元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました   作:武装田んぼ

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タイトルを長文に変更したら閲覧数が4倍になりました。
謎の敗北感を味わっていますが、しばらくはこのタイトルになりそうです。



第30話 有マ記念

 

 

 ついに迎えた有マ記念当日。

 久しぶりに勝負服に袖を通したテイオーは鏡の前でご満悦だ。

 

「今日走れないのはチョー悔しいけど、無理に出てボロ負けしたらそっちの方が悔しいしね」

「その分来年からぶちかまして行こうぜ。不屈で無敗のウマ娘、ここにあり! ってな」

「わかってんじゃん。さすがテイオー様のトレーナーだね」

「そりゃな。さて、そろそろイベントの時間だぞ。裏手の方に移動しよう」

「はーい」

 

 二人は控室を出て特設ステージの裏手に移動する。G1レースにおいてこのようなイベントが行われるのは珍しいことではなく、テイオーのダービーの時も、有名ロックバンドが生演奏を披露したり、引退したとあるダービーウマ娘のトークショーなどの催し物があった。

 そんな訳で今年はテイオーの復帰イベントをやる運びになったそうだが、やはり生徒会、というか生徒会長の職権濫用な気がしなくもない。が、催してくれる以上はありがたく参加しよう。あちらの厚意を無下にするわけにもいかない。

 裏手で待機する二人。舞台では陸上自衛隊の音楽隊による演奏が終わり、次のプログラムへ移ろうとしていた。

 そしてそのプログラムこそ、テイオーの復帰イベントだ。運びとしては生徒会長シンボリルドルフの挨拶のあと、テイオーの復帰宣言とミニライブという形になっている。アルチョムのやることは始めと終わりの挨拶ぐらいなもので、勝負服を着たテイオーとは対照的にタクティカルジャケットにコンバットパンツとブーツという出立ちだ。そんな格好のせいか、演奏を終えて裏手に戻って来た音楽隊の自衛官からじろじろと見られたが気にしないし、気にするような人間じゃない。

 

《次は今年のダービーウマ娘となったトウカイテイオーの復帰ミニライブを行います》

 

 アナウンスが流れ、ステージの上にテイオーとルドルフが立ち、アルチョムもリハーサルで決めていた立ち位置に立った。

 

「なんで会長さんまで勝負服着てんだ?」

 

 勝負服姿で現れたルドルフに疑問を持ちつつもリハーサル通りに挨拶と簡単にファンへ向けての感謝を述べる。

 そしてテイオーの出番だ。

 

「みんな久しぶり! 今日はボクの復帰イベントに来てくれてありがとう!」

 

 舞台の真ん中でマイクを握るテイオー。

 

「今日は少しボクの話をするね。リハビリの間、自分の夢や目標で何度も悩んだんだ。このまま走り続けても意味あるのかな、なんて思ったこともあった。でもね、そんな時にみんなのレースを見たの。ネイチャの菊花賞にマックイーンの天皇賞秋、そしてスペちゃんのジャパンカップ。みんな絶対に譲れない想いを乗せて走ってた。そしてボクはその想いを受け取った。なら、ボクはリハビリを乗り越えて、ボクの走りで夢を叶えなきゃって強く感じたの。だから今、ボクはここに立っているんだ。そしてリハビリの間、ずっと応援してくれていたファンのみんな、本当にありがとう! みんなの応援がボクの一番のパワーになったよ! だからね、来年のシニア級からはガンガンレースに出て、ガンガン勝っちゃうから、みんなぜーったいに見逃さないでね!」

 

 笑顔でファンの方たちへ感謝の言葉を伝え、復帰宣言をする。テイオーの言葉を聞いたファンからは次々と応援の声が上がった。次はシンボリルドルフの番だ。

 

「本日お集まりの皆様、このイベントに足を運んでくれたことに心から感謝します。彼女、トウカイテイオーは私がクラシック三冠を獲ったとき、記者会見の場で飛び出して来て私にこう言いました。〝ボクもシンボリルドルフさんみたいな強くてカッコいいウマ娘になります〟と。あの時の眼差しは今でもよく覚えています。そして彼女は故障と挫折にも負けず、またターフに戻ってきました。これから彼女がどんなレースを走って行くのか、私も楽しみで仕方ありません」

 

 そしてルドルフが挨拶を終え、再びテイオーの番。この後予定では、テイオーが”ENDLESS DREAM!!”を歌い、復帰イベントは終わりだ。

 

