元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました   作:武装田んぼ

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第25話 秋の盾

 

 

 地下バ道にて。

 ある者は祈るように、ある者はただ無言で、ある者は己を鼓舞するようにターフへ向かっていく。

 そんな中、メジロ家の誇りを背負い、悲願達成を胸に一歩一歩、確かな足取りでターフを目指すウマ娘。メジロマックイーン。彼女の瞳に宿る決意と覚悟は今ここにいるどのウマ娘より強いものだった。

 

「マックイーン!」

 

 そんなマックイーンに声がかけられる。ライアンとドーベルが手を振りながらマックイーンに近寄る。

 

「2人とも来て下さったのですね」

「当たり前じゃん! マックイーンの晴れ舞台、見逃すワケないよ!」

「大丈夫よマックイーン、今日まであれほどがんばって来たんだから」

 

 ライアンとドーベルがマックイーンの手を握って励ます。彼女らの口からメジロ家のことは出て来なかった。だが、それはマックイーンに気を遣ってではなく、彼女たちの本心なのであろう。事実、マックイーンがメジロ家の栄光のためと話した時、2人はそんなことは気にせず自分の走りを見せておいでと言う。

 自分の走り。その言葉を聞いた時、マックイーンはハッとした。テイオーも同じことを言っていたからだ。天皇賞の春秋連覇というメジロ家の悲願を前に自分の走りというのを忘れかけていた。

 ……あくまでも、今日ターフを駆けるのは私自身。メジロ家の悲願を背負う身ですが、それよりも私自身の目標でもあります。ならば、自分の走りで一着を獲る。

 心の底で決意を新たにしたマックイーン。そこに戸惑いや緊張は無い。

 

「あ、いたいた!」

「やっほー! マックイーンちゃーん」

「お久しぶりです!」

「マックイーンさん!」

 

 そこにまた駆け寄るウマ娘。テイオーとマヤノ、ライスシャワーにキタサンブラックとサトノダイヤモンド、ライスシャワーもいる。

 

「マックイーン人気者だね」

 

 みんなに囲まれるマックイーンをみて笑うライアン。マックイーンは嬉しそうな表情を浮かべてみんなを見た。

 

「マックイーンさん、がんばってください! 当たり前のことしか言えませんが、今の私はそんな気持ちでいっぱいなんです!」

 

 サトノダイヤモンドがマックイーンの手をとり言う。

 

「いえ、むしろ素直な応援に心から感謝します。あなたの真っ直ぐな気持ちは私がしっかり受け止めて力にします」

 

 マックイーンはサトノダイヤモンドの手を握り返して微笑んだ。こういう時こそ、素直な気持ちや声援の方がモチベーションに繋がる。

 

「マックイーンさん、私も同じようなことになっちゃうけど、が、がんばってくだひゃい!」

 

 ライスシャワーがマックイーンの瞳を真っ直ぐに見て、そして手を強く握りながら伝えた。最後ちょっと噛んでしまったがそれもご愛嬌というものだ。

 

「マックイーン、ボクも応援しているよ。〝ライバル〟としてね」

 

 そう言い、いたずらな笑みを浮かべながらマックイーンの手を取るテイオー。その手は今日も暖かい。

 

「ええ、ありがとうございます。テイオーさんが勝てないと思うぐらい素晴らしい走りをご覧に入れましょう」

 

 マックイーンも堂々と返す。そんなやりとりをみんなで笑い合い、みんなの激励を一身に受けマックイーンはターフに出た。

 ターフに立つと、大歓声がマックイーンを包み込む。期待の現れでもある大歓声を受けながらマックイーンは手を振ってゲートに向かう。

 私は今、最も幸せなウマ娘かもしれない。そんなことを思うマックイーン。

 級友に期待され、家族に期待され、観客に期待され。これほどまでの期待を背負うのはここまで何度も実力を証明して来た証だ。これまでの積み重ねがこの声援となり、今、自分を激励している。ならば、私の成すべきことは一つ。

