元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました   作:武装田んぼ

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第5話 夏だ!海だ!合宿だ!視察だ!

 

 

 あれから2週間が過ぎた。人間という生き物は不思議なもので、普段の二週間は目まぐるしく過ぎていくクセに、何か楽しみにしているとなぜか時の流れが遅い。だからといって時間が伸びる訳でもなく、相変わらず予定はカツカツだし、やりたいことは出来ず終いだ。

 

「暑ぃ……、相変わらずひでぇ気候だ。勘弁してくれ……」

 

 滝のように流れる汗を拭いながらぼやくアルチョム。多少楽しみなイベントが目の前でも、この暑さを凌げるほどテンションは上がらない。日陰でもこの暑さだから参る。

 

「トレーナー元気ないじゃん! ほら、もっと気合い出して!」

 

 今日も元気に跳ね回るテイオー。マヤノと一緒にはしゃいでいる。

 

「本当に元気だよなテイオーは。その体力は一体どこから湧いてくるんだ?」

「トレーナーがおっさんなだけじゃない?」

「次おっさんって言ったら二度とはちみー買ってやらんぞ」

「じ、冗談だよ〜、怒らないでよ〜」

「はぁ、暑い……」

 

 腕時計を確認する。もうバスが来ても良い時間だが、まだ来そうに無い。時間を間違えた? いや、そんなはずはない。夏合宿に参加するであろうチームや担当ペアはトレセン学園前に集まっている。

 

「申し訳ありません、先程バス会社から連絡がありまして、途中で交通規制があり、渋滞しているとのことでして……」

 

 たづなさんが伝えてくれた。

 

「幸先悪いな」

 

 予定時刻から15分程遅れてバスが到着し、やっとクーラーの効いた車内に乗り込めた。

 バス待ちの一件で地味に体力を消耗したアルチョムは仮眠をとろうとしたが……。バスが出発して20分程経った時のこと。

 

「さぁ皆様ご注目! 只今より開催いたしますはゴルシちゃん主催、第564回チキチキカラオケ大会!!」

 

 このバスカラオケ付いてんのか、地味に金かかってんな。いや、そこじゃない、カラオケなんてやられたら仮眠なんてできるのか……? いや、PMC時代を思い出せ俺。騒がしい中で寝た経験なんていくらでもある。そうだ、なんの問題もない。すぐに寝れ……。

 

「じゃあゴルシちゃんからいくぞー!」

 

 そう宣言したゴールドシップ。そして流れ出した曲にアルチョムは混乱した。

 

〝Расцветали яблони и груши,
 Поплыли туманы над рекой;
 Выходила на берег Катюша,
 На высокий берег, на крутой.  Выходила на берег Катюша,
 На высокий берег, на крутой.〟

 

 ウソだろ? なんでこんな場所で我らがロシア民謡たるカチューシャが歌われるんだ? なんならロシア語の発音もネイティブと言われても気づかないほど完璧だ。呆然とするアルチョムを知ってから知らずか、ゴールドシップはカチューシャを完璧な発音と音程で歌い上げた。

 

「さて、次に歌いたいヤツはだれだー?」

「はーい! ボクが歌っちゃうモンネ!」

 

 隣の席のトウカイテイオーが元気マイクを握った。アルチョムは仮眠を諦めた。

 

 〝描いた夢と ここにある今

 2つの景色 見比べても

 形をかえて ここにあるのは

 確かな1つのもの〟

 

「この歌、ボクのお気に入りなんだ! じゃあ次は誰が歌う?」

「はーい! マヤちゃんが歌っちゃいまーす!」

「お! マヤノいいねー、はいマイク!」

 

 マヤノにマイクを渡して席に座るテイオー。

 

「さっきの歌、いい歌詞だな」

「でしょ! 心絵って歌でね、野球アニメの主題歌だったんだ!」

「へえ、野球アニメか」

「うん、主人公は何度もケガしたりするんだけどその度に復活してカッコいいんだよ!」

「そいつはすげぇな。ただなテイオー、だからってテイオーもケガなんかするんじゃねぇぞ。最悪、二度と走れなくなるかもしれないからな」

「もー、わかってるよ」

「ならいい」

「てかトレーナーは歌わないの?」

「え? 俺?」

「そう! トレーナーもなんか歌ったら?」

 

