元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました   作:武装田んぼ

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書き溜めが尽きました。しばらく更新頻度がアホみたいに低下します。申し訳ありませんが気長にお待ちください。



第28話 日本一のウマ娘

 

 

 十一月下旬。

 ついに迎えたジャパンカップ。

 会場である東京競バ場の控室の中でスペシャルウィークは静かに息を整えていた。

 そして思い出すのは今までの努力。北海道から上京してきて、一生懸命に夢に向かって走った思い出。そんな3年間の集大成が去年のジャパンカップ優勝だ。

 あの凱旋門賞でエルコンドルパサーを破り、フランスからはるばる来日しジャパンカップに挑んだブロワイエに一歩も譲らず終始押し切っての勝利。

 その勝利に日本中が沸いたのは今でもよく覚えている。トレーナーさんもお母ちゃんも、スズカさんもみんなみんな応援してくれて、私はそれに精一杯応えた。そして掴んだ勝利は〝日本一のウマ娘〟にふさわしい最高の勝利だった。

 だから今日も、みんなの期待に全力で応える。日本一のウマ娘としてもそうだけど、それ以上にトレーナーさんやお母ちゃん、そしてこれからも一緒に走るみんなの嬉しそうな顔が見たいから。そして、私に想いを託す全ての人に感謝の気持ちを伝えたいから。

 勝負服を入念にチェックし、鏡の中の自分と目を合わせる。

 

「うん、バッチリ」

 

 するとドアがノックされた。

 

「はいどうぞ」

「お邪魔するわね」

 

 ドアから現れたのはサイレンススズカだ。

 

「スズカさん!」

「スペちゃん、今日もバッチリ決まってるわね」

「はい!」

「うん、緊張し過ぎてることもないようで良かった」

「全然緊張してないワケじゃないですけどね。でも大丈夫です! 今日も全力で走れます!」

「適度な緊張状態が最高のパフォーマンスを引き出せるなんて言うから、その様子なら今のスペちゃんは最高の状態かもね」

「そうですね! 私の走り、見ててください!」

 

 張り切るスペシャルウィーク。その瞳は自信に満ち溢れている。そんな様子を見て、スズカは初めてスペシャルウィークと出会った時の真っ直ぐな瞳を思い出す。それからは寮でルームメイトとして、チームメイトとして共に走ってきた。去年、アメリカへ留学すると伝えた時かなり動揺していたが、戻って来た時は見違えるほど成長していた。その嬉しさを我が子のことのように感じたのを思い出して微笑む。そしてそれからも彼女は真っ直ぐに努力を続け、今も走っている。その姿を見るたびにスズカはパワーをもらっていた。

 ……この様子なら、心配はしなくて良さそうね。レース前にいつも心配していたあの頃がウソみたい。でもそれは、スペちゃんが努力を重ねて夢を掴んだ証拠。少し寂しく感じるけど、それ以上に嬉しい。だから私は優しく背中を押してあげる。

 

「ええ、しっかり目に焼き付けてさせてもらいますね」

 

 そうやって笑い合っていると、また一人、控室に入ってきた。沖野トレーナーだ。

 

「いいぞスペ! その様子なら絶好調だな!」

「トレーナーさん!」

「いいかスペ。去年も似たようなこと言ったけど、とにかくレースを楽しんでこい! 好きに走ってこい! それがスペの強さを一番引き出せる。いいな?」

「はい、もちろんです! 全力で楽しんで来ますっ!」

 

 任せてください、と言わんばかりに胸を張る。その姿からは、日本総大将にふさわしい貫禄を感じ取れた。

 

「おっと、そろそろパドックに向かった方がいいぞ」

「はい、じゃあ行ってきます!」

 

 二人にお辞儀して元気よくパドックに向かっていくスペシャルウィーク。その後ろ姿を見て沖野トレーナーはしみじみと彼女の成長を感じていた。

 トレセンに来たばかりの頃は本当におっちょこちょいで危なっかしかった。見ていて不安になることも少なくなかった。それが今はどうだ? あの背中。あの足取り。日本一のウマ娘にふさわしい、堂々たる後ろ姿。……まあ未だに危なっかしいところはある。だがそれでも俺は、スペシャルウィークは立派なウマ娘に成長したと断言できる。

