元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました   作:武装田んぼ

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またしばらく書き溜めに入ります。気長にお待ちいただきたく存じます。



第46話 再会

 

 

 宝塚記念から2日後。

 トレセン学園のカフェテリア……、から見える中庭はいつになく賑やかだ。アメリカの映画でしか見ないようなデカいバーベキューグリルとテーブルが並ぶ。

 

「「「三冠! おめでとー!!」」」

 

 そんな言葉と共に弾けるクラッカー。その真ん中でテイオーは嬉しそうにはにかむ。

 この日、テイオーの春シニア三冠達成のお祝いとして、パーティを開いていた。

 

「テイオーさん! 本ッ当におめでとうございます!」

 

 無反動砲のような特大クラッカーを持ちながら元気にお祝いするキタサン。

 

「大阪杯、天皇賞春、そして宝塚記念! その全てで勝っちゃうなんて……! カッコよすぎます!」

「テイオーちゃん、めちゃくちゃ頑張っていたもんね! マヤも感動しちゃった!」

「テイオーさん、貴女は偉業をなされたのです。私も心から祝福いたします」

「テイオー、おめでとう。あの約束、ちゃんと守ってくれたのね」

 

 キタサンに続いてマヤノ、マックイーン、ネイチャがテイオーを祝う。それぞれからのお祝いにテイオーは一人ひとり、その手をしっかり握って感謝を伝えた。

 

「ボク、みんなにいくら感謝してもしきれないよ。みんながいなければ、ボクは絶対に三冠は取れなかった。去年の骨折で挫けて、レースを諦めたかもしれない。でも、みんなのレースをみて、みんなと競えて、そしてトレーナーが支えてくれて、そうしてここまで来れたんだって思うんだ」

 

 テイオーはそう胸の内を語る。みんながいなければ自分はここにいない。テイオーは最近、そのことを強く感じていた。一人では辿り着けなかった三冠。ふと、アルチョムと知り合った時の自分を思い出す。

 あの時は自分一人でも走れると思ってた。それが最強のウマ娘だと思ってた。でもそれはとんでもない勘違いだった。

 カイチョーとトレーナーにそのことを気付かされなければ、自分はどうなっていたのだろう。そんなことを考えてしまう。皐月賞や日本ダービーで勝てたのか。それどころかデビュー戦で勝つことができたかどうかもわからない。もしそうなっていたら……。そこまで考えて、それ以上考えるのをやめる。今はお祝いの時。ネガティブな考えはふさわしくない。

 

「ねぇトレーナー! バーベキューするんでしょ!」

 

 さっきまで考えていたことを吹き飛ばして、トレーナーに尋ねる。

 

「ああそうだ。それに今日のバーベキューはただのバーベキューじゃない。ロシアで昔から愛されているシャシリクだ!」

 

 カフェテリアの倉庫にあったバーベキューグリル。ちゃんと理事長に使用許可を得て、中庭まで持ってきた。そして天野トレーナーがクーラーボックスを持ってきて地面に置く。ボックスを開けると、フリーザーパックに入った漬け込み肉がぎっしりと詰め込まれている。

 

「シャリシク?」

「シャシリクだ」

「どんなの?」

「元々はカフカースのあたりで食べられていた肉料理だ。あの辺りがソ連の構成国になったことにより、ロシアやベラルーシ、ウクライナなどに広がったと言われている。普通のバーベキューと違ってシャシリクは串焼きにするんだ」

 

 そう言いアルチョムは肉を手際よく鉄串に刺してグリルに並べていく。

 

「あれ? アルチョムさんってアメリカの出身って聞いたのですが……?」

「家族はベラルーシからの移民でな。アメリカにいた頃は休暇に家族と山まで行ってシャシリクを食べたんだ」

 

 そんなキタサンの疑問にさらりと嘘をつくアルチョム。嘘も方便とはこのこと。

 

「そうなんですね! 自然の中でバーベキュー、いいですよね!」

「ああ。緑の息吹を感じながら酒と共に肉に食らいつくあの感覚は一度でも経験すれば忘れられない」

 

