元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました   作:武装田んぼ

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前日譚に付き合っていただきありがとうございます。
ここから本編が始まります。本編から上げようか迷ったのですが、トレーナーの過去を理解していただいた方がわかりやすいかと考え、このようにしました。




ジュニア・クラシック級編
第1話 PMC in トレセン学園


 

 

 日本に来てからの一年半はアルチョムにとって忙しいの一言しか出ないものだった。

 

 まずは日本語の復習。アルチョム自身、独学に加えて軍隊でも習ったからどうにかなるだろうと余裕ぶっこいていたら想像以上に忘れていた。そのクセ、自動小銃だの制圧射撃だの、日常ではまず使わない用語は覚えていた。あとはギャリック砲とか。

 

 さらにトレーナー資格講習。これもこれで大変だった。身体トレーニングなどは軍隊で感覚的にやっていたことを言語化させるような内容だった。流石に匍匐前進や近接格闘なんかはやらなかったが。

 

 それより難しかったのは競バに関する学科だ。

 ウマ娘のトレーナーたる者、競バの知識は一から百まで全て頭に叩き込まねばならない。が、アルチョムには決定的に欠けていた。さらに言えばうろ覚えの言語で専門用語の洪水を浴びることになる。

 戦場とは違った神経をすり減らす羽目になったが、それでも目指した以上はやるしかない、と必死に齧り付いた。

 

 あとはやはり文化の違いか。ロシアで生まれた彼はもちろん、ロシア文化が身に染みており、あとは任務で訪れた中東やアフリカの文化も多少は習ったが、日本文化はからっきしだった。そもそも彼が日本語を学んだのはたまたま日本のマンガを観たかっただけだし、軍で日本語をやったのも独学のアドバンテージを活かせると考えたからだ。日本にさほど興味があった訳では無い。

 

 よってアルチョムは想像以上に学ぶべきことに追われることになる。救いだったのは秋川理事長に気に入られたお陰でトレーナー寮に住むことが出来、常に最低限の衣食住が保証されたことか。やはり人間というのはこれが保証されてこその生き物だと感じた。戦場ではロクに保証されなかったな、と思い出しながらも彼はとにかく勉学に励み、まずはトレーナー資格を取得した。

 

 正直、なぜあれほど高倍率の資格試験に合格できたのか? 超難関大学入試以上の倍率といわれる資格試験だ。不正? いやまさか。そんなコネなんか無い。あの理事長が……? いや、あの人は不正をやらせるような人じゃあるまい。

 

 例え回答の半分以上を勘で答えていようが、受かったならこっちのもんだ。

 

 どうにか掴んだチャンス。こうして挑んだトレセン学園トレーナー採用試験。一次、二次、最終と三回受ける。

 

 筆記は……、まあ健闘した。漢字圏のテストなんか初めて受ける。わけわからん。なんでアジア人はあれを文字として認識できるんだ?

 面接は……、まあ問題無いだろ。語りたいことは語った。

 

 一次、二次、共に合格した。後に聞いた話では筆記試験の結果は合格ギリギリのラインだったそうだ。

 そして挑む最終試験。面接官は秋川理事長と理事長秘書の駿川たづなさん? だった。秋川理事長はこちらの亡命を知っている。たづなさんもそこで初めて会ったが秘密は厳守する、との話だったので彼は全てを伝えた。

 

 そこでアルチョムは思いの丈を吐き出した。今までの仕事からやっと足を洗えたこと。ウマ娘を見て、自分が初めて希望を持てたこと。

 自分の過去、軍隊時代、そしてPMCコントラクター。もう二度と銃を握りたくない。このクソッタレから抜け出すためならあらゆる努力を惜しまない。どんな限界だろうと超えてみせる! それを証明するにはトレセン学園しかないんだ!

