色々かかってるんだろう。死ね!

 

とりあえず大量の飯は買い込んだ。次はラジオでも買うか。

 

今のご時世、ラジオというものに種類はあまりなく、選択肢はそれほどない。はぁ、機体の無線でラジオ電波傍受できりゃ良かったんだが。

 

とりあえず、色々見てみる。安心と信頼のパソナ...じゃねぇ、パナソニックにテクニカラー、それにソニー。一体何がいいんだが、見当もつかない。

 

ていうか、持ってるラジオのどこがイカれたかまだ見てねぇや。修理に出した方がいいのでは。

 

ちくしょう、ガキの時から続くもったいない精神が引きずってやがる。全くもっていいんだか悪いんだか。

 

家の近く──といっても車で飛ばして25分くらいはかかるが──に家電屋があった。あそこなら直してくれるか?ぶっちゃけそこまで早急にラジオがいる訳じゃねえし。結局高い買い物しに来ただけじゃねぇか。死ね。

 

「はぁ...荷物はクソ重いし、せっかく2時間飛ばして来たのに何も買いたいものが思い浮かばん...」

 

特大の荷物を持って家電屋のスペースから出る。家電についても困ってる訳でもないし、小物関連もそこまで欲しい訳では無い。俺は意外と物欲がないのかもしれない。大方興味がない分野にはとことん興味無いだけだろうが。それはそれでなんか悲しい。

 

 

 

「ふぃー、生き返るぜ」

 

という訳で、少しばかり疲れたのでモールの一角にあったスタバに入る。おしゃれ野郎は嫌いなのに、なんで入ったんだって?スタバは言われてるほどおしゃれ野郎が屯してる感じは無いけどな。

 

ガムシロを2個ぶち込んだアイスコーヒーのトール。それにベーグルを食らう。そういえば、フードコートで飯を食うのを忘れてきた。こんなのが昼飯代わりか。なんか急に虚しくなってきたぞ。

 

「はぁっ...はぁっ...エ、エレステナー!やっと見つけたぞ!」

 

コーヒーを飲もうとストローに口を付けた瞬間、少女の大声が響く。周囲の目線がその1人に注がれる。あのオレンジの髪、ジュラーブリク。何かやらかしたのか。俺を見つけた彼女はずんずんと俺の座っているテーブルへと歩を進める。

 

「ん、ジュラーブリクか。なんかあったか」

「まずは急に金渡して逃げたことを追及したいけど、それは後だな。そんなことより、パクファ見なかったか」

 

パクファ。あんなエプロンドレス着た上に玉虫色の髪してる女が居たら間違いなく気づく。

 

「いや、見なかったが。パクファがどうかしたのか」

「なんとかあたしらは服を買えたんだが、エレステナーを探しだそうって時にパクファがいないことに気づいたんだ」

 

ステルス機らしいなぁ、おい。まさに神出鬼没...なんてふざけてる場合でもないか。このモールはクソ広い。探し出すのはなかなか難儀しそうだな...

 

「で、俺に助けを仰いだと」

「そういうことだ」

 

また厄介事を。あいつはガキの頃の俺か。全くもって面倒この上ないし、この大荷物を抱えたままうろつくのはなかなか苦行だ。だが、そこで断れるほど俺の心は冷徹ではなかった。

 

「...で?あいつが行きそうな場所は?」

「いくつか当たってみたけど、そのどこにもいない」

「その言い方だと、まだ行ってない場所がありそうだな」

「その通り。あと残ってるのは、バルコニーと屋上」

 

マップを思い出してみる。なるほど、バルコニーと屋上への入口は全く正反対だ。

...そういえば、さっきジュラーブリクは服を買っている間にどこか行ったって言ってたな。

 

「ジュラーブリク、パクファがどっか行く前、あいつ服買ってたか」

「いや...それも分からない」

「お前らが服屋にいた時間は?」

「20分ちょいだと思う」

 

うーん。この感じだと、気に入ったのがないから別の服屋に行ったって線がありそうだな。

 

地図を引っ張り出し、2階のフロア全体図の描かれている部分を見る。バルコニーの近くにデカめのスペースが確保されている服屋がある。ここにいるかもしれない。

 

その事を伝えると、ジュラーブリクは合点がいった、というような顔をした。

 