 家族と行った覚えはもちろん無い。ただ、現役時代に仲間たちと何度も食べた記憶がある。中東のとある拠点でやった時はその最中に迫撃砲を撃ち込まれたこともあった。あの時のことは今でもよく覚えている。

 

「まさかアルチョムさん、ここで飲むつもりですか?」

「まてネイチャ。流石に学校内で酒は飲まないぞ」

 

 いくらなんでもここで酒は飲めない。昨日理事長にグリルとバーベキューの許可を得ることができたが、飲酒の許可はたづなさんにより阻止された。ちょっと前の天野トレーナーの誕生パーティの時は完全な無許可であり、見つかりこそしなかったが、もしバレていればただでは済まなかったであろう。

 

「アルチョムトレーナー、焼くの上手ですね」

「まあな。軍にいた時にもよく仲間に振る舞っていたからな。アイツら手際よくやらないと急かしてきやがる。よし、この辺は焼き上がった。ネイチャ、すまないが持って行ってくれ」

「はーい」

 

 大皿に乗せられた串焼き。特製のタレに一晩漬け込んだ肉と野菜は彩りで目を、香りで鼻を楽しませる。そんな香りに釣られてか、通りかかったスペシャルウィークが寄ってきた。

 

「なんですかこれ? すっごく美味しそうです!」

「シャシリクだって! スペちゃんも食べる?」

「いいんですか⁈ 嬉しいです!」

「なんたってボクの三冠達成祝いだからね! 今日はいつもより太っ腹なのだ〜!」

「用意したの俺だぞ」

 

 とはいえアルチョム自身、元からそれなりの人数が来るであろうことは予想していた。そして集まるのはウマ娘。となればそれなりの量を用意せねばなるまい。てな訳で、厨房の職員に無理を言って材料を融通してもらい、下拵えもある程度手伝ってもらった。

 そしてすでに、グリルやテーブルの周りにはチームシリウスやカノープスのメンバーが集まっている。

 

「おら、次も焼き上がったぞ!」

「今持って行きますね!」

 

 大皿に山積みになったシャシリクをキタサンがテーブルに運ぶ。マックイーンがそれに手を伸ばそうとすると横入りする腕が。

 

「ちょっと、ゴールドシップさん! 横取りはやめてくださいまし!」

「わりーわりー、そんな怒るなよ」

 

 そう言いながら人参のブロックを頬張るゴールドシップ。隣でテイオーは笑いながら見ていた。

 

「そういやゴルシ、あの時なんで最後失速したの?」

「ん? ああ、あれか。いやー、このゴルシ様ミスっちまってな。スタミナ切れよスタミナ切れ」

「そんな理由で負けたんですの⁈」

 

 そんなゴルシに突っ込むマックイーン。

 

「私は最後までお二人の真っ向勝負を期待していましたのよ!」

「いやさ、アタシも最後まで全力でいこうとしたのよ。でも、あ、これ無理だ〜ってなってさ」

 

 いやー、あれは参ったよ、なんて言いたげな顔で話すゴルシと怒り半分呆れ半分のマックイーン。そんなマックイーンをテイオーが宥める。

 

「まあまあマックイーン、そんな怒らなくても」

「それはそうですが……」

「それにゴルシの追い上げ、あれびっくりしちゃったもん」

「だろ? あれがゴルシ様の末脚よ」

「その末脚をどうにかゴールまで保って欲しかったですわ」

「だってテイオーに追いつくにはもうアレしかなかったからよ。あそこまでやってどーにか追い抜かせたんだぜ?」

 

 武勇伝を語るように話すゴルシ。そんなゴルシにテイオーが返す。

 

「ってことはゴルシも本気(マジ)だったんだね。どうりであのレースが楽しかったわけだ」

「だがなテイオー! 次こそ覚悟しとけ! アタシが必ず、お前をターフに沈めてやる! マックイーンの名にかけてな!」

「なぜ毎度毎度私の名を出すんですの⁈」

 

 再び炸裂するマックイーンの突っ込み。賑やかなパーティーはまだまだ続きそうだ。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 トレーナー室。

