元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました   作:武装田んぼ

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前日譚の登場人物にアントノフという名の人物がいましたが、ロシア語圏においては姓として扱われるものであるため、名前を訂正いたします。
筆者の不理解によりご迷惑おかけしました。申し訳ございません。

誤→アントノフ・クロパトキン
正→アルセニー・クロパトキン

また、登場人物・用語を更新しました。お時間があればご覧ください。




第14話 ダービーの次は…?

 

 見事日本ダービーを制し、ダービーウマ娘の栄冠に輝いたトウカイテイオー。日本中の賞賛を浴びるテイオーを見ているとアルチョムも鼻高々だ。

 そんな時、アルチョムとテイオーの元に乙名史記者が現れた。

 

「皐月賞に続き日本ダービーの制覇、おめでとうございます」

「ありがとうございます。これも全て、テイオーの努力あってこその話です。テイオーが最後まで粘ってくれたから、テイオー自身の力で二冠目を達成できたのです」

「素晴らしいです、素晴らしいです! どんな時でもウマ娘が主役であるというその心意気、感服しますっ!」

「いえ、こういうトレーナーは多いと思いますが……」

 

 少なくともアルチョムがある程度の信頼をおいているトレーナー。例えばスピカの沖野トレーナーやシリウスの相田トレーナー。またリギルの東條トレーナーも根本にはウマ娘が主役である。という認識は通用している。

 

「そう思われるかも知れませんが、実情としてはそうでもないのも事実です。トレーナーが絶対であり、それに従わなかったから負けた。なんて考えるトレーナーを見たのは一度や二度ではないのです」

「……なるほど」

 

 頭の中に樫本代理の顔が浮かぶ。……いや、なんだかんだであの人もリトルココンのことは責めたりしてなかったな。なんて考えながら乙名史記者の言葉に耳を傾ける。

 

「それでも、最近はそのようなトレーナーが随分減ったと思ってます。やはり、お互いをちゃんとリスペクトできる関係だからこそ、限界を超えていける。という考え方が浸透したからでしょうか」

「お互いをリスペクト……」

「はい。そう考えるなら、アルチョムトレーナーとテイオーさんの関係もよく当てはまると思いますよ」

「そう言ってくださり光栄です」

 

 リスペクトか。確かにテイオーの態度を見る限り、こちらをトレーナーとして慕っているのは確かだろう。そしてこちらも、テイオーのためなら命を投げ出すことになっても躊躇はしない。

 だが、テイオーが慕っている俺はトレーナーとしての俺だ。偽りの国籍と嘘の経歴で塗り固めた偽物。かつてロシア政府の手先として殺し屋紛いの仕事をしていた俺を知らないがゆえだ。

 

 その過去を知った上でテイオーが俺をどう思うか。そもそも理解してくれるのか。いや、理解できないほど子どもではないと思うが……。

 複雑な表情で考え込むアルチョム。

 

「……どうかなされました?」

「ああ、いえ、少し考え事を……」

 

 不思議そうにこちらを見た乙名史記者に取り繕うアルチョム。

 

「ところで、乙名史記者はなぜ今回、私たちを訪ねたのですか?」

「そうでした、本題を忘れるところでした! 実はご存知とは思いますが月刊トゥインクルの次号はダービーウマ娘特集を掲載する予定ですので、ぜひいろいろインタビューできればと思いまして。理事長さんには伝えたのですが」

「大丈夫です。理事長から今日を空けとくよう言われていたので」

「よかったです。では早速インタビューに入らせていただきます!」

 

 そこから続く乙名史記者のインタビュー。まあ、よくあるインタビューだ。終始無難な答えで返すアルチョム。テイオーもいつもどおりに答えてインタビューはつつがなく終わりを迎える。

 

「本日は長々とありがとうございます。おかげで良い記事が書けます!」

 

 そう言い、深くお辞儀する乙名史記者。アルチョムとテイオーも礼をする。

 

 

 

 それから2日後。デジタル版トゥインクルに2人の特集が掲載された。

 

 〝ダービーウマ娘特集! クラシック三冠に王手! トウカイテイオー〟

 

 タブレットでその記事を見ながらニヤつくアルチョム。テイオーはこの日、マックイーンたちと遊園地に遊びに行くとのことで不在だ。さっきからちょくちょく遊園地を満喫している自撮りが送られてくる。記事を読んでいるとまたメッセージアプリの通知が届いた。

 

「また送ってきた……」

 

テイオー[トレーナー、お土産いる?]

