元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました 作:武装田んぼ
トレーナー編2話目です。
こちらも都合上、軍事描写、残酷な描写が多々あります。ご注意下さい。
彼の目に映ったのはロシア空軍所属のSu-25。ソ連時代にスホーイ設計局が開発した攻撃機だ。やけに低空を飛んでいる。
セルゲイは嫌な予感がした。そしてこういう予感は大抵的中する。
「あのグラーチュ、まさか……!」
旋回しながらSu-25はこちらに機首を向ける。対地攻撃姿勢に入った。いやまさか。最悪だ。
「伏せろ、伏せろぉ!」
怒鳴るセルゲイ。アルセニーが慌ててこちらを見る。
「クソどもがやりやがった!」
Su-25はこちらに真っ直ぐ飛んでくる。セルゲイが地面に伏せた直後、目の前に並ぶテントが次々と爆ぜた。
飛び散る破片は何も知らない難民に襲いかかり、吹き荒れる爆炎はセルゲイの肌を灼いた。
ロケット弾の斉射だ。おそらく両翼のポッドからばら撒いたのであろう。
「何考えてやがる……!」
脳裏に浮かぶさっきの子供たち。セルゲイは素早く周囲を確認し、状況を判断する。
「やめろ! 俺たちは味方だ!」
ペトロフがSu-25に向かい手を振る。
「バカ! やめろ!」
旋回しながら攻撃態勢に入ったSu-25は再びロケット弾を斉射した。爆炎の中に消えるペトロフ。ほんの5分前までの和やかな空気は地獄に変わり果て、目を覆いたくなるような惨劇が広がる。
上空を大きく旋回するSu-25。三度、攻撃態勢をとる。そして機首下部の30ミリ機関砲が徹甲榴弾の雨をキャンプに降らせた。大地は抉れ、逃げ惑う難民は炸裂する砂煙の中に斃れていく。
一通り暴れて満足したのか、エンジンの爆音を轟かせながらSu-25は上空へ飛び去っていった。
「ふざけんな! ふざけんな! ふざけんなぁぁ!!」
セルゲイはAK12を構え、Su-25が飛んでいった方へ向け発砲した。無論なんの意味もない。
セルゲイは弾切れしたAK12を投げ捨て、難民たちの救助を始める。彼はさっきの子供達が爆撃に巻き込まれるのを見ていたのだ。
「生き残ってるヤツはいるか! 今助けてやるからな!」
必死に叫び、倒れてうめく難民に近寄る。
「何が起きてんだ……?」
近寄ってきたのはジリノフスキーだ。
「知るか、俺らは棄てられたんだろ!」
「セリョージャ、無事か?」
アルセニーが声を掛ける。
「俺は問題ない。アーシャ、子供たちの様子を見てこい。ジリノフスキー、セミョーンを探せ」
「セルゲイ、ペトロフはどこだ?」
ジリノフスキーが聞いた。セルゲイは無言で首を振る。
「……そうか。とりあえずセミョーンを見つける」
セルゲイは辺りをまた見渡し、動ける者を探す。昨日の警備員がいた。
「おい、大丈夫か⁈」
「何なんだよ、さっきの⁈ お前らの仲間か⁈」
「落ち着け、俺らは敵じゃない! 動けるなら救助を手伝え。いいな」
警備員の両肩に手を乗せ真っ直ぐに彼を見る。
「わ、わかった……、わかったよ」
幸か不幸か。ペトロフ以外はどうにか生きていた。だが、キャンプの中心部にいた多くの難民は絶望的な状況だった。
それでも息のある難民を見つけては、応急処置を施していく。ジリノフスキーがいろいろと医療品を持ってきたおかげか、応急処置はどうにか進む。だが、いくら医療品があろうともやはり助からない命がほとんどだ。
ボロボロになり、酷い火傷を負った子供。腕や脚には破片が食い込んでいる。さっきの子供たちの一人だ。
「大丈夫だ、大丈夫だぞ」
優しく語りかけるセルゲイ。消毒をし、破片をピンセットで除去していく。
「ねぇ……、兵隊さんは……、さっきの……、飛行機の……、仲間……?」
息も絶え絶えながら、こちらに聞いてきた。
「……違う。……違う……!」
否定する。が、どうしても声が震えうわずってしまう。
「兵隊さんは……、ウソついてない……?」
「……」
何も言えない。
ただ無我夢中で応急処置を施すセルゲイ。だが、みるみるうちにその子供は衰弱していく。そして目から一筋の涙をこぼして動かなくなった。
「おい、どうした……? おい目を覚ませ! こんなところで死んでどうすんだよ!」
