元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました   作:武装田んぼ

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お待たせしております。武装田んぼです。

しばらく書き溜めいたしますので更新速度が低下します。気長にお待ちいただきたく存じます。



第31話 アルチョムの長い日

 

 

 有マ記念の翌日。

 終業式もとっくに終わり、トレセン学園ものんびりとした平日を過ごしていた。

 そんなのんびりとした雰囲気にあてられてかアルチョムも大きなあくびをしながら廊下を歩く。今日はテイオーのトレーニングも半日のみだ。だが溜まった事務仕事がある。定時までに片付けられるといいが……。

 

Не двигайся с поднятыми(両手を上げて動く) руками()

 

 久々に聞いたロシア語と共に背中に突き付けられる感覚。おそらく、いや確実に拳銃だ。とりあえず両手を上げ、指示に従う。

 ……最悪だ。ついに俺の居場所がヤツらに割れたか。

 

FSB(連邦保安庁)か? SVR(対外情報庁)か?」

 

 敢えて日本語で返す。

 

「スカーレット君、頼むよ」

 

 だが、こちらの疑問を歯牙にも掛けず声の主は一人のウマ娘に命令した。そして現れたダイワスカーレット。確かテイオーのクラスメイトだ。

 

「おいスカーレット、こんなことして何になる⁈ バカなことはやめろ!」

「ごめんなさい、断れなかったんです」

 

 そう言い、彼女は大きな麻袋を取り出しアルチョムに被せる。そしてひょいと担ぐと移動を始めた。

 チクショウ最悪だ。だが、今は無駄な抵抗はせずにチャンスを窺うべき。

 ……クソッタレ、ヤツらは内部に協力者まで作りやがったのか。いや、常套手段といえば常套手段だ。俺が迂闊だった。まさか学園内にまでその魔の手を伸ばしていたとは。

 いつごろから工作を始めていた? 一体どこで俺の情報を手に入れた? 理事長が……? いやまさか。テイオー? ありえない。そんな思考が頭を巡る。とりあえず今はこの状況下における最適な行動を模索すべきだ。

 

 しばらく運ばれ、椅子に座らされたアルチョム。麻袋を取られ、視界に映る二人のウマ娘。ダイワスカーレットとアグネスタキオンだ。タキオンの右手にはマカロフPMが握られている。アルチョムはチラリとマカロフのセレクターとハンマーを確認した。

 セーフティ、解除済み。ハンマー、倒れているがマカロフはダブルアクションだ。引き金を引けば発砲できる。チャンバーに弾は装填されているか? 外見からでは判別不能だ。さあどうする。

 銃を向けられた時の対応は何度か訓練を受けたことがある。手早く銃を奪えればこちらのモンだ。だが相手はウマ娘。腕力で劣るこちらがどこまでやれるか? 

 

「ありがとうスカーレット君。約束のハーブティーだよ」

「ありがとうございます♪」

 

 タキオンからハーブティーのパックをもらい、嬉しそうに教室から去っていくスカーレット。だが、タキオンの手に握られたマカロフの銃口は確実にこちらを捉えている。

 

「……またタキオンさん下らないことしてるんですか?」

 

 そんなタキオンの様子を横から見ている青鹿毛のウマ娘、名前はマンハッタンカフェと言ったか。湯気の漂うコーヒーカップを持ちながら呆れたようにジト目でこちらを見ている。

 

「下らないこととは失敬な。彼の担当ウマ娘、確かトウカイテイオー君だったね。彼女のこれからに関わる重要な話なんだよ」

「テイオーに関わるってどう言うことだ⁈ テイオーは関係ないだろ! あの子に手を出すな!」

「安心して下さいルイシコフトレーナー。何を勘違いしているのかわかりませんが、タキオンさんが持っているのはモデルガンです」

「カフェ君、ネタばらしはつまらないじゃないか」

 

 制服の上に着た白衣の袖をゆらゆら揺らしながらカフェと会話するタキオン。

 

「こういうのは雰囲気が大事なのだよ?」

「その雰囲気のせいでこの人めちゃくちゃ混乱してるじゃないですか」

 

 タキオンを軽く睨むように見ながらカフェはコーヒーを啜る。

 

「まあカフェ君のいうことも一理あるな」

 

 そう言い、タキオンはマカロフをおもむろにアルチョムに渡した。

 

