元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました 作:武装田んぼ
あれこれ推敲していたら遅れてしまいました。
申し訳ありません。
5月下旬。
曇り空が広がるこの日。東京競バ場に溢れる人の波。この日、ここで開催されるレースは東京優駿。別名日本ダービー。
その勝者たるダービーウマ娘を一目見ようと競バファンでごった返している。
そんな中、広場で腕を組んで並ぶいつもの2人。トウカイテイオーとアルチョムが仁王立ちしていた。
「気分はどうだ?」
「絶好調! カイチョーにだって勝てそうなぐらい」
それを聞いたアルチョムは不敵に笑う。
「さすがテイオー。よし、ぶちかませ!」
「もちろん! トレーナーもボクが勝つトコロ、見逃さないでね」
「誰が見逃すか。さ、行くぞ」
関係者口から入場し、控室に向かう。
「時間潰してるから、着替えたら呼べ」
「はーい」
いつものようにアテもなく場内を彷徨うアルチョム。ふらふらと観客席に向かい、前に広がる新緑のターフを眺める。
ついにここまで来た。あとはテイオーを信じるだけだ。なあに、心配はいらない。この間だって模擬レースでスペシャルウィークとサイレンススズカに勝ったんだ。スペシャルウィークの差しを交わし、スズカを追い抜いた今のテイオーに敵はいない。確かな自信があった。もちろん、テイオーがゴール板を駆け抜ける瞬間まで気を抜けないのも事実だ。それでも、皐月賞の時のような不安は無かった。
ただ唯一の懸念はリトルココンだ。かの樫本代理の下でトレーニングを積んだウマ娘であり、この前の青葉賞では5バ身差での圧勝をしていた。また、デビュー戦からの無敗記録も更新している。
「樫本め、当てつけのように送り込んで来やがって……」
ぼやくアルチョム。すると、このタイミングで最も聞きたくない声がかけられた。
「お疲れ様です。ルイシコフトレーナー」
小さく舌打ちしてから面倒臭そうにに振り返ると樫本代理が立っている。
「こりゃどうも」
「今日のレース、リトルココンが出走するのはご存知ですね? テイオーさんの実力を試させていただきます」
「そうかい、ならココンちゃんに俺から伝言だ。負けた時の言い訳を考えとけ、とな」
「そうですか。ルイシコフさんはせいぜいテイオーさんを慰めてあげる準備をしておくよう。では」
踵を返して去っていく樫本代理。
「……席で顔合わせたく無ぇなぁ」
関係者席で座る時のことを考えると気が沈む。そんな時、アルチョムのスマホが震えた。テイオーの準備が終わったようだ。
「入るぞ?」
「いいよー」
テイオーは今回も音楽を聴いていた。
「心絵か?」
「うん。トレーナーも聴く?」
「ああ、頼む」
2人で聴き入る。流れる歌詞と共に、テイオーとの努力が思い出された。そしてその努力の記憶は2人の確かな自信となり、決意となる。
「刻む証この手で〜♪」
曲を歌い終えたテイオー。スマホをしまい、アルチョムを見る。
「よし、行ってこい」
「うん!」
お互いの拳を突き合わせ、テイオーはパドックに向かう。アルチョムも関係者席へ向かった。
「アルチョムトレーナー! 今日も勉強させていただきます!」
天野トレーナーがアルチョムにお辞儀する。隣でマヤノトップガンも一緒にお辞儀した。
「おう! 担当のためにしっかり見て、学んでこい! マヤノも、テイオーの走りを見守ってくれ。そうすればテイオーはもっと走れるようになる」
「アイコピー!」
得意げに言うアルチョムにマヤノはキュートな敬礼で返事をする。そんな話をしているとまた一人、トレーナーが現れた。チームシリウスの相田トレーナーだ。
「お久しぶりです、アルチョムトレーナー。いよいよですね」
「お疲れ様です、相田トレーナー。ええ、いよいよです。ま、テイオーならやってくれますよ」
「あれだけ努力を積み重ねて来たんです。勝利の女神も認めてくれますよ」
「そう言っていただけると助かります」
そんな会話を交わしながら関係者席へ向かっていると、また声がかけられる。我ながら顔が広くなったものだ、と思いながら声の方向を向くと、見慣れない女性がいた。
「初めまして。サクラチヨノオーの担当をしております須藤六花と申します。この前はチヨノオーさんの面倒を見ていただきありがとうございました」
「初めまして。アルチョム・ルイシコフです。こちらこそ、担当のテイオーと仲良くして下さって感謝しています。これからもどうぞよしなに」