 

「いらん、今日ぐらい俺のことも忘れて楽しんでこい、っと」

 

 適当に返信したところでアテもなくトレセン内を歩くことにした。どうせ暇だ。トレーナー室に篭っているのも性に合わない。

 ぶらぶら歩きながら、購買前の自販機で缶コーヒーを買い、グラウンドに向かう。

 外に出ると六月上旬の蒸し暑い空気が体に纏わりつく。

 

「この蒸し暑ささえなけりゃなぁ……」

 

 未だに慣れない日本の夏。そんな気候を愚痴り、グラウンド傍でしゃがみ込む。今日もウマ娘達がトレーニングに励んでいた。

 

「……あの子の走りはいいな。一歩一歩しっかりした足取りだ」

 

 グラウンドの様子を見ながら、ぼんやりとそんなことを考えていると後ろから声がする。

 

「……どんな事情があるかはわからないが、なぜベンチに座らず、その隣でしゃがみ込んでいるんだ?」

 

 シンボリルドルフが怪訝そうにこちらを見る。ルドルフの疑問はもっともだ。なぜなら、アルチョムがしゃがみ込んでいるのは言及された通り、ベンチの側。もちろん、ベンチには誰も座ってない。

 

「おっと、つい昔のクセが」

「昔のクセ?」

「ロシアの不良ってのはどんな場所だろうとしゃがみ込むんです。例え目の前にがら空きのベンチがあろうとも。私が会長さんぐらいの歳だった時はかなりやさぐれていましたよ。仲間としゃがみ込んで通行人から酒やタバコをせびったもんです」

「……君の過去はあまり言及しないが、せめてグラウンド傍でヤンキー座りはやめてくれ。さっきも生徒が怯えてたんだ」

「これは失礼」

 

 そう言い、アルチョムはベンチに座る。するとルドルフも隣に座った。

 

「さて、まずはテイオーのダービー制覇を心から祝福したい。本当によくやってくれた」

「走ったのはテイオーです。褒めるならテイオーを褒めてください」

「テイオーにはもう話した。大層喜んでいたよ。そしてこう言われたんだ。ボクがダービー勝てたのはトレーナーやみんなのおかげさ、ってね」

「嬉しいこと言ってくれますね」

「それからもトレーナー自慢が続いてね。全く、あそこまで慕われているのを見ると少し君に嫉妬してしまいそうになる」

 

 そう言いながら微笑むルドルフの姿はまるで愛娘の成長を喜ぶ母親のようだ。

 

「トレーナーとして嬉しい限りです。そこまで言われたら次の菊花の為にも、また精進せねばなりませんね」

「そうか、もう次は菊花賞か。早いものだな。ただひたすら私の背中を追っていた彼女が、いつの間にか私に並ぼうとしている」

「いつも言ってますからね。ボクの目標はカイチョーを超える最強のウマ娘になること! って。その言葉通り、無敗のクラシック三冠に王手をかけた。とんでもないウマ娘ですよ、テイオーは」

「私もうかうかしてられないな。その様子なら並ぶどころか追い抜かされてしまいそうだ」

「でも会長さんだってテイオーに抜かれることを少し期待しているんじゃないですか?」

「まあ、期待していないと言えば嘘になる。私だっていつまでもここにいるわけじゃない。いずれは卒業するし、引退もするだろう。その時には私の後任になれる人材がいる。テイオーを含めて候補がいてくれた方が心置きなく去ることができるな」

「なるほど。まあ、会長ともなれば自身の後任やその後のことも考えねばなりませんからね」

「それにテイオーなら、私の理想も受け継いでくれるだろう。百駿多幸、全てのウマ娘が幸せになれる世を……。今はまだ幼いところもあるが、それは私もだった。走っていく中でテイオーはまだまだ成長していくさ」

「ですね。確かに精神的な成長はこれからでしょうけど。ただ、テイオーはどんな人とも分け隔てなく接することができる。それは会長さんのいう百駿多幸にも繋がることだと思いますよ。人間でもウマ娘でも、誰とでもあっという間に仲良くできるのは素晴らしいことです」

「そうだな。正直な話、あのフレンドリーさは羨ましく思うところもある。どうも私の場合、相手が畏怖してしまうことがあってな……。ダジャレなどで場を和ませる努力はしているのだが……」

 

 ダジャレで和ませるという方向性はどうなんだ? と思うアルチョム。だが、大抵の人間がそうであるようにそこに言及しないのが暗黙の了解というものである。

 

