CyberPunk-OVER the EDGE-   作:コーカサスカブトムシ

6 / 16
グーッドモーニィイングナイトシティ!
大変遅くなり、ファントムリバティの配信も迫る中何とか話を進めていきたい所存。はようVとデイヴィッドとジョニーをかちあわせたいのです……


死神

「かっ、ぐっ、あ、あぁぁ……」

「大人しくしてろよっ……!」

 

 警備員の首を背後から締め上げ、意識を落とさせる。紺碧プラザからの脱出を目論むVとジャッキーは、プラザの中階層にあたるフロントへ至るまで一人の目撃者も出さずにその足を進めていた。

 

「一名様ご宿泊っと」

 

 げに凄まじきはVの身のこなし。警備員自身が歩く時に生じる足音と自身のそれをリンクさせつつ早足に、数瞬とせずに距離を詰めて気取られる事もないままに背後からグラップル。流れるような動きで締め落とし、その身体を他の警備員の巡回路から遠ざける。そのまま行き掛けの駄賃とばかりに持っていた装備を接収。

 到底これまでうだつの上がらない、十把一絡げの傭兵として扱われていたとは思えない動きだった。サイレンサー付きの拳銃で陽動を行うジャッキーもその芸当に舌を巻く。サンドラ・ドーセットの救出、スカベンジャーとやり合ったジャパンタウンでの依頼を機に、この相棒は何かに憑かれたかのような著しい成長を見せている。

 

(すげぇなぁV、お前さんはよお……)

 

 投擲したナイフが警備員の眼前を掠め、驚愕に蹈鞴を踏んだように後ずさったところを強襲。Vはそこへ後ろから首を抱え込み、引き込むように地面へ薙ぎ倒す。磨き上げられた床と熱烈なキスを交わした男は一瞬で眠りにつき、これで進行方向のあるエレベーターへの道が開けた。

 

(もしかすりゃあ、お前は俺がいなくたって……この街のレジェンドになれんのかもしれねぇなぁ)

 

 二人で酒を呑みながら酌み交わした約束、この伏魔殿たるナイトシティの頂点に登り詰めてやるのだと語った夜を忘れていない。だがジャッキー・ウェルズという男に対してどうしようもないまでの現実が叩きつけられつつある……『特別』な者と『そうでない』者の違い。

 多くのサイバーパンク達が自分こそはそうなのだと、伝説になる人間なのだと息巻き、そうして履いて捨てられるゴミのように死んでいった。現実は惨たらしい程に冷酷で、アラサカタワーよりも高い壁となって聳えている。

 ジャッキーは間近に産まれた『特別』を見てしまった。特別でなくとも、二流と呼ばれようとも銀メダルを持っていれば十分に、それなり以上の存在にはなれる。反り返るような壁に挑まなければ命までも落とす事もそう無い。

 だけれどきっと……それに直面した時、自分にその壁は越えられず、この相棒は悠々とそれを飛び越えてしまうのだろう。

 

「ジャッキー、こっちは片付いた! 行けるか!」

「お……おう、問題ねぇブロダー!」

 

 フロアを徘徊する警備員を全員昏倒させたVは何事も無いようにジャッキーへと声を掛ける。今この瞬間、自分に何が出来ていただろうか。サブロウの死という想定出来るはずも無いハプニング。それに対して対応出来る者(V)そうでない者(ジャッキー・ウェルズ)の差、それがひしひしと叩きつけられる。

 

(いや、いやいや何を考えてるんだジャッキー・ウェルズ! 弱気になってんじゃねぇぞカブロン(馬鹿野郎)! 俺はVと一緒にこの街の伝説になる、そうだろうが!)

 

 だがジャッキーとてそれで折れるような性根の男ではない。Vが突然の急成長を見せたように、自分にだっていつしか臨界点を突破するような日が来るかもしれない。 バシンと頬を打ち、気を引き締める。例え自分がなんであれ、気持ちだけは本物だ。

 

「どうした? さっきの着地で何処か……」

「いや、何ともねえよ! さっさと脱出しちまおう!」

「あぁそうだな、高級ホテルも良いが俺達の肌には合わない」

 

 これまで警備員には姿を見せていない二人だが、整備用ダクトを通る前に大型の戦闘ドローン『オクタント』の襲撃を受けている。そのカメラの映像では鮮明に二人の姿を捉えられてはいないだろうが、兎に角二人の侵入者……サブロウ暗殺の実行犯と思しき者がホテル内におり、かつ先行したガード達とも連絡が取れないとなれば警備はより厳重となるだろう。

 