「んじゃ、あたしが屋上の方行くから、エレステナーはバルコニーの方行ってくれないか」

「それはなぜ」

「大荷物持ってるんじゃ大変だろ?」

 

こいつはありがたい。ジュラーブリクの配慮に感謝し、バルコニーへは俺が行くとするか。

もちろん、その前にコーヒーを飲みきってから。

 

その間に、ジュラーブリクは先に行くと言って、スタバを出て行った。

 

コーヒーを飲み干し、また大荷物を抱えてバルコニー──正確にはバルコニー近くの服屋──へ向かう。幸いバルコニーはスタバから出て2つ3つテナントを越したらある階段を登ればすぐに着く。

 

大量の荷物にゼーハー言いながら登りきったところで、ガラス張りのバルコニー入口へ目を向ける。

 

──玉虫色の髪をした、エプロンドレスを着た女と、オレンジ色の髪をした女がいた。なるほど、俺の予想は大当たりだったらしい。パクファの手には、バルコニーの隣にあるファッションブランドのロゴの描かれた袋が握られていた。

 

「よ、探したぜパクファさんよ」

 

パクファとジュラーブリクが振り返る。

 

「あ、エレステナー。探してたんですかー?」

「おいおいジュラーブリク、協力者のことは伝えてないのか?」

「悪い悪い、話し込んじまってたんで忘れてた」

「なんてひどいことを」

 

俺が思いつかなかったら未だに走り回ってただろうが。

 

「他の2人はどこにいるんですか、ジュラ姉さん?」

「お前を探し回ってるよ。といっても、時間になったら元いた服屋に戻るよう言ってあるけどな」

「戻るのは何時だ?」

「15時30分。もう25分だから戻った方がいいな」

 

ジュラーブリクの言葉に、パクファが同意する。誰のせいだと思っている。

 

とりあえず3人で戻る。戻った先の服屋はモールに入ってすぐのところにあった。既に、ファントムとベルクトは戻っていた。俺たちがパクファを連れて戻ったのを見て2人は驚いたようだった。

 

「あら、見つけたんですね。私たちの苦労はなんだったんでしょうか」

「トゲトゲした言葉遣いはやめような」

 

ファントム、やはり腹黒いな。ひでーやつ。にしても肝心のパクファが何も気にせず、イベント用電源と思われる高圧電流って書かれてる機械にもたれかかってんの面白いな。感電しないように気をつけろよ。てかなんでこんな道のど真ん中に置いてるんだよ。もっと置き場所あるだろ。

 

もうやることは無い。そろそろ帰ろうと思い、体を外の駐車場に向ける。

 

──様子が変だ。バンが何台も急に飛び込んできた。カラーも車種も統一されていない。雑に、パーキングスペースにすら入れていない。同時にヘリのプロペラ音──恐らく2機ほど──も聞こえてくる。

 

「い、一体なんなんです!?」

 

ファントムが狼狽える。──オーイオイ、これなんか嫌な予感がするぞ。

 

バンから男たちが飛び降りてくる。全員バラクラバを付け、プレートキャリアを身につけ、手にはUZIやらAR-15やらAKやらを持っていた。

 

(あ、アカン。これ本気でヤバいやつだ)

 

「クソッタレ、全員遮蔽物に隠れろ!」

 

遮蔽物に飛び込み、SR-16に60連マガジンを叩き込み、ボルトキャッチを叩く。

 

──銃声。同時にパチッという大きな音が聞こえる。電気の弾けた音。

 

──まさか。さっきまでパクファがいた方を見ると、彼女は体を震わせ倒れていた。高圧電流と書かれた機械が銃弾に貫かれ、漏電を起こしている。

 

(あーあークソッタレ!最悪だ!)

