元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました   作:武装田んぼ

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第51話 夏といえば!

 

 

 合宿の終わりまであと1週間ほどとなったある日。砂浜のコースにいつもの2人に加え、マヤノとマックイーンもいる。

 テイオーとマックイーンが並走するのをアルチョムはいつものようにドローンで見ていた。その隣では天野トレーナーとマヤノがストレッチをしている。

 砂浜の上を元気に駆ける2人を特徴的なモーター音と共に追いかけるドローン。アルチョムがドローンを使い始めた時は随分と珍しい光景だったが、今ではみんな慣れた。なんならテイオーと並走して撮影してもらい、その動画を共有することすら今では珍しくない。

 そんな訳で今日も元気に空を舞うドローン。

 

「今更ですけどアルチョム先輩はドローンの操縦ってどこで習ったんですか?」

 

 飛んでいくドローンを眺めながら、天野トレーナーが尋ねた。

 

「軍で習った。今の時代、ドローン無しじゃ戦争なんかできないからな」

「そうなんですか?」

「ああ。コイツの有無が作戦の成否をわけることだってある」

 

 ドローンのおかげで何度危機を回避できたことか。それは戦場で目となり、二次元的視界では決して見えない情報を空からもたらしてくれる。

 ヘリでも呼べばいい? そんな都合よく飛んできてくれるほど、航空隊の連中は気前良くないし、撃墜された場合の人的損失のリスクもある。それにドローンほどキビキビと臨機応変に動けない。ただ、最大の理由はそのコストだ。ドローンはとにかく安い。安くて取り回しが良いんだ。

 戦場の霧と言う言葉があるが、ドローンのおかげでだいぶ晴れてきたように思う。それでもまだまだ濃いが。

 

 そんな話を天野トレーナーに語るアルチョム。天野トレーナーはその話をメモまで取って聞いていた。

 

「自衛隊に入るつもりでもないならメモする必要無ぇぞこの話」

「……! あはは、言われてみればそうですね」

 

 照れ臭そうに笑う天野トレーナーを見つつ、アルチョムはトレーニングを続ける。すると、走り終えたテイオーとマックイーンが戻ってきた。

 

「どうだった? トレーナー」

「悪くなかったぞ。砂浜での走りにもだいぶ慣れたな」

「でっしょー! これだけ走れるなら次はダートレース出てみようかな?」

「あら? 天皇賞秋はどうするんですの?」

「天皇賞だって走るよ!」

 

 ステップを踏みながら言うテイオーに対し、マックイーンが返す。テイオーの次のレースは天皇賞秋。そこでマックイーンと再戦する。

 天皇賞春では僅差で勝利したテイオーだが、次も勝てるかは勝負がつくその瞬間までわからない。だからこそ、普段のトレーニングから疎かにせず、入念に鍛錬と調整を重ねるのだ。

 

「バカ言うな。砂浜とダートは全然違うだろうが」

「冗談だよトレーナー。でも一回ぐらい走ってみたいな」

「チャンスがあればな」

 

 そう返しながらアルチョムは戻ってきたドローンの映像を確認しつつ、その場に待機させた。

 

「よしテイオー、次はマヤノと並走だ」

「やっほー! テイオーちゃん一緒にがんばろー!」

「オッケーマヤノ! トレーナー、合図して!」

 

 2人が準備を終えてスタートラインに立ち、アルチョムを見る。アルチョムは彼女たちの進路を確認してから笛を吹いた。

 元気に飛び出した2人。風に髪と尻尾を靡かせて砂浜を駆けていく。そんな2人をまたドローンは空から追いかける。

 

「マヤノのフォーム、前と変わったな」

「はい、こっちの方がマヤノの強みを活かせると思いまして。アルチョム先輩はどう思います?」

「悪くないと思うぞ」

「ありがとうございます!」

「ただ、最終的に決めるのは君たちだ。俺の話はあくまでもアドバイスで、答えじゃない」

「そ、そうですね。そういえば、アルチョム先輩はテイオーさんのフォームで何を気にしてますか?」

「いくつかあるが、中でも特に脚への負荷だな。去年の骨折はそれが最大の原因だと考えている」

「なるほど……」

 

