元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました   作:武装田んぼ

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第26話 意志を受け継いで

 

 

 テイオー達の活躍もあり、マックイーンはついに天皇賞の春秋連覇を果たした。

 だが、アルチョムには一つ気になることが。マックイーンに進路妨害疑惑をかけた光武現URA理事長のことだ。なぜいきなりマックイーンの走りに文句を付けたのか。

 いくらか調べるとある雑誌の記事が出てきた。メジロ家の大奥様と過去に因縁があったとのことだ。URAの方針を巡って対立し、最終的に理事会の委員であった当時の光武理事長が折れたとその記事には書いてあった。その時に出来た派閥は今もURA内を二分しているともその記事には書いてある。

 

「派閥争いにガキ巻き込むんじゃねぇよ老いぼれが……」

 

 深いため息をついて、吐き捨てるようにぼやいた。金を持った組織の上層部はいつもこれだ。ただでさえパンパンの財布にまだ金を入れようとする浅ましさにはうんざりだ。結局オリガルヒみたいな連中じゃないか。

 そんなことを考えながら光武理事長についてまた調べていく。彼はURAは財政改革や、経費における無駄の削減を訴えていた。その内容はアルチョムもある程度納得がいくものであり、派閥云々を省けば多少は光武理事長の姿勢も理解できる。が、理解できるだけであり、賛同するしないはまた別の話だ。

 一通り光武理事長について調べたあと、トレセン学園に向かった。今日も今日とて、テイオーのリハビリとトレーニングだ。トレーナー室に向かっていると、乙名史記者に遭遇した。

 そこでアルチョムは半ば興味本位で光武理事長について尋ねてみる。検索では出てこない情報も持っているかもしれない。

 

「お久しぶりです、乙名史さん。今日は何の用事が?」

「お久しぶりですアルチョムトレーナー。今日は見事天皇賞秋を制し、春秋連覇を成し遂げた相田トレーナーとマックイーンさんの取材です。あ! もしよろしければあなたとテイオーさんの復帰とシニア級に向けた話を伺えたら嬉しいのですが……」

「構いません、相田さんの取材の後にでもどうぞ。そのかわりと言っちゃあれですがいくつかあなたに聞きたいことがありまして」

「ええ、なんなりと」

「光武理事長についていろいろ聞きたいことが……」

 

 そしていくつかの情報をアルチョムは手に入れた。

 元々は文部科学省のキャリア官僚であり早期退職後にURA側からの招き入れと言う形で理事委員会に就任した。その後、官僚時代から長らく懇意の仲であった熊谷大臣の推薦もあり、理事長に就任。URAに来たのも熊谷大臣との関係が少なからず影響していると言われる。

 熊谷大臣……。いつぞやの夏合宿で視察にきた奴か。

 さらに聞いた情報としてメジロ家の大奥様に加え、トレセン学園の先代理事長とも対立があり、秋川やよい理事長のこともあまり快く思ってないとの話も聞けた。彼はトレセン学園の運営にも干渉しており、あくまでもトレセン学園の独立性を重視する先代理事長とやよい理事長に対し、光武理事長は国からの助成金を受け取っている以上文科省、ひいては国の意向を強くカリキュラムなどに反映すべき、という意見を持っていた。ちなみに熊谷議員も似たような意見を持っていると言う。

 そしてこれらの話は口外厳禁だと乙名史記者より釘を刺されたが。

 

 一通りの情報を得たアルチョム。なんとなく事情は察した。だが、それと同時に湧き上がる疑問。なぜ熊谷大臣がここまでURAとトレセンに介入してくるのか。確かに彼は内閣特命担当大臣ウマ娘共同参画担当ではあるが、URAはそもそも文部科学省所轄の特殊法人であり、現に光武理事長は文科省のキャリア官僚出身だ。それ以外の理事委員会メンバーにも文科省出身の人物は少なくない。なら、文科大臣の影響が強くなるようにも思えるが……。

 再びアルチョムはインターネットで検索をする。するとこんな情報が出てきた。どうやら現職の文科大臣政務官は熊谷大臣をトップとする与党タカ派、仁松会のメンバーであり、特にURA関連の政策において政務を担当しているようだ。

 

「こんな奴らが牛耳ってんのかよ、反吐が出る」

 