「それでね、カイチョー。今日はもう一つ、ボクはカイチョーに伝えなきゃいけないことがあるの」

 

 リハーサルではなかった流れだ。アルチョムは内心焦ったが、表情に出ないようポーカーフェイスを決め込む。

 

「今でもカイチョーはボクの憧れの人。とってもカッコよくて、誰よりも強くて。でもボクはこのまま憧れで終わらせたくない……! 憧れのカイチョーからも、すごい奴だって思われるような、そんなウマ娘にボクはなりたいんだ!」

「ほう。……続きを言ってみろ、テイオー」

「ボクが今日、本当に言いたいこと、いや、言うべきことはカイチョーへのセンセンフコク! 来年の有マ記念、そこでボクはカイチョーに勝って、〝皇帝〟を超える〝帝王〟になるっ! だからカイチョー、来年の有マでボクと勝負して!」

 

 マイクを握りながら、ルドルフの前で堂々と宣言するテイオー。その瞳と表情は覚悟と自信で満ち溢れていた。

 

「……あの時、私の前に現れた時も今日と同じ目をしていたな。良かろう。私は君の挑戦に受けて立つ。しかし、私は頂点の座を譲る気は毛頭ない。ここに来るまでの道のりは茨の道だと思え、テイオー」

「そんなの覚悟の上だよ、カイチョー」

 

 舞台の上で向き合う二人。憧れが挑戦に変わった瞬間だ。そんな二人の様子に観客席は大いに盛り上がる。

 流石テイオーだ。魅せてくれる。

 舞台の真ん中で輝くエンターテイナーにアルチョムも魅せられていた。

 リハーサルになかった流れになった時、アルチョムはかなり焦ったが、その焦りもどこへやら。できることなら観客と同じようにテイオーに声援を送りたいぐらいだ。とはいえ舞台袖でそんなことをするわけにもいかず、不器用な営業スマイルで我慢する。

 テイオーのセンセンフコクが終わり、イベントはミニライブへと移る。リハーサル通りにテイオーは“ENDLESS DREAM!!”を歌い終え、イベントはつつがなく終了した。

 

「今日はみんなボクの復帰イベントに来てくれてありがとう! 次はいよいよレースだね! ボクも楽しみで楽しみで仕方がないよ! じゃあまたねー!」

 

 観客に向かって元気に手を振り、舞台裏手に戻ってきたテイオーとルドルフ。そんな二人をアルチョムは迎えた。

 

「ったく、いきなりリハーサルに無いことやるモンだからビビっただろうが」

「でもカイチョーにセンセンフコクするには今日しかないって思ったもん」

「なるほど。この間生徒会室に来て、有マで私も勝負服を着て欲しいと言ってたのはこの為だったのだな。まさか宣戦布告なんてするとは夢にも思わなかったが。だがもちろん、今日この場で、そして大観衆の前で宣言した意味はよくわかっているな? テイオー」

「もちろん。これはボクの覚悟でもあるからね。これから何があっても絶対に夢を諦めないっていう」

「……なら私が言うことはない。待っているぞ。来年の中山で」

「うん!」

「よしわかった! バリバリ鍛えてやるから弱音吐くんじゃねえぞ?」

「もっちろん! それぐらいでへたるようなウマ娘じゃないよーだ」

 

 少しドスを効かせて言うアルチョムにかかってこいと言わんばかりに胸を張るテイオー。

 

 この様子だと復帰イベントは大成功だろう。会場の盛り上がりは最高潮だ。いよいよレース本番が始まる。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 控室。

 リトルココンは珍しく音楽を聴いていた。テイオーに教えてもらったウマチューブのチャンネルだ。その力強いギターの音色を聴いてると、今すぐにでも走り出したくなる。

 

「音楽なんか聴いて珍しいな」

 

 控室に入ってきたビターグラッセがこちらを見てきた。

 

「最近気に入ってるの。聴いてると走るのが楽しくなるから」

「ああ、この前言ってたギターのヤツか」

 

 お気に入りのカバー曲を聴き終え、イヤホンをしまう。

 

「ギターの曲聞いたぐらいでかわるのか?」

「そう思うなら聴いてみたら? アタシも聴くまではそんな風に考えてたから」

 

 なんかこの前から変わったな、となんとなく思うビターグラッセ。

 そこに現れた樫本代理。

 

