元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました 作:武装田んぼ
ご無沙汰しております。武装田んぼです。
試験的に題名を変更しました。流行りに合わせただけではありますが。
一時的なモノですのでしばらくしたらいつも通りに戻します。
ジャパンカップでスペシャルウィークの勇姿をその目に焼き付けたテイオー。
そんなテイオーに待ち侘びていた時が来た。
「リハビリお疲れ様でした。もうテイオーさんの脚は完全に治ってます。いつでもターフに立てますよ」
モニターに映るレントゲン写真を見ながら、真田医師が言う。
「やった! ねぇトレーナー! 早くトレセン戻ろうよ!」
「待て待て。興奮するのはわかるが、ちゃんと先生の話聞け。これからどうすれば故障を避けられるかとか、気をつけるべきこととかテイオーもちゃんと聞いておくんだ。いいな?」
嬉しそうに跳ねるテイオーを落ち着かせ、真田医師の話に耳を傾ける。これからも継続的なケアが必要なこと、レースの後は必ず検診を受けること、何か違和感があればすぐに受診することなどを伝えられた。2人はそれを了承し、早速トレーニングに戻る。
病院からそのまま多摩川の河川敷へ。テイオーは久しぶりに川沿いで走りたいとのことだった。
多摩川土手。冬晴れの柔らかな日差しが照らす中、トレーニングに励むウマ娘がちらほら見受けられる。テイオーも入念に準備体操を行いいざトレーニングへ。アルチョムもトレーニングの準備を終え、テイオーに合図を出す。
「んじゃあ早速行くよっ!」
土手の上に延々と続くジョギングコースを勢いよく走り出すテイオー。その顔は嬉しさと興奮に満ち溢れていた。
全力で走れるのってなんて素晴らしいんだろう!
この嬉しさを味わえるだけでウマ娘に生まれて良かった!
軽い脚で地面を跳ねて、全身で風を浴びて、流れる景色を見て!
やっぱり走るのは楽しい!
大地を思いっきり踏みつける感覚、全身で受ける風の抵抗、車窓のように流れる景色。テイオーにとって何ものにも代え難い快感だ。
そんなテイオーの嬉しそうな姿を見るアルチョム。その顔は綻んでいた。
ああ、そうだ。そうやって純粋に走りを楽しむ姿が一番テイオーらしい。地平線の先まで走って行きそうなあの姿。何度も見たはずだが、ここまで嬉しさを感じるとは。
そんな姿を見ているとこちらも走り出したくなってくる。思わずテイオーを追いかけるようにアルチョムも走り出した。
戦場で走るのとは違う、ただ楽しむための走り。リズム良く呼吸をしながら脚のスタミナを調整する。クソ重いヘルメットやアーマー、ライフルやバックパックを背負わない身軽な身体で走るのは本当に気分がいい。ウマ娘の速さとは雲泥の差であれど、走るのが気持ちいいと思えるのを幸せと言わずなんと言うか。
しばらく走り続けていると前からテイオーが戻ってきた。ある程度行ってから戻ってきたようだ。2人はそのまま合流した。
「お、トレーナーもいい走りっぷりだねぇ〜。ま、ボクな走りには敵わないけどねっ」
「そりゃな。しかしテイオーの走りはすごいな。半年近くのブランクがあるとは思えない」
「トーゼンじゃん! 何たって無敵のテイオー様の走りだもんね! じゃあもう一本行っちゃうよーっ!」
「ったく、どこからあんな体力が湧いてくるんだか」
呆れ気味のアルチョムを尻目に再び勢いよく走り出すテイオー。アルチョムもそれを追うように走り出した。
土手の上に続くジョギングコースを駆け抜けていくテイオー。
リズム良く大地を蹴って、それに呼吸を合わせながらスタミナを調整する。受ける風はもうすっかり冷たいが、柔らかな日差しとランニングはその寒さを跳ね除けるようにテイオーの身体を温めた。
右手を流れる多摩川の水面を横目に眺めながら走っていると、その先に見覚えのあるウマ娘がいた。三日月のような小さめの白メッシュと鹿毛のウマ娘、ツルマルツヨシだ。彼女はイヤホンをしながら走っていた。テイオーは少しスピードを上げて彼女に近寄る。
「あ、ツルちゃんじゃん! どしたの? ツルちゃんもトレーニング?」
その声に反応したツヨシはイヤホンを外してこちらを見た。二人はその場で止まる。
「お久しぶりですテイオーさん! そうです、トレーニングしてました。ところでもう脚大丈夫なんですか?」
「うん! ほらこの通り!」
