元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました   作:武装田んぼ

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第36話 大阪杯

 

 

 大阪杯当日。

 阪神競バ場に現れたテイオーとアルチョム。控室に向かいながら、アルチョムはテイオーに尋ねた。

 

「調子は?」

「今すぐ走り出したいぐらい!」

 

 その言葉を聞いたアルチョムは不敵に笑う。

 

「なら心配はいらないな」

「もちろん!」

「じゃあ準備終わったら呼べよ?」

「はーい」

 

 アルチョムは控室に入るテイオーを見送り関係者席を目指す。

 するとキタサンブラックとサトノダイヤモンドを見かけた。テイオーの応援に来てくれたのだろう。声をかけるために近寄るとその二人に話しかける怪しい男性二人が目に入る。

 一人はメガネをかけ、もう一人はパーカーを着用した男性。面倒なファンかあるいは……。何にせよ、教員としての義務がある。その男二人の背後に立ち、肩を掴む。

 

「ウチの生徒捕まえて何してんだ?」

 

 キタサンらと話していた二人が振り向くとそこには威圧的な灰色の眼でこちらを睨みつける白人が立っている。

 

「「ひぃっ」」

 

 驚く二人。

 

「待ってください、その人たちは悪い人じゃないです!」

「テイオーさんとマックイーンさんのファンで、トレセンのボランティア活動とかにも積極的に参加してる人たちなんです!」

「あ? 本当か?」

「はい! このお二方とも前から知り合いです!」

「もしかしてあなた、テイオーさんのトレーナーですよね!」

 

 メガネをかけた方の男性がアルチョムのことに気づいたようだ。だが、相変わらずアルチョムは疑いの目を向ける。

 

「ああそうだ。それで言い逃れできると思ったら大間違いだぞ」

「だからその人たちは知り合いですって!」

 

 そんな様子にキタサンがアルチョムの前に割って入る。

 

「アルチョムトレーナー、少し疑い過ぎです!」

「アルチョムさん頭固いですよ! さっきから知り合いだって言ってるじゃないですか!」

「……わかった、わかった。わかったから落ち着け」

「先にアルチョムトレーナーが落ち着いてください!」

「ぐっ……」

 

 キタサンとサトノダイヤモンドの二人から詰め寄られたアルチョムが折れる。いくらなんでもこの二人がここまで言うのだ。怪しい人間ではないのだろう。疑念が消えたわけではないが最低限の信頼はして良い。

 

「はい、じゃあ貴方達は自己紹介をお願いします」

「まずアルチョムトレーナーからですよ」

 

 いつのまにか場を仕切るキタサンとサトノダイヤモンド。キタサンに促されるまま、自己紹介を始める。

 

「あー、先程は失礼した。アルチョム・ルイシコフ。トウカイテイオーの担当トレーナーだ。これからよろしく頼む」

「初めまして、みなみと申します」

「どうも、ますおです。よろしくお願いします」

「よろしく」

 

 握手を交わすアルチョムと二人。二人はその手で握られた瞬間に、この男が只者ではないと確信する。彼の手はトレーナーと言う職業からは考えられないほど、岩肌のように硬くごついものだった。

 

「あの、差し支えなければでよろしいので出身や前職をお聞きしてよろしいでしょうか?」

 

 ますおが尋ねる。

 

「アメリカだ。それで……」

「しかもこの人アメリカ軍にいたんだって!」

 

 前職を適当にはぐらかそうとしたアルチョムの返答にキタサンが続けた。

 

「おい余計なこと言わんでくれ」

「別にいいじゃないですか。減るもんじゃないですし」

「ったく」

 

 別に知られたところで偽の情報だから大して困らないが、無駄な詮索をされたくない。

 

「それに去年の天皇賞秋でのマックイーンさんが降着になりそうな時にもテイオーさんと一緒に抗議してたスゴい人なんです!」

 

 キタサンに続いてサトノダイヤモンドが言う。

 

「あれはあのジジイが気に食わなかっただけだ」

「やっぱり噂通りだ」

「ああ、常にウマ娘を第一に考えてる」

「ウマ娘を第一に考えるのはトレーナーとして当然だ。考えないヤツがおかしい」

 

 その話を聞いたみなみとますおはアルチョムに敬服の視線を向けた。だが、アルチョムからすれば当たり前のことをしているに過ぎない。

 その時、アルチョムのスマホが震える。どうやらテイオーの準備が終わったようだ。

 

