元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました 作:武装田んぼ
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6月下旬。宝塚記念当日。
春シニア三冠初達成をかけて、阪神競バ場に現れたテイオーとアルチョム。
広場で並びながら堂々と仁王立ちしていた。
「ついにだな」
「うん。ついにだね」
「昨日はよく眠れたか?」
「うん! トレーナーこそちゃんと寝れた?」
「ああ。頭もスッキリしているよ。で、今日は勝てるな?」
「絶対に勝ってくるよ。ボクの夢と目標のために」
「よし、準備してこい」
テイオーは控室に向かう。その背中を見送り、アルチョムは関係者席へ。どっかりと腰を下ろすと、隣にマックイーンがいた。
「あらお久しぶりです。アルチョムトレーナー」
「久しぶりだな。脚の調子はどうだ?」
「だいぶ良くなりましたわ。復帰ももうすぐと」
「そりゃよかった。ところで相田は?」
「すぐ来ると思いますが……」
噂をすればなんとやら。相田トレーナーがやって来た。が、どこか疲れた様子だ。十中八九ゴールドシップが原因であろう。
「お疲れ様です、相田トレーナー」
「あ、ああ、お疲れ様です……」
「随分お疲れの様子で」
「ええ、ゴルシのテンションに合わせていたら……。昔はもう少し体力あったと思うのですが……」
「無理に合わせなくてもよろしいのですよ?」
「そうしたかったけどさ、あんだけレースに熱意を持ってるとそれに応えたくなるんだ」
お人好しなヤツだ。だが、そんな人間だからこそ、ウマ娘達は彼を信頼してついていくのだろうし、チームシリウスは一丸となってレースに臨めるのだろう。
「アルチョムさーん、マヤ達も来たよー」
後ろから声がかけられる。マヤノと天野トレーナー、ネイチャの3人がいた。
「いやー、今回も便乗してすいませんねぇ」
「いいんだよ。今日は僕から誘ったし。みんなでワイワイできて楽しいしさ」
「あー、またトレーナーちゃんデレデレしてるー! ウワキだー!」
「マヤちゃん変なこと言わないで! これぐらい普通だよ普通!」
「あらマヤノ、それって嫉妬かしら? アタシも罪な女ねぇ」
おかんむりなマヤノとノリノリでポーズを取るネイチャ。そんなやりとりを笑っていると次にやってきたのはキタサンブラックとサトノダイヤモンド。観客席の方にはみなみとますおもいる。
「いよいよですね!」
「ああ。ここまで長かった。だが、その分テイオーは成長してるし、テイオーなりに答えを見つけて来たんだ。上手くやってくれるさ」
目を輝かせるキタサンにそう答えるアルチョム。それはテイオーを信頼している何よりの証拠だ。しかしそれは出会った頃の子供であるからただ信頼すると言うようなものではなく、テイオーの努力と、そして困難を共に乗り越えてきた経験からくる確かなものだ。
その頃、控室のテイオーは勝負服に着替え終わり、鏡の前でポーズをとっていた。
「よし、バッチリ!」
ビシッと決めたポーズ。自信がみなぎってくる。そしてテイオーは化粧台に置いておいた薬莢のお守りを首にかける。
鈍く光る真鍮の筒。トレーナーからもらった大切なお守りだ。これをつけていると弾丸のように速く走れる気がする。
そのお守りを良く見てみる。そういえばこの前マヤノと観た映画でこれと同じものがばら撒かれるシーンがあったな。なんて思いながら底を見ると何か刻んであった。
「7.62×39? どういう意味?」
確かその映画だと途中で45口径がどうのとか言ってたが良く意味がわからなかった。が、今はそんなこと考えてる場合じゃない。目の前まで迫ったレースに全てをぶつけるんだ。
テイオーはスマホとイヤホンを取り出してお気に入りの曲、心絵を流す。
「あ、トレーナー呼んでおこっと」
テイオーはLANEで準備が終わったことを伝えてから、また音楽を聴き始めた。
しばらくしてドアがノックされる。トレーナーが来た。
「入るぞ?」
「いいよー」
ドアが開くとキタサン、マヤノ、ネイチャの順で入ってきた。最後にアルチョムがゆっくりと入ってくる。
そして3人はテイオーの前に並んだ。
「テイオーさん!」
「テイオーちゃん!」
「テイオー、絶対に勝ちなさい。アタシ達の夢、今はアンタに預けるわ」
テイオーをしっかりと見つめ、その手を強く握るネイチャ。テイオーはそれに笑顔で返す。
「ありがとうみんな。大丈夫。一番カッコいいボクを見せてあげるから」
