惑星・ディギング~熱砂と氷結の大地へようこそ、蜂が棲まう蜘蛛の船へようこそ~   作:ジャミゴンズ

15 / 23
十五話 資源が糧

 

 

 

 惑星ディギングを駆け巡るシップの役割とは、シティでは得ることが難しい天然資源を得ることが主要な目的である。

 新たなシティの建設が可能な候補地の選定など、人類の生存圏を広げるための役割なども担っているが、最も重要なのは資源確保だ。

 これまでに鉄や銅などに代表されるベースメタルと呼ばれる鉱物資源や、硫黄や水素といった天然ガスを含む大気資源が得られることが判っている。

 これらを大量にシティへ持ち帰り、太陽光以外のエネルギー源の確保と物資の生産をするのだ。

 宇宙移民船に備えられた、生きている生産プラントは多様な資源を物資に変換し作成することが可能であり、リサイクルも高効率で行う事が出来るのだが、それだけでは限界がある。

 だから、危険だと分かっていても艦に乗って大地の海を駆けているのだ。

 ホーネットによる採掘は地下深くまで資源を求めて掘り起こす。

 事故の例はそれこそ多様で、空気中の水分が酷寒により固められ、氷塊となったものが溶けた水が泥を作り、生き埋めになった例もある。

 地表は乾ききっても、掘り進める中で沸騰した水が間欠泉のように吹き出て、ホーネットが高高度まで飛ばされる事もあった。

 そして今、コウ達が採掘を始めた場所から出土したのは火成岩だ。

 地下深くで熱せられて形成され《土蚯蚓》によって表層まで運ばれてきたのだろう。

 火成岩はダイヤモンドなどを含む鉱物資源にあたる。

 ボーリングを行った平野部から、シップの全面にあるアームバケットで大きく穴を広げ、その後にコウ達が乗っているホーネットが大量の土砂を運搬していった。

 コウは作業知識が乏しいので、土砂の運搬をひたすら続けている。

 単純な作業ではあるが、仲間たちが生き埋めにならない為にも運搬作業はとても重要な項目だ。

 ホーネットの採掘作業には効率が求められるので、なんとも忙しい。

 土砂運びだけとはいえ、手の空いている時は道具を持ってくるように命令されることも多々ある。

 知識不足からか道具を間違えて持っていくこともあるので、上り下りを何度繰り返したのか分からないほどだ。

 コウはホーネットの挙動はもう意識しなくても出来るレベルに洗練された。

 シップが待避している地上まではおおよそ40メートルほどだ。

 らせん状の穴にホーネットが歩ける道を作りつつ、地下へと潜り続けてようやく目的の資源にありつけた。

 4時間以上も土砂を運搬していて疲れてきたところに、ついに現れたのが岩肌の色が違う火成岩であったという訳だ。

 設置された大型の光源によって照らされた岩を見ながら、コウは息を吐いた。

 手首にはめている個人端末から、作業から4時間半の経過を報せる電子音がなった。

 ちょっと違う色の岩だな、という感想しか出てこなかったが、コウ以外の人たちは違う感想を抱いていたようだった。

 

『あたりですね』

『いやぁ、これだけ大きいのはそうそう見ないな!』

『出土量も相当だろう。 儲かるなこりゃ』

『スヤンさん、少し削ってシップに成分の解析を頼みますね』

『そうだな、コウ。 インパクトハンマー持ってこい』

『あ、了解っす!』

 

 岩の表面をホーネットの機体で叩きながら、スヤンの声が飛んでくる。

 目的の資源を得る段階まで来たからか、彼らはどこか浮ついた雰囲気で明るい表情をしていた。

 穴掘り作業中には中空を待っていた高濃度の粉塵が視界を妨げていたが、目的の物が見えたからか掘削作業は落ち着いている。

 水蒸気に土煙にと、晴れる事の無かった視界が開けて、開放感を感じるくらいだ。

 削り取った穴道の脇に作りだされた道具の置き場に辿り着く。

 此処にはシップとの連携を取る為に通信で使っているアンテナも設置されて、すぐ近くにはアンズのホーネットの機体があった。

 

