元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました   作:武装田んぼ

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Escape From Tarkovとドールズフロントラインをやり込んだ人間がウマ娘にハマったらこうなりました。
拙い作品ですがご笑覧いただければ幸いです。




前日譚
前日譚 トウカイテイオー編


 

 

 東京都内のとある運動公園。1964年の東京オリンピックに合わせて整備されたこの公園はこの日、大いに賑わっていた。

 

 都内児童選抜体育大会。

 東京都内の小学校からサッカーや野球、バスケットボールなどの球技、徒競走や高跳び、幅跳びのような陸上競技でアスリートを目指す小学生が集い、その頂点を目指す大会だ。選手たちは小学生といえど競技に臨む姿勢にはすでにアスリートの片鱗すら感じる。

 

 そしてその中でも特に注目を集める競技があった。競バだ。

 

 ウマ娘。見た目は人間の少女とそう変わりはないが、頭には耳が、腰には尻尾の生えた特徴的な外観と、人間を遥かに凌駕する身体能力。神話にも登場し、古来から神聖視されてきた。

 そして彼女達の多くが速く走ること、そして勝利することに強い憧れを抱いている。

 

 ここで友達に囲まれているウマ娘、トウカイテイオーもその一人だ。

 

「次の徒競走、テイオーなら余裕だよね!」

「みんな応援してるからね!」

「最強のテイオーならぶっちぎりで一位だよ!」

「当たり前じゃん! ボクを誰だと思ってるの!」

 

 クラスメイトからの応援に彼女は満面の笑みで答える。

 

《間もなく、徒競走ウマ娘の部が始まります。出走する選手は所定の位置に集まってください》

 

 アナウンスが流れる。

 

「じゃあボク行ってくるね! あっという間に勝ってくるからみんな見逃しちゃダメだよ!」

 

 元気にトラックコースの脇にある集合場所に向かうテイオー。余裕そうに振る舞っていたが、その目は真剣そのものだった。

 

 あの時、ボクは誓ったんだ。憧れのシンボリルドルフみたいなウマ娘になるって、だからこんなところで負けるわけには絶対にいかない! 

 

 そして思い出す、この前の出来事。クラシック三冠を手にしたシンボリルドルフ。彼女の記者会見場で思わず飛び出してこう宣言した。

 

「ボクは絶対にシンボリルドルフさんみたいな強くてカッコいいウマ娘になります!」

 

 あの憧れへの道は決して楽なものではない。幼いながらも彼女はそれをよく理解していた。

 

 だからこそ、このレースで強さを証明するんだ! 

 

 覚悟は闘志となり、テイオーの心を真紅に燃え上がらせた。

 出走メンバーの確認が終わり、まもなく競技が始まる。小学生とはいえ、ここに出走するのはそれ相応の実力者揃いだ。幼少期からトレーニングを積んできた子もいるであろう。だが、どんな相手だろうと負ける気はさらさら無かった。

 

《ゼッケン番号3番、トウカイテイオー》

 

 名前がアナウンスされる。テイオーはそれに大きく手を振って答えた。

 出走メンバーが読み上げられ、全員がスタートラインに立つ。

 

 今回のレースは800メートル競争とほぼ同じルールで競われる。400メートルトラックコースを2周し、一番先にゴールしたウマ娘の優勝だ。ウマ娘の体力であれば小学生といえど800メートルを走り切るのは難しいことではない。

 

 だが、もちろん生半可なトレーニングでは途中でバテてしまうだろうし、走り切るにもある程度の素質が関わってくる。

 勝負の世界はたとえ小学生であろうと容赦はない。テイオー自身、ある程度はそれを理解していた。だからこそ、闘志がみなぎるのだ。

 係員がコース脇に立ち、右手に握ったスターターピストルを上に向ける。

 

「よーい!」

 

 火薬の乾いた破裂音と共に飛び出す8人のウマ娘。スタートから100メートルはトラックに従い走るが、それ以降は自分で位置取りを行う。ここからが勝負だ。どれだけ良い位置につけるかは結果を大きく左右する。

 