サクラチヨノオー担当の須藤トレーナーが、アルチョムにお辞儀する。アルチョムも丁寧なお辞儀で返した。
関係者席に着き、いつものようにどっかりと腰を下ろす。ふと、隣を見ると樫本代理が座っていた。席を変えようかと思い、移動しようとした矢先、樫本代理が口を開く。
「あまり言及すべきでは無いのは承知ですが、もう少しフォーマルな服装を選ぶべきでは?」
アルチョムの服装に一言あるようだ。上はオリーブドラブのコンバットシャツに下はマルチカムのタクティカルパンツ、そしてタンカラーのタクティカルブーツ。その姿はミリタリールック、というよりミリタリーそのものだ。
「動き易くて着慣れてるんでね。それに今日の主役はテイオーだ。俺が着飾る必要は無い」
その格好がほぼ兵士であることを省けば、アルチョムの言い分も正しくはある。それに対して呆れ顔の樫本代理。
「まあいいです。こちらがどんな格好であろうとレースの勝敗には関係ありませんから」
なら余計なことを言うな、と返しそうになるがグッと堪えてターフを見る。青々とした芝が綺麗だ。
今日ここで、今年のダービーウマ娘が決まる。全てのウマ娘が追い求めるダービー。その栄冠を手に入れるのはテイオーだ。そう信じて疑わないアルチョム。リトルココンがなんだ、口だけさ。そう思いつつも、やはり不安になってしまう。
命より大切な教え子の夢が目の前で終わるかもしれない。戦場とは全く違う不安だった。
「心配するな、セルゲイ。テイオーを信じろ」
祈るように小さく呟いた言葉。そこに出た名前はかつて祖国と共に棄てた本名だった。
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その頃、地下バ道にて。
前を見据え、堂々と歩を進めるテイオー。その目には確かな自信と覚悟が映っていた。そんなテイオーに数人のウマ娘が駆け寄る。
「テイオーさん、いよいよですね」
「マックイーン、来てくれてありがと!」
「ええ。大切な級友の晴れ舞台。この目でしっかり見届けさせてもらいますわ」
「ありがとうマックイーン。絶対勝ってくるから!」
「テイオーさん! がんばってくださいね!」
「うん、キタちゃんもありがと!」
「テイオーさーん! ついにダービーです!」
「スペちゃん!」
「テイオーさんなら必ず勝てると信じてます!」
「当たり前じゃん! 今年のダービーウマ娘はボクで決まりだよ!」
スペシャルウィークはテイオーの手を強く握って激励する。そんなスペシャルウィークにテイオーは胸を張って宣言した。
「テイオーさん! ついに来ましたね、ダービー!」
「チヨノオーも来てくれたんだ!」
「もちろんです! 会長さんにもマルゼンさんにも負けない走り、見せてください!」
「うん! 今までで最っ高の走りで勝って来るから!」
みんなの応援に笑顔で応えるテイオー。そこへまた一人、ウマ娘が歩いてきた。リトルココンだ。刃物のような鋭く冷たい目線でテイオーを見る。その目線に萎縮したのか、周りのウマ娘が少し避けた。
「……今のうちよ。アンタがちやほやされるのは。すぐに失望に変わるわ」
テイオーを見ながら冷たく言い放つ。その言葉はテイオーの耳にも入った。
「何、リトルココン? 何かあるからボクに直接言ってよ」
「ちやほやされるのは今のうち。すぐ失望されるわ」
「なんでそんな態度とるんですか⁈ いくら先輩でも言っていいことと悪いことがあります!」
リトルココンはキッパリと言い切る。それに対し、キタサンブラックが珍しく怒りを露わにして言い返した。するとマックイーンがリトルココンに尋ねる。
「リトルココンさん、あなたはなぜテイオーさんを目の敵にするんです?」
「アンタらみたいに甘い覚悟で仲良しこよしして強くなれるワケないでしょ。皐月だって周りが弱かっただけ。アンタも所詮平凡なウマ娘だってこと、ここで思い知らせてやるから。周りの子もそうよ。あんなぬるいトレーニングで強くなれるなら誰も苦労しないわ」
淡々と言い放つリトルココンに困惑するマックイーン。その隣でスペシャルウィークはオロオロしていた。突如険悪なムードに包まれて混乱しているようだ。
「わっ、私とあんだけトレーニングして強くなったんですっ! とにかくテイオーさんは絶対に負けないでください!」
「テイオーさん、自信を持ってください! 何度踏まれてもにんじんは生える、です!」
そんな状況でもどうにか口から出た応援。チヨノオーもテイオーを応援しようと格言で彼女なりに応援していた。そんな2人にキタサンブラックも続く。