 アルチョムはタブレットでCNNのニュース動画を見ていた。

 

《オリョールグループ創設者とされる、ウラジーミル・マカロフ氏はロシア軍と対立し武装蜂起を行いましたが、先日、ベラルーシの仲介によりロシア政府との和解が成立したとして、オリョールグループは撤退しました。この事に関して、アメリカ国家安全保障会議は……》

 

 オリョールグループによる武装蜂起。その一報が入ったのは宝塚記念の前日だった。もちろん、それで動揺してテイオーのレースに影響する訳にはいかない。表面上はほぼ完璧に取り繕った。が、やはり内心までは偽れない。

 正直、これぐらいでウクライナから手を引くとは思ってなかったし、少しでも長引けばクレムリンは確実にオリョールを潰すであろうと考えていたが、想像以上に早い幕引きにアルチョム、いや、セルゲイ自身、だいぶ驚いていた。

 

《……また、オリョールグループの代表であるマカロフ氏はベラルーシに入国したものと見られており……》

 

 ウラジーミル・マカロフ。

 オリョールグループの創設者だ。もっとも、彼に前科はあれど軍歴はない。かつては飲食店を経営しそれで成功を収め、オリガルヒとして頭角を表した男。その後の2010年頃に、ロシア政府に支援される形でオリョールグループを設立した。

 俺はあんな男の下でクソッタレな仕事をしていた。そんなことを考える。はっきり言って、この対立に関してどちらの立場もセルゲイからすればクソ以下の存在だ。クソくだらない内輪揉めしてるぐらいならさっさとウクライナから撤退しろ。それしか言いようがない。

 

「トレーナー、どうしたの?」

 

 そんな声が聞こえて顔を上げる。テイオーがこっちを見ていた。

 

「いつのまに来ていたのか」

「なんかずっとタブレット見てたけど考え事?」

「まあな」

「あ、わかった! あのオリョールグループの事件でしょ? ボクもニュースで観たよ」

「……知ってたか」

「うん。なんであんなことするのか全然わかんないけど」

「俺だってわからん」

「トレーナーもわからないの?」

「ああ。わからない」

「なんかマカロフっておじさんがめちゃくちゃキレてたのは知ってる」

「俺はアイツに会ったことがある。会話はしなかったがな」

 

 一度だけ、マカロフと会う機会があった。とはいえ、マカロフの演説だか講演だかを聞いていただけだが。

 

「あんなことしないでみんな仲良くすればいいのに」

「……難しい話だな。人間はそんな簡単に分かり合えない。それができるなら、俺みたいな人間は必要ない」

 

 テイオーの言葉をただの理想論と切り捨てるのは簡単だ。だが、そうやって切り捨てれば、自分はクレムリンの戦争屋と同類になる。

 

「だがなテイオー、そうやって誰とでも仲良くなろうって気持ちは決して忘れるな。それを忘れちまうと、人間はどこまでも残酷になる。そんな人間は俺だけで十分だ」

 

 重いトーンで語るアルチョム。自分の拭えぬ過去を思い出す。あんな人間にテイオーや周りのウマ娘がなるべきではない。他人を疑い、銃を向け、手を汚すのは過去の俺だけで十分だ。

 

「さ、暗い話は終わりだ。夏合宿に向けてのトレーニングやるぞ!」

「はーい!」

 

 

 ────────────────────────

 

 

 今日から7月。

 毎年恒例の夏合宿に向け、いつもの二人はトレーニングに励んでいた。

 

「テイオー! 休憩だ!」

「はーい」

 

 木陰で休むテイオー。連日の猛暑によりトレーニングも休憩を多めに取り、体調をよく観察しながらとなる。正直、アルチョムもこの暑さに参りつつあった。この蒸し暑さは未だに慣れない。

 すると、近くを通り過ぎたブリッジコンプがテイオーに話しかける。

 

「ねぇ、聞いた? ちょーイケメンの外国人が来てるって!」

「え、ホント⁈ ねぇトレーナー、イケメンの外国人だって! 早く行こーよー!」

「何言ってんだ。イケメンの外国人なら目の前にいるだろ?」

 

