元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました   作:武装田んぼ

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第41話 激闘を終えて

 

 

 天皇賞春を制したテイオー。無敗の春シニア三冠に王手をかけたその勇姿に日本中が湧いた。そして次の宝塚記念への期待が高まる中、アルチョムとテイオーはまた健診の為、真田医師の元を訪れていた。

 

「ボクの脚は平気だよ〜!」

「それを判断するのは医者だ。素人判断なんかアテにならん」

「うぅ……」

 

 前回と同じようにレントゲンを撮り、処置室へ。しばらく待っていると真田医師が戻ってくる。その表情は硬めだ。何かを察したテイオーが恐る恐る尋ねた。

 

「せ、先生、ボクの脚は平気だよね……?」

「少し申し上げにくいのですが、かなり危険な状態です」

 

 処置室のモニターに表示されたレントゲン画像を見ながら真田医師はそう言った。その瞬間、テイオーの表情は今にも泣きそうになる。

 

「え、ええっ! ボク、また走れないの⁈」

「落ち着いてください。骨折した訳ではありません。ただ、少しの間安静にする必要があります」

「期間はどれぐらいで?」

「最低でも3週間はトレーニングなどを控えてください」

「さ、3週間も⁈ そんなぁ……」

「3週間ですか。わかりました」

「わかりましたって……。トレーナー、これじゃ宝塚勝てないよぉ」

「落ち着けテイオー。ここで無理したら宝塚もクソもないだろ。トレーニングは俺がなんとかするからテイオーは全力で脚を治せ。いいな?」

「はーい……」

「テイオーさん、ここでしっかり脚を休めたらまた走れるようになります。ほんの少しの辛抱です」

「うぅ、わかったよ先生ぇ……」

 

 そのあと、真田医師からいくつかの説明を受けた。アルチョムが日頃から実施していたテーピングやマッサージ、クールダウンにより症状の悪化を抑えられたことや、この3週間の間に可能なトレーニングのことなどを聞き、アルチョムはそれをスマホにメモしてタブレットに送る。

 

「では3週間後、もう一度受診をお願いします」

「了解です」

「はーい」

 

 明らかにテンションの低いテイオー。そんなテイオーを連れてアルチョムは処置室を後にした。そして待合室のソファに座り、会計を待つ。

 

「また走れないなんて……」

「むしろ早めに発見できてよかったろ。骨折してからでは遅い」

「そうだけどさぁ……」

「それに走る以外だってトレーニングはある。座学だっていろいろあるし、脚に負荷をかけないトレーニングならできるって医者も言ってだろ。ならプールやジムでできるトレーニングをやりゃあいい」

「はーい」

 

 それでもやはりテンションは低い。仕方ないといえば仕方ないが。

 そんな訳でトレセンに戻り、明日のトレーニングに参加予定だったキタサンブラックも交えてしばらくのトレーニング予定を話し合う。最近は定期的にキタサンがテイオーのトレーニングに参加するようになった。本格化もまだだし、チームを組んだ訳でもないが、まあ本人が希望してるならそれでいいだろう。樫本代理や一部のトレーナーからはあまり快く思われてないが知ったことか。

 

「明日の並走は取りやめだ。とりあえず座学に変えるぞ」

「座学かぁ、まあ仕方ないけどさぁ」

「座学は何をやるんですか?」

「いくつかビデオがある。それにウマチューブに上がってるレース動画もあるし、テイオーの今までのレース動画を見返してもいい」

「動画観るだけ?」

「脚に負担をかけないならフォームの研究ぐらいはできる。だからその辺をやるぞ。いいな?」

「「はーい」」

「よし、解散!」

 

 この日は早めに切り上げることにした。テイオーの脚が危険な状態である以上、あまり無茶はできない。なら、しばらくは休養と回復に専念すべきである。アルチョムはそう判断した。

 

「あれ? マックイーンからLANEきてる」

 

 スマホを取り出したテイオーが画面を観ながらいきなり驚く。

 

