元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました   作:武装田んぼ

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第6話 芙蓉ステークスと昔話

 

 

 夏合宿はテイオーにとって非常に実りあるものだったようで、次の本番である芙蓉ステークスでも十分な結果を残してくれる、とアルチョムも確信を得られる程だった。

 また、合宿所近くで行われたお祭りはテイオーの良い思い出作りもになったようだ。

 そんなある日。

 

「トレーナー、今日疲れたぁ〜」

 

 いつになく元気の無いテイオー。

 

「どうした? テイオーらしくない」

「うーん、わかんない。でも今日もトレーニングしなきゃダメ?」

「一応予定は組んでたけどな……。まあここんとこ合宿から戻ってきた後もずっとトレーニング詰めだったし、今日は休むか」

 

 よくよく考えると、ここ最近はほぼ毎日トレーニング予定を組んでいた。もちろんテイオーにも予定は伝えたし、テイオーも乗り気だったのでその予定通りにやっていたが、テイオーへの負担はこちらの想像以上だったらしい。

 ここで無理して故障しては元も子もないのでテイオーの様子を見ながらしばらく休んでトレーニングを再開することにした。

 

「じゃあさ、ゲーセン行こ! ゲーセン!」

「んなモン友達と行ってこいよ」

「だって今日マヤノはネイチャと予定あるって言うしマックイーンとかスペちゃんはトレーニングしてるし……」

「1人で行けよ」

「1人でゲーセンって地味につまんない」

「……わかった、片付けたい仕事あるからそれ終わったらな」

「やったー!」

 

 トレーニング報告書と日報に適当に入力していく。どうせ休みだ、何もやらん。特に無し、と入力すりゃあいい。20分程で入力したアルチョムはテイオーと共に駅前の繁華街に繰り出す。

 

「トレーナー! こっちこっち!」

 

 テイオーが元気に手招きしている。さっき怠そうにしてなかったか? と思うがその辺は大目に見てやるか、と思いながらアルチョムはゲームセンターに入店する。

 

「んで、何するんだ?」

「トレーナーはなんかやりたいゲームある?」

 

 そう聞かれても困る。彼にとってゲーセンに入ること自体ほぼ初めてかもしれない。いや、昔々の不良時代に入ったことはあったか? 思い出せない。 

 

「特に無ぇな」

「じゃあダンスからやる?」

「俺が踊れる人間に見えるか?」

「やってみたらいいじゃん、案外ハマるかもよ?」

 

 テイオーに言われるがまま、ダンスゲームの筐体に赴く。床に置かれたコントローラーの上で主に足を使いつつ、リズム良くポーズを取る必要がある。コインを投入してから適当に曲を選び、難易度をイージーでプレイする。

 

 アルチョムの恐ろしくぎこちない踊りの隣でプロ顔負けのキレッキレな踊りを披露するテイオー。いつのまにか、テイオーの踊りに魅了されたのかギャラリーすらできている。お互いに一曲終わり、スコアが表示された。

 

 TEIO 712,600点

 ゲスト 2,500点

 

「なあテイオー、この点ってすごいのか?」

「逆に聞きたいんだけど何をしたらそんな点になるの?」

 

 アルチョムの得点を見たテイオーが不思議そうにこちらを見る。

 

「踊れないって言ったろ」

「じゃあシューティングやろ! それならトレーナーも強そうだし!」

「お、それなら自信ある」

 

 次に2人はガンシューティングゲームの筐体の前に立つ。前線ノ少女達と書かれた筐体の前にサブマシンガンのコントローラーが二つ置かれている。

 

「コイツはUMP45だな」

 

 コントローラーを持ちながら呟くアルチョム。微妙に細部は異なるが見た目はUMP45をモデルにしてある。

 

 内容としては暴走したAIにより生み出された殺人アンドロイドを片っ端から撃ち倒すような内容だ。肩と頬でストックを抑え、目線と照準を真っ直ぐに合わせるアルチョム。現役時代にUMPを触ったことは無かったが、これはゲームだ。実戦的な操作は必要ない。構えた感覚を覚えてからコインを投入し、ゲームスタート。

 

 久しぶりの感覚だが、アルチョムは次々と敵を倒していく。素早く照準し、引き金を引く動作は未だにしっかり染み付いている。テイオーも隣でプレイしているが、構えは割とテキトーだ。だがそれでも次々と敵を倒しているのはこの子の天性の才能なのか? 

