元ロシア最強傭兵、祖国に棄てられて亡命したらトレセン学園のトレーナーになりました   作:武装田んぼ

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第4話 メイクデビュー!

 

 

 トウカイテイオーのデビュー戦が迫るある日のこと。梅雨時、束の間の晴天がグラウンドを照らす。バ場は稍重か。

 いつものようにテイオーの走りを見ながら、タブレットにメモを取っていく。

 

 フォームは相変わらず良い。ただやはり走り方による関節への負荷が引っかかる。

 おそらくずっと前からこの走り方が癖になっているのだろう。癖というものは一度身体に染みついてしまうとなかなか治らない。あれ以来何度も矯正するためにアドバイスや指導を繰り返して来たがどこまで効果が出てるのやら……。

 

「トレーナー! 今回はどうだった?」

「いい調子だ。ただ、さっきの俺の話聞いてたか? 踏み込みの時にこの辺に力を入れるよう意識してみるんだ。この方が足の負荷が減る」

「さっきからやってるよ?」

「テイオーが努力しているのはよくわかってる。ただ、どうも気になるんだ」

「ん、わかった」

「よし、じゃあもう一周いくぞ。終わったら一旦休憩だ」

「オッケー、じゃあ行ってくる!」

 

 走り出すテイオー。グラウンドを一周し、タイムを確認してから休憩に入る。

 日陰で座るテイオー。隣のアルチョムはタブレットと睨めっこしている。

 

「トレーナーも休んだら?」

「確認したいものがある。テイオーはしっかり休め」

「はーい」

 

 タブレットの画面に並ぶウィンドウを見比べて、メモをとっていく。すると声がかけられる。

 

「初めまして。アルチョムトレーナーでしょうか?」

「ああ、どうも。アルチョム・ルイシコフです。んで、どちら様で?」

「申し遅れました。私、月間トゥインクルの記者をしております乙名史悦子と申します。これからよろしくお願い申し上げます」

「よろしくお願いします」

 

 聞屋か。アルチョムの脳内でマスメディア対応マニュアルが開かれる。軍及びPMC時代に上から言われたマニュアルだ。もちろん、そのメディアが西側か東側かでも対応は別になる。

 

 東側メディア(Россия-1)なら上が言っていることをそのまま言えばいい。どうせ何を流すか決めるのは国だ。そうそう都合の悪い話は流れない。

 西側メディア(ロイター、CNN、BBC)は少し厄介だ。全部喋ればそのまま流されてしまう。それでは困るので(どうでもいい)事実を一〜二割ほど混ぜて、残りは虚偽と既に公表している内容で埋め合わせる。なあに、数字と専門用語で捲し立てればそうそうバレない。

 

 脳内マニュアルを確認してから、記者の話に耳を傾ける。

 

「ところで、個人的な興味でお聞きしますが、アルチョムさんの出身はアメリカでよろしいでしょうか?」

「アメリカのニューヨークから来ましたが……?」

 

 疑われてる……? 俺の正体に勘付いたか……? 

 

「ええ、そうですよね。失礼ながらお名前に興味を持った次第でして」

「いえ、お気になさらず。この名は両親がベラルーシからの移民でして」

「なるほど、だからスラヴ系のお名前なんですね!」

 

 バレてない……? 万が一バレたらこの記者には消えてもらう場合すらあるがその必要はなさそうか。

 

「人相もこれですんで鋭い人には疑われてしまうんです」

 

 それっぽい冗談で誤魔化す。アメリカで証人保護プログラムを受けて完全に別人になったとはいえ、どこかで情報が漏洩した可能性は否定できない。

 あの事件が世界に公表されてる以上、ロシアは生き残りがいると考えるであろうし、その生き残りを見逃すような連中じゃないのは百も承知だ。

 

 もし万が一、自分の居場所がバレてしまえばテイオーにも危害が及ぶ可能性もある。それは何としてでも避けたい。ならば、手段を選ぶ余裕は無い。

 だが、その懸念はすぐに消えた。

 