 そんな会話をしていると戻ってきた2人。

 

「トレーナーちゃん、走ってきたよー」

「お疲れマヤノ」

「ねぇ、トレーナーちゃんはアルチョムさんと何話してたの?」

「マヤのフォームの話さ。マヤは前の走り方と今の走り方、どっちが走りやすい?」

 

 尋ねられたマヤノは顎に人差し指を当てて考える。

 

「マヤは前の方がいいかも。あっちの方がばびゅーんっていけるから!」

 

 そう言い、両腕を広げて飛行機のマネをする。そんなマヤノに天野トレーナーは走っていてどう違うのか詳しく聞いていた。

 するとそこへやって来た相田トレーナー。隣にはゴールドシップもいる。朝からずっとゴルシに振り回されていたらしくその表情からは疲れが見える。

 

「おーいマックイーン! かれぴ連れてきたぞー」

「ちょっ⁈ ゴールドシップさん! 大声で変なこと言わないでくださいまし!」

「いいじゃねぇか、どうせみんな知ってんだしよ」

「そう言う問題ではありませんわ!」

 

 早速賑やかになるゴルシとマックイーン。相田トレーナーはアルチョムの元に寄って来て挨拶をする。

 

「お疲れ様です。マックイーンのトレーニングを見ていただきありがとうございます」

「ああどうも。あとこれ、さっきテイオーと並走した時の動画です」

 

 そういい、先程の動画を相田トレーナーのスマホに送信する。

 

「ありがとうございます。私もドローンを活用出来たらいいんですが、どうも操作に慣れなくて……」

 

 そう言いながら、アルチョムの隣でホバリングしているドローンを見る。トレセンのコースはその長さや高低差の関係上どうしてもウマ娘の様子が見えづらい部分がある。それに加え、マックイーンの骨折とアルチョムの影響もあってドローンをトレーニングで使うことを考えたのだが、ほとんど満足に飛ばせず、結局諦めたのが先月の話だ。

 

「よくよく考えたらラジコンもまともにやったことが無いので、ドローンなんて無理ですよね……」

「そうか? 俺だってラジコンはやったことがないぞ」

「そうなんですか?」

「ただ、俺はドローンを操作しなければならない状況に追い込まれたから、ってのはあるだろうな」

「確か、軍で習ったんでしたよね」

「ああ。敵より優位に立つ為に、身の安全の為にドローンが必要だった。それだけだ」

 

 戦場で敵に先制を許せば、例えこちらが装備や数で勝っていたとしても不利な状況に追い込まれてしまう。それを防ぐにはこちらが先制するか、あらかじめ敵の襲撃を想定し備えておく必要がある。

 それらを行うためにドローンは非常に役に立った。地形の把握や、攻撃ルートの想定と対策、そして広範囲の索敵。ケチな航空隊と違い、いくら飛ばそうと文句一つ言わずに命令を聞いてくれる。そんな便利な道具を使いこなすため、現役時代に自費でドローンを購入してまで猛練習を重ねた成果が今日のトレーニングに活きている。そう考えると面白いものだ。

 

「よしテイオー! あと3本走ったら休憩だ!」

「はーい!」

「マヤも走るー!」

「私もご一緒させてもらいます」

「おう、さっさと準備しろ」

 

 スタートラインに立った3人。アルチョムの合図と共に元気に飛び出す。そんな3人をドローンは元気に追いかけていった。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 その日の夜。

 夏合宿の定番といえばいくつかあるが、やはり怪談話は外せない。

 どこから持ってきたのか。真っ暗な部屋の真ん中に置いた蝋燭に火をつける。ぼうっとした灯りがテイオー達の顔を照らし出し、普段の元気な顔からは想像できない不気味さを醸し出した。

 

「なあ、なんで俺がいなきゃいけないんだ? 帰らせてくれ」

「いいじゃないですか先輩、僕もいますし」

「そうか。なら天野、あとは頼んだ。ウマ娘ちゃん達と仲良くな」

 

