元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました 作:武装田んぼ
「「トリックオアトリート!」」
「はいよ」
元気な掛け声と共に放課後のトレーナー室に現れたテイオーとマックイーン。
この日、近くの商店街ではハロウィンイベントが行われており、多くのウマ娘がイベントを楽しんでいた。が、アルチョムからすればはっきり言ってどうでもいいイベントであり、トレーナー室で事務処理をしていた。
「トレーナーも楽しもうよ!」
赤ずきんの格好をしたテイオー。隣にいるマックイーンは魔女の格好だ。似合ってるな、かわいいぞ、となんともテンプレートな感想で反応するアルチョム。テイオーはかなりつまらなさそうだ。
「トレーナーノリ悪過ぎない?」
「……まあ、こういうイベント事に積極的に参加するお方には見えませんわね」
「まあいいや、お菓子は?」
「え? お菓子?」
ハロウィンといえばお菓子だが、あまり甘いものを食べない彼は何も用意していなかった。ダメ元でデスクを開けて見るがこれといって目ぼしいものはない。せいぜい開封済みのミントガムぐらいか。
「ガムならある」
そう言いデスクの上に置いたガム。
「ガムだけ?」
「何も無いよりマシだろ」
見るからに残念そうなテイオー。するとまた扉が開き、次に現れたのはマヤノとナイスネイチャ、マーベラスサンデーの3人。
「トリックオアマーベラース!」
「アルチョムさん! お菓子くーださい!」
「悪い、ガムしかない」
そう言い指差したデスクの上のガム。開封済みだし、広げられた粒は4つしかない。
「足りないじゃん」
「テイオーちゃんこれイタズラしなきゃ」
「まさか本当にイタズラすることなんてあるのね」
「じゃあ何する? マーベラスなイタズラ?」
適当に用意しとけばすぐ追い払えたのに。そう後悔してももう遅い。イタズラモードに入った彼女達を止める手段はすでに失われた。
「じゃあトレーナーにコスプレしてもらおう!」
「待ってくれふざけるな」
「用意しなかったアルチョムさんが悪いんだよ?」
「おいネイチャ、コイツらを止めろ!」
だが、ネイチャはネイチャでどこからともなくトレセンの制服を取り出した。
「ネイチャさん、こんなもの持ってるんですよ」
最悪だ。咄嗟に窓の方をみるアルチョム。ここは三階、下は石畳の通路。飛び降りるにはリスクが高すぎる。次に思いついたのは扉から逃げる方法。だが、テイオー達の間を抜け、ウマ娘の追跡を振り切ることができるか? 不可能では無いがこれもリスクが高い。次なる手段は交渉だ。こちらがある程度譲歩する姿勢を見せ、交渉のテーブルにつかせる。その上で相手側の譲歩を引き出すのだ。そうだ、これで行こう。双方の合意で解決に導けるならば、それより素晴らしいことがあるか。
「なあ君たち、少し待っていてくれたら沢山甘いモン買ってきてやる。それならいいだろ?」
「お菓子より制服着たトレーナーの方が面白い!」
「ほらアルチョムさん早く早く」
「トレセンの制服はマーベラスだから誰でも似合う!」
交渉は決裂した。彼女らの目的はすでに制服をアルチョムに着せることとなっており、そこに譲歩という単語はなかった。
一縷の望みをかけてマックイーンを見るアルチョム。
「セーラー服というのは水兵の制服が元であると聞きました。殿方が着てもおかしくありませんわね」
マックイーンは笑顔でそう答えた。
「Fu◯k」
教育者という立場からみて、禁句とも言える捨て台詞を吐く。だが、そんなのはお構いなしと手渡されるトレセン学園の制服5Lサイズ上着。
普段から見慣れている制服だが、実際に手に取ってみると良い肌触りに高い伸縮性、また冬服であるためかそれなりの保温性があり、着る人間のことをよく考えて作られた制服であると感心する。
そして渋々上着を着用した。
笑い転げるウマ娘達とただ無言のアルチョム。もし拳銃があれば、彼は確実に自分の頭を撃ち抜いていたであろう。なお、写真は絶対に撮らせなかった。
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「だからそれ意味ないって前も言ったじゃん!」
「え? コイツじゃないのか?」
「だーかーらー!」
トレーナー室から聞こえる声はやいのやいのと元気だ。そこへたまたま通りかかったマックイーン。
「あのお二方、またケンカしてますの?」
テイオーとアルチョムが骨折の後にケンカしたのはマックイーンも知っていた。またケンカしてるのでは? そんな心配がふと浮かぶ。あまり介入するのはどうかと思いつつも、ケンカをただ放置しているのは気分が悪い。様子見、と思いドアをノックして少し開ける。
「落とし穴が効かないって話じゃなかったのか?」
「それはナルガクルガ! 今やってるのはジンオウガでしょ」