そう言うとテイオーはその場で軽やかなステップを踏む。
「ところでツルちゃんは何聴いてたの?」
「あ、これですか?」
ツヨシはポケットからスマホを取り出して画面をテイオーに見せる。
「この人のギターすっごい上手で、しかもいろんな曲をカバーしてるんです」
そこには首元から上は見切れてるが、ジャージを着た高校生ぐらいの女の子が押し入れらしき場所でギターを弾いていた。その腕前は素人のテイオーでもわかるほど高いもので、つい聴き入ってしまう。
「この人すっごい上手だね。バンドとかやってるのかな?」
「どうなんでしょう? でもこの人のギターを聴きながら走るとすっごい気持ちいいんです」
「ボクももっと聴いてみたいな」
「なら、LANEでリンク送っときましょうか?」
「あ、お願い!」
二人は近くのベンチに腰を下ろして、早速リンクを送ってもらう。そしてウマチューブで動画を再生すると、最近流行りのロックバンドの曲が流れてきた。
「あ、これ聴いたことある!」
「他にもこの曲とかありますよ」
「その曲いいよね! マヤノとこの前一緒に歌ったんだ!」
何曲かカバーを軽く聴いたテイオー。ノリノリでリズムをとっているとツヨシが口を開いた。
「このギター弾いてる人、いつも1人で弾いているんですよね」
そう言われたテイオーはいくつかの動画のサムネイルを見てみる。どの動画もカバーした曲名以外は全部同じ押し入れらしき場所でギターを弾いている背景だ。
「確かにそうっぽいね。どの動画も同じように撮ってるみたいだし、他に誰もいないし」
「もしかしたら私だけかもしれないですけど、この人、ギターで何か想いを伝えたいのかなって思うんです」
「想い?」
「はい、もしかしたらこの人は孤独で、周りに人がいなくて、それでも何か伝えたいものがあるからこうやってギターを弾いているのかな、って」
ツヨシの話を聞いたテイオーはもう一度、そのギターの音色に耳を傾けた。プロ顔負けの力強い音色。だが、その音色はまるでわたしはここにいるんだ、と叫んでいるように思えた。
「……ツルちゃんの言ってること間違ってないかもね。ボク達がレースやライブで想いをぶつけるように、この人はギターに想いをぶつけているのかな」
「そうかもしれないです。でも、だからこそこんなに心に響く音色になるんじゃないかなって」
そう言いながらツヨシはまた動画を再生する。流れる音楽のリズムに乗りながら、この動画の女の子が訴えていることを聴こうとしていた。
「私、この前も入院してたんです。せっかくまた走れるようになって、レースにも出れたのにまた入院なんだってすっごい落ち込んでいた時に、この人を知ったんです。最初はギターの上手な子だな、って思っていたんですけど、何度も聴いている内にそう思うようになって」
そう語るツヨシ。その様子は理想と現実で悩む自分をこの人に投影しているようにも見えた。悩み事は違えど、同じ性別で近い年頃。共感できる事柄は少なくない。それはテイオーも同じだった。
理想が現実に阻まれたとき、人は自らの無力さを自覚する。それでも何か行動しなければ、人は本当に無力になってしまう。それは彼女たちウマ娘とて同じだ。だからとにかく動くしかない。
「だからですかね、この人のギターを聴いているとどこまでもがんばろうって、まだまだやるんだって気持ちになれるんです」
ツヨシはそう言うとベンチから立ち上がり、再びジョギングコースに立った。
「ボクもこの人のギターを聴いてると同じ気持ちになれたよ。ねぇツルちゃん、どうせなら並走しない?」
「いいですよ、行きましょう!」
河川敷のジョギングコースを元気よく駆けていく二人。そこへやっと追いついたアルチョム。
「また置いてきぼりかよ……。まあいいや、待ってりゃ戻ってくるだろ」
元気に走り出した二人の後ろ姿。遠ざかっていく二人の背中をアルチョムは見守るように眺めた。
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12月中旬。
期末テストも終わり、冬休みが近づく中、今年の締めくくりたる有マ記念は一日一日と近づいていた。
テイオーとアルチョムは調整やトレーニングが間に合わないと判断し、出走は見送ることとなったが、中山競バ場で同日に行われるイベントにはゲストとして参加する予定だ。どうやらシンボリルドルフが生徒会権限でテイオーの復帰イベントを催してくれるとのこと。