 春秋連覇を達成し、それをお返しにするのみ。

 そして堂々とゲートに入った。

 

《各ウマ娘ゲートイン完了、まもなく出走です》

 

 そしてゲートが開いた。

 

 

 

 ゲートを一斉に飛び出すウマ娘。そしてそれぞれの脚質に合わせてバ群が自然と形成された。マックイーンは先団前方に位置取り、レースを進めていく。

 そんな様子を真剣に見つめるテイオー。その蒼い瞳がマックイーンを逃すことはない。

 綺麗な走りだな。ボクも一緒に走りたくて堪らないや。

 マックイーンの走りに見惚れてしまうテイオー。つい自分の走りとどっちが良いか考えてしまう。

 カッコよさならボクの勝ち、綺麗さならマックイーンの勝ち? 

 ふと隣のアルチョムを見る。

 真剣な目でマックイーンの走りを見ている。

 あ、トレーナーマックイーンの走りをすっごい真剣に見てる。ボクの走りを見ている時と同じ目じゃん。なんでそんなに真剣にみるのさ。

 少し不機嫌になるテイオー。だが、その真剣な目をカッコいいと思う自分もいた。

 トレーナーの目ってあんなにカッコよかったけ? いつももっと威嚇する熊みたいな目なのに、なんでカッコよく見えるの……? 

 頭の中が混乱し始める前にレースに目線を戻す。レースはまもなく終盤だ。

 

 ゲートが開いてからアルチョムはずっとマックイーンを注視していた。それは他でも無い、テイオーのライバルウマ娘の研究目的だ。脚質はテイオーと同じ先行、そのスタミナ量で長距離を制すステイヤー。そして来年、テイオーが出走するであろう天皇賞春においてぶつかるであろう強敵。

 それまでに確実な対策を講じる必要がある。テイオー自身、スタミナもパワーもスピードも、復帰後の状況次第だが、圧倒的に劣ると言うことはないだろう。だが、勝っている訳でもないのは事実だ。無論、勝っていればレースで勝てると言う単純な話ではないし、不測の事態で実力を出し切れない可能性もある。何にせよ、ある程度はトレーニングで強化しなければならないだろう。

 テイオーや他のウマ娘の身体能力というものが数値で表されたら大変わかり易いが、そんな便利な道具を開発できるほど人類は進化していない。

 次にメンタルだ。これに関しては本人に丸投げ、とまでは言わずとも本人自身でなんとかしなければならない部分が大きい。アドバイスはできてもそれを活かせるかは本人にかかっている。

 ……戦場での経験が全く活きないな、なんてため息を吐く。もっとも、ルールや倫理のへったくれもない戦場の経験はさほどアテにはしてなかったが。

 とにかく今はマックイーンのレース運びを頭に叩き込んで、テイオーにどう動いてもらうかシミュレーションする。

 

 

 

 最終コーナーから直線に入る時、マックイーンは一気に仕掛けた。外から内に向けて滑り込み、そのスタミナを全て脚に乗せて翡翠の絨毯を駆け抜ける。矢のような疾走は観客席を魅了した。

 黒いコートのような勝負服にマックイーンの芦毛のコントラストがよく映えた。ターフの上で我此処にありと言わんばかりだ。

 

「いっけぇー! マックイーン!」

 

 テイオーも声援を送る。その声援に応えるようにマックイーンはさらに加速し、後ろをみるみる引き離した。

 

 

 

 直線を駆け抜けながら耳に入る歓声と実況。だが、それぐらいで気を取られるようなウマ娘であればこの舞台に立つことはできない。眼前に広がる翡翠の舞台をただ勝ちたいという一心で駆け抜ける。そんな中聴こえた声援。テイオーの元気な声がマックイーンの耳に入る。

 不思議と脚が少し軽くなる。

 

 さあ、私の走りを見せてあげます……! 