 

急いで機械のパネルの「POWER」と書かれたスイッチを銃身を使ってオフにし、パクファを引きずり、服屋のテナントに引きずり込む。その間にも、グロックのマガジンを装弾、片手で牽制射撃を繰り返す。

 

引きずり込んだパクファは、体が小刻みに震え、髪も少し焦げていた。まずい、かなりの高圧電流を食らってるぞ。脈を確認。クソッタレ、心停止してやがる。

 

「誰か!持ってこれるやつはAEDを持ってこい!」

 

こんな時はどう対処すべきか。何とか思いだす。まずは胸骨圧迫、そして人工呼吸のコンボか。

 

「ジュラーブリク、ベルクト、それにファントム!パクファに心臓マッサージと人工呼吸!俺はクソ野郎を蜂の巣にしてくる!やり方は分かるな!」

 

さっき周りを見たが、戦えそうな奴はいなかった。俺以外には。ならば俺がやるしかあるまい。牽制射撃を行ったので一旦引っ込んだらしいが、連中はすぐ戻るだろう。

 

M67 フラググレネードを用意。連中の体に破片を浴びせてやる。安全ピン解除。2秒経つのを心の中で数え、エントランスにいる連中に放り投げる。

 

すぐさま爆発、その勢いに乗って俺も体を出す。敵は...くたばってるのが6人、見える範囲にいる奴は4人。隠れてる奴もいることを考えると、倒し切るのはかなり難儀しそうだ。

 

射撃モードをフルにしたSR-16から、イスラエル製の高貫徹5.56mm弾が発射される。1人、続いて固まっていたもう2人排除。すぐに対応射撃が残った奴から放たれる。なんとか間一髪で壁に隠れられた。

 

パクファがどうなっているか確認しに、テナントへ戻る。──ダメだ、心臓マッサージは回数が少ない上に人工呼吸に至ってはそもそもしていない!

 

「代われ!俺がやるのを見てろ!」

 

強く、素早く、押し込んだらすぐに戻す。この心臓マッサージを繰り返す。女の胸を触ってるが、んなもん知ったことじゃない。命の危機だ。30秒ほど続けたら人工呼吸。おそらく感染症の危険は無い。息を吸い、胸が膨らむまで送り込むのを2回。

 

「見てたな!?俺は戦いに戻る!さっきから言ってるがAEDは!?」

「あるにはあるんですが、エントランスを挟んで向かいです!取りに行けません!」

 

店員が反応。クソッタレ、最悪だ。

 

「なんとかして取りに行く!お前ら、パクファをくたばらせたくないんなら今のをサイクルを続けろ!心臓マッサージは30秒、そして人工呼吸は2回!」

 

マップを思い出す。確か、少し行けば2階への階段があったはず。そこからなら向こうへ行けそうだ。何より、上から連中を撃ち下ろせる。

 

──あった。階段を全速力で駆け上がり、2階へと進む。

 

なんとかエントランスの連中の上を取れるポジションを確保。バレないように匍匐する。さっきヘリコプターの音が聞こえたが、恐らくヘリボーン部隊、つまり別の連中が屋上から来るだろう。ここは屋上から2階への入口からは離れているが、いつここに連中が来るか分かったもんではない。手早く片付ける必要がある。

 

敵を確認。残敵は5。手早く片付ける。

 

立ち上がり、まずは手前の奴の脳天に1発叩き込み、続いて物陰で隠れている奴に弾幕を浴びせた。エントランスの自動ドアに陣取った2人組を撃ったところで弾切れ。マガジンの最後の2発に仕込んだトレーサー弾が発射されたことで、それは確認できた。同時に残った野郎に反撃される。なんとか後ろに飛び退く。相手からの制圧射が続く。

 

「おいおい、ミッション:インポッシブルか何かかよ!」

 

全く生きているのが奇跡だ。落ち着いてSR-16をリロード。もうマガジンはない。あとはグロックが予備マガジン含めて恐らく27発程度、それが尽きたら終わりだ。

 

制圧射撃が止んだタイミングで再度舞い戻り、制圧射を加えてきた野郎を始末するが、ここで増援に気づく。いつの間に現れた?

 

そいつらにも銃弾の雨を浴びせ、とりあえず5人はやった。

 

──コトン。対応射撃の中、異質な金属音が鳴る。足元を見ると、グレネードが一つ転がっていた。──ピンが抜けている。

 

「クソッタレが!」

 

下から投げられたらしいグレネードを蹴り落とす。すぐに爆発音が響き渡る。増援をやったか?

 

思い切って、確認の為エントランスのソファ目掛けて飛ぶ。高所恐怖症のはずなのに、こういう時は都合よくアドレナリンが出て恐怖を無くしてくれるらしい。

 

「いてて...何とか生きてるな」

 

顔から突っ込む形にはなったが、フカフカのソファのおかげで無事着地。骨は折れて無さそうだ。五体満足、助かった。連中がいた方を除くと、既に増援含めて全員事切れていたようだった。グレネードが自分に返ってくるなんて思いもしなかっただろう、少し可哀想な奴らだ。慈悲はかけんが。

 

(ってヤベぇ!AEDのこと忘れてた!)