「それを見れば私たちが君の敵ではないとわかるだろう?」

「勝手に私を同類にしないでください」

 

 不満そうにタキオンを見るカフェ。マカロフを受け取ったアルチョムは慣れた手つきでマガジンを抜き、スライドを何度か引く。

 

「ガスガンじゃねぇかこれ。弾も入ってない」

 

 ホールドオープンしたマカロフとマガジンを机に置き、安堵したように今度は脚を広げてゆったりと座る。

 

「ったく、なんでこんな手の込んだことしてんだ?」

「確か半年ぐらい前にテイオー君が持ってきたレポートがあっただろう?」

「ありゃテイオーが勝手に持ち出したやつだ」 

「あのレポートに書いてあった内容は非常に興味深いものでね。私の研究に大きな進展を与えてくれたものなんだよ」

「んで? 俺を拉致してどうするつもりだ?」

「君はテイオー君の骨折対策に何を考えている?」

 

 予想外の展開に少し困惑しつつもアルチョムはその対策を答える。

 

「……そうだな、医者に言われたマッサージにトレーニング中のテーピング、ウォーミングアップとクールダウンの徹底、定期健診を考えているが」

「一般的な対策だねぇ」

「一般的だからこそだ。普及しているということはそれだけ効果が認められている」

「……まぁ、君の言うことも一理あるな。だが、他に対策は思いつくかい?」

 

 他に対策、と言われても思いつかない。探せば何かしらあるかもしれないが、今思いつくものはない。そもそも、これ以上対策を増やすとなると場合によってはトレーニングや休憩などの時間を減らさざるを得なくなる。アルチョムとしてはそれらの時間は減らしたくなかった。

 

「正直思いつかない。それに、下手に対策を増やせばそれだけ時間が取られちまうし、煩雑になれば手を抜いてしまう可能性も出てくる。それでトレーニング時間が減ったり、対策が雑になったら意味がない」

「なるほどなるほど……。君はずいぶんテイオー君のことを考えているようだね。テイオー君は素晴らしいトレーナーと巡り会えたようだ」

「担当のことを第一に考えるのはトレーナーの責務だ。人様の人生を左右する立場ともなればそうもなるだろ」

 

 アルチョムの返答はトレーナーとして模範解答とも言える内容だった。それを聞いたタキオンはより興味深そうにこちらを見る。

 

「少し話しを変えよう。君は、ウマ娘とトレーナーの間で結ばれる絆が、そのウマ娘の運命や限界を超えていく原動力になる。と言う話を信じるかね?」

「可能性としてはあると思うが、そういうのは早々起きるものじゃない。よほどのレアケースだろうよ」

「……ふぅン、そう考えるか。我々ウマ娘という存在に関しては未だに謎が多い。ある説によればウマ娘という存在は遠い遠い別世界で名を残した……、我々とは全く異なる生き物の運命や魂を引き継いでいる。なんて話もある。それはどう考える?」

「……まさか。下らん与太話か胡散臭い陰謀論の類いにしか思えん」

 

 アルチョムは基本的にこういう話を信じないタイプの人間だ。

 

「しかし考えてみたまえ。我々ウマ娘の能力や神秘とされるモノを考えたとき、与太話や陰謀論で切り捨てるには少し無理があると思わないかね?」

「……そこまで考えたことがなかった。だがそう言われたところで考えは変わらん」

「なるほど……。まあそれは君の考えとして受け取っておくよ」

「んでだ、俺はいつまでここにいればいい? 予定があるんだ。さっさと返してくれ」

「まあ待ちたまえ。さっきの骨折対策に戻ろうじゃないか」

「なんか画期的な対策でもあるのか?」

 

 だが、タキオンは何も言わず、机の上に並ぶ無機質な試験管立てから青白い光を放つ液体の入った試験管を数本持ってきた。

 

「飲んでみたm……」

「誰が飲むか」

 

 明らかにヤバそうな液体だ。その発光と色味はどこぞのクアンタムなコーラを彷彿とさせる。アルチョムの脳内では人間としての本能が飲むなと叫んでいた。

 

「何を言うんだい。これはテイオー君の骨折予防のために私が開発した試験薬だよ?」

「明らかにヤバそうな見た目してんじゃねぇか。てかなぜ俺が飲む必要がある」

「身体が発光したら効果が発揮された証拠だ」

「俺の話を聞いてたのか? それに、そんなモンを俺がテイオーに飲ませると思うか」

 