「とりあえずあれだ、ファンだって言うなら、テイオーとか他のウマ娘の応援頼むぞ」

 

 そう言い控室の方に向かうアルチョム。

 

「あのトレーナー、只者じゃないな」

「ああ、前職は米軍だと言うしな。きっと俺たちじゃ想像もつかない修羅場を潜ってきたのだろう」

 

 そんな会話を交わしながら彼らは観客席へと向かっていった。キタサンとサトノダイヤモンドも地下バ道へ向かう。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 控室。

 テイオーは新調した勝負服に身を包み、その時を静かに待っていた。

 白を基調とした王子様を彷彿とさせる勝負服から打って変わって赤と黄を基調とした冒険者のようなワイルドな格好。そして最後にアルチョムからもらった薬莢のお守りを首にかける。

 胸の上で鈍く輝くくすんだ真鍮の薬莢。テイオーにとって一番のお守りだ。それはアルチョムの過去を知る信頼の証でもある。

 そしてイヤホンを耳に装着して〝心絵〟を流す。前回と違うのはその心絵はツヨシに教えてもらった人のギターカバーという点であろうか。するとドアがノックされ、聴き慣れた声が聞こえる。

 

「入るぞ? いいな?」

「いいよ〜」

 

 ドアが開いてアルチョムが現れる。

 

「音楽聴いてたのか。よければ俺にも聞かせてくれ」

「ん、いいよ」

 

 イヤホンをとり、スマホのスピーカーから音楽を出力させる。力強いギターの演奏が流れた。

 

「ギターカバーか。いいアレンジだな」

 

 アルチョムはリズムに合わせて体を揺らす。かなり気に入ったようだ。テイオーは椅子の上で音楽に耳を傾けながら静かにネイチャとの勝負の時を待つ。

 ついに来たレース! 久々のレース! 

 またボクの無敗伝説が再開するんだ! 

 湧き上がる興奮を静かに抑え、コンディションを整えるテイオー。そして思い出すのは菊花賞のネイチャの走り。あの走りを見るまで、自分より強いウマ娘はカイチョーぐらいだと思っていた。だがそれは間違いだった。

 その場で負けた訳ではないのに、想定で負けただけなのに、あれほど悔しいとは思わなかった。

 勝ちたい。

 ネイチャと全力でぶつかって勝ちたい。

 心の底からそう思った。きっとこの気持ちはネイチャも同じだろう。

 だからこそ、今日、ここで勝負する意味がある。目標へ向かって再び走り出すための第一歩として。自分が復活したことの証明として。憧れに自分の走りで挑戦する決意として。

 テイオーの心の中で漲る闘志。リハビリの中で忘れかけていた興奮が蘇り、蒼い瞳に紅蓮の炎が映る。

 音楽が終わり、テイオーはスマホをしまった。

 

「気合い十分って感じか?」

「うん。絶対に勝ってくるから」

「おう! 楽しんでこい!」

 

 お互いに拳を突き合わせて、テイオーはパドックへ向かう。

 あの様子なら何の心配もいらない。テイオーの堂々とした背中を見送りながらそんなことを思う。

 骨折とリハビリを乗り越えたテイオー。それはテイオーを一回りも二回りも成長させた。そしてまたターフに立つ。そんな姿を見れるのがアルチョムにとって何よりも嬉しかった。

 さあ、行ってこい。

 心の中でそう呟き、関係者席に向かって行った。

 

 パドックにて。

 

《一番人気を紹介します。トウカイテイオー! 素晴らしい仕上がりです》

《骨折からの復帰戦ですが、ブランクを感じさせない走りに期待です》

 

 テイオーがポーズを決めてアピールすると、歓声が沸き起こった。

 

《こちらも負けていません。二番人気ナイスネイチャ》

《気合い十分! これは火花散るデッドヒートに期待できます》

 

 ポーズを取るナイスネイチャ。テイオーの時に負けない歓声が起こる。

 

 パドックでのお披露目を終え、地下バ道へ。炎のようにはためくマントはテイオーの闘志を映しているようだ。そこへ後ろから声がかけられる。

 

「テイオーさーん!」

 

 キタサンが駆け寄ってくる。隣にはサトノダイヤモンドとツルマルツヨシもいた。みんなの笑顔を見ると緊張もほぐれる。

 