『コウ、どうしたの?』

『インパクトハンマー持ってこいって。 えっと……』

 

 そう言ってコウは土埃だらけのヘルメットのバイザーを左手で撫でた。

 水気に張り付いて、泥の線が無数にバイザーの後に残る。

 何度も擦って視界をクリアにすると、乱雑にまとめられた様々な掘削道具を、眼を細めてじっと見つめる。

 この掘削に使う道具もコウは任されていたのだが、忙しくて放り出したのもあってゴチャゴチャだった。

 

『え……どれだ?』

 

 コウは黙ってホーネットを動かしながら道具を持ち上げたり、降ろしたりを繰り返した。

 バイザーから覗くコウの視線が右に行ったり左に行ったり。

 確か一度使って持って行ったから、形状は何となく覚えているが記憶と合致する物が見当たらない。

 ホーネットの両肩に設置されてるライトを小刻みに動かして照らしてもみるが、どこにも無かった。

 鋼鉄の塊をどかしては降ろし、鉄が地表を打ち付ける音が鳴り響く。

 水蒸気の白煙がときおり噴出し、目の前を白く染めて行った。

 そんな、どう見ても迷走しているコウに気が付いたアンズは、モニターから目を離して眉を潜める。

 

『コウ、うるさい! 気が散る!』

『ご、ごめん!』

『ちゃんと教えたでしょ! 早く持って行かないとスヤンに怒られるからね!』

『分かってるよ!』

 

 意気良く返したものの、インパクトハンマーが見つからない。

 ていうかもう、記憶にあった形状すら朧げとなって自信がなくなった。

 金属の塊にしか見えない道具が沢山ありすぎて、一か所に集められていると何が何なのか混乱してしまう。

 今日一日だけでも、作業道具の運搬を繰り返してる中で観測作業を続けているアンズには何度も教えてもらっている。

 流石に聞き直すのは気まずさが勝る。

 

『―――……い! まだか! ……ろ、馬鹿野郎! 聞いてん―――』

『今行くっす! すぐ行くっす!』

 

 掠れたスヤンからの怒鳴り声が耳朶に響いて、コウは焦った。

 行くとは言ったが手ぶらで戻る訳にも行かない。

 そんなことをしたらシップに戻った時に拳の嵐が待っていることだろう。

 それは嫌だ。

 熱された作業服の中から汗とは違う何かが噴き出てくる。

 

『アンズ――――通信……定してねぇ。 アンテナ―――』

『判ったわ。 中継用の場所を作っておいて。 艦橋』

『通信オーケー。 アンズ?』

『問題?』

 

 アンズの声に応えてシップのクウルとジュジュの声が聞こえてくる。

 ここで使っているアンテナは掘削するホーネットとシップの通信を繋げている物だ。

 地下深くに掘り進むと、電気振動の起こす周波が捉えられずに通信障害を起こす。

 その問題には中継地点を作ってアンテナを都度建てる事でしか、今のところ対処法が見つかっていなかった。

 ホーネット同士、或いはシップが近くに居れば、個別での通信は可能だが。

 

『一本アンテナを建てに地下に潜るわ。 一時的に《土蚯蚓》を捕捉できなくなるから、そっちで監視して欲しい』

『シップ了解。 アンズ、気を付けてね』

『ええ……コウ! アンタ、さっきから何遊んでるのよっ!』

『アンズ! ゴメン! どれか教えてくれ!』

『もうっ! しっかりしてよ!』

 

 シップとの通信中も右往左往していたコウは、結局アンズに頼った。

 機械の指で指示された道具を、コウは急いで掴み上げる。

 

『これか! うわっ!』

『きゃああっ!』

 

 途端、岩盤を穿つ大音響が洞穴の中に響き渡った。

 僅かに穴が振動し、地面が揺れる。

 粉塵が舞い、耳障りな電子音が耳朶を打って、コウの機体が反動に押されるように膝から転んだ。

 鉄の塊が打ち付ける音が響いて、ようやく音が鳴りやむ。

 