 そう言い、部屋から出ようとしたアルチョムをウマ娘パワーで引き戻すテイオーとツインターボ。そのまま座布団に戻される。

 揃っている面子はアルチョムと天野トレーナー、テイオーとターボに加え、ナイスネイチャとマヤノ、マックイーンもいる。そしてテイオーはアルチョムが持ってたタブレットを置き、LANEのビデオ通話を開始。するとキタサンブラックとサトノダイヤモンドが映った。

 

「これで揃ったね。ボクの怖い話は覚悟して聞いた方がいいよ〜?」

「だから帰らせてくれ」

「一番怖い話してみんなをガクブルさせてやる!」

「帰りたいんだが」

「アタシこう見えて怖い話たくさん知ってるのよ? 寝れなくなっちゃったらゴメンね?」

「帰るって」

《私、とーっても怖いジンクス、知ってるんです》

《ええっ、ダイヤちゃんもしかしてあの話しちゃうの⁈》

《うーん、もしかしたらアレより怖いかも》

「そうか、んで俺は帰っていいか?」

 

 ウマ娘達がコメントする度に帰ろうとするアルチョム。アルチョム、もといセルゲイは昔からホラーというジャンルが嫌いだった。なお、その理由に関して彼は〝人間は銃で黙らせることができるがお化けはそれができない〟と答えている。

 

「トレーナーもしかして怖い話苦手?」

「大っ嫌いだ」

「ええっ⁈ 兵隊だったのに?」

「兵士がホラー苦手で何が悪い」

 

 そんなアルチョムがなぜここにいるか。この日、怖い話をするために集まったウマ娘達。するとマヤノが天野トレーナーがとても怖い話を知っていると言うので連れて来ようとなった。それだけならよかったが、この中に男1人で入るのがどこか気まずかった天野トレーナーはアルチョムを呼んだのだ。何も知らずに来てしまったアルチョムはこうして巻き込まれることとなった。

 

「誰から話す?」

「じゃあアタシからいこうかしら。呪いの蹄鉄って話、知ってる?」

 

 口を開いたのはネイチャ。普段の口調と打って変わり、その背筋を恐怖にゆっくり浸していくような語り口はアルチョムはもちろん、テイオーも顔が恐怖で引き攣っているほどだ。

 

「……だから蹄鉄はまた次の生贄を探しているの。貴女に合うピッタリな蹄鉄のフリをしてね」

 

 語り終えたネイチャ。その蝋燭の火に照らされた顔があまりにも不気味に見えた。

 

「じ、じゃあ、つ、次はターボが怖い話する!」

 

 それから語り始めるターボ。ただ聞いただけではそこまで怖くはないが、その文章に隠された意味を知るとじわじわと恐怖が襲ってくる。幸い、アルチョムは理解ができなかったのか平気そうだった(なお後日、テイオーから聞いてもないのに意味を聞かされ、無駄な恐怖を味わう羽目になる)。

 

「では、私からとあるお屋敷に伝わるお話を一つ……」

 

 マックイーンの口から語られたのは洋館の話。よりによってロシア人形がキーアイテムとして登場する話で、再び恐怖に煽られるアルチョム。

 それからも、ウマ娘が語る話はなんとも不気味な話ばかりで、アルチョムは疲弊しつつあった。

 

「じゃあ、最後は僕が話すね。これは僕の生まれ育った地元、新潟県阿賀野市のとあるお寺にまつわる話でね……」

 

 天野トレーナーが語った昔話。その内容は王道のジャパニーズホラーだが、それでは止まらない薄気味悪さと後味の悪さが、より恐怖を膨らませる。

 

「……って言う話なんだ。不思議だよね、この話」

 

 天野トレーナーが語り終えた後、周りのウマ娘達は恐怖で身を寄せ合っていた。アルチョムはアルチョムでただ黙って十字を切っている。

 

「トトっ、トレーナーは何か、は、話とか無いの?」

 

 青ざめた顔でアルチョムに尋ねるテイオー。強がってはいるが、恐怖で体が震えている様子が暗闇でもわかる。

 

