元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました   作:武装田んぼ

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第3話 動き出した2人

 

 

 トウカイテイオーと担当ペアを組んだ翌日の昼。

 

《アルチョム・ルイシコフトレーナー、シンボリルドルフ会長がお呼びです。生徒会室までお越しください》

「んだよ、これから飯だってのに」

 

 バックれるワケにもいかず、渋々生徒会室に向かったアルチョムは、生徒会室の扉をノックする。

 

「アルチョム・ルイシコフです」

「入ってくれ」

 

 日本の学校において生徒会の権力は非常に強いと聞いたことがあるがその通りだな、と思いつつ、重い扉を開けて生徒会室に入る。そこにはシンボリルドルフがいた。

 

「んで、会長さんは俺に何用ですか?」

「君の経歴を調べさせてもらった。いろいろあったようだな」

「どの辺まで調べたのです?」

「ロシア空挺軍にいたようだな」

「……」

「その後、民間軍事会社オリョール・グループに所属」

「んで?」

「難民キャンプ爆撃事件に巻き込まれアメリカに亡命」

「理事長から聞いたんですか?」

「ああ」

「まあいつまでも隠し通せるとは思いませんでしたが……」

「そう案ずるな、別にこれを公表させるつもりはない。個人的な興味で調べただけだ」

「はあ……」

「一つ聞きたいのだが、このことをテイオーに話したか?」

「いえ。話すつもりもありません」

「……そうか」

「自分のトレーナーが人殺しだと知りたくないでしょう。それに、このことを知る人間が増えれば増えるほど、あなた方に危害が及ぶ可能性を否定できません」

「君の言うことも一理あるな」

「俺はトレセンに拾われた時に二度と銃を手に取らないと決めたんです。過去を捨てたんです。これ以上、俺の過去に踏み入らないでいただきたい」

「……すまない、これ以上踏み込むつもりは無い。ただ……」

「ただ……?」

「いつか君の過去をテイオーに話す時が来るぞ」

「……」

「話すべき時がいつ来るかは私にもわからない。明日、話すことになるかもしれないし、5年後、10年後になるかもしれない。その時に、全てをテイオーに伝えられるか?」

「……その時が来るまでわかりません。ただ、今の俺に話すつもりはありません」

「……そうか。わざわざ呼び出してすまなかった」

「いえ、お気になさらず。失礼します」

 

 生徒会室を後にするアルチョム。話すつもりはないと言ったが、テイオーに全てを話さなければならない時が来るのはわかっていた。自分の過去に向き合い、なんらかの清算をするにはやはり全てをテイオーに話すべきだろう。

 

 だが、その一方で自分の担当トレーナーが人殺しだったと伝えられたらどう考えるか、そもそも、こんな複雑な過去をテイオーは理解してくれるのか? そんな疑問も浮かぶ。

 

「……クソ」

 

 重くぼやいた。自分の両手両足に繋がれた何本もの鎖が過去に繋がれているようだ。

 

「あ、アルチョムトレーナー!」

 

 後ろから元気に声をかけられた。トウカイテイオーが後ろから駆けてきて、背中に飛びつく。こっちの悩みも知らずに無邪気な、と思うがむしろこの方が年相応で良い。

 

「廊下を走んな。ぶつかると危ねぇだろ」

「もー、トレーナーまでエアグルーヴみたいなこと言わないでよー」

「言わなきゃいけない立場なんだ」

「んでさ、今日からトレーニングするんでしょ! 何すんの?」

「そうだな……」

 

 アルチョムはスマホを取り出して、メモアプリを開く。

 

「とりあえずグラウンドを数周してその後軽く坂路を予定してる。まあ、テイオーの走り方次第では坂路以外をやるかもしれないが」

「へぇー、思ったより普通だね」

「初っ端から飛ばしてケガでもしたら最悪だからな。基礎を押さえてから発展させる」

「なんだ、匍匐前進とかやらないんだ」

「俺の見た目で判断すんな。トレーニングの開始はLANEでも伝えたが14時からだぞ。遅れんなよ」

「はーい」

「んで、いつまで背中に引っ付いてるつもりだ? さっきから周りの子が見てくるんだが」

「えー、いーじゃん」

「いいから降りろ」

「ちぇー」

 