 

 そして最後に、他人の人生を潰してきた人間が今更人の人生に責任を持つなんておこがましいにも程があるのは承知だ。だが、それでも俺はウマ娘の力になりたいんだ、と語る。

 

 我ながらここまで来ると軽い強迫性障害ではないのかと思ってしまう。それでも、ここまでして語るほど彼の経験は暗い影を落としていた。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 合格発表当日。いつものように作業用のパソコンに電源を入れ、メールを確認する。不合格ならメールが来ているはずだ。

 

 だが、メールボックスにあったのはいつもの広告メールだけだった。

 直後、スマホが鳴り響いた。

 

「もしもし、俺です。アルチョム・ルイシコフです」

 

 だいぶ流暢になった日本語。

 

《合格! アルチョム・ルイシコフ君! 君をトレセン学園、トレーナーとして採用する! ってな訳で、必要書類を学園に取りに来てくれ!》

 

 秋川理事長より直接合格が通知された。

 

 本来なら郵送の必要書類。ただ、トレーナー寮にすでに居住しているせいか、そのまま取りに来いと言われた。

 まあ200メートルも離れてない距離だ。郵送するのもかえって手間だろう。帰りにコンビニでも寄ろうかと考えながら寮を出た。

 

「お待ちしておりました。アルチョムさん、こちらです」

 

 校門前で駿川たづなが出迎える。

 

「わざわざありがとうございます」

「お気になさらず、仕事のうちです」

 

 ふと、ニューヨークのトレセン学園での出来事を思い出す。あの時は警備員のウマ娘に銃を向けられたが、ここの警備員は腰のベルトに警棒が1本ぶら下がっているだけだ。

 

 この国の治安の良さ故か? いや、銃刀法とかって言う法律か? まあ、銃向けられなきゃなんでもいい。

 そのまま事務所に向かい、そこで秋川理事長直々に書類を手渡された。

 

「期待! アルチョム君の活躍に我々は注目しているぞ!」

「はい、必ずやご期待に添える結果を残して見せます」

「そう畏まらなくて良い。そうだ、せっかくだからこれから君の職場となる我がトレセン学園を案内してやろう!」

「理事長、後5分でURA理事会とのオンライン会議ですよ?」 

 

 たづなさんが言う。

 

「ぬ! そうだった……。仕方ない、たづな! アルチョム君を案内してやってくれ」

「もう、理事長も人使いが荒いんですから……」

 

 軽くため息を吐きながらもすぐに気を取り直し、アルチョムにいつもの笑顔を向けた。

 

「では参りましょう。トレセン学園は広いですから、後で迷ったりしないよう、ちゃんと覚えてくださいね」

「中東の荒野よりはマシですよ」

 

 アルチョムはたづなさんの案内についていく。

 

「んで、ここがトレーナー棟ですね。アルチョムさんの部屋もここに用意されるかもしれません」

「新人なのにですか?」

「作戦会議とかありますし。ただ、チームを担当しているか個別かで広さはやや異なりますが」

「へえ……」

「では次はこちらへ」

 

 体育館に温水プール、トレーニングジム、そして広大なグラウンド。さすがは一流のウマ娘を輩出しているだけある。

 

「俺がいた駐屯地より設備いいのな」

 

 羨ましそうに呟くアルチョム。すると、たづなさんのスマホに着信が来る。

 

「はい、たづなですが」

《よかった! たづな、案内が落ち着いたらちょっと来てくれ。会議でいろいろあってな、たづなに来て欲しいんだ》

「わかりました、少しお待ちください」 

 

 電話を切り、スマホをしまうたづなさん。

 

「ごめんなさい、理事長から呼ばれまして……」

「ああ、大丈夫ですよ。だいたい把握しましたから。あとは1人でぶらついてます」

「申し訳ありませんね、ではまた今度」

 

 お辞儀して去っていくたづなさんを見送り、アルチョムはグラウンドに向かう。途中の自販機でコーヒーを買おうとすると、一番上の段の商品を購入しようと必死に手を伸ばすウマ娘がいた。

 

 PMC時代の自分なら無視したかも知れないが、この時はなぜか放っておけなかった。

 

「どうした、どれが欲しいんだ?」 

 

 ふと、声をかける。

 

「あ、右側のはちみつレモンのヤツ」

「あいよ」

 

 はちみつレモン飲料が取り出し口に落ちてきた。

 

「ありがとう。あれ? 初めて見る人だね」

 