 

 ターフを踏みつけ、抉れた芝が宙を舞う。もはや後続のウマ娘でマックイーンに追いつける者はいない。

 

《メジロマックイーン! 後続をぐんぐん突き放し、もはや独走状態!》

 

 そのままゴールを駆け抜ける。2着のウマ娘を6バ身も引き離した圧勝だった。

 大歓声に沸く観客席。テイオーもマヤノと一緒に飛び跳ねて喜んでいる。

 

「やった……、やった! やったあぁぁぁぁぁ!!」

 

 マックイーンの勝利を見届け、両手を挙げて喜ぶ相田トレーナー。その表情は安堵と歓喜に満ちていた。アルチョムも天野トレーナーと共に盛大な拍手でマックイーンの勝利を祝福する。

 割れんばかりの拍手と大歓声に包まれながらマックイーンは観客席の前に立ち、綺麗なお辞儀をした。そこへ駆け寄る相田トレーナー。マックイーンも相田トレーナーに近寄り、嬉しそうに手を取った。

 マックイーンの手をしっかりと握りその健闘を讃える相田トレーナー。ウマ娘とトレーナーコンビの理想ともいえる画だ。

 

 

 

 だが、そんな様子と裏腹に関係者席後方の光武理事長の周りが何やら話している。そして理事長と何人かの取り巻きは席を離れた。その直後、ターフビジョンに映る審議中の文字。

 それを見た瞬間、ターフの上で喜び合っていたマックイーンと相田トレーナーの表情が固まる。また、観客席にも動揺のようなものが広がっていくのがよくわかった。

 

「何が起きてやがる?」

 

 そんな雰囲気をアルチョムも感じ取り、状況を確認するために動き出す。その直後、流れるアナウンス。

 

《お知らせいたします。東京競バ場、第11レースは競争後半で14番の進路が狭くなったことを審議いたします》

 

「……何が起きてるんです?」

「さあな」

 

 天野トレーナーが周りを見回す。テイオーやマヤノ、ライスシャワーもお互いに顔を向い合ってソワソワしていた。そんな時、背広を着た一人の男が相田トレーナーに駆け寄り何かを話した。

 

「マックイーンが進路妨害⁈」

 

 相田トレーナーが大声で驚く。

 

「そんなバカな! 何かの間違いだッ!」

 

 背広の男に詰め寄る相田トレーナー。だが、男は特に何か言う訳でもなく、その場を離れる。

 

「……ウソだ! マックイーンの走りにおかしいところは無かった!」

 

 相田トレーナーは男を追う。そんな中、マックイーンはただ、ターフの上に立っていた。そこに駆け寄るテイオー。

 

「マックイーン、大丈夫?」

「え、ええ。ただ、進路妨害の疑惑と言われましても心当たりがありませんので……」

「ボクもそう思うよ。マックイーンの走りが誰かを邪魔してるようには見えなかったもん」

「ですが、審議となっているということは……」

「マックイーン、まだそうと決まったワケじゃないよ」

 

 テイオーはマックイーンの瞳を真っ直ぐに見つめて手を握った。

 

「ボクがなんとかしてみる。マックイーンは待ってて」

 

 マックイーンの進路妨害なんて何かの間違いだ。そんな理由で降着なんかにはさせない! 

 だってマックイーンはそんなことしなくたって勝てるから! 

 テイオーは動揺しつつあるマックイーンを落ち着かせ、相田トレーナーが男を追って消えた方に走っていく。それにマヤノやライスシャワー、キタサンブラックやサトノダイヤモンドも続いた。

 

「あ、おい! どこ行くんだ!」

 

 走っていくテイオーとウマ娘達。反射的にアルチョムはテイオーらを追う。テイオーの行動力は素晴らしいが、もう少し後先を考えてほしいものである。

 

「あの、相田トレーナーがどっちに行ったかわかりますか?」

「上の裁決室じゃない? 実況席の近くだよ」

 

 近くにいた他のトレーナーに尋ねたテイオー達はエレベーターの方に行く。が、エレベーターは最上階に止まっていた。

 

