CyberPunk-OVER the EDGE- 作:コーカサスカブトムシ
というのも、今回の話は殆ど本編を文字に起こしただけというか……それはそれでどうにもってなりつつ改変しようかと悩んだ結果大体そのまんまな話になっています。次辺りには何とか二次らしい展開を……
元よりアダム・スマッシャーを出し抜いて、この密室からおさらば出来る目は欠片も無かった。だがそれでも、スマッシャーが静観を貫いて何故だか見逃してくれているというなら。あるいはキロシが動作不良を起こしているだけで実際は見つかっていないというなら、ヨリノブが退室するまでモニター裏でやり過ごせたかもしれない。
だがその僅かな希望は絶たれ、チェスや将棋で言う詰みの形にはまってしまった。青い炎を噴かしながら轟音を立て、紺碧プラザの屋上へと着陸したハイグレードのAV。護衛に身を守られながら姿を現したその人物……一と半世紀を生きた老獪、今なお飛躍を続ける大企業アラサカの頂点に立つ男。
(終わりだ。サブロウ・アラサカ……皇帝が直々にレリックを回収しに来るなんて)
一目に高性能のクロームで武装しているとわかる近衛を連れ、ヨリノブと対面したサブロウ。まさか親子二人で水入らずの団欒をする訳でもないだろう……研究所からヨリノブが簒奪したチップを手ずから取り戻しにやって来たのだ。アダム・スマッシャーとはまた趣の異なる存在感、剃刀のように鋭い目つきがヨリノブへと向けられている。
『V……こいつぁ……』
『駄目かも、しれないな。どうする? ヨリノブかサブロウかを人質にでもしてみるか? 一瞬でEEZYビーフにされそうだが』
近くにはいるが声を出さないようホロコールで言葉を交わすジャッキーとV。打開策として考えつくのは要人二人を人質にする事だったが、軍用でもそう見られないだろうグレードのサイバーウェアを用いているスマッシャー、並びにガードを潜り抜けてそんな事が出来るはずもない。
「……?」
室内を警戒するように見回していた護衛の男がモニターの前で足を止め、キロシを赤く光らせながらVとジャッキーを睨みつけた。まだ存在を気取られた訳では無いにしろ、このまま怪しまれ続けては……と思ったところでサブロウが動きを見せた。
「タケムラ、少し外してくれ」
「……サブロウ様、まだご子息のボディチェックが済んでおりません」
「私の息子だ、何を疑う?」
「はっ……例のモノは回収いたしますか」
「私がやる、行ってくれ」
会話を終えると護衛の男はサブロウへ深々と頭を下げ、チラリとヨリノブを一瞥するとスマッシャーを伴ってエレベーターへと足を運んだ。あの小さな空間の中に一体何百万エディー分ものサイバーウェアが詰まっているのだろう、とくだらない考えが降ってきたがそれを振り払い息を静かに吐いた。
つい先ほどまで死地にいたが、驚くべきことにその助け舟を出したのはサブロウという形になる。ヨリノブもサブロウも身につけているクロームは並みのものでは無いにしろ、反動の大きい強力な戦闘用クロームを着けている身でも無いだろう。とすると、今モニターを飛び出して制圧出来れば……という妄想が鎌首をもたげた。ジャッキーも同じ考えを思い当たったようだが、このプランには後が無い事ぐらいすぐに思い当たる。
スマッシャーという最大の関門と護衛の男がいない今、二人を取り押さえる事自体は可能だろう。だがもしそんな事をすれば即座に州境警備隊やマックス・タックも斯くやというニンジャ集団達が飛び出してきて嬲り殺されるだろう。ドン詰まりから抜け出せたというだけで、依然最悪である事には変わりない。
「私が……気づかないとでも思ったのか?」
『っっっっっっ!?』
「そもそも俺のことを気にしたことなんかないだろう」