『―――何の音だ!?』

『っ、すんません! 握ったら機械が作動しちゃって!』

『もうっ! びっくりさせないで!』

 

 アンテナを右腕で抱えながら、アンズの機体がコウに近づいた。

 インパクトハンマーは取っての部分に起動装置がついているらしく、コウは新調に鋼鉄の杭の部分をホーネットの両腕で抱え上げ、立ち上がる。

 

『コウ、怪我はなかった?』

『大丈夫、機体も特に……うん、平気だ』

 

 一つ安堵の息を吐いてから、アンズはバイザー越しにコウの表情を見やった。

 泥塗れの作業服とヘルメットから覗ける表情には、普段の快活さがまったく見えなかった。

 訓練を受けていても、人間である以上はミスが出る。

 いちいちヘコまれても困るのだ。

 

『コウ、行こう』

『あ、ああ』

 

 励ましの言葉はいらない。

 アンズも訓練生だった頃は、失敗を重ねて学んで来たから。

 ホーネットに乗り始めたのは、たったの三日。

 作業を行ってるのも、同じ三日間だけだ。

 コウを責めるほど自分だって熟達している訳ではない。 

 こうして一つの作業の中で、仕事を覚えて行くしかないのである。

 

 

『あ、きたきた』

『コウ~、シップまで戻ってたんじゃねぇだろうな~』

『アンズと遊んでたのか?』

『ウハハハハ』

『す、すいません!』

 

 来た道を戻り、穴の中に入るとスヤンの機体が腕を組んで待っていた。

 出土した火成岩周りは綺麗に掘り刳り貫かれており、スヤン以外のホーネットがその周辺に屯するように座り込んでいる。

 どうやらコウが遅すぎて、休憩していたようだった。

 

『まぁ、今はいい。 後で覚悟しとけよ、コウ』

『うわちゃあ……やっぱりかぁ!』

『ハハハハ、しょうがねぇな、コウ』

『スヤンさん、手加減してやってくれよぉ。 コウが壊れちまう』

『何時も俺は優しく手加減してやってんだろうが』

『そうでしたっけ』

『嘘っす! スヤンさんはいっつもコブが出来るまで叩くんだ!』

『ああ? テメェ、本気で殴られてぇのかおい。 判った、今度はコブじゃ済まねぇぞ』

『ウハハハ、いやぁ冗談っすよ! スヤンさんほど優しい人はいねぇ! 皆も知ってるよなぁ!?』

『あはははは』

『ふふっ、アンテナ、設置するわよ』

 

 アンズの声に各々の返事がまばらに返ってくる。

 スヤンがその様子を見ながら、インパクトハンマーを持って突っ立っているコウに視線を投げた。

 

『コウ、お前やってみるか?』

『え、いいんすか?』

『良いも悪いも、やってみなきゃ覚えられねぇだろ。 お前は特にな』

『うん、俺、やってみたい』

 

 とはいえ、かなりの長時間ホーネットが稼働している状態だ。

 出力の差や作業に携わった機体によっては、そろそろエネルギーの方も心配になってくる頃合いだった。

 

『アンズのアンテナ設置が終わったら、一度シップに戻って休息を取るぞ。 それから採掘だ。 良いな』

 

 スヤンの指示に、周囲のホーネットの出力が上がったのか、機械音が響き始める。

 鋼鉄の蜂たちが、唸りを上げて穴の中から飛び立っていった。

 

『スヤン、設置完了したわ』

『アンズ、通信のテストしとけ。 問題なけりゃ引き揚げだ。 コウ、ハンマー置いて先に戻るぞ』

『了解!』

 

 コウは丁寧にインパクトハンマーを地面に置くと、先ほどまで消沈していた意気が上がるのを感じた。

 新しい事を学び、試すことができるのは、やはり楽しみを抱いてしまう。

 コウはシップに戻る最中、早くも次の掘削作業が始まらないかとワクワクしていた。

 我ながら単純だなと思うも、やはり心に嘘はつけない。

 自然と顔を上げて、穴蔵に差し込む光に眼を細め、コウは無意識に笑みを浮かべていた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。