 政務官の顔触れが並ぶニュースサイトを見ながら愚痴をこぼす。組織内の派閥対立がここまで影響を及ぼすとなると、いつテイオーが何らかの被害を被るかわかったものではない。

 テイオーの骨折や目標でこの前まで頭を抱えていたが、それらは最終的に自分達で解決すべき問題だ。だが、URA上層部や官僚が関わってくると話が違う。何らかの問題がこちらに降りかかってきた時、こちらにできることはほとんどない。もちろん、交渉や何やらはあるが、あっちはその気になれば紙ペラ一枚で気に食わない人間の首をすげ替えることができる。そうなればこちらは手詰まりだ。

 頭が痛くなる話だ。組織にいる以上、上層部の意向に従わなければならないのは今までの人生で痛いほど学んできた。特に軍隊や民間軍事会社なら、上層部への絶対服従は当然だ。

 だが例外はある。今の俺が優先すべきはテイオー達ウマ娘だ。上層部がウマ娘の不利益になるようなことを行おうとするのであれば、たとえそれがどんなに組織にとって有益であろうと阻止しなければならない。が、それは上層部や場合によっては官僚との対立を意味する。そうなれば大ごとになるのは必須だ。それがどれだけ面倒かは想像するだけで気が滅入る。

 今はとりあえず、上層部が〝良識ある判断〟を下すことを祈ろう。あまり期待できないが。

 そんなことを考えながらニュースサイトを閲覧していると、トレーナー室のドアが元気に開いた。

 

「トレーナー、おはよー!」

 

 元気いっぱいのテイオーが現れた。

 

「どうしたの? 考え事?」

 

 タブレットを見ながら悩ましげな顔をするアルチョムをテイオーが不思議そうに見る。

 

「まあな。テイオーには関係ないから安心しろ」

「ふーん、ならいいけど」

「さ、トレーニング始めるぞ。まずは昨日話したこのトレーニングだ」

 

 テイオーにタブレット画面を見せてトレーニングの内容を説明していく。

 今はテイオーを万全の状態で復帰させるのが優先だ。ただ万が一、連中のくだらない面倒事に巻き込まれそうになったなら、秋川理事長あたりに協力してもらおう。ウマ娘を守るためなら、秋川理事長も喜んで協力してくれるはずだ。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 トレセン学園のカフェテリア。

 秋の限定スイーツが並ぶテーブルとそれを満面の笑みで頬張るマックイーン。

 

「相当ガマンしてたんだね、マックイーン」

「ええ、ホントにこの時を待ち侘びてましたわ……。秋というのは罪な季節です」

 

 洋梨のタルトを口に運び、それをゆっくり味わうマックイーン。その幸せそうな笑顔を見ているとこっちまで笑顔になる。

 

「マックイーン、そのタルト一口ちょうだい」

「もう、今回だけですわよ」

 

 そんなことを言いながらいつものようにフォークで一口切り取ってテイオーの口に運ぶ。

 

「おいしいね、これ! ボクもこっちにすれば良かったかな?」

「もう、テイオーさんったらキタちゃんやダイヤさんもいるんですから口にクリームをつけたりしないてくださいまし」

 

 そう言われて慌ててスマホの画面で顔を確認するテイオー。口の左側にカスタードクリームが付いている。

 

「うぇ、ホントについてた……」

「そういえばキタちゃんもこの前ご飯粒つけてたよね」

「ダイヤちゃん今それ言うの⁈」

 

 テイオーとキタサンブラックが二人して恥ずかしそうに笑い、それにつられてマックイーンとサトノダイヤモンドも笑った。

 よかった、マックイーンがこんなに幸せそうで。でもあれだけ頑張っていたんだからトーゼンだよね。ずっと走り込んで、ずっとスイーツガマンして。それでやっと掴んだ天皇賞春秋連覇だもん。嬉しくって嬉しくって仕方ないよね。ボクだって絶対そうなるし。