「テイオーさん、がんばってください! あんな態度の子がダービー獲っても面白くないです!」
「テイオーさん。あなたはどんな時でもプレッシャーや緊張に負けず走れるのが強みです。ですから必ず、勝ってくださいね」
マックイーンはテイオーの手を強く握って改めて応援した。テイオーにとって、みんなからの応援が最大のパワーだ。
「ありがとうみんな! おかげでちょーやる気出たよ! 絶対勝つから!」
4人に手を振って元気にターフに向かっていくテイオー。その背中を4人は静かに見守った。
「テイオーさん……、勝ってくれますよね……?」
「大丈夫です。こういうときこそテイオーさんは強いですから」
不安を隠しきれないキタサンブラックにマックイーンは落ち着いた様子で返した。
ターフに現れたテイオー。観客席から上がる大歓声に両手を力一杯振って答える。
「みんな! 今日は来てくれてありがとう! 最高のレースを見せてあげるね!」
大声で宣言し、ターフの上でめいいっぱいアピールした。アルチョムも右手を振り上げて応援している。
「やったれテイオー! 最強無敵のウマ娘だと証明してやれ!」
そんな声援にまた笑顔で答え、8番ゲートに入る。そしてゲートの先に広がるターフを見た。
来た、ついに来た! 待ちに待った日本ダービー!
胸の昂りは最高潮に達する。ゲートが開くのが待ちきれない。あの時カイチョーが走ったターフをボクもこの脚で走るんだ。そう考えるだけで無限に力が湧いてくる。だが、そこで思い出されるリトルココンのセリフ。
〝ちやほやされるのは今のうち。すぐに失望されるわ〟
……そんなワケない。それぐらいでボクに失望するような子はそもそも友達じゃない。そうしてリトルココンのセリフを忘れようとするが、どうにも上手くいかない。
テイオーは一度深呼吸をした。
そして思い出すみんなの応援。キタちゃんもマックイーンもスペちゃんもチヨノオーもボクを信じてる。なら、ダービーで最高の勝利をするのがボクの恩返しだ。そう考えて、ゲートの先をみる。
《各ウマ娘ゲートイン完了、スタートの準備が整いました》
いよいよだ……!
一斉にゲートが開く。ウマ娘達が綺麗に飛び出した。
テイオーはいつも通りに先団の後方について様子を窺う。焦らず、自分のペースを維持して、最後のスパートに備える。
リトルココンは差しだ。中盤を過ぎたら常に動きを気にかけよう。
後方で走るリトルココンを見ながら、テイオーは大まかな段取りを練る。幸運なことに、差し対策はスペシャルウィークとの練習で散々やってきた。
おそらくフェイントなども仕掛けてくるかもしれない。でもそれに簡単に引っかかるようなら、クラシック三冠は無理だ。トレーニングを思い出しながら、テイオーは冷静にレースを進めていた。
大丈夫、今までのトレーニングで覚えたことを活かせば勝てる。
自分に言い聞かせて、しっかりと前を向く。バ群はまだ動かない。脚をためているのだろう。リトルココンも同じように動く様子はない。
《レースは現在滞りなく進んでいます。順位をみていきましょう。現在ハナを進むのは……》
実況を聞き流しながらアルチョムは真剣な眼差しでテイオーを見る。
大丈夫だ。上手く走れている。走り方は前に戻りつつあるが、それでもまだマシだ。トレーニングでの指導が反映されている証拠である。走り抜けるウマ娘の後方、そこにリトルココンがいた。
お生憎様、テイオーは散々差し対策をしてきたんだ。それを打ち破れるウマ娘なんざいない。
少し余裕の表情を浮かべるアルチョム。その隣で樫本代理は一切表情を動かさずレースを見ていた。そこから代理の心境を読み取ることはできない。
相変わらず堅苦しい人間だ、横目で代理を見ながらそんなことを考えるアルチョム。再びテイオーを見る。今のところは問題なさそうだ。
「いいぞテイオー。その調子だ……」
語りかけるように呟いた。
《おっと、ハナを進む16番ツーフォーハインド、落ち着かない様子》
《掛かってしまったのでしょうか? 冷静に戻れたら良いのですが》
16番のツーフォーハインドがハナを進む。その様子はどこか焦っているようにも見えた。このままだとスタミナが切れて、前を塞ぐかもしれない。テイオーは少し外側へ行くことにし、周りを確認する。リトルココンは内ラチからタイミングを狙っているようだ。
動かない? 16番が見えてないの? それともなんか秘策が……?