「あれ、そうだっけ」
「こんなバチバチしてるヤツが痺れるワケないじゃん」
「言われてみりゃそうだな」
マックイーンが見たのはゲーム機を持ちながら協力プレイする2人の姿。心配して損したかも、と思いつつなんだかホッとする。
「あら、ゲームをしてましたの?」
「あ、マックイーン! ねぇ聞いてよ、トレーナージンオウガ狩りに来たのにシビレ罠持ってきたんだよ? ひどくない?」
「そう申されましても、私もあまりそのゲームには詳しくないもので……」
「トレーナーが意味のないアイテム持って来たって話」
「テイオーさんの言いたいこともわかりますが、ただのゲームじゃないですか。大目に見たらどうです?」
「まあそうだけどさぁ」
そんなやりとりをしながら、マックイーンはテイオーの持っている携帯ゲーム機を覗き込む。
テイオーの操作キャラが太刀を振り回してモンスターを次々と斬りつける。その横で、アルチョムの操作キャラはヘビィボウガンをドカドカ連射しながら的確に弾丸をモンスターの頭部に叩き込んでいた。
「案外面白そうですわね」
「お、マックイーンもやる?」
「いえ、今は見てるだけで良いですわ」
テイオーの操作キャラが画面の中を所狭しと飛び回り、モンスターの上にしがみ付いて強烈な斬撃をお見舞いする。深手を負ったのか、大きく怯んだモンスターはその場で転んだ。
「落とし穴仕掛けるからトレーナーは麻酔弾用意して」
「あいよ」
そのまま鮮やかに捕獲成功。クエストクリアだ。
「とりあえずケンカではないようでよかったですわ」
「マックイーンも心配性だなぁ」
「あの時のお二人は見ていられませんでしたわ」
「余計な心配をさせてしまったな。すまない」
「お二人がいつも通りなら、それで十分ですわ。ところでお二人はトレセン学園の校則に、勉学に不必要な物の持ち込み禁止はご存知ですよね?」
トレセン学園とて学校であることに変わりはなく、基本的にフリーダムな生徒ばかりだが、やはり守らねばならない校則は少なくない。そしてその内容も一部を省いて一般的な中学高等学校と大差ないものだ。そうなればもちろん、携帯ゲーム機などの持ち込みは禁止となる。
二人はその瞬間、いたずらがバレた子供のような顔でマックイーンを見る。
「そんな顔しないでくださいまし。別に何か言うつもりはありませんわ。ただ、他の先生方に見つからないよう気をつけてくださいね」
そう言い、マックイーンはではごきげんよう、と部屋を後にする。よくよく考えるとテイオーがゲーム機を持ってくるのはともかく(それでも校則違反であることに変わりはないが)、アルチョムもゲームをプレイしているのはその立場を考えると流石に問題と言わざるを得ない。
「テイオー、間違っても俺がやってたなんて言うなよ」
保身に走る男、アルチョム・ルイシコフ。
「言わないよ。大丈夫だって」
「ならいい」
「だからはちみー買って」
「なんで」
「じゃあ樫本代理に言っちゃうよ?」
「なんか言われたらテイオーのこと言うからな」
「でもトレーナーはもっと怒られるじゃん」
「チッ」
テイオーが樫本代理にこのことを話せばアルチョムは確実にテイオーのことも喋る。無論、その逆も然りだ。どちらかがどちらかをチクればお互いに破滅を招くことになる構図が完成する。これはミクロな規模であるが相互確証破壊と言えるだろう。
それから数日後。
「ねぇトレーナー! 見て見て!」
トレーナー室の扉を元気に開けて現れたテイオーは一枚のイラストをアルチョムに見せる。
「なんだこれ」
「新しいボクの勝負服!」
そこに描かれたイラストには冒険者のようなワイルドな格好が載っていた。
「腹出しすぎじゃねぇか?」
「タイキシャトルだってこんな感じだよ?」
「そうなのか?」
そう言われたテイオーはスマホを取り出してタイキシャトルの写真を見せる。非常に魅力的な勝負服に身を包み、コルト・シングルアクション・アーミーを構えるウマ娘が写っている。それはまるで一昔前のアメリカ映画に出てくる金髪美女のような見た目だ。
つい見惚れてしまうアルチョム。
「……いいねぇ」
「トレーナーどこ見て言ってる?」
これだからおっさんは、と言いたげなジト目でアルチョムを見るテイオー。それに気づいたアルチョムは咳払いをしてテイオーが持ってきたイラストを手に取る。
「いいんじゃないか。カッコいいと思うぞ」
「じゃあもう少しブラッシュアップしたいから意見ちょーだい」
それからしばらく、テイオーの新しい勝負服の案を煮詰めていく。カラーリングやアクセサリーなど、アルチョムはいくつか意見を出したが結局テイオーが最初に出した原案とほぼ同じ状態でデザイナーにお願いした。
唯一、テイオーが受け入れた提案は胸元に飾られた薬莢のアクセサリーだった。
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