 ぴょんと跳ねて着地するテイオー。身のこなしに関してアルチョムも目を見張るものがあった。この柔軟さと力強さをレースにどう活かすか? テイオーのトレーニングにおいては一番の課題である。

 

「あ、マックイーンだ! じゃあトレーナー、後でねー」

「だから廊下を走んな……、ったく」

 

 去っていくテイオーを見届けてから、トレーナー室に戻り、パソコンを開いた。

 

 アルチョム曰く〝なんとも形式的な事務仕事〟を片付けて、時刻を確認する。トレーニング開始まであと30分ほど時間がある。

 何もしなければ地味に長いが何かやってると一瞬で過ぎる時間。

 

「そうだ、飯食ってなかった」

 

 生徒会室に呼び出された一件で忘れていた。いそいそと購買でサンドイッチとコーヒーを買い、手短に済ませてグラウンドに向かう。

 

 グラウンドについたアルチョムは、持ってきたケースからあるものを取り出した。

 

 小型ドローンだ。大きさはさっき昼食で食べたサンドイッチより一回り小さく、左右に二つづつプロペラが付いている。

 アルチョムはこのドローンを使い、トレーニングの様子を多方向から撮影し、フォームの研究や座学の際に使うつもりでいた。

 さっさと初期設定を済ませ、スマホと同期させる。

 

「よし、上手くいった」

 

 スマホにドローンのCCDカメラの映像が映る。スマホをドローンのコントローラにセットして準備完了だ。

 軽く飛ばしながら様子を確認する。大きなラグもなく、映像は鮮明だ。

 

「あれトレーナー、遊んでるの?」

 

 テイオーが後ろから声をかけて来た。

 

「お、来たか」

「もう時間だし。てかなんでドローン飛ばしてんの?」

「テイオーの走りをしっかり見るためだ。コイツで多方向から撮影して、フォームの研究とかに使えるかもしれないだろ?」

「使えるの?」

「まあダメだったら他の手段考える」

「てか飛ばしてもいいの、ここ」

「理事長に言ったら他のウマ娘の迷惑にならなきゃヨシ! だと」

「へぇー、ゆるいねこの学校」

「昔よく飛ばしていたからテイオーの邪魔にならないように上手く飛ばしてやるよ」

「ん、じゃあ早速走ってくるよ!」

「ウォーミングアップは済ませたか?」

「当たり前じゃん! もう走りたくて走りたくてうずうずしてるもん!」

「よし、じゃあトレーニング開始だ」

 

 スタートラインに立つトウカイテイオー。その姿は様になっている。

 

「ボクはいつでもいいよー!」

「ちょい待て……、よし、ドローンOK。準備はいいな? ヨーイ! スタート!」

 

 掛け声と共にスタートラインから飛び出すテイオー。トレーニングではあるが、本番さながらの走りだ。そのテイオーの姿をドローンは一定の距離を保ちながら追う。

 

「いろんな走りのフォームを見てきたが、テイオーのフォームは整っている」

 

 走る姿を見ながら、アルチョムは呟く。背筋をしっかりと伸ばし、一歩一歩、大地を踏みしめて前に突き進んでいく。

 

「それに、走るのを楽しんでる。根っからのアスリートだな」

 

 ターフの上を駆けていくテイオーの表情は非常に楽しそうだ。

 ただもちろん問題がない訳ではない。肉眼で見てもドローンの映像で見ても、テイオーの走りは綺麗だ。

 

 だが、手や足の細かい動きに注視すると、アルチョムには引っかかる部分が見つかる。腕の振り方。拳をもう少し身体に近づけた方が良いかも知れない。そして足。力強い踏み込みだが、関節への負荷を考えると、あまり推奨できない走り方だ。

 

 それでも充分早いし、フォームも整っている。俺の仕事は思ったより少ないかもしれない、なんて考えるアルチョム。

 アルチョムの前をテイオーは駆け抜けて一周目を終えた。

 