 正論と言えば正論だ。例えそれを作ったのがウマ娘であろうと誰であろうと、青白く発光する得体の知れない液体をの担当ウマ娘に何の躊躇も無く飲ませるトレーナーなどまず存在しない。

 

「まあそう言わずにだな……」

 

 だがタキオンは食い下がらない。

 

「私も現役時代には脚に苦しめられてね……。テイオー君の資料を見る限り、彼女も私と同じように苦労する可能性がある。同じウマ娘として、それは看過することはできないよ」

「そもそもなぜその液体を飲んだら骨折の対策になる? 牛乳でも飲めばいいだろ」

「なら説明しよう」

 

 そう言い、タキオンはアルチョムの前にホワイトボードとタブレットを用意する。そしてあれこれ説明を始めた。

 

「まずこの試薬には我々ウマ娘のみが持つと言われる細胞小器官、ウマムスコンドリアの……(中略)……これによりβ受容体に作用して……(中略)……よって生合成に必要な酵素、それの主成分たるタンパク質の……(以下略)」

 

 瞬く間にホワイトボードは図と化学式で埋め尽くされ、タブレットにはCGで描かれた図が次から次へと現れた。もっとも、アルチョムには何一つわからなかったが。

 

「……と言うことだ。要するにそれを飲めば骨細胞と筋細胞に作用し、その回復力を高める効果が理論上はある」

「……その言い方だと確証は無いようだな」

「残念ながらそう都合よく試薬は作れなくてね。その試薬も、仮に効果があったとしても短期的なもので、精々練習後の気休め程度にしか役に立たないかもしれん」

「副作用とかあるのか?」

「身体の発光」

「絶対に飲まないし、テイオーにだって飲ませないからな」

「科学の発展に犠牲は付きものだよ」

「それで納得する訳ないだろ。ったく、こんな茶番に付き合っていられるほど暇じゃないんだ。モルモット役なら他を当たってくれ」

 

 呆れ返った顔でアルチョムは席を立ち、部屋から出て行ってしまう。だがタキオンは無理に追うでもなく、その背中を見送るだけだ。

 

「追わないんですね」

 

 それを見たカフェが少し意外そうに言う。

 

「わざわざ追うのも面倒だし、あの様子じゃ絶対に薬を飲みそうにないからね。それよりも、彼自身がテイオー君のことを何よりも大切に考えていることがよくわかったよ」

 

 そう言い、机に戻るタキオン。そしてティーポットからカップに紅茶を注ぐと、角砂糖を次々に入れた。

 

「それに彼は少なくともウマ娘とトレーナーの特別な絆というモノは可能性としてあると言っていた。なら、彼自身の可能性を信じてみるのもやぶさかではないと思わないかね?」

「タキオンさんがそのようなことを言うのは意外ですね」

「科学というのはあらゆる方面から分析するものだ。僅かでも可能性があるなら、試す価値はある。これから彼がどう動くか、私は興味が尽きないよ」

 

 興味津々にそう言うタキオン。タブレットに表示されたアルチョムのパーソナルデータを見ながら、砂糖が山のように沈澱する紅茶を啜った。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 その日の夜。

 タキオンとの一件で地味に時間を割いてしまったアルチョムだが、どうにか事務仕事を片付け帰宅していた。

 明日はトレーニング予定も無く、久々の休日となりそうだ。そうなればやることは一つ。

 床下からとっておきのワインを、冷蔵庫からスモークサーモンと生ハムそしてクリームチーズを取り出し、棚からクラッカーを持ってくる。

 それらをテーブルに並べ、どっかりとソファに腰を下ろす。大画面のテレビで動画配信サービスを開き、ある映画を再生した。

 

 “知りすぎていた男”

 1956年に公開された映画で監督はあのサスペンスの巨匠と名高いアルフレッド・ヒッチコックが務めた。某国の首相暗殺計画に巻き込まれた一家を描くサスペンス映画である。アルチョムは昔から古い映画を見るのが趣味だ。

 グラスに注いだワインの豊かな香りを愉しみながら映画を観る。なんと贅沢な夜か。

 

 だが、そんな贅沢な空間を台無しにするインターホンが鳴る。

 

「ったく、なんだよこんな時間に」

 