「あ? ねぇよンなモン、さっさと部屋に戻らせてくれ」

 

 そう言った直後、なぜかガタガタと震える窓の障子。窓は閉めていたはずだが、いつの間にか隙間が空いている。そして、この日もいつものような熱帯夜だというのにどこか肌寒い。

 

「「「きゃあ!」」」

《うわぁっ!》

「と、とりあえず俺は戻るからな!」

 

 アルチョムは電気をつけてドアから部屋を後にする。節電なのか元からかはわからないが、なぜか廊下は薄暗い。慎重に周囲を確認しながら廊下に出るアルチョム。そして曲がり角ではカッティングパイとクイックピークを行い、まるで屋内制圧をするかのように進む。こうまでしてようやく自室にたどり着いたが、結局この日はほとんど眠れなかったと言う。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 夏合宿最終日の前日。

 この日、合宿所のある町では毎年恒例の夏祭りが開催されており、ウマ娘達が夏の思い出に新たな一ページを加えていた。

 もちろんそれはテイオー達も例外ではない。水色のキュートな浴衣に身を包み、準備万端だ。

 

「トレーナーも浴衣着たら?」

「俺が? どうせ似合わん」

 

 例え夏祭りだろうとオリーブドラブのTシャツとタンカラーのタクティカルパンツを着る男、アルチョム・ルイシコフ。そしてその半袖は腕の筋肉をこれでもかと見せつける。

 

「試したらいいじゃん」

「そうよ、アルチョムさん。イケメンでマッチョなんだし似合うって」

 

 そんなアルチョムにネイチャが言う。

 

「……今度着てみるか?」

「トレーナー、イケメンって言われたらすぐ調子に乗る」

「野郎なんてそんなモンだ」

 

 基本的に容姿でも技量でも、彼は褒められると調子に乗る。そして時々とんでもないやらかしをぶちかますことがある。

 

「テイオーさーん、ネイチャさーん!」

「マックイーンさーん、お久しぶりでーす!」

 

 そこへ現れたのはキタサンブラックとサトノダイヤモンド。テイオー達と一緒に祭りに参加するためにわざわざ東京から来たと言う。

 

「あんたら2人で大丈夫だったか?」

「サトちゃん家のヘリコプターで送ってもらったので大丈夫です!」

「はい、我がサトノ家の自家用ヘリで参りました」

「……自家用? ヘリ?」

 

 一体どれほどの金持ちなんだ。ヘリコプターが珍しい訳ではないが、自家用ヘリなんて君は大統領か何かか? ……まあ移動手段はなんでもいい。今は祭りを楽しもう。

 そうは言ったところでアルチョムの仕事はやはりテイオー達の監督だ。確かにテイオー達は中学生だし、分別の判断ができるだけの経験と知識は持っている。が、それでも万が一と言うのがあり、それを防ぐためにはやはり大人たるトレーナーが目を光らせる必要があるのだ。

 

「あまりハメ外すんじゃねぇぞ」

「大丈夫だってトレーナー! ボク来年から高校生なんだよ?」

「中学生だろうが高校生だろうがまだまだガキだ」

「むーっ、また子供扱いするー」

 

 そう言いむくれるテイオー。マックイーンとサトノダイヤモンドは相田トレーナーと共に、マヤノは天野トレーナーを連れて人混みの中に入って行った。

 テイオーはキタサンとネイチャとどこを回るか相談しているようだ。するとキタサンが何か見つけたのか目をキラキラさせて指差した。そして3人でそっちへ向かっていく。とりあえずついていくアルチョム。ぶっちゃけ早々問題は起きないだろうし、そこのベンチにでも座ってビールを飲みたいが、たづなさんや樫本代理に見つかれば確実に粛清される。

 

「ようお前ら! 今年もゴルシ様の焼きそばがあるぞ!」

「いらっしゃいませー! ゴルシさんの特製焼きそば、いかがですかー!」

 

 今年も出店しているゴルシの焼きそば屋。鉄板の前に立つゴルシと隣ではライスシャワーが会計を担当している。ゴルシはもちろん、ライスシャワーも法被まで着てノリノリだ。

 

