元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました   作:武装田んぼ

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トレーナー前日譚第3話です。
やっとウマ娘らしくなってきました。




前日譚 トレーナー後編

 

 

 ニューヨーク。

 眼下に広がるセントラル・パークを眺めながらアルチョムはホテルの一室でモーニングコーヒーを啜る。

 

 一か月前からは想像も出来なかった状況だ。

 ロシアから亡命し、新たにアメリカ市民としての生活がスタートした。

 大使館であれこれ手続きを済ませつつ、健康診断を受け虐殺事件の事情聴取を繰り返すこと二週間。それから飛行機に乗り、途中イスタンブールを経由してニューヨークに到着した。

 

 着いたばかりは随分と時差ボケに悩まされたが、あれから一週間も経てばだいぶ改善された。

 

《…で発生した難民キャンプ爆撃事件を受け、NATOはロシアに対する経済制裁を強化する方針だと発表しました。先日の採択決議により…》

 

 テレビであの事件が報道されている。ニュースキャスターの背後にはアルセニーがスマホで撮った映像が繰り返し流れている。

 

「アーシャ……、お前はこれで良かったんだよな……?」

 

 ニュースを見ながら呟く。あれ以降、アルセニーもジリノフスキーも安否はわかってない。もちろん、あそこで生き残った難民もだ。

 

 俺だけ生き残った。

 

 その事実が心を支配する。あの時、俺も留まり最後まで共にすべきだった、そんな考えが頭をよぎる。いや、違う。祖国の過ちを世界に公表できるのは俺しかいなかった。

 そう考え直し、コーヒーを飲み干した。

 

「さあ、これから俺は再スタートを切るんだ。落ち込んでないで進め!」

 

 頬を叩き、気合いを入れる。

 そうだ、せっかく生き残ったんだ。

 ならやれるだけのことはやってみせよう。なんて思いながらスマホを見るとちょうど通知が来た。

 

[ナゲット:よう、アルチョム! どうせ暇だろ? 下にいるから来いよ!]

 

 暇であることは事実だが、どうせなどと言われると腹が立つ。が、断る理由も無いのでさっさと準備して部屋を後にした。

 

 エントランスを抜け、通りに出るとナゲットがSUVに乗りながら手を振っている。

 ナゲットもアルチョムと共にアメリカに帰国した。どうやら休暇のようで、この前も買い物に誘われた。

 

「とりあえず乗れよ」

「んで、何用だ? また彼女へのプレゼント選びって言ったら帰るからな?」

 

 助手席に乗り込みながらアルチョムは言う。

 

「この間は悪かった、今日はスポーツ観戦だから安心しろ」

 

 ナゲットはそう言いながら車を動かし始めた。

 

「スポーツ観戦? ならアメリカンフットボールか?」

「ハズレ。まあアメリカンフットボールも面白いんだがな」

「バスケ?」

「違うな」

「野球」

「残念、正解は競バだ」

「競バ?」

 

 どっかで聞いたことはある。確かレースだったか?

 

「ウマ娘って知らんのか?」

「あー、耳と尻尾の生えた少女か。空挺軍にいた時に何度か関わったが」

「まあロシアで競バはあんまイメージないからなぁ。あの子達めちゃくちゃパワフルだし走るの速いだろ? それを競うんだ。かなり白熱するんだぜ、あれ」

「へぇー、ウマ娘なんて軍隊でやたらと武器背負ってたり、農家で手伝っていたのは見たことがあるがなんか競技してんのはほとんど見たことがない」

「そうか、なら今日の競バは楽しみにしておけ。あれを初めて観た感動は一生忘れられないぜ」

 

 しばらく競バの魅力を語るナゲット。その目はまるで映画を観に行く子供のように輝いている。

 

「俺の母親はウマ娘でな。昔日本のトレセン学園でサポートトレーナーをしてたこともあるんだ。その時に使ってた蹄鉄は今でもウチに取ってある」

「へぇ、日本でねぇ……」

「お、日本に興味あるのか?」

「いや、日本語話せるってだけ」

「そりゃまたなぜに?」

「昔孤児院にいた時にな、日本のアニメが流れてたんだ。確かドラゴンボールとかってタイトルだった。ロシア語の字幕がついてたけどちゃんと何喋ってるか理解したくてな。孤児院の大人連中から金をくすねて日本語辞典まで買ったよ。そのあとは軍隊でも学ぶチャンスがあった」

