元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました   作:武装田んぼ

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第16話 軋轢

 

 

 気がつくと、いつの間にか辺境の村にいた。場所は中東か? 

 自分の手にはペンより手に馴染んだ小銃、AK74Mが握られてる。服装は見飽きたデジタルフローラの迷彩服に防弾ベストとチェストリグ。空挺軍の標準装備だ。

 

「俺はこんなとこで何してんだ?」

 

 ふとセルゲイの口から漏れた疑問。それに対し、隣のアルセニーが答える。

 

「何って、いつもの仕事だろ?」

「……そうか、仕事か」

 

 何か大切なことを忘れてしまったように思えたが、思い出す暇も無いのでアルセニーと共に村を見回る。

 粗末な民家を一件づつ、住民がいれば取り調べをし、いなければクリアリングして回る。

 

「兵隊さん、この村には何もありませんよ」

 

 村の長老らしき人物が答える。

 

「何も無いかどうかを判断するのは我々です」

 

 そう言い、セルゲイとアルセニーはまた他の民家に押し入った。だが、結局何も無い。他の民家の捜索に当たろうとした時、ふと広場が目に止まった。そこでは数人の子供がかけっこで遊んでいた。その広場の端に目をやると座り込んでいる子供が1人。

 

 なんとなく放っておけなくなったセルゲイはその座り込んでいる子供に話しかける。その子は目深にフードをかぶっていて人相はよく見えなかった。

 

「どうしたんだい? みんなと一緒に遊んでこいよ」

「いやだ」

「なんだ? 仲間はずれにされたのか?」

「違う」

「眠いのか、腹ペコか?」

「違う」

「体調悪いのか、ケガしたのか?」

「そう、ケガした」

「どれ、見せてみろ。兵隊さんが治してやる」

 

 そう言い、その子の脚を見た。左脚にギブスが巻かれている。

 

「兵隊さんのせいで脚がダメになった」

「なんだって……」

「ボクはもう走れない、一番速かったのに」

「おい、どうした」

 

 その子の肩を揺さぶるとフードが脱げる。そこには見慣れたウマ耳と耳飾り。テイオーだ。

 

「どうなってんだおい……」

「走れないボクに意味なんかない」

「待て、なんの冗談だ……⁈」

 

 虚な目でこちらを見るテイオー。その姿にセルゲイは恐怖を覚えた。

 

「兵隊さんの銃でボクを殺して!」

「おいバカなことを抜かすな!」

早く! 撃って!」

「ふざけるな! やめろ!」

 

 テイオーがセルゲイの(カラシニコフ)に縋り付く。振り解こうとしてテイオーを押しのけようとしたその時、銃声が轟いた。

 

 

 

 そこで目が覚める。夢だった。

 

「……Кошмар(最悪だ)

 

 寝床から身を起こし、周りを見る。自室だ。そして気持ち悪いぐらいの寝汗をかいていた。

 

「……Собака(チクショウ)

 

 ロクでもない悪夢をみた。ここのところ夢なんてほとんど見なかった。久々に見たと思えばこれだ。大きなため息を吐いて、枕元のスマホで時刻を確認する。午前4時16分。起床予定時刻までは後2時間強か。

 

 寝床から這い出て、おぼつかない足で台所に行き、水を汲んで飲み干す。ぼんやりとしていた頭が少しはっきりしてきた。

 

 あの悪夢はなんだったのか。あの虚な目をしたテイオーは何者なのか。一時的なストレス反応だ、気にするな。そう考えて寝床に戻る。が、全く寝付けない。

 眠ればまたあの悪夢を見るのでは? 少しでもそう考えてしまったが最後、その恐怖心が眠気をかき消した。戦場でも寝れた現役時代が嘘のようだ。平和ボケしたのか、それともテイオーに関わることだからだろうか。

 

 どうにか無心になろうとするが、そう考えるほどあの虚な目をしたテイオーが脳裏に浮かぶ。いつものあどけない笑顔のテイオーを思い出せなくなるほどだ。

 

Ей богу(勘弁してくれ)……」

 

 大きなため息と共に愚痴がこぼれた。こういう時に漏れるのは大体ロシア語だ。

 そのまま一睡も出来ずただただ起床時刻まで時間を過ごした。最悪の気分だ。気怠い身体に鞭を打って立ち上がり、朝食と身支度を済ませてからいつものようにトレセン学園に向かう。

