鬼滅の拳   作:ベルゼバビデブ

1 / 1
第一話

 竈門家の長男、竈門 "鍛"治郎…彼の朝は早い。

 

 母や弟妹達が目覚めるよりも早く起きては身体を鍛える為に山に登り、そして強い身体を鍛える為にと山頂の石ころなどをガリガリと食べる。

「硬い石や岩を食べればきっと俺の身体も固く頑丈になるはずだ」

 人間の身体はそんな風には出来てないはずなのだが、プラシーボ効果というべきか、彼のそんな独自の鍛錬法が身を結んで…しまったというべきか、彼の身体は恐ろしい程に筋肉の主張が激しい物となり、ぶっちゃけ母親はドン引きしていた。しかしながら、炭を売るというこの仕事、肉体労働には変わりなく逞しい分には損にはならない事もあり何も言えないし、言ったところで無駄だろうと半ば諦めていた。

「それじゃあ兄ちゃんは炭を売ってくるから。みんな良い子にしてるんだぞ」

 大量の炭を担ぎ、雪で足場が悪いはずだがそれを感じさせず鍛治郎は街へと降りていった。そして街では竈門家の炭は質が良いと良く売れ、あっという間に品切れになる。そしてここからが街の人々にとっての本番である。

「うちの庭の邪魔な木を引っこ抜いてほしい。」「家を建物ごと隣に引っ越したい」「池の水を飲み干して欲しい」などの依頼が舞い込み、鍛治郎は困惑しつつ、彼らの困り事を解決していく。大概の無茶は彼の筋肉の前では瑣末ごとであり、彼が去った後には人々の笑顔が残る。そして

「今日もお土産でいっぱいになっちゃったな」

 依頼の礼として貰った土産を脇に抱え、弟妹達の笑顔を想像しつつ鍛治郎は帰路に着いた。しかし、そこで鍛治郎を呼び止める声が放たれた。所謂変わり者のお爺さんで、鍛治郎もよくその人物から人を喰らう異形の者…鬼について聞かされていた。

「鬼が出ても俺が退治しちゃいますよ!」

 などと鍛治郎は笑って行ってみるが、お爺さんの顔は厳しく

「鬼を舐めるな。」

 と怒ったように言うと眠りに着いてしまう。

 

 鍛治郎も早く寝て朝早く帰れば良いと床に着いたが、それを幸と言うべきか不幸というべきか、結果から言うと鍛治郎の家族は一人を除いて全員が死に、残る一人…禰 豆子も鬼になってしまったのである。

 惨状に困惑する鍛治郎に襲い掛かったのは妹の禰 豆子、凄まじい筋肉を持ち、時に熊をも退治するほど圧倒的パワーと猫や犬にも追いつける想像を絶するスピードを持ち合わせる鍛治郎だったが、その心は優しく家族に手を挙げたことなど一度もない。禰豆子は大きく口を開け、鍛治郎の腕に噛み付いた。

 

「硬…」

 

 禰豆子は眉を顰めると、噛むのを辞めてそう呟く。鍛治郎の腕には噛み跡すら無く、代わりに恐らく唾液だろう液体で少し濡れている程度だ。

 そう鍛え抜かれた筋肉は鬼の顎よりも強靭だったのである。そしてこの圧倒的筋肉に最早鬼としての力など矮小と悟った禰 豆子は鬼に成り果てながらも悟ったような顔で目の前の兄を喰らうことを諦めていた。達観という言葉が相応しいその表情に鍛治郎は優しく抱擁をして頭を撫でた。因みにこの時の禰 豆子の心象は「暑苦しい…」である。

「そこのお前、何をしている。そこの鬼から離れろ」

 鍛治郎に声をかけたのは謎な青年。刀を持ち、鬼である禰豆子を睨んでいた。

「その女は鬼だ。鬼は滅さねばならん」

 刀を構える青年に鍛治郎は庇うように禰豆子の前に身体を入れ、首を横に振る。

「禰豆子は俺の妹です!何をする気ですか!」

 威嚇の意を込めて鍛治郎はダブルバイセップスを披露すると、青年は半歩だけ下がった。後々わかることだが、この青年は「柱」と呼ばれる強者である。故に鍛治郎の肉体から放たれる圧倒的オーラにぶっちゃけビビった。しかし、柱としてのプライドと、鬼から人々を守る為に意志を強く持つと禰豆子に対して切り掛かった。

「やめて下さい!」

 なんと刀を握って止めるというとんでもない行為でそれを妨害し、青年は青年でガッツリ握ってるのに全く血が出てないその手に非常に困惑した。そして…考えるのを辞めた。考えるのを辞めた青年は自分の師匠に色々丸投げしようと、「鱗滝」という人物に会えと鍛治郎に伝えると去って行った。後にこの行為に対し、鱗滝は「判断が早い」と激怒した。

 

 そして鍛治郎と禰豆子はその鱗滝なる人物の元へ行こうと旅を始めた。そしてその道中であったのは新たなる鬼、本来は神聖な場所だったはずの神社らしき廃墟は今や鬼の寝蔵となっていた。そして腹を空かせて人間を喰らおうと出てきた鬼は目の前の筋肉モリモリマッチョマンを見て大変驚いた。

「人間を殺して食べるなんて…いけないことだ!」

 マッチョマンは何故かサイドチェストを決めながらそんなことを言うので鬼はふざけるなという気持ちで襲い掛かる。しかし、鍛治郎は圧倒的筋肉を持つ。故に襲ってきた鬼に拳で反撃を見舞うと、余りの殴打に首がすっ飛んで行った。そしてあろうことか鬼の体は塵のようにサラサラと霧散していく。