透き通るような蒼い瞳に宿る、揺るがぬ覚悟。夢を叶える為の試練をなんとしてでも乗り越えて見せる。そんな決意が感じ取れた。
「テイオー、怪我だけはするな。無事に戻ってこい」
「ありがとうトレーナー」
2人はそう言葉を交わし、お互いの拳を突き合わせた。するとまたドアがノックされる。アルチョムがドアを開けるとマックイーンがいた。
「マックイーン!」
「テイオーさん、いよいよですわね」
「うん」
「貴女の勝利を私は確信しております。今日走れない私の分まで走って来てくださいまし」
「マックイーン……。ありがとう、ボクのことちゃんと見てて!」
そう言い、元気にパドックへ向かって行くテイオー。その姿を5人で見送る。
「マックイーンちゃん、ゴルシちゃんの方は?」
「ゴールドシップさんも応援して来ましたわ。相変わらず荒ぶっておりましたが……」
そう言うマックイーン。振り回されて疲れているようにも見えるが、どこか嬉しそうにも見える。
「テイオーさんもゴールドシップさんも私にとって大切な方々です。ただ、これはレース。どちらかが勝者となり敗者となります。ですからこそ、お2人には悔いのないレースをしていただきたいものです」
「親友とチームメイトねぇ……。いつぞやにテイオーが言っていた〝仲間でライバル〟とはこのことね」
テイオーが時々言うセリフ。仲間でライバル。テイオーにとって、関わり合うウマ娘全員が友達でライバルなのだ。テイオーの日頃の交友、いつもいろんなウマ娘に囲まれてはしゃいでいる様子を見ていると、そんな風に感じることがある。そしてお互いの全力をぶつけ合って勝負した後の清々しさや相手へのリスペクトはテイオーにとって大切なものなのだろう。
……俺はテイオーが羨ましい。孤児院にいた頃から不良時代まで、ロクな友情を感じたことがなかった。不良仲間と酒を飲んでどんちゃん騒ぎをするが、いざとなれば平気で警察に売り渡したような関係。そもそもあまり他人を信頼しない性分故に、いつもどこかで疑っていた。俺ももっと早くにこんな人達に出会えていれば、なんて思ってしまう。それでも幸いだったのは軍隊で初めて〝仲間〟と呼べる存在に出会ったことだろう。戦場で背中を預け合う仲間だ。その間に不信があれば銃口を向けられかねない。ふと浮かんだアルセニーの顔を思い出しながらアルチョムは呟いた。
「……仲間でライバルか。俺もそんな風に呼べる仲間が欲しかった」
「アルチョムさんってもしかしてぼっち?」
そんな言葉にマヤノが反応する。
「そう言う意味じゃない。周りに人はいたが、お互いに全力で競え合えるような友情を築くような経験を子供の頃にできなかっただけだ」
「そうなんだ」
「あまり人を信頼してこなかったからな。ま、俺の身の上話はどうでもいい。席に戻るぞ」
そうウマ娘達と共に言い席に戻る。今はテイオーの勝利をただ信じるだけだ。
パドックでのお披露目を終えたテイオーは地下バ道を歩いていた。
ついに訪れたレース。この日のために全てをぶつけて来た。それは今日のレースも同じだ。
全力で挑んで、前人未踏の偉業を達成する。その覚悟を胸に、テイオーは一歩づつしっかりした足取りでターフへ向かう。
「随分とヤル気じゃねぇか」
「ゴルシもでしょ?」
「フッ、レース前ってのはうずうずして堪らねぇよなぁ? テイオーもそうなんだろ?」
「うん。もうワクワクが止まらないよ。それに、ボクが勝つこと以外考えられない」
「強気だな。だがな、このゴルシ様にもマックイーンの仇を討つ為にここにいるんだ。アタシだってゼッテー負けらんねぇよ!」
「いいねぇ〜、そうやって全力で挑まれるともっとワクワクしちゃう!」
2人がターフに躍り出る。それと同時に湧き上がる大歓声。
無敗の春シニア三冠という伝説が達成されるのか。はたまたクラシック級のウマ娘が宝塚の舞台を制するのか。どちらが勝ってもそれは偉業となる。そして2人は堂々とゲートイン。準備が整った。
《今ゲートが開きました! 各ウマ娘一斉にスタート! おっと15番ゴールドシップ、少し出遅れたか?》
一斉にゲートから飛び出すウマ娘。テイオーは今回もセオリー通り、先行バ群の後方に位置取りレースを進める。ゴルシは少し出遅れて現在最後尾。だが、だからこそゴルシは危ない。テイオーの脳裏にしっかりと焼き付いた皐月賞での追い上げ。対ゴルシ研究の時も、出遅れからの追込みで制したレース映像を観ていた。
内を突くか、外を刈るか。そのどちらもあり得るのがゴールドシップというウマ娘だ。
あの末脚と勝負なら望むトコロだよ!