「あっちに階段あるよ!」

 

 マヤノが指差す。テイオー達は階段を段飛ばしで駆け上がって行く。

 

「テイオー! 足完治してねぇんだからあまり負荷かけるな!」

 

 駆け上がるテイオー達を追いながら怒鳴るアルチョム。怒鳴りながら二段飛ばしでウマ娘達を追うその体力も中々のものだ。さらにその下からアルチョムを追う天野トレーナー。彼も彼でまるでパルクールのごとく階段を登っていく。

 あっという間に着いた最上階。そこでは3人の警備員が相田トレーナーと言い争っていた。

 

「トレセンのトレーナーが立ち入り禁止ってどういうことだ⁈」

「そのように指示が出ております」

「おかしいだろ⁈ そんな指示!」

「そう言われたんだ。さっさと戻って裁決を待て」

 

 門前払いを食らう相田トレーナー。そこに駆け付けるテイオー達。

 

「関係者以外立ち入り禁止だ! 今すぐ戻りなさい!」

「マックイーンの無実を証明するから戻らない!」

「そうです! マックイーンさんは進路妨害なんかしていません!」

「レースをちゃんと見直して! マックイーンちゃんはちゃんと走ってたよ!」

「いいから戻れ! 子供が大人に口出すんじゃない!」

 

 やいのやいのと警備員に迫るテイオー達。だが警備員はつっけんどんな態度で追い返そうとする。そこに追いついたアルチョム。関係者証を見せながら警備員に迫る。

 

「関係者だ、通せ」

「無理です」

「関係者だろうが、何がダメなんだ?」

「トレセンの関係者は通すなとの指示が出ていますので」

「トレセンの関係者は通すなだ? テメェふざけんのも大概にしろよ?」

 

 ヤクザのように警備員に詰め寄るアルチョム。それを見た他の警備員が警棒を構えてしまう。アルチョムはそれを見逃さず、警棒を構えた警備員の腕を押さえた。

 

「何してんだ、取り押さえろ!」

 

 アルチョムの制圧に取り掛かる警備員。だが、かつてロシア空挺軍で近接格闘術を身につけた大男を制圧するのは骨が折れるだろう。動きからして警備員も多少の格闘に対する心得があるようだが、どこまでアルチョムに通用するか。

 

「トレーナー大丈夫⁈」

「何してんだ! 俺がコイツらをなんとかするから先に部屋に入れ!」

「わ、わかった!」

「ええい、三対一だ!」

 

 相田トレーナーとテイオー達がドアを勢いよく開けて、裁決室に入る。室内にいた人々が一斉にこちらを見た。

 

「何者だね!」

「トレセン学園のトウカイテイオーです!」

「ウマ娘は立ち入り禁止だ!」

「関係者なんだからいいでしょ!」

「君達が関係者なワケないだろ! 出て行け!」

「マックイーンの無実が証明されるまで出て行かない!」

「トレーナーはどこにいるんだ⁈ さっさと連れ戻せ!」

「呼んだか?」

 

 ドアから堂々と現れたアルチョム。彼の後ろには床に沈められた警備員が伸びていた。

 

「なんでマックイーンが進路妨害をしたとなるんですか!」

 

 裁決室にいた背広の男達に詰め寄る相田トレーナー。すると、座っていた男の一人が口を開いた。その男は光武理事長だった。

 

「この映像を観るんだ」

 

 そういい、モニターで再生された動画。レース終盤、マックイーンが直線に差し掛かる時に内側へ一気に滑り込んだ。そのシーンで動画を停止する。

 

「この動きは明らかに進路妨害だ」

 

 だが、テイオーは明らかに腑に落ちない顔をしていた。

 

「……何が不満なんだね?」

「ホントに進路妨害? コレ」

「こういう走り方はあります! それに後ろの子とも距離あるじゃないですか!」

「マックイーンちゃんが来てもこれなら避けられるじゃん」

 

 テイオー達が口々に抗議する。確かに映像を観て、マックイーンの走りを進路妨害と考えることはできる。が、それはだいぶ悪意を持って見た場合だ。さらに言えば、このような動きはテイオーもしたことがあった。

 だが、光武理事長もこれを許せばレースの公平性が云々とご高説を垂れる。が、どこかで聞いた文言の使い回しにしかテイオーには聞こえなかった。

 なんだよこのオジサン! 走ったことも無いのにエラソーに! 