 綺麗なロングヘアーをポニーテールで束ね、前髪の白いメッシュはまるで三日月のようだ。そして蒼く澄んだ瞳でこちら不思議そうに見てくるウマ娘。

 

「あー、アルチョムだ。アルチョム・ルイシコフ。来年度からここのトレーナーになる。今日は野暮用でな、ちょいと来たんだ」

「へぇー! 外国の人⁈ ねーねー、どこの国から来たの⁈」

「えっと……、ロシ……アメリカだ。アメリカから来た」

「えー! アメリカから来たんだ! アメリカのどこ⁈ ニューヨーク? ボストン? ウェストバージニア?」

「ウェストバージニアなんてよく知ってるな。ニューヨークだよ」

「えー、すごーい! ねー、じゃあさなんで日本に来たの?」

「あっちでたまたま秋川理事長に気に入られてな。スカウトされたっていうのかな」

「すごいじゃん! そんなトレーナーが担当になったなら最強のウマ娘になれるのもあっという間かもね!」

 

 そのウマ娘は目を輝かせながら言う。

 

「あ、ボクの紹介してなかった! ボクはトウカイテイオー! よろしくねっ!」

 

 元気に挨拶するウマ娘。

 

「トウカイテイオーか、いい名前だな」

「ふっふーん、でしょでしょ!」

 

 ちょっとしたお世辞のつもりだったが、褒められて上機嫌の様子。こういう元気なウマ娘のトレーナーも悪くないな、となんとなく思うアルチョム。

 

「あ、マヤノのこと待たせちゃうからもう行かなきゃ。じゃーねー!」

 

 そのまま、テイオーは風のようにその場を去っていく。アルチョムはコーヒーを購入し、グラウンドに向かった。何人かのウマ娘が走り込んでいる。

 どの子も練習に打ち込む姿は真剣そのものだ。

 

「お、見学かい?」

 

 1人のトレーナーがこちらに気づいた。左側頭部を刈り上げた特徴的な髪型に棒キャンディーを咥えた男がこちらに近寄ってくる。

 

「あー、初めまして。来年からここでお世話になるアルチョム・ルイシコフと言います。どうぞよろしく」

 

 まずは丁寧な態度で出る。無駄に敵対したくないからだ。

 

「おう、俺は沖野ってんだ。よろしく頼むぜ新人さんよ」

 

 そう言い右手を出した男。一瞬迷ったが、とりあえず握手する。落ち着けセルゲイ。ここは戦地じゃない。

 

「その人知り合いですか? トレーナーさん」

 

 また1人のウマ娘が近寄ってくる。

 

「来年からここのトレーナーになるんだと」

「そうなんですか? 私スペシャルウィークといいます! よろしくお願いします!」

 

 ぺこり、とお辞儀するウマ娘。愛らしいボブカットに白い前髪が特徴的なウマ娘だ。

 

「ああ、どうも。アルチョム・ルイシコフだ。よろしくな」

「アルチョムさん、と言うのですね。どこから来たんですか?」

「アメリカだ。ニューヨーク出身だよ」

「アメリカからですか! エルちゃんやグラスちゃんと同じですね!」

「あー、そうだな」

「そういえばニューヨーク出身なんですよね! 自由のウマ娘像に登ったことあります?」

「……確か子供の頃に何度か」

 

 適当なウソで誤魔化す。

 

「えー、そうなんですか! あ、じゃああのとんがったビルはどうですか?」

 

 スペシャルウィークの質問は続く。

 

「とんがったビル……?」

 

 なんか見た気がするが名前が出てこない。

 

「スペちゃん、その人少し困ってない?」

 

 他のウマ娘がスペシャルウィークに声をかける。

 

「あ、ごめんなさい! 聞きたいことがたくさんあって……」

「ああ、いいよ。気にするな。で、隣の君は?」

「初めまして、サイレンススズカです」 

 

 丁寧にお辞儀するウマ娘。

 

「アルチョム・ルイシコフだ。こちらこそよろしく」

「来年からトレーナーになるんですよね。がんばってください」

「まあな。やるだけやってみるさ」

「じゃあスペちゃん、そろそろ練習に戻りましょう」

「あ、はい!」

 