 

「テイオー! 1時の方向にテクニカル!」

「グレネード使うからトレーナーはカバーして!」

「あいよ!」

 

 初見とは思えない機敏な動きでアルチョムは確実にスコアを稼いでいく。

 

「トレーナー! そろそろボス出てくるよ!」

「俺が前に出る、牽制は任せた!」

「オッケー!」

 

 すると画面にド派手なエフェクトと共にデカいガトリングガンを構えたイントゥルーダー呼ばれるアンドロイドが現れた。イントゥルーダーがガトリングを乱射し暴れ回る。

 

「テイオー、11時の方向! スタン投げろ!」

「任せて!」

「よし、効いてる!」

 

 上手く連携しながらイントゥルーダーを追い詰める2人。あっという間に耐久値を削り、イントゥルーダーは画面の真ん中で爆散する。そして表示されたスコアとタイムは両方とも新記録だった。後ろのギャラリーからは歓声があがる。

 

「前にマヤノとやった時のスコア更新できるなんてトレーナーやるじゃん」

「テイオーも大したもんだ。いい動きだった」

「当たり前じゃん! ボクどんなゲームも得意だもん!」

「じゃあ次もその腕前を見せてくれよ?」

 

 任せて! と言わんばかりにテイオーが向かったのはレースゲームだ。そこでもテイオーはアルチョムの目の前でハイスコアを叩き出してみせた。

 

「ダンスにシューティングにレース、テイオーの得意は分野を問わないな」

「昔からゲームは得意なんだよね、ボク!」

「ここまで多才だと羨ましいよ」

「トレーナーもシューティングはすごい上手かったじゃん。まるでプロだったよ」

「あー、ほら、アメリカにいた時は銃持ってたし」

「銃持ってたの⁈ いーなぁ、ボクも持ってみたい!」

「やめとけ、あんなモン持つな」

 

 手をピストルの形にして映画みたいなポーズをとるテイオーに、真剣な目とドスの効いた声で言うアルチョム。

 

「えー、映画みたいでカッコイイじゃん」

「映画は映画だ。現実とは違う」

 

 反論しようとしたテイオーだが、アルチョムの真剣な目を見ると何も言えなくなってしまう。その目に映っていたのは、戦争や紛争のニュースで流れる映像よりずっと悍ましくて、凄惨な彼の過去だった。

 

 もちろん、テイオーが彼の過去を観たわけではない。ただ直感で、自分のトレーナーに、決して口に出さない何かがあり、それがさっきの言葉に繋がったのだと感じた。

 

「さて、そろそろトレセンに戻るぞ」

「わかった」

「で、脚の様子はどうだ? 良くなったか?」

「うーん、わかんない」

「……まあいい。明日の体調が良けりゃトレーニング再開するし、ダメなら座学でもするか」

「オッケー!」

 

 息抜きを満喫したテイオー。翌日から2人は芙蓉ステークスに向けて再びトレーニングに入った。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 芙蓉ステークス当日。中山競バ場に現れたアルチョムとテイオー。今日はたづなさんも来ていた。休みだというがここに来たら仕事と大差ないのでは? と思うアルチョム。

 

「せっかく休みなんですからもっとゆっくりしたらどうです? ここに来るなんて半分仕事でしょう?」

「皆さんが一生懸命に走る姿を見るのが一番元気をもらえるので」

「本当にウマ娘達が好きなんですね」

「ええ。そういえばアルチョムさんは正門の所にある像をご存知ですか?」

「あー、なんかありましたね」

「でしたら、テイオーさんもご一緒に見に行きません?」

「構いません。テイオー、まだ時間あるな? ついてこい」

「はーい」

 

 3人は正門入り口付近の広場に置かれたウマ娘の像の前に来た。

 

「ねぇたづなさん、このウマ娘って誰かモデルいるの?」

「一応いるにはいますが、そこまでハッキリとしたモデルではないです。当時のウマ娘全員、と言うべきかもしれないですね」

「あぁ、思い出した! 確かこの像の話は講習で習いましたよ。この当時行われていた競バ賭博に巻き込まれたウマ娘達のことを忘れないための像だとかなんとか」

「アルチョムさんよくご存知で」

「競バ賭博?」

 

 テイオーが尋ねた。

 

「昔は競バで賭け事をしてたんです。誰が一着になるかって。私が生まれるよりずっと前の話ですけど」

「確かレースで大番狂わせが起きて、その結果にキレたヤクザの幹部が襲撃事件を起こしたとか……」

「えぇ、ヤバくない⁈」

「記憶が正しけりゃ死人まで出た大事件だ。だから今は競バで賭博なんかやると捕まる」

「そんな事件あったんだ……、知らなかった」

 

 テイオーが目を丸くする。そんな様子を見ながら、たづなさんは話を続けた。

 

「襲撃された事件が起きたのも、もう半世紀以上前の話ですからね。どんな悲劇も時が経つと風化してしまいます。一応トレーナー講習でもやりますが、最近トレーナーになった方々はあまりご存知無いようで……。ウマ娘さんの方も歴史や公民で習うのですがいかんせん他にも学ぶべきことが多いもので……」