「そうなんですね。いろいろ失礼いたしました」

「いえいえ、もう慣れっこですよ」

「気を取り直して、取材に入らせていただきます。トウカイテイオーさんのデビューが迫ってるようですが、レースに向けての意気込みは?」

「そうですね。大事な初戦ですし、万全の態勢で望めるようにしっかり調整していくつもりです。私もまだまだ未熟者ですので、テイオーと共にこのレースで成長できればと思います」

 

 当たり障りのないコメントを返す。しかし。

 

「す、素晴らしいです!! 担当ウマ娘と共に歩み、成長する……! いかなる困難も共にし、成長の為なら例え火の中水の中……! 感動しました! まさにトレーナーの鑑!」

 

 んなこと言って無いんだが……。

 前々からの癖で発言の内容は当たり障りの無いものばかりだし、記者もそれをそのままメモっていく。

 よほど捻くれた解釈でもしない限り、さほど面白くない記事になるだろう。そしてアルチョムもそれを望んでいた。こちらは奇をてらっているわけではない。

 

 だが、この記者は違う。共に成長できればと言うコメントをここまで解釈できるのは最早才能といえる。トレーナーの鑑と言われても正直自分レベルで鑑になれるなら誰でもなれるんじゃないかとか思うがこの記者の様子を見る限り勢いで言ってるのであろう。

 

 まあ好意的に解釈してくれるならそれでいい。西側メディアみたいに常にロシアが何か企んでいるのでは? みたいなスタンスで来られても面倒だ。ついでにこの記者への疑いもある程度は消えた。

 

「まあ、そうですね。テイオーがレースで全力を出せるように念入りに調整を続けていきます」

「なるほど……! これからを左右する大事な初戦! その為の調整なら彼女の望むことならどんなことでも!」

「は、ははっ、そうですね。テイオーが楽しんでレースに望んでくれることが一番ですから。そしてそれを実現してあげるのがトレーナーです」

「す、す、素晴らしいです! ウマ娘のためにここまで献身的なトレーナーが着いてくれてテイオーさんもさそかしお喜びでしょう!」

 

 この記者は何を言ってもこの調子なんだな。アルチョムはそう察した。なら適当にポジティブな回答を出していればいいだろう。そのまま当たり障りのないポジティブな回答を続けた。

 しばらくして取材された記事が掲載される。

 

 〝トレセン学園期待の新星! トウカイテイオーとそのトレーナーに迫る!〟

 

 なんて仰々しく書かれていた。まあ悪い気はしない。むしろかなり褒められていて鼻高々である。そのほとんどは誇張に近いものであったがまあ、訳の分からないゴシップ記事にされるよりマシだ。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 そしてついに迎えたデビュー戦当日。アルチョムとテイオーは中京競バ場にいた。

 関係者証を入口で見せ、係員に会釈して入場し、控室に向かう。

 

「テイオーが着替えるまで待ってるから、終わったらLANEで呼べよ」

「はーい」

 

 控室を後にし、特にあてもなくスタンドに向かう。通路を抜け、屋外スタンドに出ると六月の蒸し暑い風に吹かれた。

 

「この気候だけはいつまでも慣れねぇな」

 

 シャツが肌に纏わりつく。天気は曇りだが、気温も湿度も高い。ベタつく肌に不快感を覚えるが、愚痴をこぼしてもどうにもならない。

 

 アルチョムはターフを眺める。改めて見ると、本当にこんな距離をあの身体で駆け抜けるのか? なんて思うが実際に駆け抜ける姿を何度も見てきた。

 

「テイオーならやってくれるさ」

 

 自分に言い聞かせるように呟く。するとスマホが震えた。

 

テイオー[トレーナー、もーいいよー]

 

 テイオーからのメッセージを確認し、控室に戻る。アルチョムはドアをノックした。

 

「入るぞ、いいな?」

「いいよー」

「よし、調子はどうだ?」

「絶好調! 絶対勝ってくるよ!」

 

 アルチョムを真っ直ぐ見つめる瞳。その瞳に確かな闘志を感じたアルチョムはテイオーの頭に手を置く。

 

「なら、俺が言うことはない。楽しんでこいよ」

「うん! テイオー伝説の幕間けを見逃さないでね!」

 