 と言われたところで流行りの曲なんか知らない。昔はドラゴンボールを歌えた記憶があるがそれは15年前の話だ。今更歌える自信なんて無い。そして最近聴いている曲といえば古い洋楽ばかりだ。

 

「多分テイオー達にはウケない曲ばかりだぞ」

「さっきゴルシが変な曲歌ってたじゃん」

「あの歌は変な曲じゃない。昔のロシアで戦争中に流行ったカチューシャって歌だ」

「へぇー、トレーナー物知りだね」

 

 そうだった。さっきゴルシのヤツがカチューシャを歌ってた。とはいえ歌う気はあまりない。

 

「他のトレーナーが歌ったら俺もなんか歌うよ」

「次歌いたい人は〜?」

「トレーナーさん! 一緒にどうです?」

「よっしゃ、ならチームスピカ全員で行くか!」

 

 沖野トレーナーがチームスピカの面々と一緒に歌い出す。それを見たテイオーはニヤニヤしながらアルチョムの方を向く。

 あの野郎。アルチョムも諦めてデンモクをもらい、歌えそうな曲を入れた。

 

「次歌う人ー?」

「はいはーい! アルチョムトレーナーが歌うって!」

 

 テイオーが手を振る。投げ渡されたマイクをテイオーがキャッチしてアルチョムに手渡された。そのマイクを追うように視線がアルチョムに集まる。もうどうにでもなれ。

 

 〝Love is a burning thing

 And it makes a firery ring

 Bound by wild desire

 I fell in to a ring of fire〟

 

 ジョニー・キャッシュの“Ring of Fire”と言う曲を歌うアルチョム。激情に駆られ、燃えるような恋に落ちる様を歌った曲だ。ややロシア語訛りの英語で歌い上げた。

 

「トレーナー、今の曲ってどんなの? ラブとかバーニングとか言ってたからラブソングとか?」

「鋭いな。まあ、燃えるような熱い恋に落ちたって歌だ」

「トレーナーって意外にロマンチックだね」

「雰囲気が好きなだけだ」

「ふーん、雰囲気とかよくわからないや」

「歌の意味も雰囲気もテイオーにはまだ先の話だよ」

「むーっ!」

 

 頬を膨らませて抗議するテイオー。仮眠を取るつもりだったアルチョムはすっかり場の空気に乗せられてノリノリで歌を口ずさんでいる。空挺軍時代にもこんな時あったな、としみじみ思い出すアルチョム。軍用トラックの荷台で揺られてアルセニーと肩を組みながら“Служить России(ロシアへの軍務)”を歌った思い出。

 

 遠い昔のようにも、昨日のことのようにも思う。あの時の戦友達は今、何をしているのか? 未だに銃を握っているのか? 

 あの頃はあの頃で上手くやっていたのも事実だ。少し感傷的な気分になるが、隣のテイオーの笑顔を見てふと我に返る。そうだ、俺にはテイオーの夢を叶えさせてやらねばならない。

 

 テイオーのために、俺の過去と苦しめた子供達への贖いに。アルチョムは無意識にテイオーの頭に手を置いた。

 

「どうしたのトレーナー?」

「なんでもない」

「変なの」

 

 あどけなく笑うテイオー。

 

「ねぇ、トレーナー! 次は何歌うの?」

「そうだな……」

 

 ゴールドシップ主催のカラオケ大会は大いに盛り上がり、移動を退屈することなく合宿所に到着する。

 自然豊かな海岸沿いに宿舎やトレーニング施設がならび、広い砂浜が広がる。潮風がアルチョムの頬を撫でた。

 

「ソ連時代のサナトリウム見てぇだ」

 

 施設を見上げながら呟くアルチョム。ここにこれから4週間ほど滞在する。滞在期間が長いゆえに荷物も多い。

 