 

こうしている間にもパクファの命は危ないことになっている。恐らくAEDは人目に付く場所にあるはず。周囲に目をやると、テナントとテナントの間の柱にAEDが取り付けられていた。

 

お宝発見、急いでぶんどり、パクファたちのいる方へ全力ダッシュする。

 

「ブツを見つけた!パクファの容態は!」

 

ジュラーブリクが必死に蘇生を行っていた傍らで、それを見ていたファントムが振り返る。

 

「助かりました!エントランスから来たのがこっちに来て、もうすぐで何をされるか...」

「俺が上から撃ち下ろしたのがお前らの命を救ったって訳か。ってそんなのはどうでもいい!パクファはどうなってる」

「まだ。小刻みにしゃくりあげるような呼吸はしていますが...」

「まだ行き永らえてはいるが、それじゃまだ深刻な状態は脱していないか。AEDで何とかなるか、試してみる。誰か、ハサミ持ってるやつは!布を裁てるやつがいい!」

 

聞いた店員が急いでバックヤードに駆け込み、裁ちハサミを持ってくる。

 

「オーケー、ありがとう!裁ちハサミなら好都合!ジュラーブリク、一旦どいてくれ!」

 

ジュラーブリクをどかせ、ハサミでパクファの服を切る。案外見た目ほど構造は複雑ではなく、切りやすかった。悪いな、後で欲しかったら買ってやるから...。

 

服を切り終えると、下着が露になる。ここで躊躇している暇はない。右肩にかかるブラジャーの紐を下ろし、若干ブラジャーをずらす。

 

AEDの電源をON。さっさと電極パッドを指定の位置に貼り付け、心電図の解析をさせる。

 

電気ショックの必要を知らせるアナウンス。

 

「全員パクファから離れろ!」

 

離れたのを確認。まもなく充電完了を知らせるメッセージ。直ぐに電気ショックのスイッチを押す。パクファの体が跳ねる。

 

AEDは付けたままCPRを再開。

 

「頼む...動け...!動け...!!」

 

CPRに集中していて気づかなかったが、銃声が近くなってきている。また持ち場を離れる必要があるかもしれない。

 

そう思いつつ人工呼吸をしていた時、うっすらとパクファの目が開いたのが見えた。

 

「...!パクファ!おい、聞こえるか!?エレステナーだ!」

「...んん...あれ、なんで...エレステナーにキスされて...」

 

よーしOK!意識が戻った!ひとまず急場は脱した!

 

「パクファ!大丈夫か!」

「ジュラ...姉さん...!私、何をして...」

 

なんとか助けることは成功した。だがやるべきことはまだある。

 

「ジュラーブリク、パクファの面倒を」

「あんたはどこ行く気だよ!」

「まだアホ共が残ってる!残りが来るのも時間の問題だ!」

 

すぐにヘリボーン連中は来るだろう。奴らを排除する必要があるし、その前にも弾薬を確保する必要がある。弾は倒した奴らからはぎ取ればいい。

 

死体の海の方へ向かい、5.56mm STANAG規格マガジンを持っているやつを探す。俺の手持ちのマガジンポーチ的に30連4個が限界だ。

 

すぐに、未使用のマガジンを持っている奴を見つけられた。都合よく4つ持っている。

 

(マグプルのP-MAGか。あまり高いもんじゃねぇが、こんなテロリスト連中が持ってるのはなんだか不思議な絵面だな)

 

奪ったP-MAGを眺めつつ、パクファ達のいる方へ戻りながら考える。にしても、こいつらはなんでこんな上等な装備を持ってるんだ?一体資金源は──

 

そう思った瞬間、何者かに突き飛ばされたかと思えば、すぐに銃声が鳴り響く。なんとか受け身をとった先はソファの影だった。連中が来たか──急いでSR-16をリロードしようと構えると、先程まで付いていなかった鮮血が銃のレシーバーにまみれていた。はっと後ろに目をやると、足から血を流しているベルクトがいた。