 こんなザマでも現役時代より恵まれている、なんて思えるのは何の皮肉か。

 

「テイオーの手術は11時から、手術が終わったら真田医師といろいろ話さなければな……」

 

 スマホで予定を確認する。しばらくは忙しくなるだろう。そんなことを考えながら校門をくぐり、そのまま理事長室へ向かう。

 

「おはようございます、アルチョムトレーナー」

「おはようございます、たづなさん。理事長は今どちらに?」

「もうすぐこちらに見えるはずです」

 

 理事長室にはたづなさんがいた。理事長が来るまで、今後の動向を相談する。

 

「テイオーさんの手術は今日でしたね」

「はい、まあ医者が言うにはさほど大きな手術ではない、との話ですがどうも心配で……」

「その気持ちはよくわかります。でも今は、お医者様を信じましょう。それに真田医師はこの前もウマ娘さんの手術をなさってました。その子は今もレースで走っているので大丈夫です。テイオーさんも必ずターフに戻れます」

「……そうですね。ですが、そもそも俺の指導が間違わなければ、こんなことには……」

 

 そう言うアルチョム。テイオーの骨折は自分の責任である、という考えを拭えないようだ。もちろん、アルチョムの指導が一切骨折に関係無いとは言い切れない。しかし、骨折は様々な要因が複雑に絡まった結果であり、アルチョムの指導が間違わなければ防げたかと聞かれればはいとは言い切れないのもまた事実だ。そこに、秋川理事長が現れる。

 

「おはようたづな! おっと、お話中だったか」

「おはようございます。いえ、お気になさらず。ただ……」

「ん? どうした」

 

 秋川理事長の目に浮かない様子のアルチョムが映る。

 

「いえ、テイオーが頭から離れなくて……。どうすれば骨折を防げたのかと……」

「アルチョム君、それを今悔やんでも意味がない。テイオー君の容体を心配する気はよくわかるが、いつまでも我々が動揺していれば、テイオー君も安心出来まい。我々に足踏みしている時間は無いぞっ!」

 

 理事長の言う通りだった。いくら悩んでいても、後悔していても前には進まない。次の手を打つべきだ。

 

「とりあえず事務仕事を片付けたら病院に行きます。手術がありますので」

「うむ、テイオー君をしっかり励ましてやるのだ!」

 

 礼をしてから理事長室を後にし、トレーナー室でいくつかの事務仕事を片付ける。そして急いで病院へ向かった。

 カウンターで手続きをして病室に向かう。

 

「トウカイテイオーは今どちらに?」

「まだ病室にいるとは思いますが」

「ありがとう」

 

 昨日、テイオーの病室で会った看護師に尋ねてから、病室に向かう。

 

「いるか? 入るぞ」

「トレーナー?」

 

 病室に入ると、テイオーがベッドに横たわりながらこちらを見てきた。

 

「気分は悪くないか?」

「まあまあ」

「そうか。なんか必要な物はあるか?」

「とりあえず手術終わったらはちみー飲みたい」

「ああ、いくらでも買ってやる」

「ん、ありがと」

「他には? なんでもいいぞ」

「必要なものってよりはお願いなんだけど、もっと食事の量増やしてほしいな。あとなんか味気ないからそこもどうにかしてほしい。あんなんじゃ食べた気にならないよ」

 

 病院食に不満な様子のテイオー。まあテイオーの普段の食事から考えればあれでは物足りないだろう。

 

「わかった、相談してみるよ」

「あーあ、ウーマーイーツでも頼めたらいいのに」

「ダメって言われたのか?」

「うん」

「すまんな、俺がちゃんと見てればこんな我慢なんかしなくていいのに……」

「もうトレーナーも昨日から謝りすぎ。トレーナーのせいで骨折した訳じゃないんだからさ」

「……そうだけどな」

 

 そこで言葉に詰まる。なんて言えば励ましになるのか? この状況でどんな言葉をかけるべきかアルチョムにはわからなかった。

 黙り込むアルチョムを不思議そうに見るテイオー。そんな時、病室に真田医師が入ってくる。

 