 元気に返事して控室を出て行く。アルチョムはタブレットを取り出して出走ウマ娘を確認する。

 

 一番人気はトウカイテイオーだ。小学生の時に大会で新記録を更新した為か、はたまたあの記事の影響か、なんにせよ注目の的のようだ。そして二番人気のウマ娘はタイプワンベッティ。確か選抜レースの時に見かけたな。三番人気はイッツコーリングか。この子も密かに注目を集めているようだ。

 

 パドックでポーズを決めるウマ娘たち。その中でもテイオーは一際目立っていた。

 

《一番人気を紹介します。5番、トウカイテイオー》

《気合い十分、素晴らしい仕上がりですね!》

 

 アナウンスに応えるようにビシッとポーズを決め、観客の注目を奪う。

 

「やってくれよ、テイオー」

 

 祈るように呟く。テイオーの実力やトレーニングを考えれば確実に結果を出してくれるだろう。だが、勝負に絶対は無い。テイオーがゴール板を駆け抜けるその瞬間まで不安は残る。

 

 そしてゲートに入るウマ娘達。アルチョムはただ、〝万が一〟の不安を押し殺してテイオーを見ていた。

 だが、その不安はスタートと共に消え去った。テイオーは終始、自分のペースをよく維持して、1着でゴール板を駆け抜けたのだった。

 

 しかも5バ身差の圧勝だ。テイオーは拳を振り上げて全身で喜びを示す。

 

《1着はトウカイテイオー! 実力を見せつけ、5バ身差での勝利です!》

「よくやったぞテイオー!」

「ニッシシ! 次も1着、取るモンネ!」

 

 アルチョムも大興奮だ。初めて競バを見た時の感動が蘇る。

 

「トレーナー! トレーナー! 見てた? ボクの走り!」

「ああ! 最高だった! 文句無しだ!」

「じゃあさ、じゃあさ! またはちみー買ってちょーだい!」

「それぐらいならいくらでも買ってやる! 本当によくやったぞ!」

 

 テイオーの頭を撫でるアルチョム。テイオーはアルチョムを嬉しそうに見た。

 

 こうしてテイオーは初戦で白星を挙げた。アルチョムもこれで一安心だ。だが、これが始まりに過ぎないことを2人はわかっていた。

 ウイニングライブも難なく終わり、控室に戻る。

 

「ねえ、トレーナー。次はどのレースに出るの?」

「そうだな……」

 

 アルチョムはタブレットを取り出して出走可能なレースを調べる。

 

「9月下旬の芙蓉ステークスとかどうだ? 今回と同じ芝2000mだ。場所は中山になるけどな」

「オッケー任せて!」

「よし、これで勝ったら皐月賞に向けてレースを組んでいくぞ」

「そうだね! 無敗の三冠ウマ娘への第一歩だ!」

「よし、初戦勝利祝いだ。明日東京に戻ったら旨いモン食べに行くぞ」

「え! ホント! どこ行くの? 上野? 銀座? 有楽町?」

「ちょっと待て、その辺の飯屋高いんじゃない……?」

「え? パパとママがよく連れてってくれるよ?」

 

 このブルジョワが……! なんて思うが中央競バのデビュー戦で勝利することすら叶わずその道を諦めるウマ娘も少なくない中、この子は圧勝して見せたのだ。わがままぐらい聞いてやろう。

 

 

 

 翌日、東京に戻ったアルチョムはテイオーの要望で有楽町の寿司屋に連れて行くことにした。

 その途中、2人仲良く電車に揺られながら。

 

「ねートレーナー、パパとママ呼んでいい?」

「ん?」

「だから、パパとママ呼んでいいかなって」

「いいぞ。せっかくの初勝利だしな。ご家族も喜ぶだろう」

「やったー! じゃあLANE送ろーっと」

「……ちょっと待て、親御さん呼ぶのか……?」

「そうだよ。どしたの?」

「……大丈夫か? 俺の格好……?」

 

 最初はなんの気もなしにいいよなんて言ったが、自分の格好を見て不安になる。オリーブドラブのTシャツにタンカラーのカーゴパンツ、同じくタンカラーのタクティカルスリングバッグ。

 ミリタリーファッションと言えばそうではあるが、下手すりゃ退役軍人か何かの見た目だ。

 

「大丈夫じゃない? パパもママもあんま気にしないよ?」

「何度か電話したけど直接会うの初めてだろうが。かわいい愛娘のトレーナーの見てくれがこれだったらマズくないか?」

「そーかなぁ?」

「そういうもんなんだ。大人の付き合いってのは」

 

 とはいえ、服を買っている時間もない。仕方ないからテイオーに協力してどうにか説得するか……? 