今考えても仕方ない。すでにレースは第3コーナーに差し掛かり、佳境を迎えようとしていた。案の定、ツーフォーハインドのスピードが露骨に落ちている。先団はそれを避けるように動きつつあった。そのまま最終コーナー。テイオーは外側からスパートをかけ始める。
このまま行っちゃうモンネ!
先団を追い抜かして、一気に前に出る。その時だ。リトルココンが仕掛けてきた。両脚に力を込め、信じられない速さでツーフォーハインドを避けるために空いた隙間を一気に駆け抜けてきたのだ。
《11番リトルココン、内をついて抜け出した! そのまま前に出る!》
あんな隙間を走り抜けるなんて⁈
テイオーもその隙間を狙ったが、塞がれるリスクと比べた結果、外から攻める戦術を選んだのだった。
だが、リトルココンは違った。そのパワーと気迫で一気に前に踊り出た。
しかしテイオーも負けてない。最終直線に入ると同時にさらに加速。蒼い弾丸がターフを貫く。そこに食らいつくリトルココン。そのままテイオーに並ぶ。
《レースは最終コーナーを抜けて直線へ。現在先頭は8番トウカイテイオー。しかし、後ろからリトルココンが追い上げる!》
《どちらが優位か読めなくなってきました。最後まで気が抜けません》
アンタの仲良しこよしもこれまで……!
リトルココンがハナに出た。スピードを落とすことなく矢のように駆けていき、テイオーとの差を3/4バ身まで広げた。
ボクだってもっと……!
さらに脚に力を込める。その時だ。左脚に感じる違和感。電撃のような痛みがほんの一瞬走る。
痛っ……⁈
スピードが落ちそうになったその時。テイオーの前に現れた人影。ウマ娘だった。
その人影はこっちを見て、そのまま前に走り去って行く。絶対に追いつけないような速さだった。そのウマ娘の姿は……。
カイチョー? どこ行くの⁈ 待って!
それを追いかけるようにテイオーは加速する。脚の痛みはすでに消え、そのことすら忘れてしまうぐらいに。
まだ加速できるの……⁈
絶対に譲れない目標があるから、一緒に頑張るみんながいるからボクは強いんだ……!
《トウカイテイオー、ここでさらに前に出る! 一体どこからあれほどのパワーを繰り出すのか!》
テイオーの目に映る仲間たち。だが、それはただの仲良しこよしじゃない。お互いに絶対に譲れないライバルでもあるのだ。
仲間でライバル。
どんな時でも助け合い、競い合う。そんなみんながいるからテイオーはさらに強くなれる。夢を目指せる。
リトルココンとの差をジリジリ縮め、隣に並ぶ。
遊びで走ってるような子に……!
遊びじゃない! 追いつきたい目標に向かって走ってるんだ!
《トウカイテイオー、リトルココン、両者譲らず駆け抜ける!》
残りのスタミナを全て両脚に込める。力強く踏みつけたターフが抉れ、蹄跡を刻みつけた。
まもなくゴール。もう振り返らない。ただ前だけを見て、そして憧れの姿を見て。
ボクが、最強のウマ娘だっ!