「おはようございますテイオーさん、ルイシコフさん。気分はいかがですか?」

「おはよう真田先生、ボクはいつも通りだよ」

「おはようございます。ええ、テイオーは普段より大人しいですがいつも通りです」

「それは何よりです。では、本日の手術の概要についてお伝えしますね。昨日も説明いたしましたが……」

 

 その後、真田医師により手術の説明を受けた。テイオーの足首は骨折していたがアルチョムの応急処置により、骨のズレや靭帯などの損傷が最低限に押さえられたため、そこまで大きな手術にはならずに済むようだ。それを聞いて2人は少し安心した。

 そしてテイオーは手術に臨む。その間、アルチョムは待合室で時間を潰す。が、どうにも落ち着かない。しきりに周囲を見回し、貧乏ゆすりをしていた。そんなアルチョムの隣に座る女性。樫本代理だ。

 

「今更説教ですか?」

「いえ」

「んで、なんで病院に?」

「これから話す内容と被るのですが、私の元教え子の定期健診がありまして。その付き添いです」

「なるほど。んで話というのは?」

「私が過去に担当していたウマ娘の話です。テイオーさんとルイシコフトレーナーの今後に役立つかどうかわかりませんが、ご参考程度に……」

 

 そこから樫本代理が語った内容は、自身の指導方針の失敗があるウマ娘の選手生命を断つことになったエピソードだった。

 人間の数倍のパワーを発揮する彼女らはそのパワーゆえに制御が効かず、致命的な結果を招くことがある。だからこそ、徹底的に管理する必要があったと。

 

 だが、いろいろなチームやペアを見て、そしてアルチョムとテイオーのダービー制覇を見て、どうすべきか悩んでいる。とも話した。

 そしてアルチョムの指導法に厳しく口出ししていたことを深く謝罪した。

 

「最後になりますが、テイオーさんの骨折であなた自身を責めすぎないでください。スポーツにケガはつきものです。テイオーさんは選手生命を絶たれた訳ではありません。必ず復帰できます。その時に、トレーナーが自信を失っていては次へ進めません。我々トレーナーに立ち止まる時間などないのです」

「そうですね。我々は常にウマ娘達にとって頼りになる存在でなければ、トレーナーの意味がありませんね」

「長々と申し訳ありません。貴重なお時間を取らせてしまいました」

「いえ、私の方もあなたに対していくつか誤解してました。そちらの事情を理解せずに不遜な態度を取ったことをお詫びします」

「誤解が解けて何よりです。ではまた、トレセンで」

 

 樫本代理はアルチョムに礼をしてからその場を立ち去る。そんな樫本代理に歩み寄る1人のウマ娘、先程の話に出てきたウマ娘だ。樫本代理がそのウマ娘に何か話した後、今度は2人揃って礼をし彼女らは病院を後にした。

 

「立ち止まる時間なんざねぇか……」

 

 その通りだ。秋川理事長も言っていたが、トレーナーが立ち止まっていてはウマ娘の指導なんざできない。アルチョムは立ち上がり、院内のコンビニに向かった。

 そして書籍コーナーを見る。病院内ゆえか、医療関連の書籍が多い。アルチョムはその中から、骨折に関する本をいくつか漁る。特に機能回復や再発予防について記述された本を購入した。

 

 そしてテイオーの手術が終わるまである程度目を通しておく。また、タブレットでウマ娘の骨折に関する論文を探し出す。日本語の論文に加え、英語とロシア語の文献もいくつか見つけ、リンクをトレーナー室のパソコンに転送した。トレセンに戻ってすぐにプリントアウトできるようにしておく。

 スポーツ医学の本を読んでいると声がかけられた。テイオーの両親だ。

 

「お疲れ様です。わざわざご足労をおかけします」

「こちらこそお疲れ様です。今手術中のようですね」

「もうすぐで終わると思います。終わったら、テイオーに会いに行ってやってください。ご両親の方が彼女も安心するでしょうから」

「アルチョムさんはこれからどうするつもりで?」

「トレセンに戻ってこれからの計画を立てます。リハビリもすぐ始まりますし、医者から許可が貰えたらすぐにレースに復帰できるようにしてやりたいので。テイオーには、トレーナーは次の計画の為に動いていると伝えてください。では」

 