 途中で地下鉄に乗り換えて、有楽町に向かう。最近は東京の地下鉄で迷うことが少なくなった。メトロと都営で混乱したのも過去の話だ。我ながら随分と日本に馴染んだものだ。なんて感心しながら有楽町に着いた。

 

 アルチョムはとりあえず簡単にだが身だしなみを整えて、待ち合わせ場所で待つ。

 

「あ! パパ! ママ!」

「テイオー! 元気だったか?」

「昨日のレース、1着だったのね! さすがだわ!」

「えへへ〜、すごいでしょ!」

 

 身なりの上品な夫婦がテイオーに近寄ってきた。男性の方はシンプルながらも綺麗なスーツを身に纏い、女性の方もシックでビジネスカジュアルな装いだ。アルチョムは一目でわかった。この人達は俺と生きている世界が違うと。

 

「貴方がテイオーのトレーナーさんですね。初めまして。テイオーから話は聞いております」

「ウチのテイオーがいつもお世話になっております」

「初めまして。アルチョム・ルイシコフです。本日はお会いできて光栄です」

 

 名刺を交換し、握手をして挨拶を済ませる。

 

「申し訳ありません。初めてお会いするのにラフな格好になってしまいました」

「構わないよ。そもそもトレーナーなんだから動きやすい格好の方がいろいろと都合良いだろう」

 

 なんとも寛大なお方だ。

 

「ほらね、大丈夫でしょ?」

 

 テイオーがにっこりと笑う。まあ、上手く行ったならそれでいいか。4人はテイオーの父が知り合いだと言う寿司屋に行く。

 店の外装からして一見さんお断りと言わんばかりの雰囲気が漂っている。……本当に俺が入っていいのか? と思うがもう引き返せない。テイオー一家に続いて入店した。

 

「お! テイオーちゃん久しぶりだね! レースで1着とったんだって?」

 

 店の大将らしき人が陽気に話しかけてきた。

 

「えっへん! 流石でしょ〜」

 

 ドヤ顔で胸を張るテイオー。

 

「んで、アンタがトレーナーさんかい? 外国の人たぁたまげた」

「初めまして。トウカイテイオーさんのトレーナーを務めますアルチョム・ルイシコフです」

「おう、よろしくな! さあ座った座った。お嬢ちゃんの勝利記念だからな! とびっきりのネタで握ってやらぁ」

 

 テイオーが積極的にいろいろ話してくれたお陰か、雰囲気は終始和やかに進んだ。親御さんも気さくな方々ですぐに打ち解けることができた。ひとまずは安心だ。

 

「じゃあテイオー、これからもがんばれよ。パパもママもずっと応援してるからな」

「これからもテイオーをよろしくお願い申し上げますね」

「こちらこそ、こんなに素晴らしいお子さんの担当になれて光栄です。これからもテイオーさんを支えてやってください」

 

 深々とお辞儀するアルチョム。テイオーは元気に手を振って去っていく両親を見送る。

 

 いい家族だな、しみじみと思うアルチョム。6歳の時に家族をテロで失って以来、家族の温もりのようなものを感じたことはなかった。正直、羨ましさすら感じる。

 テイオーは両親にたっぷり愛情を注がれて育ったのだろう。ここまでのびのびとして純粋なテイオーの姿を見ながら、アルチョムは思った。

 

「いい親御さんだな」

「そう?」

「テイオーのことを一番に考えてくれてる。それに、テイオーへの過度な干渉もない。理想とも言える親御さんだよ」

「うーん、でもゲームばっかりやるな、とかお手伝いはちゃんとしなさい、とか言われたよ?」

「それはどんな親だって言うさ。さて、もう遅いしさっさとトレセンに戻るぞ」

「はーい」

 

