元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました   作:武装田んぼ

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第23話 菊花賞

 

 

 10月下旬、菊花賞当日。

 

 あれから約一ヶ月間テイオーはいつも通りにリハビリとトレーニングをこなしていた。

 ただ、今までのような熱意はあまり感じられなかった。原因はアルチョムも大体は察しがついていた。菊花賞のことであろう。

 自分が出走できないという事実が現実味を帯びてきて、テイオーはそれに押しつぶされそうになりながらも必死に平静を装っていた。どうにか力になりたかったが、アルチョムにできることは限られており、ずっと歯痒い思いをしていた。

 

 ただ、その辛さが難民の子供たちを相手にしていた時よりも心の底に深く突き刺さるものであったのはアルチョムにとって予想外であった。

 あの時の自分が薄情だったのか、それともこの子に入れ込んだか。どちらにせよ、銃を持たない自分がここまで情の深い人間だとは思わなかった。或いは、銃を持ち、それを仮面とすることで非情に振る舞って自らを偽り、守っていたのか。

 

 ただ一つ言えることは、銃を持っていた自分であればここまで思いを巡らせることは無かったということだ。

 

 この日はお休みということでお互いに好きに過ごすとした。アルチョムはとりあえず現場には行けなくとも、菊花賞を観るためにテレビのチャンネルを合わせると同時にタブレットでトレセン関係者向けの菊花賞配信ページ開いてタブレットスタンドに置く。

 

 そして冷蔵庫からクリームチーズ、ラムレーズンを取り出してテーブルに置き、棚からウォトカとクラッカーを取り出してそれもテーブルに置いた。半ば仕事とはいえ今日は休日。スポーツ観戦気分で楽しもう。

 そう思っていた時、テイオーからLANEが来る。

 

テイオー[今トレーナーどこにいるの?]

アルチョム[自室だ トレーナー寮の]

テイオー[今からトレーナーの部屋行っていい?]

アルチョム[俺の部屋に来て何すんだ?]

テイオー[菊花賞観る]

 

 その返信が来たとき、アルチョムの指が止まった。テイオーが自ら観たいと言うとは思ってなかったからだ。だが、ここはトレーナーとして最大限テイオーの意志を尊重すべきだろう。

 

アルチョム[わかった んで、俺の部屋はわかるのか?]

テイオー[わかんないから案内して]

 

 そして送られてくるぴえんの顔文字。

 

アルチョム[迎えに行くから校門に来い]

 

 そう返信して、テイオーを迎えにトレセン学園の校門前に向かう。

 

 日曜日でも校門は開けられており、トレーニングやなんやらの用事でトレセンに来るウマ娘は少なくない。そんなウマ娘たちの邪魔にならないよう、校門の端でスマホをいじりながら待機する。すぐにジャージ姿のテイオーが現れた。

 

「トレーナー、来たよー」

「おう、来たな。こっちだ」

「ん」

 

 2人はトレーナー寮に向かう。

 

「トレーナーの部屋ってどんな部屋?」

「どんな部屋かと聞かれても普通の部屋だ」

 

 トレーナー寮のエントランスでオートロックを解除し中へ。そのままアルチョムは階段を下る。

 

「なんで地下行くの?」

「俺の部屋は地下だ」

「なんで地下なんかに住んでるのさ」

「夏は涼しいし、防音性もあるから運動したり音楽を流しても迷惑にならない。地震にも強いからな。ついでに賃料もだいぶ安い」

「へぇ〜。でも日当たりとか悪そう」

「確かに悪いな。ただ日中はほとんどトレセンにいるから関係ない。最大の問題は湿気だ。常に除湿器を回す必要がある」

「大変そうだね」

「中東で活動していた時にも地下の隠れ家を使ったことがあった。慣れれば住みやすいもんだ」

「隠れ家⁈ スパイとかが使うヤツ⁈」

 

 隠れ家と聞いた途端、目を輝かせながら聞いてくるテイオー。とあるスパイアニメにハマっているようで、この前もトレーナーはスパイとどう違うのか聞いてきた。

 

「まあそうだな。って言っても対外情報庁のヤツらが使ってたのを間借りしただけだが」

「確かそのタイガイジョーホーチョーってのがスパイなんだっけ」

「そんな感じだ。俺らの仕事はソイツらが集めた情報をもとに動いていた」

「やっぱスパイじゃないんだ」

「違うって言ったろ」

 