 それは彼女がこちらの指導を真剣に学んでくれたことの証左であると同時に、彼女自身の才能と努力の賜物だ。

 

「……ホント、いつの間にかあんなに頼もしくなっちまってな」

「でも、あの真っ直ぐな瞳はずっと変わりませんね」

 

 そう言い、スズカと沖野トレーナーは顔を見合わせて笑った。

 

「では、私たちは関係者席の方へ行きましょうか」

「ああ」

 

 

 ────────────────────────

 

 

 関係者席に座り、物足りなさそうな顔でコーラを飲むアルチョム。テイオーはキタサンブラックと一緒にターフを眺めながらレースの始まりを心待ちにしていた。

 アルチョムは今回も懲りずにビールを買おうとしたら、テイオーとキタサンの二人から尻を蹴られ、ホットドッグとフライドポテトを買わされる羽目になった。

 

「……いいじゃねぇかよ、スポーツ観戦って言ったら酒だろ」

「トレーナー自分の立場わかってる?」

「わかった上で言ってる」

「余計にダメじゃん。たづなさんと樫本代理に言うよ?」

「すぐチクろうとすんな、勘弁してくれ」

 

 小さくため息を吐きながらコーラを飲む。帰ったら飲もう。そう考えながら前に広がるターフを見た。太陽に照らされた芝が青々と輝き、優駿達の晴れ舞台を待っている。

 その灰色の瞳に翡翠の晴れ舞台を映しながら、アルチョムは去年のジャパンカップの様子を思い出していた。ブロワイエの走りは圧倒的だったが、最後まで譲らずに押し切ったスペシャルウィークの走りは今でもよく覚えている。 

 あの時は〝日本一のウマ娘〟というのを見せつけられたようなそんな気がした。

 そしてあの会場の興奮。テイオーがダービーを獲った時と勝るとも劣らない大歓声とその歓声に笑顔で応えるスペシャルウィーク。

 だからこそ心の底から感動し、いつかあの場所にテイオーを立たせてやりたいと思った。立たせてやるなら、それは来年だろう。テイオーの憧れているシンボリルドルフが制したのなら、テイオーも出走を望むはずだ。

 なら、俺にできることは何か。すでにアルチョムの予定表には春シニア三冠に向けたトレーニング予定は大まかではあるが組まれていた。後の細かい点はテイオーと相談しながら決めることになる。その後は夏合宿を経て秋へ。おそらくテイオーは秋シニア三冠も狙うだろうから、ジャパンカップはその過程で出走するであろう。そしてジャパンカップを制すれば後は有マだ。この有マはテイオーにとって非常に重い意味を持つ。

 ウマ娘の競技人生において一区切りと言われる3年目。もちろん、その後もアスリートとしての道は続いていくが、その3年目の有マが持つ意味はアルチョムも重々理解していた。

 だがその有マに出走させるためにもジャパンカップは何としてでも勝たねばならないだろう。そのためにも、今日のレースをよく観察し、徹底的に分析する必要がある。ドローンでも飛ばせたら良いが、レースの妨害になるようなことはできない。

 あれこれ考えていると、テイオーがこちらを覗いてきた。

 

「トレーナーどうしたの? 難しそうな顔して」

「ん? ああ、来年はテイオーが出走するかもしれないからな。しっかり見ておかねばと思った次第だ」

「そういえばカイチョーもジャパンカップで勝ったんだよね。なら、ボクもここで勝たなきゃ!」

「ああ、その調子だ。来年勝つためにテイオーもしっかり見とけよ」

「うん、もちろん!」

 

 キタサンと並んでターフを見るテイオー。二人の尻尾が仲良く揺れている。ふとテイオーがスマホを取り出して時間を見た。

 