 ウマ娘には脚質と言われるものが存在する。

 逃げ、先行、差し、追込。

 ハナを切って突き進む逃げ。逃げを追いつつ、最後のスパートで前に躍り出る先行。後方に控えチャンスを窺い、その瞬発力でゴールを目指す差し。さらにその後ろで控え、最後の直線で全てをぶつける追込。

 

 テイオーの得意とする走り方は先行であり、これはそのウマ娘の実力が最も反映される走り方とも言われる。

 テイオーは走りながら周囲を確認し、先行のバ群で走る。逃げは1人、先行は自分を含め4人、差しが1人、追込は2人か。

 あまりスタミナを消耗すると最後のスパートが伸びなくなる。今はなるべく温存しつつチャンスを窺っていた。

 

 今の位置は先団のバ群の後方。逃げの子から1バ身離れて前に2人、並んで1人。そしてテイオーの後ろに1人、さらに後ろに2人。聞こえるのは観客席の歓声と周りのウマ娘の呼吸だ。

 

 コーナーを抜け再び直線。レースはすでに2週目に入っていた。

 まだだ、仕掛けるチャンスを見極めるんだ。脚の調子もスタートから変わってない。近づいてくる最終コーナー。ここからライバルは仕掛けてくるだろう。読み通り、追込の1人が速度を上げて迫って来る。

 

 すかさず前を見る。先行の1人もスパートをかけ始めた。そして前に道が見えた。しかし、ここで飛び出したい気持ちを抑える。まだだ、逃げの子がいる。今飛び出してもブロックされてしまうかもしれない。

 逃げの子が、スピードを上げ始めた。

 

 いまだ! 

 

 脚に力を入れ、華麗なステップを踏みウマ娘の間をすり抜ける。周りからウマ娘がいなくなる。そして逃げのウマ娘すらひょいと追い抜かし、ぐんぐんと差を開いていく。

 

 これだ! ボクの一番好きな走り方! 

 

 スピードと共に鼓動もどんどん早くなる。

 

 先頭を1人で駆け抜ける気持ちよさ! 

 

 みんながボクに注目している! 

 

 このレースで一番のボクに! 

 

《トウカイテイオー、抜け出した! 速い! 速すぎる! 4バ身、5バ身! 後ろを突き放して独走状態です!》

 

 アナウンスも大興奮だ。そのまま大きく突き放しぶっちぎりでゴール板を駆け抜ける。

 

《トウカイテイオー! 1着でゴール! 7バ身差をつけ、圧倒的な勝利です!》

 

 完全勝利だ。実力差を見せつけ、他のウマ娘をねじ伏せた。そして電光掲示板に表示されるタイム。

 

《トウカイテイオー! 大会記録を更新! 新記録です!》

 

 大会新記録を叩き出した。

 トウカイテイオーは拳を突き上げて喜びを全身で表現する。

 

 やった! ボクはやった! この勝負、ボクが一番で当たり前だけどやっぱり嬉しい! 

 

「さすが最強のウマ娘!」

「テイオーちゃんすごい!」

「テイオーに敵うウマ娘なんていないな!」

 

 観客席から友達が口々に称賛する。テイオーはそれに応えるように観客席の前に向かう。

 

「当たり前じゃん! だってボクはあのシンボリルドルフに並ぶウマ娘だもん! こんなところで負ける訳にはいかないよ!」

 

 堂々と宣言するトウカイテイオー。彼女にとって、これは始まりに過ぎなかった。

 

「だからねみんな! ボクは絶対にクラシック三冠をとって見せるんだ!」

 

 綺麗なポニーテールを揺らしながらカッコよくポーズを決めるトウカイテイオー。その目はアスリートそのものだった。

 

 

 

 友達に囲まれた真ん中で喜ぶトウカイテイオーを見ながら数人の男女が話している。皆トレセン学園の関係者だ。

 

「あの走り、流石としかいえません」

 

 ある関係者が言った。

 

「全くね。シンボリルドルフの記者会見で宣言しただけはあるわ」

 

 隣の関係者も深く頷く。

 

「彼女は間違いなくトレセン学園に来るでしょうね。そして我々の期待の星となるでしょう」

「彼女の担当は誰になるでしょうか? それ相応の実績を持つトレーナーが担当できれば良いのですが」

 