 そう言い、深く礼をしてアルチョムはトレセンに戻った。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 翌日から簡単なリハビリが始まる。患部を冷やしたり、足の指を動かすようなストレッチだが、それでも機能回復の重要な第一歩だ。そんなリハビリを終え、病室に戻った2人。

 

「とりあえず、手術が上手くいって良かった」

「うん、パパもママも喜んでた」

「そりゃよかった」

「そういえば今日、みんなでお見舞い来るって」

「いい友達だな、大切にしろよ。んでだ、これからの予定を組んできた。ちょいとみてくれ」

 

 そう言い、タブレットをテイオーに渡す。テイオーはタブレットの予定表を見ながらアルチョムに質問をしたりしていた。そんな時、テイオーの耳がぴくりと動いて廊下の方を向く。

 

「みんな来たみたい」

「よくわかるな」

「ねえトレーナー、ちょっといい?」

 

 そう言うとテイオーはアルチョムに耳打ちし始めた。

 

 

「テイオーさんの病室は確か521でしたわね」

「なら、こっちのほうね」

「テイオーちゃん今日からリハビリだって。すごいね」

「リハビリってすぐ始まるんですね」

「あんまり時間が空いちゃうと筋力が衰えたりするんだって」

「そんなことあるんだな」

 

 わいわいと歩きながらテイオーの病室に向かうメジロマックイーン、ダイワスカーレット、ウオッカ、マヤノトップガン、ナイスネイチャ、キタサンブラックの6人組。大切な仲間に少しでも元気になってもらおうと皆思い思いのプレゼントを持ち寄り集まったのだ。

 

「ここが520だから隣ね」

 

 病室のドアの前に立つと中から聞こえて来る会話。興味本位でマヤノトップガンが耳をドアに当てた。それにつられてウオッカとキタサンブラックも耳を当てる。

 

 

「あのねトレーナー、ボク、手術とっても怖かったんだよ」

「よくがんばったな」

「でもね、トレーナーが応援してくれてるって思ったら、怖くなくなったの」

「そうか」

「そこでボク気づいたんだ……。ボク、トレーナーのことが……、えっと……」

「テイオー、どうした?」

「ボク、アルチョムトレーナーのことが……」

 

 

 耳を当てていたウオッカとマヤノトップガン、キタサンブラックがソワソワし始める。

 

「ウ、ウウウウ、ウソだろ……! テイオーのヤツマジか……!」

「テイオーちゃんって、もうそんなこと……!」

「テイオーさん、確かにトレーナーさんと仲良しでしたけど……」

 

 それを見て気になった残りの3人も耳を当てようとするが、6人同時に耳を当てるのは無理がある。後ろから押され、バランスを崩したマヤノトップガンがドアに手をかけてしまい、引き戸が開いた。そして病室に雪崩れ込む6人組。それと同時に電子的なシャッター音が響く。

 

「にっしし! 引っかかった〜」

 

 したり顔でスマホを構えるテイオー。その隣でアルチョムもほくそ笑んでいた。

 

「テイオーが面白いこと思いついたって言うからな、一芝居打ったのさ。まさかこんな簡単に騙せるとは思わなかったが」

「ふ、ふん、どうせ演技だって思ってたもんな、俺は」

「あら、そう言いながら顔赤いわよ」

「うるせー、暑いだけだよっ」

「もう、テイオーさんったら相変わらずなんですから」

「ちょっとオトナな雰囲気期待したのにぃ〜」

「あはは〜、ですよね〜」

「とりあえず元気そうで何よりです! あ、あとテイオーさん、これプレゼントです!」

 

 そう言いキタサンブラックはかわいい小包を手渡した。それに続き、みんなもそれぞれプレゼントを渡す。

 

「みんな……、ありがとう! ボク、すぐにターフに戻るから!」

「あんな小芝居できるぐらいですものね。いつものテイオーさんで安心しました」

「テイオーちゃんったら! マヤ、あの時からずっとちょー心配だったんだから!」

「あはは、ごめんごめん」

「でも普段通りでなによりだわ」

「そうね、〝病は気から〟なんて言うし、テイオーの様子ならすぐに治っちゃいそうね」

 

 そんな賑やかな様子を見ながらアルチョムはテイオーとみんなに一言断ってから病室を後にした。あのまま居ても邪魔だろうし、テイオーと話し合った内容をリハビリ計画に反映する必要がある。アルチョムはトレセンに戻って計画の再編にかかった。