……確かにありがたい話だが、いくらなんでも職権濫用も甚だしいのでは? と思わなくもないが、開催してくれる以上はやはりゲストとして久々に観客の前に立つと思うとトレーニングにも熱が入る。
「いいぞテイオー! だいぶ勘を取り戻してきたな」
テイオーの走りをドローンと肉眼で観察しながらアルチョムが言う。
正直なところ、リハビリの間にテイオーの走りが出来なくなってしまうんじゃないか、あるいは、リハビリに耐えかねて本人が走る気力を喪うのではと心配することもあった。
満足に走れず運動の制限の多い中で、可能な限り走りに繋がるようなリハビリを中心に組んできたアルチョムの努力は無駄ではなかった。そして、根気強く最後までリハビリを諦めなかったテイオーの努力にアルチョムは敬意を抱いた。
その日の予定していたトレーニングメニューを終え、二人はトレーナー室でクールダウンのマッサージと明日の確認をしていた。
「……明日の予定はこの通りだ。なんか質問あるか?」
「ううん、大丈夫」
「よし、じゃあ解散。しっかり脚を休ませておけよ」
「はーい。あ、明日朝練したいんだけどいい?」
「朝練? ああ、好きにしろ。俺は必要か?」
「いや、大丈夫。軽く走るだけだから」
「そうか。あまり無理するなよ」
「りょーかい」
翌日。
朝靄がようやく昇り始めた太陽に照らされ静かにグラウンドに漂う中、ジャージ姿のテイオーが現れた。
「もうすっかり冬だなぁ。思ったより寒いや」
白い息を吐きながら、軽くストレッチを行う。そしてターフに立った。前に続いていく翡翠の絨毯。その上で朝露が小さく輝く。
「……よし!」
右脚で思いっきり大地を蹴ってターフの上を駆け抜ける。朝の冷たい風に負けないパワフルな走りだ。まずは一周を終え、再びスタート地点に立つ。すると遠くに同じくグラウンドで朝練に励むウマ娘がいた。テイオーは興味本位でその子に近づく。
「おはよう! キミも朝練?」
その声に反応して振り向くウマ娘。リトルココンだ。
「……テイオー? なんでいるのよ」
やや棘のある言い方で返される。
「やっと走れるようになったからね! 走りたくて走りたくて仕方ないんだよ」
「あっそ」
なんとも淡白な返しだ。
「あれ、樫本トレーナーいないね」
「自主練してるから」
「へぇ〜。あれ? でもあの人自主練とかダメって言ってなかったっけ?」
「許可もらった」
「珍しいね、有マ出るから?」
「もう負けられないから」
エメラルドのような眼でテイオーを睨むように見た。
「あんたに負けて、ナイスネイチャに負けて……。それでも樫本トレーナーはアタシに期待してくれているのに……! 次も負けたらアタシはどんな顔をして樫本トレーナーに会えばいいの? だから勝たなきゃいけない……!」
気迫のこもった言葉が彼女の口から放たれ、拳を強く握った。その様子に思わず気圧されるテイオー。
「……ご、ごめん」
「謝ることじゃない。ただ、今までのやり方が正しいのかわかんなくなってきただけ」
そう言うとリトルココンは近くのベンチに座ってドリンクを飲んだ。テイオーもなんとなしに隣へ座る。
「ねぇ、アタシの話聞く気ある?」
意外な発言に驚きつつも、テイオーはぜひ聞かせて、と笑って返した。
そこからリトルココンは過去に自分が所属していたチームでの出来事を話した。同じシューズで揃えようという話が出たが、自分に合ったシューズを使いたかった彼女は遠慮した。しかし、それ以降チームメイトから仲間はずれにされてしまい、挙げ句の果てに鼻つまみ者のような扱いをされたという。だからこそ、樫本トレーナーのやり方は自分の性に合っていた。だが、それでもあんた達に勝てなかった。仲良しこよしでやっているようなあんたやネイチャに負けた。樫本トレーナーのやり方が間違っているのか、自分の才能が無いのか。それとも、それだけ仲間という存在が大きいのか。
語り口の節々に棘のある言い方ではあったが、終盤にはその目が潤んでいたのをテイオーは見逃さなかった。
……初めはなんか嫌な子だなって思った。でもこの話を聞くと、ただ単に嫌な子だとは思えなくなる。
テイオーの中で日本ダービーの時に言われた言葉が思い出される。
〝ちやほやされるのは今のうち。すぐに失望されるわ〟