心臓マッサージと人工呼吸を施すがその子供は目を覚ましそうにない。
「セルゲイ、その子はもう……」
ジリノフスキーが声をかける。衛生兵だった彼にはわかっていた。
「黙れぇ!」
怒鳴るセルゲイ。もちろん、彼も助からない命であることをわかっていた。だが、それでも足掻いていた。
「こんな、なんで……」
絶望感に苛まれる。周囲に立ち込める血と火薬の灼ける匂いが鼻をつき、むせ返りそうになる。
空襲からどれだけ経ったか。手は尽くしたがその度に無力感に襲われた。何もできない。誰も助けられない。命からがら生き残った難民はこちらに疑いの目を向ける。
自分の無力さと祖国の愚行に、ただただ絶望した。
「セルゲイ、四時の方向! BTRが3台!」
後ろでセミョーンが叫ぶ。
「は⁈」
セミョーンから双眼鏡を奪い覗いた。
そこに映ったのは3台のBTR-80装甲兵員輸送車。1980年代にソ連で設計された装輪装甲車で、上部に設置された砲塔には重機関銃が装備されている。
「救助か……?」
「バカ、生き残りを皆殺しにするんだ」
セルゲイには彼らが味方だとは思えなかった。そしてそれは当たっていた。
「おいセミョーン、バンは無事か?」
「30ミリがエンジンをぶち抜いて動けない。オシャカだ」
「荷台の中身は無事なんだな?」
「ああ、なんとかな」
「ペトロフの忘れ形見があるんだ、使わせてもらうぞ」
彼らは荷台から木箱を引き摺り出し開封する。RPG-27対戦車擲弾発射器が2本並ぶ。
「アーシャ、セミョーン。コイツを使ってBTRを吹き飛ばせ」
アルセニーとセミョーンは頷く。
「ジリノフスキー、お前PKPは使えるな?」
バンから引き摺り出した機関銃を指差す。
「一通りの扱いは習った」
「十分だ、俺はAKと爆薬を使う。死にかけの難民狩りだと思って油断してるクソどもに訓練をつけてやるぞ、いいな!」
指示を飛ばし、チームは展開していく。セルゲイはバンの中からC4爆薬*1を取り出し、配置ポイントに向かう。
キャンプへ続く道を走る3台のBTR-80。その様子をよく観察しながらセルゲイは指示を出す。
アルセニーとセミョーンはRPG-27を担ぎ岩場に身を潜め、セルゲイは岩の陰から道路に設置したC4の様子を伺う。
何も知らないBTRはゴロゴロとC4の隣を通過した直後、爆発が起き先頭のBTRが横転。同時にRPG-27が残りの2台に向かって放たれた。
一発命中、もう一発はやや逸れて至近弾。
突然の奇襲に部隊は混乱に陥る。が、それでも車両からすぐさま展開し、RPGが飛んできた方向へ応射を開始するあたり、それなりの練度はあるようだ。
RPGが逸れた3台目の車両は砲塔の重機関銃でドカドカと掃射を始める。また、横転したBTRからも兵士が這い出し動ける者は応戦を始めた。
セルゲイはアルセニー達と道を挟んで潜んでいた。襲撃部隊はRPGを放ったアルセニー達に気を取られ、こちらに気づいていない。
重機関銃を連射するBTRを盾に応戦している二人の兵士。セルゲイは彼らの隙を突いて素早くAK12を構え、手前の兵士を狙い引き金を引く。命中を確認するとすぐにもう一人の兵士に向け発砲。
倒れたのを視認し、素早くBTRに接近。半開きの側面ハッチから乗り込み、銃座の射手を引き摺り下ろし、彼の首にナイフを突き立てる。死に際に射手がこちらに伸ばした腕が力無く床に落ちた。
鉄と火薬の臭いが漂う中、セルゲイは銃座に着き、重機関銃を目の前に展開する兵士の背中に向け、弾丸を放つ。
突然後方からの銃撃を受けた部隊は遂に恐慌状態に陥る。背中から撃たれれば無理もない。あとは逃げ惑う兵士を血祭りに上げるだけだ。
「クソどもはこれで全部か?」
物言わぬ襲撃部隊の兵士を蹴るセルゲイ。
「多分な。奴らがどれだけいたのかはわからんが」
アルセニーが辺りを見渡しながら返す。
「セミョーンはどうした?」
「機銃掃射でやられた」
「クソ」
「ジリノフスキーは?」
「軽傷。キャンプに戻って手当てを再開してるハズ」
「そうか」
「んで、これからどうする?」
「どうすりゃあいいんだろうな……」
焼け野原になったキャンプを眺めるセルゲイ。その表情は怒りを露わにしているが、その矛先は自分を棄てた祖国かそれとも己の無力さか。
「なら、これを持って国境を越えろ」