後方のゴルシを警戒しつつ、レースを進めるテイオー。もちろん、周りのウマ娘にも警戒は怠らない。
常に自分と周囲の状況を把握しろ。アルチョムから何度も言われた言葉。それは戦場での経験から来た言葉であったが、ターフの上でも同じことが言えた。自分の走りに集中するのは大切なことだが、それでペースを上げ過ぎてしまうとスタミナの浪費につながる。そうなると肝心のラストスパートで全力を発揮するのはできない。ペースとスタミナをどのように維持するかがレースで勝利するための鍵となるのだ。
《現在の順位を見てみましょう。現在一番手は6番セレブアクトレス、二番手は17番ビターパルフェ、注目の3番トウカイテイオーは現在六番手、15番ゴールドシップは現在十六番手にいます》
《ゴールドシップは脚を溜めているのでしょうか? どう動くか予想ができません》
レースは第三コーナーを通過。大きなカーブを曲がりながら、テイオーはチャンスを窺う。
今回は早めに仕掛ける。
アルチョムと共に相談して導き出した作戦だ。早めにハナを取り、逃げとして走る。少しでもゴールドシップと距離を稼ぎ、スタミナの浪費を強いるためだ。もちろん、実行するにはこちらもそれ相応のスタミナを要求されるが、天皇賞春の為に強化したスタミナがある。テイオーはその後もスタミナの維持に努めてきた。
相手が力技で追い上げてくるなら、こっちは力技で逃げる。搦手など使わない真っ向勝負。アルチョムは他の策も考えたが、テイオーの実力と性格を考えたら下手に搦手を使うより実力でぶつかった方が良い結果になるだろう。その結果だ。
先頭のウマ娘が第四コーナーに差し掛かる。テイオーはそれと同時にスパートをかけた。下り坂を利用し、脚力と重力に任せて一気に前へ躍り出る。バ群の外側を抜けながらテイオーは第四コーナーを通過し直線へ。
《トウカイテイオー、仕掛けた! 一気にハナを狙っていく! ここで外からゴールドシップも仕掛けた! 皐月賞のような追い上げを見せてくれるのか!》
《トウカイテイオーのスパートが早めですね。これは作戦なのでしょうか。ゴールドシップの食らいつきもすごいですね。あの末脚はそうそう逃げられません》
やっぱり来たね、ゴルシ……!
面白くなってきたからな……! アタシとやり合おうじゃねぇか!
ハナを走っていたビターパルフェを抜かし、ハナに立つテイオー。翡翠の絨毯を弾丸のように貫いていく。後はただゴールを目指すだけだ。前人未踏の栄光へと伸びるターフを全力で踏みつけていく。
いける……、ボクならもっと行ける……!
だがそこへ迫る赤い彗星、ゴールドシップ。赤い勝負服と芦毛のコントラストを輝かせながらテイオーに食らいついていく。
面白ぇ、面白ぇよ! ゴルシ様は面白ぇレースが大好きだぜぇ!
その末脚はあの〝ワープ〟と称された皐月賞と同じだ。その末脚でテイオーを追い抜かした。
《ゴールドシップ、ものすごい追い上げ! 皐月賞で見せたワープをここでも見せてきた!》
だがもちろん、それぐらいで諦めるようなテイオーではない。圧倒的な末脚に全力で挑む。
前を走るゴルシの背中へ全力で食らいつく。ジリジリと距離を縮めていき、あともう少しというところまできた。
ネイチャともマックイーンとも違う末脚……! 追いかけるので精一杯だ……!
しかし、その差が埋まらない。目の前で見るゴルシの末脚に気圧されるが、それを振り払うようにテイオーは全力で脚を前へ前へと運んだ。
《トウカイテイオー、ゴールドシップに食らいつく! しかしゴールドシップ、脚は衰えない! このまま勝負がつくのか!》
そんな実況が流れた直後だ。左前を走っていたゴールドシップが失速していく。一瞬だけ横目で確認するがすぐに意識を前に戻し、残りのスタミナを全て脚へ送り込んだ。
《ゴールドシップどうした⁈ 急に脚色が衰えていく! トウカイテイオー、ハナに立った! これは勝負あったか!》
絶対は、ボクだ!
ボクが最強不屈のウマ娘なんだ!