「そんなモンですよ、過去の出来事なんて。祖国がズタボロにされた独ソ戦だって今のロシアじゃドイツに勝った話しか残ってない」

「いくら世間が衝撃を受けても時が経つとその衝撃を覚えている人は減っていきます。それに栄光を語り継ぐ人は多くいますが、悲劇や汚名を語り継ぐ人は少ないですし……」

 

 少し物悲しい目でウマ娘像を見るたづなさん。

 

「ごめんなさいね、レースの前にこんな話してしまって」

「いえ、大切な話です。テイオーが今日元気にターフを走れるのはこの像のモデル達のお陰ですよ」

「ボクこの話初めて聞いたけどびっくりしちゃった。少し怖いぐらい」

「安心しろ。もう賭博を考える輩なんざいない。ほら、さっさと着替えないとレース始まるぞ」

「はーい!」

 

 控室に駆けていくテイオー。アルチョムはしばらく、先程の像を見ていた。

 

 

 

 パドックにて。

 

《一番人気を紹介します。2番、トウカイテイオー》

《素晴らしい仕上がりですね。好走を期待できます》

 

 ポーズを決めて、観客の注目を集める。文句無しの絶好調だ。アルチョムはタブレットで他の出走ウマ娘を検索する。

 

「2番人気のツーフォーハインド。デビュー戦で新記録出したのか」

 

 差しウマ娘のツーフォーハインド。デビュー戦の動画を観ると、その末脚は驚異的なものだった。少し不安になるアルチョム。

 

《2番人気。8番ツーフォーハインド》

《一番人気に負けず劣らず、いい仕上がりです》

 

 2番人気のウマ娘がポーズを取る。出走ウマ娘の紹介が終わり、ゲートインするウマ娘達。期待と不安の入り混じった目で見るアルチョムに対し、テイオーは自信満々の表情だ。

 

《各ウマ娘ゲートに入りました》

 

 準備整った。あとはテイオーの実力を信じるだけだ。

 

 

 

 閉じたゲートの先に広がるターフ。ボクのステージだ。緊張していないと言えばウソになる。でも、嫌な緊張じゃない。それは、ここに来たみんながボクに期待しているからだ。それにこの期待こそ、ボクにとって最高のパワーになる。みんなの注目の中でボクが一番に輝く。その舞台は今だ! 

 

 ゲートが開くと同時にターフに飛び出る。このレースの出走ウマ娘は自分も含めて9人。先頭に躍り出た1人のウマ娘は逃げ、自分の周囲にいる3人は先行、後ろの3人は差し、最後尾の1人は追込か。

 

 同じ先行ウマ娘の後方について今はスタミナを温存する。まだまだゴールまで長い。

 前回のデビュー戦の経験を思い出しながら位置取りを行う。テイオーを後ろを確認する。パドックで2番人気として紹介されたウマ娘、ツーフォーハインドがピッタリとマークしている。背後に気を配りつつ、先団と一定の距離を保つテイオー。

 コーナーを曲がりながら、状況をよく観察する。

 

 まだ仕掛けるには早すぎる。ふと前を見ると先団にいる1人のウマ娘がやや前に出つつあった。掛かりだ。おそらくあの子は前にいる逃げの子に気を取られてしまったのだろう。しかしテイオーは比較的冷静だった。常に一定のリズムで呼吸し、視野を広く保つ。

 トレーナーから教わった冷静さを保つ方法だ。それを思い出しながら、直線を抜けていく。

 

 迫る第3コーナー。ここを抜けたら正念場だ。

 改めて深呼吸を行い、周囲の状況を把握する。さっき掛かっていた子はスタミナが切れたのか、明らかにスピードが落ちている。逃げの子は相変わらずのペースだ。

 そして問題は自分をピッタリマークしている差しのツーフォーハインド。隙を狙うその視線はまるで威嚇する猛獣のようだ。そのまま最終コーナーに差し掛かる。

 

 まだ早いか? いや、少し仕掛けて周りの動きを見てみよう。

 

 少し早めに仕掛ける準備を始めた。まずは先団から抜け出す必要がある。なるべく内側を走りたいが、それは他のウマ娘も同じだ。少しスピードを上げて前のウマ娘にプレッシャーをかけた。それに押されるように先団の1人がスピードを上げ始める。

 

 テイオーの前に道が開けつつあるが……。抜け出すタイミングが勝負を決する。

 

 行けるか? 

 

 隣を走る子もスピードを上げようとしていた。考えることは同じだ。

 

 まだまだボクの脚にスタミナは残ってる。なら、先を越される前に突っ切る! 