 

「ベルクト!?なんでここにいるんだ!?」

「エレ...ステナーが歩いてて...向こうに、銃を持った人たちが...気づいたら、考えるより早く...」

 

なんてこった。まさか俺の身代わりに...?不注意でベルクトの命を危険に晒しちまった。俺のバカ、と罵りたいが今はその時じゃない。ベルトに付けておいたIFAK IIをベルトから外し、中身を取り出す。もちろん連中へのグロックの牽制射も添えつつ。あーあ、貴重な9mmも残り10発程度だな、こりゃ。

 

クソ、1日で2人の病人の面倒を見ることになるとはツイてない。それにこの出血具合、こいつは大動脈をかすったかもしれん。ただの負傷者ならまだしもこいつは面倒だ。厄介事ばかり続くなぁ、今日という日は!

 

キットの中から包帯を選び、ベルクトの足の部分に押し当てながら、CATターニケットで足を縛り上げる。ちょっとワンピースの中に手を突っ込むことになるが許せ。訴えたいなら後でいくらでも。こうして処置する間にも銃撃は止まない。出来るもんならソファに足を上げて、傷口をできるだけ高いところに持っていきたいが、まぁこの銃撃の中じゃ無理だわな。

 

「よし、とりあえずの処置は大丈夫だ」

「あり...がとう...ございます...」

 

まずいな、だんだん意識が朦朧としてきてる。

 

「おい、気をしっかり保て!心で負けたら終わりだぞ!」

「..は..い...」

「生きたいか?死にたくないか?またジュラーブリク達に会いたいなら、その気持ちを何よりも大切に持て!意識を手放すな!」

 

ちゃっちゃと片付けないと本格的にまずい。ベルクトもまずいが、このソファももう蜂の巣だ。いつ貫通をくらうか。連中は一般人への襲撃を想定してホローポイントを使っているようだった。FMJ(フルメタルジャケット)より貫通力は低いが、何発も撃ち続けりゃ、そりゃなあ。

 

忘れていたSR-16のリロードを行う。銃撃が止んでくれるタイミングを待つが、リロードの隙を上手くカバーしてこちらを釘付けにしてやがる。無駄に上手く立ち回りやがって。こんなだったらさっきの奴らからグレネードも持ってこりゃ良かったな、多少は混乱させられたかもしれない。こんちくしょう。

 

──グレネード。俺にはまだひとつある。M18 スモークグレネード。本来は着陸目標の指示に使ったりするやつだが、目隠しにもなるだろう。使い所がこんなところで出てくるとはなぁ!

 

カラーは緑。白色より多少は見づらいか?もう判断の時間はそう残されてはいない。こうしている間にも銃弾はソファを切り裂いている。一か八か、かける他ない。

 

I'm nading!(グレネードを投げる!)

 

おっと、グレネードを投げるといってビビらせるつもりがゲームのスラングの方が出ちまった。俺もマクミランのことをとやかく言えない。

 

途端に銃撃が止む。スモーク越しではまるで見えない──構造的に他のモールに比べ通路が狭いから、尚更スモークは濃くなる──し、下手に撃って位置バレしても仕方ないという判断か。全く都合がいい。

 

「よいしょっと!」

 

SR-16をベルトに付けたフックにぶら下げ、ベルクトを抱える。血が出ないよう、つとめて足は心臓より高く。にしても軽い。

 

なんとか元いた服屋のテナントまで戻ることに成功。すぐにジュラーブリクが駆け寄る。

 

「ベルクト!ベルクト!大丈夫か!しっかりしろ!」

 

さっきのパクファといい、仲間にはとことん篤いのがこのジュラーブリクというアニマなのかもしれない。

 

「すまない、俺のせいでベルクトを危険に晒してしまった。謝っても謝り切れない」

 

俺が謝罪と言うにはあまりに足りないものを言うと、ジュラーブリクはこちらに振り返る。彼女の目からは涙が零れていた。

 

「...ッ!」

 

こちらを一瞬睨んだかと思ったが、すぐにまた泣き顔に戻る。睨まれるどころか、殴られても文句は言えないが、そこで堪えたのはもはや殴る気すら起きない、ということか。

 

「...無責任な事だが、俺はまた戦いに戻る。傷口をできるだけ高く上げて、包帯かなにかで傷口を圧迫してくれ。そうすれば出血はある程度抑えられる」

 