「さて、そろそろ私はお暇するよ。片付けなければならない仕事がまだまだあってね。ともあれ、ダービー制覇おめでとう。君とテイオーが成長しているのを見ると、活力が湧いてくる。これからも期待しているぞ」

「ありがとうございます。次の菊花も楽しみにしていてください」

「うむ、素晴らしいレースを見せてくれ」

 

 そう言い残し、去っていくルドルフ。その姿は相変わらず凛々しかった。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 6月上旬のある日、中京競バ場に現れたいつもの2人。

 

「マヤノの初レース、楽しみだねっ、トレーナー!」

「ああ。今までのトレーニングを見る限り、マヤノの才能は目を見張るものがある。もしかしたら、とんでもないライバルが生まれるかもしれないぞ」

「マヤノと勝負できるなら望むところだよ!」

「相変わらず調子いいな。さて、さっさと席にいくぞ」

「はーい」

 

 2人は関係者席に向かい、許可証を見せて席に着く。

 

「ねぇトレーナー、マヤノに会って来ていい?」

「おう行ってこい。マヤノも喜ぶだろうよ」

「うん!」

 

 去っていくテイオーを見送り、席に戻ると隣に天野トレーナーが座っていた。両手を合わせて祈るように何か呟いている。

 

「随分心配しているようで」

「あぁ、アルチョムトレーナー、お疲れ様です。そりゃ心配ですよ、担当の初レースなんですから。マヤノならやってくれると信じてますが……」

「最初は俺もそんなもんでしたよ。全ての努力が水の泡になるかもしれない、なんて思ったものです。でもやってくれた。勝ってくれました。信じましょう、彼女たちを」

「……そうですね、そうです! マヤノを信じます! そして華鈴ちゃん、マヤノにパワーをっ!」

 

 妹の名前まで出して祈る天野トレーナー。心配なのはよくわかるが、ここで妹さんの名を呼んでもどうにもならんだろう、なんて考えるアルチョム。

 

「それにこっちが不安だとウマ娘の方も不安になります。自信を持って堂々としてればいいんです」

 

 そう言い、天野トレーナーを励ます。そういやテイオーのデビュー戦の時はどうだったか。なんだかんだで心配していたのは事実だ。どこまで態度に出ていたかはよく覚えていないが。少し懐かしく思いながら、天野トレーナーの様子を見ていた。

 

 

 

 地下バ道にて。

 目を輝かせ、元気に歩を進めるマヤノ。その表情から溢れる想いはレースへの興奮か、それとも勝てば天野トレーナーがべたべたに褒めてくれるという期待からか。そんなマヤノに駆け寄るテイオー。

 

「マーヤノー!」

「テイオーちゃん!」

「いよいよだね! マヤノ!」

「うん、こんなにどきどきしてるの初めて!」

「でもさ、そのどきどきって悪いどきどきじゃなくて、レースが楽しみなどきどきだよね!」

「そうなの! マヤがレースでみんなをばびゅーんって追い越しちゃって一着とっちゃうから!」

「さっすがマヤノ! じゃあボクたちにカッコいいレース見せてね、ユーコピー?」

「アイコピー! マヤちんテイクオーフ!」

 

 ターフに駆けていくマヤノ。その姿はまるで空母から発艦する戦闘機だ。そんなマヤノの姿を笑顔で見送るテイオー。

 いつかマヤノとレースで対決する時が来るのかな? なんて考えながら、関係者席に戻った。

 

 

 

《各ウマ娘、準備が整いました。まもなく出走です》

 

 腕を組み、堂々とターフを眺めるアルチョムと隣で相変わらず不安そうにマヤノを見ている天野トレーナー。

 そこへ戻ってきたテイオーはそんな天野トレーナーの様子を心配そうに見る。

 

「天野トレーナー大丈夫?」

「あ、あぁ、大丈夫、大丈夫……、だから」

「全然そうには見えないんだけど」

「うぅ……、どうにも不安で……」

「大丈夫だよ! マヤノ、さっきスッゴイ楽しそうだったもん!」

「そうかい? ……なら、良かった。うん、楽しみにできるなら大丈夫だ」

 

 マヤノの様子を聞いて少しは安心したようだ。そしてターフを見る。

 

《さぁゲートが開いた! 各ウマ娘一斉にスタート!》

 

 ゲートが開くと同時に飛び出すウマ娘達。マヤノも好スタートを切った。

 

「いいぞ、いいぞっ」

 