「そろそろスペちゃんパドックに出てくるかな?」

「そういえば時間もうすぐですね」

「ねぇトレーナー、ボク達スペちゃんの応援に行ってくるね」

「おう行ってこい」

「じゃあ行こ、キタちゃん!」

「はい!」

 

 テイオーとキタサンはパドックの方へ向かって行く。そんな様子をぼうっと眺めていると、後ろから声がかけられる。沖野トレーナーとスズカが現れた。

 

「ようアルチョムの旦那、久しぶりだな」

「どうも、沖野トレーナーにスズカさん。今日のスペシャルウィークはやってくれそうか?」

「もちろん。何の心配も無いさ」

 

 そう言い、ゲートの方を見る沖野トレーナー。そのウマ娘をひたむきに信じる瞳はトレーナーの理想とも言える。そんな沖野トレーナーの横でスズカは静かにターフを眺めていた。

 

「ところでスズカ、さっきみんな地下バ道の方へ行ったが君は行かなくていいのかい?」

「もうスペちゃんとは話してきました。私の想いはちゃんと伝えたので大丈夫です」

 

 そう言い、にっこりと微笑むスズカ。彼女のスペシャルウィークへの信頼がよくわかる。

 

「そりゃ何よりだ。そういえばスペシャルウィークが遅くまで走り込んでいるのは何度も見た。思わずエールを送りたくなるような姿だったよ」

「ああ。スペは真っ直ぐに努力して真っ直ぐに勝負するからな。だからみんな惹かれるんだ」

 

 そう言い、沖野トレーナーはアルチョムの隣の席に座る。

 

「でも、それはそちらのテイオーだって同じに見える」

 

 それから沖野トレーナーは自分がテイオーを担当していたらと想像したことを話した。アンタみたいに上手く導いてやれる自信がない、もしかしたら、あの子が夢や希望を何度も諦めることになるかもしれない。そう考えると、あの時の選抜レースはテイオーにとってまさにターニングポイントであったのだろう。

 そう語る沖野トレーナー。だが、それはアルチョムも同じだった。正直、ダービーまでが上手く行きすぎただけかもしれない。そう考えることは少なくない。それでもテイオーが望む限り、テイオーが夢を追い続ける限り、あらゆる手段を講じるつもりだ。そしてその時に手段を選ぶつもりは無い。

 

「そう考えてるのはこっちも同じだ。あの骨折の後、またどこかでテイオーの夢を潰してしまうんじゃないかと不安になる。ただ担当として組んだ以上はあらゆる手段を尽くしてその夢を叶えてやる。それがトレーナーの責務だと。そう考えてテイオー向き合うだけだ」

「アンタみたいなトレーナーと組めてテイオーは幸せ者だな」

「沖野トレーナーのチームスピカには敵いませんよ」

「言ってくれるねぇ」

 

 例え今の状況が偶然であろうと必然であろうと、担当の為に自分ができること、やるべきことをやるしかない。トレーナーはその為の存在だからだ。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 地下バ道。

 

「スペちゃーん!」

 

 エルコンドルパサーが元気よく駆けてくる。その後ろにはグラスワンダー、セイウンスカイ、キングヘイロー、ツルマルツヨシも一緒だ。

 

「去年のような走り、期待してマース!」

「スペちゃん、緊張してるかもしれませんが焦らず落ち着いて挑めば必ず勝てますからね」

 

 そう言ってグラスワンダーは優しくスペシャルウィークの手を取る。

 

「そうそう、私みたいにの〜んびりと構えてね」

「スペさん、一流の勝利を手に入れたいなら、あまりスカイさんの言うことを参考にしちゃダメよ」

「もう、キングちゃんったら〜」

 

 いつものように愉快な彼女たち。そんな様子を見るといつもやる気を貰える。

 

「スペちゃん、今日は私たち走れないけど、その分全力で応援するからね! だから私たちの応援に負けない走りを見せてねっ!」

 

 ツルマルツヨシがスペシャルウィークの手を強く握って激励した。

 

「うん、みんなありがとう! 日本一のウマ娘として、全力で走ってくるね!」

「あ、スペちゃんいたいた!」

 