「じゃあそれなりに話せる訳だ」

「軍隊で習ったきりだからどこまで覚えているかわからん。通じるかは未知数だ」

「確か今日その日本のトレセン学園から人が来ているハズだ。お前の日本語力を試してみるといい」

「いきなり話しかけてもビビられるだけだろ」

「まあまあ、ものは試しだ。俺もフォローに入ってやるから」

 

 車は郊外に向かい、ベルモントパーク競バ場に着いた。駐車場に車を停め、入場ゲートに向かう。

 

「すごい人出だな」

 

 辺りを見回すアルチョム。

 

「今日はマンハッタンステークスだからな。東海岸最強のウマ娘が決まるんだ。注目も集まるさ。あとあんまりキョロキョロしてると田舎者に思われるぞ」

「余計なお世話だ」

 

 ふと、ウマ娘の銅像が目に入る。

 

「なんの像だ?」

「ああ、それか。昔は競バで賭博してたんだよ。誰が1着になるかってな。だがいつぞやのステークスの結果にあるマフィアのボスがブチ切れちまってな。とんでもない事件になったんだ」

 

 思い出すように話すナゲット。

 

「ま、詳細はいつか話すよ。長くなるしな」

 

 そう言い、さっさと先に歩いて行く。

 

「へぇ、いろんな歴史あるのな」

 

 アルチョムは軽く聞き流していた。

 入場券を購入し、体温測定器に顔をかざしてから観客席に向かう。

 

「先に席に行ってくれ、売店でスナック買ってくる」

「あ、おい待て……、行っちまったよ」

 

 仕方なく、案内板を頼りに購入した席を探す。

 

「Lの124だから……、この列か」

 

 随分と迷ったがどうにかたどり着いた。

 

「遅かったじゃないか」

 

 そこにはコーラとチキンナゲットのバレルを抱えて座るナゲットがいた。

 

「お前急に消えるから迷ったんだぞ?」

「悪い悪い、ほら、コーラもナゲットも奢りだから許してくれよ」

 

 手渡される大きめの紙コップとパックに入ったチキンナゲット。内心ホットドッグがよかったと思ったが口に出すのも申し訳ないのでありがたく受け取る。

 マスタードをチキンナゲットに付け、口に放り込む。アツアツのチキンナゲットは噛むたびに旨味が滲み出てくる。

 

「イケるなこれ」

「だろ?」

 

 久しぶりのジャンクフードに舌鼓を打つアルチョム。ふと後ろから声がかけられる。

 

「お、ナゲット君ではないか!」

 

 振り向くと帽子の上に猫を乗せた少女が立っている。周りには関係者だろうか。背広を着た男女が数人立っていた。

 

「ああ、秋川理事長! お久しぶりです!」 

 

 挨拶するナゲット。

 

「知り合いか……?」

「一応な、何を隠そう彼女は日本のトレセン学園の現理事長、Ms.秋川やよいだ」

「こんなちんちくりんが?」

「バカかお前!」

 

 ナゲットにど突かれるアルチョム。

 

「若くして理事長の職務を受け継ぎ献身的にウマ娘達を支える日本のウマ娘界には欠かせない重要人物だぞ! すいません理事長、コイツロシアから亡命したばかりで世間知らずでして……」

「お前もお前で余計なことべらべら喋るよな。よくCIAが務まるもんだ」

「……こほん、容赦! まあ、私の見た目では仕方ない部分もある。ところで君は何者だ?」

 

 彼女が手にする扇子で指される。

 

「あー、アルチョム・ルイシコフ。コイツの言う通り、いろいろあってついこの前ロシアから亡命してきた」

「亡命! なるほど、なかなか難義な経歴を持っているようだな。ところでこれからどうするかは決まっているか?」

「いや、ほとんど何も……」

「ふむ。ならまた後で話そう」

 

 そういい去っていく理事長。

 

「なんなんだ今の」

 

 理事長の後ろ姿を見ながら軽く混乱するアルチョム。そうこうしてる間にレースが始まろうとしていた。

 ゲートに入るウマ娘達。その表情は自信と決意に満ちている。なるほど、ナゲットがあれほど熱く語る訳だ。

 

 そしてレースがスタートする。ゲートから綺麗に飛び出すウマ娘達は力強く、美しかった。

 

