CyberPunk-OVER the EDGE- 作:コーカサスカブトムシ
なお合衆国側ルート()
「良い知らせと悪い知らせがある、どっちから聞きたい?」
「好きな物は最後に食べるタイプなんでな、悪い方から聞かせてくれ」
這う這うの体でゴミ集積地を脱した俺はピックアップに来させたデラマンに乗り込み、裏口のガレージからダイレクトにヴィクターの診療所に乗り着いた。仰天するヴィクを横目に馴染み深い施術用ベッドで軽く横になってから……そこで気が抜けたのか、次に目を覚ましたのはなんと五日後の事だった。
五日も眠っていたと言うべきだろうか、俺自身にはそこまで重症だった自覚がない。しかし実態としては五日ぽっちとも言うべきだろう。屈強な紺碧の雇われにアラサカのニンジャ集団。挙句にスマッシャーとの邂逅、脳天にぶち込まれた弾丸、終わってみればよく生きていたなってレベルではある。ジャッキーよりは、マシだろうが。
『ようやく眠り姫サマがお目覚めか。つっても俺らも纏めて寝かしつけられてたがな』
『……良かった、ドクの診療所ってやっぱクソだったんだな。麻酔無しで脊髄ぶっこ抜くのは絶対おかしいと思ってたんだ』
俺とヴィクの周りを浮かぶ幻聴と幻視はやはり消えることもなかった、RELICはしっかりと作動しているままらしい。診療所の中をウロウロと動き回る二人のデジタルゴースト、とも手持ち無沙汰にしているようだったが一応は同じ身体の運命共同体。そこいらに座りの良い場所を見定めると俺と同じようにヴィクの話に耳を傾ける。
それはそうとデイビッドなんだその話は。サイバーウェアの取り付けに麻酔使わないって……どんな薮リパーだ、施術中にショック死するだろそれ。気が散る、そう思っていても無視できないこの声は、やっぱり不便なところがある。
「お前さんが頭の中に突っ込んだチップだが……こいつは摘出するにゃなんと言うか、根を張っちまってる。抉り出すなんてもっての他だ、そいつは今のお前さんの身体に無くちゃならない外付けの命綱になっちまってるんだ」
「……どんなデメリットがある」
「頭の中に人格を飼う、広告に出てるRELICの触れ込み通りな代物なら良かったんだがな。お前さんが言ったジョニー・シルヴァーハンドとデイビッド・マルティネス……このまま何の手も打たずに放っておけば、コイツらの人格がお前さんの脳を上書きしちまう」
『へぇ、ジョニー・シルヴァーハンドの完全復活って訳か』
『……マジ、かよ、そんなことが……そんなことがあって……』
苦々しい顔を浮かべながら容態を告げるヴィク。ジャッキーも俺も彼にはよく世話になっていたし、私的な付き合いも多かった。事実上の余命宣告のようなものだ……それをリパードクという立場でありながら口にするという、その内心は察してあまりあるが、そればかりは流石に俺も受けるショックが大きい。
ジャッキーの死を通して俺は死生観にこれまでとは違う、思うところが出来た。特にこの、日常的に死が氾濫するナイトシティという街に関しての。それを鑑みると今の俺は……ただこのまま死にたくは無いと、そう思っている。
「助かる方法は、ないのか」
「……すまん、俺にはコイツをどうしてやればいいのか、サッパリわからねぇ。生体とは着くが最新鋭のチップ、どちらかと言えば医学よりもテッキーかランナーの領分にも思える……その筋を辿るぐらいしか……」
サングラスを外して眉間を揉みながらヴィクターが椅子に座って項垂れる。話を聞いていたデイビッドは愕然として、ジョニーは変わる事なくニヤついたままそんなふざけた事を抜かしていたが……アビエイターの奥に隠れている瞳からその内情は窺い知れない。