「トレーナー! タイムは?」

「2分13秒69」

「もっと早くいけると思ったのに」

「悪い数字じゃない、これからトレーニングして縮めればいい」

 

 そしてドローンの映像をもとに改善点を話し、またテイオーは走る。その後、坂路を行いその日の予定は終わる。

 

「……おっと、もうこんな時間か。そろそろ終わりだな」

「えー、まだ走れるよー」

「過度にやり過ぎても効果はない。今日はこれぐらいにしてしっかり脚を休ませるんだ。いいな?」

「はーい」

「よし、解散」

「じゃーねー、トレーナー! ってトレーナーは戻らないの?」

「ドローンの映像を確認したい」

「ふーん、ボクも観たいなぁ」

「ほら、これで観易いだろ」

 

 2人でスマホの画面を覗き込み、走りを確認する。

 

「最初より良くなってるな」

「でしょでしょ!」

「ただ、やはり関節に負荷のかかる走り方に見える」

「えー、足全然平気だよ?」

「こういうのは本人が気づかない内にじわじわと負担がかかるものなんだ。負担をかけちまう走り方が癖になって脚をケガしたヤツを見たのは一度や二度じゃない」

「うーん、がんばってみる」

「一気に直さなくていい、本番まで時間はあるからそれまでにちゃんと改善していこう」

 

 こうしてその日のトレーニングは終わる。トレーナー室に戻り、トレーニングの報告書と日報をまとめていく。

 これ必要か? と思うが、やれと上から言われたらやるしかない。エクセルの欄を一つづつ埋めていき、その日の業務を片付けた。 

 

 

 ────────────────────────

 

 

 それから一週間後、トレセン学園の保健室前にて。

 

「いーやーだー!」

「言うこと聞けっ!」

「ぜーったいいーや!」

「注射なんざ一瞬で終わるから!」

「痛いからいやー!」

「ガキみたいなこと言ってんじゃねぇ!」

「嫌なのはいーやー!」

 

 健康診断と共に行われる予防接種。注射嫌いなウマ娘達があちこちで悲鳴をあげている。アルチョムも苦戦していた。

 

「受けないとトレーニングさせないしレースに出さないぞ!」

「うぅ……、受けるよ、受ければいいんでしょ……」

 

 観念したのか、保健室に連れ込むことに成功した。そしてアルチョムはドアの前で仁王立ちし、テイオーが注射を受けるのを見守る。見守ると言うよりは監視する、と言った方が適切か。

 

 注射が終わるまで、終始アルチョムを恨めしそうに見るテイオー。

 

「ぴぃ……!」

「はい、終わったよ。よくがんばったね」

「痛かった……」

 

 涙目のテイオー。

 

「仕方ねぇだろ。最近はいろんなウィルス流行ってんだから」

「だってボクは無敵のテイオー様だよ? 病気なんか罹らないよぉ」

「そういう問題じゃないんだ。テイオーだって風邪ぐらいひいたことあるだろ? それと同じだ」

「でもインフルエンザとか罹ったことないもん」

「予防接種受けたろ?」

「……うん」

「手洗いうがいはしてたか?」

「してた」

「そういうこと。ターフの上ではターフの上での戦い方があるし、病気には病気のための戦い方があるんだ。それが予防接種と手洗いうがいだ」

「はーい」

 

 随分とテンションの低いテイオー。注射を打たれて、さらにトレーニングもできないとなればここまで落ち込むのも致し方なしか。

 

「ほら、元気出せ。はちみー奢ってやるから」

「ホント⁈」

 

 ぱぁっと明るくなる表情。甘やかしになるがまあいいだろう。

 

「ねぇトレーナー! この後一緒に川の方行かない?」

「何すんだ? 今日はトレーニングダメだぞ」

「ただぶらぶらするだけだよ。散歩的なやつ」

「了解。はちみー買ったら行くか」

「やったー!」

 

 無邪気に喜ぶテイオー。2人は仲良く校門から出てすぐのところに止まる移動販売車に向かう。

 

「はちみつレモン固め濃いめマシマシ!」

「新手の呪文だな」

「1800円になります」

「スマホ決済で」

 