 マックイーンの笑顔。でもあの時、マックイーンの降着が決まっていたら絶対に見れなかった。それだけでも、あの時ちゃんと進路妨害は違うって言えてよかった。

 今思い出すと、あの時警備員が立ち塞がった時は少し怖かった。もちろん、こちらはウマ娘だ。相手が成人男性だろうと力で倒せるが、そんなことすれば間違いなく退学だ。ああいう時はトレーナーが頼りになる。そしてみんなで抗議して、マックイーンの降着を取り消した。親友の努力を目の前で否定されるのは本当に腹が立つ。ましてや相手は部外者だ。どんなに偉い人でも、テイオーはそれを許せなかった。

 みんなで一通り笑い合ったあと、サトノダイヤモンドが少し真面目な顔で口を開く。

 

「でもホントによかったですね、マックイーンさん。あの時降着にならなくて」

「ええ。でもあれは私の走りが疑いをかけられてしまうような走りであったとも言えます。次から改める点かもしれません」

「マックイーン気にし過ぎだよ。どう考えてもあのオジサンの言いがかりだよ」

「そうですよ、マックイーンさんは何も悪くありません。あの理事長が変なだけです!」

 

 口々に光武理事長の文句を言うテイオーとキタサンブラック。

 マックイーンもあの後、お婆さまからいろいろ話は聞いた。光武理事長とメジロ家の対立を聞いた時は怒りや哀しみではなく、ただただ呆れたのを覚えている。

 でも、その話を聞いて呆れるだけで済んだのはみんなのおかげである。もしあの時、あのまま審議が終わってしまったら、そして対立の話を聞いてしまったら、自分は確実に塞ぎ込んでいただろう。紅茶を啜りながらそんなことを思う。このようなことに巻き込まれるのは名家の出であるが故……。と考えるがそれでも納得は難しい。努力の結晶を大人達の事情で打ち砕かれたらたまったものではない。

 ……もしテイオーがこういった騒ぎに巻き込まれたら、私はテイオーと同じように行動できるだろうか。そんな疑問が浮かぶ。ただ、目の前で友達の努力が否定されるのを黙って見過ごすことはできない。それだけは絶対に譲れないことだった。

 

「皆さま本当にありがとうございます。あの時、テイオーさんが言ったボクがなんとかしてみせる、と言う言葉はあの時強い支えになりました」

 

 そうしてテイオーに改めてマックイーンは感謝を伝えた。

 

「えへへ、そう言われたら照れるなぁ。でもボクは当然のことをしただけだよ。だってあのまま降着なんてゼッタイにおかしいって思ったからだし」

「おかしいことをちゃんとおかしいと言えるのは素晴らしいことですわ。あの時、私だけでしたらあのまま降着が決まっていたかもしれません」

 

 テイオーの行動力にまた自分は助けられた。マックイーンはそんなことを考える。いざというときに、メジロのウマ娘としての体裁や面子といったものを意識してしまうことは今でも珍しくない。それはそれで大切なことだが、意識しすぎて為すべき行動を起こせなかったら元も子もない。

 

「私もテイオーさんの行動力を見習うべきかも知れませんね」

「お、いいねぇ〜。マックイーンもボクみたいなウマ娘を目指しちゃう?」

「でもそうやってすぐ調子に乗ったり、後先考えず行動するところはいただけませんわね」

「うぇ⁈ せっかくキタちゃん達の前でいいカンジになってたのにぃ〜」

 

 ティーカップを持ちながら軽く落ち込むテイオー。気分と一緒に耳がぺたりと倒れる。

 

「でもマックイーンさんのためにすぐ動いて偉い人の前でも物怖じせず、ちゃんと言いたいことを言えるのはホントにすごいと思います!」

「そうですよ。あんな偉い人ですからその気になれば私たちを退学にだってできるんですよ?」

 

 サトノダイヤモンドが少し怖がるように言う。

 

「……! そういえばそうだね! あのオジサンURAの理事長だったし」

「……もしかして今初めてそのことに気づきました?」

「あはは〜」

 

 もしやと聞いたマックイーンの質問に図星なのか、テイオーは照れ臭そうに頭を掻いた。

 

「まあ、でもヤバい時はトレーナーがなんとかしてくれるって思っていたし」

「トレーナーさんを信頼するのは構いませんが、あの方にも限界はありますわよ?」

「でもテイオーさんのトレーナー、いざと言う時にはものすごく頼りになりそうですよね!」

「そういえば昔軍隊にいたのでしたっけ?」

「うん、ロs……アメリカ軍にいたんだって!」

「アメリカ軍だよね……?」

「そう、アメリカ軍!」

「まあ、フィジカル面では頼りになりそうですわね」

 