 トレセン学園に戻る。こうして2人の初陣はテイオーの勝利で幕を下ろした。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 初陣から数日後。

 グラウンドでトレーニングに励む2人。

 

「走り方も良くなってきたな」

「でしょ! レースの後からね、トレーナーの言う走り方がわかってきたんだ!」

 

 嬉しそうに報告するテイオー。

 

「その調子だ。実戦から学べることは多い。どんどん学んで強くなるんだ」

「うん! あ、エアグルーヴだ!」

 

 テイオーの視線の先にはトレセン学園生徒会副会長、エアグルーヴの姿があった。いつものように凛々しい佇まいだ。

 

「トレーニングは順調のようだな。この前のレースは良かったぞ。会長も喜んでた」

「ホント⁈」

「ああ。だが、この程度で満足してはいないな?」

「当たり前じゃん、これからだもん! あ、そうだ! ねえエアグルーヴ、ボクと並走してよ!」

「私とか? 構わないが手加減はせんぞ」

「望むところだよ! トレーナー、見てて!」

「おうよ。じゃあスタートとゴールやるから少し待ってくれ」

 

 エアグルーヴとテイオーがスタートラインに並ぶ。

 

「ヨーイ、スタート!」

 

 アルチョムの合図と共に2人は飛び出した。その結果は言わずもがな。エアグルーヴの勝利だ。だが、選抜レースのように手も足も出ない惨敗ではなかった。

 

「選抜レースの時から随分と成長したな」

 

 エアグルーヴが褒めた。

 

「うーん、でも全然敵わないや……」

「それは経験の差だ。とはいえ、しっかりと食いついて常に相手を意識し、ペース配分や仕掛けるタイミングも良くなってる」

「ホント! やったー!」

「アルチョムトレーナーも良く指導しているようだな」

「それが仕事ですから」

「そうだとしてもな。この成長は的確な指導が行えている証拠だ」

「お褒めに与り光栄です」

「クラシック三冠、楽しみにしているぞ」

「任せてよ! 三冠取って、カイチョーも超えちゃうんだから!」

 

 グラウンドを後にするエアグルーヴ。

 

「さ、まだまだ時間あるぞ。エアグルーヴとの並走で学んだことを活かしてトレーニングだ!」

「よーし、行っちゃうぞー!」

 

 

 

 こうして日が暮れ、トレーニングも終わり、トレーナー室に戻る2人。パソコンを開いたアルチョムはメールボックスからの通知が目に入る。

 

【重要】夏季合宿開催に関するトレーナー様全員へのお知らせ

 

 とりあえずメールを開いて内容を確認する。あー、一か月前のトレーナー会議から何度も話している夏合宿の話か。

 基本的に夏合宿に参加するのはクラシック級とシニア級だが、ジュニア級でもすでに活躍し、成績を残してる子なら参加することができる。メールに添付されていたPDFファイルをプリントアウトし、それをテイオーに見せた。

 

「ジュニア級でも参加できるらしいな。どうする? 参加すっか?」

「参加するよ! 当たり前じゃん!」

「よし、じゃあ行くか。ほら、参加申請の用紙だ。書いたら俺に持ってこい」

「わかった!」

 

 シャーペンを取り出して、用紙に記入していくテイオー。アルチョムも必要書類に記入していく。

 

「書いたよトレーナー」

「ちょっと見せろ……、オッケー。ちゃんと書いてあるな」

「んでさ、合宿ってどこ行くの?」

「宮城県の山元町だそうだ。トレセンの施設があるんだと」

「へぇー」

「ここに入った時ガイダンスとかで聞いてないのか?」

「あはは〜、実はその時ちょっと居眠りしちゃって……」

「あのなぁ……。ま、もう過ぎた話だ。合宿は二週間後からだぞ。準備しておけ」

「はーい!」

「よし、解散」

 

 アルチョムにとって合宿なんて初めてだ。ガイダンスである程度聞いたが、経験の無いアルチョムからすればほとんど想像のつかないものだった。少し高まるテンションを抑え、その日は家路についた。

 

 

 






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