ゴミ捨て場で眠っている時、朧げではあるがこのレジェンド二人……デイビッドとジョニーの過去、記憶を追想したような覚えがある。アラサカタワーに中指を突き立てながら朽ち果てた、このチップに刷り込まれた二人の人間のメモリー。それがいつしか俺を埋め尽くして、そのものに……
「良い方っていうのは、どういう話になるんだ」
「良い方とは言ったが不幸中の幸いみたいな話だな。このチップがお前さんの脳を食い潰しちまうってのには変わりないが、今のところそれはちょっとばかり遠い話になるだろうって事だ。このRELICってモンは間違いなく2本同時に挿入されることなんか想定されてない、Vって人間を摺り潰そうとするチップが2本……陣取りゲームみたいに互いが喧嘩しちまってるんだ」
気を紛らわせるように良い方の話題を振る。互いが役割を果たそうとするあまりにぶつかり合う2本のチップか。そう思ってデイビッドとジョニーの方を見ると同じ事を考えていたのか、二人が神妙な顔をして互いに見つめ合っていた。
「なるほど、敵の敵は味方ってことか」
「すまん、これも良い方って言うには正しくないな。お互いが綱引きしてどっちかが蹴っ躓いた途端に……お前さんの身体に何の不調も出ないがそいつが、それが逆にいつ爆発するかわからん時限爆弾になっちまってる」
『爆発と縁が多い人生だな』
デリカシーのない耳障りな言葉、これから何もしなければコイツと心中する羽目になるなど真っ平ごめんだ。デイビッドも視線だけで同調するようにしているが……兎も角今はRELICに関する情報を集めるより他に無い。
「ぐ、ぉ……身体が、重い?」
「Relicの影響かはわからんが、神経系が一時的にサイバーウェアと接続不良を起こしてる。生身の筋肉痛みたいなもんでしばらく……まぁ今日は寝て明日にもなれば元通りだろう。ミスティを呼んである、お前さんの家に送ってもらうよう話した」
カラカラと正面玄関の扉が開き、車椅子を押しながらやってきたミスティ。その目の下が黒いのは……メイクのせいだけでは無いだろう。紺碧の一件で彼女のインプット、ジャッキーはその命を落としてしまった。コヨーテへあいつを乗せて走ったデラマンと、ママ・ウェルズからその報は知れ渡っているだろう。
恨まれても仕方がない。どうしてお前だけが、と詰め寄られ銃を突きつけられたとしても。だが俺自身も彼女と浅い関わりではない……そんなことをするはずも無く、泣き腫らした目で俺を労わるような視線をくれるのが、寧ろ効いた。
「つまり全く解決の糸口は無いって事だな、どうする?」
『紺碧から盗んだチップで死にかけてるから助けてくださいってアラサカに出頭するのはどうだ? 諸々差っ引いて半殺しくらいで済むかもしれねぇ』
「殺して貰えないの間違いだろ」
ミスティの押す車椅子に揺られ、メガビルディングの我が家へ戻って来た。彼女から受け取った薬……擬似的な死を起こしてRELICが脳へ作用する症状を進行させ、覚醒するまで一時的に2人のどちらかへ肉体の主導権を受け渡す擬似エンドトライジン。そして2人の意識までも強く遮断し、RELICの症状を抑えるオメガブロッカーの瓶を前に考えを巡らせる。
オメガブロッカーを常用し、コイツらの言葉に全く耳を貸さないという手もある。個人的にはそうしたいところではある、だが現状ではそうするのも悪手に思えた。
『なんか……懐かしい気分になるな』
「メガビルにでも住んでたのか?」
『あぁ、でも成功してからは引っ越したし、住んでたのはサントのだったけどな。ただ傭兵として名を上げてからは引っ越して、引越し先はほら……あそこだ』
「……マジかよ、生きてたらご近所さんだったな」
『今じゃルームメイトだろ』
今の俺は傭兵としても立場が悪い。新進気鋭とばかりにアフターライフに乗り込み、一発目の仕事で大ポカだ。紺碧でのサブロウ暗殺容疑者という特大の厄ネタに進んで手を差し伸べるような輩はいないだろう。