「な、なんでだ!?ただ殴られただけなのに!こんなぁ!!」

 心優しき鍛治郎にとって、相手が鬼であろうと殴ると言う行為は心を痛めるものであったので、塵となり死体がなくなった鬼に対して黙祷を捧げていた。そしてそれを見ていたのか、物陰から天狗の面をした白髪の男が出てくる。男は急に鍛治郎に「お前が竈門 鍛治郎か」と問い、それに鍛治郎が頷くと

「お前の妹が人を食った時お前はどうする?」

 と問うた。この突然の問いに鍛治郎は答えられず、瞬間鱗滝は鍛治郎に「判断が遅い」ビンタをしようと手を挙げた。すると、鍛治郎はその手を止め、鱗滝の顔面…のお面を殴った。

「いきなり何するんですか!」

 元柱という偉大な戦士であった鱗滝は全く反応できず、圧倒的筋肉から放たれる殴打にぶっ飛ばされてしまった。

「…反応が早い」

 鱗滝はそう呟き、二人を自らの住む地へと案内を行った。

「これより鍛治郎、お前に修行をつける。鬼を倒すためのな」

 こうして鍛治郎は鱗滝から鬼を倒す為に水の呼吸の修行を受けるのだが、鱗滝は修行開始から三日で鍛治郎に刀を振るわせるのを諦めた。理由は簡単である。鍛治郎は殴った方が強い為だ。決して才能がないわけではないし、鍛治郎も刀を扱う事に対して非常に真面目に取り組もうとしていることは鱗滝にも分かったのだが、鍛治郎の自主練で修行場近くの岩を手刀で割っているのを見てしまった鱗滝はもうなんか色々と馬鹿らしくなってしまったのである。

 

 そして迎えた最終選別の日。筋肉モリモリマッチョマンの鍛治郎はぶっちゃけ周りの隊士を志す者の二回りくらいは大きかった。そして選別が始まると、鍛治郎はギュピッギュピッと足音を鳴らすとずんずんと森の奥に歩を進める。現れる鬼を殴り殺して進んでいくと、突如地面から手が現れ捕まってしまう。

「…鱗滝さんが鬼は人を食えば食うほど力を増し、人からかけ離れていくという…お前…それほどの力を手に入れるのにどれだけの人を食った!」

 珍しく激昂する鍛治郎に全身手だらけの鬼…手鬼は勝利を確信しつつ笑うと

「お前は今まで食った米粒の数を覚えているのか?」

 と答えた。その言葉に鍛治郎はキレた。圧倒的筋肉で手からの拘束を無理矢理弾き飛ばし、一気に手鬼に近付き拳を振り上げる。

「無駄だ!俺の手は硬い!お前なんぞ…」

 

「水の呼吸…八の拳、滝壺ッ!!」

 

 瞬間、鍛治郎は己の新陳代謝を爆発的に向上させ、肉体をさらに強化するとそのまま凄まじい勢いでアームハンマーを振り下ろし、手鬼を押し潰す。鬼の身体を潰すという桁外れのパワーも全て修行の成果である。爆発的新陳代謝から発生する凄まじい手汗を残像のように残すこのアームハンマーこそ、鱗滝から教わった水の呼吸を己の武術に昇華させた「水の呼吸 八の拳 滝壺」である。溢れ出る水飛沫は演出などではなく手汗である。そして鍛治郎はもう一度呼吸を行い、鬼の首に狙いを定めた。

「コォォォ…水の呼吸…!二の拳、水車ッ!!」

 圧倒的筋肉が織りなす凄まじい回転、その遠心力が乗ったラリアットが手鬼の首にねじ込まれると、その圧倒的パワーにやはり首が吹き飛んだ。

 手鬼は自身の消滅に絶望しつつ、朧げな記憶から…手を握って欲しいと懇願した。そんな言葉に鍛治郎は優しく頷くと鬼の手を握…

 

 パ ァ ン ッ ! !

 

 圧倒的握力で弾け飛んでしまい、鍛治郎は気まずそうに目を逸らした。

 

 

 

 こうして鍛治郎は最終選別を無傷で終え、他の合格者と共に集められる。この際、他の合格者と揉めたのだが、圧倒的筋肉で穏便()に解決し、説明の後鬼殺隊側からある石を見せられた。それは鬼殺隊の使う日輪刀に用いられる一年中陽の差す陽光山の特別な鉄である。そして鍛治郎は選んだそれを極々当たり前かのように噛み砕き、食した。

「なんだか体がポカポカするなぁ」

「「「「「!?」」」」」

 その場の鍛治郎以外の全員が驚いたのだが、その理由は最早説明する必要もないだろう。そして今まで鍛治郎が鬼の首を素手で吹き飛ばせていた理由だが、その凄まじい桁外れの筋肉と圧倒的パワーの他に、彼は普段から身体を鍛える為に石を食べていた。そして、ある時どこからか仕入れてきた日輪刀に使われるものと同じ素材…極々小さな物であったが…を街人からお礼として貰い、それを食していた為に僅かながらに鍛治郎の肉体は日輪刀の性質を帯びていたのだ。

 

 なんで食っただけでそんな性質が手に入るのだと不思議に思うかも知れないが、理由は明確である。筋肉だ。

 

 筋肉は時に奇跡を起こすのである。

 

 

 こうして、正式に鬼殺隊の一員となり、そしてまた、日輪刀と同じ素材を肉体に取り入れた事で更に筋肉のキレが増した鍛治郎は喜びを胸に鱗滝の元へと戻り、禰豆子を人間に戻す為の術を探しつつ、鬼殺隊としての働きをする事になるのである。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。