全く自分でも無責任極まりないが、一方で戦えるのが俺しか居ないのも事実。にしてもSWATはまだ来ないのか?流石に誰か通報してるはずだが。

 

ないものねだりしたって仕方ない。さーて、ここからどう戦うかね。もとの服屋まで戻ってきたはいいが、戦力差はあまりに大きすぎる。軽く見ただけで数十人はいた。正面切って撃ち合うのは不利だ。かといって、裏を取るにも一旦上に向かう必要があるが、階段の方は連中に確保されている。エントランスを挟んだ方にも階段があるが、既に射撃を再開されていた。この状態で階段まで行くのはリスクが高すぎる。せいぜいエントランスに向かうまでがいいところだろう。

 

待て、上に登るなら外からでも行けるか?外壁にハシゴか非常用階段があれば屋上から回り込めるかもしれない。

 

スモークは持って90秒しか持続しない。判断と行動は素早くするべきだろう。

 

「悪い、また離れる!病人2人の面倒を頼む!」

「お、おい!」

 

悪いなジュラーブリク、本当に。終わったらいくら俺を罵ってもいいが、今だけはどうか許してくれ。

 

僅かに顔を出してスモークの様子を確認する。...よし、まだ残っている。射撃も通路の中央やソファの方に集中している。今なら行ける。

 

素早く店から飛び出し、エントランスへ。僅か1、2m程度の距離だが、その間に撃ち抜かれるかもしれないと考えると、その10倍くらいにも思えた。エントランスの向かいには、スモークが出て外へ出れると思ったのかもしれない、民間人が何人か出ており、その全てが銃弾に撃ち抜かれて血の海を形成していた。クソ、胸糞が悪い。

 

エントランスを出て、外壁を急いで探し回る。ハシゴ、階段、なんでもいいから上に行く手段が...いや、裏に回るなら、外に出たからには裏口的なのでもいいだろう。急いで探す。早く、スモークが切れて俺がいないことがバレたら何が起きるか。

 

──あった。PRIVATEと書かれたドアは、恐らく位置的にはアイツらの後ろを綺麗に取れるようなところにあるはずだ。

 

中に連中がいるかもしれない。そっと扉を開ける。気配はない。積まれていたダンボールの位置からして、ここは雑貨屋か。マップの中で、雑貨屋の位置を思い出す。ちょうど階段の前、連中の後ろを確かに取れる位置だ。

 

急いで進み、店舗スペースへ出る。もしもがあるかもしれない、ゆっくり顔を出す。

 

──居た。MG持ち、1名。まだこちらには気づいていない。大多数からは離れた場所でMGをぶっぱなしている。背には無反動砲を背負っていた。

 

(カールグスタフM4無反動砲?随分と新しいのを...)

 

他の連中にバレたらマズい。ここは銃剣で静かにやるか。サイドレールのOKC Retractable Bayonetを展開。気づかれないよう、ゆっくりと接近する。もうスモークは切れかかっている。さっさとこいつをやって、ほかのも始末する必要がある。──今だ。カールグスタフを避けつつ、首を目掛け、銃剣を突き刺す。

 

首を刺されたMG持ちは、声を発することなく、体の力を抜いていった。足で体を蹴飛ばすようにして強引に銃剣を抜き、続いてカールグスタフに邪魔されながら、胸に一刺し。ざまぁみろ、これで終わりだ。

 

「俺が裏を取る前にこいつ(カールグスタフ)を使っときゃ、まだ生きてたかしれんな」

 

死体からカールグスタフを剥ぎ取り、砲尾を回す。よし、弾は入っているな。安全装置解除、ドットサイトを覗く。最近は撃ってないが、体が覚えているだろう。やってやる。

 

目標は連中のど真ん中。MGの射撃が切れたことには気づいていない。おめでたい連中だ。少し目を覚まさせてやる。

 

「吹き飛びやがれ!」

 

引き金を引き、砲弾が発射されるのと同時に、派手なバックブラストが舞い上がるのを感じる。8.4cmの砲弾は、秒速約200mで連中に飛び込む。

 