 ウーマーイーツを頼んだ記憶はないし、ウマゾンの商品が届くのは明日の予定だ。しょうもないセールスかあるいはよくわからん宗教か。

 何であろうと、こんな時間に訪れる奴だ。非常識な人間に違いない。そう思い、インターホンのモニターを見る。

 そこに映るのはなんとも見慣れた三日月のようなメッシュと耳飾り。テイオーだ。後ろにはマヤノとマックイーン、ネイチャもいる。

 何が起きたのか頭の理解が追いつかないが、とりあえずインターホンに応答する。

 

「こんな時間にどうした?」

《詳しくは入ってから話すから》

 

 部屋に上がる前提で話してきた。深いため息を漏らすが、このまま追い返すのも気の毒なので上げてやることにした。

 

「はぁ、おら入れ」

「「「おじゃましま〜す!」」」

「んで、なんで俺の部屋に来た?」

「パジャマパーティーしようってなったから」

「全く意味がわからん」

 

 テイオー曰く、ボクの復帰と有マ記念&今年もお疲れ様を理由にパジャマパーティーを開くとのこと。ただ、寮だと消灯時間があるし騒ぐと迷惑になるからこっちに来たとようだ。

 

「だってトレーナーの部屋地下だからうるさくしても平気じゃん」

「だからって男の部屋に上がり込むんじゃねぇ」

 

 地下階に住んでるのはアルチョムだけだ。それに一階はエントランスと駐車場のため、上階に迷惑をかけることもない。

 なるほど理屈は通っている。が、本音を言えば追い返したい部分もある。そもそもいくら担当トレーナーとて男の部屋に上がり込む神経はどうなってんだ。額に手を当てて悩むアルチョム。そんなアルチョムを、テイオー達は上目遣いで見てくる。こうなるといくらアルチョムでも断れない。

 

「わかった、上がれ。ただし、俺が言うことは絶対に守れよ」

「「「はーい」」」

 

 結局入れてしまった。とりあえずテーブルに広げた晩酌を片付ける。ついでに酒類を棚や冷蔵庫から全部取り出して書斎に移した。書斎のドアは鍵をかけることができる。

 

「一応言っておくが酒は飲むなよ。飲んだりしたら理事長に言って退学させるからな」

 

 教師に準ずる立場である以上、未成年飲酒は看過できない。ついでに書斎と寝室には入るなと厳命しておいた。

 テイオー達に一通り指示を伝えたアルチョム。ティーンエイジャーのパーティーを邪魔するのも気が引けるのでしばらくは書斎に籠ることにした。

 あの大画面で映画を観れないのは心残りだが、こうなった以上仕方ない。パソコンから動画配信サービスにログインしてさっき持ってきた晩酌をお供に続きを観る。が、思うように映画に集中できない。映画をやめてゲームに変更するがこれもどうも集中できなかった。気を取り直して読書をするも、何度も同じ部分を読み返してしまいこれも集中できない。

 それもそのはず、テイオー達はリビングで歌って踊って騒いでのどんちゃん騒ぎをかましていた。どうやら自分達でゲーム機を持って来たようでそれをあの大画面テレビに接続し、遊んでいるようだ。菊花賞の時にテイオーを部屋に入れたことを軽く後悔する。この様子だと寝るのも難しそうだ。

 ……外を出歩こう。

 アルチョムは外出と言う結論に辿り着いた。そうと決まればさっさと着替えて、テイオー達に一言言ってから、深夜の散歩に繰り出す。

 

 時刻は23時を過ぎ、冬の冷たい夜にまばらな星空が広がる。

 

「日本も冬の夜は冷えるな」

 

 真っ白な息が夜空に消え、凍てついた空気はワインでのほろ酔いを醒ました。

 現役時代ならいざ知らず、最近ではほとんど出歩かない時間帯だ。特に何も考えず、多摩川の方へ向かい始めた。

 

 そういやあの時は暗視ゴーグルをつけながら作戦をしたこともあった。ライトグリーンの視界に映るもの全てに神経を尖らせながら、命令に従い、移動と待機を繰り返す。限定された視覚を聴覚でどうにか補いながら作戦行動を進めた記憶。いつどこから弾丸がこちらに向かってくるからわからないあの緊張は二度とごめんだ。そんなことを思いながら、アルチョムは深夜の多摩川河川敷に立つ。