 テイオーの中でふつふつと湧き上がる怒り。

 カイチョーやトレーナーが進路妨害だ、って言うならボクも多分納得した。だってカイチョーはたくさんのレースで走ってきたし、トレーナーもたくさんの走りを見てきたから。でもこのオジサンはトレーナーでもないしターフで走ったことも無いんでしょ? マックイーンにいちゃもんつけたいだけじゃないの? 

 テイオーはマックイーンの無実をなんとしても証明したかった。

 自分の目の前であれだけがんばった大切な親友(ライバル)。そのがんばりを部外者のオジサンにとやかく言われるのが堪らなく嫌だった。

 

「これぐらいなら避けられるよ! それにボクなら入って来る前に先に行っちゃうもん!」

「しかしねぇ、我々としては君たちのレースの公平性を担保する立場にいるのだから……」

「……そんだけ言うならボクのダービーも降着でいいよ!」

「いきなり何言い出すんだ⁈」

 

 驚いたのはアルチョムだ。だが、テイオーは裁決員達に詰め寄って続ける。

 

「マックイーンの今日の走り方がダメならボクのダービーの走り方だってダメになる! ボクのダービーの映像を観て!」

 

 テイオーは近くの裁決委員に言い、ダービーの映像を再生させた。テイオーがダービーウマ娘になった今年の日本ダービー。そのレース終盤、直線に差し掛かると同時にバ群をを抜いて外から内へ駆け抜けながらリトルココンと接戦を繰り広げていた。

 

「マックイーンの走り方がダメならボクのダービーだってダメでしょ?」

「なるほど、君の言うことも一理あるがな」

 

 しかし、その映像を観ても光武理事長は納得しようとしない。相田トレーナーも必死に説得するが、議論は平行線を辿ってしまう。

 このままいたずらに時間を過ごすのか、あるいは諦めてしまうのかと思いかけたその時、裁決室にまた一人ウマ娘がやってきた。ライスシャワーだ。そういえばさっきからいなかった。ライスシャワーはある一人のウマ娘を連れてきていた。14番のブルツーナイン。マックイーンの進路妨害を受けていたとされた子だ。

 

「ねぇナインさん、さっきライスと話したこと、ちゃんと伝えて」

「あ、は、はい……!」

 

 すこしおどおどした様子のブルツーナイン。ライスシャワーはその子の手を優しく握って、話すように促した。

 

「あ、あの、確かにマックイーンさんは私の前に来ました。でも、あの速さですぐに先に行っちゃって、前が塞がれる時間はなかったです、はい」

 

 ブルツーナインは身振り手振りでマックイーンの無実を主張した。

 確かにマックイーンの動き方は進路妨害とも取れなくは無い。だが、あの脚の速さと後続との距離を考えれば進路妨害とは言いづらいものであった。また、テイオーのダービーでの動きもマックイーンより距離はあったが、進路妨害と取ることはできる。

 受け取る側の問題、とも言えなくも無いが、マックイーンの件に関しては悪意を持って解釈しなければ進路妨害には当たらない、と言えよう。

 

「……そこまで言うなら今回は不問にする。しかし、次があると思うなよ」

 

 光武理事長が折れた。

 それと同時にテイオー達は顔を見合わせて微笑む。その笑みは親友の健闘が認められたことを心から喜んでいた。

 

「マックイーンに伝えてくる!」

 

 そう言ってテイオー達が裁決室を飛び出し、相田トレーナーも続いた。だが、アルチョムは裁決室に居座ったままだ。

 