 現れたのはテイオーとキタサンだ。

 仲良く手を振りながらスペシャルウィークの元に寄る。

 

「テイオーさんとキタちゃんも来てくれたんですね!」

「トーゼンじゃん! 日本総大将、期待してるよスペちゃん!」

「スペシャルウィークさん、去年のようなカッコいい走り、ぜひ見せてください!」

「ありがとうございます! やります、けっぱります!」

 

 みんなの応援。大切な親友(ライバル)たちの応援ほど心強いものはない。

 みんなに見送られ、堂々とターフに向かうスペシャルウィーク。その背中にみんなの想いをのせて歩く姿をテイオーは静かに見送る。来年は自分が彼女のようにターフに立つと誓って。

 

「じゃあ戻ろ、キタちゃん」

「はい」

 

 

 

 二人が席に戻る。アルチョムはターフの上に立つモンジューを眺めていた。その隣では沖野トレーナーとサイレンススズカが話している。

 

「トレーナー、モンジューが気になるの?」

「そりゃ当然だろ。どんな走りするのか、とかどんなトレーニングしてきたのか、とかな。何かテイオーのトレーニングに活かせるかもしれないだろ?」

「なるほどね、じゃあボクもよく見てみよっと」

 

 遠目にゲートの前で準備をウマ娘達が見える。スペシャルウィークとモンジューが向かい合って何か話した後、ゲートに入った。

 

「何話してたんでしょう?」

「調子に乗んな、なんて言ってたりして」

「まさか〜」

 

 テイオーとキタサンが笑う。いくらなんでもスペシャルウィークがそんなことを口走るとは思わないが、彼女はやや天然なところがある。

 

《各ウマ娘、ゲートイン完了。まもなくレースが始まります》

 

 ゲートが開き、一斉に飛び出すウマ娘。その様子をテイオーとキタサンはその瞳で真剣に追う。

 スペシャルウィークがターフの上を駆け抜ける。その走りはみんなの想いを力にして力強く前へ前へと突き進む走りだった。テイオーはその姿に自分を重ねてみる。

 自分もあんな風に走れるだろうか? あんな風に想いを背負えるだろうか? そんなことを思いながら、スペシャルウィークに声援を送る。

 そんな声援に応えるかのように、スペシャルウィークはモンジューに対して一切譲らず、レースを進めていった。

 

 席から黙ってスペシャルウィークを見守る沖野トレーナー。ブロワイエとぶつかった去年のレースに勝るとも劣らない走り。スペシャルウィークの強さを十分に引き出せている。トレーナーとしてこれほどまで誇らしいことはあるだろうか。

 

 ウマ娘の強さというのは、本人が持つポテンシャルもそうであるが、そのポテンシャルを最大限引き出せるかはやはりトレーナーにかかっている。ただがむしゃらに走るだけでは意味が無いし、ウマ娘一人では自分の走りを客観的にみるのは難しい。だからこそ、トレーナーという存在が必要になるし、トレーナーは徹底的にウマ娘に向き合い、その子のポテンシャルを引き出して限界を超えていく。

 そして想いを託すのだ。それはただレースで勝つのを祈るだけじゃない。例え一着を取れずともケガや故障をしないよう無事を祈ったり、走ることを楽しんでほしいと願ったり、勝敗に関わらず悔いのないレースをしてほしいと願ったり。

 その想いを受け取ってウマ娘はターフに立ち、想いを力にしてレースに臨むのだ。

 

 翡翠のコースを駆けるスペシャルウィークの背中を見ているとそんなことを思う沖野トレーナー。スペシャルウィークの強さ。人一倍真っ直ぐで、人一倍純真で、みんなと走るのが大好きなウマ娘。

 トレセンに来たときから随分と変わったがそこはあの時と変わらないままだ。だからこそスペシャルウィークは日本一のウマ娘になれた。

 

「いったれーっ! スペ!」

 

