元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました   作:武装田んぼ

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なんの間違いか急に閲覧数、お気に入り、評価が増えて困惑するやら嬉しいやらで忙しいですが皆様の暖かい支援に深く感謝します。生憎遅筆な人間ですので気長にお待ちいただきたく存じます。


第7話 走って悩んで怒られて

 

 

 年が明け、テイオーの次の目標である若駒ステークスまであと二週間を切った。ミリタリージャケットに身を包み、タブレットを持ちながら駆け抜けていくテイオーを見守るアルチョム。

 

「第3コーナー前、スピード落ちてるぞ! 気をつけろ!」

「はい!」

 

 ドローンと目視の両方で、テイオーの走りをコーチングする。2人ともその姿は真剣そのものだ。

 

「気合い入ってるねぇ〜、流石期待の新星」

「ターボだって負けないもん!」

「まあ、私達は私達のペースでむんっとがんばりましょう」

「そういえばネイチャさん、次の若駒ステークスに出走するのであればテイオーさんと並走してみてはいかがです?」

「ええっ⁈ イクノ本気で言ってる?」

「もちろんです」

「うーん、どうしようかなぁ……」

「それでしたらアルチョムさんに伺って参りますよ」

「ええ、トレーナーも本気……?」

 

 賑やかなチームがグラウンドに現れた。チームカノープスだ。所属するウマ娘はナイスネイチャ、マチカネタンホイザ、ツインターボ、イクノディクタスの4人。

 リギルやスピカに比べればその戦績は見劣りするが、G2やG3で勝利を飾っており、実力は確かなものである。そんなチームを率いるはまるで優男を絵に描いたようなルックスの南坂トレーナー。

 

 常にミリタリールックでどこか威圧的なアルチョムとは対照的に背広を着こなして物腰柔らかな印象を受ける。

 

「お疲れ様です、アルチョムさん。今、お時間よろしいでしょうか?」

「ああ、南坂さん。何か御用で?」

「もしトレーニングに差し支えなければ、ウチのナイスネイチャさんをそちらのトウカイテイオーさんと並走していただきたく思うのですがどうでしょう?」

「ええ、もちろんいいですよ。テイオーにとっても実戦的な経験になるでしょう」

 

 了承したアルチョムはテイオーを呼び出す。

 

「テイオー! ちょいとこっち来い」

「どしたのトレーナー?」

「予定変更だ。次はネイチャと並走する、いけるな?」

「ネイチャと? もちろんオッケーだよ!」

 

 元気に返事をするテイオー。ネイチャも腹を括ったのか、前をしっかりと見ながらスタートラインに立つ。

 

「準備はいいな? ヨーイ……、スタート!」

 

 アルチョムがスタート脇で合図する。それと同時に飛び出す2人のウマ娘。

 近過ぎず離れ過ぎず、一定の距離をお互いに保ちながら2人は駆けていく。

 

「ネイチャも食らいつくね〜」

「中距離が得意なだけ、スタミナはありますからね」

「ターボだったら追い抜いて先行っちゃうもん!」

「それでスタミナ使い切らないようになればターボさんももっと強くなれるんですが……」

 

 少し困ったように言う南坂トレーナー。アルチョムはアルチョムでタブレットに先程の走り込みの映像を流しながら今走っているテイオーと見比べている。

 

 並走もまもなく最終コーナーだ。ネイチャが追い込みをかけ始める。だが、テイオーはまだ動かない。

 ネイチャがジリジリと距離を詰めていき、コーナーを抜けて直線に入ったと同時に、テイオーを抜かすネイチャ。しかし、テイオーもスピードを徐々に上げ、ネイチャに並ぼうとする。

 

「速い……! でも、アタシだって……!」

 

 ネイチャはテイオーから逃げ切ろうとさらにスピードを上げるが、テイオーはみるみる近づき、遂にはネイチャを追い抜いた。そのままスピードを落とすことなくゴール。

 この並走はテイオーがネイチャに2バ身差での勝利となった。しかし、テイオーが勝ったのにも関わらず、アルチョムの表情はやや悩ましげだ。

 