サブロウの発言に一瞬心臓が止まりかけたVとジャッキー。お前達の存在には気づいている。シチュエーションとして彼の発言をそのように捉えたが、実際はヨリノブへと向けたものだったらしく安堵に肩を撫で下ろした。だが何が突破口になるかもわからない以上、その会話を一片足りとも聞き逃す事が無いように気を張り直す。
「お前は世界が自分を中心に回ってるとでも思っているんだろう、傲慢だよ」
「ヨリノブ……」
「どうしてわざわざやって来た? 『あの時』みたいに、俺が屈服すると思ったのか、それとも俺を……」
「出る杭は打たれるとよく言うだろう」
「自分の言葉で話せよ」
家庭環境は最悪のようだ。顔を顰めたVだったが、その会話の一部が嫌に耳に残った。あの時とは、ヨリノブとサブロウの間には並々ならぬ確執がある事は周知だが、ここで引き合いに出す程の事なのか。
その身振り手振りの全てが巨万の富を産むサブロウにとって、確かにRelicは重要なプロジェクトなのだろうが、わざわざ日本から足を運ぶ程の物なのか。やはりただの最新チップではない……ジャッキーが手にしているケースを横目に睨むV。
「貴様の方こそ身の程を知るべきだ。ネットウォッチなどという野蛮人どもに……私たちの功績を、私たちの未来を売り飛ばそうなどと」
「はっ、私たち? お前の、お前だけの間違いだろう。常に腐った陰謀を目論むのに熱心なアンタのセリフとは思えないな」
苛立ったようにモニターの前を往復するヨリノブ。相当に耐え難い何かがあるように思えるが、それへと目を向けるサブロウの視線は何処までも冷ややかだ。Vの背にじわりと嫌な物が這い寄ってくる。直感的な物だが、雲行きがどんどんと怪しくなって来ているのを感じていた。
「いつかはこのような時が来るのはわかっていた。お前の愚行はもう目に余る……母が死んでいて良かったな、このような無様な自分の姿を見られずに済……っぐぅ!?」
「………!!」
『な、何をしてるんだ!?』
『お、おいおいおいおい……っ』
その言葉がヨリノブの地雷を踏み抜いたのか、憤怒の貌を浮かべた彼は感情に任せるままサブロウの首を締め上げる。みしみしと音がする中、声帯の代わりとなっている装置が破損したのだろうサブロウは声も出せず息子を引き剥がそうとする。だが抵抗も虚しく、ヨリノブはそのまま更に力を込め……投げ捨てるようにサブロウを床へと放り出した。
「これでもう、俺のことを許す必要もないな」
『嘘、だろ……なんで、こんなことに』
ジャッキーの動揺した声だけがホロコールに飛んでいる。Vもバグも目の前の光景が信じられないとばかりに絶句していた。ヨリノブは暫く自分の掌を見つめ、サブロウの側へと屈み込むとホテルのロビーに連絡を入れた。サブロウが何者かによって殺された、犯人を逃さぬ為このホテルを封鎖しろと。
傍目に、誰が見ても事を起こしたのはヨリノブだとわかるだろう。だがそれでもヨリノブを表立って裁ける人間は存在しない。民営化されたコーポが『現』アラサカの家長に錠を掛けようとする訳がない。誰が何と言おうが、この事件の犯人はヨリノブを除いた紺碧プラザに滞在する誰かなのだ。そうなった時に真っ先に怪しまれる人物……それが誰になるのかなど二人にはもうわかりきっていた。
『コードレッド発令、宿泊客の皆様は直ちにお部屋にお戻りください。繰り返します、コードレッド発令……』
「いったいなんの騒ぎで……サブロウ、様……?」
「誰かが……父に毒を盛った」
『おいおい嘘だろ、宿題忘れたガキだってもっとまともな嘘つくぞ』
瞬間、首元にカタナを突きつけられているような悪寒が迸る。発したのは護衛……タケムラと呼ばれた男からだ。Vもジャッキーも、それが自分へと向けられたものでは無いと理解しつつも、歯を鳴らしそうになるのをジャケットの襟を噛んで堪えた。