 階段を降りて地下に。薄暗い廊下に質素な扉が並ぶ。

 

「なんかめっちゃ雰囲気ある……!」

「雰囲気だけな」

 

 玄関を開けて自室に入る。人を招いたのはこれが初めてかも知れない。

 テイオーは室内に入るとキョロキョロと見回した。シンプルだが、どこか隠れ家のような雰囲気の漂う少しオシャレな部屋だ。

 

「トレーナーセンスあるじゃん」

「だろ?」

 

 2人はリビングへ。一人暮らしとしては広めな部屋をテイオーはあちこち見て回る。

 テイオーはその雰囲気がいたく気に入ったようで、トレーナーにあれこれ聞いて来る。

 

「トレーナー、ここって何?」

「簡単なジムだ」

「すごいじゃん! ランニングマシン使っていい?」

「ウマ娘用じゃないからダメだ」

「ちぇー。てかテレビでっか!」

「映画とか良く観るんだ。迫力があっていいぞ」

「じゃあ今日はこれで菊花観るの?」

「そうだ」

 

 そんな会話をしながらアルチョムはテーブルに置いたウォトカやラムレーズンを片付ける。

 

「トレーナーお酒飲もうとしてた?」

「休みだからいいだろ」

「ポテチないの?」

「あいよ」

 

 棚からポテチを出してテーブルに置く。そしてテレビのチャンネルを菊花賞に合わせ、タブレットも準備完了。観戦の準備は整った。

 

 ふとテイオーを見る。その瞳は悲し気なようにも、いたたまれないようにも見える。普段の天真爛漫な彼女はそこにはおらず、ひたすらに現実と向き合っている彼女がそこにいた。

 

 テレビに目をやるとテイオーが今年の菊花賞に出走できないという話が流れている。

 なんと声をかけてやるべきか。いや、むしろ何か下手に言えばテイオーを傷つけてしまうか。逡巡するが、答えがでない。トレーナーという立場にありながらこのザマだ。なんと情けないものか。

 

 2人がそれぞれの悩みと向き合う中、菊花賞の出走準備は着々と進められた。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 阪神競バ場、その控室。

 静かに呼吸を整え、準備をするウマ娘。ナイスネイチャだ。

 大丈夫、私はやれる。観客がテイオーのことなんか忘れてしまうぐらい、すごい走りを見せてやるんだ。そう自分に言い聞かせて鏡の中の自分の向き合う。

 

 鏡の中の自分はバッチリ決まっている。

 初めて着る勝負服。これを着られるのはG1ウマ娘の証だ。耳飾りやリボンの位置を意味もなく調整してみる。ちょっと緊張しちゃってるな、テイオーなら堂々しているんだろうけど。

 

 そんなことを考えて頭を振る。

 

 テイオーなんか意識しちゃダメ! 自分の舞台なんだから目先のレースしか考えない! 

 

 するとドアをノックする音が聞こえた。

 

「ネイチャさん、準備は終わりましたか?」

 

 南坂トレーナーの声だ。

 

「うん、大丈夫。開けていいよ」

「これは……」

 

 南坂トレーナーがドアを開けて入るとネイチャを見て少し驚いたように口を開けた。

 

「ちょっと、なんか言ってよ!」

「……ごめんなさい、想像以上にネイチャさんが輝いて見えたので、びっくりしてしまいました」

「……とりあえずポジティブに受け取るわ」

「はい、大変よく似合ってます。素敵ですよ」

「も、もう、お世辞はいいから! 褒め過ぎだって……!」

「僕の素直な感想です。お世辞でもなんでもありません」

 

 南坂トレーナーから絶賛され、照れ気味のネイチャ。そこへカノープスのメンバーもやってきた。

 

「ネイチャ、すっごい似合ってるよ!」

「いや〜、ほんとかわいい勝負服ですなぁ。私も着てみたいもんです」

「大変お似合いです、ネイチャさん。ここの誰よりきらめいて見えます」

「ちょっと、みんなして褒め過ぎだって……!」

 

 褒められ過ぎて調子が狂う、なんて言いたげな様子だ。でもその顔にはまんざらでもないと書かれている。

 

「ネイチャさん、そろそろパドックの方へ行きましょう」

「そうする。みんなアタシのレースを見てて。絶対に勝ってくるから……!」

 