「はぁ……、はぁ……、やっぱテイオーには敵わないや……」

「ネイチャお疲れ! 最後の末脚すごかったよ」

「ネイチャは最後に差そうとするからダメなんだよ、最初から全力でいけば勝てる!」

「ネイチャさんの脚質は差しですから、ターボさんの提案はあまり……」

 

 カノープスが集まってあれこれ話している。アルチョムはテイオーを呼んで、タブレットの映像を見せていた。

 

「テイオー、仕掛けるタイミングは悪くない。だが仕掛けた後の走り方が前の走り方に近くなってる。この走り方は関節に負荷がかかりやすいと言ったぞ」

「えー、でもボクはあの走り方が一番速くなるんだもん」

「テイオーの言いたいことはわかるが、だからって関節をダメにするような走り方を続けさせる訳にはいかない」

「そんなにヤバい走り方なの?」

「今すぐに関節がダメになるようなものじゃないが、この走り方を続けていると遅かれ早かれ関節か骨がやられる。いいか? 足のこの辺に力を入れて踏み込むようにするんだ。そこを意識してみろ。テイオーなら出来る」

「うーん、わかったよ」

 

 勝ったといえど、テイオーはテイオーで課題が残っているようだ。アルチョムはテイオーの前で脚のあちこちを指差してあれこれ話していた。

 

「テイオーのトレーナーさん、何話してんだろ」

「脚の使い方でしょうか? 今度聞いてみます?」

「いやー、そこまではいいよ」

「でもあのトレーナーさん、今年入ってきた新人さんですけどすごいですね、テイオーさんを担当してすでに2勝しているんですから」

 

 タンホイザがアルチョムを見ながら言った。

 

「テイオーもトレーナーもすごいタイプじゃない? 天才×天才、みたいな」

「だとしたらトレーナーさん、ここ来る前何してたんでしょう?」

 

 ふと疑問を口にするイクノディクタス。

 

「ターボ噂聞いたことある! なんか裏社会の仕事してたって!」

「私は伝説のヒットマンって聞いたけど? ねぇ、イクノはどう思う?」

「私ですか……? そうですね、身体をよく使う職業だとは思いますが、警察や消防、又は軍隊とかでしょうか?」

「お巡りさんとか兵隊さんならなんかわかる気がする」

 

 タンホイザが敬礼の真似をする。

 

「でも過去が気になるといえばウチのトレーナーも気にならない?」

「まあそうですね。ほとんど喋りませんし」

「人に言いたくない過去とかあるから迂闊に聞けないけど気になるよね〜」

 

 アルチョムと何か話す南坂トレーナー。よくある情報交換だ。

 

「何話してると思う?」

 

 無邪気に聞くツインターボ。

 

「フツーにトレーニングの話じゃないの?」

「実は2人とも昔、どこかの戦場で戦った敵同士とか……!」

「マチタン、アンタ変な映画の観過ぎ」

「あ、テイオー! どしたの?」

 

 ふと、振り向いたターボがテイオーに話しかけた。

 

「トレーナーがずっと話し合っててつまんないからこっち来たの」

「さっきから話し合いしてるね、そういえば」

「ねぇテイオーさ、アルチョムトレーナーがトレセンに来る前に何してたか知ってる?」

「知るわけないじゃん。トレーナー昔の事絶対話さないし、聞いたら聞いたですぐ話題逸らすもん」

「やっぱ知られたくないんでしょうね」

「噂については聞いてるの?」

「裏社会のボスだったとかって話?」

「そうそれ」

「トレーナーはそういうのは噂話にしておくのが一番面白いって言ってたよ」

「どういう意味よ」

「ボクだって聞きたいよ」

「なんだかんだで過去がよくわからないトレーナーさんちょくちょくいるよね」

「まあそのおかげで私達は噂話のネタに困りませんが」

 

 話し合うトレーナーを眺めるウマ娘達。こうしてまた、噂話に尾ひれはひれが付いていくのであった。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 中京競バ場。

 デビュー戦以来2回目の中京だ。本来なら京都競バ場で開催される若駒ステークスだが、大規模改修工事とのことで開催競バ場が変更になっている。

 

 1月下旬の寒さが身に染みるこの日。だが、アルチョムもテイオーも平気そうだ。

 

 テイオーはまあ平常運転である。暑かろうが寒かろうがいつも元気だ。

 アルチョムも寒さは平気だ。彼の出身地であるロシア南部のロストフ州は気候としては日本より平均気温がやや低いが大差無く、アルチョムにとっての問題は夏季の湿度だけである。