視線だけで人をバラバラにしてしまいそうな程の怒気を放つタケムラは不審を押し留め……切れぬままヨリノブの護衛へと移る。待機していたアダム・スマッシャーも伴い、ヨリノブ達はエレベーターへと足を運ぶ。無人となったペントハウスの中で二人は嗚咽のようなため息を漏らした。
「なんて事、してくれやがったんだあのボンクラッ……!! どうすんだこの状況っ!!」
『部屋に護衛が押し寄せてる! 二人とも早くホテルから離れて!! もうどうにか煙に撒くしかない!!』
「エレベーターしかこっからは出れねぇぞ!? 降りた瞬間取っ捕まるに決まってる!!」
阿鼻叫喚、地獄絵図を晒すカメラの光景に慌てるバグ。最早ホテルの警備だけではない、近隣のアラサカ警備部隊までもがこの一瞬で大挙を成して紺碧へ押し寄せている。サブロウを謀殺した、存在しない犯人を捕縛……報復する為に。その責苦は生きたまま麻酔も無しにインプラントを引き剥がすスカベンジャーズのやり方が慈悲深く感じる程の物となるだろう。
「っ、屋上だ! サブロウが乗ってきたAVで離脱出来るかもしれない!!」
モニター裏を飛び出し、弾かれたように屋上へと駆け抜けるV。ジャッキーもそれに倣ってケースを担ぎながら後に続く。じんわりと迫り来る死の足跡、憔悴しながらも二人は生き延びる為に取れる最善の手を取ろうと足掻いていた。
「おい、貴様は……あの場に我々以外誰かいたように思うか?」
【いいや、まるで心当たりが無いな】
「が、あっ……ジャッキー、無事か?」
「おう、何と、か……っ、Relicが!? ケースがイカれやがった!!」
屋上にいた警備を無力化し、AVを調べたもののプロテクトによりそれを動かす事は叶わず、座席に置いてあったサブロウの愛刀である『悟』を武装としてせしめるだけに終わった。そして整備用ダクトから下層を目指す道中、戦闘用ドローンの襲撃を受けて今に至る。天蓋のガラスを突き破り、廃材置き場へと落下。その衝撃で生体チップであるRelicの状態を安定させるケースが破損してしまったようだ。
「っ〜〜、クソッ!! 何がメジャーだ!! こんな事になるなんて……」
「どんどん数値が……V! パーカーに連絡しろ! チップをどうするか聞いてくれ!」
依頼主であるエヴリンであればチップの状況を何とかする術を知っているかもしれない。このような事態にまで追い落とされた挙句チップが御釈迦になったから依頼も失敗、報酬はゼロなどとなってはあまりに報いがない。コールに応じたエヴリンから指示されたRelicの状態を保つ方法は、チップを人体へ……神経ポートへと差し込んでチップを用途通りに運用するという形で保護する事だった。
『大体なんでそんな事になっているの貴方達は!』
『俺達が知るかよ!! ……んで、これはどっちも挿しておけばいいんだな?!』
『……どっちも? 待ってV、チップは一本だけじゃないの?』
『あ、あぁ? そうなんだろ2本あるんだから、まさか想定して無いとでも……』
「V、その話は後にしろ! さっさとRelicを挿してズラかるぞ!」
『ちょっと、待っ──』
コールを切り、二本あるチップをそれぞれの神経ポートへ差し込む二人。エヴリンが盗み出させる予定なのは一本、この内のどちらか一つだったのだろうが外見で見分けがつかない以上どちらも持っていくしかない。役立たずになったケースを破棄し、身軽になった二人はフロアを飛び出す。自分達を捜索する警備員達の目を掻い潜り、デラマンを待機させているガレージへ向かう為に。
アーマードコア6の発表やらDLCの発表やらアーマードコア6の発表やらサイバーパンクオリオンの発表やらアーマードコア6の発表やらで狂喜していたりしました。