 その瞳に宿る揺るぎない闘志。

 そこには一ヶ月前の迷い悩み、悔しさで涙を流した弱いウマ娘はいない。迷いを捨て、一ヶ月間ひたすらに自分を追い求めたそのウマ娘はしっかりとした足取りでパドックに向かって行った。

 

「私達も行きましょう」

「「「はーい!」」」

 

 パドックで出走するウマ娘が順番にポーズをとってアピールする。ネイチャが現れてポーズを取ると観客の雰囲気が変わった。それまではなんとなく見ていた観客がネイチャを見て、注目するような目つきに変わる。それはネイチャもなんとなくわかった。

 そんな観客に気圧されそうになるが、全力で堂々と振る舞った。

 

 ……本音を言うなら、どこかでまだ迷ってる。悩んでる。でもそれを理由にキラキラを手にするのを諦めたくない。正直な話、菊花賞で勝てたぐらいでテイオーのキラキラに敵うとは思えない。でも、だからってレースから逃げたらそのキラキラはもっと遠ざかってしまう。

 

 だから、少しでも近づくために走るんだ。自分の足で、実力で、キラキラに、テイオーに近づくために……! 

 

 パドックでのアピールを終え、出走ウマ娘達が次々とターフに出た。透き通るような雲が浮かぶ秋晴れの空と翡翠のようなターフが彼女達を迎える。

 ネイチャも深呼吸をしてターフに躍り出て、湧き上がる歓声や声援を浴びながら彼女は5番ゲートに入りスタートの刻を待つ。

 

 ゲートの先に広がるターフ。今まで何度も見てきた光景だが、この日は違って見えた。ついに立ったG1と言う晴れ舞台。追い求めて来た〝キラキラ〟へ手を伸ばす時だ。

 

 そしてゲートが開いた。

 

 一斉に飛び出すウマ娘。ネイチャは作戦通り、バ群から少し距離を取りに後方に位置取る。そして他のウマ娘の動きを確認しつつ、コースを進んでいった。

 

 このレースで特に注意すべきウマ娘は自分の右隣を走るリトルココンだ。日本ダービーではテイオーと接戦を繰り広げ、惜しくも二着と言う結果だったがその実力に嘘や誇張はない。今のところ動く様子は見えないが、レースはまだ序盤だ。脚を溜めているに違いない。とにかく今は最後のスパートで全力を出せるように準備するだけだ。

 

 

《さあまもなくレースは終盤に入ります。菊花の栄光を掴むのはどのウマ娘か⁈》

 

 不規則な歓声と規則的なターフを踏みつける脚音が耳に入る中、ネイチャはスパートへ向けて動き出す。すでに先団は最終コーナーに入り、逃げのウマ娘は距離を開けようと翡翠の絨毯を踏みつけ、蹄跡を刻んでいく。

 少し前を走るリトルココンも勝負だと言わんばかりにスピードを上げていった。すかさずその後を追うネイチャ。そしてじわじわと内ラチから攻めていく。

 

 言わせない……! 

 

 多分観客の中にはテイオーが出走していれば、と思ってる人も少なくないだろう。

 そんなことわかってる。

 

 言わせない……! 

 

 でもテイオーが居ないことなんてどうでも良くなるような走りをアタシは見せつけてやるんだ。

 

《リトルココン、ここでハナを狙う! コサックステップは逃げ切れるか⁈》

《ナイスネイチャもあがって来てます。どこまで逃げ切れるでしょうか》

 

 最後コーナーを抜け直線に躍り出るネイチャ。左前を走るリトルココンと2バ身ほど先にいる逃げウマ娘、コサックステップ。

 2人はジリジリとコサックステップとの距離を詰めて追い抜かす。

 ここからは一騎討ちだ。ネイチャはただひたすらに、愚直にゴールを目指した。

 

《ここでナイスネイチャ、リトルココンに並ぶ! 2人のデッドヒートだ!》

《どちらが勝ってもおかしくありません。あとは意地のぶつかり合いです》

 

 

 言わせない! 

 

 絶対に言わせない! 

 

 テイオーが走っていればなんて言わせない! 