「すげぇ……」

 

 ターフの上を疾るウマ娘。その姿にアルチョムは感動した。自分の夢や理想をその走りにぶつける姿は彼に羨望の念すら抱いていた。

 

「ほほぅ、あれほど目を輝かせる者を見たのは久しぶりだな」

 

 その姿を秋川理事長は見逃さなかった。

 最終コーナーに入りスパートをかけるウマ娘達。彼女達の全身全霊がここにぶつけられる。   

 アルチョムは身を乗り出してターフに釘付けになっていた。

 

「行け! 行け! 走るんだ! ぶちかませ!」

 

 拳を振り上げ、ただただ応援する。その姿はまるでヒーローを応援する子供のように無邪気だ。

 

 一人の優駿がゴール板を駆け抜け、勝利が決まる。

 会場のボルテージが最高潮になると同時にアルチョムも立ち上がり、大きな拍手を送っていた。勢いでナゲットと肩を組み、二人でウマ娘達にエールを送る。

 

「はぁ、素晴らしかった。こんな感動は人生で初めてかもしれん」

 

 観客の声援に答えるウマ娘を眺めながらアルチョムはただひたすら拍手をしていた。

 

「お前も競バの素晴らしさをわかってくれたようで何よりだ」

「競バってのは面白いな。仕事やるんなら競バ関連で探してみるのも悪くないかもな」

 

 目を輝かせながら言うアルチョム。

 

「採用! その意気やよし!」

 

 後ろから大声がした。驚いて振り返るとさっきの秋川理事長がいるではないか。

 

「アルチョム君、君がウマ娘に興味を持ってくれたようで何より! ぜひ我がトレセン学園のトレーナーになってみないか!」

 

 いきなりのスカウトだ。

 

「ま、待ってください、まだ決めた訳では……。それに俺はズブの素人です。トレーナーなんて大層な仕事は……」

「まあ、採用! なんて言ったが、実際にはちゃんと試験や講習を受けてもらうし、試験結果があまりにも酷ければさすがに無かったことにしてもらうが……。とりあえず、アルチョム君にはぜひ適性試験を受けてもらいたい! 良いな?」

「は、はぁ」

「よし、そうと決まれば早速明日、ニューヨークトレセン学園で待ってるぞ!」

 

 そう言われ、数枚の書類が入ったクリアファイルを手渡す理事長。内容は履歴書やニューヨークトレセン学園への案内図、そして試験の概要がまとめられていた。

 

「おっと、忘れてた。アルチョム君はどれぐらい日本語ができるかね?」

 

 秋川理事長はアルチョムを日本に連れて行く気なのだろう。

 

「すこしていど、にちじょうかいわぐらいなら……」

 

 ぎこちない日本語で返すアルチョム。

 

「了解! 多少の日本語講習を受ければ大丈夫!」

「……大丈夫なのか?」

「では明日、会場で待ってるぞ!」

 

 満足気に去っていく理事長。 

 

「よかったじゃないか。うまく行けば仕事につけるぞ」

 

 肩を叩きにこやかに笑うナゲット。

 

「あとな、このレースで入着したウマ娘達は後でライブするんだよ。あれも盛り上がるから行くぞ」

「なんでライブする?」

「んー、応援してくれたファンへの感謝とか勝負への想いだとか、あとはライバルや親友への宣戦布告もあれば告白のようなものまで様々だ。彼女たちがターフにぶつけたものを今度は歌にして俺たちにぶつけるんだ」

「なるほど、しかしまあ走って歌って踊って、なんてすごい体力だな」

「それができちまうのがウマ娘ってやつさ。さて、ライブまで時間あるしメシでも行こうぜ。近くにうまいハンバーガー屋があるんだ」

「さっきあんだけナゲット食ってたろ」

「ありゃおやつみたいなもんよ」

「まあいいや、俺もまだ食えるし行くか」

 

 そのまま食事を済ませ、ライブ会場に向かった。アルチョムにとって始めてのライブだ。

 

 正直、歌詞の意味は半分くらいしかわからなかったが、それでもアルチョムの心を震わせるには十分だった。夢を叶え、自分の想いを込めて歌うステージに立つウマ娘達。

 

 彼女達の輝きはアルチョムの人生には今まであり得なかったものだ。戦場に居場所を得て、そして失った彼は彼女達を見ながら、何かを取り戻せそうな感覚に襲われた。それは失った青春か、夢か、将来か、はたまた過去か。