そうなるとこの愉快なお友達とも顔を突き合わせて解決策を考える他に無い。ジョニーと比べてデイビッドは全然マシな性格ではあるが、それはそれとしてプライベートが皆無というのはやりづらい。
『お前、その薬飲んで俺に身体を寄越せよ。ジョニー・シルヴァーハンドの再誕だ、ローグに話をつけてやるよ』
「……まだそう出来るほどお前を信用出来てない」
『んだよ、つまらねぇ野郎だ。虎穴に入らずんば何とやらだろ、それといい加減にヤニを吸いたいところだ。ここまで禁煙が長引いたのは初めてだぜ』
『50年とちょっとだもんな。それにしてもRELICか』
病人にも変わらずタバコをせびって来るバンドマンに呆れつつ、心当たりのありそうな顔をしているデイビッドの様子が気になった。こいつはジョニーと違って死んだのはつい昨年、知っていてもおかしくはないと思ったが……アラサカからRELICの事が公表されたのはわりと最近だ。
『アカデミーにいた頃にちょくちょく聞いたことがある。』
「アカデミー?」
『あー……俺、元々はアラサカのアカデミーに通ってたんだよ。それが紆余曲折あってサイバーパンクになったんだが』
「紆余曲折があり過ぎだろ」
『んだよ、コーポのガキだったか……いや、なんで傭兵になった』
レジェンドとして名を連ねたサイバーパンクの、想像もしないような生い立ち。生粋のアラサカアンチなジョニーはそこの出身という言葉に眉間でクラッシャーも摘めそうな程の皺を作ったが、その後の経緯の方が気になったようで続きを促した。
『自分で言うのも恥ずかしいけど、頭の出来が良かった方でさ。母さんが必死に働いて、アラサカのてっぺんにまで行って欲しいって……まぁただ、ギャングの抗争に巻き込まれて死んじゃったんだけど……その時に仲が悪かった上役の息子をぶん殴って出て行った感じだ』
『ッハーッハッ!!』
「サイバーもなくパンクな奴だったか」
ぶっとんだ解答が余程ツボに入ったのだろう。腹を抱えたジョニーはそのままソファーに横倒れになって盛大に笑い声をあげた。死ぬ程五月蝿い、近所迷惑だと咎めたいところだがこれは幻聴だ。実際に聞こえている幻聴だから始末が悪い。
デイビッドも同じく耳を塞いでいたが暫くすると慣れたようで、笑い転げているジョニーを無視したまま俺に対面した。
『……その後だ、件の上役を引っ捕らえる依頼があった。その時にお前の退学を取り消そうと働いていた、お前にはコーポとして輝かしい未来があるから仲間を切って戻って来い、なんて言ってたんだよ』
「連中にしては特殊だな。自分の息子もぶん殴ったような相手にだろ?」
『ああ、だけど後々わかった事で……アラサカは俺のサイバーウェア耐性に目をつけて、新型クロームのモルモットにしようとしてたんだ。自分の命が掛かった状況で、お前だけじゃなく会社の利益になるからって、本気で命乞いをしながら平気で嘘をついてたんだ』
「筋金入りだな、自分が殺されかねないって時にまで謀か」
『一応だけど曲がりにもアラサカにいて、そこからサイバーパンクになった俺の経験から言えることは、だ。チップの為にお前を助ける、なんて如何にも利益のついで……そんな事を言う連中が接触してくるような機会があったとして、間違っても信用、信頼しちゃダメだからな』
その言葉を聞いて兎に角アラサカの手は信用しない、という方針だけは決まり切った。垂らされるのは救いの蜘蛛の糸ではなく、単なる釣り人のルアーだろう。ゴミ収集場にまで俺を探しにきたようなコーポ、もしそいつが伸ばした手を掴むような事をしていたら……【ろくでもない】結末になっていたかもしれないな。
大変遅くもなりましたが感想等くださるとありがたいです