弾丸のように駆ける1人の優駿。そのウマ娘はかつて憧れたシンボリルドルフと同じように日本ダービーのゴール板を一着で駆け抜けた。
《トウカイテイオー! 今一着でゴール! 今年の日本ダービーを制したのはトウカイテイオーです! あのシンボリルドルフの軌跡を追うように、ダービーを制しました!》
大歓声が会場に沸き起こり、テイオーの勝利を讃える。
「Урааааааааааааа! やったぜ!! 見たか? あの走り! さすがテイオーだ! 最強のウマ娘だ!」
席から飛び上がり歓声を上げるアルチョム。喜びのあまりその場でコサックダンスを始めるほどだ。
「よくやったぞ! テイオー!」
大喜びでターフに飛び出し、テイオーに駆け寄るアルチョム。
「トレーナー! ボクのレース見てた?」
「ああ、しっかり見てた! 文句のつけようがない最高の走りだ!」
「でしょでしょ! 最高のボクが最高の舞台で勝ったんだ!」
「ああ、本当によくやった! この歓声がその証拠だ!」
アルチョムは少し大げさに観客席を振り返り、テイオーと一緒にアピールした。2人を祝福する大歓声。そんな歓声に包まれながらテイオーは二本指を立ててポーズを取る。歓声が最高潮に達した。
関係者席では応援に来たマックイーンやキタサンブラックが手を振っている。
「テイオーさーん! さすがです!」
「テイオーさんなら、勝ってくれると信じてましたわ!」
そんなみんなに手を振るテイオー。
「みんなありがと! みんなの応援のお陰でボク、勝てたよ!」
会場にはテイオーコールが響き、ダービーウマ娘の誕生を祝っていた。
「はぁ……はぁ……、負けた……。なんで……?」
2人を見ながら小さくつぶやくリトルココン。あと僅かで勝てたはずだった。だが、そのあと僅かを埋めるだけの力が無かった。
「お疲れ様です。リトルココン」
「樫本トレーナー……。私は……」
「よくがんばりました。あなたの走りは十分、素晴らしかったです」
「でも……、勝てなかった……」
その目に浮かぶ涙。理由がなんであれ、やはり負ければ悔しい。
「私のやり方が間違って……」
「そんなことはありません。最後の最後で踏ん張れたのがテイオーさんだった。それだけです。あなたは決して間違ってませんし、テイオーさんも間違っていなかったのでしょう」
「……はい」
「……負けを認めるのもまた強さです。私たちにはまだまだ競うべき相手がいるでしょう。今回の反省を踏まえて、次に繋げましょう」
樫本代理が諭すようにリトルココンに話しかける。リトルココンの目から涙は消え、新たな決意が宿った。そして樫本代理は祝福を受けるアルチョムとテイオーに近寄る。
「おめでとうございます。今回は負けを認めなければなりませんね」
「やけに素直じゃねぇか。でも褒めるならテイオーを褒めてやってくれ。走ったのは俺じゃねえからな」
「そうですね。おめでとうございます。トウカイテイオーさん。あなたの走りは今年のダービーウマ娘にふさわしい、素晴らしい走りでした。今後の活躍を期待します」
そう述べるとともに綺麗な礼をする。テイオーもペコリとお辞儀した。
「テイオーさん、今回は負けました。ですが次また走る時があれば、その時は私が勝ちます」
リトルココンはテイオーにそう宣言した。
「受けて立つよ。でも、次も負ける気はないから」
「……あと、さっきはああ言ってごめんなさい……」
「……いいよ。でも、ああいうこと言うと傷つく子もいるから次からやめた方がいいよ」
そう言うとテイオーは手を差し出した。
「ほら仲直り! 〝仲間でライバル〟だよ?」
リトルココンは少し戸惑いながらもその手を握り、握手する。そんな2人を万雷の拍手と歓声が包んだ。
「……なあ、アーシャ。お前の誕生日ってもうすぐだったよな? お前は今どこにいる? 何してる? お前があれぐらいでくたばるようなヤツじゃねえのはわかってる……。空挺軍でもオリョールでも散々無茶苦茶やって生き残って来たんだからよ……。お前がどこで何してるか知らんが、俺は今、トレーナーとして、命より大切な教え子の夢を叶えようとしている。あの俺がだぜ? 人生ってわからねぇよな。だからよ、せめて生きていてくれ、な?」
曇り空にできた晴れ間。そこを睨みながら、アルチョムはターフの端で1人呟いた。
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