 一瞬何かを誤魔化したようにも見えたが、気のせいだろう。トレーナーを良く信頼するテイオーを見ながらキタサンブラックは考える。

 テイオーさんはあの時、すぐに動揺するマックイーンさんの元へ行って手を握って安心させた。マックイーンさんを見るあの瞳は今でも覚えている。マックイーンさんの潔白を確信し、その努力を無駄にしない。そんな意志が強く伝わってきた。その姿は不思議とレースで走る姿よりカッコよかった。でもその理由はわかる。

 親友のために全力で行動する姿がカッコ悪いわけが無い。そして相手が誰であっても親友の為に正しいと思ったことをハッキリ伝える。

 文字に起こせば簡単だが、実行するのは決して楽じゃない。むしろ実行できないことがほとんどだ。それでもテイオーさんはやってのけた。あの時、自分がテイオーさんと同じ状況に置かれたらそれができるだろうか。正直、同じように動ける自信が持てなかった。

 その時、キタサンブラックのテイオーを見る目が変わった。今まで自分がテイオーさんに憧れていたのはターフの上を走る姿がカッコよかったから。でも、天皇賞秋の出来事でそれは変わった。

 親友の為に全力で行動する姿。理想的な姿だしみんな素晴らしいと口にするが、それを行動に移せる人間は少ない。だからこそキタサンブラックの新たな憧れとなり目標となる。

 ターフの上でどれだけ強くても、友達のピンチに何も出来なければそれは強いウマ娘とはいえない。それに〝お助けキタちゃん〟を自負しているのだ。いざと言う時に動けなければ名前負けもいいところだ。

 

「そういえばあのあと聞いたのですが、マックイーンさんのメジロ家と光武理事長はあまり仲がよろしくないと……」

 

 サトノダイヤモンドが巨峰のケーキを食べながらマックイーンに聞いた。

 

「……ええ、お恥ずかしながら。お婆さまとURAの方針を巡って過去に対立があったと」

「ええっ⁈ それ酷くない⁈」

「そうです! ありえませんよ!」

 

 テイオーとキタサンブラックが怒りを露わにする。当然といえば当然だ。ただ、当のマックイーンは怒りより呆れているようだ。

 しかし、それとは対照的にマックイーンの言動は常にメジロ家を意識しているようだった。それはメジロ家と言う名家を受け継ぐウマ娘として当然のことである。サトノダイヤモンドも同じだ。サトノ家と言う家系にウマ娘として生まれ、一族の宿願たるG1制覇という大役を担う彼女。

 そんな彼女の憧れはメジロマックイーンだった。いつか自分もサトノ家を背負ってG1レースの舞台に立つ。その夢の為に、親友のキタサンブラックと共に幼い頃からトレーニングを重ねてきたのだ。とはいえ中身はやはり年相応の少女であることは変わりない。悩みだってあったし嫌になることもあった。

 だがそれは、マックイーンと言う存在によって少し変化が生まれつつあった。マックイーンは古いしきたりに囚われず自分なりのやり方でメジロ家を受け継いでいこうとしている。それは他のメジロ家のウマ娘も同じだ。ありきたりな話といえばそうだが、なかなか気付けないのが人間だ。サトノダイヤモンドもマックイーンの姿を見て初めて気付かされた。

 なら自分も自分のやり方を見つけよう。ジンクスを破り、G1制覇のために。

 サトノダイヤモンドは心の中で静かに思った。

 お茶会の話題はいつのまにか光武理事長の話からウマスタでバズった投稿の話になっていた。

 

「ねぇ観てこれ!」

「まあ!」

「ありえなくないですか、それ!」

「そういえばこんなのもありましたよ?」

 

 サトノダイヤモンドもウマスタを開いて気に入った投稿を表示してみんなに見せた。

 

「良くないですか、これ? この前見つけてすっごい可愛くて!」

「あーっ! めっちゃかわいいね、それ!」

「いいなぁ、ボクもそれやってみたい!」

「いいですわね。準備も簡単そうですし、お時間ある時にやりましょう」

 

 秋の穏やかな午後、ウマ娘達のお茶会は賑やかに続いていく。

 

 






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