でもこの言葉は、リトルココンの過去の経験から出た言葉だとわかった。仲間外れにされ、厄介者にされ。そんな経験をすれば仲間なんてものが信用出来なくなるのも当然かも知れない。だからみんなに囲まれるボクを見てそう言ってしまったのだろう。でも結果はボクに負けた。そして菊花賞ではネイチャに負けた。そうなればどうしたらいいかなんてわからなくなる。
そんなことを考え、テイオーは口を開く。
「……ごめんね、ボクはキミに対してこうすればいいんじゃないなんてことは言えないけど、樫本トレーナーは決して間違ってはないし、キミの才能が無いなんてことはないと思うよ。でも確かにボクはみんながいたから勝てた、っていうのはあるかもしれないけど」
そう言い、みんなの顔を思い浮かべるテイオー。マヤノ、マックイーン、ネイチャ、キタちゃんにサトちゃん、そしてカイチョー。みんなの応援を聴くたびに無限にパワーが湧いてくる。でもそれはボクだからそうなるだけかも知れない。
「でもさ、仲間がいるから良い、一人だから悪いってものでもないじゃん? そう言うのってさ、たぶん個人差とかってやつだし」
それにリトルココンだってビターグラッセとかいるし、樫本トレーナーだっているじゃん! なんて話すテイオー。だが、それを聞いてもリトルココンは悩んでいるようだった。
そんな様子をみたテイオーは、少し思案してスマホを取り出す。
「ねぇ、リトルココンはさ、ウマチューブで音楽とか聴く?」
「……時々」
「じゃあさ、この人のギター聴いてみたら? すっごく上手だし、聴いてるとまだまだがんばろうって気になれるんだ」
そう言うとテイオーはそのリンクをリトルココンと共有する。リトルココンは荷物からイヤホンを取り出してそこに並ぶ動画から気になった一つを再生した。
表情一つ変えずに聴くリトルココン。だが、その表情がだんだんと真剣になっていくのにテイオーは気付いた。
「どお? 気に入った?」
「……うん。この子のギター、いいね」
そう言うと、また他の動画を再生する。今度は静かにリズムを刻み始めた。しばらくするとベンチから立ち上がり、ターフに立った。
「不思議。この子のギター聴いてると、思いっきり風を受けて走りたくなる」
「リトルココンもそうなんだ」
テイオーの言葉にリトルココンは小さく口角を上げて返す。そして一気に走り出した。
その走りは普段の効率や速さを重視したフォームではなく、ただ単に脚で思いっきり地面を蹴るようなフォームもへったくれもない走り。やり過ぎれば故障する可能性もある。こんな走り方を樫本トレーナーの前でやれば怒られるだろう。でも、今はそんな走り方がしたかった。動画であの子はギターに想いをぶつけていた。なら、アタシは走りに想いをぶつけるまで。
そのままがむしゃらに走った一周。少し遅れてテイオーが追いついた。
振り向くと、走ってきたターフが朝日に照らされ、自分の蹄跡が綺麗に残っていた。走り終わってこんなに気持ちいいのは久しぶりだ。何も考えず走ったからか。それともあのギターに突き動かされたからだろうか。
……なんかわかった気がする。アタシがダービーや菊花で勝てなかったの理由。あの子たちには想いがあった。自分自身と、そして仲間達の想い。アタシがバカバカしいと切り捨てたモノ。それがあってもなくても走れるのは事実。でもその想いがあの二人の最後の粘りに繋がって、勝てたのかも知れない。
走るのは自分、でも最後の最後に背中を押してくれるのは仲間。
そう考えると、昔自分がいたチームのウマ娘たちは違ったのではと思えてしまう。互いの個性や価値観を認め、長所をさらに伸ばして短所を補い合い、競い合う。だからこそ限界を超えていける。そんな仲間とあの時巡り会えていれば、と思うが過去を悔やんでも次に繋がらない。
ダービーの後、テイオーに言われた言葉。
〝仲間でライバル〟
その言葉の意味をようやく理解できた。そしてテイオーはそんな仲間に囲まれてきた。あまり他人を羨むことはないが、つい羨ましく感じた。
でも、これからは変えられる。アタシに期待してくれる樫本トレーナーのために。
あとでビターグラッセと話し合ってみよう。
「このチャンネル教えてくれてありがと」
短くテイオーに礼を言い、リトルココンは少し軽くなった気分とともに再び大地を蹴って走り出した。
「ボクも負けてられないね」
テイオーも勢いよく走り出す。そんな二人を冬の朝日は優しく照らしていた。
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