元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました 作:武装田んぼ
本編に書くほどではなかったり、尺の都合で省いたり、あとから考えると書いておいた方が良さそうと思ったエピソードをあげていきます。
読まなくてもそこまで問題ありませんが、興味が有れば是非ご笑覧ください。
本編の続きはもうしばらくお待ちくださいませ。
「トレーナー! 聞いて聞いて!」
十月も終わりが見えてきたある日。テイオーが元気に扉をあけてトレーナー室にやってきた。
「クラスで腕相撲大会やってさ、ボク優勝したんだよ!」
「へぇ〜、やるじゃないか」
ドヤ顔で報告するテイオーに対し、アルチョムの反応はどこか素っ気ない。
「トレーナーもっと褒めてよ〜!」
「すごいと思うぞ。力持ちだな」
「むぅ〜」
アルチョムはさっきからずっとパソコンの画面から目を離さず、片手でメモを取っている。テイオーは何をやっているのか覗いてみると、英語で書かれた記事と、手元のメモには波線のようなメモ書きが。
「トレーナーさっきから何してんの?」
「トレーニングの論文を読んでる」
「ふーん」
「んで、なんの話だっけ?」
一通り読み終えたのかテイオーの方を見るアルチョム。だが、テイオーは少しむくれた顔をしていた。
「ボクの話聞いてなかったの⁈」
「いや聞いてたよ、腕相撲の話だろ」
「そう! それでボク、優勝したんだよ!」
そう言い、決勝の様子を語り始める。決勝まで登ってきた相手はウオッカ。お互いに無敗のガチンコバトル。最初はウオッカが優位だったが、テイオーは一瞬の油断を突き、一気に巻き返して勝利を飾った、とのこと。
「トレーナーもボクと勝負しよ!」
「……俺に挑む気か?」
不敵な笑みを浮かべるアルチョム。
現役時代、彼は所属していた中隊内で何度も仲間たちと腕相撲をしたが、一度も負けたことはなかった。腕相撲をやる度に、彼はタダで酒を手に入れていた。
確かにウマ娘はそうでない人よりパワーはかなり優れている。だが、それでも同じ人間で限界はある。それに相手は10代前半の少女だ。なんならこちらが手加減しても良いだろう。アルチョムはそんなことを考えた。
「俺は今まで何度も腕相撲をしてきたが、負けたことは一度もないぞ? 手加減してやろうか?」
「手加減? 嫌だよ、全力で来てよ!」
お互いに机に肘を置き、手を握る。想像以上に華奢な手だ。はっきり言って、いくらウマ娘といえど勝負になるのかすら疑問に思う。
「トレーナーの手、すっごくゴツいね」
「いろいろあったからな。いい手だろ?」
そんな余裕すら見せる二人。
「このままただ勝負するのもつまらないからさ、トレーナー負けたらはちみー奢ってよ!」
「いいぞ。ならテイオーが負けたらトレーナー室掃除な」
「望むところだよ」
「じゃ」
「よーい」
「「スタート!」」
アルチョムはそこそこの力で押してみる。が、テイオーの腕は全く動かない。
思ったよりやるじゃねぇか。
「トレーナーそれ本気じゃないでしょ?」
少しつまらなさそうに言うテイオー。
「……本気出していいんだな?」
「もちろん」
「ッラァ!!」
「うぉ、やるねぇ!」
一気に力を込めてテイオーの腕を押し込む。このまま勝負がつくとアルチョムは思っていたが、テイオーが腕に力を込めた瞬間、そこでピタリと止まってしまう。
「思ったより力あるじゃん」
そんなことを言うテイオーだが、アルチョムはそれに返す余裕すらなかった。60度ぐらいまで押し込んだが、テイオーの腕はまるで鉄骨を押しているかのようにビクとも動かない。
「この勝負、もらうよッ!」
そんな一言と同時にアルチョムの腕はあっという間に倒され、決着がついた。
「……負けた? ……ウソだろ?」
倒された腕を見ながら呆然とするアルチョム。テイオーはどこか余裕そうな表情でこちらを見ている。
「どうするトレーナー? もう一回やってみる?」
「……ああ。今度こそ本気を見せてやる」
その後、三回ほど腕相撲を行ったがアルチョムは一度も勝つことは出来ず、テイオーにはちみーを奢ることになった。
これがウマ娘のパワーか。
身に染みてわかった力の差。トレーナー講習で学んだが、話で聞くのと実感するのは訳が違う。
その後、いくら誘われてもアルチョムはウマ娘相手には決して腕相撲をやらなかったという。
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年の瀬。
年末といえどやることは大して変わらない。テイオーのトレーニングを見て、アドバイスをして。始めの頃はテイオーの機嫌や調子を損ねないようにいろいろと気を遣っていたが、そのおかげか最近はなんとなく指導のコツを掴めてきた。
「よし、そろそろ休憩にするぞ!」
「はーい」
テイオーにドリンクボトルを渡し、ドローンで撮影した映像を見せながらアドバイスを行う。いつもの光景だ。その後、大抵は雑談になる。
「トレーナーさ、お正月はどーすんの?」
「特に予定はないな」
「家族に会ったりとか友達と遊んだりしないの?」
家族も友達もいない。だが、流石に事実は話せない。適当にごまかす。
「みんな忙しくてな。休みが合わないんだ」
「そうなんだ。大変だね」
「ああ。大人は大変さ」
テイオーは家族や友人がいて当然だと思っている。まあこれぐらいの年齢ならそんなものだ。年相応といえよう。だが、だからこそ自分の過去を話す気にはなれない。
ロシア軍に所属し、その後、オリョールグループの契約員として非合法な活動に従事していた。そんなこと、喋れる訳がない。
「テイオーは家に戻るのか?」
「うん。パパもママもめちゃくちゃ心配してるんだもん。あんなに心配しなくてもいいのに」
「親はそういうもんだ。頼れる時にちゃんと頼っておけ。そしていつか恩返しをしてやるんだ。いいな?」
「はーい」
羨ましい。6歳の時に、家族が爆弾で吹き飛ばされた自分からすれば、たとえ鬱陶しく連絡してくる親すら羨ましく思える。
だからこそ、テイオーには両親を大切にしてほしい。あって当たり前という存在は、想像以上に貴重な存在なのだ。
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