「復帰戦、頑張ってください! 私、テイオーさんが勝つって信じてますから!」

「ありがとうキタちゃん! キタちゃんの為にも勝たなきゃね!」

「テイオーさん、私も応援してます! 会長さんに負けない走り、見せてください!」

「ツルちゃんもありがと! ボクの走り、ちゃんと見ててよね! じゃ、行ってくるねー!」

 

 みんなの笑顔と応援を背に、ターフへ向かうテイオー。ウマ娘は人の想いを背負って走ると言う。その言葉通り、テイオーの背にはアルチョムやキタサン、ツヨシにみんなの想いが背負われていた。

 そこから少し離れたところに、今度はネイチャがカノープスのメンバーに囲まれていた。

 

「ネイチャさん、落ち着いて挑めば大丈夫です」

「そうそう、ネイチャちゃん実力はあるんだから」

 

 イクノディクタスとマチカネタンホイザがネイチャを励ます。そんな二人にネイチャはそうね、と返して深呼吸をした。

 

「ネイチャー! テイオーにゼーッタイ勝つんだーっ!」

 

 一際気合いの入った応援。ツインターボがネイチャの前で大きく腕を突き上げた。こういうストレートな応援をされると、純粋に前を向こうと思える。

 

「もう、わかってるわよ。みんな応援ありがと。やってやるわ」

 

 そう言ってターフに向かう。そこでテイオーと鉢合わせた。テイオーはネイチャを見ると、静かに近寄って来る。

 

「ようやくだね、ネイチャ」

「そうね」

「降参するなら今のうちだよ?」

「わかったわ、降参……、なんて言うのはこの前までのアタシよ。今のアタシはその言葉、そのまま返してあげるわ」

「そう来なくちゃ! 勝負だよ、ネイチャ!」

「ええ、やってやるわ!」

 

 互いに目を合わせて、前を向く。二人は堂々とターフに踊り出た。それと同時に湧き上がる大歓声。まるで世紀の一大決戦を期待するかのようだ。そんな歓声に応えるように二人はゲートに入る。

 

《各ウマ娘、ゲートイン完了。まもなくレースがスタートします》

 

 ゲートの先に広がる翡翠の絨毯。久しぶりの光景だ。興奮で胸が熱くなるのがわかる。こんな気持ちは日本ダービー以来だ。テイオーはこの胸の昂りが好きだった。再び味わえる興奮を噛み締めて前を向く。

 

《さぁゲートが開きました! 綺麗なスタートです!》

 

 一斉に飛び出すウマ娘。2000メートル先のゴールを目指し、駆け抜けていく。

 テイオーはいつも通りに先行として前方バ群のやや後方をキープ。状況確認を行いつつ、出方を窺う。ネイチャは後方バ群の中心に控えて脚を溜めた。

 勾配を駆け上がり第一コーナーへ。バ群に動きは無いが、ハナを進む逃げウマ娘の後を追うように一人のウマ娘が先行する。

 

《7番イミディエイト、バ群を抜けて先行しています》

《掛かってしまったのかもしれません。冷静にレースを運べたら良いのですが》

 

 第二コーナーを抜けたウマ娘達はそのまま直線を駆けていく。

 ネイチャは前を走るテイオーを注視しながら、その出方を窺っていた。

 

 大丈夫。あれだけトレーニングしてきたじゃない。脚の調子だって万全。あとは冷静にレースを運ぶだけ。

 はやる気持ちを抑えるように頭の中で呟いた。テイオーや他のウマ娘に気を取られてしまい、本領を発揮できませんでしたなんて結果に終わろうものなら死ぬまで後悔するだろう。そんなことは絶対に嫌だ。

 

《ここで順位を見てみます。現在ハナを進むのは15番ソルダパシオーネ。2番手に8番ハイタイムスーン。注目の2番トウカイテイオーは現在6番手、9番ナイスネイチャは現在10番手となります》

《無理に仕掛けず脚を溜めていますね。終盤で誰から仕掛けるかがポイントです》

 

 たぶんテイオーが仕掛けるのは最後の直線。テイオーの末脚から考えると早めに仕掛けるより、同時に仕掛けて最後の最後で差すべき。

 

 テイオーの背中を睨みながらネイチャは終盤の動きを予測する。

 

《レースは直線を抜け第三コーナーへ。今のところ目立った動きはありません》

《最終コーナーで誰が動くか注目です》

 