 はしゃぐウマ娘達を横目にアルチョムはさっさと部屋に行き、滞在の準備を整える。少し高いホテルの一室のような部屋で荷物を下ろし、次にトレーニングの準備を始める。ノートパソコンとタブレットをWi-Fiに接続し、ケースからドローンを取り出して動作確認を済ませた。

 一通りの準備を終えたアルチョムは打ち合わせの時間まで施設を巡り始めた。

 

「金かかってるよな、ここ」

 

 施設を周りながら妙な感心を抱くアルチョム。宿舎には食堂はもちろん講堂や大浴場、リラクゼーションスパに卓球台やボードゲームが置かれたプレイルームや図書室もあり、最上階には太平洋を一望できるラウンジまで。

 

「見れば見るほどサナトリウムだな」

 

 ラウンジに置かれた自販機で買ったコーラを飲みながら呟いた。

 

「あ! トレーナー! 早く海いこーよー! うーみー!」

 

 展望室を後にしてロビーに戻るとテイオーが手招きしている。隣にはスペシャルウィークもいる。

 

「打ち合わせあるんだ。勝手に行ってこい」

 

 塩対応なアルチョム。

 

「つまんないトレーナー」

「まあ、打ち合わせなら仕方ないかもですね」

「じゃあいいや、行こうスペちゃん」

 

 アルチョムは会議室に向かい、打ち合わせに参加する。日程や全体的なトレーニング方針を確認し、緊急時の対応なども決めていく。とはいえ、これらはすでに二か月近く前から何度も話し合ってきた内容であり、さほど時間はかからない。1時間程で解散となる。

 

 アルチョムはさっさと部屋に戻り、練習メニューの確認と修正に入った。せっかくの合宿だ。テイオーの能力をできる限り向上させたいが、無理は禁物だ。テイオーが無理なく楽しんで、かつ十分なトレーニング経験を積めるようあれこれメニューを考える。

 

 せっかく自然豊かな環境に来たのだからそれを活かしたトレーニングをしてやりたい。だが、ただの遊びになったら意味がない。しかし、軍隊のブートキャンプじみたトレーニングではテイオーも嫌がるかもしれない……。あれこれ悩んでいたら突然スマホが震え出した。

 テイオーがアルチョムを海に呼び出そうとスタンプ爆撃をかましてきた。みるみる内に増えていく通知と鳴り止まないスマホ。

 

「行ったらいいんだろ、行ったら」

 

 なんだかんだメニュー構築も煮詰まりつつあったところだ。潮風を浴びたらなんか思いつくかもしれない。そう思い、アルチョムは部屋を後にした。

 焼け付くような炎天下。砂浜ではしゃぐウマ娘達。微笑ましい光景だ。

 

「あ、トレーナーやっと来た! トレーナー! こっちおいでよー!」

 

 テイオーが手を振る。

 

「嫌だ」

 

 アルチョムは頑なにパラソルの下から動こうとしない。日焼け止めを塗ったとはいえ、この炎天下に躍り出る気にはなれなかった。思い出す去年の夏。うっかり日焼け止めを塗り忘れ外出し、日常生活に支障が出るレベルまで真っ赤に日焼けした記憶。

 

 海の方ではウマ娘に混じって童心に帰り海を満喫するトレーナーも見受けられるが、アルチョムはそれに加わる気はなかった。

 

「トレーナーも海に入らないの? 泳ぐと気持ちいいよ!」

 

 テイオーが近寄って聞いてくる。

 

「泳げないんだ」

「えー、まさかー」

「今まで泳いだ経験がない」

「ほんとぉ〜?」

 

 疑ってくるテイオー。とはいえ、いくら疑われようが無理なものは無理だ。

 すると、テイオーはアルチョムの足首を掴み、海に向かって引きずり始める。

 

「おい待て! 何考えてる⁈」

「いーからいーから」

 

 何がいいのか。テイオーの手を振り解こうとするが、足首を掴む華奢な腕からは想像できないほどの力で拘束されそれも叶わない。振り解くのを諦めたアルチョムは咄嗟に近くにいたスペシャルウィークにスマホを投げ渡した。