 眼鏡を光らせた関係者が言う。

 

「最後に選ぶのはウマ娘本人だからなんとも言えませんが、それでもやはり実績のあるトレーナーの元で活躍すべきです」

 

 彼らはすでにトウカイテイオーを担当すべきトレーナーについて議論していた。それだけトレセン学園からしても注目の的であったのだ。

 

「どのようなトレーナーでも、彼女が十分に信頼をおける人であるべきだ。実績がいくら優れていようと、彼女が信頼できなければ活躍できないであろう」

 

 後ろから声がする。そこにいたのはクラシック三冠バシンボリルドルフだ。

 

「シンボリルドルフさん! わざわざこんなところに来なくても……」

「注目の後輩だからな。あんな宣言をされてはその実力というものを見てみたくなるものだ」

 

 腕を組み、真剣な眼差しでトラックコースのトウカイテイオーを眺める。

 

「私の前で宣言するだけはある。7バ身差でゴール、さらには大会新記録を出した。我々は傑物の誕生を目の当たりにしたのかもしれないな」

 

 トウカイテイオーを見つめる眼差し。そこに込められた想いは期待か、応援か、それとも覚悟か。それはトレセン学園の関係者すら量りかねていた。

 

「学園で彼女に会うのが楽しみだ。そしてどんなトレーナーを選ぶかも」

 

 シンボリルドルフは目を瞑り、自身のトレーナーとの出会いを思い出す。

 

「あまり1人のウマ娘に肩入れするのも贔屓になってしまって良くないのはわかるんだが、何故か彼女は放っておけないんだ」 

 

 まるで娘を見つめるかのような眼差しをテイオーに向ける。

 

「さて、私はこれで戻ることにするよ」

「もう少し見ていったらどうです?」

「そうしたいのは山々だが、トレーニングや生徒会役員としての務めもあるからな。ここで失礼するよ」

 

 そう言い残し、去っていくシンボリルドルフ。その後ろ姿も毅然として、美しかった。

 

「トウカイテイオーが信頼するトレーナーか……」

 

 1人の関係者が考え込む。

 

「こればかりは彼女次第ですからね。でも確かに、実績のあるトレーナーだからとて、上手く関係を築けるかは未知数です」

「ウマ娘は皆それぞれ個性的だからな。それにトレーナー自身の性格や個性もある。案外、右も左もわからん新人が適任だったりしてな」

 

 ウマ娘はそれぞれ素晴らしい素質を持っている。が、それが百パーセント発揮できるかどうかは、周囲の環境や、トレーナーとの信頼関係、そして本人のモチベーションやトレーニングなどさまざまな要因がそれを左右する。

 いくら環境が良かろうと、本人のモチベーションが高かろうと、トレーナーとの信頼関係が良くなければレースで結果を残すのは難しいであろう。

 

 特に、人間とウマ娘の間に生まれる絆は強い力を持つとされている。この力は怪我や故障を克服したり、限界を超えることができると信じられており、現に伝説的記録を残してきたウマ娘のほとんどが十二分に信頼できるトレーナーのもとでトレーニングに励んでいた。

 

 これを踏まえればやはり、トウカイテイオーのトレーナーも信頼関係をよく築ける人間でなければならない。ややオカルトな話にも聞こえなくもないが、今までの記録を見る限りそう考えざるを得ない。

 

「でも、新人って言ったってどれぐらい来てくれるかわからんからな。それに1年以上続くかどうかも……」

「去年入ってきた新人が8名で、今残っているのが4名でしたっけ」

「半分が辞めてしまいましたからね。純粋に激務だというのもありますが、ウマ娘達とうまくいかない、というのもよくあります」

「それ相応の給与は出てるはずなんですがね……」

「いくら給与を貰ったとて身体や心を壊しては元も子もないですし」

「来年の新人はどれだけ入って何人残るのか……」

 

 関係者が皆黙ってしまう。これまでを考えれば半分残ってるだけでも良い方である。酷い年になると半年で新人が全員辞めたというまるでブラック企業じみた事態もあった。

 