 レースはすでに最終コーナーに差し掛かり、逃げのウマ娘はすでにスパートをかけ始めていた。だが、思うように脚が伸びない様子。後ろからバ群がジリジリと距離を詰める。

 ネイチャも少し加速して距離を詰めた。が、テイオーは動かない。

 

《8番ハイタイムスーン、ハナを進むが脚が伸びない!》

 

 先行バ群にいた何人かのウマ娘もスパートをかけ始める。最終コーナーを抜け、直線に入ると同時に先行バ群に隙間ができた。そこを一気に加速して駆け抜けるテイオー。ネイチャも同時にスタミナを脚へ送り込み、前へ踊り出る。

 

《ここで2番トウカイテイオー、ハナに出る! 凄まじいごぼう抜き!》

《さすがトウカイテイオーです。とても半年のブランクがあったとは思えません》

 

 速い……! 

 

 ある程度予想していたが、やはりテイオーのスパートは間近で見ると圧巻だ。

 

 だからって諦めてたまるか! 

 

 ネイチャもテイオーに追いつかんと直線を駆け抜ける。が、思うように前に出れない。そこへ現れたのはツーフォーハインド。ネイチャの右側を凄まじい勢いで上がっていく。

 

《ここで13番ツーフォーハインドが上がって来た! ナイスネイチャは思うように脚が伸びない様子!》

 

 前を走るツーフォーハインドの背中を睨むネイチャ。必死に食らいつくが、差は縮まらない。

 

 アタシが勝負したいのはテイオーなのに……! 

 

 有マ記念で3着に終わった記憶が浮かぶ。

 あの悔しさを拭うためにここまで来たのに、テイオーと勝負するためにここにいるのに、アタシはこのまま終わっちゃうの……? 

 必死に前へ前へと脚を運ぶが、なぜかいうことを聞かない。あの時と同じように、次の一歩を躊躇っているようだ。

 その時、ネイチャの耳に聞こえた一際大きな応援。

 

「ネイチャ負けんなーっ!! テイオーを抜かすんだぁーっ!!!」

 

 ツインターボが声を張り上げる。わざわざ勝負服まで着て、その小さな身体を必死に使ってネイチャに声援を送っていた。

 それを耳にしたネイチャは俯きかけた顔を上げ、ゴールの先を見る。

 そうだ。ここで諦めるんじゃない。諦めるのは100回負けてから考えるんだ。

 

 諦めるもんかっ! アタシが勝つんだぁっ!! 

 

 力強くターフを踏みつける左脚。踏みつけられた芝を抉り加速する。さっきまでの躊躇いが嘘のように消え、その目には再び闘志が宿る。

 

《ナイスネイチャ、ここで一気に上がって来た! ツーフォーハインドとの差を埋めていく!》

《去年の菊花賞を思わせる素晴らしい走りです》

 

 その勢いでツーフォーハインドを追い抜かし、テイオーの背中に食らいつく。

 

 アタシが勝負するのはテイオー! 

 

《ナイスネイチャ、トウカイテイオーを追走! その差は現在1バ身! テイオーが逃げるか、ネイチャが差すか!》

 

 先頭を走りながら後方を確認するテイオー。力強い走りで追走するネイチャの姿が目に映る。

 

 ようやくネイチャが本気を出してくれたね! 

 

 だからボクも、本気の本気を見せてあげる! 

 

 それを見たテイオーは抑えきれない興奮を感じた。この興奮だ。後ろからライバルが追い上げてくる緊張感と、絶対に前を譲らないという決意。

 その二つがパワーとなり、テイオーの脚をさらに前へと運ぶ。

 

 近づいてくるテイオーの背中。だが、その僅かな差が埋められない。

 

 あと一歩! あと一歩なのに! 

 

 手を伸ばせば届きそうな距離。だが、その距離が信じられないぐらいに遠い。それでもネイチャは諦めなかった。諦めたくなかった。それは、今ここにいることが自分の努力の証拠であり、そして夢を叶えるために必要だからだ。

 その距離を少しでも縮めようと必死に脚を前に出す。あと僅かで届きそうで届かないテイオーとの距離はまるで夢との距離を表しているかのようだった。

 

 もう少し、なのに……! 