 2人のウマ娘はお辞儀してから去っていく。すると今度は背後から声がかけられた。

 

「もしかして、新しいトレーナーさんですか?」

 

 振り向くと新たに2人のウマ娘がいる。

 

「初めまして。ダイワスカーレットと申します。よろしくお願いします」

「ウオッカだ。よろしく頼むぜー」

 

 お辞儀するウマ娘と二本指で映画のような仕草をするウマ娘。

 

「アルチョム・ルイシコフだ。よろしく頼む」

「あ! 外国人か! カッケー! どこから来たんだ? アメリカ? イギリス? アフリカ?」

「アフリカは国名じゃないわよ」

「うっせーな、ちょっと間違えたんだ」

「アメリカからだ」

「アメリカ! ってことはデッカいバイクとか持ってんのか!」

「いやー、どうだろうな」

「あ! じゃあ車か! デッカい車!」

 

 ハイテンションで聞いてくるウオッカ。

 

「ちょっと、初対面の人に質問攻めするんじゃないの!」

「あーっ、まだ聞きたいことあんのにー!」

 

 スカーレットに尻尾を引っ張られて連れて行かれるウオッカ。

 

「ごめんなさい、ウチのウオッカが……では」

 

 スカーレットはウオッカを引っ張りながらそう言い残し、グラウンドに向かった。

 

「賑やかなチームだろ。スピカって言うんだウチのチーム」

 

 沖野トレーナーがアルチョムの隣に立つ。

 

「素敵な名前ですね、自分もいつかはこんなチームを作れるでしょうか?」

「そりゃわからん。俺だってコイツらが楽しく走れるように見守ってやるぐらいしかできないしな。最終的にチームを作るのはウマ娘達だ。あ、あとわざわざ敬語使わなくていいぞ。堅苦しいのは性に合わなくてな」

「はぁ、……最終的にはウマ娘達か……」

「まあ新人でいきなりチーム担当はないだろうし、最初は個別担当だろう。なあに、ちゃんとその子と向き合ってやれば自ずと結果は出てくるさ」

 

 軽く肩を叩き、グラウンドに向かう沖野トレーナー。

 

「がんばれよー、新人さん。よーしお前ら! 坂路いくぞ、準備しろー!」

 

 ウマ娘達に囲まれながらトレーニングの指示を出す。

 

「向き合う、か……。最後にまともに人と向き合ったのはいつだ……?」

 

 グラウンドを眺めながらふと考える。長らく他人と誠心誠意向き合った記憶がない。ふとアルセニーの言葉が脳裏によぎる。

 

 “セリョーガって友好的に振る舞っても表面上だけじゃん?”

 

 表面上だけ。ずっと戦場に身を置いていた故か、安易に他人を信用できないでいた。

 いや、それ以前からだ。6歳の時、モスクワのテロで家族を失ってから、親戚にたらい回しにされた記憶。孤児院の大人に厄介者として扱われ、常に疎外感を感じる日々。

 嫌な記憶が蘇る。

 

「クソッタレ……」

 

 だが、その一方で子供に対してはただ甘やかすしか知らない自分がいた。自身の少年期は甘やかしとは無縁だった。甘やかしてくれる家族がいないのだ。周りの大人は甘やかしてくれないし信用できなかった。

 

 なら、大人になった自分に何ができるんだ? 厳しく接すれば、それは自分を苦しめた大人達と同じではないか。とにかくその子を甘やかして、なんでも聞いてあげる。俺みたいな目に遭わせたくない。

 

 これがその子の為になるか? 知るか、俺は俺を苦しめた大人と同類になりたくないんだ。

 重いため息を吐いた。彼にとってウマ娘との向き合い方は一番の課題かもしれない。

 

 グダグダ考えていても埒が明かない。

 

「帰るか」

 

 缶コーヒーを飲み干し、自販機横のゴミ箱に捨てた。

 

「そういやここ購買あったんだっけ」

 

 たづなさんに案内された購買。学校の購買ながら、大手コンビニチェーン店と提携しており、品揃えは他の店舗と大差ない。ついでにポイントも貯まる。

 昼飯でも買うか、と思いながら購買に向かう。

 