「え⁈ ウソ! は、早く病院に行かなきゃ!」

「おいどうした」

「何かあったんですか⁈」

「マックイーンから骨折しちゃったって……。ボク、病院行ってくる!」

 

 そのままトレーナー室を飛び出すテイオー。

 

「おいバカ! 脚ヤバいんだから走るな!」

 

 そんなテイオーをアルチョムとキタサンが追う。今にも走り出しそうなテイオーを2人で捕まえて落ち着かせた。

 

「テイオー、心配するのはよくわかるが落ち着け。歩いて病院いくぞ」

「私もマックイーンさんが心配ですけど、テイオーさんのことだって同じくらい心配なんですよ!」

「それはそうだけど心配なんだよぉ。ボクの時、スッゴイ辛かったし」

「それで慌ててテイオーまで脚をやったら意味ないだろ」

「うぅ、わかったよトレーナー」

「さ、行くぞ」

 

 こうしてテイオーとアルチョムは本日2回目の病院へ。ついでにキタサンもついてきた。

 

「マックイーンの部屋はどこだって?」

「624だって」

 

 3人はエレベーターで6階へ。エレベーターホールで手のアルコール消毒を行い、マックイーンの病室を目指す。

 

「マックイーン、入るよ?」

 

 ドアをノックして入室するテイオー。ベッドの上にはマックイーンが居た。その隣には相田トレーナーとライスシャワー、ゴールドシップもいる。

 

「マックイーン、大丈夫⁈」

「ええ、どうにか大きな怪我にはなりませんでしたわ。まだ痛みはありますが。……っ!」

 

 痛みに顔をしかめるマックイーン。それを隣で見ていたライスシャワーが弱々しい声で呟く。

 

「うぅ、ライスが、ライスがトレーニングに参加しちゃったからだ……。ライスが……」

「ライスシャワーが悪いんじゃないよ。これはちゃんと見てなかった自分の責任だ」

 

 そんなライスシャワーを慰めるように、相田トレーナーは優しくライスシャワーの頭を撫でた。

 

「ああ、お疲れ様です。アルチョムトレーナー」

「お疲れ様です、相田トレーナー。マックイーンの様子は……」

「完治まで3カ月とのことでして……」

「3カ月、ですか」

「宝塚は諦めるしかありませんね……」

 

 悔しさの滲む顔で相田トレーナーはそう言った。ただ、それはマックイーンやテイオーも同じ気持ちだったようだ。

 

「大変残念ですが、宝塚記念は……」

「マックイーン……」

 

 リクライニングベッドに座るマックイーンの傍らに寄り、その手を優しく握るテイオー。

 テイオーはマックイーンとの再戦を望んでいた。それはマックイーンも同じであり、2人の再戦の舞台は宝塚と言われていた矢先の出来事だった。

 

「マックイーン、ボクはキミの分まで走るから。そして絶対に勝って見せるよ」

 

 マックイーンの瞳を真っ直ぐに見つめながら、テイオーはそう言った。

 

「テイオーさん……」

 

 そんなテイオーの言葉を聞いたマックイーンは静かにその手を握り返す。テイオーの暖かい手がこの時はとても頼もしく感じた。

 

「おいおいおいおいおい!! なーに2人でいちゃいちゃしてんだ! ったく、最近の若いモンはこれだからよぉ」

 

 そんなしんみりした雰囲気をスレッジハンマーで叩き壊すかのごとく声を上げるゴールドシップ。どうやら静かにしているのがつまらなくなったのだろう。会話に土足で上がり込んできた。

 

「あなたもそんなに年は変わらないではありませんか」

「まあそう細かいことは気にするなマックイーン。老けるぞ」

「なっ……!」

「あはは〜、ゴルシは相変わらずだね〜」

 

 かなりショックを受けた表情を浮かべるマックイーン。そんなやりとりを笑っていると、今度はテイオーに向かってゴルシは尋ねてきた。

 

「あ、あとテイオー! オマエ宝塚出るんだろ?」

「うん、そうだよ」

「アタシも宝塚出るんだ。マックイーンの仇は討たせてもらうぜ!」

「ちょっと、仇ってなんですの!」

 