「いよいよですね、リトルココン」

「はい。今日こそ勝利を掴んでみせます」

「自主練の成果、期待していますよ」

 

 リトルココンが自主練を希望したとき、樫本代理の頭の中に浮かんだのはかつて担当したウマ娘だ。大変な努力家であった彼女はチームのために奮闘すると意気込んでいた。代理も彼女の意志を尊重し、チームトレーニングを一任していた。しかし、その結果無理が祟ったのか、彼女はレース中に骨折してしまい選手生命を諦めることになる。

 また同じ過ちを繰り返すのではないか。そんな不安に襲われた。最初は許可できないと却下したがそれでもリトルココンは食い下がらなかった。普段、トレーニングメニューに一切注文を言わない彼女だけに随分と驚いたのをよく覚えている。結局、こちらが根負けした。ただ、自主練内容を記録し、練習後に報告することや、どんな些細なことでも身体に違和感などがあれば即座に中止し、それを報告することを条件としたが。

 

 不安だった。だが、許可する決断を下した理由はリトルココンの熱意だけではない。異色の経歴を持ちながら、必死にウマ娘と向き合う男、アルチョムの存在だ。聞いた話によればかつてアメリカ陸軍に所属し、アフガニスタンやシリアで実戦を経験したという。そんな経歴を持った男がウマ娘と、トウカイテイオーと全力で向き合っていた。そしてテイオーの骨折で酷く憔悴していた彼の姿は過去の自分と同じだった。それでもあの男はテイオーと向き合っていた。テイオーの意志を尊重していた。管理するのではなく、テイオーの意見を聞き入れた上で、折り合いをつけようとしていた。

 それを思い出した彼女はリトルココンの自主練を許可したのだった。

 

 少し前までは考えられない判断だった。それでも許可する価値はあると踏んだ。その結果は今日、この有マの舞台でわかる。

 

「あの時、自主練の許可をくださってありがとうございます。その許可が無駄でなかったと、ここで証明します」

 

 覚悟に満ちた瞳。その瞳はダービーや菊花の前より頼もしく、自信を感じる。

 そして静かにパドックへ向かうリトルココン。

 

「行きましょうビターグラッセ。私たちでしっかり応援してあげなくては」

「はい!」

 

 

 ────────────────────────

 

 

 関係者席でレースの始まりを待つテイオーとアルチョム。隣にはキタちゃんとマヤノもいる。

 

「もうすぐですね、テイオーさん!」

「うん、今日はマックイーンもネイチャもスペちゃんも走るから楽しみだよ! それにリトルココンもね!」

「あの子も走るんですか?」

「うん。でもリトルココン、ダービーの時から結構変わったよ。いろいろあったみたい」

 

 テイオーはそう言い、ターフで準備するリトルココンを見る。そう言われても微妙な表情を浮かべるキタちゃん。

 キミもいろんな経験してきたんだよね。キミのがんばりはボクも知ってるよ。

 この間の朝練を思い出し、リトルココンを真っ直ぐ見つめる。

 

「まあレースを見ればわかるって」

 

 そんな会話を交わしながらレースの始まりを待つ。

 

《各ウマ娘、ゲートイン完了。まもなくレースが始まります》

 

 一斉に開くゲート。翡翠の舞台に躍り出た優駿が繰り広げる、3分にも満たないドラマが始まった。

 

 

 

《現在ハナを進むのはクレセントエース、その後ろ、1バ身離れメジロマックイーン、それにスペシャルウィークが1バ身差で続きます。それから2バ身離れて……》

 

 メジロマックイーンはこのレースを逃げで走る。それを追うように先行のバ群が形成され、その後ろに差しと追込が続いていく。

 

 レースは滞りなく進み、最終コーナーに差し掛かるウマ娘達。今年の締めくくりを飾るウマ娘は誰になるか。

 逃げるマックイーンはクレセントエースを追い抜かしハナに出た。がそこへ得意の末脚で食らいつくリトルココン。ナイスネイチャも一気に上がりハナを狙う。

 

《ハナを狙うリトルココン! ナイスネイチャも食らいつく! おっと、ここで外からスペシャルウィーク、スペシャルウィークが外から追い上げて来た!》

 

 外から上がって来るは日本総大将、スペシャルウィーク。ジャパンカップのあのスパートに勝るとも劣らない走りでターフを駆け抜ける。

 