右側を一瞬で通り過ぎたゴール板。勝負はついた。
《トウカイテイオー、トウカイテイオー! 宝塚記念をトウカイテイオーが制しました! ここに史上初、そして無敗の春シニア三冠バが誕生しました!》
そして湧き上がる大歓声。ターフビジョンの着順表にはテイオーの番号である3番が一番上に表示される。
しばらく走ってからテイオーはターフの真ん中で立ち止まり、ゆっくりと呼吸を整えていると、アルチョムが大興奮でターフに飛び出してきた。
「テイオー! やったなァ! 最強不屈のウマ娘だよ、テイオーは!!」
自分は前人未踏の栄光を手に掴んだ。カイチョーすらできなかった偉業を達成した。
そんな実感がようやく湧いてきた。
「……そっか、ボク、やったんだね!」
「ああ、やったんだ。春シニア三冠をテイオーは達成したんだッ!」
「……やったぁー! やったぁぁ──!!」
両手を広げて喜びを全身で表すテイオー。そしてテイオーは関係者席の前に行く。席では観戦に来たウマ娘達がテイオーの勝利を祝っていた。
「テイオーさん……! テイオーさーん!!」
「テイオーちゃーん! おめでとーっ!!」
目をキラキラと輝かせ、拍手を送るキタサン。その隣でマヤノも大きく手を振っていた。そんな2人にテイオーも大きく手を振って応える。
「テイオー! 私達の夢、叶えてくれてありがとう」
「テイオーさん、おめでとうございます。貴女の勝利を信じておりました」
そう言うネイチャとマックイーン。レースで戦った2人からの言葉にテイオーは満面の笑みとピースサインで返した。
「みんな……、みんな本当にありがとう! みんながいてくれたから、ボクはここまで頑張れたよ!」
そしてテイオーはアルチョムの手を引いてウィナーズサークルへ向かう。
そして2人で拳を高く突き上げ、割れんばかりの大歓声が前人未踏の偉業を達成した2人を祝福した。
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トルコ共和国南部の都市、キリス。
この都市は隣国シリアとの国境に近く、郊外には内戦から逃れて来た難民を収容するための大規模なキャンプが設置されている。
その難民キャンプには国連の難民支援施設が併設されており、様々な国籍の職員が支援業務にあたっていた。
時刻は朝の10時前。キャンプのあちこちで人が作業やら何やらと動いている。
そんな中。
「スッゲェ、スッゲェよ……! トウカイテイオーはレジェンドウマ娘だ……!」
「ああ! 俺たちは伝説の誕生を目撃したんだ!」
「ちくしょう、生で見れないのが悔しい!」
2人の東アジア系男性の職員が施設の敷地内に置かれたパラソルテーブルで盛り上がっていた。
「あれ、沢村と朴か? 何観てるんだ?」
そんな2人に話しかける男。白金のショートカットに青い瞳、そして整った顔立ちは絵に描いたようなイケメンが興味深そうに覗き込む。
「見てくださいよこれ! 無敗で春シニア三冠を獲ったウマ娘ですよ!」
そんな彼に興奮気味の沢村がタブレットに映る映像を見せる。ウマチューブで同時配信されていた宝塚記念の映像だ。その映像には、ウィナーズサークルで手を振るウマ娘と1人の白人男性が映っていた。その白人を見た瞬間、男の目が変わる。
「おい、この男は何者だ?」
「トウカイテイオーのトレーナーだよ。確か名前はアルチョムトレーナーだったと思う」
男の問いに答える朴。だが、その返答に対して男は納得のいかない顔をしていた。
アルチョム? いや、コイツはセルゲイだ。あの目つきの悪さ、顎の傷跡、忘れるワケが無い。そんなことを考えながら、彼は質問を続けた。
「日本に行けばコイツに会えるのか?」
「まあ、行けばチャンスはあるんじゃないか? でも、知り合いでもない限り会えないだろ」
「確かに、〝知り合い〟じゃないなら会える可能性はゼロだろうな。で、日本のどこに行けばいいんだ?」
「東京のトレセンじゃないか?」
「東京のトレセンね……。さて、悪いが俺はちょっと休暇を取る。シフトに穴を開けちまうがすまんな」
「えっ、ちょっ、いきなり⁈」
「マジっすか⁈」
そう言い、男は不敵な笑みを浮かべながら自分の宿舎へと向かって行く。
「……セリョージャ、お前日本にいたのかよ。しかもあんなカワイ子ちゃんのトレーナーだと? ったく、隅に置けない男だよアンタは」
そんな独り言を言いながら彼は休暇申請の書類を記入し、日本への渡航準備を始めた。
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