──久しぶりに使ったにしては上出来だろう。ほとんどのアホは吹き飛ばせた。たった2人の生き残りも、反撃は出来そうにない。脳震盪かなにかか。ともかく全員ミッションキル。戦闘能力を喪失させられた。もう銃声は止んだ。アイツらだけだったらしい。

 

「おっと...ここでSWATのお出迎えか。全く遅すぎる。やっぱりサツってのは金ばっか食って良くない」

 

サイレンの音が鳴り響く。おそらくエントランスに付けたのだろう、複数の乱雑にドアを開ける音が聞こえる。

 

「動くな、投降しろ!」

「武器を捨て、その場に伏せて頭の後ろに手をやるんだ!」

 

SWAT達が騒ぎながら突入してくる。ほとんど俺がやったんだが。税金食らい共め、後で俺に給料よこせ。

 

「おい、そこのお前!デカブツを持ったお前だ!投降しろ!」

 

おっと、いつの間にか後ろにSWAT連中がいたらしい。

カールグスタフを地面に投げる。

 

「そう騒ぐな。俺はテロリストじゃあない」

「じゃあそのライフルと拳銃は一体なんだ!?ここに一般人の銃の持ち込みは禁止されているはずだ!」

「PMCだPMC。免許見たいなら見せてやる」

 

ポケットに突っ込んた財布を投げ、カード入れの一番最初のとこにある、と場所を教えてやる。一応手を上げとくかね。

 

リーダーらしき男が財布を拾い上げ、カード入れの一番最初のところから免許を拾い上げる。

 

「偽造だと思うなら照合してみるといい。あんたらは警察官用のスキャナーを持ってるはずだ、連邦と地方、全てのデータベースに繋がってるやつをな」

 

リーダーだろう男がスキャナーを取り出し、照合。続いて俺の顔をスキャナーを向ける。

 

「悪かった。どうやらあんたは本当にPMCらしいな、ルイス・コール少佐」

 

誤解は、解けたらしい。

 

 

 

 

「お前たち、大丈夫か」

 

SWAT連中が行っていいというので、まずはアニマ連中が無事か見に行った。ファントムが振り返る。

 

「私たちは、助かったんですか」

「ああ、なんとかな。ベルクトは」

「...なんとか意識は保ってますが、出血が止まりません」

「外に救急車が来てる。呼んでくる」

 

ジュラーブリクは会話を聞かず、懸命に止血に専念していた。もう包帯は切れたらしく、店員が持ってきたらしいタオルで止血していた。

 

救急隊員を呼び、パクファとベルクトを病院送りにする。隊員からは適切な処置だったと褒められた。

 

「エレステナー」

 

言われて、振り返る。ジュラーブリクがいた。

 

「...今回のことは、俺のせいだ。殴るなりなんなりしてもらっていい。俺は抵抗しない」

「...ベルクトがやられた時、あたしはあんたのとこに行ってぶん殴ってやろうかと思った。でも、あんたが懸命にベルクトを助けようとしてるのを見て、バカバカしくなった」

「ベルクトを抱えていった時、睨まれたかと思ったが」

「多分、見間違いだろ」

「...そういうもんか?」

「そういうもんだ」

 

こいつは予想外だ。こっちが罪の意識に潰されそう。いや、本来謝るべきはベルクトの方なんだが、なぁ。

 

なぁ、と突然ジュラーブリクが言う。

 

「ん?」

「...ありがとな。パクファと、ベルクトを助けてくれて。2人ともあたしの妹分だけど、あたしだけじゃ、多分今頃生きてない」

「それは俺も同じことを言わなきゃな。俺1人だったら、間違いなくタスクオーバーで全員くたばってた」

そう言うとジュラーブリクはハハ、と笑った。次に、柔らかい顔をしながら、ちょっとしゃがんでくれと言う。

「なんでだよ」

「...強いて言うなら、あんたは背が高すぎる、ってのが理由かな」

どういうことだ、と思いつつしゃがむ。

 

──瞬間、唇に柔らかい触感を感じる。本日2度目のフリーズ。てか顔が近いし熱を感じる。何秒かたった──俺には何十秒にも思えた──あとに顔が遠くなる。

 

「...知ってるか?ロシアだと、親しい友人同士でキスするんだよ」

顔を赤らめながら言う。

「いや、知ってるが」

「だ、か、ら!今のはそういうのじゃない!挨拶と、2人を助けてもらった礼だ!」

 