 軽やかな電子音と共に決済完了画面が表示される。そして販売員が大きめのカップを手渡す。

 カップラーメンの倍はあろうかというサイズのドリンクに思わず驚くアルチョム。1800円という値段も納得だ。

 

「トレーナーはいらないの?」

「無駄遣いは控えたい」

「ふーん」

 

 2人でぶらぶら歩きながら多摩川河川敷に向かう。すると、テイオーが尋ねてきた。

 

「ねぇ、トレーナーの顎の傷ってどうしたの?」

「ん? あぁ、この傷か?」

 

 アルチョムは少し焦った。顎の傷。かつてロシア空挺軍として中東での作戦中に部隊長を庇って負った傷だ。だが、事実を話す訳にはいかない。それはテイオーに自分は人殺しであると言うようなものだ。

 

「アメリカにいた時に事故にあってな。その時の傷だよ」

「そうなんだ。悪いヤツと戦った証拠とかだったら面白かったのに」

「は、ははっ、そんなヒーローみたいな経験は無いなぁ」

 

 思ったよりこの子鋭いぞ、まさか俺の正体を……? いや、それはうがち過ぎだろう。この子の性格的にこういうのを好むだけだ。なんて思考がアルチョムの頭の中を巡る。

 

「そうだ、テイオーは走るの好きだよな? 前に大会とか出たことあるのか?」

「あるよ! 一昨年に都内の大会で優勝したんだ! しかも新記録出したの!」

 

 露骨に話題を逸らしたが、テイオーは乗ってくれた。

 

「新記録! すごいじゃないか!」

「でしょ! でね、その時にカイチョーみたいなウマ娘になるって決めたんだ!」

「へぇ、でも今は違うだろ」

「うん! カイチョーを超えるウマ娘になる!」

「流石だな。俺も全力でサポートするよ」

 

 そんな話をしていると、多摩川河川敷に着く。前回は日も暮れかけて薄暗い空模様だったが、今日は明るい時間帯故か、人も多く賑やかな印象を受けた。

 

 堤防の上に立つと春の心地良い風が頬を撫で、もうすっかり葉桜となった桜並木から散る桜の花びらはアルチョムすら美しさを感じるほど風情に溢れている。

 

「あ! ゴルシじゃん!」

 

 テイオーが駆けていく先にはスタイルの良い芦毛のウマ娘が川の中で何かしている。隣には小柄な黒鹿毛のウマ娘もいる。

 

「お! テイオーか、何してんだこんなとこで」

「今日予防接種受けたからトレーニング出来なくてさ、つまんないからこっち来たの」

「ほーん。じゃあさ、今アタシらトレーニングしてるからちょっと見とけよ。なんかヒントになるかもしれないぜ」

「……で、ゴールドシップさん、私達はさっきから何してるの? これトレーニングなの?」

 

 ゴールドシップと呼ばれたウマ娘は川の中に立ちながら水面を凝視していた。隣の黒鹿毛のウマ娘も同じく水面を凝視している。いや、させられている、か。

 

「ライスシャワーも何してんの?」

「んぇ? うーん、わかんない。でもゴールドシップさんが川の流れに精神を任せてその先に辿り着ければどんなレースも勝てるって言うから……」

「えぇ……ワケワカンナイヨー……」

 

 テイオーの理解が追いついていないようだ。それはアルチョムも同じだ。そもそもゴールドシップの隣にいるライスシャワーが理解出来てないのなら本人以外誰にもわからないだろう。

 

 するといきなりゴルシが水面を思い切りはたいた。何らかの物体が綺麗な放物線を描いてテイオーの近くに寄ってきた芦毛のウマ娘、確か名前はメジロマックイーンといったか。その子の顔面に直撃する。

 

「あらテイオーさん、来ていらs……きゃぁぁぁぁあああ!! な、なんですの!」

「ま、マックイーン大丈夫? てかいつからいたの?」

「何かが飛んできましたわ……、うぅ、生臭い……」

「うわ、足元に魚落ちてるよ⁈」

 