 少し気取ったポーズを取るアルチョム。だが、テイオーはそれに一切反応せず校門の方へ走りだす。

 

「ほら行くよ!」

「チッ」

 

 大人気なく露骨に舌打ちし、テイオーについていく。一体イケメンの外国人とやらは何者なのか。万が一不審者ならとっちめてやろう。そんなことを考えながらテイオーの後を追い正門へ。すでに人だかりが出来ており、その真ん中で囲まれている男が見えた。

 

 その男を見た瞬間、アルチョムの動きが止まる。そこにいるはずのない男が彼の目に映ったのだ。

 

「……Ася(アーシャ)?」

 

 思わず出たロシア語。どうやら男もこちらに気づいたようだ。

 

Серёжа(セリョージャ)! Наконец-то мы встретились(やっと会えたな)

 

 手を振り、ロシア語で挨拶する男にアルチョムは近寄る。間違いない。あの男はアルセニーだ。

 アルセニー・ボリソヴィチ・クロパトキンだ。

 彼の周りに集まったウマ娘達が、こちらを見て道を開ける。彼女達も何かを察したようだ。

 

Арсений Борисович(アルセニー・ボリソヴィチ)……?」

Да. Давно не виделись,(ああ。久しぶりだな、) мой товарищ(わが同志)Сергей Егорович.(セルゲイ・エゴロヴィチ)

 

 その瞬間、セルゲイはアルセニーを抱きしめる。彼もセルゲイを抱きしめた。そしてセルゲイの目から溢れ出す涙。

 

「……良かった、本当に良かった。よく生きててくれた」

「……お前もな。あのまま行き倒れしてんじゃないかって心配してたさ」

 

 いきなり始まった感動の再会に周りのウマ娘は置いてきぼりを喰らうが、そんなことは彼らに関係ない。あの事件から4年と数ヶ月。アルセニーの生存を願ってはいたが、頭のどこかで諦めていた。そんな矢先の出来事だ。

 彼から離れたセルゲイは静かにその左肩に手を置き俯く。

 

「すまなかった。本当にすまなかった……」

「……セリョージャ、なんで謝る?」

「あの時、俺はお前らを見捨てた。チームを見捨てたんだ。俺だけ逃げちまった……!」

「落ち着けセリョージャ。あの時はあれが最善だった、だろ? あのままだとどうなるかわからなかったんだ。だったら、アンタ1人でもあの場から離れるべきだったろ」

「ああ、確かにそうだが……」

「それに俺とお前は生き残った。そしてここで再会できた。それで十分じゃないか?」

「……そうだな。……その通りだ」

「なら、謝るんじゃなくてこの再会を祝おうじゃないか。それに話したいことが山ほどある」

「……ああ、ああ! 俺もだ。俺もあれこれ話したい」

 

 そんな二人の様子をテイオーを呆気に取られた顔で見ていた。

 

「そうだ、紹介しよう。俺が担当しているウマ娘、トウカイテイオーだ」

「この子ならこの前観たぜ。配信で映ってたな」

「トレーナー、この人は知り合い?」

「ああ。前に話したアルセニーだ」

「へぇ! この人がアルセニーさん? すっごいイケメンだね!」

「とりあえず自己紹介してくれ、テイオー。あ、あとコイツは日本語がわからない。英語で頼む」

「英語で⁈ うーん、わかった」

 

 そこからテイオーは英語で自己紹介を行う。アルチョムのアシスタントティーチャーのお陰か、前よりも流暢だ。そんなテイオーの自己紹介に対し、アルセニーも流暢な英語で返す。

 

「いやホント、お前にはもったいないかわい子ちゃんじゃないか」

「そりゃどういう意味だ?」

「そのままの意味さ」

「あの後いろいろあったんだよ。ここで立ち話もあれだ。俺のオフィスに来い。クーラーが効いてて涼しいぞ」

「助かるぜ! 日本は暑いって聞いていたが、ここまでとは思ってなかったからな。今にも倒れちまいそうだ」

「テイオー、すまないが今日のトレーニングは終わりにしていいか? しばらくアーシャと話したい」

 