 

「スペシャルウィーク! 俺のスマホを持っててくれ! 絶対海に入れんなよ!」

「え⁈ あ、はい!」

 

 スペシャルウィークがスマホをキャッチしたのを見届けたアルチョムの腕をいきなり現れたゴールドシップが掴む。

 

「おいゴルシどういうつもりだ⁈」

 

 次の瞬間、アルチョムは海に投げ込まれた。宙を舞い、目の前に迫る海面。頭から海に着水し、上下感覚を失ったアルチョムはパニックに陥る。渡河訓練を思い出そうとするが、鼻と口から流れ込む海水が冷静さを奪う。

 

 呼吸すら叶わないまま、もがくアルチョム。泳げないしなんなら浮くことすらできない。頭に浮かぶ死という単語。その直後、また脚が引っ張られてアルチョムは砂浜に引っ張り上げられた。

 

「ガハッ、ゴホッ、ブェッヘ……! た、助かった……。生きてる……」

「ご、ごめんねトレーナー、本気で泳げないなんて思わなかったよ……」

 

 申し訳なさそうにこちらを覗くテイオー。

 

「ハァ……、ハァ……、ゲホッ……。……泳げないって言ったろ。死ぬかと思った……」

「本当にごめん、トレーナー。お詫びになんか……」

「お詫びとかいい。頼むから二度と俺を海に放り込むな、いいな?」

「はい……」

「わかってくれたならもういいよ。あとゴルシはどこ行った?」

「今相田トレーナーに怒られてる」

「ならいい」

 

 その後、相田トレーナーがゴルシと共に謝りに来た。アルチョムは二度と自分を海に投げ入れないならもういいと許した。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 合宿が始まってから一週間。自然に囲まれたトレーニングをテイオーは楽しんでくれているようだ。楽しそうにトレーニングする姿を見てアルチョムの指導はいつにも増して熱が入る。

 

「いいぞ! そのペースを維持するんだ!」

「はい!」

 

 砂浜を駆け抜けるテイオー。ドローンの映像と肉眼の両方で確認するアルチョム。

 

「今の走りどうだった?」

「先週と比べて良くなってる。脚の運び方のコツを掴めたようだな」

「でしょ! こう、グッってやってからシュバッてやると動かしやすいんだ!」

「ああ、それでいい。もう一度砂浜を走ってこい。それで問題なければ休憩を挟もう」

「わかった!」

 

 力強く駆け抜けていくテイオー。アルチョムはタブレットで先週のトレーニング映像を再生して見比べる。

 

「テイオーの飲み込みは早いな。テクニックを貪欲に吸収してくれる」

 

 この様子なら次の芙蓉ステークスでも素晴らしい走りを見せてくれるだろう。そして走り終えたテイオーはアルチョムの元にやってきた。

 

「お疲れ。素晴らしい走りだったぞ」

「えへへ、でしょー」

「よし、休憩だ」

「はーい。あれ? なんかあっちの方騒がしくない?」

 

 テイオーが宿舎の方に耳を向ける。

 

「あー、なんか今日大臣が視察に来るんだと」

「なんで?」

「知らん」

「見てきていい?」

「待て、俺も同行する」

「わかった、じゃあ見に行こ!」

 

 2人は宿舎のエントランスに向かい、離れた場所からガラス越しに大臣の様子を伺う。周りには黒い背広を着た関係者や警備が何人も並ぶ。

 

「あの真ん中のおじさんが大臣?」

「らしいな」

「どんな人?」

「確か熊谷(くまがい)大臣だと」

「大臣って偉い人だよね」

「ああそうだ」

「あ、カイチョーとたづなさんだ。挨拶してる」

「生徒会長も楽じゃないな」

「なんかいろいろ話してるね。何話してるんだろ」

「さあな。楽しいお喋りじゃないのは確かだ」

 

 ふと、熊谷大臣について手元のスマホで検索する。

 

