元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました 作:武装田んぼ
クッソ今更ですがようやくウマ娘のメインストーリーを見終わりました。
大変良いシナリオでみんな輝いていて良かったです。
ところで私の愛バ、トウカイテイオーちゃんが最後の最後まで1秒も出てこないって何事ですか?(机バンバン)
テイオーが大樹のウロでその想いを吐き出したその翌日。
あの後、南坂トレーナーはネイチャのレース映像を何本か見直した。そこで思ったのは、ネイチャ自身が自分の走りに気付いてない、ということだった。
常にテイオーを意識してしまう為か、その走りもどこかでテイオーの走りや動きを意識している。これでは彼女の実力を100%出すことは難しいだろう。
そのためにまずはカノープスのメンバーと話し合ってもらいそこに気づいてもらえるよう願ってみる。が、始めこそネイチャの目標や菊花賞についてだったが、いつの間にか議題は逸れていき、チームシリウスやチームスピカにどう対抗するかの話になってしまう。
「じゃあさっき出た話を踏まえて偵察に行こう!」
ツインターボが右腕を上げて立ち上がる。
「はい! マチタンも同行します!」
「……わかりました。彼女らのトレーニングの傾向を分析してから対策を練りましょう」
「……基礎トレーニングから普通に始めませんか? って、もうみんな行っちゃった……」
ターボについて行くようにマチカネタンホイザとイクノディクタスが出て行ってしまい、困り顔の南坂トレーナー。そこへネイチャが話しかける。
「まあ、放っておけば戻ってくるでしょう。んでさ、結局これからどうするの?」
昨日の一件があったが、ネイチャは今日も普段通りにトレーニングに来てくれた。そしてウォーミングアップを済ませ、いつでもトレーニングを開始できるようだ。
「とりあえずいつも通りのメニューをこなしましょう。その後に話し合いますか」
「あの子達はどーするのさ」
「とりあえず呼び戻してみます」
南坂トレーナーはスマホを取り出し、LANEのグループチャットで3人を呼び戻す。が、既読は一つしかつかない。
「この既読は……」
「あ、私のやつ」
ネイチャがスマホを見ながら返す。その後しばらくチャットの様子を見てみるが既読が増える様子はない。
「……グラウンド行きましょう」
「はーい」
諦めた南坂トレーナーはネイチャと共にグラウンドへ。
そこでネイチャに示されたトレーニング内容は差し対策だった。
「……なんで差しのアタシが差し対策するのよ?」
「次の菊花賞にリトルココンが出走します。リトルココンはこの前の札幌記念で4バ身差で一着をとりました。あの差し脚は脅威としか言いようがありません」
「……わかったわ。じゃあトレーナーの言う通りにする」
「納得してくれたようで何よりです。ではまず……」
南坂トレーナーはトレーニング内容をまとめたノートを見せながらネイチャのトレーニングを始める。カノープスメンバーとの話し合いで気づいてくれれば良かったが、本気で期待していた訳ではなかった。
次の案としては(むしろこちらの方が本命とも言えるが)テイオーではなく他のウマ娘を意識してもらい、その上で自発的に自分の走りというものを考えてもらうようにしてみた。
……それでダメなら、昨日のテイオーの一件を伝えて、その上で諭してみよう。
そんなワケで始まるトレーニング。スマホでリトルココンのレース映像を流して、その走りを分析する。
あるレースの終盤、リトルココンは他のウマ娘より少し早めに仕掛けていた。バ群の隙間を貫いて圧倒的な末脚で逃げ切る。何人かのウマ娘がその末脚に追いつこうとスパートをかけるが、結局巻き返せずリトルココンは一着でゴール板を駆け抜ける。
「すごい末脚ねぇ」
「これが菊花でも発揮されるとなると、楽なレースではないでしょう」
「でもテイオーはこれに勝ったのよね」
「はい、確かにダービーでリトルココンと接戦を繰り広げました」
「アタシが並べるの? この子に」
「並べるの? ではありません、並ぶんです。そして勝ってください」
いつになく真面目なトーンでネイチャに言う。そんな様子に少し驚いたようなネイチャ。
「……! わ、わかったわ、やってみる……!」
「はい、では走り込みからやっていきましょう」
こうしてネイチャはトレーニングを始めた。南坂トレーナーはその様子を見ながら、この前までの走りと比較していく。ただやはりその走りはどこかテイオーを意識したものに見えてしまう。