 それを聞いたテイオーは不満そうな表情を浮かべるが了承した。トレーナーの過去を知っているからだ。

 

「うーん、仕方ないなぁ。あ! じゃあもう少しアルセニーさんとお話していい?」

「ああ、いいぞ。アーシャ、テイオーはもう少し君と話したいようだ。いいか?」

「もちろん! かわい子ちゃんなら誰でも歓迎だ」

「テイオー、自主練しないなら制服に着替えてこい」

「はーい」

 

 荷物を取りにグラウンドへ向かうテイオーを見送り、トレーナー室へ向かおうと校舎の方を向くと、そこにはたづなさんが立っていた。

 

「アルチョムトレーナー、その方はお知り合いで……」

「初めまして。私はアルセニー・クロパトキン。貴女に会えて光栄です」

 

 セルゲイが返すより先にたづなさんの前で跪き、その手を取り英語で挨拶をするアルセニー。

 

「貴女のような女性に、今この場で巡り合ったのは何かの運命なのでしょう」

「相変わらずバカなことしてんじゃねぇ!」

 

 そんなアルセニーを怒鳴るセルゲイ。コイツは昔からの女たらしだ。ロシアにいた頃も、暇さえあればよくナンパしていた。その美貌と明るさから成功率は高いが、気づけば3〜4股かけておりすぐにバレて長続きはしなかった。

 

「申し訳ありません、コイツは俺の古い知り合いです。コイツの身元は俺が保証しますので、入校許可をもらえますか?」

「わかりました。こちらについてきてください」

 

 少し困惑していたが、すぐにいつも通りに。その仕事への意識の高さは尊敬に値する。そして受付でアルセニーは許可証をもらい、トレーナー室へ。

 

「ったく、お前は相変わらずだな」

「真実の愛を追い求めるのが俺の生きる理由だ」

「他の理由を探すのを勧めるぞ。……さて、ここが俺のオフィスだ」

「自分の部屋を持てるなんて随分出世したなセリョージャ」

「まあな」

 

 部屋に入り、アルセニーはソファに座る。セルゲイは自分のデスクチェアを移動させ、アルセニーの向かいに座った。

 

「お前のオフィス、ちょっと狭いな」

「うるせぇ」

 

 そんなやりとりをしていると着替えを終えたテイオーが戻る。

 

「Wow! Cute uniform, looks great on you」

「Thank you! I like it!」

 

 制服を褒められたテイオーはその場でポーズを取った。それからテイオーはアルセニーについていろいろ尋ね始める。昔のことや日本の印象について、そしてセルゲイとの思い出も。いろいろと珍しい話を聞けたテイオーは満足そうだ。

 

「テイオー、アルセニーの話は面白かったか?」

「うん! 世界ってほんとに広いんだね! いろんな話が聞けて良かったよ!」

「そりゃ何よりだ」

 

 そしてテイオーはアルセニーに別れの挨拶をする。

 

「Thank you! Mr. Arseny. See you later」

「Thank you to you too. Goodbye」

 

 トレーナー室から去っていくテイオーを二人で見送り、再び席に着く。

 

「ホントにいい子だな。羨ましいぜ」

「俺の大切な教え子だ。手ぇ出すなよ」

「流石にまだ子供だろ? 俺がそこまで節操の無い人間に見えるか?」

「見える」

「ったく、相変わらず辛辣だなお前は」

 

 そう言い、あの時と同じように二人で笑い合う。その笑いは4年間の空白を感じさせない賑やかなものだ。

 するとセルゲイは一息ついて表情を変え、真剣な様子でアルセニーに尋ねた。

 

「……聞かせてくれ。あれからどうやって生き延びた?」

「……あの後、また襲撃があった。Mi-24が飛んできたんだ。今度こそ終わりだと思ったんだが、あの時に一人助かった子供がいたろ。あの子はウマ娘でな。その子を庇おうとしたら、俺を担いで走り始めたんだ。あんな華奢な身体なのに俺を担いで走るんだぜ? びっくりしたよ。んで気づいたら近くの村の前で二人仲良く倒れてたところを村人に拾われた」