 最終コーナーを抜け、直線に入り一気にゴールへ向かうスペシャルウィーク。その背中を押すように声援を送る沖野トレーナー。周りのウマ娘たちも同じように声援を送った。

 そんなスペシャルウィークに迫る鹿毛のウマ娘。モンジューが凄まじい勢いで追い上げてくる。その気迫は観客席にいるこちらすら萎縮しそうになる程だ。しかし、スペシャルウィークは一切動じない。

 

「……すごい、スペちゃん全く動揺してない」

 

 テイオーはそんなスペシャルウィークの姿を目に焼き付けていた。あれが〝日本一のウマ娘〟……! そういえば前にカイチョーがジャパンカップ走った時もそうだった。あの時もすっごく強いウマ娘が出走したけど、カイチョーは最後まで背中を見せ続けた。小学生の頃、無邪気に憧れたカイチョーの姿とスペシャルウィークの姿が重なる。

 あのスペちゃんはボクの目指すべき姿だ。カイチョーですらスゴいと声援を送りたくなるようなウマ娘。まさにその姿だ。

 

《ここでスペシャルウィーク、ハナに出た! モンジュー、一バ身差で追走するが追いつけるか⁈》

 

 必死にスペシャルウィークに食らいつくモンジュー。しかし、日本総大将背負って走るスペシャルウィークが前を譲ることはない。

 スペシャルウィークがゴール板を駆け抜けた直後、モンジューもゴール板を駆け抜ける。その差は一バ身だった。

 

《スペシャルウィーク、今一着でゴール! 日本総大将、今年も見せてくれました! ジャパンカップ、初の二連覇です!》

 

 大歓声に包まれる観客席。その歓声を一身に浴びながらスペシャルウィークは笑顔で大きく手を振った。初めてのデビュー戦で勝った時と全く変わらない笑顔と仕草。どれだけ成長しても、どれだけ強いウマ娘になってもそこは変わらない。それがスペシャルウィークの魅力でもある。

 

「スペちゃーん! おめでとー!」

「スペシャルウィークさん、さすがです!」

 

 あれが日本一のウマ娘! 

 ボクの目指す先の姿! 

 テイオーはスペシャルウィークにエールを送りながらその姿に自分を重ねていた。スペシャルウィークの姿は目標であり、その目標の先でもあった。来年のシニア級として目指すべき目標であり、カイチョーを超えるという目標を達成した先の、新たな目標や夢に向かって走る姿。目標のその先だ。

 まだ目標の先なんてのは気が早い話かもしれない。ただ、それでもテイオーはその先を見ずにはいられなかった。その先を見ることで、より今の目標を達成したいという願望が強くなり、リハビリやトレーニングへの気力となる。ターフに戻るための活力となるのだ。

 スペちゃんおめでとう。来年はボクがそこに立ってみせるよ。そしてスペちゃんと同じように、応援してくれたみんなに笑顔でありがとうと言えるようになるね。

 スペシャルウィークの勇姿はテイオーの目に強く焼き付いていた。

 

 テイオーとキタサンが目一杯の祝福を送る。そんな様子を見つつ、アルチョムは口元に手を当てて考え込む。

 俺はテイオーをあそこに、スペシャルウィークと同じ場所に立たせてやることができるのか。来年から始まるシニア戦線。そこで競うウマ娘に対抗できるほどの力をテイオーに持たせてやることが俺にできるのか。

 嬉しそうに跳ねながらスペシャルウィークに手を振るテイオーの後ろ姿にそんなことを考えるアルチョム。

 だが、テイオーをあの場所に立たせてやれるのは俺しかいない。俺の過去を知った上でも、テイオーは契約解除はしなかった。それはテイオーにとってトレーナー足り得る人物が俺しかいないということの証左でもある。その信頼を裏切ることはできない。骨折で、菊花賞で、テイオーを支えてやれなかった分、次こそ支えてやるんだ。

 

 大歓声に沸く観客席でアルチョムは、その灰色の瞳にスペシャルウィークの姿を映しながら一人思案していた。

 

 





皆さまのご愛読に心から感謝します。このSSを気に入っていただけた方、厚かましいのは承知ですがお手すきの際に評価、感想をいただけると私のモチベーションになります。ぜひよろしくお願いいたします。

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