 

《トウカイテイオー、今1着でゴール!! トウカイテイオー、見事復帰戦を制し、その実力を示しました!!》

 

 諦めなかった。全身全霊でテイオーに並ぼうとした。だが、あと僅かなところで決着がついた。少しづつスピードを落とし、ターフの真ん中で止まる。

 

 走り切った。

 でも勝てなかった。

 悔しい、悔しい悔しい悔しい! 

 

 息を切らしながら、地面を睨む。そこに近寄ってくる一人のウマ娘。顔を上げるとテイオーがいた。

 

「ネイチャ、お疲れ」

「……またアンタに負けちゃったわ」

「そうだね。でもさ」

 

 そう言うとテイオーは観客席の方を向く。ネイチャも観客席の方に意識を向けた。

 

「よくがんばったぞ! ネイチャー!」

「最後の走り、感動したわ!」

「ネイチャの走り、一番輝いてたぞ!」

「ネイチャのおかげで、俺もがんばれそうだ!」

 

 観客席から聞こえるのはネイチャを祝福する声援だ。それも一つや二つではなかった。

 

「勝ったのはボクなのにさ。でも、ボクもネイチャの追い上げは見たよ。アレ見せられたらボクだって本気のその上まで出しちゃうよ」

「……ってことは、アタシの本気がアンタをもっと強くしちゃったってワケね」

 

 ホントにテイオーはどこまでも主人公なんだから。なんて思うネイチャ。だが、このまま終わりにはしたくない。

 

「テイオー、アンタに負けたのはめちゃくちゃ悔しい。でも、アンタは今日ここで勝ったんだから、絶対に春シニア三冠獲りなさいよ? もし途中で負けたりして諦めました、とか言ったらその頬っぺたにビンタしてやるわ」

「ありがとうネイチャ! 大丈夫だよ、なんたってボクは最強不屈のテイオー様だからね! 春シニア三冠だってパパーっと獲っちゃうから!」

 

 そしていつものようにいたずらな笑顔を浮かべたテイオーが手を差し出す。その手をネイチャは力強く握った。

 

「今日はおめでとう。でも次はアタシが勝つから覚悟なさいよ」

「いつでも受けて立つよ、ネイチャ」

 

 そんな二人の健闘を讃えるように湧き上がる大歓声。歓声に応えるようにテイオーはネイチャの手を引いてウィナーズサークルに向かう。

 

「ちょ、ちょっとアタシは……」

「いいじゃん! みんなネイチャのことあんなに褒めてるんだから、一緒に行こ!」

 

 サークルで大きく手を振るテイオーとその隣で照れ臭そうに手を振るネイチャ。

 

「テイオーさん! やりましたね!」

 

 身を乗り出して手を振るキタサン。その隣でサトノダイヤモンドとツヨシも拍手していた。

 さらにその奥の観客席からはさっきのみなみとますおが、肩を組んでテイオーとネイチャを祝福している。

 

 両手と尻尾を元気に振りながらテイオーを祝福するウマ娘達。その隣でアルチョムはテイオーとネイチャ、そして無事にレースを終えた出走ウマ娘達に拍手をしていた。

 

 さすがだ、としか言いようがない。さあ行ってこい、なんて思っていたが、やはり心のどこかで不安だった。上手く走れないのではないか、レース中にケガしたりしないか、そんな心配がなかったかと聞かれたら、あったと答えるだろう。トレーナーとして、どんなレースも無事に戻ってきてくれるまで心配してしまう。

 亡命後に初めて競バを見たときはこんな事情があるとは思わなかった。ただ走るだけ、そう思っていた部分も少なからずあった。それはもちろん、彼がかつて軍やPMCで危険と隣り合わせの訓練を行なっていたからだ。あんな過酷な訓練と比べれば……、と軽んじていたが、トレーナーになるための講習で幾つもの事故事例を学んで驚愕した。その事故事例の中には選手生命を絶たれた例や、死亡例すらあった。

 

 だからこそ心配になる。が、心配しているだけでは前へ進めない。トレーナーならばその心配を振り払い、優しくウマ娘の背中を押してやるのだ。そうすればきっと、ウマ娘はこちらの期待に応えてくれる。

 無事に戻ってくる、という期待に。

 

「テイオー、ネイチャ! よくがんばったぞ!」

 

 喝采を浴びるテイオーとネイチャを褒め称えるアルチョム。その声を聞いたテイオーはその日一番の笑顔をみせた。

 

 






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