 困惑気味のマックイーン。ケガ人だというのに先程から忙しそうだ。とりあえずゴルシが宝塚に出るということはわかったが、それ以外は全くわからない。ただ一つ言えることは、ゴルシによって、重かった病室の空気が幾分和らいだことであろう。俯き気味だったマックイーンの表情もさっきよりだいぶ明るくなった。

 

「へぇ〜、大阪杯も春天も制したボクに挑戦するとは……、いい度胸だねゴルシ。受けて立つよ!」

 

 ゴルシからの挑戦状にかかってこいと言わんばかりのテイオー。

 

「おう、首を洗って待ってな! マックイーンの名にかけてオマエをターフに沈めてやらぁ!」

「なぜ毎度毎度私の名前を出すんですの⁈」

 

 それから話題は今後のことへと移り、テイオーはマックイーンに尋ねた。

 

「マックイーンは入院なんだよね?」

「ええ。ですが今夜だけですわ。明日からはメジロ家の方で主治医のもと、リハビリに入ります」

「主治医さんってあのお注射持ってる怖い人じゃん」

「大変優秀なお医者様ですわ。よろしければテイオーさんの脚の様子も診てもらうよう話を……」

「い、いいよ! ボクはちゃんと真田先生の話聞いて治すから大丈夫!」

 

 テイオーは注射をこの世で最もと言っていいほど恐れている。そしてなぜか、メジロ家の主治医は治療の際に注射を多用していた。よって、テイオーにとっては天敵のような存在だ。

 そんなやりとりをしているとあっという間に夕方となり、病室の窓から綺麗なグラデーションが見える。

 

「おいテイオー、キタサン。もうそろそろ帰るぞ」

「えぇー、もうそんな時間? もう少し話したいけど……。ごめんねマックイーン。ボク達帰るよ」

「マックイーンさん、何かあったらいつでも言ってください! 私が支えになりますから!」

「お二人ともありがとうございます。でも大丈夫ですわ。私はこれぐらいで挫けるようなウマ娘ではありません。すぐにターフに戻ってご覧にいれますわ」

 

 テイオー達が病室に訪れた時は、かなり落ち込んでいるように見えたマックイーンだったが、すっかり元気を取り戻し、テイオーとキタサンに笑顔で返している。

 

「相田トレーナー、マックイーンの脚のことで何かあればご相談ください。私の出来る限りで協力いたします」

「ありがとうございます、アルチョムトレーナー」

 

 相田トレーナーは深く頭を下げて、アルチョムの手を握った。アルチョムも硬く握り返し、マックイーンのことが大変なのはそうだが、それでも無理せず人を頼り、場合によっては休むことも大切だと伝える。根を詰めすぎてトレーナー自身がダメになっては元も子もないのだ。

 

「ゴルシ、ライスシャワー、明日の予定は後で連絡するから、アルチョムさん達と一緒にトレセンに帰りなさい。私はもう少しマックイーンの様子を見ているよ」

「わ、わかりました。マックイーンさん、また明日ね」

「おうマックイーン、また明日な!」

「ええ、ごきげんよう」

 

 仲良く手を振る相田トレーナーとマックイーンに見送られ、5人は病院を後にした。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 テイオーにドクターストップが言い渡されたその週の週末。

 

「我々を呼んでくださり感謝します。が……、本当によかったのですか? こんな素晴らしい旅館に……」

 

 やや困惑気味のアルチョム。それもそのはず、今彼らがいるのは群馬県草津町にある、メジロ家が経営する温泉旅館だ。ここの温泉は骨折を始め、脚の怪我や不調によく効くとされ、テイオーとマックイーンの脚の治療の為に相田トレーナーと共に招かれていたのだ。

 

「ええ。我がメジロ家のご令嬢の大切な親友とそのトレーナー殿でありますから」

 