《ここでリトルココンがハナに出た! このまま逃げ切るか⁈》

 

 リトルココンがハナに躍り出る。だがマックイーンも食い下がらない。そこへネイチャも飛び込んでくる。

 

「がんばれーっ!!」

「ファイト──っ!!」

 

 テイオーとキタサンが力一杯声援を送る。誰か一人にではない。ターフを駆けるみんなに、最後まで諦めて欲しくないから。自分達の分まで走って欲しいから。そんな様子を見たアルチョムも声を上げた。

 

「行くんだッ! ぶちかませッ!」

 

 そんな声援に背中を押されるように、さらにスピードを上げるウマ娘達。そしてついに一人の優駿がゴール板を駆け抜ける。

 

《リトルココン、リトルココンが今一着でゴール! ダービーと菊花の惜敗から、ついに中山での勝利です!》

 

 会場に大歓声が巻き起こり、優駿の誕生と出走したウマ娘達の健闘を祝福する。

 大歓声に包まれたリトルココン。その顔は嬉しさに満ちていた。全てのウマ娘が求める勝利。その栄誉を手に入れたのだ。そして真っ先に樫本トレーナーの元へ向かう。

 

「トレーナー、見てましたか! やりました! 樫本トレーナーのお陰です!」

「はい、おめでとうございます。ですが、今日の結果は貴女の努力の結晶です。貴女自身が掴んだ勝利です」

 

 リトルココンを丁寧に労う樫本トレーナー。その表情は普段からは想像できないほど朗らかで、真摯に彼女の健闘を讃えた。

 リトルココンの目に涙が浮かぶ。ダービーと菊花の惜敗。あの悔しさは言葉では語れない。だが、その悔しさを乗り越えたからこそ、今の栄光がある。

 あの悔しさを感じたのは自分だけじゃない。テイオーだってネイチャだって、もっともっとたくさんのウマ娘が味わってきた悔しさだ。その悔しさを糧にすることができた者が、次の勝者となる。でも、その悔しさを乗り越えていく時、人は仲間を必要とするのかもしれない。関係者席から嬉しそうに手を振るビターグラッセと静かに拍手する樫本トレーナーを見ながらそう考える。

 二人に笑顔で応えたリトルココンはウィナーズサークルに立つと観客席に向かい、綺麗なお辞儀をした。そして彼女は再び関係者席に近寄る。

 

「テイオーさん、今ならあなたが言っていたことがよくわかります。皆んなが背中を押してくれました。ありがとうございました」

 

 そう言い、テイオーに頭を下げる。

 

「お疲れ様、よくがんばったね。カッコいい走りだったよ」

 

 テイオーも笑顔でリトルココンの走りを労った。

 

「ルイシコフトレーナー。ありがとうございます。貴方のおかげで、真摯にウマ娘と向き合うことができ、そして勝利の栄光を掴ませてあげることができました」

 

 いつの間にか、樫本トレーナーがアルチョムの隣にいた。

 

「俺は俺のやり方でウマ娘と向き合ってるだけだ。だからそっちもそっちのやり方でウマ娘と向き合ってやればいい」

「はい、そうですね。参考にさせていただきますよ」

 

 調子狂うなぁと言いたげな表情を見せるアルチョム。それでもどこかまんざらでもない様子だ。結局、この人も向き合い方で悩んでいた。ったく、俺と似たようなモンじゃねぇか。

 なんて思っているとテイオーが見当たらない。

 

「……ってあれ、テイオーはどこ行った?」

「さっき地下バ道の方に行きましたよ?」

 

 キタサンが言うには地下バ道へ向かったようだ。追う必要はないだろう。

 

「あっちだよね」

 

 案内板で確認しながら、テイオーは地下バ道へ向かう。ネイチャに伝えたいことがあるのだ。菊花賞の後、ネイチャとちゃんと話す機会が無かった。でも、テイオーには伝えたいことがある。本当はレースの前に伝えたかったけど、もうチャンスは今しかない。

 

 地下バ道。

 レースを終えたウマ娘たちが控室に向かう。どの子も悔しさを表情を浮かべ、涙を零す子も少なくない。その中の一人にナイスネイチャがいた。

 やっぱりアタシみたいなウマ娘が有マなんて勝てる訳がない。結局アタシは3着で終わる平凡なウマ娘。キラキラなんかに届きっこない。

 ……菊花だってテイオーがいなかったから勝てた。どうせアタシは……。

 悔しさと諦めが複雑に絡み合い、視界がだんだんと曇っていく。

 