 

 アタシはずっと追いかけて来た、そして多分囚われていた。もしかしたら今も囚われてるかもしれない。キラキラしたあの子、トウカイテイオーに。だからこそ、アタシはアタシの走りでテイオーを超えたいんだ。

 

 今日ここで競うことは叶わなかった。でも、このレースを見た観客全員がテイオーのことを忘れちゃうぐらいすごい走りを見せつけることができたら、アタシはあのキラキラに近づくことができる! 

 

 今一度、脚元のターフを踏みつけて、全力で蹴り出す。残りのスタミナを全て脚に送り込み、コース上を弾丸のように走り抜ける。

 

 

 だから言わせない! 

 

 言わせない! 

 

 

 無我夢中で走るネイチャの右をゴール板が通り抜ける。

 

《ナイスネイチャ! 今一着でゴール! 菊花の栄冠を手にしたウマ娘はナイスネイチャです!》

 

 菊花賞の決着がついた。

 阪神競バ場の着順掲示板の一番上に表示された番号5番。ナイスネイチャは菊花賞を制した。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 ナイスネイチャの勝利を伝える実況が流れるのを真剣な目で見るテイオー。

 

 あのネイチャには勝てない。

 

 テイオーの中にそう浮かんだ。レースが始まってから終わるまで、テイオーは自分が出ていればこう走るとシミュレーションをしていた。最終コーナーを抜け、直線を駆け抜けるまではテイオーの想定は上手く進んでいた。だが、ゴール手前でネイチャに差されたのだ。

 

 完璧な差しだった。確かに想定では2バ身は差をつけた。が、最後の最後に詰められて差された。もし仮に出走していたと考えると、テイオーにとって初の黒星はこの菊花の舞台でついたかもしれない。

 

 ただ、それと同時に湧き上がるのは勝ちたい、と言う気持ち。あの時の選抜レースでカイチョーにコテンパンにされた時よりももっと強い感情。

 

 勝ちたい。ネイチャに勝ちたい。

 

 そっか、だから今日のネイチャは強かったんだ。ネイチャはボクに勝ちたかった。例えボクがいなくてもネイチャは勝ちたかった。だからネイチャはその想い全てを今日にぶつけて勝ったんだ。

 なら、次はボクもキミに同じ想いを込めて勝負を挑むよ。

 

 アルチョムもまた、ネイチャの走りをよく見ていた。そしてその走りにアルチョムは息を呑んだ。

 

 ああそうだ、亡命して初めて見た競バ。あの感動だ。ターフに全力で夢をぶつけるウマ娘を目に焼き付けたあの感動。それをネイチャの走りでまた体験するとは……。

 そしてもう一つ、あの走りにテイオーは勝てない。おそらく日本ダービーに出た時の絶好調のテイオーでも、あの走りには敵わなかったのではないか。

 

 タブレットでレース動画の終盤をもう一度再生する。

 圧巻の走りだ。テイオーを超える走りを見せつけられた。テイオーを超える走りができるのはシンボリルドルフぐらいだと思っていた。だが、この菊花賞でそれは覆された。

 いや、自分がウマ娘の走りに無知なだけかもしれないが、それでもネイチャの走りは脳裏に強く焼き付いた。

 そしてそれは、テイオーも同じだったようだ。

 

「ボク、菊花賞に出たら負けてたかもしれない」

 

 テレビを見つめながらテイオーが言う。その目はあの時、選抜レースでルドルフに手も足も出なかった時の目と同じだった。

 

「ボク、こんな気持ちになったの久しぶりだよ。胸の奥がすっごいイガイガするんだ。ボクね、レースが始まってから終わるまで自分だったらこう走るんだ、ってシミュレーションしてたの。でも勝てなかった。最後の最後にネイチャに抜かれちゃったんだ。実際に走ってないのにすっごく悔しくて自分でもびっくりしちゃうぐらい」

 

 そう言いながら画面の中で歓声に応えるネイチャを観る。

 

「だからネイチャに勝ちたい。ターフの上で勝負して勝ちたい……!」

「奇遇だな。俺も同じこと考えてた」

「トレーナーもそう思うんだ」

「ああ。あの走りはダービーの時のテイオーを超えていた。正直俺も驚いたよ、なんてウマ娘なんだ、ってね」

「ねぇトレーナー、ボクの話聞いてくれる?」

「ああ、どんなことでも話してくれ」

 

 そこからテイオーは自分の胸の内を明かした。皐月賞も日本ダービーも、ボクが勝って当然と思っていた部分があったこと。

 だから菊花賞だって勝てると思ってた。でもそれは間違いだった。今日、ネイチャの走りを見てそれに気付かされた。

 

 だからこそ、春シニア三冠をちゃんと目指したい。カイチョーを超えたいからって理由であの時は言った。でもそれだけじゃない。菊花のネイチャはキラキラしていた。それはネイチャの走りで走ることが出来たから。だからボクはボクの走りを見せるために春シニア三冠を手にする。

 

 カイチョーは今でも憧れの存在。でもボクはカイチョーのマネをしたいんじゃない、超えたいんだ。なら今こそ、ちゃんと復帰して、ボクの走りでその第一歩を踏み出したいんだ! 