 

 今回、テイオーが出走する若駒ステークスはリステッド競争に分類され、前回までのオープン戦より格上とされる。それゆえ、出走するウマ娘もそれ相応の実力者が揃う。

 

「テイオー、どうだ行けるか?」

「絶好調! 絶対に勝って来るよ!」

「よし、その調子だ。だが油断するなよ? ここに来る連中は今までの相手より手強いぞ」

「わかってるよ。でも負ける気なんてこれっぽっちもないもん」

 

 そう言い、ターフを見るテイオーの蒼い瞳にはまるで紅蓮の炎のように闘志が燃え滾っている。アルチョムはテイオーに任せることにした。この子なら好きに走って勝って来る。根拠がある訳では無いが、そう思えた。

 

「よし、さっさと着替えてこい」

「はーい」

 

《一番人気を紹介します。9番、トウカイテイオー》

《素晴らしい仕上がりです。得意の芝コースで好走を期待できます》

 

 相変わらずの一番人気だ。前回の芙蓉ステークス勝利後、クラシック三冠を目指す旨の記事があの乙名史記者によって書かれた。

 誇張とも言える内容だったが、アナログだろうがデジタルだろうが、媒体を問わず記事と言うものはセンセーショナルな方がウケる。アルチョムもポジティブに書いてくれるなら好きにしてくれ、というスタンスゆえに半ば諦めていた。

 

 無論、そのおかげで巷でのテイオーは人気者として知名度をどんどん上げていった。この前もゲーセンでダンスゲームの生配信を行い、同時視聴者数が3000人を超えた。初回でこの視聴者数はその人気ぶりが窺えるというものである。

 

 その人気ゆえの期待は大きい。まだ中学生のテイオーにとっては重圧かもしれない……、とアルチョムは思うが、テイオーはむしろもっと期待を寄せて欲しいと言わんばかりだ。尤も、テイオーが受ける期待とアルチョムが今まで受けてきた期待は全くの別物であるが。スポーツ選手への期待と国家の汚れ仕事の担い手への期待が同じな訳が無い。

 

《二番人気、4番ナイスネイチャ》

《良い仕上がりですね。こちらも好走を期待できます》

 

 ポーズを取るナイスネイチャ。

 

「今日はよろしくお願いします。アルチョムさん」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 アルチョムの隣に来たのは南坂トレーナーだ。いつもの朗らかな顔で話しかけてくる。

 

「ネイチャさん、実力はあるんですがいかんせん、テイオーさんを意識し過ぎている部分がありまして……」

「まあ、ライバルを意識するのは良いことですが、あまり固執すると上手くいくはずのものもダメになってしまいますからね」

「少しネガティブな思考が強いんですよね、ネイチャさん」

「そういうのは周りが何を言っても本人が気づいて変わらなければなりませんからね……」

「そこを上手くやるのが我々トレーナーなのでしょうけど……」

「大丈夫ですよ、テイオー1人で手一杯の自分からすればチームを率いている南坂さんは南坂さんで上手くやってます」

「そう言っていただけて嬉しいです」

「おっと、まもなく出走ですね」

 

 腕時計を確認するアルチョム。

 

「あとは2人が悔いのない勝負をしてくれるよう祈りましょう」

 

 2人のトレーナーが関係者エリアに入り、ターフに立つウマ娘達を見守る。

 

 

 

 出走ゲートに入るウマ娘達。ゲートの先に広がるターフの芝は今日も鮮やかな黄緑色だ。

 ストレッチをして脚の調子を確認するテイオー。

 

 よし、いける! 

 

 確かな自信を持ち、ゲートの先に広がるターフを見据える。

 

 ゲートが開く。

 一斉に飛び出すウマ娘。テイオーも良いスタートを切り、先団の端に着く。そして次は状況の把握だ。逃げのウマ娘が2人、先行は自分を省いて3人、差しが1人と追込が2人。

 状況を把握。今の位置は先団の端だが、前のウマ娘のおかげで空気抵抗はやや少ない。

 

 この位置をキープして、チャンスを狙う! 