アルセニーは彼のスマホを手渡す。
「さっきの空襲を録画してある。キャンプの惨状もな。あとは装甲車を漁ればいろいろヤバい書類とかデータが手に入るだろうよ」
「これらを持って逃げろってか?」
「このままここに留まればまた空襲やら襲撃があるかもしれない。そうなりゃ今度こそ全滅だ。そしたら誰がこの惨劇を世界に知らせるんだ?」
「俺一人でか?」
「あんたはチームで一番タフだからな。こっから80キロ先の国境までは楽勝だろ?」
いつもと同じ、フランクなそぶりで南東を指差すアルセニー。
「そういう問題じゃねえ、お前はここに残るつもりなのか?」
「ああ」
「正気か? 追手にやられるぞ」
「それでもな。さっきの子供のうち1人だけだが助かりそうなんだ。俺は最後までその子を守りたい」
アルセニーの目はいつになく真剣だ。正直、ここまで真剣な顔はセルゲイも初めて見た。
「本気なんだな」
「覚悟はできてるさ。こんな仕事してんだから」
「わかった。もう何も言わん」
そう言ってセルゲイはBTRを漁り始める。車内に残されたタブレットや書類をバックパックに押し込み、水や食料、医療品も詰め込んでいく。
一通り、踏破に必要な物を揃えてアルセニーらのもとに向かう。
「アーシャ、ジリノフスキー!」
セルゲイが呼ぶ。
「準備は済んだか?」
アルセニーが返す。
「ああ。それとジリノフスキー、お前も残るのか?」
「俺の経験と知識で救える命を見捨てられない」
ジリノフスキーの覚悟は目を見ればわかった。
「安心しろ。俺らは俺らでどうにかする。お前はなんとしてもこれを世界に公表すんだ」
「わかってる」
「じゃあもういいな」
アルセニーが去ろうとする。
「死ぬなよ」
セルゲイの言葉にアルセニーは後ろ手で返事をした。
その姿を目に焼き付けたセルゲイは地図を確認し、南東の国境に向かい歩き始めた。
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どれだけ歩いたか? 三日三晩、ただ真っ直ぐ国境を目指す。
昼夜の寒暖差でロクに眠れず、疲労はただただ蓄積していく。また、追手の襲撃への警戒を解くわけにはいかず、精神も限界に達しつつあった。
ぼやける視界。脚も鉛のように重い。
ここはどこか? あとどれだけ歩けばいい?
前を見る。長く続いているフェンスが目に入る。金網と有刺鉄線が左右に長く続いている。
金網に掲げられた赤い看板を読む。
WARNING!
BORDER LINE
国境線の警告表示だ。
「ついた……」
AK12とGlock17を投げ棄てる。銃を持ってたらその場で撃たれかねない。
野生動物が破壊したのか? フェンスの金網がひしゃげて穴が空いている。
セルゲイはそこをくぐり、フェンスにもたれて座り込む。バックパックからペットボトルを取り出し、最後の水を飲み干した。まぶたが重くなる。抵抗する力はセルゲイに残ってなかった。
「……かりしろ! おい、大丈夫か?」
肩を揺さぶられ目が覚めた。目の前に2人の兵士が立っている。
「目が覚めたようだな、立てるか?」
「肩を……、貸してくれ……」
「おら、立つぞ」
左右から肩を貸され、どうにか立ち上がった。
「とりあえず拠点に行くぞ。おい、ハンヴィーに乗せろ」
「助かる……」
ハンヴィーに乗せられ、国境警備隊の拠点に連れられる。
助かった。あとは持ってる情報を洗いざらい吐いてなるようになればいい。そう考えながら車に揺られていた。
「おら、着いたぞ」
降車し、兵士に囲まれながら拠点に入る。
「とりあえず、君の官姓名を教えてくれ」
拠点の取り調べ室。指揮官らしき人物に尋ねられた。
「セルゲイ・グルシュコフ。民間軍事企業オリョール・グループ所属のコントラクターだ」
「オリョール・グループ……。ロシア人か?」
「ああ」
「民間軍事会社なら軍属ではないな?」
「名目上は」
「なるほど。んで君が持っていたスマホの動画は確認させてもらった。あれの詳細を話せるか?」
「国に裏切られた。奴らには5、6歳のガキが西側の工作員に見えたらしい」
奴らには呆れ果てた、と言いたげな顔でそう語るセルゲイ。