「い、いつまでいるつもりだね……?」

「さっさとビジョンに着順の確定を出せ。さっきのやりとりを口約束だ、なんて抜かしたらあの警備員と同じ目に合わせるぞ」

 

 アルチョムはドスの効いた声で倒した警備員を指差す。信用する人間としない人間がはっきり分かれる男だ。

 こういう人間は約束したことを実行するまで信用するな。アルチョムが今までの人生で学んだ教訓の一つだ。今まで何度口約束だと言われて反故にされてきたか。孤児院や学校の教師も、俺を捕まえた警官も、軍の上官や指揮官も、オリョールの連中も、俺らに命令を下した政府の連中も、どいつもこいつも信用に値しなかった。そして案の定、そいつらは約束を守らなかった。

 そしてそれは目の前にいる老いぼれ共も同じだ。実行するまで信じるな。そしてこれから先もコイツらの言動には注意を払い、怪しければ早急に対策を講じろ。テイオーやウマ娘達を守るために。

 灰色の瞳で彼らを睨みながらアルチョムはそう考えた。

 

「わ、わかった、今準備する。ったく野蛮人め

「何か言ったか?」

「何も言っとらん!」

 

 裁決室の隣、実況室でビジョンを操作し、審議終了と着順の確定が表示され、アナウンスが入る。

 

《お待たせいたしました。東京競バ場、第11レースは審議を致しましたが、着順通り確定いたします。この件は13番が内側に動いたことにより、最後の直線コースで、14番の進路が狭くなったものでありました》

 

 マックイーンの元にテイオー達が戻り、マックイーンの順位の確定と無実を伝えたと同時に聞こえたアナウンス。

 

「マックイーン、優勝おめでとう!」

 

 そんなアナウンスを聞きながらテイオーは満面の笑顔でマックイーンを祝福する。

 マックイーン、本当におめでとう。ボクがキミと親友になれてよかった。そうでなければキミの勝利をここまで喜ぶことができないから、ここまで一緒に走りたいって思わないから。

 マックイーンの手を強く握る。その手の暖かさを感じたのか、マックイーンの瞳から雫が溢れた。

 

「皆さん……、本当にありがとうございます。私のためにここまで……」

「だって嫌だもん。友達がめちゃくちゃがんばったのにそれをダメだって言われるの」

 

 その言葉を聞いたマックイーンはテイオーの手を強く握り返した。

 ありがとうございます、テイオーさん。私は貴女やメジロ家、素敵な級友の方々、そして相田トレーナー、皆さんのお陰でこの名誉を手にすることができました。

 ……この学園に入学した頃は、自分の目標は自分一人で成し遂げるものだと思っておりました。ですがそれではいずれ限界が来ます。その限界を超えて、私が今ここにいるのは皆さまのお陰に他なりません。

 マックイーンは心の中でそう考える。自分一人では決して届かなかった名誉。それに手が届いたのは私と競い支えてくれたみんなのお陰だ。なら、次は私がお返しをする番。

 そう考え、集まったみんなの一人ひとりの手をしっかり握って、まずは感謝を伝える。なぜかたこ焼き屋のユニフォームを着ていたゴルシにも同じようにしっかりと手を握る。そして次は応援してくれたファンのためにウィナーズサークルに立った。万雷の拍手と大歓声がマックイーンを祝福した。

 

「よかった。マックイーンのがんばりが無駄にならなくて」

 

 ウィナーズサークルで手を振るマックイーンと、それを見ながらホッと胸を撫で下ろすテイオー。そこへ戻ってきたアルチョム。

 

「友達の為に一生懸命になれた結果だ。テイオーも胸を張っていい」

「そうだね、でもやっぱりボクは1着になって胸を張りたいな」

「どっちとも胸を張りゃいいさ。どちらも同じぐらい誇るべきことだと俺は思うぞ」

「へへっ。ありがと、トレーナー」

 

 マックイーンとテイオー、二人の笑顔が輝いていた。

 

 






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