 立派なタキシードを着た初老の男性が挨拶する。完全にVIP待遇だ。VIPなんて今までは護衛するか襲撃するかのどちらかであり、自分がその待遇を受けるとは夢にも思わなかった。なんなら府中からここまでの移動もメジロ家の所有するリムジンだ。正直、これほどの厚遇を受けたら受けたで落ち着かない。そんなことは万に一つもないと頭ではわかっていたところで、もしかしたら裏があるのではと疑ってしまう。

 とはいえいつまでも疑っていてもそれはそれで疲れるので、今は状況に従うことにする。

 

 シンプルながら格式高い調度品で飾られた洋室。アルチョムの部屋だ。すると、アルチョムは1人になるなり、部屋の隅々や備え付けの内線電話や液晶テレビを調べる。

 

「……盗聴器なんざ無ぇよなぁ」

 

 一通り探してやっと安心できた。我ながら変な癖だと思うが、こういう待遇にどうも慣れない。自分の目で確かめないかぎり、安心できない人間なのだ。

 それからはテイオー達と共に豪勢な夕食を楽しみ、そのまま自由行動となる。テイオーはマックイーンと一緒に彼女らの部屋に戻り、アルチョムは旅館に併設されているバーへ。ここが安心できる環境であるとわかれば、あとは満喫するだけだ。なら、普段飲んでいる酒よりワンランク上の品を頂こうではないか。

 

 和洋折衷の内装と静かに流れる洋楽。まさに大人の為の空間。早速カウンター席に座ろうとするアルチョムだが、そのカウンター席に相田トレーナーを見つけた。なんとなしに、アルチョムは相田トレーナーの隣に座る。

 

「お疲れ様です」

「ああ、お疲れ様です」

 

 そう返す相田トレーナーの顔は少し思い悩んでいるようにも見えた。

 

「マスター、ストリチナヤはあるか?」

 

 とりあえず注文をするアルチョム。例え亡命をしたとしても忘れることのない祖国の味を注文する。その注文に静かに頷き、しばらくしてアルチョムの前に出されるショットグラス。水のように透き通るウォトカが照明に照らされて輝く。それをアルチョムは一気に飲み干した。そして横目でチラッと相田トレーナーを見る。やはり何か悩んでいるようだ。マックイーンの骨折のことだろうか。

 

「マスター、もう一杯。あとニシンの酢漬けをくれ」

「かしこまりました」

 

 しばらくして出されるグラスと小皿。その小皿からニシンの酢漬けをつまみ、またグラスからウォトカを飲む。口の中に広がったウォトカの余韻をゆっくりと味わった後、相田トレーナーに尋ねた。

 

「何か悩み事で?」

「……悩み事、……悩み事ですね」

「少し尋ねても……?」

「……」

「失礼、無理に答える必要はない」

「……いえ、どう言えば良いのか、そして自分の立場でこれを言って良いのかわからなくて……」

「マックイーンの骨折のことで?」

「それもそうなのですが……」

 

 そこまで言って口を閉じる相田トレーナー。アルチョムは続きを急かすわけでもなく、マスターにまたウォトカを注文する。そしてまた、グラスを一気に飲み干した。

 

「……アルチョムトレーナーはテイオーさんをどのように見てますか?」

「大切な教え子だ。娘のように見ている部分もあるかもな」

 

 テイオーに関してどう考えているか。そんな質問にアルチョムは考えていることをそのまま話す。

 テイオーは教え子で、自分はトレーナーだ。アルチョムの中でこの前提が崩れることはない。だが、そうは言ってもどこか自分の娘のように接しているのも事実だ。だからこそ、テイオーの成長は心の底から嬉しく感じる。

 

「そうなんですね……」

「そんなモンだろ」

 

 そう言ったあと、また相田トレーナーは黙ってしまう。アルチョムは今度は小皿からニシンをつまんだ。

 

「……私がマックイーンを1人の女性として見ていると言ったらどう考えますか?」

 

 しばらくして口を開いた相田トレーナー。その言葉を聞いたアルチョムは特段反応を見せるでもなく、また頼んだウォトカを飲み、一息ついてから返す。

 