「熊谷誠太郎。現内閣府特命担当大臣、地方創生、規制改革及びウマ娘共同参画担当。与党タカ派派閥である仁松会(じんしょうかい)の会長を務める……。面倒臭そうなジジイだ」

「どういうこと?」

「要するに強硬派のトップで、地方の問題とか経済規制とかに取り組む大臣だな。俺らに関係あるのは最後のウマ娘共同参画だ」

「ウマ娘共同参画ってボク達ウマ娘の社会進出とか活躍の場を広げようって話だよね」

「お、ちゃんと勉強してんじゃねえか。感心感心」

「えっへん!」

「ま、ウマ娘共同参画って言いながらジジイが担当してんのも変な話だがな。おっと、こっち来そうだな。おいテイオー、トレーニングしてる振りするぞ」

「わかった」

 

 2人はは砂浜に向かい、テイオーはテキトー走り回る。それをアルチョムが見ながらテキトーな指示を飛ばす。

 

「いい走りだ!」

「もう一回走るね!」

 

 砂浜でトレーニングの振りをしていると、先程の熊谷大臣がこちらに向かってきた。

 

「いいねぇ、スポーツに打ち込む青春!」

 

 なんて言いながらこちらを見てくる。隣ではたづなさんが相槌を打ちながら何か話している。

 

「君たちは今年からデビューなんだね」

 

 話しかけてきた。面倒なジジイだ、と思ったがそれを一切表情に出さず、アルチョムは営業スマイルで対応する。

 

「ええ、この前のデビュー戦でも見事1着を獲ってくれまして。練習にも熱が入るというものです」

「そうかそうか。ウマ娘さん共々、これからの活躍に期待しているよ」

 

 和やかな笑顔を見せながら、熊谷大臣は向こう側でトレーニングしているチームスピカの方へ歩いて行った。

 

「もういいぞ、テイオー」

「なんかあのおじさんあまりいい人に見えないんだけど」

「奇遇だな。俺もああいう人間に良い印象を持ったことがない」

 

 2人は去っていく大臣に疑いの視線を向ける。

 

「露骨に疑いの目線を向けるのは感心しないな」

「あ! カイチョー! お話は済んだの?」

「あとはたづなさんがやってくれるとのことだ」

 

 そう言い、シンボリルドルフは腕を伸ばした。

 

「ふぅ、無駄に気を張ってしまった」

「カイチョーお疲れ様。ボク達と休憩する?」

 

 ドリンクを差し出すテイオー。

 

「……そうだな。少し羽を伸ばそう」

 

 パラソルの下で3人が座りながら海を眺める。心地よい潮風が火照った身体を優しく冷ます。するとテイオーがルドルフに尋ねた。

 

「ねぇ、さっきカイチョーは何を話してたの?」

「大臣との話かい?」

「そう。なんかあのおじさん、いい人に見えないんだよね、ボク」

「……そうだな。テイオーの見方は正しいかもしれない。私はあの大臣にこの施設の概要や私たちウマ娘にとっての重要性について話していたんだが、それを聞く彼の腹の底に何かドス黒い物を抱えているように感じた。もっとも、これは私のフィーリングに過ぎないし、思い込みによる勘違いかもしれないがな」

「会長さんの目は間違ってませんよ。俺に言わせりゃああいう連中に碌なヤツを見たことがない」

 

 吐き捨てるように言うアルチョム。彼の目に過去の経験が映っているのをルドルフは見逃さなかった。軍隊も民間軍事会社も、所詮は政治屋の道具でしかないことをこれでもかと思い知らされた男の目だった。

 

「ま、ここで愚痴を言っても意味がない。私はそろそろ戻ることにするよ。テイオー、この前のデビュー戦、素晴らしかった。次の芙蓉ステークスも期待しているからな」

「カイチョーありがとう! 次も勝つから見ててね!」

 

 元気にルドルフを見送るテイオー。

 

「よし、俺達もトレーニング再開だ! 会長に期待されてるからな、ビシビシ行くぞ!」

「はーい! がんばっちゃうモンネ!」

 