 

 それからも毎日テイオーのもとには誰かしらのお見舞いが来ていた。アルチョムはもちろん毎日顔を出してリハビリの付き添いをしたが、その後には誰かがテイオーとお喋りしていた。現役時代に負傷した際、お見舞いに来たのがアルセニーと部隊長ぐらいだった彼からすれば羨ましく思えてしまう。

 

 とはいえ、そのおかげでテイオーは入院を退屈せず、手術から2週間後に無事退院となった。ギブスを外し、レントゲン写真を撮る。

 

「レントゲン写真を見る限り、予定通りに骨と靭帯の再生が進んでいますね。これから3か月ほどはリハビリ期間になります。ですが骨はまだ完全に再生していません。無理はせず、少しづつ機能回復を図っていきましょう」

「かしこまりました」

「あと、先程もお伝えしましたがしばらくは松葉杖が必要となります。周囲の皆様のサポートをいただけるよう願います」

「うーん、マヤノに迷惑かけちゃうかも」

「大丈夫さ。マヤノもみんなもわかってくれるよ。治ったらちゃんと恩返ししてやれ」

「そうだね、その時にはトレーナーにも恩返しするよ」

「俺にそんなこと考えなくていい。またレースで勝ってくれたらそれで十分だ」

「では、これからもリハビリ頑張ってください。あ、あと次の健診は……」

 

 その後、健診やリハビリの予定を確認してから2人は病院を後にした。翌日からはトレセン内の施設でリハビリを行う。

 まだ動かすと痛みがあるようだが、それも日に日に改善しつつあり、保健医の協力もあってその後1週間ほどは順調にリハビリが進んだ。そんなある日。

 

「あーあ、夏合宿行きたかったな……」

 

 7月下旬から始まる夏合宿。本来であれば参加できたのだが、骨折のリハビリと合宿施設側での対応などを考えた結果、今年の合宿は見送る結果となった。

 

「仕方ないだろ。それにあっち行っても多分やる事変わらねぇぞ」

「うう、つまんない。てかどうせ菊花出れないならリハビリやらなくてよくない?」

「何言ってんだいきなり」

「毎日同じようなこと飽きた。昨日も一昨日も同じことしたじゃん」

「医者がそうしろって言うんだから仕方ないだろ」

「あーあ、骨折しなければなぁ」

「骨折しなければなんて言うけどよ、その前に脚になんか違和感とかなかったのか?」

「あったけどさ……」

「じゃあなんで言わなかった? 早めに言えばこんなことには……!」

 

 語気を強めるアルチョム。何かあったらすぐ俺に言え、と伝えたはずだ。だが、テイオーはそれを怠ってしまった。

 

「だって、言ったらトレーニングとかレースに出れないかもって思って……」

「黙ってた、と? その結果がこれでは言った方がマシだったろうが」

「じゃあ言ったら骨折しない走り方とか教えてくれたの?」

「その前からいろいろ教えてたろ、力の入れ方とかケアのやり方とか。教えた通りにやらなかったヤツはどこのどいつだ?」

「やってたもん!」

「走り方が良くなったようには見えなかったがな」

 

 吐き捨てるように言うアルチョムに対し、テイオーはますます感情的になる。

 

「やってたったらやってた! トレーナーの教え方が下手なんでしょ!」

「ンだとおい! ちゃんと丁寧に説明したろうがッ、あれ以上どうしろってんだ!」

 

 テイオーの言葉を受けて怒りを露わにするアルチョム。互いに感情的になったが最後、その場での収集はつかなくなってしまう。それまでお互いに溜めていた負の感情が爆発し、言い争いになった。

 

「もうトレーナーなんか知らない! 大っ嫌い!」

「勝手にしやがれクソガキ!」

 

 売り言葉に買い言葉。しばらくの応酬のあとテイオーが怒鳴り、ジムから出て行ってしまう。アルチョムは一瞬追いかけようかと考えるが、今追いかけても先程の応酬の二の舞になるだけだと思い、その場に留まった。

 

Чёрт(クソッタレ)!」

 

 誰もいなくなったジムの真ん中でアルチョムは一人、吐き捨てた。

 

 






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