「ふむ。君が持ってた書類を読めればさらにいろいろわかるだろうが生憎ここでロシア語を読める人間がいなくてな。それにタブレットのロックも解除できない。そういう訳で明日、本部から人を派遣してもらう」
「アメリカの連中に接触できないか? 亡命を希望したい」
もう祖国には戻れないだろう。戻りたくも無いが。愛国心だか忠誠心というものはこうも簡単に消えるものなのか。
「明日派遣されるグループの中にいるはずだ」
「ならいい。あと申し訳ないがシャワーとベッドを貸してくれ。砂まみれだし今にもぶっ倒れそうなんだ」
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翌日。
拠点のヘリポートにUH-1イロコイが着陸する。持ってきた資料やタブレットをアタッシュケースに移し、ヘリに積み込む。
「すまない、世話になった」
「構わんよ。それより、あの事件の証人としてがんばってくれたまえ」
拠点の指揮官は敬礼する。セルゲイも敬礼で返し、ヘリに乗り込んだ。
ヘリでの移動は何度目か。だいぶ乗ってきたが、西側のヘリに乗るのは初めてかもしれない。
「んで、あんたオリョール・グループのコントラクターなんだってな」
隣に座るヒスパニック系の男が話しかけてきた。
「おっと、自己紹介忘れてた。俺はリカルド・サンティアゴ。アメリカ大使館の担当職員だ。よろしくな」
陽気な笑顔で手を差し伸べてきた。
「セルゲイ・グルシュコフ。よろしく」
セルゲイは名乗るが握手はしなかった。
「軽くだが、君が持ってきたスマホの動画を見せて貰った。……正直、言葉が出ない」
「あれが現実だ」
「わかってはいるが、いざ突き付けられると……」
そう言い、リカルドは重いため息を吐いた。重い空気がのしかかる。
「とりあえず、あの資料は我々アメリカ合衆国が責任を持って世界に公表する。君はしばらく潜伏した方がいいだろう」
「おそらく上のヤツらは俺が死んだと思ってると考えるが……」
「どうだろうな。これが公表される以上、生き残りがいると考えるだろうし、君もよく知っていると思うが君たちの政府はその生き残りを見逃すような連中じゃない」
そう言い、窓の外を眺める。この流れる景色の中にも
「……だとしたら、この地球上に俺の安息の地はないな。工作員は世界中にいる」
「その辺の話は大使館に着いたらしよう。今は少し休め」
「……そうする」
そんな会話を交わしながらヘリは近くの米軍基地に着陸した。
セルゲイとリカルドは米軍の軍用車に乗り換え、首都郊外の大使館へ向かう。
車内ではリカルドがBTRから取ってきたロシア軍の書類を読んでいる。
「あんたロシア語読めるのか?」
セルゲイが尋ねる。
「これでも外交官だからな。他にアラビア語と中国語もできる。你好、很高兴见到你」
「なんて?」
「こんにちは、お会いできて嬉しいです。っていったところか」
「多才だな」
「そうじゃなきゃやってけないからな」
当たり障りのない会話を交わしながら、車は大使館に着いた。
大使館のゲストルームに案内され、ソファに腰掛ける。
「んで、亡命を希望するんだってな」
しばらくして現れたのはリカルドだ。
「さっきも軽く話したろ」
「あ、そうだ、俺の本職を話してなかったな」
そう言い、わざとらしい仕草でセルゲイの前に座る。
「リカルドは偽名。俺はCIAエージェントのナゲットだ。改めてよろしく」
「……マジか、全く気付かなかった。つかナゲットってコードネームか?」
「ああ。いいだろ?」
「他にカッコいいのあったろ」
「うるせえ大好物なんだ。あれとコーラの組み合わせは無限にイケるぞ」
「まあ、美味いとは思うが」
「ってな訳でこれから君の亡命とアメリカでの新生活を支援してやろう。ついでに君が望むなら証人保護プログラムを適用してもいい」
「そこまでいいのか?」
「君が持ってきた資料はそれだけの価値がある」
「まあ受けられるなら受けたいが」
「なら手続きを進めよう。順調に進めば二週間後には君は立派なアメリカ国民だ」
こうしてセルゲイはアメリカへの亡命に成功した。そして、セルゲイ・グルシュコフの名を捨て、新たにアルチョム・ルイシコフとして新たなスタートを切る。
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