 2人は次の本番に向け、トレーニングを再開した。

 

 

 ────────────────────────

 

 

「あ。トレーナー! こっちこっちー!」

 

 大きく手を振るテイオーとその周りのウマ娘3人。

 

「ったく相田のヤツ、チームトレーニングに加わって腰痛めるとかバカかよ」

 

 今日は合宿所近くでお祭りが開催されており、地元の住民方に加わってウマ娘達も多くがお祭りを楽しんでいる。

 

 アルチョムは参加するつもりは無かったが、参加予定だったチームシリウスの相田トレーナーがトレーニング中に腰を痛めダウン。急遽代理でウマ娘達の面倒を見ることになった。

 今回のメンバーは担当のテイオーに加えてマヤノトップガン、メジロマックイーン、ライスシャワーの4人。

 

「ゴルシは?」

「焼きそば屋台をやっているらしいですわ」

「なんで?」

 

 色とりどりの浴衣を身に纏い、縁日を堪能するウマ娘達。

 

「トレーナー! これ買って!」

「あいよ」

「300円だよ」

「スマホ決済で」

「あー、兄ちゃん悪いけど現金しかダメなんだ」

「おっと、失礼」

 

 財布を取り出したアルチョム。300円を払い、中身を確認する。

 

「テイオー、今いくら持ってる?」

「2000円ぐらい。トレーナーお金持ってないの?」

「現金を持ち歩かない主義なんでな」

「ええ、大人なのに?」

「スマホで払えるならスマホでいいだろ」

「だからって中学生の財布に頼るつもり?」

「ぐっ……」

 

 とりあえず4人には無駄遣いを控えるよう言い聞かせる。スマホ決済に頼る弊害をモロにくらうアルチョム。

 

「お! テイオーじゃねーか! ゴルシちゃん特製焼きそばどうだ?」

「いいねー! ちょうだい!」

「あ、あの、ライスも大盛り頼んでいいかな?」

「うぅ、リンゴ飴にたい焼き、瓶コーラ……、全部いただいてよろしいですか?」

「アルチョムさん、射的やりたーい!」

「わかった、落ち着け! テイオーとライスは焼きそばな、ほら、これで買ってこい。んでマックイーンはすまん、今は自分で払ってくれ。後で相田に払わせる。マヤノは射的か、500円で足りるな?」

 

 瞬く間に消えた現金。アルチョムはウマ娘達の面倒見と、所持金のせいで祭りの雰囲気すら味わえない。それでも無邪気にはしゃぎ回るウマ娘を見てるとこのドタバタを楽しんでる自分に気づいた。

 

「トレーナー! あっちで花火だって!」

「んーっ! ふぁいすもー」

「食べながら喋るなライス。喉に詰まらせても知らんぞ。ほらマックイーン、欲張って全部一気に買うな。たい焼き落とすぞ」

「見て見てー! 射的の景品こんなの獲れたー!」

「そのデカイぬいぐるみは自分で持って帰るんだぞ?」

「えー、アルチョムさん持ってよー」

 

 完全に保護者の立ち回りだ。こう忙しいとつくづく世の親と言う存在に畏敬の念すら抱く。そしてやっと落ち着きながら花火を眺める。

 

「トレーナー、今日は付き合ってくれてありがとね」

「ったく、忙しいったらありゃしない」

「でもトレーナーも楽しそうだったよ?」

「うるせぇ」

 

 笑いながらテイオーを小突くアルチョム。夏夜に輝く花火は合宿の思い出にまた一つ華を添えた。

 

 

 






誤字脱字などございましたらご報告願います。


また今回、カラオケシーンにおいて以下の楽曲を引用いたしました。

Катюша 1938年 ソ連
作詞 Михаил Исаковский
作曲 Матве́й Бла́нтер

Ring of Fire 1963年 アメリカ
アーティスト Johnny Cash
作詞・作曲 June Carter・Merle Kilgore

心絵 2004年 日本
アーティスト ロードオブメジャー
作詞・作曲 北川賢一




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