「ネイチャー!」

 

 そこへかけられる声。そのテイオーの声だ。その元気な声が耳に届いた時、視界の曇りが晴れた。

 

「て、テイオー? なんでこんなトコロにいるのよ?」

「ネイチャの走りを見ていたからね」

「……あんな走り見たって意味無いでしょ」

「そんなことないよ。菊花の時みたいにすっごくカッコいい走りだったじゃん!」

「き、菊花の時って、テイオーはアタシの菊花観てたの⁈」

「そりゃもちろん。だってボクのライバルだからね。しっかり見ておかないと」

 

 それからテイオーはネイチャの菊花賞を観た感想を熱心に伝えた。ネイチャの走りのおかげでボクはまたターフに立ちたいと思えたこと、自分の走りで勝てたネイチャがキラキラして見えたこと、そんなネイチャに心から勝ちたいと思ったこと。

 それらの思いが復帰への最大のモチベーションになったし、新しい目標を目指す理由がハッキリとわかったんだ、とネイチャに話す。

 

「だから今日、ボクがみんなの前で復帰を宣言できたのはネイチャのおかげなんだよ」

 

 それらを話し終わって、ネイチャの顔を見る。その瞳から大粒の涙が溢れた。

 

「……本当に、本ッ当にアンタは……、またそういうことを言って……、アタシの走りなんかがモチベーションになる訳……」

「走りなんか、じゃないよ。ネイチャの走りだからだよ。だってあの時、すっごいキラキラして見えたもん。それに今日の走りもね」

 

 そう言って笑うテイオー。その笑顔は今のテイオーの発言が嘘偽りのない本心であると証明していた。

 

「だからさ、ネイチャと勝負したいんだ。ネイチャのキラキラした走りとボクは真っ向勝負がしたい。それにネイチャだってボクと勝負したいでしょ?」

 

 だが、ネイチャは何も言わず、静かに涙を流すだけだ。そんなネイチャをテイオーは優しく待つ。一分にも一時間にも感じられる時間が経ち、ネイチャは涙を拭い、真っ直ぐにテイオーの瞳を見る。そしてようやく言葉を紡ぎ出した。

 

「……アンタに勝ちたい。アンタにアタシの走りで勝ちたい」

 

 その言葉に込められた決意をしっかりと受け止めたテイオー。

 ……よかった、ネイチャがそう言ってくれて。でもネイチャならそう言うって信じてたよ。だってボクは知ってるから。ネイチャもボクと同じぐらい負けず嫌いなの。普段はアタシなんか〜って言ってるけど本当は誰より努力してるもんね。

 この前も夜遅くまでトレーニングしていたネイチャの姿を思い出しながら、ネイチャの決意にテイオーも応える。

 

「そうこなくちゃ。来年の大阪杯、ネイチャと走れるの楽しみにしているよ」

 

 そう言い、関係者席の方へ戻っていくテイオー。その姿を見送るネイチャの瞳に決意の炎が灯る。

 そうよ、まだテイオーとは若駒で走ったきりじゃない。もう一度、いや、もう何度でも勝負して、絶対に勝ってやるんだから。

 

 ネイチャが控室に戻ると、ちょうど南坂トレーナーがいた。

 

「お疲れ様ですネイチャさん、今日n……」

「ねぇトレーナー、アタシ大阪杯に出る」

「大阪杯ですか?」

「テイオーが復帰戦やるの。そこでアタシはテイオーに勝つ」

「わかりました。出走の申し込みをしておきます。次は勝ちましょう」

「ええ、もちろん!」

 

 今日の有マは勝てなかった。でもそれはもう終わったこと。まだまだレースはあるし、テイオーに勝負を挑まれた。なら、アタシがやるべきことは次に向けて行動すること。そしてテイオーにアタシの全力の走りをぶつけてやること。それはきっとアタシの追い求めるキラキラにつながるから。

 

 

 関係者席。

 目の前に広がるターフはもう冬の夕陽に照らされ茜色に染まっていた。そのターフを眺めるテイオー。

 来年はボクがあの舞台に立ち、カイチョーに勝つ。揺るがぬ決心を胸に、テイオーは関係者席を後にした。

 

 

 






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