 テイオーが指差す先には先程飛んできたであろう哀れな小鮒が一匹、ぴちぴちと跳ねている。テイオーは小鮒を摘み上げて、川に投げ入れた。

 

「なんで魚がこっちに……ってゴールドシップさん、またですの⁈」

「わりーわりー、トレーニングに夢中で気づかなかったぜ」

「絶対わざとやりましたわよね?」

「まさか〜、マックイーンも気にし過ぎだっての」

「日頃の行いを思い出してほしいものですわ……」

「んでさ、マックイーン達は何してたの?」

「ゴールドシップさんとライスシャワーさんはトレーニングを、私は予防接種を受けたので見学ですわ」

「へぇー、まさかマックイーン注射で泣いてないよねー」

「少なくとも、あなたみたいに駄々をこねたりはしてませんわ」

「ゔっ……」

「ったく、散々騒ぎやがってな」

「もーっ、トレーナーも言わないでよー!」

 

 頬を膨らませるテイオー。するとアルチョムに声がかけられた。

 

「あなたがアルチョムさんですね。初めまして、チームシリウス担当の相田と申します。よろしくお願い申し上げます」

「初めまして。アルチョム・ルイシコフです。こちらこそよろしくお願いします」

 

 お互いに名刺を交換し、握手をする。

 

「川でトレーニングとは……良く思いつきますね」

 

 アルチョムが関心を示した。

 

「いや、ゴルシのヤツが勝手にやり始めただけでして……」

「あー、そういう……」

「まあなんだかんだ自主性を優先する方針ですので、人様に迷惑かけなければいいかな、と」

 

 その方針が功を奏したのかはわからないが、去年デビューしたマックイーンの成績は好調だ。

 

「自主性……ですか」

 

 マックイーンと一緒にはしゃぐテイオーを眺めながら呟くアルチョム。

 

「テイオーさん、今年からデビューだそうで」

「そうですね。6月にデビュー戦です」

「いろいろプレッシャーはあると思いますが、本人が楽しんで走ってくれるのが一番ですよ」

「それはその通りですね。ただ、やはり勝てなければこれからのモチベーションに響きますし」

「ちゃんとやることやっていれば大丈夫ですよ。必要なトレーニングを積んで、万全の体調で望めるようにすれば自ずと結果は出てきますから」

「はぁ……」

 

 相田トレーナーの言うことはよくわかる。だが、アルチョムの中では過去の戦場での経験がそれを否定しようとしていた。

 

 戦いに絶対は無い。いかに精鋭の兵士と十分な装備を揃えて綿密な作戦を組もうと、不確定要素が重なり撤退せざるを得ない状況になったことを何度も経験した。戦場とレースを同一視する訳ではないが、テイオーがデビュー戦のゴール板を1着で駆け抜けるその瞬間まで、気を抜けないのも事実だ。

 

「私も最初は不安だらけでした。先代のトレーナーが敏腕だったので、自分にどこまで務まるのかと。去年の今頃なんてチーム解散すら考えてましたからね。でも、マックイーンもゴールドシップも私を信じてくれた。だから自分も彼女達を信じてがんばったんです。テイオーさんを心から信じてあげてください」

「……そうですね。結局走るのは本人ですからね」

 

 再びテイオーを眺める。その視線に気づいたのか、テイオーはアルチョムに向かって元気に手を振る。

 

 俺は今、テイオーをどこまで信じているのだろうか? テイオーはどれぐらい俺を信用しているのか? 他人を信じた経験がほとんど無いアルチョム。今俺にできることはテイオーを愚直に信じることかもしれない。

 

「どこまでもテイオーを信じてやる、ですか」

「難しく考える必要はないですよ。彼女達だってこちらの期待や信頼に応えるために一生懸命がんばってくれますから」

「わかりました。ありがとうございます」

「いつかテイオーさんとレースできる日を楽しみにしてます」

「……その時はお手柔らかに」

 

 春の昼下がり。暖かい春風に吹かれてのんびり過ごす時間はいつまでも続くように思えてしまう。相変わらず川の中に立つゴールドシップを眺めながら、アルチョムはひと時の安らぎを感じていた。

 

 






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