ネイチャが一生懸命にトレーニングに励んでいるのは言うまでもない。彼女の努力はどのウマ娘にも負けないと自信を持って言える。だが、その努力はひとえにテイオーというキラキラに追いつきたい、追い越したいという想いからくるものであろう。
そう考えると今のネイチャは〝彼女の中のキラキラしたテイオー〟に囚われてしまっているのかもしれない。憧れは大切な成長の糧になるが、それに囚われてしまっては本当の意味での成長は得られないであろう。
南坂トレーナーはネイチャの走りを見ながらそんなことを考える。それと同時に後悔した。もっと早くに彼女が囚われていると気付ければ昨日のようなことは避けられたかもしれない。だが、それがわかればやはりネイチャには伝えるべきだ。
ちょうど走り込みを終えたネイチャが戻ってきた。
「はぁ、はぁ、どうだった? 今の走り」
「はい、ちゃんとペースを維持できている安定した走りでした」
「よかった、じゃあ次は差しの対策を始めるのよね?」
「その件ですが、少しお話しが……」
「トレーナー! 戻ってきたよー!」
このタイミングでツインターボが元気よくこちらに駆けてきた。マチタンやイクノも一緒だ。
「戻るならもっと早く戻ってきて欲しかったです……」
「まあ、その話は後で聞くわ。今はトレーニングに集中しましょ」
「そうですね。では、次は……」
カノープスのメンバーはそれぞれのトレーニングを開始した。指定のメニューをこなしていく。南坂トレーナーは各メンバーのトレーニングをよく観察していたが、やはりネイチャは今回のトレーニングでもリトルココンよりテイオーを意識しているように見えた。
「では、今日のトレーニングはここまでとします。各自クールダウンなどのケアを忘れずに」
南坂トレーナーがメンバーにそう伝え、各々の荷物をまとめてグラウンドを後にする。照明塔が照らすグラウンドには昨日と同じように南坂トレーナーとネイチャが残る。
今日のトレーニング内容をノートに書いていく南坂トレーナーにネイチャが話しかけた。
「んでさ、さっきの話って何よ」
「そうでしたね。ただ、今から話す内容は内密にお願いします。本人にも言わないでください」
そう言うと南坂トレーナーはポッケから数枚の紙片を取り出す。
「昨日、深夜にテイオーさんが大樹のウロで泣いてました。菊花賞に出たかった、と」
しわくちゃになり破れた紙片。だが、そこはテイオーの文字で無敗やウマ娘といった単語が読み取れる。テイオーの悔しさややるせなさがそこにぶつけられていた。
「何よ、これ」
「テイオーさんが目標を書いた紙です。ただ、叶わないとわかって捨てたのです」
「これを見せて何になるのさ……」
「ネイチャさん、昨日あなたはテイオーさんの様子について言及しましたよね。あんなに明るく振る舞っていると」
「そうだけど……」
「テイオーさんは菊花賞に出走できないことをひどく悔やんでいました。声を枯らすような大声で何度も何度も菊花に出たかった、と」
「そんなことがあったの……?」
「誰にも見られたくなかったのでしょう。深夜に一人で泣いてました」
「……」
「それと、どこか呆然としているようにも見えました。なんと言えば良いのでしょうか……」
思い出すように少し考え込む南坂トレーナー。
「考え事と言うかなんというか……。ただ、テイオーさんもネイチャさんと同じように悩んで苦しんでいるのだと思います。追ってきた夢を絶たれてどうすれば良いのか、と」
「テイオーは春シニア三冠がどうって言ってたけど……?」
「そこまでは僕もわかりません。本気で目指しているかもしれませんし、まだ悩んでいる途中かもしれません。ただ、その紙が示す通り、テイオーさんは今、悩んでいます」
「……いつもあんなに元気なのに」
「テイオーさんなりの強がりかもしれません。気にしてないフリをして自分を守ろうとしてるのかもしれないです」
「んでさ、それがアタシの菊花に関係あるの?」
「大アリです。ネイチャさん、最近のトレーニングを見る限り、テイオーさんを意識し過ぎている節があります」
「そ、そりゃ意識しちゃうでしょ、だって今までずっと対テイオーでやってきたんだから」
「はい。それは間違ってませんが、これからはもう少し〝自分の走り〟というのを意識して欲しいんです」
「自分の走り……?」