 

 テイオーは足に力を込めて一気にスピードを上げ、華麗なステップを踏んで先団を抜け出す。

 

《トウカイテイオー、ここで仕掛ける!》

 

 最終コーナーから直線に入り、前にいるのは逃げの子だけだ。だが、後ろからはツーフォーハインドが追い上げてくる。ここから先は小細工など通用しない。その末脚だけが武器だ。

 残りのスタミナを全て脚に込めて、さらにスピードを上げる。逃げの子の背中を追い越し、ハナに躍り出たテイオー。

 

 よし! ボクがハナをとった! 

 

 すかさず背後を確認する。追い上げてくるツーフォーハインド。

 

《ゴールまであと200! ハナを切るはトウカイテイオー、しかしツーフォーハインドも食らいつく!》

 

 負けるもんか! 

 

 驚異的な末脚で迫るツーフォーハインド。2バ身、1バ身と距離を縮める。しかしそこで、テイオーはさらにスピードを上げた。

 

 これがボクの全力だ! 

 

 全力でターフを踏み込み、蹄跡を刻みつける。抉られた芝は宙を舞う。

 あの華奢な身体の一体どこにそんなパワーを隠し持っていたのか? しかし、そんな疑問を吹き飛ばすようにテイオーはゴール板を駆け抜ける。

 

《トウカイテイオー! 今一着でゴールイン! 芙蓉ステークスを制したのはトウカイテイオーです!》

 

 ゴール板を駆け抜けたテイオーと、大興奮の観客。テイオーは拳を付き合げて喜んだ。

 

「流石だ! よくやったぞ、テイオー!」

 

 トレーナーが嬉しそうに手を振ってる。

 

「くっそー、アタシの末脚で敵わないなんて!」

 

 惜しくも2着になったツーフォーハインド。こちらに近寄ってきて、手を差し伸べる。

 

「アンタには負けたよ。次、どこで会うかわからないけど、その時はアタシが勝つ……!」

「お疲れ、ボクだって次も負ける気ないから」

 

 握手する2人。こうして、トウカイテイオーは芙蓉ステークスを制した。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 芙蓉ステークスの翌日。

 

「トレーナー! 次のレースは?」

「よし、皐月賞に向けた第一段階として若駒ステークスに出るか」

「オッケー!」

「んで、その次に若葉ステークスだ。この二つを勝てれば、皐月は獲ったも同然だ」

「よーし! やってやるモンネ!」

「おう、ぶちかませ!」

 

 早速グラウンドでトレーニングを開始する。すると先客がいた。チームスピカだ。

 

「おっと先客だ」

「いーじゃん、一緒にやろうよ」

「そうだな。ちょいと沖野に話をつけてくる」

 

 沖野トレーナーの元に向かい、何かを話すアルチョム。

 

「よーし、テイオー! 今からスペシャルウィークと並走だ!」

「テイオーさん、よろしくお願いします!」

「え⁈スペちゃんと? よーし、負けないぞー!」

 

 スペシャルウィーク。今年の日本ダービーを制したダービーウマ娘。その実力は確かなものだろう。それに学年も近く、参考にできるテクニックが多いはずだ。だからこそアルチョムは並走相手に選んだ。

 スタートラインに並ぶ2人。

 

「位置について! ヨーイ、スタート!」

 

 夏合宿ではあれほど楽しそうに遊んでいた2人がライバルとしてターフでぶつかり合う。

 スペシャルウィークはこの前の芙蓉ステークスでテイオーに迫ったツーフォーハインドと同じ差しウマ娘だ。アルチョムとしては、より強い差しウマ娘との並走で、差しへの対応を学ばせるつもりだった。

 

 テイオーの少し後ろに付くスペシャルウィーク。ペースを維持しながら並走していくが、最終コーナーに入ると同時に一気に追い上げて行く。テイオーも必死に食らいつくが抜かすことはできずそのまま逆転は叶わなかった。

 

「だ、ダメだ、ぜんぜん追いつけない……」

「テイオーさんすごかったですよ! 私の末脚にあそこまで追いかけてくるなんて!」

 

 落ち込んでるテイオーと裏腹にスペシャルウィークはテイオーを褒めている。スペシャルウィークの末脚はダービーの時と同じレベルのものだった。それに食らいついたのだからテイオーも中々のものである。

 

「テイオー、あの粘り強さは武器だ。それにこの並走で学んだこと、思い出しながら走ってみろ」

 

 アルチョムがまたトレーニングの指示を飛ばす。

 

「わかった、やってみる!」

 

 再び走り出すテイオー。それにチームスピカのメンバーも加わる。クラシック三冠を目指すその脚は、まだまだ止まりそうにない。

 

 






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