 テイオーは身振り手振りを交えてアルチョムにそう語った。

 

 それを聞いたアルチョムは思わず涙を流した。ずっと悩んでいたテイオーはそこにはいない。自らの目標を見つめ直し、漠然とした理由ではなく、確固たる意志と抱いた大志を翼にして目標へ羽ばたいて行こうとする不屈のウマ娘がアルチョムの前にいた。

 

 我が子の成長を喜ぶ親というのはこんな気持ちを持つのだろう。そしてそれが精神的成長ならなおさら、その喜びは大きくなる。そんな喜びを噛み締めながらアルチョムはテイオーを真っ直ぐに見つめて返す。

 

「ああ、わかった。テイオーが目指す目標は俺の目標でもある。目標を叶えるためなら、俺はどんな努力も惜しまない」

「ありがとう、トレーナー!」

「……ずっとテイオーが悩んでいるのを見て、とても不安だった。だが、テイオーはそれを乗り越えたようで何よりだ。ただ、すまないな。肝心な時にテイオーの力になれなかった」

「気にしないで、トレーナー。これはボクの問題だから、ボクが自分で答えを見つける。トレーナーはボクがその答えを叶えるためのお手伝いをしてくれたらそれでいいから」

「ああ……、ああ、いくらでも手伝ってやるさ。テイオーは俺の大切な担当なんだ。今回力になってやれなかった分、全力でサポートしてやる」

 

 それから2人は菊花賞のレースを見直しながら分析を始めた。テイオーの想定ではなぜ破れたのか、ネイチャやリトルココンの走りはどこが優れていたか、なぜネイチャは一着になれたか。そしてそれをいかにテイオーの走りに反映するか。

 そして復帰戦となる大阪杯に向けてのトレーニング予定を組み始めた。

 

 

 ────────────────────────

 

 

「「ネイチャー! おめでとー!」」

「おめでとうございます。素晴らしいレースでした」

 

 レースを終えたネイチャに飛びつくターボとマチタン。その隣でイクノは優しい笑みを浮かべながら拍手をする。

 

「ちょ、ちょっと待って……! うわっ!」

 

 2人に抱きつかれ、困り顔のネイチャ。それでも嬉しそうだ。

 

「お疲れ様でした。そしておめでとうございます」

 

 南坂トレーナーはにこやかに拍手している。ただ、声のトーンは興奮を隠しきれていない。

 

「本当に素晴らしい走りでした。ネイチャさんの走り、それを十分に発揮できたようで、トレーナーとしてはこれほど嬉しいことはありません」

 

 そう言う南坂トレーナーの目が潤んでいるのをネイチャは見逃さなかった。

 

「ちょっと、みんな感動し過ぎだって……!」

 

 そう言うネイチャも本音を言えば今にも飛び上がりそうなぐらい嬉しいし、気を緩めたら泣いてしまいそうだ。

 アタシはやった。やったんだ。あの〝キラキラ〟に、近づくことができた。なら、次はもっと近づいて掴むんだ。今のアタシなら、それができる。

 

「ねぇ、トレーナー。次のレースさ……」

「ああ、それでお話しがあります。次の出走は今年の締めくくりである有マ記念にしましょう」

「……うぇ、あ、有マ⁈ トレーナー本気……?」

「本気です」

 

 ネイチャを真っ直ぐに見る眼差し。南坂トレーナーの言葉に嘘偽りは無い。なら、答えは一つだ。

 

「……わかったわ、走ってやるわよ、有マ記念!」

 

 そうだ、走ってやる。ここまで来たら限界まで走ってやるんだから! 

 ネイチャの闘志がより激しく燃え上がる。彼女が目指すキラキラの先までその脚を止めないために。

 

 






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