そこまで言うと、彼女は後ろを向いて超スピードで逃げ出してしまった。

 

──にしても、随分と乙女なところがあるんだな。

 

 

 

「キスって言っても、唇同士じゃなくってチークキスじゃなかったか」

 

こりゃ懐かれちまったか。もしくはただの吊り橋効果かもしれんが。

 

 

 

「エール」

 

ふと、よく通った声が聞こえる。明らかに俺に向けられたそれは、その声を発した男が俺の事をアメリカに来た当初から知る人間であることを示していた。俺の事をエール──エレステナーを短くしたもの──と呼ぶ人間はそう多くない。

声の方を向けば、若干白髪の混じり出した、しかし精悍な顔つきの、警官の制服を着た男がいた。バッジには、WASHINGTON STATE PATROL(ワシントン州警ら隊)の文字と紋章が描かれていた。

 

「こんなとこで再会するとはなぁ、刑事さんよ」

 

彼の名前はケン・マイヤーズ。ワシントン州警ら隊──他で言うところの州警察──刑事。47歳、元海軍所属のベテラン警官。アメリカでの恩人、ジュリアン・パジェット空軍大将のいとこ。

 

少し話したいことがあるから車へ、と言われた。大人しく付いていく。これは、俺も「ヤキ」ってのが回ってきたのかもしれない。ちと早い気がするが。

 

車の中に案内される。ほら、と水を寄越されたので、ありがたく頂く。

 

「まずはモールでの銃撃戦、SWATが来ないうちに全員仕留めたと聞く。さすがだな、PMC」

「そりゃどーも。で、なんだ。俺を第一級殺人かなんかで逮捕にし来たのか」

「条件的にはニューオーリンズ条約の『PMCの自衛権行使』の枠に入る。それに、仮に検挙してもジュリアンが裏から手を回して止めるだろう」

「ちげぇねえ。じゃ、一体なんの話を?」

 

一体この男は何を話に来たというのか。促すと一転、深刻な表情へ変わる。

 

「...今回の、銃撃事件についてのことだ」

「なんだ、もう分かったのか」

 

まだ起きて全く時間は経っていない。そう分かることも多くないはずだが、と思っていると、ケンは首を横に振る。じゃあなんなんだ。

 

「お前、連中についてなんか変だと思わなかったか」

「変、ねぇ。ただの民兵にしちゃあ訓練も良くされている印象だったし、何より装備が良かったが」

「まさにそこだ。装備が良すぎるんだ。一体なんでだと思う?」

 

全く分からない。PMC崩れか?

 

「分からんな。廃業したPMCがヤケ起こして銃撃を起こしたとかか?」

「それだったらまだ良かったんだがな。単刀直入に言おう」

 

 

 

「全米各地で蜂起が起きている。一部警察隊や州兵、果てはミリシアやギャング連中が一斉にな。それも、おそらくはロシア人の支援で」




人物紹介
マイケル・“サンダーチャイルド”・ターナー少尉
元アメリカ空軍兵。44歳。元々整備兵だったが、29歳の時に空軍士官学校へ編入。以降F-16パイロットとして活動し、38歳で除隊。以降はコネで入手した元マーズバーグ空軍基地を拠点にPMC活動を行っていたが、エレステナーとの出会いを機に再度整備兵に戻る。現在は、自身のF-2DやエレステナーのXF-35Dの整備を行っている。コールサイン、TACネーム共に“Thunder Child”(雷震子)。

MiG-31-2040
航空機の改修を専門とするバーモント・エアクラフト社によるMiG-31の最新改修型。エンジンの特別チューンを行ったF9-IHI-310への更新、レーダーを中心としたアビオニクスの更新、西側・東側両方の最新兵装、JHMCS、最新電子戦システムの統合やアメリカ製照準ポッドの運用能力、機関砲のM61A2への変更、さらに翼形変更による翼面荷重の大幅低減の恩恵による機動性の大幅向上といった、究極のフォックスハウンドといえる改修となっている。派生型には電子戦機バージョンのMiG-31E、後席を潰したスペースへの側視レーダーの設置、高解像度デジタルカメラ・ビデオカメラや測距装置、リアルタイムの目標位置共有システムを搭載した特別開発された偵察ポッドを統合したMiG-31Rが存在する。
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