「ゴルシさーん、焼きそば3つくださーい!」

 

 キタサンが元気に注文する。任せろと言わんばかりのヘラ捌きでパックに盛られる焼きそば。

 

「1500円になります」

「えっと、財布は……」

「大丈夫だよキタちゃん、ここはボクが払うから」

「あら、後輩の前ではしっかりしてるじゃない」

「ボクはいつだってしっかりもののお姉さんだもん♪」

「この前の怪談話の時はアタシに抱きついて怖がってたのに」

「あ、アレはノーカン! ノーカンったらノーカン!」

 

 全否定するテイオーとそれを見て笑うキタサン。もっとも、キタサンもキタサンであの時はサトノダイヤモンドに抱きついていた。

 テイオーは財布を取り出し、1500円をライスシャワーに渡す。受け取ったライスシャワーは焼きそば3つを手渡した。

 

「ありがとうございましたー!」

 

 そう言い、笑顔で手を振るライスシャワー。まるで天使のような笑顔だ。

 

「んでよ、テイオーのトレーナー、オメーは何も買わないのか? 冷やかしか?」

 

 どうやらゴルシはただ見ているだけのアルチョムに不満なようだ。その顔からは買えという圧力を感じる。隣ではライスシャワーがこちらを見つめている。

 

「……わかった。一つもらう」

「500円です」

「あいよ」

 

 ライスシャワーに500円玉を渡して一パック購入し、またテイオー達の後をついて行く。

 

「射的やろ!」

 

 テイオーが見つけたのは射的の屋台。早速屋台のおじさんに話しかけ、玉と銃をもらう3人。アルチョムはとりあえず後ろから見ていた。

 3人とも構え方はバラバラだし、実際の構え方とは大きく異なる。思ったより命中率は悪くないようだが、景品から逸れていく玉も少なくない。

 

「ちゃんと狙えばもっと取れるぞ」

 

 その中でもかなり苦戦している様子のキタサンに話しかける。

 

「こうですか?」

 

 そう言い、片目を瞑って前を見るキタサン。

 

「サイトで狙ってるか?」

「サイト……ってなんですか?」

「こいつだ」

 

 そう言い、銃についてるアイアンサイトを指差す。

 

「フロントサイトをリアサイトの真ん中に合わせろ。それで狙いが定まる」

 

 どうせ射的するなら景品はしっかりもらうべきだし、知識があれば取るのは難しくない。キタサンは言われた通り、リアサイトのV字の真ん中にフロントサイトの頂点を合わせて引き金を引く。

 ポン、と小気味良い音と共に飛んで行った玉は見事、風船ガムの箱を弾き落とした。

 

「当たりました!」

「悪くない腕だ。次はアレを狙ってみろ」

「はい!」

 

 アルチョムの指導のもと、キタサンは次々と景品を撃ち抜いて行く。

 

「見てくださいテイオーさん! こんなに取れました!」

「すごいねキタちゃん! かなり取ってんじゃん!」

「いや〜、お二人とも強いねぇ」

「そういうネイチャだって結構たくさん取ってるじゃん!」

「こんなの偶然よ、偶然」

 

 そう言い笑うネイチャだが、両手で抱える景品の数はテイオーに引けを取らない。3人は屋台の人から袋をもらい、戦利品を持ち帰る。

 

「次はどうします?」

 

 そう尋ねるキタサン。テイオーはスマホを取り出して時間を確認する。

 

「あ! そろそろ時間だからついて来て!」

 

 そう言い、キタサンとネイチャの手を引いて櫓の方へ向かっていく。

 

「トレセン音頭始まるよ! スペちゃんとかも踊るんだって! ボク達も参加するよ!」

 

 会場の中央部に設けられた大きな櫓。提灯が煌々と連なり、その下ではウマ娘や地元の子供達が賑やかに踊っている。そこへ元気に参加するテイオー達。普段のライブから踊り慣れているためか、あっという間にその場に馴染んでいた。