「兎に角このエレベーターさえ降りれば一階だ。端まで行って、またガレージ直結のエレベーターに乗る。デラマンのピックアップでホテルから脱出だ、行けるな」

「となるとこの先サイレンサーにゃ意味は無いか。ところでバグ! ずっと黙りこくってやがるがどうしたぁ!」

『……』

「繋がらないな……切られたか? 二つの意味で」

「かーっ、これだからパシフィカの奴は! 俺『達』で何とかするしかねぇな、V!」

「あぁ、そうだな。行くぞジャッキー!」

 

 ハンドガン、アサルトライフル、ショットガン。グレネードをいつでも使えるよう準備し、お互いに持てるだけの弾薬を奪ったガンベルトに括ってエレベーターへ乗り込む。この先はどう足掻いても戦闘は避けられないだろう、だとすれば正面から穴を開けてそこを通っていくしかない。

 やれるかやれないかではなく、やるしかないのだ。そうだ、ミリテクの部隊や投入されたミノタウロスだって乗り越えて来たのだ。逆境を乗り越えてこそ人は強くなるのだ、と意気込みを新たにするジャッキー。

 エレベーター内部のモニターが一階へと到着した事を知らせる。この先にいる者は全てが敵だ、ジャッキーはショットガンを構えてドアの前に待機している相手を吹き飛ばす為に。Vはフラッシュグレネードのピンを抜き、投げ放ってすぐエレベーターから退避する準備を整えた。そうして間もなく、ドアが開く。

 

「わーお……こいつは、大歓迎だな」

 

 アラサカ及び紺碧プラザ有する重装備の警備員、凡そ30名以上。ミリテク製自立機動二足歩行兵器ミノタウロス二機。増援は今尚絶えることなく呼び続けられている事だろう。企業戦争もかくやという兵力に相対するのはたった二人のサイバーパンク。絶望という言葉でさえこの状況を語るには役不足。

 

「いたぞおおおおおおおおお!!」

「多過ぎんだろ!」

「殺せ! 生け取りにしろ!」

「おいおいちょっとは落ち着いて喋れよ」

「ふざけんじゃねぇ!」

 

 ジャッキーの構えたクラッシャーがドパァンと唸りを上げた。屈強な肉体が甚大な反動を相殺し、二度三度とトリガー引いて弾幕を張る。エレベーター前に貼り付いていたガード達が文字通りに吹き飛び、空いた隙間をVがフラッシュグレネードを投擲。

 

「走れジャッキー、『使う』ぞ!」

「了っ解!」

 

 光が目を潰し、その隙にVとジャッキーはエレベーターから飛び出した。斜線の通る付近の敵をジャッキーが蹴散らし、一息ついたところでVは相棒に目配せする。

 付近の敵の目は眩んだが後方にまでは閃光が及ばず、数の差で一方的に擦り潰されるだろう。そこでVは己が身につけたサイバーウェア、その切り札を解放した。

 

「挽肉に」

 

 槍襖ならぬ銃襖、ゴキブリ1匹たりとも逃さず蜂の巣にするであろうその隊列。今にも銃口が閃光を撒き散らし、愚かな侵入者二人を穴あきチーズに変えてしまおうというその地獄へと向かってVは真っ向走って行き─────

 

バヂィイイイイインッ!!

 

「ぃぃいいしぃぃてやぁああああ……」

 

 その背が光る。

 

「あ?」

 

「フゥーーーッ……!!」

 

 ドパンッと、呆気に取られた警備員達の顔の上半分が突如宙を舞い、噴水のように血飛沫を上げる。そしてVはいつの間にやら彼らの背後へ、血に濡れた異形の機械腕……マンティスブレードのモーターを唸らせつつ息を吐いた。

 『サンディヴィスタン』。人間の脊椎を丸ごと機械へと換装し、機械化された神経機能によって走馬灯、火事場の馬鹿力といった極限状態に発露する能力を意図的に発動させるサイバーウェア。

 人間の肉体と脳が秘めた能力を覚醒し補強する事により、使用者の身体能力と反射神経を超人の域へと引き上げるそれ。『本来』このサイバーウェアは非常に強力である反面、使用者への負荷が大きい。推奨される使用方法は近接戦闘……相手に向かって駆け出す一瞬ずつのみ稼働させて加速力を得るというもの。 

 だがこの男、Vは『特別』だった。そのサンディヴィスタンを使用可能な時間、クールダウンを必要とするギリギリまで稼働させてもまるで堪えない。彼が身につけているサンディヴィスタンはそう高性能な物ではなく、ともすれば彼が相手にしている警備員の中にはそれ以上の品質の物を装着している者もいる。だが道具というものは得てして使い手に依るものだ。

 

「強力なサイバーウェアを保持!!」

「『サンディヴィスタン』だ! 警戒し……」

「俺がいる事も忘れんなよなっ!」

 