 トレセン学園やURAもこれを黙って見ている訳ではない。が、やはり過酷な労働と言うものは人を遠ざける。いくら給与を良くしようが、ボーナスを弾もうが、志願者が大きな夢や野望を抱えていようが、なんならウマ娘に囲まれようが、ダメな時はダメになるのが人間だ。

 

「そういえば、この前秋川理事長が注目していたトレーナーはどうだ?」

「上手くやっている。新人ながらサクラチヨノオーを担当してみるみる彼女の能力を引き出している。桐生院とハッピーミークのペアも中々のもんだ」

「理事長の人を見る目は確かです。理事長がどのような基準で見ているかがわかればもう少し新人の定着率も上がりそうですが……」

 

 そう言い悩ましげな顔をする関係者。その顔から彼女の心労がうかがえる。

 

「おっと、もうこんな時間だ。続きはトレセンに戻ってからにしよう」

 

 1人の関係者が腕時計に目を落とす。

 

「そうですね、このまま立ち話しててもあれですし」

 

 関係者が帰っていく。

 ウマ娘とトレーナーの問題はこれからも続きそうだ。

 

 

 

 

「パパ、ママ! 見てた? ボクの走り!」

 

 テイオーは両親に手を振りながら走っていく。

 

「最高だったぞ! 流石自慢の子だ!」

「新記録なんてすごいじゃない!」

「えっへん! もっともっと褒めてもいいぞよ〜!」

 

 両親からべたべたに褒められてご満悦のテイオー。

 

「今日はテイオーの勝利を記念してパーティだな」

「パーティ⁈やったー! ねーねー! みんなも一緒にいい?」

「もちろん、みんな一緒にお祝いしましょう」

「やったやったー! みんなー! ボクの勝利パーティするから来てー!」

 

 走りながら友達を呼びに行くテイオー。その姿は年相応の少女にしか見えない。

 

「ほんと⁈」

「もちろん!」

「うわーい!」

 

 はしゃぐ子供達。

 

「トウカイテイオーのお父さん、お母さん、ありがとうございます!」

 

 子供達はテイオーの両親にお辞儀して挨拶する。

 

「構わないよ。君たちもテイオーのこと、一生懸命応援してくれてありがとうね」

 

 朗らかに微笑む父親。

 

「じゃあみんな親御さんにはちゃんと連絡するのよ。そしたら車に乗りましょう」

 

 母親がそう言うと子供達は元気に返事をしてスマホを取り出し、家族に電話をかける。

 

「トウカイテイオーのお父さん、お母さん、今日はお世話になります!」

 

 元気に挨拶する子供達。

 

「じゃあみんな車に乗ってね」

 

 友達は皆でテイオーの自宅に向かう。彼女の家ではすでに祝宴の準備がなされていた。

 

「じいやに知り合いのシェフを呼んでもらってね。今日は彼が腕によりをかけて作ってくれた料理だ。たんとおあがり」

 

 テーブルに並ぶ料理はまるで五つ星ホテルのディナーと見紛うほど豪華絢爛なものだ。

 

「お嬢さまのレース勝利記念ですからね。それに相応しいものを用意せねば恥というものです」

 

 シェフの言葉は彼の料理人としてのプライドの現れだ。

 

「わざわざ申し訳ありません。ウチのテイオーのためにここまで」

「いえいえ、お嬢さまの大切な記念ですから」

 

 子供達はテーブルに着き、お行儀良く座っている。テイオーはそんな様子を見ながらテーブルの前に立って宣言する。

 

「ボクは絶対にシンボリルドルフみたいな強くてカッコいい無敗の三冠ウマ娘になります! だからみんな、絶対に応援してね!」

 

 そして堂々とポーズをするテイオー。そんな姿に拍手したり、エールを送る子供達の姿は、楽しい思い出となることであろう。

 

 しかし、その隣の大きな液晶テレビに流れるニュースは中東の不穏な情勢を伝える。

 

〔緊迫する中東情勢 ロシア、介入強化か?〕

 

 そこに映る映像の中に、ブーニーハットを被る威圧的な灰色の目と顎に傷の残る男が映っていた。

 

 

 

 

 翌年、トウカイテイオーはトレセン学園に入学。ウマ娘として、アスリートとして、本格的にトレーニングに励んで行くことになる。

 

 






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