 

 聴いたままに歌詞を口ずさむ。

 夢を持て、叶わぬ夢でも追い続けろ。最後まで走った者に夢は微笑む。

 そんな感じの歌詞だった。ライブが終わり、ウマ娘達は手を振りながらステージを去っていく。

 

「よかったろ? これが競バってやつs……、あんた、泣いてるのか?」

「……ああ、すまん。俺も泣けるんだな。難民の子供が目の前で死んだ時も泣かなかった俺がよ……。それとも死を見過ぎたことで感覚がイカれてんのかもな」

 

 静かに涙を流す男にナゲットはかける言葉が見つからない。

 

「先に車に戻ってくれ。帰っても構わん。少し一人にしてくれ」

「あいよ」

 

 軽く肩を叩きナゲットは人混みに消える。

 ほとんど人がいなくなったステージ会場。アルチョムは涙を流しながら一人立っていた。

 隣から声がかけられる。

 

「すごい感動してくれたんですね! ありがとうございます!」

 

 隣を見る。ドレッドヘアに浅黒い肌のウマ娘が立っていた。彼女は大健闘したものの、レースでは惜しくも5着の結果だった。

 

「こんな感動は初めてだ。涙を流したのも本当に久しぶりだよ」

「そうなんですか?」

「ああ。長らくロクでもない仕事を繰り返してたからかな。感動なんてなかった。あの仕事にあったのは怒りと恐怖と憎悪だった。国家だイデオロギーだ、下らんモン掲げて僅かな安心や利益を得る為に他人を地獄に叩き落とす、そんな仕事だ。やっと足を洗うチャンスに巡り合えて、いま俺は生きてここで感動している。久々に人間らしさに触れた気分だ……。君の走りも見ていたよ。1着にはなれなかったけど大健闘だ。最後のコーナーで走る姿は誰よりもカッコよかった。あんなカッコいいウマ娘と競えて、今日の選手はみんな幸せだろうな……。おっと、長々とすまない。ついしゃべってしまった」

「あ、ありがとうございます! その、すごいトレーニングして挑んだステークスで……、でもギリギリ入着で……、少し自信が無くなっちゃってて……、でも誰かに感動を届けることができたんですね……!」

 

 その子の目は潤んでいた。今にも溢れそうな涙が、照明に照らされて光る。

 例え1着を取れなくても出走した全てのウマ娘にそれまでのドラマがあり、そして続いていく。

 

 俺もこのドラマを左右する立場になるかも知れないのか。

 他人の人生に責任を持つ立場に。

 

 ……他人の人生に責任を持つ立場か。今まで散々他人の人生を潰してきた俺が? ハッ、笑わせるな。それが贖罪にでもなるというのか? それで罪滅ぼしのつもりか? あの難民の子供への償いか? 過去の清算になると思うのか? 

 

 自嘲気味に思考が巡る。でもその通りだった。散々人に向けて引き金を引いてきた人間が何をほざくのか。

 

 それでもあの感動は本物だ。そうでなければこんな思考すら生まれない。このチャンスを逃せば次があるかはわからない。なら活かすまでだ。

 何かを決心したアルチョム。

 

「君の走りは最高だった。俺はずっと応援しているよ」

 

 そう伝えて、人の消えたステージを後にする。そのウマ娘の嗚咽が少しの間続いた。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 翌日。

 

「ここか?」

 

 地下鉄を乗り継ぎ、昨日レースを観戦したベルモント・パーク競バ場から少し離れた場所に位置するニューヨークトレセン学園。

 早速校門から校内に入る。

 

「何者だ!」

 

 いきなり怒鳴られ、慌てて右を向くとプレートキャリアを装備した警備員らしきウマ娘がM4A1*1をこちらに向けている。

 

 アルチョムは咄嗟に右太腿に手を伸ばそうとするが、今は拳銃なんか持っていない。身体に染み付いた癖だ。撃たれてしまう前に両手をあげ、ウマ娘を見る。

 

「入校許可証があるなら、門右側の窓口に見せるんだ。無いなら失せろ!」

「待て、わかったから銃を下ろせ!」

「見せるまでは下ろせない、許可証はあるのか、無いのか!」

「バッグの中にある。今出すから撃つな」

 

 スリングバッグを下ろす。

 