 前列の部隊を全滅させたVに後続がすかさず弾丸を放つが、Vの突撃と共に側面を駆け出していたジャッキーが横面から叩きつける散弾に出鼻を挫かれる。

 アラサカの精鋭部隊を相手に大立ち回り、この一場面だけを切り取って見ればそうも見えるだろう。しかしこれはあくまで先手必勝の痛打、ここから正面切っての殺し合いになればすぐにでも二人は擦り潰されてしまうだろう。

 

「共に壁超えと行こうじゃないか、背中は任せるぞジャッキー」

「任せろよブロダー!」

 

 しかし二人の瞳に怖れは一切無い。仮にもナイトシティのレジェンドを志すのならば、命を張る瞬間が来るという事を覚悟していた。彼らにとっては今この瞬間こそがそれであり、寧ろ高揚までもが二人を湧き立たせる。エッジを超えた向こう側にこそ彼らが目指す物があるのだ。

 

 

 

 

「おおおおおおおおおっっ!!!」

 

 鮮血と四肢が舞う、爆炎と硝煙が舞う、銃声と怒号が飛ぶ、命と命が弾け合う。屍山血河を築き上げ、尚も衰えぬ意気のまま駆け抜けるV。

 ジャッキーがその体躯を活かしてクラッシャーによる連続射撃、絶えることなく叩きつけられる散弾の雨がミノタウロスの姿勢を大きく崩し、その隙にミノタウロスの上部へと飛び乗ったVは鞘から抜き放った白刃の刀……悟を抜き放つ。

 

「これで、終わりだっ!」

 

 ミサイルポッドへと向けて一閃、研ぎ澄まされた鋼の一振りが弱点を一刀両断。切断部がスパークを散らし、Vが跳躍して逃れると同時に轟音を立てながらミノタウロスは爆発した。

 肩で息をしながらエアハイポを吸引した彼は汗を拭いながら座り込む。そんな彼の元へとジャッキーも足を引き摺るようにして歩み寄り、何を言うでもなくどかっと座り込んだ。

 

「っ、ああーーっ……もう立ちたくねえ」

「そんな訳にもいかないぞ。すぐにでも増援が来る……まぁ、よくやった方だろ。一息ついたらすぐガレージに行くぞ」

「わーってるよ。しっかしこれじゃあ窃盗じゃなくて強奪だぜ」

 

 最早邪魔でしかないコーポのジャケットを脱ぎ捨て、ネクタイを放りながら立ち上がる。互いに傷を負っていない部位を探す方が難しい程の死戦ではあったが、どうにも命にまでは届いていない。

 やりきったのだ、限界まで酷使して気力を使い果たした身体の内へどくどくと達成感が込み上げてくる。

 依然として状況は変わっていない、まだ紺碧から脱出出来ているわけでもない。だが間違いなく壁は超えた。Vも……ジャッキー・ウェルズも、木っ端の傭兵として扱われるには不釣り合いなまでの武勲を挙げた。

 

「デラマンはいつでも出れるそうだ。おかわりは勘弁願いたいからな、とっととずらかるぞ」

「こいつらの装備も流せりゃそれなりのエディーになるんだろうになぁ。ま、この依頼の報酬に比べりゃみみっちいもんか!」

 

 消耗した銃弾を補充しつつも、後は退散するのみなので不必要な装備は破棄していく。鏖殺を繰り広げたフロントを肩で風を切りながら進んでいく二人の顔は疲労に塗れながらも清々しいものであった。

 エレベーターに乗り込み、地下駐車場へと降りていく。第一陣の戦力は今しがた片付けたフロントに集められていたものと考えられるが、地下にも貼られている可能性は想像に難くない。

 だがあと少しだ。ここさえ乗り切れば多少の銃弾は物ともしない、移動するトーチカに等しいデラマンが待っている。Vのサンディヴィスタンもクールタイムは明けている。ジャッキーも最後の一踏ん張りと頬を張って気合いを入れ直した。

 エレベーターに備え付けられたランプが地下に到着した事を知らせ、ポーンという音と共にドアが開いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その刹那吹き荒ぶ、濃厚な死の予兆。

 

【ようネズミども】

 

 悲鳴を上げたのはVかジャッキーか、叫声と共に銃声が地下駐車場へと響き渡った。




なおサンディヴィスタンの原理やらなんやらは100%憶測、妄想による物ですのでご了承を
サイバーウェアを搭載した人間がクッソ強いのに、サイバーウェア100%に出来る、ともすればスマッシャー以上になれる筈のロボットが全然大した事ないカカシな辺り、脳とか何かしら人間でないといけない理由があるんだろうと考えた結果このような形に……
ソウマトリコール現象とカジバ・フォースを強制的に引き起こすのであればニューロンもイカれようと言うもの……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。