「新作スイーツが3つも……、しかし、食べ過ぎるとまた……」

「あー、マックイーンまた太ったのー?」

「太ってません! 減量中なだけですわ!」

「へぇー、ホントかなぁ?」

「テイオーちゃんみてみて! あのアイスまだ売ってた!」

「あ、ホントだ! 昨日無かったからもう無くなったと思ってたよ」

 

 購買に着くと3人のウマ娘がスイーツコーナーではしゃいでいる。そのうち1人は見覚えのあるウマ娘だ。たしかトウカイテイオーという名前だったか。

 

「あ、さっきの人!」

 

 テイオーが気づいたようだ。

 

「あぁ、どうも」

「……お知り合いの方ですの?」

「ううん、さっき自販機のところで会った人。来年からここのトレーナーになるんだって」

「あら、そうでしたか。初めまして。メジロマックイーンと申します。以後お見知りおきを」

「初めまして! マヤノトップガンだよ! 新人トレーナーちゃん、よろしくねっ!」

 

 綺麗なお辞儀する芦毛のウマ娘と隣で栗毛の元気いっぱいウマ娘がキュートな敬礼をする。

 

「アルチョム・ルイシコフという。来年からよろしくな」

「アルチョムさんってアメリカで理事長にスカウトされて来たんだって!」

 

 テイオーがマックイーンとマヤノに言う。

 

「そーなの⁈ すごーい!」

「まあ! 理事長さんのお眼鏡にかなう方なんてそうそういませんわ」

 

 目を輝かせ、こちらを見る2人。

 

「まあ、偶然だよ。運が良かっただけさ」

「運も実力の内ですわ」

「そう言われるとそうかも知れんな」

「アルチョムちゃんってもしかして超凄腕トレーナーちゃんだったりして!」

 

 3人のウマ娘にちやほやされ、気を良くしたアルチョムはついこう言ってしまう。

 

「よしわかった。なんか欲しいお菓子とか買ってやろうか?」

「えー! いいの!」

「いいのですか?」

「やったー!」

 

 三者三様に喜ぶ姿は微笑ましい。しかしまた、ただの甘やかしになっちまった、と軽く後悔したがそれはさらに大きな後悔に吹き飛ばされた。

 みるみるうちに商品カゴに入れられていくお菓子にスイーツにアイスにドリンク。そしてここぞとばかりに文房具まで。

 

「おい待て、1人ひとつだろ」

 

 日本人は遠慮すると聞いたはずだ。だが、このカゴを見る限りそこには遠慮のカケラすらない。

 

「えっ……」

「ウソ……」

「そんな……」

 

 3人が上目遣いでこちらを見る。そして無言で訴えている。

 

「いや、いい。今カゴに入ってる物は買ってやる。でも手に持ってるヤツは戻して来い」

 

「5,925円になります」

「スマホ決済で」

 

 アプリを開いて読み取り機にかざす。

《ご利用ありがとうございました!》

 電子音のベルがなり支払いが終わる。本来の購入分の10倍近い値段を払う羽目になった。

 

「ポイント貯まったからヨシ」

 

 自己暗示のように呟く。

 

「アルチョムさん、ありがとうございます!」

「ああ、どうも。たくさん買ってやったんだから勉強とかトレーニング、しっかりやれよ」

「はーい!」

 

 3人の後ろ姿を見送り、トレセン学園を後にする。

 ウマ娘達といったところで年相応の少女だ。普通に接すれば問題ないだろう。

 

 ただ、やはり担当するウマ娘は話が違う。さっきみたいにただ甘やかしては指導にならないだろうし、表面上だけではいずれ見抜かれて信用を失う。かといって厳しく接するとなると、過去に自分が恐怖した大人達の姿そのものになってしまう。

 

 先輩トレーナーに聞くのも手だが、そのトレーナーはどこまで信用できるのだろうか。

 アルチョムは自分の過去による影響の大きさに驚いていた。この過去は生涯引き摺るのであろう。

 ふと、自分の影が目に入る。普段の影よりかなり暗く見えた。

 

 






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