「待て! 中身を見せろ!」

「まだ疑うのか……?」

「あ、警備さんちょっと待って!」

 

 後ろから声がする。振り返ると昨日のドレッドヘアのウマ娘だ。

 

「その人は不審者じゃないです!」

「知り合いか?」

「昨日のステークスでファンになってくれた人なんです」

「ファン?」

「ああ、んで日本トレセン学園の秋川理事長って人にスカウトされたんだ。その適性試験を受けに来た」

 

 バッグからクリアファイルを引っ張り出し、書類を見せる。

 

「なんだ、先に言ってくれれば素直に通したのに」

 

 言う間を与えずに銃を向けたのは誰だと思ったが口には出さなかった。

 

「すまない、時々過激なファンがいるんでな。警戒を強化しているんだ」

「いや、仕方ない。生徒たちの安全が優先だからな」

 

 申し訳なさそうな表情で言う警備員に穏やかな顔で返すアルチョム。内心ではだいぶ慌てていたが、平静に振る舞う。

 

「あの、事務所の方まで案内しましょうか?」

 

 さっきのウマ娘が近寄ってくる。

 

「いいのか? まあ、時間があるなら頼む」

「いいですよ、こっちです」

 

 そのウマ娘は建物を指差して歩いていく。

 

「秋川理事長にスカウトされたんですか? すごいじゃないですか!」

 

 そのウマ娘はキラキラした目でこちらを見てくる。

 

「たまたま昨日のステークスで会ったんだ。知り合いの知り合いだった」

「すごい偶然ですね! ってことは日本のトレセン学園に行くんですか?」

「かもな。まあ試験受けて落ちればそれまでだが」

「大丈夫です! 昨日の私はあなたの言葉でまだまだがんばらないとって気持ちになれたんです! あれだけちゃんと私たちを見てくれるなら絶対トレーナーになれますよ!」

 

 彼女なりに応援してくれているのか。アルチョムも自信が湧いてきた。

 

「ありがとよ。でも俺がトレーナーになったら日本に行くことになるのか?」

「あ、秋川理事長と話したならそうかもしれないですね! そういえば日本に私の友達のグラスワンダーちゃんがいるんで会ったら話してみてください。すっごく良い友達なんです!」

「わかった、グラスワンダーちゃんな。覚えておくよ」

「はい、あ! 事務所そこです。私そろそろ授業あるのでまたいつか!」

 

 そう言い残し、風のように去っていくウマ娘。

 じゃあな、と手を振ったところでアルチョムは気づいた。名前を聞きそびれてしまった。とはいえグラスワンダーと言う名前は覚えた。日本で会ったら挨拶しよう。

 そう思い、事務所で書類を提出する。

 

「お待ちしておりました。今係りの者が案内致します」

 

 その後、適性試験を受けたアルチョムは見事合格。秋川理事長も太鼓判を押す結果だった。こうしてアルチョムは日本行きの切符を手にした。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 ジョン・F・ケネディ国際空港。

 キャリーバッグを持ったアルチョム。

 

「もう少しアメリカにいてもよかったんだぞ?」

 

 残念そうに言うナゲット。

 

「講習とか日本語の勉強し直したり手続きやら何やらやることが多いからな。時間がいくらあっても足りん」

 

 スマホの予定表を見ながらアルチョムが返す。

 

「ま、頑張れよ。将来の名トレーナーさん」

「まだどうなるかわからん。何もかもうまく行かずに戻ってくるかもしれん」

「なぁに、あれほど感動してたんだ。あの感動を忘れなければお前は大成するさ」

「ありがとよ。やるだけやってやる」

「なら、もっと気合い入れて行けよ!」

 

 思い切り肩を叩くナゲット。

 

「あいよ。……とりあえず、アンタには世話になった。亡命から国籍の取得、職の斡旋まで」

「いいんだよ。半分くらい仕事だしな」

「それでもな。スカムみてぇな人生が初めて輝き始めたんだ。アンタのお陰でな」

「そう言われると照れるぜ全く。ほら、そろそろゲート開くぞ。行ってこい」

「おうよ」

 

 出国ゲートに向かい歩き出すアルチョム。前に歩き出した男の背中を見て満足そうにナゲットは人混みに消えていった。

 

 

*1
アメリカ軍で採用されていたアサルトライフル。アメリカに於いては民間にも広く普及している






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