「はい。本来なら、僕がもっと早く気付いて指導するべきだったのですが、昨日のテイオーさんを見て、そして今日いろいろ考えるまで気付くことが出来ませんでした。これは僕の勉強と経験の不足です。ごめんなさい」
そう言うと南坂トレーナーは深く頭を下げた。そんな様子に驚くネイチャ。
「ちょ、ちょっと謝らなくていいから……」
困惑気味のネイチャに対し、南坂トレーナーは続ける。
「テイオーさんを意識してしまうのはわかります。ですが、ネイチャさんにはネイチャさん自身の走り方があるはずです。菊花賞までの一ヶ月はネイチャさんの走りを目指してトレーニングしていきましょう」
南坂トレーナーがネイチャのことを真っ直ぐに見た。いきなりのことに困惑を隠せないネイチャだったが、それでも南坂トレーナーの意図はよく理解できた。
……確かにアタシはずっとテイオーを意識していた。テイオーばかり見ていた。でもそれでは自分の長所もテイオーに引っ張られてダメになるかもしれない。憧れは憧れ。でも、憧れのマネをするだけではそれに追いつくことは一生叶わない。
「……わかった、わかったわよ! トレーナーがそう言ってくれるなら、アタシはがんばって〝自分の走り〟を見つけるわ。だからちゃんと見つけられるようにトレーニング組んでよね」
「お任せください。〝ナイスネイチャ〟の名前の通り、あなたには素晴らしい素質があります。それを菊花で証明して見せましょう」
「うん、わかった」
ネイチャの目に決意が宿る。
……テイオーがあんなに悩んでいたなんてわからなかった。でもそうよね、ずっと目指してきた目標が目の前でダメになったら混乱するしそれはアタシだって似たようなもの。ただ、絶対に人前でそれを見せないのはテイオーらしいと言えばらしいかも。
正直、後一ヶ月もないのにできるの? なんて思うトコロもある。でも関係ない。アタシは走る。走ってやる。そして菊花賞で一着を取るんだ。
そう考えると昨日までの自分がバカバカしく思えてきた。菊花賞に出るのはテイオーに勝つ為だった。でもテイオーが菊花に出ないのなら? それでも勝てばいい。スタンドに押し寄せた観客に〝自分の走り〟を見せつけるんだから。
────────────────────────
その日もテイオーは普段通りに振る舞っていた。いつものように天真爛漫な笑顔。だが、その笑顔が本心から笑えているものには見えなかった。そして放課後、今日もテイオーはプールに向かった。患部に負荷をかけずに筋力を維持するためのトレーニングだ。
アルチョムもプール脇のベンチから指導を行う。決してそこから動くことはしないが。
その日のテイオーの様子を見ながら、アルチョムは違和感を感じていた。どこか無理をしているように見えたのだ。
悩み事だろうか。アスリートとはいえ、結局は10代前半の少女だ。相談しづらい悩みの一つや二つはあろう。下手な介入は不信の原因になり得る。そう考え、アルチョムは普段通りに接した。
「随分と動けるようになったな。ここまで来ればもう一息だ」
「やったー、ターフに立てるまでもう少しだね! でもホントにトレーナーってプールにいる時そこから離れないよね」
「プールに入ったら確実に溺れるからな」
「浅い場所なら大丈夫じゃない?」
「俺が溺れた時に人工呼吸してくれるなら入ってやる。……露骨に嫌そうな顔するな、傷つくだろ。気持ちはわかるが」
「てかトレーナー、軍隊の時に泳いだりしなかったの?」
「渡河訓練ぐらいだったな。浮橋とかを使って人員や車両、装備を対岸に運ぶんだ。でもほとんど泳がなかった」
「そうなんだ」
「さて、そろそろトレーニングに戻るぞ。まだメニューが残ってるからな」
「はーい」
そんなやりとりをしつつ、その日のトレーニングメニューを終えた。
「よし、今日はここまでだ。着替えたらトレーナー室に来い、マッサージと明日の予定の確認だ」
「はーい」
そう言うとテイオーは更衣室に消えていく。そんなテイオーの後ろ姿を見ているとやはり様子が引っかかる。表面では上手く取り繕っているが、普段のテイオーから感じられるパッションのようなものが感じられない。
そういえばさっきもグラウンドで会ったマックイーンにテイオーの様子を心配している、と話された。
とりあえず後でトレーナー室に来たらそれとなく聞いてみよう。それで話したくないようなら話題を変えればいい。そう考えてアルチョムはプールを後にした。
トレーナー室。
ジャージに着替えたテイオーが入ってくる。
「トレーナー、戻ったよー」