「好きにすりゃあいい。ただ、相手はまだ中学生だ。その辺をちゃんと考えるべきだとは思うがな」

 

 そう言うと、今度は小皿からニシンをつまみ口に放り込んだ。

 

「んで、一応聞くがなんでそんなことを考え始めたんだ?」

 

 とりあえず訳を聞いてみる。相田トレーナーはゆっくりと胸中を語り始めた。

 幼い頃からウマ娘という存在に憧れ、中学生になる頃にはすでにトレーナーを目指していた。必死になって勉強し、また、親戚のつてでトレーナーを紹介してもらい、その人からもいろいろ学んだ。そしてついに、有名大学のトレーナー課程を修了してトレセンでサブトレーナーとして採用された。自分は入った時のチームシリウスはエースのオグリキャップとトレセン屈指のベテラントレーナーが率いていた。そのトレーナーの元で修行を積んでいたが、二年後に2人とも引退。チームを託された。最初は上手くいかず、チーム解散の危機すらあったが、マックイーンと共に力を合わせてチームと共に成長してきた。そんな中でマックイーンと過ごす時間が、いつのまにかかけがえのないものになっていた。それを自覚したのがこの前、マックイーンが骨折で入院した時に2人きりになったときだった。ずっとトレーナーを目指していたから、甘酸っぱい青春なんてほとんど経験しなかった。だからこそこんなに悩んでいる。

 相田トレーナーはそう語った。

 

「マックイーンが骨折したとき、今までに経験したことのない恐怖を感じたんです。命より大切な何かが壊されてしまうような、そんな恐怖です。その後、マックイーンが入院したときに二人きりでいろいろ話しました」

 

 テイオー達と行ったお見舞いの後だろう。あの後も相田トレーナーはマックイーンの病室に残っていた。

 

「今までのことやチームのこと、これからどうしたいかとか。そうやってマックイーンの話を聴けば聴くほど、これからも彼女を支えていきたいと、力になりたいと、強く考えるようになって……」

「そうか。ま、その話を聞いたところで俺の回答は変わらん。好きにすりゃいい」

 

 アルチョムは相変わらずの様子だ。もし万が一クソみたいな理由でも語ったら顔面に一発入れてやろうかとも思ったが、この様子を見る限りこの男は本気なのだろう。

 トレーナーという存在はウマ娘にとって非常に重要なのはこれまで何度も述べた通りだ。親元を離れ、夢の為にひたすら努力する中で、真っ先に頼れる大人がトレーナーになるのだ。

 

 おそらくマックイーンも相田トレーナーのことをよく頼り、相田トレーナーはマックイーンの悩みや相談を自分のことのように考え、共に乗り越えてきたのだろう。そうなれば互いの絆というものは血縁より強固なものになるのかもしれない。特別な感情を抱くのも不思議ではない。現に、専属トレーナーとしてウマ娘を担当したトレーナーとそのウマ娘が生涯の伴侶となる話は少なくない(もっとも、こう言った事情が慢性的なトレーナー人材不足の数ある原因の一つでもあるのだが)。

 

「あとこういうことを言うのは悪いが、俺に相談するのは間違いだ。ロクな女付き合いが無かったからな」

 

 そう言い、またウォトカを呷る。今更になって考えると、異性同性問わず、まともに向き合った人間がほとんどいないことに気づいた。思いつく人間はアルセニーとテイオーぐらいだ。

 

「……なんかすいません」

「なぜ謝る? 別にアンタは悪いことしてないだろ?」

「あぁ、まあそうですね」

「とりあえず、だ。そっちの好きにすればいい。ただ、もう一度言うが相手は中学生でこっちは大人だ。その辺はしっかり考えるべきだな」

 

 そう言い、またウォトカを呑む。

 こういうのは本人同士の問題だ。そしてアルチョムはそれに対して適切な回答を持ち合わせていない。

 アルチョムはまたニシンの酢漬けとウォトカを注文する。

 まあ、悪い方には転がらないだろう。

 そんなことを考えながらアルチョムはまたグラスを空にした。

 

 





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