 ハナに出たマヤノを見て、興奮気味に呟く天野トレーナー。そんな天野トレーナーを知ってか知らずか、マヤノは順調にレースを進める。

 そこへ追い上げるウマ娘が1人。そのままマヤノを追い抜かした。

 

「あぁっ! ……負けるなっ、がんばれ!」

 

 しかし、他のウマ娘もまたマヤノを抜かした。それを見た天野トレーナーの表情がみるみる絶望感に染まり、まるで魂が抜けたように呆然とターフを眺めている。

 

「……大丈夫か? コイツ」

「大丈夫だよ天野トレーナー、マヤノには何か作戦があるんじゃない?」

「……」

 

 2人が励ますが、天野トレーナーは何も言わない。

 

「こりゃ重症だな……」

「マヤノより天野トレーナーの方が心配になるなんて思わなかったよ」

 

 呆れ気味の2人を差し置いて、まもなくレースは最終コーナーに入る。マヤノは現在3番手。前の2人がスパートをかけ始めた。その時だ。マヤノが一気に加速して2人を追い抜かし、最終直線を戦闘機のように駆け抜けそのまま一着でゴール。鮮やかな差し返しを見せてデビュー戦に勝利した。

 

「……か、勝った……、勝ったぁ!!」

 

 席から飛び上がり、大きくガッツポーズをする天野トレーナー。そしてターフに飛び出してマヤノに駆け寄った。

 

「トレーナーちゃん! 見てた? マヤの走り!」

「うん、うん! 見てたよ! 最高の走りだったよ!」

「ホント⁈マヤの走りでドキドキしてくれた?」

「うん! もうすっごいドキドキしたよ!」

「えへへ〜! すっごいがんばったんだから!」

「よしよし、よくがんばったぞ!」

 

 そう言いながらマヤノの頭を優しく撫でる天野トレーナー。マヤノは嬉しそうに耳をぴょこぴょこ動かした。

 

「やったねマヤノ! ちょーカッコよかった!」

「ああ、誰にも負けないいい走りだった!」

 

 テイオーとアルチョムもマヤノの勝利を祝う。

 

「トレーナーちゃん! マヤ、一着獲ったからご褒美欲しいなぁ」

「うん、どんなご褒美いいよ!」

「じゃあマヤとデートして!」

「ま、また⁈」

「どんなご褒美でもいいんでしょ? だからデート!」

「わ、わかったよ、またデート行こうな!」

「やったぁー! じゃあ次はスカイツリーとか行きたーい!」

 

 大はしゃぎのマヤノと天野トレーナー。そんな様子を見ながらテイオーはアルチョムに話しかける。

 

「トレーナーもボクの初レースの時、すっごい喜んでくれたよね」

「そりゃな。あの感動は今でもよく覚えてる。レース前は心配していたがテイオーの走りを見て心配が吹き飛んだ」

「トレーナーも心配してたんだ」

「ああ。さらに言えばこの前のダービーも心配していなかったと言えば嘘になる。だが、テイオーは毎回俺の心配を裏切ってくれる」

「えへへっ、トレーナーにそう言われると嬉しいな! 次の菊花も裏切ってあげるね!」

 

 そう言っていたずらに笑うテイオー。そんなテイオーを見てアルチョムも笑った。

 こうしてマヤノはデビュー戦を制し、トゥインクルシリーズの舞台で走っていくことになる。

 

 

 

 それから数日後。

 トレセン学園のグラウンドにて、いつもの2人に加えて、マヤノと天野トレーナーがトレーニングに励んでいた。

 いつものようにドローンでテイオーの姿を追うアルチョム。だが、テイオーの走りに違和感を感じていた。

 

「……なんかいつもと違う。足の運び方がぎこちなく見える」

 

 タブレットでテイオー様子を観ていたその時、テイオーがターフの上で転び、倒れ込む。

 

「……! おい、大丈夫か⁈ しっかりしろ!」

 

 手に持っていたタブレットを投げ捨て、テイオーの元に駆け寄る。嫌な予感がしていた。恐れていた最悪の事態が頭ををよぎる。

 

 頼む、やめてくれ。タチの悪い幻覚であってくれ。

 

 そう願いながらテイオーに駆け寄る。テイオーは苦痛の表情を浮かべながら、左脚を押さえていた。

 

「脚見せろ! 触るぞ、いいな?」

 

 テイオーの足をよく観察し、左脚の関節付近を優しく触る。骨折だ。

 

Блядь,кошмар……(クソッタレ、最悪だ)

 

 アルチョムの口から漏れたロシア語。それには彼の絶望が詰まっていた。

 

 

 





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