「そうか」

「その後、俺らがいたキャンプの惨状を話した。国連の団体が到着した時には生存者はいなかったと」

「イカれた連中め……。難民なんざ殺して何が楽しい……? で、そのあとは?」

「その国連の団体に接触した。ウマ娘ちゃんはその団体に保護してもらったよ」

「そうか。そのウマ娘は今どこに?」

「イギリスの保護施設さ」

「なんでイギリスなんかに?」

「実はその団体の中にSISのエージェントがいたんだ。後で知った時は変な笑いが出たよ。ちなみに俺はソイツに頼んでイギリスに亡命させてもらった」

 

 そう言い、アルセニーはバッグから英国パスポートを取り出す。表紙には英国王室の紋章があしらわれたネイビーブルーの冊子。セルゲイはそれを手に取りしげしげと見つめた。

 

「偽造品か?」

「何言ってんだ、正規品に決まってるだろ。亡命したんだから。そう言うセリョージャはどうなんだ?」

「国籍はアメリカ、住所は日本。アメリカで証人保護プログラムを受けている。戸籍上の名はアルチョム・ルイシコフだ」

「なるほど、だからさっきの姉ちゃんはアンタを〝アルチョム〟って呼んだのか」

「ああそうだ」

 

 それからお互いに今まで何をしていたかを語り合った。アルセニーはその後、その経歴から国連施設の警備員として採用されたという。そしてなんの因果か、トルコの難民支援施設で警備員をしていた。そこで偶然、職員が観ていたタブレットにセルゲイが映っているのを観て、日本に飛んできたとの話だ。

 セルゲイもこれまでのことを語る。アメリカでのスカウトからトレセンに採用され、テイオーと共に駆け抜けてきた日々。アルセニーはそれを興味深く聞いていた。

 

「アンタがトレーナーなんて真っ当な仕事やるなんてな」

「一番驚いているのは俺自身だ。時々、変な夢でも見てるんじゃないかなんて思う」

「ま、人生ってのはそれだから面白い。それこそ、俺達みたいな経験をしたらなおさらな」

 

 それから話は、あの虐殺事件に関する話へと移る。

 

「あの虐殺事件の詳細を聞いた。知りたいか?」

「聞かせてくれ」

 

 それからアルセニーは語る。昔からあの国では民族対立があり、あのキャンプにいた難民は反政府側の民族だった。政府は彼らを消そうと画策し、それを嗅ぎ付けたFSBが支援したという。そうして空軍に空襲させ、政府軍の襲撃部隊を送り込んだ。が、ここで予想外だったのがセルゲイらの存在だ。襲撃部隊の中にはFSBが紛れ込ませた工作員もいたが戦闘で死亡。焦った政府軍上層部はロシア軍に支援を求めた。それが最後に飛んできたMi-24だった。

 アルセニーはそれをSISのエージェントから聞いたと言う。

 

「なんで俺らがいたのにやりやがった」

「軍とFSB、そしてオリョールの間でそんな円滑なやりとりがあると思うか?」

「無いな。……俺らはそんな理由で棄てられたのか」

「所詮は使い捨てさ」

「ケッ、クソッタレが」

 

 深くため息を吐くセルゲイ。ふと外を見ると綺麗な夕焼けが見える。随分と話し込んでいたようだ。

 

「アーシャ、ホテルかなんか予約してるのか?」

「俺がそんな計画的に日本に来ると思うか?」

「……俺の家に泊まるつもりなんだな」

「さすがは我が同志! お邪魔させていただきます!」

 

 呆れたように頭を抱えるセルゲイ。いや、コイツはそうだった。基本的に計画性が無い。なんでこんなヤツが戦場で生き残れたのか不思議でならないが、とにかくそういうヤツだ。

 

「まあいい、酒は余ってる。今日までの空白の分、いろいろ語り合おう」

「酒か! さすがセリョージャ!」

 

 二人はセルゲイの自室に行き、そして酒を飲み交わす。4年間の空白を埋め、互いの生存と新しいスタートを祝福するために。

 





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