「おう、お疲れ。とりあえずそこに座ってくれ。真田先生に言われたマッサージをやるから」
真田医師から言われたマッサージをテイオーの両脚に施すアルチョム。筋肉の緊張をほぐし、関節などへのストレスを軽減する目的だ。また、完治後に走れるようになった際はテーピングを勧められた。これらの併用を行えば再発のリスクを大幅に軽減できるとのこと。真田医師に紹介されたマッサージ師のアドバイスに従い、丁寧にテイオーの脚をほぐしていく。
テイオーの様子を見るが、やはり何か思い悩んでいる様子だ。そしてテイオーが思い悩みそうなこととなればあと一ヶ月を切った菊花賞のことであろうか。
どう切り出すべきか? アルチョムは悩む。下手に切り出してテイオーを傷つけてしまうのはなんとしてでも避けたい。が、このまま放っておくのはトレーナーが取るべき対応ではない。
悩みながらマッサージを終えるとテイオーがこちらを不思議そうにのぞいていた。
「トレーナーどうしたの? さっきから複雑そうな顔して」
「……そんな顔してたか?」
「うん、なんか悩んでいるみたいだった」
「まあ悩んでいるといえばそうだな」
「それってボクのこと?」
テイオーの勘の鋭さに少し驚くアルチョム。変に取り繕うぐらいならそれとなく聞いてみるべきか。
「まあな。最近テイオーが元気ないように見えたんだ。何かあるなら相談に乗るぞ」
「心配してくれてありがと。でも大丈夫だよ」
「……そうか、ならいいんだ。ただ、なんかあったら言えよ」
やはり言いづらいのだろう。少し無理をしたような笑顔で大丈夫と返すテイオー。ちゃんと言及すべきかどうか悩むが、結局様子を見ることにした。大丈夫だ。テイオーはいざというときはちゃんと話す。その時には真摯に対応してやろう。そう思い、その後は予定の確認をして解散となった。
寮に戻り、自室のベッドに身を投げ出すテイオー。本音を言えば、トレーナーに聞かれた時に相談したかった。
「言えばよかったかな……」
だが、どう言えばいいのか、言ったとしてトレーナーはどう反応するのか。そんなことを考えるとどうしても言えなかった。
ストレッチのように左脚を上げ、ぼんやりと眺める。
左脚が骨折しなければ、ボクは菊花賞に出てゼッタイに一着をとった。無敗のクラシック三冠ウマ娘になれた。骨折しなければ、トレーナーと一緒にサイキョーのコンビになれた。
アルチョムの顔が頭に浮かぶと同時にふと疑問がよぎる。
骨折しなかったらボクはトレーナーの過去を知ることはできたの?
そもそもトレーナーの正体について疑問が生まれたのはトレーナーがボクの骨折をなんとかしようとロシア語の資料を読んでいたからで、それまではそれっぽい答えではぐらかされていた過去をちゃんと聞かなきゃと思ったからだ。
その答えは予想すらできないものだったし、ゼッタイに人に言えないものだったけど、トレーナーはちゃんと話してくれた。そして本当の自分でもボクを見てくれた。
胸元から取り出した薬莢のお守りを見ながらそんなことを考える。
骨折がなくてもたぶんどこかで話したとは思う。でもそれはいつになったのか、正直見当もつかない。カイチョーに勝ったら? トレセンを卒業したら? ボクが大人になったら? それとももっと先……? そしたらボクおばちゃんになっちゃうしトレーナーはおじいさんじゃん。
……もしかしたらずっと知らなかったかもしれない。
余計に頭がこんがらがってきた。でもあの時にロシア語の資料を見つけて疑問に思わなかったらトレーナーは今もはぐらかしていたかも知れない。いや、確実にはぐらかしていた。
だからってトレーナーの過去をちゃんと聞けたから良しとも思えない。
ずっとずっとずーっと憧れてきた無敗のクラシック三冠を逃してしまった。もう二度叶えられない憧れの夢になってしまった。
あの時、春シニア三冠を目指すと言ったが、どうやってもクラシック三冠を目指していた時のような熱意は湧かない。脚が治って走れるようになったら少しは変わるのかな……? でもそれってまだまだ先じゃん。
トレーナーに相談したらなんて言われるかな……。怒ったりはしないけど、悲しんだりしちゃうのかな。でもトレーナーが悲しむ姿は見てて辛いから相談しづらいな……。
でも誰かに相談しなきゃ、ボク一人じゃ解決できない。じゃあ誰に相談するのさ。
「ボクはどうすればいいの……?」
消え入りそうな声で呟くテイオーは悩むことしかできなかった。
誤字脱字などございましたらご報告願います。