 

 自分の居場所を把握しているのか、お互いがお互いを意識しているのか、ウマ娘達は時々周りをみている。テイオーは軽く後ろを確認する。ネイチャがこちらをマークしていた。

 

 仕掛けて来るのはまだ先だろう。今は出来る限り自分のペースを維持しつつ、スタミナを温存することだ。

 レースの中盤に差し掛かった時、先団のウマ娘の1人が前に出始めた。

 

《おっと、1番アップツリーが落ち着かない様子》

《掛かっているかもしれません。一息つけるといいのですが》

 

 必死に前に出ようとするアップツリー。しかし、レースはまだ中盤だ。ここで前に出過ぎるとスタミナを浪費してしまう。テイオーも前に出たアップツリーに気を取られ、スピードを上げそうになる。

 

 まずい、1番の子だけ見てた。周りを確認しなきゃ……! 

 

 周りを見渡したテイオー。アップツリーを中心に狭まりつつあった視界が再び開け、自分の隣のウマ娘や、流れる景色が目に映る。アルチョムから教わった方法だ。

 

 トレーニングの際、わざとアルチョムはテイオーが走ってる前にドローンを飛ばし、視線を奪うように動かした。前を走っているウマ娘に気を取られるのと似たような状況を作りトレーニングをしていたのだ。おかげでテイオーは、対策を思い出し掛かることを防げた。

 

 トレーニングで教わるのは速く走るための走法や、効率的な脚の使い方、呼吸法など多種多様にある。その中にはもちろん、本番において常に冷静な判断を下せるようになることも含まれる。アルチョムはかつての戦場での経験からこのトレーニングを思いつき、テイオーに実践していた。その成果はこのレースで活きていた。

 

 レースは終盤に差し掛かる。第3コーナーを抜け、最終コーナーに入ると先団のウマ娘達が少しづつスピードを上げ始めた。しかし、さっき掛かってしまったアップツリーは案の定、思うように足が伸びていない。

 後方を確認するテイオー。ネイチャはまだ動きそうにない。

 

 そろそろ仕掛けちゃうモンネ! 

 

 最終コーナーから出る直前、テイオーは華麗なステップを踏み、前のウマ娘を交わして先団の前に躍り出た。前の逃げウマ娘もスピードを上げ始めている。

 

 このまま抜かす! 

 

 スピードを上げつつ後ろを確認するテイオー。ネイチャが上がってくる。その末脚は前回の並走よりもずっとパワフルだった。

 

 ネイチャの走り方、並走と全然違う⁈

 

 なんとしてでもこちらに食らいついてやるという気概を感じる走りだ。

 

 だからって負けるワケないじゃん! 

 

 両脚に力を込めて、テイオーは前へ前へと突き進む。それでも必死に食らいつくネイチャ。テイオーが逃げ切るか、ネイチャが差すか。

 

 ボクはもっと、速く走れる……! 

 

 力強く踏み込む脚。抉れる芝。前を走る逃げウマ娘を追い抜かし、ハナに出るテイオー。

 

《トウカイテイオー、ハナを突き進む! 食らいつくナイスネイチャ! その差は2バ身!》

 

 

 アタシだって……、勝つために走ってんの! 

 

 ボクが負けるワケないじゃん……! 

 

 

 ネイチャはテイオーの2バ身後ろで追いかける。だがその差は埋まらない。

 

 ボクがこのまま……、逃げ切ってやる! 

 

 残りのスタミナを全て脚に込めて、全力をターフにぶつけるテイオー。差を詰められることなく、テイオーはゴール板を駆け抜けた。

 

《トウカイテイオー、今一着でゴールイン! 今回も素晴らしい走りでした!》

 

 観客から歓声が上がり、それに応えて大きく手を振るテイオー。

 

「やったなテイオー! やってくれるって信じてたぜ!」

 

 関係者席でハイテンションのアルチョム。席から立ち上がって指笛を吹いている。

 

「……アタシはやっぱりあのキラキラには敵わない……」

 

 歓声に応えるテイオーを眺めながら呟くネイチャ。そこに寄ってきたのは南坂トレーナーだ。

 

「そんなこと言わないでください。ネイチャさんも十分キラキラしてましたから」

「わかってる。でもアタシはあんな風な主人公にはなれない」

 