 そんな様子を見ていたアルチョム。彼は彼で久々に訪れた日本の祭りを興味深そうに見ていた。

 いくつかの国でいろんな祭りを見てきた。どの祭りもそれぞれの国の文化や風俗、あるいは宗教と深く関わっているもので優劣をつけられるようなものではない。ただ、やはりどの国でも賑やかなものであり、そして酒を飲めることに変わりはない。トレーナーと言う立場がなけりゃと思うが、下手に飲んでテイオー達に迷惑をかけるわけにもいかない。

 ふとスマホを取り出した彼は、踊りはしゃぐテイオー達の動画を撮り始めた。ちょっとした思い出と、アルセニーに見せつけるためだ。

 

 “めーっちゃくっちゃ めーっちゃくっちゃ
 

 よーーいさよいさ よーーいさよいさ
 

 おーどり おーどりくるえーーー!!”

 

 景気良く躍るテイオー達。すると撮影しているのに気づいたのか、カメラ目線でウィンクしてきた。そして「可愛く撮ってね!」と言うように笑う。そんなテイオーに同じく笑顔で返すアルチョム。

 そんなやりとりをしているうちに曲が終わり、テイオー達がこちらに戻ってくる。

 

「ねぇトレーナー! さっき撮ってたの見せて!」

「ああもちろん」

 

 先程撮影した動画を再生する。最近のスマホのカメラは性能が良い。踊っているテイオー達が綺麗に撮れていた。

 

「テイオー、それにキタサンとネイチャも集まってくれ。写真取るぞ」

 

 そう言い、3人を周りに集めて自撮りする。普段から強面のアルチョムだが、笑った顔は意外にもフレンドリーだ。そうして数枚の自撮りを保存した。

 

「珍しいね、トレーナーがこうやって写真撮るの」

「アーシャに日本の祭りの楽しさを教えてやろうと思ってな」

「へぇ〜」

「その、アーシャさんってのは?」

 

 ネイチャが尋ねる。彼女はまだアルセニーに会ったことがなかった。

 

「俺の古い友人だ。コイツだよ」

 

 彼のウマスタアカウントを見せた。そこに映っていたのはトルコで知り合ったであろう女性との自撮りで、相変わらずキザなポーズで映っている。

 

「あら、すっごいイケメン」

「てかトレーナーウマスタのアカウント持ってたの?」

「アーシャに作らされた」

「じゃあボクのアカウントもフォローして!」

「アタシのもフォローしてください!」

「あ、できればネイチャさんのアカウントも……」

「はいよ」

 

 そんな訳で彼女達のアカウントをフォローしつつ、先程の写真を投稿する。するとすぐにアルセニーからウマいねがついた。

 

「アイツ俺のアカウント監視してんのか?」

「あ! もうすぐ花火の時間ですよ!」

「じゃあみんな行くよ!」

 

 今度もパタパタと駆けていく3人。相変わらず元気だ。さて、次は花火とウマ娘達の写真でも撮ろうか。そんなことを考えながら、アルチョムはテイオー達を追いかけた。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 アルチョム達が祭りで盛り上がっていた同じ頃。

 西澤は相変わらず、一人自室で動画編集に勤しんでいた。トレセン学園の報告書やら何やらにケチをつけてひたすらこき下ろす。

 そして次は、あるウマ娘支援団体が反社団体と繋がりがあり、不正の温床であると非難する。ほんの少しでも怪しければ、公開している書類の内容が(自分が考えたことと)少しでも異なれば、それを指摘し非難する。

 そしてもちろん、熊谷大臣がそれらを糾弾する正義の議員であると称賛するのも忘れない。

 

 彼の動画編集はいつものように夜更けまで続いた。それと同時にまとめサイトにも同じ内容の記事を載せる。

 薄暗い部屋の中、まとめサイトと動画の閲覧数が増えていくのを見ながら、彼は悦に浸っていた。

 

 






誤字脱字などございましたらご報告願います。


また、今回文中にて以下の楽曲を引用いたしました。

トレセン音頭 2023年 日本
作詞 丹下めえな
作曲 本田晃弘
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