 昼間は散歩している老人やはしゃぐ子供、トレーニングに励むウマ娘で賑やかな河川敷だが、この時間は人もほとんどいない。

 静かに流れる多摩川。アルチョムは特に走るのでもなく、ゆっくりと土手のコースを歩いていく。前を見ると遠くに架かる鉄橋を列車の明かりが流れた。

 見慣れた景色も昼夜が変わると印象も大きく変わるものだ。ちょっとした感心を抱きながら歩く夜。不審な人間を見かけることも無く治安の良さに少し驚きながら、夜道を満喫する。

 

 しばらく歩いているとふと目に入る横道。土手を降り、その横道に入る。さほど遠くまで来てはないが、初めて通る道だ。こういう発見があるから散歩は面白い。

 住宅街の小さな横道。車通りも無く、街灯の明かりが点々と続いて行く。しばらく歩くとコンビニを見つけた。

 

「こんなところにもあったんだな」

 

 興味本位でコンビニを覗くアルチョム。だが様子がおかしい。レジの前にフルフェイスヘルメットを被り、黒いジャンパーとジーンズを履いた男が店員に刃物を突きつけていた。

 

 アルチョムはこの状況をスルー出来るような人間ではない。

 ……治安が良いとか思ったが不届き者はどこにでもいるもんだ。

 電子ベルの入店音とともに自動ドアが開いてアルチョムが現れた。ヘルメットを被った男がこちらを見る。

 

「テメェ、何しに来たんだ⁈」

 

 果物ナイフをこちらに向け怒鳴る男。だが、アルチョムは何も言わず立っている。レジの方を見ると東南アジア系の男性が怯えた様子で両手を上げていた。

 

「クソがぁっ!」

 

 興奮状態にある男はナイフをこちらに向けて突っ込んで来た。アルチョムは右側に避け、イートインコーナーの椅子を掴んで構える。

 ナイフを振りかざして切りつけようと襲いかかる男にアルチョムは椅子を振り回して応戦した。いくらアルチョムといえど、ナイフに対して素手では分が悪い。こういう時は即席でも武器を使うべきだ。

 こちら切りつけようと斜めに振り下ろされるナイフ。アルチョムはそれを椅子で防ぐ。椅子の座面にナイフが突き刺さった。すかさずアルチョムは椅子を自分の後ろへ放り投げる。武器を失った男は万策尽きたのか逃亡を試みるが、アルチョムはもう一つの椅子を掴みその背中に投げつけた。男の背中に椅子が直撃してもんどりを打って倒れる。

 どうにか起きあがろうとする男の脇腹に蹴りを入れとどめを刺し、目の前の商品棚にあったガムテープで両手両足を拘束した。

 

「んで、こいつはいくらだ?」

 

 拘束に使ったガムテープの袋を店員に渡す。店員はだいぶ混乱しているようだが、バーコードをスキャンして会計を行う。

 

「328円です……」

「スマホ決済で」

 

 電子音とともに決済が完了する。それを確認したアルチョムはガムテープの袋をゴミ箱に突っ込んで店を去って行った。

 

 それからは特に何かある訳でも無く帰宅。時刻は午前1時前。部屋に入るとテイオーが出迎えた。

 

「トレーナーおかえり〜」

「ああ、戻ったぞ。まだ起きていたのか?」

「うん、なんか眠れなくて」

「子守唄でも歌えば良いか?」

「嫌」

「……はいはい、俺はシャワー浴びて寝るから、テイオーもさっさと寝ろ。明日も普通に起こすぞ」

「はーい」

 

 リビングに戻るテイオーを見届け、アルチョムもそのままシャワーを浴び、寝支度を行う。

 なんか無駄に疲れた一日だった。そんなことを考えると一気にまぶたが重くなり、その日は終わった。

 

 翌日。

 

「「「お邪魔しました〜」」」

「おう、じゃあな。休みだからって変なことすんなよ。あ、あと次パーティーだか何だかやるなら天野か相田の部屋に行け。いいな?」

 

 そう言い聞かせてテイオー達を帰すアルチョム。玄関のドアを閉じるといつもの静かな休日に戻る。

 

 さて、まずは昨日の映画の観直しといこうか。

 

 





アルチョムのヒミツ①
実は、部屋着の全てがアディ◯スの黒ジャージ。(よくわからない人はゴプニクでググってみよう)


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