 慰めの言葉をかけられて顔を俯くネイチャと困ったような表情を浮かべる南坂トレーナー。テイオーもそんな2人の様子に気づいたが、かける言葉が見つからなかった。 

 

 控室にて。

 

「テイオー、着替え終わったな? 入るぞ」

「いいよー」

「よくやったな、テイオー。次の若葉も獲れば、皐月だろうがダービーだろうが怖くない。向かう所敵なしってヤツだ」

 

 意気揚々と話しかけるアルチョムに対し、テイオーはどこか複雑そうだ。

 

「ねぇ、トレーナー」

「どうした?」

「さっきのネイチャにさ、ボクはどうすればよかったのかな」

「……」

 

 こうすれば良い、という最適解が見つからないアルチョム。ネイチャと南坂トレーナーの様子はアルチョムも見ていた。だが、アルチョムの中では勝者がいれば敗者がいるのは当然であり、それは結果でしかない。というどこかドライな考えを持っていた。

 

「……勝者は勝者らしく堂々としてるのがいいんじゃないか? 結局はレースの結果の話だ」

「それはそうかもしれないけど……」

 

 答えが見つからない。

 アルチョムの過去からすればそもそもレースや試合のようなフェアな環境で自分の限界に挑むような経験より、軍事的目標の達成のために、敵より可能な限り優位に立ち、そのためなら手段は選ばず、敗者にあるのは死か降伏であった。

 

 自分がレースで負かした相手をどうするかなんて考えたことも無い。こういうのはテイオーの方がわかっているように思えるがこの様子を見る限りそうでもないようだ。

 

 2人に新たな課題が増えた瞬間だった。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 いつもの2人。今日はトレーニングジムにいた。次の若葉ステークス、ひいては皐月賞に向けたトレーニングも大詰めを迎えつつある。

 いつものごとくタブレットをいじりながらテイオーのトレーニングをコーチングするアルチョム。

 

「あなた、タブレットで遊びながらなんてトレーナーとして何考えてるんです?」

「あ?」

 

 振り向くとそこには黒いスーツを着た女性が厳しい表情で立っていた。

 

「申し遅れました。私は樫本理子と申します。昨年度はほとんどURAの方に出向いていたものでこちらの様子を見ることが少なかったのですが……。私の知らない間にこんなことになるとは……」

 

 軽く頭を抱える女性。

 

「噂は聞いていますよ、アルチョムさん。グラウンドでも勝手にドローンを飛ばしているだの、ゲームセンターで遊んでいただの……」

 

 こちらに対し、だいぶ不満が溜まっているようだ。お説教は続く。

 

「それに、担当ウマ娘の自主トレーニングを容認し、ウマ娘も休憩中にお喋り、あまつさえ遊んでいるなんて……」

「別にいいだろ」

「あなた、担当の睡眠時間や睡眠の質、把握してます? してませんよね。……はぁ。こんなぬるいトレーニングでクラシック三冠を目指すなど……。レベルが落ちたものです。そしてあまりにも無責任です」

「テメェさっきから聞いてりゃあれこれ文句つけやがって。喧嘩なら買うぞ?」

 

 指を鳴らして凄むアルチョム。

 

「あなたの放任主義はいずれウマ娘に取り返しのつかない事態を起こしかねません。もっと管理を徹底すべきです」

「中学生を管理だ? んなことしたら絶対反発するに決まってんだろ。そもそも管理なんざ無理だ」

「あらゆる手段で押さえつけても構いません。ちゃんと管理すべきです」

「そうやって国民を管理しようとしたソヴィエトは崩壊したぞ」

 

 平行線を辿る2人。樫本と名乗った女性はこちらに一通り説教をして去っていった。

 

「なんなんだアイツ……」

 

 イラつきながら去っていく後ろ姿を睨む。

 

「トレーナー、大丈夫?」

「……あぁ、大丈夫だ。気にするな」

 

 アルチョムの中でさっき言われた〝取り返しのつかない事態〟という言葉が反芻される。

 いや、落ち着け俺。難民キャンプで爆撃に巻き込まれる以上に取り返しのつかない事態なんざあるわけない。

 俺たちは俺たちの方法で前に進むんだ。そう考えるようにし、アルチョムはテイオーのトレーニングに戻った。

 

 

 






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